PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<傾月の京>啼き包丁

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「高天御所にて、強大な呪詛が行われることを『けがれの巫女』つづりが感知した。行って阻止してきてくれ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は短く締めくくった。
 相対峙するイレギュラーズも、これに応じてうなずくのみ。それ以上のやり取りは不要だった。
 都で呪詛が蔓延し、複数の被害が確認されているのは周知の事実。特異運命座標による対処によって幾分か被害は軽減されたが、それでも高天京の被害は大きい。それよりも強力な呪詛が行われれば、甚大な被害が出るだろう。
 是非はない。
 これよりイレギュラーズは呪詛の阻止のため、宮中へ乗り込む。
「呪詛が行われる場所は高天宮の内裏、巫女姫が御座すその場所だ。だが、お前たちには別の場所――宮中の御台所を強襲してほしい。オレが独自につかんだ情報によれば、今夜、そこで儀式の後に出される魔料理が作られる。食べれば疲れが飛んで、新たな力が漲る……そうだ。万が一にも、戦いのさなかに巫女姫らが料理を口にすると拙い。作られる前に料理人ごと片付けろ」
 イレギュラーズたちは固く口を引き結ぶと、満月が照らし出す高天京の道を駆け出した。


 深夜――。
 大膳司長、伴野忠房(ともの ただふさ)は、灯りを落とした板場を見回した。
 さすがにこの時間になると冷え込んでくる。夏が終わり、吹く風に秋の気配がはっきりと感じられるようになった。本来であれば、秋の祭事で出す料理を考えねばならぬ頃である。だが――。
 静寂の中を忍ばせた複数の足音がやってくる。床木が軋む微かな音が、静かに息を殺す忠房の耳には届いていた。
 御殿の内外が俄然騒がしくなってきた。窓の外がぼうっと山吹色に明るくなったところを見ると、火がつけられたらしい。儀式のことを特異運命座標たちが嗅ぎつけ、攻めてきたか。
(「やれ、そうは言っても出すものは出さねばな。仕方がない、始めるとしよう」)
 忠房は、包丁を包んだ布を解く。僅か数時間前に、丁寧に研いでしまったものだ。炎の照りを受けて、銀の刃が燃え立った。
 そういえば、いつぞや気を分けてやった金魚たちはどうなったのか。しばらくの間、祭りで親子を襲うもののけの噂をぽつぽつと耳にしていたのだが、ある時を境に、ぷっつり途絶えてしまった。
 あれはまだ夏の暑さが残る日のことだった。
 金魚が八匹、泥水の中に捨てられ、死にかけていた。場所からして犯人は御殿人の子に違いない。それが誰かははっきりと判らぬが、大方のところ、下々のものに祭りで買い求めさせたものの、すぐに見飽きて捨てたのであろう。 
 目を白く濁らせ、パクパクとエラと口を開く様子を哀れに思い、肉腫化した。呪符をはったポイを持たせて、怨みを晴らせ、と世に放ってやったのだが……余計なお世話だっかもしれない。
 自分と違い、怨みを抱いたまま死んだとしても、生まれ代わってまたこの世に還ってこられてかもしれないのに……。
 後悔しても遅い。
 自分も、あの金魚たちも、悪のささやきに耳を傾けたその時から、後戻りのできない道を行くことになったのだから。
 カタン、と音がして戸が引かれた。
 八つの影が、板場に踊り込んでくる。
 忠房は覚悟を決めると、鉄の箸を右手に取った。包丁を構え、腹の底から声を出す。
「無礼者! ここは帝に献上する料理を作るところぞ。身も清めもせず、ずかずか入ってくるでないわ! それとも何か、お主たちは儀式で食されるための『食材』か? ならばこの大膳司長、伴野忠房自ら捌いてくれようぞ!」

GMコメント

●依頼内容
・肉腫(ペイン)の撃破、または撃退。
※捕虜とするには、まず肉腫化を解かなくてはなりません。

●敵……大膳司長 伴野忠房(とものただふさ/べイン)
 宮中儀礼に料理を提供するお役所、大膳司(だいぜんし)を束ねる者です。
 派閥争いから一定の距離を置いていましたが、霞帝が信を置いていた中務卿の建葉・晴明が都落ちしてから天香派に取り込まれ、つい最近になって長胤の手で肉腫化させられました。
  肉腫になると凶暴化するものが多い中、忠房は人であった頃の清廉実直な性格を残しています。
 ペインですが、オリジンに近い力を有しています。

