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シナリオ詳細

<傾月の京>桜の歌姫、異界の剛剣、相対するは巣食う悪意

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 海洋王国の『大号令』を経て、旧絶望の青での死闘を潜り抜けた先、そこに存在していたのは神と鬼の住まう異国――黄泉津であった。
 現地に住まう八百万(精霊種)や、獄迅(鬼人種)らと出会い、交流を続けながら、夏祭りでの騒動を経て少し。
 カムイグラの巷には呪詛が蔓延しつつあった。
 鎮定に奔走する中、今は眠りについているという『霞帝』が信を置いたという中務卿――建葉・晴明と、『けがれの巫女』つづりから、イレギュラーズの下に情報が齎された。
 つづり曰く――強大な呪詛の準備が進められているという。
 その震源は、高天京が中心――高天御所、内裏。
 霞帝が眠りについて以後、『巫女姫』が座すその場所だった。
 つづり曰くの「悍ましい魔の気配」に、イレギュラーズは呪詛を食い止めるべく、宮中へ潜入しようとしていた。
「私も一緒に行きましょう――いえ、行かせていただきたい」
 そう、桜色の髪をした女性――光焔 桜が『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)に真剣そのものの視線を向けた。
「桜さん! どうしてここへ?」
「宮中に向かわれるとお聞きしました。
 霞帝陛下もおられるはず……私にも協力させてください!」
 普段は落ち着いている桜がユーリエに声をかける。
「で、ですが……分かりました」
 真っすぐにこちらを見据える桜の真剣そのものの眸に、ユーリエはこくりと頷いた。
 迫害の波を受けて兵部省を離反したという彼女にとって、迫害を止められる霞帝を救えるかもしれない機会を見逃せないのは仕方のないことだといえる。
 その気持ちに押されるように、ユーリエは頷くしかなかった。
「わたしも一緒に行くわ」
 その声を聞いて、反応したのは偶然そこにいた『血雨斬り』すずな (p3p005307)だ。
「はじめちゃん! なんでここに!?」
 驚いた様子で立ち上がって近寄ってきたすずなを見たはじめがついっと視線を切った。
「わたしも、一応はイレギュラーズなんでしょ? わたし、この国のこと気に入ってるもの。
 危機だって言うなら、一緒に行くわ」
 旅人(ウォーカー)は、等しく特異運命座標ではある。
 それがローレットに所属して活動するか、そうではないかという差異はあるが。
「それは……そうだけど、大丈夫?」
「はぁ? 当然よ! 寧ろ休みすぎてなまってそうだわ」
 すずなとはじめは夏祭りで再会した。あの時は、無茶なことをして重傷を負っていた。
 軽口を叩ける程度には元気らしい。
「それに――あそこにはあいつがいるかもでしょ?」
「あいつ? それって……」
「えぇ、わたしに恥をかかせてくれたあの男が」
 少女の視線は、再戦の機会に燃える一人の剣士の目だった。


 美しく満ちた月が空に輝き、その怪しくも美しい輝きが地上を照らしていた。
 鮮やかなまでの月明かりは夜であるというのにも関わらず、驚くべき程に明るく地上を照らし出す。
 ユーリエ、桜、すずな、はじめを含む10人のイレギュラーズは、そんな中、真っすぐに宮中へと走り抜けていた。
 桜の案内を受け、一気に突き進むイレギュラーズの前に、不意に影が差す。
 居並ぶ敵兵の肩などに見える文様は――
「刑部省の所属の者達のようですね」
 桜が呟いた。桜の案内は、その実、同僚である兵部省を避けるように進むルートだった。
 道を違えたとは言えど元同僚を討つのは忍びのない事――だが、刑部省であれば、まだマシだ。
「どうやら、通してくれそうにはないみたいです」
 各々の武器を構え、こちらを牽制する様子を見せる刑部省の兵士達を見ながら、ユーリエは呟いた。
 他の仲間達も同じように感じているようだった。
「突破いたしましょう!」
 ユーリエの方を振り返り言った桜に頷くようにして、9人は敵に向かっていく。
 ――同時、すずなの、そしてはじめの視線はその奥から姿を見せたソレに集中していた。
「今度こそ――」
「――斬り捨ててやるわ」
 三本の刀が月明かりに反射した。

