PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:Endless Summer

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「『終わらない夏の噂』、って知ってる?」
「知らない! えー何それ、夏休みが終わらないならすっごい最高なんだけど」
「学校からちょっと離れた山の中に神社があるじゃない? あそこで、『夏が終わりませんように』ってお祈りすればずーっと夏が続くんだって」
「ほんと!? じゃあ早くお祈りしなきゃ」
「えーでも怪しくない? それにただの噂だよ。ていうか誰かがやったことあるんなら去年に夏が終わらないのおかしくない?」
「でも近所のサーフィン好きなお兄さんが試してみたって。あーでもどうなったか聞いてないなぁ……」
「もう秋だから失敗でしょ。それよりさ、最近あの神社で行方不明になった人がいるらしいよ。その方がやばくない?」
「怖ーい、近寄らないどこうよ。そういえば話変わるけど、クラスの男子がさ――」


 校舎の中、一人の教師が椅子に座ったまま両腕を大きく上にあげて思いきり伸びをした。夏休みも終わり、新学期が始まった校舎は生徒たちの活気に満ちていた。外は日が沈みかけ、部活帰りだろう子どもたちが賑やかに下校をしている。冬乃はその姿を何となしに見つめては目を細めた。
(私もあんな頃あったな……)
 勉強に精を出し、部活に打ち込み、仲間に恋に……といった青春の輝きとでもいうべき時間。遠い今となっては想い出として輝きを増している。もっと小さい頃の夏休みには友達と日々公園を駆けまわり、鎮守の森に籠っては虫採り網を振り回していた。やんちゃともいえる想い出を思い返して、冬乃は小さく笑った。
 今は教師をすることが楽しい。けれどそれと同じくらい疲れを感じている。生徒たちは可愛いけれど、先生方の中で若手の私は別の立場も事務作業や厄介ごとを押し付けられやすい位置にいるようだ。彼らと顔を合わせなくてもいい夏休みが終わって憂鬱にもなっている。無意識に左足に触れていたことに気付き、ため息を吐いた。
(もう一回くらい、夏休み気分が味わえたらなぁ)
 そんな詮無いことを思いながら机を片付け、学校を後にする。
 ――そして噂のことを思い出したのは、通勤途中の神社にふらふらと吸い寄せられた時のことだ。部活の休憩中に女子生徒たちが話していた、『終わらない夏の噂』。それはきっと休みが少しでも長く続いてほしいという、生徒たちだけのささやかな願いから生まれた噂だ。
(でも、)
 子どもの頃の夏に戻れたら。何も考えず好きなようにはしゃいでいたあの頃に戻れたら、それはどんなに楽しいことだろう。
 知らず知らずのうちに本堂へと歩み寄り、手を合わせて目を閉じた。

「夏が終わりませんように」


 次の瞬間、目を開けるとそこは公園だった。
 照りつけるような太陽がさんさんと照り付け、うるさいくらいの蝉が鳴いている。公園に面したアスファルトはゆらゆらと陽炎を映し、肌が焼けるような鋭い熱さを照り返していた。公園では子どもが遊んでおり、見たところ希望ヶ浜の街並みに似ているが、今までが夢だったかのように周りの景色は様変わりしている。
 いや、おかしいのは周りだけではない。何だか背丈も縮んだような――
「え……」
 両手を見ると小さな手がそこにあった。見慣れた自分の両手じゃない。驚いた冬乃が体を見回すと半袖に半ズボンといった、そう……小さい頃によく着ていた服装。
「あら、またお友達が来たのね。うれしいわ」
 声のした方に顔を向けると小学校程の女の子がいた。両サイドで二つ縛りにし、可愛らしいワンピースを着て優しく笑い冬乃の手を取る。
「びっくりした? ふふ、大丈夫。みんな最初はおどろくけど、あなたもすぐ慣れるわ。ここでは何も心配しなくていいの。それに……お怪我も治ってよかった」
 はっとして左足を見る。痛くない。はしゃぐ子どもで溢れた公園で少女は楽しそうにくるりと回る。
「あたしもここでなら自由に動けるのよ。――あ、名前はね、なみ。ずっとずっと、一緒にいましょう?」
「……っ!」
 なみと名乗った少女、その笑顔にぞわりと肌が粟立ち咄嗟に踵を返して逃げ出す。公園から交差点、交差点から学校へひたすらに走って逃げる。足がもつれても前へ、前へ――走り続けてやめた。それから冬乃は考える。わたしは、どうして走っていたのだっけ?