【武器】左手、刀のような包丁…刀ほど長くなく、短刀ほど短くもない包丁。
    右手、鉄の箸……………攻防一体の武器。挟み取る、突きさす。

【攻撃】
 イレギュラーズを食材に見立てて、料理しようとしてきます。
 ・焼き(神近単/火傷) …… 口から炎を拭いて火であぶってきます。
 ・蒸し(神近範/呪い) …… どこからともなく噴き出した熱い水蒸気で蒸してきます。
 ・造り(物近単/出血) …… 切り刻みます。

●Danger! 捕虜判定について
このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。
※ 敵を捕虜にする場合、生け捕りにする必要があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <傾月の京>啼き包丁完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月05日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
那須 与一(p3p003103)
はですこあ
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートD
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
蛇霊暴乱
鈴鳴 詩音(p3p008729)
特異運命座標
喜久蔵・刑部(p3p008800)
『元』獄卒

リプレイ


「無礼者!」
 『はですこあ』那須 与一(p3p003103)は、ここに違いない、と当たりをつけた部屋へ入るなり、大雷声を落とされて腰を抜かしそうになった。
「自ら名乗りをあげてくれるとは、確認の手間が省けて助かったでござる」
 忠房は口から低い唸り声を一つ零し、落とした腰をゆるりと引き上げた。
「何者じゃ。名乗るがよい」
 刺客を前にしてこの高飛車な物言い……肉腫化の影響というよりも、もともとがそういう人物なのか。
「人格は本人のもののようで……なによりでござる」
 いささかむっとしながら与一は名乗りを上げた。
「与一とやら。先ほどの言葉はどういう意味か?」
 『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が、何でもねえ、と言葉を差し挟む。
「こっちの話だ。俺はアーマデル。とりあえず、俺たちをどう料理するつもりだ」
「まあ、そう急くな。まずはじっくり『食材』を吟味させよ」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)が、ははは、と笑う。
「僕の名前はランドウェラだよ。それにしても人に料理包丁を向けるなんて。いつから僕達は食材になったんだい?」
「ここに足を踏み入れた時からじゃ」
 即座に言い放ち、忠房はランドウェラの後へ視線を飛ばす。
「そこの、まだ板を踏んでおらぬものたちよ。料理されたくなくばそのまま帰るがよい」
「あ、それ無理」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は腕まくりしながら板場に入った。 調理台と台の間を進み、アーマデルと並ぶ。
「一悟だ。あんたに料理されるつもりも、させるつもりもねーよ。オレとアーマデルは『あの子たち』の代わりにあんたを殴りにきた。でも、まあ、オレやみんながどんな料理になるのか興味はあるぜ」
 聞くだけは聞いてやる。一悟は眉を曇らせた忠房に、冷たく笑いかけた。
 ――と、『魔法少女インフィニティハートD』無限乃 愛(p3p004443)が、一悟たちの間に腕を差し込んでぐいぐい間を広げる。
「ちょっと、あけてください。あけて……忠房さんに私の姿が見えないでしょ」
 二人の間から忠房の姿が見えると、 愛は姿勢を正した。
『悪に浸かった心を裁くは愛と正義の刀光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
 ばっちりポーズを決める。
「いんふ……はーと、という名か」
「違うよ。その人はハートって名前じゃないから」
 そう言ったのは『特異運命座標』鈴鳴 詩音(p3p008729)だ。
「インフィニティハートっていうのは愛さんの……源氏名?」
「源氏名? 愛は芸者か、花魁か?」
  詩音はコロコロと鈴を転がすような声で笑った。
「私は詩音だよ。忠房さんって面白い人だね」
「お――!?」
 戸口で手を打ちつける乾いた音が二度なって、場の空気が一新された。全員の耳目を集め、神気を纏った『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が堂々入場する。
 続いて『『元』獄卒』喜久蔵・刑部(p3p008800)が、大きな体を縮こまらせながら戸口をくぐり抜けた。
 二人は板場の中を見まわしつつ、仲間が作った花道を優雅に歩む。
「帝に出す料理を作るってぇと、もう、そりゃ神事も同然。つまりここは厨房でもあり神殿でもある。俺はゴリョウ、食を極めんと日々修行の身だ。大膳司長のオメェさんからみりゃ小僧も同然の俺だが、できる限りの礼は尽くさせてもらったぜ」
 ゴリョウは忠房の手前で足を止めた。
 緊張の一拍を置いて、ニィッと笑みを浮かべる。
「なるほど良い板場だ、大膳司長。だからこそ、同じ料理人として俺はあんたを止めなきゃならん!」
 きり、と目じりを吊り上げれば、金眸が殺気の光を放つ。
 忠房はあわてて体を後ろに引いた。台の下に二本の長い鉄の棒を差し込み、器用に何かを取りだして口に含む。刹那、頬を膨らませ――。
「好きだけどぉ、オイラは酒に弱いんだぁ。後にしてくれよぅ」
 喜久蔵の長い左腕が、鉄箸で徳利をもった忠房の手首をつかむ。
「その腕の呪具はもしや――ええい、離さぬか!」
 呪具が撒きつけられた左腕に包丁が振り下されると、喜久蔵は手を離した。
「馬鹿者。これは清めの酒じゃ」
 忠房は徳利をあおると、喜久蔵が掴んでいた手首に酒を吹きかけた。
「献立は決まった。これより調理に入る」