GMコメント

さてこんばんは、春野紅葉です。
そんなわけで、全体依頼、通常なHARDでございます。

桜さん、はじめさんと一緒に、迎撃してきた輩を突破しましょう。

●オーダー
迎撃してきた刑部省の精鋭と純正肉腫を叩き潰して突破する。

●戦場
高天御所内部にあるとある寝殿造りの建物の中庭です。
見晴らしは大変よろしく、遮蔽物などもございません。
空を見上げれば美しき満月が目に映るでしょう。

●エネミーデータ
【刑部省精鋭部隊】×6
全員、非常に強力な精霊種の刑部省所属兵士です。
戦闘開始時は6人ですが、戦闘が長期化すると増援の可能性もあります。

・『兵長』躑躅ヶ崎 政友
 敵のリーダーです。優秀な指揮官です。
 彼の存在は刑部省所属部隊の士気を大いに上げ、またその指揮によって効率的に動きます。
 武器は太刀です。近接単体型のパワーファイター。
<スキル>
一刀必殺:物至単 威力大 【必殺】【致命】【ブレイク】
無念之太刀:物近単 威力中 【必殺】【邪道・低】【追撃・低】【連】
殲滅の大号令:レンジ2以内の味方『刑部兵』対象 【物攻中アップ】【命中・小アップ】【BS回復・中確率】

・『刑部兵』義興、『刑部兵』幸助
 敵の中距離型のタンクです。
 槍兵です。ブロック、マークなどを駆使してきます。
<スキル>
絡投:物中貫 威力中 【自カ至】【麻痺】
三突:物中単 威力大 【スプラッシュ3】【ブレイク】【崩れ】
薙払:物近扇 威力中 【飛】【崩れ】

・『刑部兵』宗親、『刑部兵』信康
 敵の弓兵です。遠距離アタッカー。
<スキル>
掃射:神遠範 威力中 【ショック】【崩れ】【泥沼】【識別】
呪射:神超単 威力中 【泥沼】【呪縛】【不運】【識別】
必滅剛射:神遠貫 威力中 【万能】【致命】

・『刑部兵』直吉
 敵の太刀兵です。
 近接単体アタッカーです。
<スキル>
無形刃:神近単 威力中 【連】【泥沼】
乱連刃:神至単 威力中 【必殺】【恍惚】

・『黒焔刃』黒田 政貞
『<禍ツ星>迫り食らうは黒き焔刃』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3665)で
はじめさんに重傷を負わせたあの純正肉腫です。
名前はこの一月の間になんやかんやで与えられた仮名です。

紅蓮斬光(A):物中貫 威力中 【災厄】【業炎】【呪い】
冥獄殺刃(A):物近単 威力大 【災厄】【致命】【業炎】
業焔三連(A):神超単 威力中 【万能】【災厄】【呪殺】【連】
斬傷膿種(P):パンドラを持たぬ存在への攻撃時、対象を肉腫化する
黒焔体質(P):【火炎無効】【凍気無効】

●味方NPCデータ
・『桜の歌姫』光焔 桜
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)さんの関係者さんです。
戦闘では弓矢による【必中】や【識別】属性の中~超遠距離攻撃、
歌によりバフ、ヒールを用いて戦います。
皆さんと同等程度の能力を有します。

・はじめ
すずな(p3p005307)さんの関係者さんです。
戦闘では二振りの刀を用いてのパワーファイトを繰り広げます。
【飛】や【連】属性の近接攻撃や、遠距離への単体攻撃を行ないます。
すずなさんより若干格下ですが、シナリオ中では誤差の範疇であり、気にするほどではありません。