「……む? 連絡か」
 バスティス・ナイア(p3p008666)のaPhoneがメールの着信を告げる。件名は『終わらない夏の噂』。どうやら行方不明事件が続いておりその調査に向かってほしいとのこと。詳細を確認すると、バスティスは希望ヶ浜の街並みを目に移した。
「また噂か。さて――今度はどんな物語が絡んでいるやら」

GMコメント

 こんにちは。白葉うづきです。このたびはアフターアクションをありがとうございました!
 子どもの頃の夏休みを楽しみましょう。
 皆さまのご参加をお待ちしております。

●達成条件
 行方不明者たちと異界からの脱出

●状況
 行方不明者の多い神社で噂を試し(神社で『夏が終わりませんように』とお祈りをする)、いつの間にか希望ヶ浜に似た異界の公園に移動したところからリプレイは始まります。夜妖を倒せば異界は崩れそうですが、積極的な敵意はなさそうです。

●フィールド
 『8月32日』と呼ばれる異界。希望ヶ浜に似た街で、神社を中心にコンビニ、市民プール、図書館、遊具の揃った公園、学校など見慣れた建物はあります。大人の姿はありません。水着などの服、手に持てるほどの玩具、食べ物や飲み物などは願えば揃えられます。皆で願えば海も現れるかもしれません。

●『8月32日』
 この異界内では不思議な力が働き、誰でも(人の形をしていなくとも)小学校ほどの少年少女の姿に変わってしまうようです。大人に加えて動物や鳥なども姿が変わり、喋れるようにもなります。押さえてほしい部分がある場合はプレイングにてご指定下さい。人によってはだんだんと子どもっぽい喋りや思考になってしまうようです。
 なお、不思議なことに子どもの姿になっても、飛んだり泳いだり戦闘能力などには支障はありません。

●夜妖<ヨル>『なみ』
 『8月32日』を創り出した女の子の怪異。友達が欲しいらしく、楽しそうに遊んでいる子どもたちに引き寄せられます。また遊んだ経験があまりないため、どんな遊びにも積極的です。
 街を破壊したりただ出ていこうとしたりする人には襲い掛かります。呪縛を伴う『動いちゃだめ』、窒息を伴う『喋っちゃだめ』といった言霊や、身近にあるものを浮かせて叩きつける必殺を伴った遠距離攻撃も使います。人型より素早いようです。

●人型 8体
 『8月32日』の神社を見回っている、スーツや学生服、エプロンなどを着た顔のない人型。拳での攻撃、出血を伴う噛みつき、窒息を伴う首絞めで攻撃をしてきます。『8月32日』から出ようとする人に襲い掛かってきます。なみは人型を少し怖がっているようです。

●篠田 冬乃(しのだ ふゆの)
 中学校の先生です。探せばすぐ見つかり、状況を夢だと思い込もうとしています。放っておくと言動が子ども化していきます。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:Endless Summer完了
  • GM名白葉うづき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
ビスコ(p3p008926)
軽快なネイキッド

リプレイ

●一緒に遊ぼう!
 太陽が肌を焦がし、青い空にはふわふわと綿あめのような厚い雲が浮かんでいる。鳴き止むことのないセミが、空の下で延々とその命を震わせていた。
 『終わらない夏の噂』を調査すべく異界に乗り込んだイレギュラーズたちは――