「大膳司長の作る料理かぁ。楽しみだなぁ」
「喜久蔵殿、なにを呑気なことを! 大膳司長は私たちを調理するつもりなのでござるぞ。ゴリョウ殿も絵皿の片づけなどしていないで、一旦おさがりくだされ」
  与一は全身バネのような躍動感溢れる跳躍を見せ、忠房の前に着地した。戦闘特化外骨格に覆われた手を刀のように振う。
 攻撃は忠房が構えた鉄箸に当り、キン、と甲高い音を板場に響かせた。
 忠房はぐっと胸に詰まらせた声で、「一の善」と発した。
 同時に包丁を振るえば、与一の胸にすっと一筋、桜色の線が走る。
「雲丹入り与一の蒲鉾とアワビの柔らか煮じゃ。身は丹念にすりおろし、雲丹と敢えて蒸し、蒲鉾にする。そこにアワビを柔らかく煮て薄く切ったものを添えよう。二つの異なる噛み心地を楽しんでいただけよう」
 与一は手で胸を押さえた。
「へ、変態! 誰がすり身になってやるかでござる!」
 抗議の声には一切耳を貸さず、二の善は、と忠房が目を向けた先にはアーマデルがいた。
「俺はなんだ」
「吸い物じゃ。赤みがかったその肌を赤魚に見立て、あまでるの潮仕立てにしよう。しっかりと締まった身は口に入れた瞬間に、ぷりっとはじけほぐれ、舌を楽しませてくれるに違いない」
「いやいや、そう確信を込めて言われても困る。俺は食われるより食うほうが断然いい――」
 胸に秘めていた怒りを迸らせて、アーマデルは蛇鞭剣を振るった。赤と黒。異なる毒の炎を走らせて、鉄箸で身を守る忠房を二度切りつける。
「赤はタマサバ、黒はデメキンの分。貴殿があの金魚たちにやったこと、忘れたとは言わさない!」
 ここにきてようやく忠房は、一悟がいった『あの子たち』の意味を悟った。
「そうか、あの子らの噂が絶えたのはお主らが……」
 忠房が目蓋を伏せる。
 その隙に乗じ、一悟は畳みかけた。
 トンファーに纏わせた炎が怒気を孕んで膨れ上がり、飛び散る火の粉が長い尾を引く。あたかも吼える獅子のごとく、忠房の腕に食らいついた。
「これはライオンヘッドの分だ! くそ、いまでも目覚めが悪い。ここにいないあの時の仲間の代わりに、あと二匹分、叩いてやるぜ!」
 八重歯を剥きだして吼えた一悟だったが、次の瞬間、アーマデルとともに熱い水蒸気に包まれた。
 白い水蒸気の向こうで、忠房が「三の善、一悟と牛蒡の煮つけ」と告げる。
「一悟よ、気の強いお主からは濃い出汁がとれるだろう。牛蒡と一緒に煮るとよかろう。ともに濃い出汁だから、鉢の中で良い喧嘩をするはずだ」
 水蒸気が晴れてきた。イレギュラーズが持ち込んだ明かりを受けて、忠房がもつ包丁がギラリと光る。
「目を覆え!」
 仲間へ短く警告を飛ばすと、ランドウェラは星屑ボンバーを投げた。
「爆破!!」
 派手な爆発音とともに、キラキラと光る星が飛び散った。
 ランドウェラは、忠房がめくら吹きした炎の下をかいくぐり、一気に懐へ飛び込む。黒髪が焦げる臭いを嗅ぎながら、呪いを張りつけた手のひらで薄い胸を突いた。
「――うぐ!?」
「おっと!」
 頬に鉄箸が突きたてられる前に、ランドウェラは横へ跳んだ。これでどうだ、とアーマデルを見る。
