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シナリオ詳細

<傾月の京>護星衆の長

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 豊穣が穢れで満ち始めている。
 あちらに死が。こちらに死が。
 ぐるぐる巡る、命の輪が。ぐるぐる廻る、死の輪廻が。
「――機は満ち時経て正しき道が遂に今宵。逢魔時を超えて命の扉が開く折……」
 天を眺めるは七扇が一角の長。
 大蔵卿――加辺 右京(かなべ うきょう)である。
 満月を眺めながら紡ぎ出す言葉に込められた感情は果たして何か。
 待ちわびていた羨望であるかのように。或いは吐き捨てる呪詛の様に。
 いずれにせよ彼はきっとこの日を。
 生と死が多く弾けるこの日を――待っていたのだ。
「消える一つに二つを重ね、三つを超えて四つへ至り」
 語るは支離滅裂に聞こえる……が、滅裂とは実の所些か異なる。
 それは呪いの言葉だ。
 彼は術を紡いでいる。言の葉を交えながら地に印を。手の平からは彼の血が溢れており、ソレ自体は自ら裂いたのであろう――血が滴って、印に更なる力を与えている。
 その『印』自体が何かは分からない。
 ただ、只管に邪なる気配だけは感じている。

 ここは高天御所。カムイグラ中枢の城の中である。

 右京はその中の庭の一角にて呪いの言を延々と。
 言を重ねるたびに印が揺らぐ。発生しているのは『穢れ』の様な何かであり――
「――大蔵卿」
 と。その時。
 右京の背後より現れしは黒装束に身を包んだ複数の男達。
 彼らは『冥』なる者達。カムイグラの闇に潜む――暗部の者達である。
「恐れながら申し上げます。城内に神使の者達が侵入したとの報告が」
「――なぜ気奴らが此処にまで侵入出来ているのか」
「中務の者達の手引きかと。或いは、強行に突破したか」
「戯けた連中だ……まぁ良い。貴様ら、時間を稼げ」
 苛立つ表情を隠しもせず、右京は『冥』の者達へと言葉を投げかけ――
「我は忙しい。この印が完成するまで誰ぞ近付けるな。行け」
 乱雑なる指示を出すのだ。
 されば『冥』の者達は即座に行動を。一寸の後はもうおらず……どこぞへと迎撃に出たのであろう。
「巫女姫様の邪魔はさせぬぞ……城内に踏み込む不届き者共め、死ぬが良い」
 ――彼の目は血走っている。明らかに正気とは思えぬその様子。
 それが巫女姫の狂気に当てられ魔種へと落ちているが故か。
 或いは肉腫の病に侵されているのか――それは現段階では分からぬが。
 いずれにせよ止めねばならない。
 豊穣の地の、平和の為にも――


 城の中へと突入したイレギュラーズ達は中務省からの情報を得て内部を突き進んでいた。
 彼らからの情報によれば――この先に居る大蔵卿に不審な行動が見られているという。
 そして満月へと至った今日この日、彼からは異質な気配を感じていて……
「しかし……敵が多いな!」
 だが内部への突入まではなんとかなったが、そこから先へ進むのが容易では無かった。
 奥へ進もうとするたびに現れるのは黒装束……暗部の『冥』という連中か。ここは彼らの庭ともいえるべき場所だからか、突如として襲撃を掛けてくる。廊下の隅から、或いは壁を透過ですり抜け奇襲の一撃。
 不利を感じれば撤退し仲間と合流して――ああ中々にやり辛いものだ……!
「長期戦になれば流石に不利、か……!」
 城攻めとは基本的に護りの側が有利だ。
 一説によれば攻める側は三倍の戦力を必要するのだとか――内部に侵入し、城壁は超えているが故にそれはあくまで例え話であるが。しかし先述した様に地理でも有利な守備側が上手く戦えている事は間違いない。
 それでもイレギュラーズ達は現有戦力でなんとかこの場を突破する必要があった。
 援軍は望めない。あちらこちらに人手が割かれているし、内部にまで入り込んだ此処に援軍に来れる者などそもそもいるものか――

