PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<傾月の京>エピゴウネの空

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月が綺麗だったことなんてない
 畳部屋に、ふたり。
 大柄な男と、和服をきた女。
 女は長くたれた髪をそのままに、首をほんのわずかに傾けた。
「元気に、していましたか」
「……はい」
「食事は、ちゃんととっていましたか」
「……はい」
「夜は、眠れていますか」
「……はい」
 まるで中身がないような問いかけに、男は低く、そして重くイエスとだけ答え続けた。
 会話の間にはいつも数秒の沈黙が挟まり、部屋には鈍重で静かな、しかし不自然なほどに清らかな空気が流れている。
 綺麗に正座をし、背筋を伸ばし、首にさげていたロザリオを握る。
 ひとつのチェーンに二つのロザリオ。よほど信心深いものでもここまで連ねはしないだろう。
 それを、まるで目の前の人物から隠すように。
 後ろめたい傷を見せてしまったかのように握っている。
「他には……なにも、聞かないのですね」
「はい。あなたが、話したいと思うまでは」
 まるでなにもなかったかのように。
 女は近所の子供にキャンディを配るかのような、やさしい笑みだけを浮かべている。
「カミラ……さん……」
「はい」
 男の頬に、なにかが流れたように見えた。
 夜のとばりが落ちた部屋の、それは影のさきに隠れて消える。
 なにか述べようと開いた口が、しかし沈黙だけをはきだしては閉じる。
 そして、かろうじて。
「今回の仕事は、やりとげてみせます。『水之江 霄』も、必ず取り戻して見せます。何があっても……」
 男はロザリオを握りしめたまま、自らの前に置かれた書類をとって立ち上がった。

 ――ちゃんと話がしたかった。
 ――これまであった全部を告白したかった。
 ――これまであった全部を話してほしかった。
 ――出来事も、気持ちも、『あの男』のことも。
 ――だが、それはきっと今じゃない。
 ――今はそんな資格、ないんだ。

 長くくねった道を歩き、グドルフ・ボイデル(p3p000694)は、書類を丸めて握りしめる。
「ハッ! あの肉野郎おれさまをコケにしやがって。今からぶちのめしてやるぜ!」

●これまでのあらすじ
 始まりはある村だった。
 『ロザリオ』が渡ったとされる村は狂気的な信仰心に侵され正常な機能を失い、調査に遣わされたグドルフたちは巨大な肉の怪物を発見。怪物の装着していたロザリオを回収し撤退することで調査および回収任務を達した。
 それから後、肉の怪物は都へと出現。『ロザリオ』とつぶやきながら依頼主であるカミラの隠れ家へ途中の家屋すら破壊するほどの直線ルートをとって侵攻していた。
 これを排除すべく派遣されたカミラ直轄の秘密妖討部隊『折紙衆』。そのうち直接戦闘に長けた『土』部隊7名が挑んだが全滅。
 直後肉の怪物は7体の眷属をしたがえてさらなる侵攻をはかった。
 急を要したカミラは『折紙衆』のうち『金』と『水』の二名に加えグドルフたちローレットを向かわせることで対応を試みたが、惜しくも敗北し『金』『水』両名が攫われるという事態に至った。
 グドルフはそれからしばらくの間攫われた彼らと怪物の足取りを調べていたが、ついに……。
「寄りによって都のど真ん中にいやがった」
 資料を叩きつけたグドルフは、カミラの名義で発行された依頼書と共に集まったイレギュラーズたちへと説明を始めていた。
「しかも今までと比べものにならねえほどヤバい呪詛が起動しようとしてやがる。
 放っておきゃあ都がドカンといくんだとよ。おれさまにゃあ知ったこっちゃねえが、そこに例の肉野郎がいるとわかりゃあ話は別だ。この前の借りを利子つけて返してやるぜ」