「はわ」
「子供に!?」
「なってしまったな」

 軒並み子どもの姿になっていた。
 いつもより視界が低く、手足は短く、声は高く――ずっと小さい姿に『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は驚き、対照的に落ち着いた様子で『戦花』メルトリリス(p3p007295)は身体を見回しながらくるりと回った。『ミス・トワイライト』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は確かめるよう手足を伸ばした後に剣を抜く。この姿に対しては多少持て余すが、このくらいの年なら既に振るっていた長さだ。
「けんはもんだいなさそうだが――」
 そっと左眼に触れる。これは、まだ光を得ていない。
「!」
 弾かれたようにアランは公園の噴水へ駆け寄り水面を覗く。映ったのは、金色。この色は失っていない。
(良かった……けど。この姿にロクな思い出がねェよクソ)
(まだ。このねんれいのときは、おとうさまが、いきてた)
 その横からメルトリリスも水面を覗きこむ。胸が鈍く痛みを訴える。
(ああ、おとうさま、いないのですか。ねがったら、おとうさまが、きてくださるのかな)
 さほどいつもの視界と変わらない――いや少し低くなっただろうか。普段との差異を見つけるかのように手をぐーぱーと握って『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)がしみじみと呟いた後に叫んだ。
「いやぁしにゃにもこんな時期がありましたねぇ……ゆーて数年前ですけど!」
「終わらない夏休み、永遠に続く8月32日……子供が抱く無邪気な妄想だが、それは妄想だからこそ許される代物だ。それを現実のものにするとは……危険だぞ、非常に」
 シリアスな『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)――現在猫耳しっぽのついた子どもの姿――が今回の怪異に強い危機感を抱く。その横で『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は子どもの姿ながらやれやれと頭を振って目を細めた。
「同じくだ。終わらない夏ってのはちょいと認められねぇな」
 気持ちは分かるが、楽しい時間は終わりがあってこそ。その先には苦痛しかない。
「なるほど、見事なちんちくりん!」
 自分の体を見下ろし、『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は楽しげな声音で叫ぶ。いつもと違う、そもそも存在しえなかった姿。出るところも出ていない。
「子供時代や夏休みの経験が無くても、異世界の中だとこうなるんだね」
「それ私も思いました。夏休みなんてものがあったら、一般家庭に生まれてたら、こんな日常もあったんですかねー……」
 しにゃこが感慨深げに呟き、それからはっと気づく。
「って雰囲気にのまれてる気がしますね!?」
「長く居ると危険かもな……まずは子どもたちを探そうぜ、何人いるかもわかんねえし」
「ふっふっふ、行方不明者の数ならビスコちゃんにお任せあれ!」
 アランの言葉に、aphoneを片手に親指を立てる『アデプト・ニューアイドル!』ビスコ(p3p008926)。異界に入る前にaphoneでの調査を終えていたのだ。その結果、タグに引っかかったのは全部で5人。先生も入れて最低でも6人はこの世界にいることになると小さいバニーは報告する。
「公園内を走ってきたが、ここにいる子どもの数は4人だ。つまりあと2人はいる」
「素早いですね!?」
 一回り走ってきたブレンダ。身体慣らしにと異界を走る彼女の胆力。
「他にもいるかは一応見といた方が良いな……汰磨羈、そいつは?」
「ニコラス……いや、違う。ファミリアーを喚んだつもりなんだが……」
 汰磨羈の目の前には黒猫耳と尻尾を持つ少女がいた。混乱したが――そうか、異界か。ファミリアーの姿も変えるのかこの異界は。指示は聞いてくれるようで、予定通り神社への偵察を頼む。見つからないようにと再三注意を促して。

 公園内を探すと、アランの探知能力もあり子どもたちはすぐに見つかった。虫取り網を片手に走り回っていた冬乃は、声を掛けられると取り乱したようにバスティスの肩を掴む。
「ね、ねえ! これ夢よね、あなたたちはあの子たちと違うっぽい……けど夢なら私の妄想!?」
「大丈夫、あたし達はあなたの味方。この世界から帰ろう」
「わたしたちはあなたをたすけにきた。しんじて」
「ちゃんと帰りましょうね。生徒が待ってますよ!」
「そう、そう……だね。……っ」
 涙ぐむ冬乃をバスティスが抱きしめ、メルトリリスとしにゃこがよしよしとあやした。
「ここにいるのはこれで全部? ね、一緒に遊ぼー!」
「さんせい、です。なにを、します?」
「練達もやしっ子だから外遊びあんまり知らない!」
「それじゃおにごっこをするぞー!」
「負けませんよー!」
 初めはブレンダが鬼でおにごっこがスタート。初めは様子を窺っていた子どもたちも徐々に心を許して遊びだしてくれた。皆と遊びながら夜妖<ヨル>を待ち、彼女から出来るだけ情報を得てから脱出を試みる算段――全力で遊んでいたのが功を奏したのか、その時はすぐに訪れた。