「まだだ。まだ届かない」と告げた声に、「四の善」と告げる忠房の声がかぶさる。
「なにが飛び出すか分からぬ、なんとも楽しい仕掛けだった。らんどうらよ、お主はしんじょうの椀物にしようと思ったが……壺物に変更だ。壺の底にくるみ味噌を敷き、上に蒸らしたお主の切り身と焼いたゆり根、短冊切りの茅蕈(こうたけ)を添えよう」
「ははは、僕はどんな調理をされても美味しくはならないぞ。でも……君が普通に戻れたらさ、君の料理を食べたいな」
 まぎれもない本音を置いて、ランドウェラは仲間の後ろへ下がった。
 メインとなる食材が自分たち自身という点を除けば、これまで忠房が言った料理はどれも美味しそうなものばかり。ちゃんとした食材を使って出されれば、喜んで食べるだろう。
 どうして道を誤ってしまったのか。
 声にしなかったランドウェラの問いかけに、忠房は悔いてはおらぬと目に力を入れて帰す。
「嘘です。私の人助けセンサーは、忠房さんが心に隠し続ける、助けを求める声にしっかり反応していますよ!」
 そう言ったのは、与一の手当てをしていた愛だ。
 愛はしっかり忠房の顔に目を止めながら、一悟に向けて伸ばした腕の先からハート型の波動を飛ばした。
「な、なにを根拠にそのような……」
「狼狽えているところを見ると図星のようだね。さすが愛さん、スゴイ!」
 言いながら軽やかに距離を縮めてきた詩音に、忠房が上半身の身で包丁を突き出す。
「――!」
 とっさに立ち止まったため、包丁は深く刺さらず、詩音の胸を浅く突くにとどまった。
 詩音はしばらく服に開いた穴を見つめていたが、突然、表情を鬼のそれに一変させた。顔をあげるなり、猛々しく哄笑する。
「アハハハハハ!!」
 持っていた盾で忠房を突き倒した。胸が起こされたところへ、足蹴りを食らわせる。
 さらに盾で頭を割ろうとしたところで、いきなり足首を鉄の箸で挟まれた。
 そのまま格子天井へ豪快に振り上げられる。
「アハハ、面白い!」
 仲間たちが追撃を阻もうとして、一斉に援護攻撃する。
 アーマデルと一悟が身を切られながらも一発ずつ入れて、金魚たちの仇をとった。すぐに愛が癒しの波動を広げて、傷ついた二人を癒す。
 詩音は空で体を捻り、激突する前に天井を蹴った。足首に走った激痛に目を細めつつも、しっかり落ちる先を確認する。
 果たして詩音が落ちたのは、ゴリョウの腹、いや腕の中だった。
「大丈夫か?」
 ゴリョウは、忠房の攻撃を華麗に捌いてかわし、詩音をそろりと降ろすと、今一度、金目に鋭い光を走らせて忠房を睨んだ。
「なぁ伴野の旦那。オメェさんの立場はどうあれ、その磨いた技術は嘘をつかねぇ。指の関節は擦れてタコだらけだし、掌の甲側に歪んだ筋肉が盛ってるのは、刺身を美しく引き切り続けた結果だ。今日までの料理修行は、女子供に刃物を振る為なのかい?」
 まあ、話をしようや。そういって、喜久蔵が大事にもっていた徳利を取り上げた。
「稲穂の語らう夢の中なら、オメェさんも本音が話せだろう」
 攻撃を一身に受けつつ、ほれ、と徳利を投げて渡す。
 忠房は胸で徳利を抱き留めると、栓を抜いて酒をあおった。