 豊穣郷カムイグラで蔓延した呪詛。誰が誰を呪い殺すかわからぬ疑心暗鬼はさらなる拡大と先鋭化を招き、どこで誰が何をしてもおかしくない混沌を生むに至った。
 その末とも言うべき今、都の中心である高天御所にて強大な呪詛の発動準備が進んでいることがけがれの巫女つづりによって感知された。
 これを阻止すべく多くの兵が動いているが、帝派閥と天香派閥に分かれ更に呪詛が蔓延した宮中は混乱の極みにあり、ローレットの力を頼らざるを得ない
 いまは力を合わせ、カムイグラ宮中への強襲をはかるのだ。

「俺たちが割り振られたルートはここだ」
 グドルフが示したのはある門から突入し、庭を抜けてある建物内へと更に突入。この場所を守っている複製型肉腫『マガツ霄』を倒すことが最終目的である。
 この場所を制圧することで他の軍勢を内側へ突入させることが可能となる……つまりは盛大な露払い。あるいは景気のいいノッキングドアである。
「こいつは『誰かが守ろうとした』国の未来がかかってる仕事だ。なんとしても……あ、いや」
 グドルフは咳払いし、かたわらに置いてあった一升瓶を浴びるように飲み干した。
「なんでもねえ! バケモンぶっとばして金を稼いで夜はバカスカ遊ぼうぜ!」

GMコメント

※このシナリオは『<傾月の京>爆薬だらけのドアノッカー』と連動しています。
 そのため二つの内どちらかのシナリオにしか参加することはできません。
 くれぐれもご注意ください。

■オーダー:『水龍の門』を制圧すること
 このシナリオは『庭突破』『マガツ霄』の2つのパートで構成されています……が、全体像を説明するためもう一方のシナリオの内容にもふれつつ解説することとします。
 当シナリオ参加チームを『山賊チーム』一緒に動く協力側チームを『刀鍛冶チーム』と仮称します。

・門強襲パート
 刀鍛冶チームによる強襲により、門を守る兵隊を倒して貰います。
 このとき皆さん山賊チームはマークなどの足止めを受けては後の作戦に致命的な乱れを生むため決して手出しはしないでください。
 門番をある程度倒した段階で山賊チームは庭側へと突入。
 門の外から集まってくる増援は刀鍛冶チームに任せて戦います。

・庭突破パート
 庭の中には『朧武者』という亡霊型のモンスターが配置されており、侵入者である皆さん山賊チームを排除しようとします。
 主な目的はこの連中を無理矢理突破して奥の屋敷へ突入することですが、このパートで倒しきらなかった朧武者の数だけ、門の外で戦う刀鍛冶チームへと朧武者が移動していくことになります。
 リスクと相談しつつ、ここで全部倒してしまうかできるだけ沢山倒すか、いっそ刀鍛冶チームに全部任せて最低限の消耗で突っ切っちゃうかを選んでください。
 山賊チーム内でプレイング方針が分かれた場合多数決扱いとし、あまりに分かれすぎた場合チームが分断され後のパートが非常に不利になります。
 できるだけ意見統一をはかるようにしましょう。

・マガツ霄パート
 以前イレギュラーズと協力して戦ってくれていた折紙衆水部隊長こと『水之江 霄』が肉腫に寄生されたことで生まれたモンスター『マガツ霄』との戦いです。
 屋内戦闘になるため、攻撃レンジには気をつけてください。
 基本的にレンジ0~1で戦うことになり、射撃攻撃は使いづらくなるでしょう。
 (一応窓から撃つなどして可能ではありますが、撃てるタイミングが限られたりする都合上命中値に相応のペナルティがかかります)

 借りに門を守っている刀鍛冶チームが敗北したり、門からの侵入を許してしまった場合はこのパートでの戦闘に『朧武者』が混ざってくることがあります。
 ちょっとくらいは漏れ出ることもありうるので、ちょっとくらい警戒しておくとよいでしょう。

