PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<傾月の京>夜に紛れて、星と消えた

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

● 
 あの一等美しい星は月の光に紛れて見えなくなった。
 高天御所に在る門が一つ、恋ヶ樹門は晴になると美しい桜が咲き誇る。
 季節が巡る度にそのことを思い出す。紅葉の季節になれば、錦の彩に濡れる景色に遠き春に焦がれる。桃白の花びらの下、白檀のかほりを身に纏った貴女がそこに立っていると、そう思えるからだ。
 そうして、一つの恋を終えた頃、私はかの方に出会った。
 それはまだ、秋にもなれぬ月の頃、魔的な光が降り注ぐ。その病的な光に魅入られた。
 美しい、あの方のようには決して届かぬその美貌。鈴鳴るような朗らかな声音に色香が混じり合う。悍ましくも背筋を伝う気配に甘美なる誉を合わせた女を形作ったその聲。屹度、美しい人なのだろうと憧れていた。憧憬は一等輝く星のよう――決して叶わぬ恋に似ていた。

 巫女姫様。

 恋をしている貴女に、恋をした。
 貴女の望みのためならば、私は――


 高天京、その内部に存在する御所にて『大呪』が行われることが『けがれの巫女』つづりの言により判明した。禍々しい魔の気配を発する大いなる禍の尾を掴むことが出来たのは彼女の特異的な能力に過ぎないのだろう。
 然し、魔の蔓延る御所は今や巫女姫と天香・長胤に支配されており敵対する派閥の拠点となっている。
「『呪詛』について調べたけん。それがコレに繋がるとは思っとらんよ」
 肩を竦める鐵 祈乃(p3p008762)に「俺も」と返したのは情報屋である『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)であった。
 高天御所で行われる大呪が与える影響は計り知れず、其れを感化することも出来ぬ実情に、本拠に『乗り込む』事を決めた特異運命座標たち。其れがどれ程に危険であるかを知らぬ訳ではない――此れまでの呪詛の影響で多数の命が失われ脅かされるとなれば其れよりも更に強力なまじないを放置は出来ないだろう。
「此岸ノ辺って所があるんだけど。俺達からすれば『混沌大陸』からのワープポイント、でさ」
「あたし達からすれば『けがれの地』で『けがれの巫女』の居る場所やけんね」
 そう、と雪風は頷いた.その場所に巫女姫の命を受け、更なる特異運命座標の妨害を防ぐべく攻撃が仕掛けられるのだそうだ。
「襲いかかってくるのは複製肉腫ばっかり。親玉の純正肉腫は『見てるだけ』だからそれ程危険性は無いはず……けど、さ。此処を喪うと一時的にワープが制限されるから……まあ、大規模に攻め入れられると危険だよなあ」
 呟く雪風に祈乃も頷いた。見過ごすことが出来ないのは実情だ。
 至急、向かって欲しいとそう言った雪風が天蓋仰げば――今日は、満月であったか。

●星屑の手記
 丸い、丸い月がある。あの方の為だと思えば私の心も躍った。
 先ずは沢山の兵隊を作り上げた。
 所詮は雑兵。屑の中の屑。それを此岸ノ辺へと派遣した。
 私は貴女のお傍には居ることは叶わぬでしょうけれど……。
 凪ぐ風に白檀のかほりが混ざり込んだ。天蓋に飾られた丸く鮮やかな月の彩。黄金に焦がれた皓々と輝くそれは彼女のように美しい。
 雑兵共が成果を上げるかどうかは定かでない。
 けれど、私は見ていようと思う。
 何の、手出しもせずに、この月を少しでも楽しむ為の僅かな時間が欲しいから。

GMコメント

 日下部あやめです。

●成功条件
 複製肉腫を退ける

●此岸ノ辺
 特異運命座標のワープポイントにして『けがれの巫女』つづりが護る地です。
 空中庭園から神威神楽へとワープすることが出来る場所ですが、それを『知っている』相手が狙いを定めてきたようです。
 その周辺。戦場となるのは此岸ノ辺より僅かに距離のある場所です。木々が多く、視界は余り良くありません。然し、美しい満月が明るく照らしてくれているようです。