「ああ、いいなぁ。オイラも飲みてぇなぁ」
 今はがまん、と与一が後ろから喜久蔵の着物を引っ張る。
「後で好きなだけのめばいいでござろう」
「けどぉ……」
 再度、強く着物を引かれた喜久蔵は、渋々、長い腕を伸ばしてアーマデルと一悟を掴み上げると、ゴリョウの後ろに下がった。すぐに二人を愛に託し、腕を組んだ。
 ランドウェラが穏やかな笑みを浮かべて、手の甲で口元をぬぐう忠房に、まろやかで耳触りのよい声をかける。
「……何があったかは知らないけどさぁ、まだ間に合うんじゃないかな?」
「引き返せと申すか」
 目を柔らかく曲げたまま、ゆっくりと頷いて見せる。
「僕を受け入れてはくれないだろうか。僕は君のために頑張るよ?」
「頑張る? なにを……そも、お主は鬼畜道に落ちたこの忠房が受け入れられるのか。美味を極めることにどこまでも貪欲なこの儂を」
 愛が怪我人の回復を行いながら問う。
「そもそも、どうして肉腫化を受け入れたのですか? 無理やり――」
「違う!」
 忠房はだらりと腕を下げると、遠い目をした。
「確かに、始めは怖かった。宮中を手中にした天香派の誘いを袖にた結果、大膳司長の任を解かれ、ここを去らねばならぬことが。ここは料理人にとって天国のようなもの。豊穣の幸はもとより、いまでは海を越えた新世界からも様々な食材が手に入る。道具もじゃ!」
 一悟は立ちあがると、勝手なことをいってんじゃねぇ、と吼えた。
「料理なんてどこでもできるだろ。金魚たちにすまないことをしたと思ってんならさ、人として生きて償え!」
 まあまあ、とアーマデルが一悟をなだめる。
「まだ続きがありそうだから、聞こうじゃないか。貴殿が天香派に与した理由は分った。それで肉腫化が無理やりではないとすると、自ら受け入れた? なぜだ」
 返答次第では即座に切る、と蛇鞭剣をもつ籠手を軋らせる。
 忠房は長く息を吹きおろした。
「……長胤さまはよい舌を持っておられる」
「はぁ? なにそれ。さっぱり意味がわからないですね」
 詩音は、愛に治してもらったばかりの足首の具合を確かめた。爪先をたててぐりぐり回すと痛みが走る。
「結論としては、半殺しですか、全殺しですか、どっちですか?」
 ――と、蹴るフリで忠房を威嚇した。
「詩音の嬢ちゃんはおっかねぇなぁ。だけど、捕虜にするにしても、まずは大人しくさせねぇとなぁ」
 まてまて、と暴走しかかる二人をとめたのはゴリョウだった。
「料理人にとっちゃ、『舌の良し悪し』は大事なことだ。料理人自身はもちろんのこと、作った料理を食う人間が味の分からねぇヤツだったら、がっかりなんてもんじゃねぇ。悲しくて涙がででくらぁ」
 で、と忠房に水を向ける。
「誰であろうと、高級な食材を使えばそれなりに美味いものが作れる。しかし、真の美食はただよいものを使って料理するだけでは作れぬ。一品にどれだけ真心を込め尽くせるかが料理の肝よ。丹念に下ごしらえし、切り方を工夫し、温度に気を配る。……早朝、急に拵えさせられた『ただの握り飯と茶』であっても、心づくしされたものとそうでないものとでは、おのずと味に違いは出るもの。しかし、舌が馬鹿ではそれがわからぬ」
 忠房はゴリョウに徳利を投げ返した。
「長胤さまは、儂が米を炊く水からこだわったことを見抜かれた。米の粒を揃えて炊きあげ、召し上がる順に少しずつ塩の濃さを変えていたことも……わざわざここを訪ねて来られ、さすが天下一の料理人じゃ、と褒めてくださった。逆に、どんなに高価な食材を使った料理でも、少しでも腕に驕ったヘマをしでかせば、びしゃりと叱ってくださる」
 肉腫化を受け入れたのは、長胤の傍で料理人としてさらなる高みを目指すため、と忠房は言った。
「愛ですね、愛……。それでも、忠房さん。貴方は後悔している、人の道から外れたことを。助けて、と貴方の心が叫んでいます」
 ならば救ってあげましょう、と愛は武器を構えた忠房へ魔砲を放った。