■エネミーデータ
・朧武者
 鎧武者の亡霊兵です。
 刀や槍、または弓といった装備で戦います。
 数がとにかく多いですが個体ごとの戦闘力が低く、主に足止めが役割になっています。

・マガツ霄
 水と氷の鎧に包まれた霄。意識は肉腫に乗っ取られグドルフたちを抹殺しようと襲いかかってきます。
 『凍気無効』『精神無効』『怒り無効』『棘』をもちます。
 戦闘力は全体的に高く、強力な範囲攻撃や相手の防御を崩す戦い方を得意としています。

※霄の救出方法
 霄を肉腫の寄生状態から生きたまま助け出すには、【不殺】攻撃で倒す必要があります。
 HPの損耗具合は氷の鎧の破壊具合からなんとなく察することができるため、今回は『トドメには〇〇を使用』というプレイングを書くことで不殺攻撃で倒す選択をとることができます。ただしその段階まで不殺攻撃を持っている味方が戦闘可能状態でないといけないので、できるだけ手札は多めにもっておきましょう。(おそらく戦闘不能者ゼロってわけにはいきません)

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>エピゴウネの空完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月03日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
フランシス=フォーチュン(p3p005019)
知識の迷い子
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

リプレイ

●石を投げるなら、その手こそが意味を持つ
 プルタブに指をひっかけ、瓶のカップを開く。
 透明な水面に満月が映り込み、『酔いどれた青い花』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はそれをすうように一口ふくんだ。
 口の中いっぱいに広がる米の風味とコクが、喉を抜ける不思議な熱になって下りていく。
 ワンカップねこ関というお手軽な日本酒である。
「こいつは美味い」
 『勝利を願って』と乾杯の仕草をするヤツェク。
 とめたバイクによりかかっていた『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)も、鞄から取り出したスキットルを同じようにかざしてからあおった。
「国一つを救う突破口を開く。熱いじゃないか。『誰かが守ろうとした国の未来を守る』とは、悪くない。
 バケモノ倒して囚われの『王子様』を助けて、皆で酒をかっくらう。さらに悪くない」
「同感だ。それに敵は大量の亡霊か。ふふ、ならば戦力差はひっくり返さないと面白味がないな」
 二人からそれぞれ『どうだ?』と突き出され、『知識の迷い子』フランシス=フォーチュン(p3p005019)は両手をかざして双方に遠慮するジェスチャーをした。
「こんな僕でもお手伝いできるのであれば、充分です……」
 抱えた本はこれまでの情報をまとめたファイルのようだ。
「今回の仕事をし損じると、国が闇に覆われると聞きました。本当なのでしょうか」
「世界ってのは案外、あちこちの連中がちょっとずつしくじったことで滅びるもんだ」
「ある意味、この世界だって少なくとも一度はそんな風に滅んでるんだろうからな」
 カムイグラの歴史や、勇者王の伝説や、砂の都のザントマン伝説……どれも栄光と悲劇の物語に思える。星を一瞬で砕くスイッチや、それを壊すだけで得られる永劫の平和などない。
 いつも、平和というやつは小さな積み重ねで得られるらしい。