「ねえ、あたしも一緒に、遊びたいな。仲間に入れて?」

 ふわりと、空から女の子が現れ、微笑みかける。彼女が『なみ』。一同は一瞬動きを止め――何事もないように彼女を招き入れる。
「いいよ、遊ぼう!」
「なあ、もっと大勢で遊んだらもっと楽しい。他の皆も呼ぼう」
「! 待ってて!」
 汰磨羈の言葉に頷くとなみは消え、また戻ってきた時には2人の女の子を連れてきていた。
「ここにいる子は全部。今日みたいにいっぱい来てくれたのは初めてよ。とっても嬉しい!」

●夜妖<ヨル>の女の子
「おれは勇者アラン!」
「ふゆのはせんし!」
「なみはまほうつかいー!」
「ビスコちゃんはマスコットです!」
「新しいですね!?」
「あたしは神様かな。勇者たちに依頼する、まものからお城を守れー!」
「がおー、壊してしまうぞ」
 布きれをマントに背負い、木の棒を掲げたアランに従って子どもたちが砂の城の前に立ち、魔物役の汰磨羈がそれに襲い掛かった。
(あぁ……恥ずかしい……けど、懐かしいな)
 昔、よく母に読んでもらった勇者の絵本を思い出したアラン、けれどそれを自分がやっているとなると少し照れが勝つ。ちなみにちょこちょこ冬乃が子どもに戻るため、その度にしにゃこが引き戻すのも忘れず。
「よう、なみ。お前らもこっちに来てみろ、楽しい遊びを教えてやるよ」
 石花壇の縁に座ったニコラスがちょいちょいと手を招く。彼の周りでは他の子どもたちが何やら地面に投げつけて遊んでいた。指を滑らせ目の前に広げられたのは、浮世絵風からヒーロー、アニメ調の美少女などが描かれた薄い紙。
「かっこいー!」
「めんこって遊びだ」
 興味津々のアランを始め説明すると、ニコラスは丸眼鏡の奥の瞳をにやりと細める。
「他にも麻雀、花札、丁半、ベーゴマもいい。好きなだけ賭けて楽しめる」
「いま、めんこをしてた。かけてたのは、どんぐり」
「なかなかおくが深い遊びだ」
「あたしもする!」
 メルトリリスとブレンダたちになみが飛び込み、めんこ合戦が始まった。
「件の神社だが。周囲に顔のない人型が8体確認された」
 ファミリアー、さらに神社を見下ろせる位置に配置したギフトの黒猫(この子も猫耳少女の姿だった)が教えてくれた。汰磨羈の共有にニコラスは頷く。