「五の善!」
 愛の魔砲を鉄の箸でほぐすと、忠房は火を噴いた。
「愛と竹の子のみぞれ鍋。やさしい甘みを感じる出汁に表面を香ばしく焼き上げた愛の肉と竹の子、そこにすり下した大根の甘みと食感が絶妙にあわさりあって、やさしい味わいになろう」
 次に盾を構えて防御する詩音に炎を吹きつける。
「六の善は焼き物。詩音の炮烙焼きじゃ。上品なかんばせの裏側に鬼の凄みを住まわせたお主は、全身をぱりっと焼いて薑(はじかみ)を添える。山椒を一粒か二粒落とせば、詩音の香りが引き立つぞ」
「美味しそうなだけに、よけいに気持ちが悪いでござるよ!」
 与一が弓をひいて、流星の矢を飛ばす。
 右腕に矢を受けた忠房が、鉄の箸を落とす。からん、からんと甲高い音が板場に響いた。
 すかさず喜久蔵が右腕を伸ばして忠房から包丁を取り上げる。
「武器を壊しちまえば、大膳司長の攻撃手段も一つに減るなぁ。みんなも動きやすくなるよなぁ」
 大きな手で包丁を握りつぶした。
 アーマデルが狂気で歪む不協和音を奏でる。
「そろそろだ。細心の注意を払って攻撃しろ」
 忠房は片膝をついた。目にかかるほつれ毛の合間から、ゴリョウを見上げる。
「……七の善」
 すかさず一悟が「とんかつ!」、詩音が「焼き豚!」と、料理予測を口にする。
 ゴリョウに睨まれた二人は、顔を俯けた。
「ゴリョウを丸ごと使ったけんちん汁。背開きにして背とあばらの骨を取り除き……お、お主からは田に実った穂の……黄金の波うつ稲穂の香りがする。新米と煎り豆腐、キクラゲ、銀杏を詰め合わせて蒸しあげよう。それを汁に……」
 忠房が懐から小刀を取りだしたことに、自殺を警戒していた一悟とランドウェラが気づいて声を上げた。
 しゃがみ込んだゴリョウが、小刀を握った忠房の腕をそっと押さえる。
「美味そうじゃねぇか。そんな風に料理されるなら、食われるのも悪かぁないって思えてくるから不思議なもんだ。だからこそ言おう。あんたが磨いたその腕を、ここで失うのは惜しすぎる!」
 忠房の頭から烏帽子が落ちた。
「おおぅい。大膳司長、オイラは?」
 しょんぼりと肩を落とす喜久蔵を、見上げた忠房の目には涙があった。
「お主は水菓子だ」
「オイラがお菓子?」
「うむ。その醜い相貌……これまでいろいろと辛いことや苦しいことがあったことであろう。それ故、儂はお主の内には甘酸っぱい果肉が詰まっておるとみた。細かくした身を寒天で固め、牛の乳と卵黄に砂糖を加えてゆるく作った餡をかければ、最後を締めくくるにふさわしい菓子になろう」
「それ、オイラじゃなくて、ふつうに果物で作って食べさせてくれよぅ」
 いますぐに。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。

忠房を捕虜にしました。
肉腫化は解かれましたが、まだ長胤への忠義が残っているようです。
これから人として生き罪を償うのか、再び天香派に与して肉腫化するのか。
それは戦いの後の交渉次第。
それにしても、大変お腹が空きました……。
みなさんは?

それではまた。
別の依頼でお会いいたしましょう。

==
捕虜:大膳司長 伴野忠房

PAGETOPPAGEBOTTOM