 ククリナイフに研石をすっては、フッと息を吹きかける。
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)のそのごつごつした容姿とは裏腹に、まるで精密な彫刻でもこしらえているかのような手つきであった。
 誰しもこんな時、深い考え事をしてしまうものだ。
(前回は同行出来なかったが……いやはや全く、俺がいない間に厄介なことになったねえ
山賊の野郎は……。まあ、先ずはこの仕事を終わらせてからだ。終わったら覚悟しとけよ、なあ?)
 チラリとみれば、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が斧を両手でしっかりと持ち、その手触りを繊細そうに確かめている。
 武器なんて振って斬れればなんでもいいといった風に、いつも粗野で乱暴なふるまいをするグドルフが、今だけは教会にたつ牧師のように背筋を伸ばしていた。
(あの人の前に姿を見せる資格も。
 あの人を先生と呼ぶ資格もない。
 美しい死者のまま、あの人の古き善き思い出のままでいたい願っていたのに。
 神の悪戯か。
 故郷から離れたこの遠い地で、私達は再び出会ってしまった)
 『あの人』は、今の自分の姿をみて何も言わなかった。
 『あの人』は、今の自分の名を聞い何も尋ねなかった。
 きっとあの人にとってもう取り戻せない想い出を、自分はどうしてしまったのだろうか。
 青肌のブルー、あいつなら分かるのだろうか。
 何もかもが壊れ、歪みきってしまった今が、あの日からみてどう写ったのかを……。
「おいこら山賊おい」
 ナイフの柄の部分で肩を小突いてくるキドー。
「ンだよ盗賊てめえ骨折れただろうが100Gよこせ」
「うるっせ」
 キドーとグドルフは顔をくしゃっと歪めて悪態をつきあってから、口の片端で笑った。
「あの、霄とか言う奴。今度は絶対に連れて帰ろうな。肉腫だか何だか知らねえが、俺は手に入れると決めたものは必ず手に入れるんだ。今回はアイツだ。ゴブリンってのは強欲なんでね」
「だなあ。俺ももらえるモンはクソでももらう主義だ。ガンガン暴れまくってやろうぜえ、おめえら。終わったら京で朝までハシゴすんぞ」
「誰一人欠けずに終わらせて、パーッとやろうぜ! 山賊の奢りでな!」

 バカスカ遊ぶゼェ! といって斧を振り回す山賊たちを、『never miss you』ゼファー(p3p007625)と『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はやや遠巻きに眺めていた。
「バカスカ遊ぶねぇ……何するのかしら」
「お酒飲んでぇ、ロバに賭けてぇ、またお酒飲むわねぇ。朝にはあの人、大体全裸になってるわぁ」
 アーリアはワンカップ酒をちびちびやりながら遠くを見た。
「なんでそんなマネするのよ」
「さぁ……けど、『明日が怖い』ひとはいつも、夜をいつまでも長引かせようとするものよ」
 アーリアもまた、その一人なのだろうか。
 ある哲学者は、昨日と明日は同じものだという。過ちが追いかけてくることを恐れる者は、それがやってくるであろう明日を恐れるのだ。
 ある意味で、ゼファーと逆の生き方かもしれなかった。
「やだやだ。強がりが透けて見えてんのよ、オッサン」
「まぁ『色々』あるみたいだけど、イイ女は過去を知りたがるもんじゃないわ」
 でしょう? と肩を小突いてくるアーリア。
 ゼファーは肩をすくめることでそれに答えた。
「終わったら朝までお酒飲みまくりましょ?」
「わたし、未成年」
「あら。忘れるのよねぇ、いつも」
 じゃああなたも一緒にどう? と話をふられて、馬車を木につないでいた『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が振り返った。
「未成年だ、我も。さてはわざと聞いたな?」
 処理を終えて、手を払う。
「宴会はともかく……今回の仕事は完遂させてもらう。
 我がこの場に居る理由はただ一つ。
 姉が、最後まで見届けたいと……そう言っていたからじゃ」
 『姉』の言葉を聞いて、なにも思わぬことはできない。
 あの頃は、そう、確かに、当たり前にそばにいるものだと思ってたけれど……。
 『そうでない』ことを、皆本当は知っていた。グドルフの生い立ちこそが、その証明だと言えよう。
 酒を飲み干して、瓶を馬車の淵にトスンと置く。
「さ、行きましょ。動かなくっちゃ、始まらないわぁ」
 放っておけば、コトはなるようになるだろう。
 だが望む未来があるのなら、選ばねばならない。そして選択にはいつも……。