●複製肉腫*12
 鬼人種達。感染したようです。その力はそれ程強くありませんが如何せん数が多いです。
 皆、トータルファイター。数人回復や支援に特化した者も居るようです。
 七扇の宮中に出仕している鬼人種のようですが……。

●純正肉腫『星屑(?)』※見ているだけです。
 自称星屑。巫女姫に心酔しており、彼女のためにと力を振るうようです。
 美しい物が好き。月見をしたいが故に、自信は戦場に出ず複製肉腫による攻撃を展開しています。

●備考
 当シナリオでは依頼の成否、もしくは此岸ノ辺へのダメージによって、此岸ノ辺に様々な影響が出る場合があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 思惑は余所に、純粋に倒すだけ。
 どうぞ、宜しくお願い致します。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>夜に紛れて、星と消えた完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月03日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
鐵 祈乃(p3p008762)
穢奈
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

リプレイ


 あの一等星は、今は誰ぞの隣で輝いているのだろうか――

 此岸ノ辺へと突如として強襲を掛けた軍勢はこの地を利用する特異運命座標の国内流入を遮るが為に剣を振るうのだと言う。草木の間合いより覗く月光は冴え冴えと中秋の地を照らしている。
「此岸ノ辺がワープポイントとして機能していることを知って仕掛けているということはー。
 ……この大呪が成就したあとにも、何かしらの出来事が起こるのかしらー。でも、あまり愉快な想像はできませんわねー」
 色づく唇を尖らせて『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は揺らぐ無数の影をその双眸へと映す。鮮やかな紅玉がついと細められ、迫り来る無数の影を真っ直ぐに見据える。
「複製肉腫」と。叡智なるアメジストでしかと見据える『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)。其れ等が伝染し広がり、その心身を蝕む疫病が如き存在であることを識る『あなたの虜』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)の形良い唇が「恐ろしい」と戦慄いた。彼女は、そしてこの場のイレギュラーズは肉腫になることはない。可能性(パンドラ)は滅びをも退け、その身を蝕むことを許さない。けれど――眼前には可能性をも持たぬ無辜の民。その身を蝕まれ、自我をも失い妄執が如く迫り来る一兵に過ぎない。
「……一刻も早く、苦しみから救い出したい」
「ええ。彼等は皆、鬼人種……。精霊種が混じっていない辺り、無差別に複製(つく)り出している訳ではない。
 支配層が八百万で有る以上、当たり前なのでしょうが――なればこそ、彼等は好き好んで肉腫になどなったわけがない」
 冬佳の言葉に頷いた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はその身に掲げし聖十字に祈り捧ぐ――彼等を救い給えと、そして地を踏み戦でその剣を振るうことを許し給えと言う様に。
「感染か……手遅れではないと信じたい」
「はい! 望んでいないのならば、私達は彼等を救いたい。その為なら、私はいくらでも傷つきましょう」
 約束のシルバーリングを指先飾り『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は凜とそう言った。梟の眸は鋭く夜を見通す智慧――白雪の翼を広げ月光の下、小さな少女は駆けた。
 皓々と嘲笑う月光を受けながら『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は深き茂みへ視線を投げかける。揺らぐカンテラの光が月光を受け薄ら寒く辺りを照らした。
「『見ているだけ』の敵とは……今宵の見事な月も、戦況も。『相手』は何処で見ているのでしょうか――」
「さあ? ああ、けれど。月見とは羨ましいですね。
 月を見るには良い夜なのかもしれませんが、そんな暇はなさそうですね。難儀なことです」
 肩を竦める『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)が仰ぎ見た満月は魔的な程にその存在を誇張する。
「よか月夜ばい。こげな日に襲撃とかこすかね。あたしも月見ばしたかばい。複製肉腫ちいうのがひぃ、ふぅ、みぃ……多かね」
 指折り数えてから、その拳に力込めた『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)は唐紅の眸で自身と同じ種たる者達を眺める。
「ええ。とても多い。……戦わねばなりませんね。けれど、こんな美しい夜なんですもの。戦うのもさぞ絵になるのでしょうね?」
 くすりと笑みを浮かべた四音はざ、ざ、と土踏む音を聞いて目を細める。弧を描いた唇は「往きましょう」と音を孕んだ。