「アイス持ってきたよー!」
「ありがとうビスコちゃん!」
「なみちゃん、たのしい?」
「えへへ……すっごく楽しいわ」
「わたしも、たのしいよ」
 一通り遊んだ子どもたちは休憩中。薄水色の棒アイスを持ちながらメルトリリスになみは頷く。ビスコもその横に座るとアイスを咥えて足を遊ばせた。
「みんなで遊ぶのは楽しいですねー、すっかりみんなと仲良しになれた気がします!」
「うん。はじめて、かも」
「初めて?」
「わたしは、あそんだきおくが、とぼしい。おくにのための、きしになるため、げんかくな、いえなので。あそび、しらないも……みんなに、おしえて、もらうの。あたらしいことを、しるのは、たのしいこと、ですね」
 メルトリリスは赤の瞳を柔らかく細めて話す。
「生まれる場所は選べないですからねー……」
 しにゃこが相槌を打つと、なみは驚いたように瞬きをする。
「そうなの? あたし一人じゃない?」
「なみ一人、とは」
 ブレンダの問いに、迷うようになみは続ける。
「あたしは、みんなが『夏』をいっぱい楽しめるようにここを作ったの。最初は誰も来てくれなかったけど、少しずつ増えていったの」
「けど、ここに来るには神社に決められた言葉を祈らなきゃなんねえだろ。増えるきっかけとかはあったのか?」
「ここから出たことないし、難しいことはわからないのよ」
 イレギュラーズたちは顔を見合わせる。夜妖<ヨル>は都市伝説やモンスターの類と見るのがイレギュラーズたちの認識だが、勝手に膨れ上がった噂とこの夜妖の存在が噛み合って今回の事態が起こったのだろうか。夜妖に詳しい者たちの調査結果といえばそれまでだろうが。
「自分の正体や過去ってのもわかんねえか」
「うん。ただずっと友達がほしかったの。だから今はね、すっごく楽しい!」
 幸せそうな夜妖の笑顔に、ニコラスは息を吐く。これ以上の情報は難しそうだ。
「友達が欲しいという気持ちはよくわかる。さぁ、もっと遊ぶぞ!」
「それじゃ、ね。神社で遊ばない?」
 立ち上がるブレンダ、その横に座っていたバスティスの提案になみがびくりと揺れた。
「神社の周りに人がいたのを見た。知っているか?」
 汰磨羈の問いに視線を彷徨わせるなみに、バスティスが続ける。
「オトナって嫌だね。すぐ怒ってくるんだもん」
「!」
「あれは、お前が怖いものか?」
「……楽しい時間を終わらせちゃうの。夏休みはもう終わりだよ、って」
 夏という四季が終わる時は人それぞれ。ただ、この再現性東京という場所では学生に与えられた『夏休み』という一つの期間があり、それの終わりに夏の終わりを感じる者も多い。そして楽しい時間の終わりを子どもに知らせるのはいつだって親、先生、兄、姉、テレビの中の人――自分より大きい人。
 目の前の夜妖は、それに似た感覚を持っているのかもしれないとビスコは感じた。同時に思う。あの人型の存在は、このままではいけないという想いも孕んでいるのではないかと。
「それに神社は、」
「ここからでられるばしょがあるのか?」
 アランの言葉にびっくりした後、なみはまたこくん。
「みんな帰っちゃうの、やだ。また一人に、なっちゃう」
「なみちゃん、さびしんぼな、こ、なのね」
 俯くなみにメルトリリスが下から覗きこむ。
「どれだけ続けたいと願っても終わりってのは必ずくる。寂しいもんだよな、GAMEOVERってのは。だがよ、終わる(Over)か越える(Over)か。言葉は同じ。その意味は自分でつけれる。お前はどっちがいい? 俺は越えたい」
 なみが俯いていた顔を上げた。
「この夏を越えて秋の紅葉を楽しみたい。冬に雪合戦をして春になったらお花見だ。そしてまた新しい夏が来る。俺はお前と一緒に楽しみたい」
「なんていうか、ずっと8月だとやっぱ8月の良さってのは解らないと思うんですよ! 暑いだけじゃなくて、寒い日もあって、楽しいだけじゃなく辛い日もあって、故に休みや思い出の良さって輝くんじゃないかなって! 14年しか生きてない小娘の論ですけどね!」
「私も2人と同じですよ! できればなみちゃんと外の世界行きたいなー! ここにずっといたいけどお仕事があるのでーいやーアイドルはつらいなー!」
 他にある楽しさをニコラスは教え、しにゃこの気持ち、ビスコの言葉がなみに降る。
「外に出て、お前がどうなるかは知らねぇがよ。試してみる価値はあるし、どんな形でも一緒に楽しむことはできる。だからよ、この異界を抜け出してこの夏を越えようぜ」
「もしダメでも、たまにしにゃ達が友人連れて遊びに来ますよ!」
「いっしょに、あそんで。ゆうがたになったら、かえろ? かえって、つぎ、あそべることをたのしみにして。またあしたって、いうんだよ。それは、ともだちになった、あいずなの」
「ともだちの、あいず……」
 メルトリリスも、ゆっくりと想いを口にする。そして真剣な表情のなみの前でバスティスが膝を折り、視線を合わせて彼女の両手を握った。
「終わらない夏休みに憧れて疲れを癒すために来る人はいなくならない。そしたら君は友達になって、そして、手遅れになる前に帰るように勧めて欲しい。そしたら君はまたねと言える優しい夜妖になれるんじゃないかな?」
「あたし、あたしは……」
 ブレンダが優しく肩に手を置いた。
「いっぱいきいてつかれたろう。すこしかんがえるといい」
 かたかたと震え、苦しそうに考え込む女の子の姿にブレンダは感じる。彼女の心に、小さくはない変化が訪れているのだと。