●石をぶつけられたなら、その傷だけが意味を持つ
 らいになるが、この作戦は『刀鍛冶チーム』の八名と合同で行われることになっている。
「良い鍛冶屋は戦闘の合間に少しでも戦況を有利になる仕掛けをするもんだ、ってな」
 ビッと二本指を立てた『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の合図と共に魔改造馬車が走り出し、バイクにまたがった『夜に這う』バルガル・ミフィスト(p3p007978)や『流離人』ラムダ・アイリス(p3p008609)たちが朧武者の守る門へと突撃。
「今日のガトリングは気合がはいりまくりだぜー! くらえくらえー!」
 そこへ『ガトリングだぜ!』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)たちの一斉攻撃が仕掛けられた。
「泥に沈め、人でなし」
 猛スピードで門へと突っ込む馬車には、その幌部分に『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)や『旋律を集めて』ペルレ=ガリュー(p3p007180)がしがみつき途中で離脱。
 門に激突すると同時に爆発した馬車の衝撃に乗じる形で彼らは門番達へと組み付いた。
 ギリギリ開く門。
 内側の朧武者たちがざわつきこちらに武器を構えるが、わざと大声をあげて門を蹴破る『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)や周囲の門番へ鬼の力をばらまく『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)に気を取られて中央の守りを固め始める。
 見るからに堂々とした正面突破――だが。
「背中(門)は任せた。俺たちも背中を守る」
「かっかっか、任せたぞ子鬼よ」
 門番や味方たちを助走をつけたジャンプで飛び越えるキドー。
 彼に続く形で門から一斉に突入していった。
 予想外の戦力の発生に、門内中庭の朧武者たちは中央の守りを一旦やめて迎撃を開始。
 無数に放たれた弓をキドーはナイフですぱすぱと切り落とし、急速に接近。首の間にナイフを通すと、浅く撫でるように切り裂いていった。
「山賊ゥ!」
「おう、どいてろてめぇら!」
 グドルフは斧を野球のバットよろしくスイングすると手を離し、回転して飛んでいった斧が朧武者へぶつかり、ついでに爆発を起こして周囲もろとも吹き飛んでいった。
(──私は、あの人の力になりたい。
 紛い物の名と身を纏って尚。それだけは、今も昔も変わらない)
 グドルフが目に浮かべた光に、気づいただろうか。
 リアナルは彼らを範囲内に収めるかたちでクェーサーアナライズを発動。
 技の消耗を抑えつつ、扇子をひらりとかざした。
「さぁ、山賊が気になるという『ヒト』を助けに行こうか」
「言い方ァ!」
 リアナルはからからと笑い、扇子を大きく振って熱砂の魔術を引き起こした。
 槍を構え突撃してくる朧武者が吹き上がり、転落と同時に砕け散っていく。
 どうやら呪術によって作られたモンスターであるらしく、砕けると小さな瓦の破片と一匹の小虫にかわった。
「朧武者どもの動きが徐々に変化を始める頃だ。こっちは『作戦通り』でいいんだな?」
 リアナルが確認するように仲間達をみやると、その恩恵をかなり強めに受けていたアーリアがこっくりと頷いた。
「庭の朧武者たちは、門の外には通さないわぁ。一人残らず倒していくわよぉ」
 アーリアは手袋の薬指で下唇をすうっとなぞると、妖艶な魔術を行使した。
 『パラリジ・ブランの雨』というこの魔術は、ブランデーの小瓶を投げつけることで酒が琥珀色の雷撃になりあたり一面に荒れ狂うというものである。
 酒と魔術は古来から密接に繋がっていたとされ、火炎瓶とて歴史をたどっていけば魔術のひとつである。
「わかりました。僕なりに、頑張ってみます……!」
 フランシスも協力する形で、彼らは門を塞ぐように平たい陣形をとった。
 庭の朧武者たちもまた刀、槍、弓の三層構造の陣形をとって攻撃をフランシスへ集中させようとしてくる。
 そうはいかないとばかりに開いた分厚い本の一節をなぞりなが詠唱。本の文字が輝き強力な治癒の魔術へと昇華していく。
 そんな彼を庇うように割り込み、槍をぐるぐると回して矢をうちおとすゼファー。
 刀を構えて次々に突っ込んでくる朧武者の攻撃を槍の柄や手刀によって次々といなすと、槍を激しく振り回すことで朧武者たちをなぎ倒した。
「いあ こんもすか くつるふ ふたぐん」
 倒れた朧武者たちに歌をつむぎはじめるクレマァダ。
 それを察したゼファーはわざと『ここを狙ってね』と自分の左胸を指さしてウィンクした。
 フンと顎を上げ、クレマァダは歌をむすぶ。
 と、どこからともなく湧き上がった幻影が朧武者たちを包み込みねじ切って破壊していく。
 ゼファーはピンポイントで狙われたにもかかわらずそれを器用に回避。
 フランシスの投げたサイリウムめいた青白い蛍光ポーションスティックをキャッチすると、手の中でパキンと割って治癒の光を身体に浴びた。
「ほーう。フツー『味方を巻き込むな』とかいうもんだと思ったが、こう極端だとそんなマネもできるか」
 そいつぁいい、と懐から黄金の銃を抜くヤツェク。
 見た目は古くさいリボルバー拳銃だが、弾倉部分には未知のドラム型エネルギータンクが備わっていた。
 引き金をひくやいなや、輪っか状のエネルギー光を伴った音波攻撃が発射。朧武者たちを振動によって破壊していく。
 もちろんこれも、ゼファーがみっちり引きつけた上でゼファーだけが器用に避けるという連携によるものである。
 クルクルと銃を回してウェスタンハットのつばをあげるヤツェク。クレマァダも周りを確認し、こくりと頷いた。
「庭の連中は片付いたな」
「行くぞ山賊。遅れるでないぞ!!」