●Danger! 捕虜判定について
このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <傾月の京>桜の歌姫、異界の剛剣、相対するは巣食う悪意完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
すずな(p3p005307)
信ず刄
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ


 月下に構えた敵兵めがけて、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は会敵に気づくや既に行動をし終えていた。
 誰よりも早くに放たれたそれは光と熱を『奪い』一縷の『希望』さえ削ぎ落す。
 広範囲にもたらされた術式が、敵の不運を呼び起こす。
「宮中には、霞帝陛下がいるということで。
 であれば道半ばで立ち止まっている暇はないですよね!
 この窮地を切り抜けましょう!」
 どこからか取り出したスイーツを食べた『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は朱色の結界を張り巡らせる。
「巡ってきた雪辱の機会です、燃えるでしょ? はじめちゃん!」
 竜胆を構えた『血雨斬り』すずな(p3p005307)ははじめにそう声をかける。
「当然! このために来たんだから!」
 双刀を握るはじめは石突き部分を繋げて双刃と形状を改める。
「今度こそ、ですね。今こそ、食い破って見せましょう」
 居合に構える『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)はちらりとはじめを見る。
「はじめ様、少しの間、抑えをお願いします。その間に、拙がやつに一太刀を」
 短く交わした言葉、先にはじめが動き、肉腫――政貞に肉薄して剣をぶつけ合う。
「さぁさぁ、拙と遊んでくださいませ。
 貴方と同じく、人型にして人に非ず。獄人でない。
 拙の刃を、まずは一太刀」
 雪之丞はその姿を確かめるや一瞬で居合を抜きはらう。
 振り抜き、放たれたるは不可視の斬撃。
 奈落の如き重く鋭い一撃が政貞の身体に傷を刻む。
 強かに打ち据えられた斬撃に、政貞の視線が雪之丞を見た。
 雄叫びを上げる黒き焔を放つ人型の怪物の剣が鬱陶しいと言わんばかりにはじめを切り裂いた。
 すずなは、弓兵めがけて走り出した。
「――弓兵、後退せよ、槍兵、敵を抑えよ!」
 敵の奥、号令を発した男が太刀を構えて向かってくる。
「やはり抑えに来ますか。ですが、私達の刃なら突き抜けられます。
 そうでしょう――小夜さん、エレンシアさん?」
 静かに構えたすずなはそのまま太刀を振るう。
 まるで嵐の如く凄絶なる刃を以って撃ち抜いて、流れるままに神速の一太刀を叩き込む。
「誰に言ってやがるすずな! そんなもん当たり前だろうがよ!」
 愛槍を握り、飛ぶように槍兵の前に立った『至剣ならざる至槍天』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は意識を集中させる。
 踏み込みと同時に叩きつけるはただの一刺し。
 神速の突きは体内電流を爆ぜさせて槍兵の鎧を打ち砕く。
 鎧に罅を起こしながら間合いを開けた槍兵が身体を押しこむようにしながら刺突を繰り出してきた。
 ほぼ同時に三度に渡って撃ち抜かれた刺突が、すずなの身体に微かな傷を刻む。
「友人に着いてきた訳だけれど、こんな練度の高そうな兵隊さん方とやり合えるなんて望外ね」
 敵の足捌きを感じ取りながら『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は言葉を零す。
 小夜の前に姿を晒したのは槍兵だった。
「刑部省が幸助、お相手仕る!」
「ふふふ、いつまで私を押し留めておけるかしら?」
 ふらりと敵の間合いに跳びこんだ小夜は和傘に仕込んだ刀を閃かせた。
 変幻なる刃は、幸助の動きを鈍らせ、一瞬のうちに甲冑の脇を刺すように撃ち抜いた。
 牡丹の花片を一枚一枚削ぎ落すような鋭く速い斬撃を受けて、幸助なる男が後退する。
「なにがなんでも通させてもらいます。僕たちの道はこの先にあるのですから。
 あなたがたにかまっているひまなどないのです」
 左の薬指に嵌められたペアリングを媒介として魔力を高める『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は、静かに式符に魔力を込めた。
 式符より変じた毒蛇が走り抜け、幸助に食らいついた。
 戦場に桜の歌が響き渡る。温かな歌声に後押しされるようにイレギュラーズ達の動きが最適化されていく。
「いやはや、頼りになる女性が多くいて心強いね。
 これはボクも頑張らなければいけないな……!」
 細剣を抜いて構えた青年は堂々と敵を見渡した。
「フェルディン・T・レオンハート――この場を、押し通らせて貰う!」
 堂々たる宣誓を為した青年――『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は細剣を構えて敵へと至近する。
 それに反応するように動いたのは太刀を構えた男だ。
「直吉という、不忠なる者どもよ――死して詫びよ」
 振り下ろされた剣と細剣がぶつかり合い、刃を打ち鳴らす。
 それに続けるように、敵のリーダー格が動く。
 そんなイレギュラーズめがけて、後方へと退いた弓兵達からの矢が撃ち込まれる。