「はてさて。これは好機と見るべきなのかな――うん、まぁきっとそうなんだろう」

 瞬間。目前の『冥』の横っ面に衝撃が走った。
 一体何か――理解するよりも早く次の手が走る。大量の『符』が舞い散り、それが『冥』を襲って。
「な、なんだ!?」
「さて――ここで出会ったのは偶然だけれども、助太刀させてもらうよ」
 直後。『冥』に巻き付いた符がいきなり爆発した。
 凄まじい衝撃波が全てを吹き飛ばす――爆炎と共に現れしは、青き衣に身を包んだ一人の青年。
「僕の名は藤原 導満。故あってこの城の奥に用がある――
 神使。いや君達と同じく『イレギュラーズ』だよ」
 それは大陸側の混沌の言葉。流暢に扱うその様子から悟られる彼の素性。
 彼はバグ召喚により此処に。豊穣の大地へと飛ばされた一人の『旅人』
 藤原 導満――外の世界では鬼を屠っていた陰陽師の長である。

GMコメント

■依頼達成条件
 加辺 右京の築いている『印』の破壊。
 『印』が成立しても、その後でも破壊できれば成功になります。

■戦場:高天御所
 カムイグラの城の内部です。
 廊下が各所に通じており、中々幅広く展開するという事は難しいでしょう。
 事前に中務省の者から内部の大まかな構造は情報として聞いているものとしますので、なんとなく目的地(大蔵卿の居る場所)の方角は分かるものとします。その他非戦などを上手く仕えるとより正確に分かるかもしれません。
 時刻は夜ですが、各所に灯りが灯っていますので視界的には問題ありません。

■加辺 右京
 七扇が一角、大蔵卿。
 高天御所の奥の庭で何か術を紡いでいる様ですが……?

 現段階では魔種なのか、肉腫に感染しているのか、あるいは狂気で狂っているだけなのかは不明です。ただ彼には護衛が付いており、彼を捕まえようとまですると難易度は上がります。戦闘能力の類は不明ですが、どの道印を紡いでいる間は動けないようです。

■七扇の暗部『冥』×8~
 黒装束に身を包んだ部隊です。カムイグラの暗部。
 奥に進ませまいと皆さんの妨害をしてきます。刀を用いる接近戦タイプが多い様です。
 物質透過などで壁をすり抜けてきたりと、奇襲・妨害をメインにしています。
 とにかく時間稼ぎが主目的です。

■藤原 導満(味方NPC)
 バグ召喚によりカムイグラへと至っていた旅人の一人です。
 元々は陰陽師であった為か、非常に優れた神秘攻撃能力を所有します。
 世話になった村が呪詛(や夏祭りでの呪具)による被害を受け、大元を断たねばならないと決意。高天御所で妙な気配を感じて潜入したようです――が。敵の数の多さに流石に困っていた模様。
 その折に皆さんを目撃。共闘し、奥へと進まんとしています。

■『印』
 大蔵卿、右京が紡いでいる術式です。
 それが何なのか初めは分かりませんが、近付けば段々分かります。その正体は『妖怪を無数に生み出す穴』を広げる為の術です。時間が経てば経つほど強力な個体が出現する穴が発生します。
 恐らくこれを用いて防衛用の戦力を生み出そうとしているのでしょう。
 現段階ではまだ弱い妖怪すら通れないようです。
 なるべく早期の内に辿り着いて破壊を試みましょう!

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>護星衆の長完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月04日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
奥邑 千種(p3p004722)
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

リプレイ


 その姿を相まみえた『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の心境たるや、なんと表せばいい事だっただろうか。
「おや、まぁ。雪の嬢じゃないか――こんな所で奇遇だね、君も黄泉路を渡ってきたのかい?」
「……残念ながら、と言うはおかしいやもしれませんが。生憎とこの身は朽ちていませんよ」
 導満。かつての宿敵にして、天敵にして、そして唯一対等であった――友人。
 死したと思っていた。朽ちたと思っていた。
 いや……なんとやら様子を見るにそれは間違いではないのかもしれない。その身からは生気は感じられず、恐らくは幽体か? しかしてその口から紡がれる声色は正しくかつての導満その人。