●嫌われたくなかった
 開きっぱなしの戸口へと土足であがりこみ、通路に現れた朧武者に拳を構えるクレマァダ。
 突き込む槍を上半身のひねりだけでかわすと、素早く小さな突きを打ち返した。と同時に大波の魔術が完成し、朧武者は追って飛び出した仲間もろとも派手に押し流されていく。
「余人が差出るにはおこがましい場面というものもあるのじゃ。
 のう、お化け共……こ、こわくなどないぞ」
 ゼファーはふすまを蹴りつけて畳部屋へと踏み込み、ふすまに押し倒された形になった朧武者を槍を突き立てることで消滅させた。
「さてと、お出ましみたいね」
 槍を抜くゼファー。部屋の中央には氷の鎖でぐるぐるに拘束された霄の姿があった……が……。
「グ、ガ……!」
 青白く輝く目を見開き、鎖を引きちぎりながら立ち上がる。彼の口や耳からどろどろと湧き出した粘液状の物体が氷の鎧となり、霄を包み込んでいく。
 彼の姿はすぐに四足歩行の獅子めいた格好となり、獣の咆哮と共にゼファーへと食らいついてきた。
 槍をかざして防御――した筈が、ゼファーの身体が一瞬で冷却され槍を前足で弾き堕とされる。胴体に食らいついたマガツ霄はゼファーを振り回し、豪快に放り投げた。
 ふすまを突き破りより広い部屋へと転がるゼファー。
「まあ最悪に苦手な野郎だわ
 ……でもねえ。負けられない、って気持ちは譲れないのよ。
 クソ真っ直ぐな兄ちゃんなら、分かるでしょう?
 此処で諦めたら、本当に何もかにも終わり! 台無しだってね!」
 素早く追撃を仕掛けてくるマガツ霄に身構える。
 が、キドーがそれよりも早く飛びかかりマガツ霄の背へとしがみついた。
 ナイフを鎧に突き立て、氷を砕くように少しずつ破壊していく。
「絶対に逃がしゃしねえぜ! テメェも一緒にあの親方様とやらの所に帰るんだからな!」
 それによってバランスを崩したマガツ霄は畳の上に転倒し、クレマァダとグドルフ、そしてゼファーがしがみついて取り押さえた。
「いつまで殻こもってんだ? 手ェ伸ばせよ、狂犬野郎!」
「ガ、ガ……!」
 全身から大量の氷の槍を突き出してくるマガツ霄。
 グドルフたちは槍に貫かれ、更に槍の爆発によって派手に吹き飛ばされていく。
「狭い場所でよくもまあ派手に振り回すものだな」
 リアナルは扇子を畳んで握り込むと、マガツ霄へ急接近しその顔面にあたる部位をぶん殴った。
 こもった呪術が炸裂し、氷の鎧が一部剥げ落ちる。
 四足の獅子状態から二足歩行状態へと変化したマガツ霄は、氷の鎖を無数に作り出して振り回す。
 部屋中を荒れ狂う鎖に防御するリアナル。それを庇うようにして『天使の歌』を連続発動させるフランシス。
「長くは持ちません。急いでください!」