 固い地を蹴り翼を広げる。その手に握るは胡蝶の夢、夢まぼろしを握る白磁の指先に力を込めて、明かり灯る月光で鮮やかに周囲を照らす。ノースポールは自在に空を駆けて声を張る。
「ここから先には行かせませんっ、私達が相手です!」
 肺の奥底から吐き出した苛立ちが如く――月明りよりも尚、人工的に光を帯びて照らす指先の光を追いかけて、銘無き剣を振るったルーキスは堂々たる名乗りを上げる。
「この先には行かせません。進むというのなら……この刀を以て全力で止めさせて貰います」
 この先、巫女の座す此岸ノ辺へと害を与えられてなるものか。その双眸に映るは狂気に駆られた無数の瞳。悍ましくも心が逸る、まるで魔的な月に魅入られたが如く土を踏み締め進み来る。
「行こう」と声を張り上げて。星屑が如き守護宝石を煌めかせたリゲルの銀の剣が炎を纏う。
 地へと浮かび上がる円陣へと轟くが如き火玉が地へと落ちてゆく。青年の背後からその拳に力を込めて飛び込んだ祈乃の着物の裾がひらりとはためいた。
「こんな月夜に憑きも見んと襲撃なんて勿体なかよ」
 囁く声音は静かに響く。怪物が如き破壊力――然して、その拳は決して他社の命を奪わぬ様に。柘榴の瞳が薄らと細められる。月光が下で揺れた白銀の髪を追いかける様に、庇い手なる男の前へと滑り出したアイラの指先から蝶々が躍る。
 燐葉色の蝶が纏う鱗粉がちらりと落ちてアイラのその身を護る。まるで、愛しい瑠璃の守護が如く、翅の加護より、落ちるは甘いかほり――桃源郷。さいわいなる夢に溺れ、束の間の夢まぼろしに誘うが如きその蝶々を追いかけて、清冽なる穢れ無き水が銀の円環へと纏わり付いた。
 アメジストの瞳を細めた冬佳は囁くように銀の指輪より魔力を放つ。不浄を洗い流すは華水月。水天の巫女は鬼人種をちらりと見ては息を吐く。
「……純正肉腫とは完全に繋がっている、いいえ、それぞれがそれぞれの思惑で動いていたとしても、巫女姫側には八百万優遇思想を是とする純正(オリジン)が居るという事ですか」
 なればこそ、本来は奴隷階級なる鬼達ばかりの複製には理解が出来る。純正肉腫のその存在を警戒する様に視線揺らがす冬佳の傍らで堂々と氷水晶の戦旗を振るう。ユゥリアリアの唇が訥々とキャロルを零す。連なる旋律は未来きり拓くための祝い歌。
 ――歩を進めるものたちに幸あれ。 進みゆくその先で、きっと何かを掴み取れることを。
 唇奏でる旧き詩歌。号令に背を押され、前線進む仲間たちの背を眺めて四音はころりと鈴鳴らす声で笑み零す。
「この木々はお互いに盾となりそうですね。か弱い私は身を隠しながら様子を見ましょう、そうしましょう。ふふふ」
 赤い瞳が細められる。カンテラをゆらりと揺らがせて、木々のまにまより、四音の神聖なる光は邪悪を裁くが如く周囲へと広がってゆく。
「さて、相手は何処に居るのでしょうか? 手早く見つかれば皆さんの手助けにもなると思うのですが……」
 この何処かに、これらの主たる『純正』が存在しているという。美しい月を一人、見、叶わぬ恋に想いを馳せる異邦――それが何処にいるものか、探す様に視線を揺らがせてくすりくすりと四音は笑う。
「さて、どこに居るのでしょうね――?」
 囁く冬佳の声へと答える者はなく。さざめく草木の擦れる音と共に鬼たちの声が響き渡った。