 流るる日々の中で幾度と見据えた瞳の色が、確かにそこにあったのだ。

「言いたい事は山とありますが――今は、猫の手も借りたい所です」
 力を、お貸し願えますか?
 眼前。己が邪魔をする黒装束に刀を紡ぎながら、雪之丞は彼へ言葉を。
 導満の力量はよく知っている。混沌を跨いだとはいえ、彼の知見はそれだけでも力となり。
「ああ無論だ。これも縁かな」
「ハッ。プロとしての知見を得られるとは思わぬ味方だな――頼りにさせてもらうぜ?」
 さればこそ『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)は頼り甲斐のある味方を得たものだと口端に笑みの色を。様々な物品で名前だけは聞いていたヤツが生きて――いや『生きて』と言えるのかは微妙だが――ともかく。呪術の類に対してこれほどまでに分かりやすい味方が参戦してくれるとは。
 あとはどうにか『冥』の防衛線を突破し、奥へと突き進むのみである。
 壁をすり抜け、或いは地の利を用いて死角を取らんとする奴らの動きは厄介であるがカイトは故にこそ透視の力を用いて警戒を成していた。非戦の力を感知する探知も用いれば、おおよその数も分かるもので。
「『印』はまだ成立していないという話なら……妖怪達が来る前に辿り着きたい所だね……!」
「豊穣の地は嫌いじゃねぇからなァ……これ以上身勝手な連中に好き放題穢されてたまるか」
 そしてマルク・シリング(p3p001309)と『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の両名は迫りくる冥らの位置をカイトとはまた別の方法で探知せんとする――それはファミリアーだ。
 ネズミやヤモリの形を成して偵察の一端とする。なるべく小さな、いても不思議ではなさそうな個体達を、だ。各所の部屋を隙間越しに除き待ち構えている者がいないか――そしてこれらの視界リンクが途絶えないかも、だ。
「冥の連中は用心深いからな。こっちも『そう』じゃねぇかと想定させてもらぜ」
 もしかすれば動物らを殺す手段も取って来るかもしれぬとレイチェルは推察。
 以前に冥の連中に会った事があるが……その時奴らはファミリアーによる警戒を想定した動きをしていた。連中は只の兵ではなく手練れであれば対応もしてくるやもしれぬと。
「かような精鋭を集めているとは、相手もそれだけ本気と言う事だろう」
「――ま、なんにしてもお賃金分働かせてもらうっすよ~。相手が忍者みたいな連中であろうとっす!」
 それでもと『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は優れた嗅覚と聴覚をもって周囲の警戒とする。忍者の様な連中であればきっとどこからでもやって来る――故に奥邑 千種(p3p004722)もまた如何なる臭いも逃さない。
「ここはあっちさんの根城だとすれば、床も天井も気は抜けないっすね。こっわ~!」
「だがそれでも『印』とやらは止めねばならん。仔細はまだ知れんが……辺りに渦巻くこの気味の悪さからするに……ろくでもないものに違いないだろう」
 覚えている味方の臭い。それらと違う何かが近付けば『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)も気付く。後方に位置する彼は後ろから敵が来ないように警戒しつつ前へ。
 この国は気に入っているのだ。これ以上汚されるのは――気に食わない。
「人の命は、何かの儀式の為の贄ではありません。
 誰ぞが勝手をしてよいものでなく……だからこそ彼の所業は許されません」
 そして『未来綴りの編纂者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は微かなる怒りを心の底に。
 加辺 右京。この国の大蔵を統括せし者。
 如何な事を思考しているのか。如何な事を考えれば斯様な身勝手を実行に移せるのか。
「――必ず止めてみせましょう」
 決意と共に視線を巡らせる。透視の力をもって、見えぬ敵を見据えるのだ。
 鯉口の音。足の音。衣擦れ。血の臭い。気配――
 誰もが注意し、誰かが捉え。何一つとして見逃さず障害を排除しよう。