「こちらが一点突破を狙うように、あちらも一人ずつ削り落とす気ですね……」
 黒子は敵の状況を見極めながら、味方の多くがいる場所へと近づくと、術式を展開する。
 自らを中心とする領域を包み込む術式に入り込んだイレギュラーズの疲労感が失せていく。
 それを確かめた黒子は術式を構築しなおすと、弓兵の方へと術式を放つ。
 望みを削ぎ。光と熱を「奪う」術式が弓兵と降り注ぐ。
 すずなはエレンシアと共に槍兵と相対していた。
 敵の壁役――それも精鋭ということもあって、1度で削り落とせはしなかった。
 けれども、正確無比、圧倒的な手数で突き進むすずなの剣舞と、エレンシアの真っすぐに穿ち貫く槍さばきは敵の鎧を確実に崩していきつつある。
「奮い立て! ここで功を立てれば刑部卿の覚えめでたかろう! 我らが主が何のために我らを今日まで鍛えてきたか思い出せ!」
 敵のリーダー格らしき男が号令をかける。
 それを受けた刑部兵達が雄叫びを上げた。
「舐めるわけではありませんが――あなたで止まるわけにはいきません」
 すずなは踏み込みと共に、再び剣を振りぬいた。
 鮮やかに、まるで白刃の風のように振り抜かれる刃は、嵐の質量を以って押し切るように槍兵を削り、大きく煽った。
「あぁ、アタシも今の槍に変えてそんな間もねぇが……それでもてめぇらに後れを取る気はねぇ!」
 エレンシアはやや後退すると、地面を蹴り飛ばすようにして跳びあがる。
 大きく煽られた槍兵、そのがら空きな胴部へと撃ち込まれるはまっすぐな一突き。
 ひどく重く、身体の芯を削るようなただの一刺しを受けた槍兵は、たった今リーダー格から与えられた指示を熟せるだけの集中力を失していた。
 そんな敵に向けて放たれた桜色の矢が、真っすぐに槍兵へと炸裂する。
 必中を期した矢に、敵の視線が2人の後ろに注がれた。
 小夜の動きがほんの一瞬ながら最速を超える。
 より速く、より鋭く、より複雑に、より正確に。
 変幻極まる斬撃の軌跡は読まれることなく、幸助の鎧、その薄いところを打ち据え、刻んでいく。
 連撃する刃の閃きが確実に敵の鎧を削り落とす。
 続くように睦月が術式を起こせば、幸助の足元に魔方陣が浮かび、幾つもの晶槍がその身体を貫いた。
 晶槍は刺しと同時に肉体の内側で炸裂し、男が断末魔にも似た悲鳴を上げる。
 そのまま無理矢理に晶槍から逃れ出た男がこちらの方を警戒する姿勢を見せる。
 フェルディンの前には太刀を構えた直吉なる敵兵、後ろには敵のリーダー格らしき男がいる。
 それらの攻撃は苛烈極まるものだった。
 その理由はいくつか考えられるが、一番は猛攻撃を加えるイレギュラーズに壁役の槍兵が削り切られないようにするためであろう。
 真正面から振るわれた剣に合わせるように、フェルディンは剣を振るう。
 白銀に輝く美しき籠手で握りしめた細剣が敵の太刀を受け流し、反撃の一閃を叩き込む。