 月に叢雲、美しく舞い踊るは鮮やかなる蝶々。命奪わぬがためにと指先手繰るは光あれと願う影照らす魔力の祝福。その知性は乙女が瑠璃と共に導き拓く未来(さき)を照らし、踊り続ける。
「こんなにも美しい月夜なのですから、どうか、お相手を。一緒に踊ってくれませんか?」
 唇に乗せた響きが凛と術式を唱えて力へと昇華する。
 刃弾く音を立てながら、地を踏み締めてリゲルはその腕に力を込める。華やかで魅せる戦いに命のやり取りなど必要はあるまいと青年がその身を張り戦う背後でカンテラ揺らし四音の視線は虚ろに揺らぐ。
「皆さんを癒し守るのが私の使命。必ず果たしてみせます。……とは言え、必要なら攻め手にだって回りましょう。
 ええ、ご安心ください。この技は不殺ですので……とても痛いかもしれませんけど? ふふふふ」
 甘く囁く毒の声音に耳澄ませ幻惑が如く短刀振るうのは小さな獣――ノースポールの白雪の翼はばさりと広がり困難退ける華をその胸へと咲かせて続ける。
「私は逃げも隠れもいたしません! あなた達を助けに来たのですから……!」
 とても痛いかもしれないと、四音が溢した言葉を反芻してからノースポールは其れでも救える命を求めると手を伸ばす。背の翼が荒らしを発生させる。ふわりと柔らかなそれに纏わり付いた白嵐は渦として複製肉腫を包み込む。
 指先一つ、つい、と揺れ動かして不意を留める様にノースポールは踊る様に一歩後退する。絢爛華やかなる闘いに密やかに隠した最後から二番目の秘策――唇揺れ動くとともにユゥリアリアは冷やかなる絶望を謳う。その色彩や昏き海、歌姫が唇抱くは一つの恋物語。
 恋情に支配された月夜を憂う様に目を細めては複製肉腫の意識を奪う。音立て進むアミザラットの懐中時計の針を追いかけて、我先にと進むが如く舞い散るのは無数の氷刃。
 冬佳の放つは不浄を祓い刻む一挙手一投足。宛ら舞い散る白鷺の羽が如く陣を目掛けて降り注ぐその羽の下、僅かに後退した後、ルーキスは静かに笑った。
 無銘、名も識れぬ業物へその信念込めて武芸を魅せる。踏み締めて、放つは慈悲たる一撃。その命を救うがために医療知識を生かしての攻撃重ね静かに息を吐く。
 得たいのは星屑の居所、人相、能力――そのすべてのパースを合わせて、魔の月光を遮るが戦い続ける。
「星屑――」
 唇にその音乗せてからルーキスは鬼人種達の命を救うがために一人も逃さぬ様に『治療』の手を差し伸べた。
「純正肉腫ちどげんしてなると? 生まれてからずっと肉腫なん?」
 ぱちり、と大きな紅の瞳を瞬かせる祈乃に冬佳は緩やかに頷いた。純正肉腫は精霊種と根源は同じであろうとそう認識されている。破滅のアークが生み出した新たな命――可能性の蓄積がそれらを『見える様に』したのと同様に。
「なら、元があたしらと同じ人なんは、目の前の鬼たちなん? なしてそういう風に変わったと?」
「それが『感染』……なのでしょうか」
 不安げに、アイラはそう呟いた。命を奪わずその意識を刈取る事で平常に戻せることを願う様にと攻撃を重ね続ける。
「あたしは肉腫の、星屑の気持ちば知りたかと。好いとる人がおるん?
 それはあたしはもう伝えることができんばってん、伝えられるなら伝えてほしかよ。
 振り向いてもらえんかもしれんばってん、後悔はせんようにね?」
 ん、と唇を尖らせて。祈乃が告げた言葉を月が冴え冴えと見下ろした。

 恋をしている――そう、複製肉腫は諳んじた。まるで純正がそう告げて作り上げた様に。
 恋をしている――だからこそ、と彼らはその身に夥しい呪いを移し変えられた。
 恋する乙女は盲目だ。なればこそ、『この月夜』を彼女は見ているのか。

 利用したのだと、そう思えばアイラは唇を噛み締める。ノースポールは命が脅かされる状況を許してはならないとそう告げた。
「……ええ、けれどー『此岸ノ辺』を狙うだなんてー、随分頭のキレる相手がいるようですわねー。
 自分の手を汚さぬ様に、此方の様子を伺うだなんて……きっと、この地はとても大切なのでしょう」
 すう、と目が細められる。探るような眼差しに応える様に毒孕んだ笑い声がくすりと降った。