「もちろんそのつもりだ。しっかしなあ……」
 射撃戦にはむかない屋内。ヤツェクは黄金銃で狙いをつけようとして、チイッと舌打ちをした。
 意を決して掛けより、襲いかかる鎖を腕に巻き付けながら急接近。相手の胸に銃を突きつけると――。
「お目覚めの時間だ、王子様!」
 至近距離からエネルギー弾を連射した。
「ナイス、ヤツェクさん。あとで良い店おしえてね」
 アーリアはどこからともなくブランデーのボトルを二本取り出すと、マガツ霄めがけて放り投げた。
 空中で炸裂し、部屋中に琥珀色の雷撃を暴れさせるアーリア。
 ひび割れた鎧を見て、キドーはギラリと目を光らせた。
「今だ、畳みかけろァッ!」
 助走をつけてのゴブリンドロップキック。
 大砲でもくらったのかという衝撃で庭へ放り出されたマガツ霄。更にゼファーとクレマァダが助走をつけて跳躍し、宙返りをかけて跳び蹴り姿勢を取った。
「さて、いい加減に目を覚ましなさいな。
 腑抜けた野郎のツラなんて、悲しくって情けなくって見てらんないんですから!
 だから。ちょっとは気風良く笑って見せなさいな?」
 空に生まれた荒波が二人を押し、咄嗟にたちあがり氷の槍で迎撃しようとしたマガツ霄を槍ごと粉砕して蹴り飛ばした。
「さっさと行け、山賊!」
「目覚めのキッスの時間よ、オッサン」
「うるせぇ!」
 グドルフは悪態をつきながら、しかし笑っていた。
 鎧が砕け、顔を見せ始めた霄と目が合った。
 途端、おもむろに顔面を拳で殴る。
 殴り倒して、マウントをとった。
「殺せ、山賊。こんな失態……親方様に、顔を見せられない」
「ハッハァ! おれさまがテメェの言うことなんざ聞くかよ!」
(何があっても取り返す。そう決めた)
 がしりと頭を鎧にてをかけ、無理矢理ひっぺがしていく。
「やめろ。親方様は俺の帰還や無事を望んでくださるかもしれない。けど――」
「今更泣き言かぁ? べそかいて嫌がるのが楽しみだなァ!」
(あのひとがなんと言ったって同じことだ。関係ない)
 泣き出しそうな霄の顔面を掴み、最後の鎧に手をかけた。
「俺は、あの人にだけは……嫌われたく……」
「知るかよ」
(同じ女(ひと)を敬愛した者同士。お前を助ける理由はそれで充分だ)
 砕けた氷の鎧が空に散り、キラキラとした結晶になって降り注ぐ。

成否

成功

MVP

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

状態異常

なし

あとがき

 ――マガツ霄を撃破しました
 ――霄の救出に成功しました
 ――今夜は宴会が開かれるそうです

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