 この国の美しき未来を守るために。


 イレギュラーズ達は暗躍する冥達の対処にあらゆる戦術を講じていた。
 壁を見通す透視に五感。冥らが如何に隠れ潜む事に優れようが対応の為に動き回るのであれば必ず生じる気配がある。無論、急ぐ必要があるイレギュラーズ達だ……万全を期してゆっくりと進む訳にもいかぬ故――多少の見逃れはある、が。
「命が惜しくば去れ、そうでなければ――力尽くでこの場から退いて貰う!」
 直接の戦闘となればそれこそ地力の高さがモノを言うのだ。
 ベネディクトの一喝。同時に薙ぐは己が槍の一閃。
 全身の膂力を一点に込めて雷撃が如く――大天上より振り落とす、割断の意思。
「わ、わ、わ。右から来るっすよ! 跳んでくるっす!」
 壁の先を見通す力によって接近を察知する千種。物質透過の力によって突き抜けてくる気か――しかし分かっていれば対処のしようもあるものだ。敵の跳躍に合わせ、逆に踏み込み。その鳩尾へと掌底一撃。
 殺す――事まではしないが、逃がさず動けぬ様な状態へと持ち込んでやるのだ。
「ハッ。突っかかって来るとは面白ぇが、勢いが足りねぇな……!
 闇に紛れても俺の目からは逃さねぇ。ホームだと思って調子に乗った報いを受けなッ!」
 さればレイチェルもまた己が力を解放し、半身を異なる形へと導かん。
 あぁ往々。怒り触れし感情を其処へ、鮮血に染め上げし魂こそが身を導くのだ。
 肉体の壁の先へ。薙ぐ一撃が冥を穿ちて吹き飛ばさん。
「どれだけの妨害を挟もうと無駄です。私達の足は……決して止まりません」
 リンディスは己が身に強化の加護を齎しながら、味方への支援を中心とする。傷つけば癒し手の記録から適切なる治癒を施そう。敵の攻勢に合間があらば群力の記録から陣を立て直すが如くの力を与えよう。
 ――止まらぬ。冥の者達の小賢しい邪魔程度では。
 未来を綴る為に此処に来たのだ。散発的かつ半端な攻勢などがリンディス達に通じるものか!
「どうした。先程から機を見て待つ事しか出来ないのか――なんとも情けなし。
 国の闇と言われどその程度か」
「この国を、地獄にはさせはしない――! そこをどいてくれッ!」
 同時。グリムの挑発するかの様な言動と立ち振る舞いが冥の視線を引きよせ、邪悪を罰せしマルクの光が敵を打つ。
 ここで時間を取られる訳にはいかないのだ。あくまでも目的はこの先。
 右京の紡ぐ儀式を排する事である。故に敵を引きよせそこを一気に打つ。
「――さて。せめてそろそろ『見えて』きても良い頃合いだと思うんだがな」
 そしてカイトは迫りくる敵の強さを観察しながら敵を撃つ。
 敵の布陣の全容は分からないが、印に近付くにつれて防衛線は厚くしている筈だ。ゲリラ的に妨害してこようが結局、最終的に突破させたくない地点は必ずどこかにある。そこに連れて更なる精鋭を配置していると推測すれば、本陣に近付いているとも思えて。
「んっ、とぉ? おいおい妙な奴も出てきたぞ」
 直後。カイトは気付く――『冥』ではない影を見た事に。
 それは一言で言うなら妖怪の姿。犬の様に見えるが、こちらに向けてくる敵意は本物であり。
「ふむ……成程。この先にいる輩はそういう呪術に傾倒でもあるのかな。
 妖を……まさか京のこんな真ん中に呼び出そうとは、破滅願望も甚だしい」
 されば導満は零した言の葉の節々に――棘を含ませながら、紡ぐ術をそちらへと。
 一枚の符が二枚、四枚、八、十六……増える波へと至りて妖を襲い。
 ――炸裂する。
 かつての世にて京守りし護星衆の長であった導満にとってみれば、このような所業を……ましてや本来京の護るべき立場のモノが行うなど『狂われたか』と口にしてしまう所である。このような術の果てにあるはただ一つ。
「百鬼夜行。放置すれば、この国が地獄と成り果てるのは、自明の理でしょう」
「いやハハハ懐かしいね雪の嬢。あちらでは存分に叩き潰したものだけど、まさかこちらでも、とは」
 軽口。導満の放った術による陣の穴を雪之丞は見逃さず。
「おいでませ、おいでませ。昏き闇より澱む底へ。昏き闇より淀む奈落の底へ」
 拙が立つ此処まで。
「――堕ちてくださいませ」
 斬撃一つ。介入せし冥の刀を弾き、空いた腹を抜ける様に。
 防の構えから攻と成すのだ。紡がれる流れは止まらず至天の剛閃にて道を開く。