「――君はもしかしたら、巫女姫の為に『神使様』を捕虜として持ち帰ろう、想い人を喜ばせよう……と考えているのかな」
 がさり、と何処かで音鳴らす。月見を行う純正肉腫――どこかでこちらを見ている只のひとり。
 リゲルは「尊い恋を、しているんだろう」とその恋情に理解を支援す。白銀の剣の煌めきに暴風が如き力が乗せられる。その銀は鈍月の光を帯びてより一層鬼引き立てられる。
「……だが暴挙を許すわけには行かない。人を肉腫に変え利用するなど以ての外だ――それにここにいる皆は巫女姫に負けず美しい」
「何ですって」と何処からか声が降った。四音がつい、と顔を上げる。木々の隙間を見通す様にアイラはその瞳を細めた。
「どこかで見てるんね」
「ええ……」
 頷くアイラのその瞳を補佐する様に捜索能力を生かしたルーカスが『明後日』へと無銘の切っ先を向ける。
「お前か」
 囁く静かな声音と共に、美しい月が一等良く見える木陰より黒髪を結わえた少女が姿を現した。かんばせはのっぺりとした影に隠され良くは見えない。その指先に煌めく光を纏わせて彼女はもう一度「何ですって」と唇を震わせた。
「誰があの方より美しいというのです。誰があの方より優れているというのです。……もう一度仰いなさい」
 低く、確かめるような声音であった。ちら、と祈乃がそちらに視線をやり唇を震わせた。背筋を這い昇るは蛇が如き不快感。蜷局を巻いて逃がすものかと縋るが如き妄執がイレギュラーズの足先すぐそばへとひたりと寄る。
「ああ。何より人々を……感染した人達も守りきろうと、身を呈してこの戦場にあり続けている。
 その心は巫女姫以上に美しいものだと断言しよう。大切な仲間達を、連れていかせはしない!」
「下らない」
 女は蔑む様にそう吐き捨てた。リゲルは「何」と唇を震わせる。それが純正肉腫への挑発に適った事に気付きアイラは「ユゥリアリアさん!」とその名を呼んだ。
「ええ、お任せをー」
 純正の――星屑とその名を称する女の前へとユゥリアリアはその身を躍らせる。二股の穂先をしかと向け、警戒を露にその紅玉の瞳がじろりと睨めつける。整ったかんばせに乗せた敵意を感じ取る様に、星屑は蕩ける様に笑った。
「敵だと思えば殺すでしょう。ほら、私と一緒ではありませんか。巫女姫様も私も、お前達も同類です」
「同類……ですか?」
 星屑を警戒する冬佳の傍らで四音はこてり、と首を傾げる。鬼人種達に回復を与え、その命を長らえんとする水天の乙女の側でノースポールはす、と手を広げる。
「どの様な理屈を立てたって、私は仲間を誰一人として渡しません!」
「ええ。ええ。私達を持って帰っても巫女姫様の心は癒せないのではないですか?」
 くすり、と四音が笑う。警戒し、武器を構えたままのノースポールの傍らでリゲルは星屑の視線がつい、と月を見た事に気付いた。
「……余所見か?」
「興覚めしたのです。巫女姫様は確かにお前達だけでは喜ばないでしょうね。
 あの方は恋をしている月に手が届かぬ様に――私の手が届かぬ様に」
「ええ。『月見』をしていたのでしょうけれど。策が失敗したら失敗したでその月に報告を行えるのではないでしょうか」
 にんまりと、笑った四音からふいと視線を逸らした星屑は「興覚めです」と再度繰り返し背を向ける。
「ふふ、月が綺麗やね。大呪とやらが成ったら、こげな綺麗な月も見れんくなるんやろうか? 残念やねぇ……」
 その背へとそうと呟いた祈乃に「もっと美しい月が見えますよ」と星屑は呟いた。揺らぐ影が如く少女の姿が掻き消える――残ったのはきらりと眩く差す光。皓々たる今宵の主賓の溢した蜜であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加誠にありがとうございます。
 美しい『月』に、未だ星屑は出会っていないようですが――また、機会がございましたならば。

PAGETOPPAGEBOTTOM