「小夜様やすずな様、エレンシア様のような豪剣ではありません。
 ですが、崩れぬ。その一点に置いて、譲るわけには行きません。
 それが拙の矜持。立ち続けること。それが、拙の呪剣」
 月光に照らされる戦場にてただ影としか捉えられぬ純黒の双刀を静かに構えた雪之丞は一足飛びに至近すると、双刀を閃かせた。
「チィ――貴様、あの時もいたか!!」
 政貞の視線は怒りに満ちている一方でどこか冷徹にこちらを見下ろすようだった。
 十六夜を新月に改めるが如き深い黒の軌跡が極少の炎を持つ男へと吸い込まれていく。
 それは人の命を奪い、暗黒へと誘う災厄の刃。
 ユーリエははじめの方へと近づくと、大地へダークライトブラッドを突き刺した。
 そこを起点として広がるは朱の結界。
 ユーリエ自身の力を剣を介して大地へ浸透させて築き上げた結界がはじめに刻まれた炎と致命的な傷を癒していく。
 それを確かめながら、作成しておいたポーションをはじめへと手渡した。
 飲めばその人の傷を癒し、穏やかな心地を齎すそれを受け取ったはじめがグイッと飲み込んだ。
 お礼を言われた直後、走り出したはじめの斬撃が政貞の身体に傷を増やしていく。


 戦いは続いていた。超遠距離から矢を放つ弓兵に加えて、抑えにかかる槍兵、太刀兵の対処をせざるを得なかった。
 とはいえ、高い攻撃性能を有した者が多くを占めることもあり、敵を倒す速度は想定よりかなり早い。
 そんな中で、槍兵を1人落とし、カバーに入ってきた敵の大将首と、もう1人の槍兵、太刀兵を順調に削る中の事だ。
「侵入者発見! 行くぞ!」
 声――振り向けば、そこに新手が続々と姿を現していた。
 寝殿造りの建物から続々と現れた敵兵の数は5人。
「新手です! 皆様ご注意を!」
 黒子は仲間達に向けて声を上げた。
 雄叫びを上げた兵士達は政貞を抑える3人と政貞を引き剥がすような布陣を取った。
「我々の目的はなんだ? そうだ、一人でも多くの敵兵を捕らえることだ。
 行くぞ、貴様らついてこい。貴様らはそこの3人を抑えておけ」
 政貞はそう指示を下すと、3人だけ連れて一気に走り出した。
 一気に動き出した男が向かう先は、刑部兵と戦う仲間たちの後ろ――桜だ。
「桜さん!」
 ユーリエは思わず叫んだ。
 全身の枷を外し、バネを無理やりに使って、跳ぶように走り抜けた。
 邪魔をするような新手の刑部兵を振り切り、疾走する政貞を追い、そして抜いて。
 割り込むように桜の前へ。黒刃が振ってくる。
 その直後――闇が、目の前を覆いつくした。
「ユーリエさん!? なぜ……!」
「貴女はまだ、ここで捕まって散っていく花じゃない。多くの人々の笑顔のためにも……」
 痛む傷を押さえながら、ユーリエは桜を見て、ここから逃げるように声を上げようと口を動かす。
 しかし状況はそれを許さない。
 間合いを開けて後退しようとした桜の、その後ろに見える敵の姿――
「くははは、良い友情じゃないか、良かろう。諸共に捕らえてくれる」
 消えゆく意識の中で、はっきりとした声を聞いた。
 輝くパンドラの箱を開き、身体を起こす。
 その背中を、誰かに押され、視線が地面を向いた。
「――ッ!」
「……2人、上々か。俺はここで退かせてもらおう。
 刑部兵ども、卿のご命令を遂行せよ」
 政貞が新手の刑部兵を引き連れて退いていく。
「待ちなさい――ッ!!」
 すずなが、エレンシアが、小夜が――イレギュラーズが、それぞれ政貞を追いかけんとするその動きは新手と手負いの刑部兵達に阻まれて止まらない。
「そいつらさえ超えられねば、俺を殺すことなどできまいよ!」
 敵の哄笑が戦場に響いていた。そこからの動きは速かった。
「まずはそちらからです」
 黒子は術式へと自らの意志を詰め込んでいく。
 高まる力をそのままに、黒子は槍兵首めがけてそれを叩き込む。
 収束した意志は無形不可視の刃となって槍兵の開いた傷口に叩きつけられる。
「邪魔よ」
 小夜の剣はそれまでよりも遥かに素早く動いた。
 尋常ならざる緩急で打ち込まれた一撃が肉薄した槍兵を、惑わしながら正確に削り落としていく。
 最後の連撃が収束するころには、その男の身体は地面へと崩れ落ちていた。
 すずなは竜胆を静かに構え、同じように刀を構える敵に向かって跳びこむ。
 そのままの勢いで刀を振るい、放たれる嵐のごとき連撃。
 大きく体勢を崩したその瞬間、握り方を変えた。
 つい先ほどまでのが嵐のようであれば、今はつむじ風のようだった。
 鋭く、的確に放たれる連続した突きが、大将の命を削り落としていく。
 エレンシアはすずなに続くように体内電流を叩き起こし、魔力を込め、走らせた刺突を叩きつけた。
 それそのものが雷霆となったが如き速度と威力を伴い腹部を刺し貫く。
 鎧を焼ききり、腕を吹き飛ばした堂々たる一撃に敵が微かに声を上げる。
 はじめが剣圧を撃ち抜いて後退せんとした弓兵の身体を痺れさせた頃、雪之丞は進路をふさいできた太刀兵を相手に構えていた。
 振り抜かれる剣閃に、片手の闇を以って答え、踏み込みと同時に、もう片方を閃かせた。
 綺麗に入った一撃に、太刀兵が動きを止め、膝を落とす。


「……退くべきよ」
 その言葉を発したのははじめだ。どれくらい経ったか。追撃の結果は芳しくない。
 道案内をしていた桜が消えたことで、イレギュラーズはまるで土地勘のない敵の根拠を彷徨う形になっている。
 それ以前に精鋭兵達との戦いで手傷を負った者も多い。
 更に状況として悪いのは、自分たちの潜入に気づいた刑部兵の姿が増えてきたことだ。
「……足音の数が増えてるわ。このまま見つけられないと、確かに退路が無くなるわね」
 小夜も周囲の音を聞き取りながら言う。
 これ以上の追撃は気力十分の刑部兵の多くを追加で相手にすることになりかねなかった。
「退きましょう。我々まで捕らえられてはお二人を救うことも出来ません」
 黒子の言葉に頷く形で、イレギュラーズは静かに撤退を開始する。
「ですが……」
「……くそ」
 すずながまだ戸惑いを見せ、エレンシアが舌打ちするのとほぼ同時、進行方向に聞こえてきたのは、幾つもの甲冑が動く音。
 数は5か6か。どちらにせよ、手負いの現状で新たに相手するには無茶だ。
 襖が開かれる音を背に、イレギュラーズは一気に撤退していく。

成否

成功

MVP

鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉

状態異常

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)[不明]
優愛の吸血種
鬼桜 雪之丞(p3p002312)[重傷]
白秘夜叉

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
お見事な連携と作戦でした。

作戦に成功いたしましたが、桜さんの身代わりになろうとされたユーリエさん並びに桜さんが捕虜となってしまいました。

MVPは雪之丞さんへ。
黒田の抑え込みが当初から失敗していた場合、
被害はより過酷な物と化していたでしょう。

=====
捕虜:ユーリエ・シュトラール(p3p001160)

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