 ――妖怪が出てきたという事は印までの道はそう遠くない筈である。

 そして幸いと言うべきか妖の力は大したものではなかった。イレギュラーズ達それぞれの冥に対する策が奴らの妨害を上手く排していたのである。その上でリンディスやマルクの治癒術があらば――致命的な傷を負った者はおらず。
「先が見えました。あちらが目的の『庭』かと……なれば、ご武運を」
「進む道の邪魔はさせない。
 あぁ――お前達の相手は自分が請け負う。そうやすやすと抜けられると思わないでくれ」
 その時見えたは目的地。廊下の果てにある、奥の庭。
 となればと最後の道を切り拓くために雪之丞が柏手一つ。鈴の音にも似た霊気の鳴り響きが敵の注意を引き付け――更に後方から追い縋る者達はグリムが押し留める。
 叩き込む魔棘が敵を赤く染め上げるのだ。通させぬ。絶対に。
「ここは私達に任せるっすよ! ふっ、後でまた会おう――ってヤツっす!」
「ええお先へ。後でまた追いつきます」
 そんなグリムを援護する様に千種もまた突破する者を追わんとする冥の阻害を試みるものだ。滅茶苦茶に暴れまわる様に。握り拳に親指を立てて、見送る視線は任せたとばかりに。
 同時にリンディスもまた此方へと残る。奴らの移動を妨害し、決して奥へとは進ませない。
 ――あぁ。今まで散々邪魔をしてくれたが。
 此処より先はそちらが足止めをされる番としながら。

「……おのれ役立たず共が。せめてもう少し時を稼げなかったのか!」

 ――そしてイレギュラーズ達は広き間へと到達する。
 そこに居るは加辺 右京。
 印を紡ぎし、この国に仇名すモノである。


 憤慨する声。その足元にはなんぞやの陣が敷かれていた。
 あれが妖を呼び出す術式か――煌々と輝くソレは中央に怪しき靄を収束させている。
 アレは扉だ。妖怪を呼び出し放つ魔の扉。そんなモノを扱える右京は――
「――人じゃあなさそうだな?」
 レイチェルが言う。同時、その瞳は右京を捉えていて。
 見ているのは『病』があるか無いかだ――レイチェルの瞳は病の有無を見る事が出来る呪いを宿している。もしも肉腫に侵されているのであればその瞳に映ると思ったが……
「あるのは狂気かよ。巫女姫か、それともあの長胤か知らねぇが当てられたか」
「魔種と言う事か……既に堕ちたのであれば、容赦もなにも不要だな。
 ――印は破壊させて貰う。貴様の思い通りにはさせんぞ、大蔵卿!」
 感じた気配は魔種のソレ――豊穣の内部に入り込みし悪の象徴。
 いずれにせよ印を破壊しなければ妖怪が幾らでも出てくるだけの状況だ。右京を滅するかはまだしも……急ぎアレを終わらせなければいけない状況は変わらない。
 故に踏み込む。
 グリムや千種、リンディスが身を挺して稼いでいるこの時を無駄には出来ぬのだ。レイチェルの術が紡がれ、ベネディクトの槍撃が一つ。印を破壊すべく二と三と放たれて。
「ほざけ……殿中であるぞ、奴らを取り押さえよ!」
 右京は印に力を注いでいるが故に動けぬ、が。だからこそ冥の者達が前面へ。
 ここは高天御所の奥の庭。
 先程までの廊下での戦いとは異なり、戦うに充分なスペースがある。イレギュラーズ達にしろ冥にしろ真の実力を晒し合う場はここからと言う事だ。有利なのは、さてどちらか。イレギュラーズは突破する為に幾人かを残してきている。それだけで言えば妖怪の増援もある右京の側が有利に思えるが――
「大層な『印』だね。でも、僕達がここまで来れた時点で……もう終わりだよ!」
 印を破壊すればいいだけならば話が別である。
 マルクの紡いだ全力全開。破壊に意思を注いだ、砲撃とも言うべき一閃は彼方より飛来し陣そのものを撃滅せんとしているのだ。その威力たるや正に凄まじく、リンディスの支援を受け取っていた彼はまだ幾らか撃てる余地を残していて。
「ささ、地を治めるヤツが地を汚す方に暴走しちゃあ――信頼も地に堕ちるってもんだ。
 腐敗した輩ってのは適度な所で自ら身を引いておくべきじゃねーかね」
 次いで、攻撃の間に暇を作らぬ様にカイトが射撃を一つ。虹色の軌跡が右京を穿つのだ。
 可能であれば奴を捕縛出来れば後々の役に立つかもしれない。中務省の交渉材料として――という意味だが。ともあれ魔種であるのならば捕獲は難しいだろうか? どの道印の成立を防ぐべく攻撃するに変わりはなく。

「ぐっ……このままでは印が……何をしている! 連中を近付けさせるな!」

 同時。更に苛立つ右京の声。
 イレギュラーズ達の到達が予想よりも早かったが故か印より出でる妖怪に大きい力は無い。壁になるのが精々、と言った所か。だからこそ戦力として在れるのは冥の者達だけ。
 斬る。居合の一閃がベネディクト達を、厄介な射撃を行えるマルク達を裂くのだ。
 数度の攻撃だけでは『印』は揺らがぬ。まだだ、まだ余地があるのだと――
「いやはや成程。これだけの防御の陣を敷いていたとは……
 やはり僕だけでは此処に辿り着く事は難しかったね」
 その時。発せられた声の主は導満である。
 陽気な様に。まるで世間話でもするかのような口調が紡がれ、同時に飛び出てきた妖を術にて消し飛ばす。もし一人であったならと考えたらどうしようもなかった。イレギュラーズ達と会えねばやはり近付く事すら出来なかっただろう――
「だけど。やはり巡り合わせというのは重要だ」
 だって。
「その『印』に手が届くのだから」
 瞬間。印に近付けさせまいとする『冥』の一人が穿たれた。
 それは糸。無数の見えない糸が奴を斬り裂き、自由を奪わんとしたのである――それは。
「こちらは片付いた。更なる増援が来る前に終わらせよう」
 グリムである。後方で突破組を援護する為に残った彼であったが、片付いたのか。
 援護の為に四人残ったのが幸いだったのだろう。足止めだけでなく、攻勢をかけて潰せるだけの戦力があったのだ。例えば二人だけなどであればもっと時間がかかり……間に合わなかったかもしれない。
 しかし間に合った。そして当然彼が来たと言う事は。
「加辺 右京。あなたの望む物語を、ここまで至るまでのお話を聞きたいところです。
 ――その物語に如何なる意味が含まれているのか。何がためにその術を望むのか」
 リンディスらもまた此処に来れると言う事である。
 突破組に治癒の術を放って戦域を見据える――見える範囲、冥の数は決して多くない。リンディスらの参戦によって、むしろ数はイレギュラーズ側の方が優位となったか。
 ならば潰す。潰せる。
 ここに至るまでに傷ついている千種だが、それでもあと少しと戦意を振るわせるのだ。
 あぁ怪我をしたら痛いし、怖い。身の震えが止まらなくなりそうだ――
 だけど。
「この先で泣いてる子がいるんすよ」
 そんな震えを押し殺してでも、成したいのだ。
「その子につながるなら、絶対印は破壊させてもらうっす!
 ――ああそれはそれとして臨時ボーナス期待してるっすよ!!」
 守りたい者がいるのだから。
 千種は闘う。幾ら傷付こうと、幾ら血を流そうとも。

 ――最後の攻勢が始まった。

 印による妖の召喚はさほど強くないものばかり。冥はそれなりの強さを持つが、暗殺肌の彼らは正面衝突となれば不利であり、先述した様に数も違う。
「大蔵卿……ここはお引きを。我らが時間を稼ぎまする」
「おのれ……おのれ外様の神使共が……!」
 印は傷つき、今にも瓦解寸前。
 ならば戦いなど無意味とばかりに――右京は退く。冥が壁となり、時間を稼いで。
「――随分と色を変えたね、雪の嬢」
 と。されば。
 勝利を確信した導満は知古の雪之丞へと言葉を紡ぐ。
 ――随分と『以前』とは様子が違うと。かつての日々、導満が知る『雪の嬢』とは――
「そうでしょうか。拙は、丸くなっても、変わっても居りません」
 しかし、と。
 最後の冥を切り伏せて。仕舞った果てに彼女は零す。
 変わった? いやいやそんな事は無い。ただ少し。
「少し――繋いだ縁が増えただけです」
 それだけなのだと彼に零す。
 ああそうか。
 仇敵よ。そして対等だった……友人よ。

 ――そうかい。少し、寂しいね。

 月明かりの下で交わった視線。
 万の言の葉よりも雄弁に、その魂を――語っていた。

成否

成功

MVP

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

状態異常

奥邑 千種(p3p004722)[重傷]
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 冥の妨害に対する作戦は上手く機能していたかと思います……! 非戦の様々が活用されていましたね。時間がかかると印による妖怪が強くなっていたので、難しい状況になっていたかもしれませんでした。MVPは多くの支援を成された貴女へ。

 それではありがとうございました!

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