●また、
「まおうたいじの旅に行くぞ! みんなついて来いー!」
「おおー!」
 楽しげに枝を掲げ、アランは子どもたちを先導して歩き出す。はみ出る子がいても、しにゃこが紙飛行機を渡せば喜んで言うことを聞いてくれた。
「そろそろ遭遇地点ですね!」
「ゆうしゃのでばんだな!」
「いや、まだだ」
「そうなのか!?」
「子どもたちを近づけるわけにはいかないだろう」
 ファミリアーからの情報を受け取っている汰磨羈には人型がどう見回っているかがよく分かっており、事前に神社周りも観察しておいたビスコの先導もあって安全に進んでいく。そして結果、出来るだけ遭遇しない道を選びながら神社へ行けば、1体ずつ相手取ることも可能と判断出来た。遠くに鎮守の森が見えてきた辺りでスーツ姿の人型が見えてくる。
「いいな、なみ」
 ブレンダと手を繋いだなみは黙って見ていた。人型が近付いてくるのを見て、汰磨羈が背の丈以上の大太刀を構えて走り込む。一閃。複数の斬撃に膨れ上がった強烈な一太刀は、人型をずたずたに引き裂いた。
「一体ずつであれば、大したことはなさそうだ」
 神社の入り口である鳥居が見えてきた。次に遭遇した人型はメルトリリスとニコラスが前に出た。メルトリリスが放つ神聖の光が焼き、ニコラスの漆黒の大剣から放たれた無数の斬撃が切り裂く。人型を倒した後は子どもたちを進ませ、遭遇してはイレギュラーズたちが蹴散らした。
「そぉら! 勇者のまものたいじだ!」
「しにゃもお供しますよ!」
 星の剣が陽光を受けて煌めき、よろめいた所を狙撃手が寸分狂わず狙い蜂の巣を描いた。人型が倒れると無邪気な笑顔でアランは喜ぶ。
「やったーたおしたぞ! これでかいほうにちかづいたな! えっと、……あれ」
 かいほうって、なにから?
「クリアです、アランさん。……アランさん?」
 しにゃこの問い掛けにも答えずアランはひたすら首を捻る。このけんはなあに? 勇者ごっこのつづき? あれあれ?
「アランさんも先生みたいに!? しっかりしてください!」
「――」
 がくがくと揺さぶられていると、ふと――青い煌めきが目の端に映る。慌てて手に取ったアランはもう、いつもの凛然とした表情に戻っていた。
「悪い、大丈夫だ」
「びっくりしましたよ!」
「こどもか、か。わたしたちもながくいるとあぶないかもしれない」
 冷静なブレンダの横で、アランは大切そうに青のネックレスを手の平で包む。
(ありがとう。俺の大切な人。……今、全部思い出した)
「神社に着きましたよー! ここでいいんですよね?」
 ビスコが振り返って声をかける。木々に囲まれた、神社の本殿前。
「見立てじゃまたお祈りすれば戻れるってところだが。さて」
 話し合う皆を横目に、バスティスが俯いたままの少女に声をかける。
「なみちゃん、いいのかな」
 なみは顔を上げると、バスティスの顔を見てしっかり頷く。ブレンダの手を離れて前に出た。
「出してあげる。あたしが祈れば、みんな戻れるのよ」
「いいの?」
「みんなに、色んなこと教えてもらったのよ」
 楽しい夏を友達と楽しみたい、その気持ちしかなかった彼女にたくさん言葉をくれた。友達のこと、他の楽しみのこと――外のこと。
「あたし、紅葉みるのも、雪合戦もお花見もしたい。ばいばいは寂しいけれど、寂しいのをこえれば、またくるんだよね。みんな一緒にたのしめる時間」
「おう、上出来だ」
 ニコラスににこっと嬉しそうに微笑む。
「ここも、このままにするの。必要なひと、いるんだよね」
「そうだとも。君の力が必要だ」
 バスティスも言葉を重ね、その時は近付く。
「ではな、なみ」
「また遊びましょう!」
「またな!」
「また遊ぼう」
「なみちゃん、またねー!」
「あなたは、やさしいよる。あなたを、きずつけなくて、よかった。また、めるとたちと、あそぼ?」
「うん! ……あのね、」

 また、明日。


 気が付くと、冬乃は神社に立っていた。
 帰宅したままの姿で、何をしていたかは――思い出せない。けれど良い夢を見ていた気がする。また明日からも頑張れる、そんな夢。
 いつの間にか手に持っていた紙飛行機に首を捻りながら、冬乃はいつもの帰路を歩いていった。

成否

成功

MVP

バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ

状態異常

なし

あとがき

執筆中はかわいいがたくさん出てきました。かわいかったです。

皆さんのおかげで、なみはたくさん色んなことを学べたようです。
MVPは幅広いケアをしてくださった方へ。
ご参加いただきありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM