シナリオ詳細
<傾月の京>血塗られし鎧の武者
オープニング
●蠢く野心
「よう参った……天香様は何と仰せか?」
「は……大田様におかれましては此岸の辺へと攻め進み、妨害に出てくるであろう神使共を蹴散らして頂きたいと」
「左様か……よかろう。安んじてお任せあれ、その代わりと言うては何だが……」
「かしこまりました。しかとお伝え致しましょう」
高天京の外れにある屋敷の中で、二人の男が差し向かっている。一人は天香・長胤の使者。もう一人はこの屋敷の主である大田 実重と言う武士であり、魔種であった。
下級武士であり、かつ上昇志向の強い実重にとって、神威神楽の混乱は自らが成り上がる好機と言える。そして現在権勢を握っている長胤に協力しておけば、自身の地位が向上する可能性は大幅に跳ね上がる。故に、長胤の要請を断る理由はなかった。
「戦じゃ! 皆に伝えて参れ! 時は、満月の夜!
ククク……此度の武功を糧に、儂はのし上がってくれるわ!」
長胤の使者が退出すると、実重は大音声で部下に命令を下す。その命を受けて部下が慌ただしく動き始めと、実重は杯を傾けながら薄く笑い、野心のままに吼えるのだった。
●実重一党を討ち果たせ
満月の夜に高天御所で強大な呪詛が行われることを、『けがれの巫女』つづりが感知した。それを受け、豊穣に向けてイレギュラーズ達を動かすべく、ローレットは普段よりも一層忙しない雰囲気が支配している。
「早速ですが、用件に入ります。皆さんには、此岸の辺に攻め込む一団を阻止、討伐して欲しいのです」
普段はだらだらしている『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)も、今ばかりはそうしていられない。少しの時間も惜しいとばかりに、目の前に集めたイレギュラーズ達に向けてすぐさま依頼の説明に入った。
「皆さんに阻止して欲しいのは、魔種『大田 実重』とその一党です」
大田 実重は元々下級武士でありながら、武勇に優れていたと言う。それが魔種となったのだから、その戦闘力は並大抵の者では相手にならないだろう。しかも彼らは一様に凶暴であり、敵の返り血で鎧を紅く染めて『紅備(あかぞなえ)』などと嘯く有様だ。
そんな連中が此岸の辺に至れば、どのような事態になるか。想像するのは容易い。しかし、並大抵の者では実重一党を止めるのは難しい。
「……ですから、ある程度以上の実力のある方を選んで声をかけさせてもらいました。
また、此岸の辺で他の妖や肉腫に遭遇したとしても、相手せずに放置していて構いません。そちらは現地に向かっている他のイレギュラーズ達に任せて、実重の一団を一人残らず討ち果たすことを最優先にして下さい。
――どうか、ご協力をよろしくお願いします」
それまでよりもさらに重い声で、釘を刺すように告げると、勘蔵はイレギュラーズ達に向けて深々と頭を下げて依頼への参加を募った。
- <傾月の京>血塗られし鎧の武者Lv:20以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年10月05日 22時51分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●武士の資格
「……豊穣郷、か。雰囲気が故郷の実家周りを思い出して、ノスタルジックってやつになるから少しだけ避けてたんだが……」
此岸の辺に入った『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)は、何とも言えない複雑な表情で独り言ちる。旅人である修也の故郷は日本と呼ばれる国であり、その実家は神社と呼ばれる言わば旧い時代を感じさせる神殿のようなものである。旧い時代の日本を思わせる雰囲気を持つ豊穣自体もさることながら、此岸の辺と言う場所は特に修也に郷愁を感じさせた。
「そんなこと言ってる状況じゃねぇし、できることやらないとな」
だが、今は郷愁に捕われている場合ではない。間もなく来る敵に備えるべく、修也は意識をそちらに向けた。
「ったく、『ああいう』敵が一番厄介だっつーのに……まぁ、仕方ねぇ」
ぼやく様につぶやいたのは『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)だ。もっとも、口が悪く態度も荒いアランであるが、自身を勇者と認識している以上、その使命に対して逃げるつもりもなければ手を抜くつもりもない。例えどれだけ厄介であろうとも、叩き潰すまでのことだ。
面倒そうな表向きの態度の裏で、アランは迫る戦いへの闘志を燃やしていた。
(武士の魔種か……カムイグラには肉腫の他にもそういう奴等がいるのか。
だが……今回のは俺の知ってる武士とはかけ離れていて……武士と言うより無頼漢って感じだな。
まぁ、だからこそ扱いやすそうな輩だが)
特に何の感慨も無いと言った様子で、銀城 黒羽(p3p000505)はそんなことを思案する。過去の事件で信念や熱情を失い精神的に不安定となった黒羽は、ともすれば沸き上がるネガティブな感情に飲まれぬよう依頼においては感情を封印し、事務的に対応していた。そしてそれは、今回も変わることはない。
「誉れ、武功、大いに結構。されど、それに見合った気位が無くば所詮は張り子の虎でしか御座いません」
「同感です。武人とは武勇に優れているからだけにあらず。仁や忠も優れていてこそでしょう。
彼らのは蛮族の蛮勇、まさにそれでしょう」
「そうだな。侍とはいえ、魔種に転じた頭領と、暴威を恥じる事なき雑兵共。
ぶん殴るに値する敵には、容赦なく拳を叩きつけてやるとしようか」
大田 実重の武士としての上昇志向には理解を示しつつも、『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は彼らがいくら功を為そうとも意味は無いと否定する。それもそのはずで、無量にしてみれば魔種に堕した実重や返り血を誉れとし暴威を振るう『紅備』は、無闇に多くの血を流し鬼と堕した過去の己と重なるため、認めるわけにはいかないのだ。
無量の言い分には、『サブマリン小太刀』京極・神那(p3p007138)も同感である。真面目な性格の神那にとって、武人とは人格も併せ持って初めて名乗りうるものだ。ただ暴力を振りまく者を、武人と呼べるはずがない。
無量と神那の言葉に、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)も深く頷きながら応じる。任侠に生きる義弘からすれば、実重と『紅備』の在り様は侍に相応しいとはとても言えない。ましてや魔種とその取り巻きとなれば、特異運命座標としては叩きのめすべき敵であった。
(嫌いではありません、彼らの野心は。斬るには惜しい――されど、やらねばなりません)
一方、上昇志向の強い小心の武士と言う共通点から、『邪妖精斬り』月錆 牧(p3p008765)は実重を死別した夫に重ねて、むしろ好ましくさえ捉えていた。流石に他のイレギュラーズ達の手前、表だって口に出したりはしなかったが。
それだけに実重を斬るには躊躇いを感じはするものの、依頼として引き受けた以上は斬らねばならぬと、牧は改めて意を決した。
「さて、武を誇る猛者との戦いか。こいつぁ楽しみだな。
まあ性格のどうのを言っても仕方あるまいよ、戦場で生きるのは強い者のみだ。
そう言う奴らをなぎ倒すのもまた戦の醍醐味ってな」
実重と『紅備』の性などどうでもいいと、『至剣ならざる至槍天』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は笑い飛ばす。確かなことは、実重と『紅備』が鎧を敵の血に染めながら戦場で生き残ってきた武勇の者達であると言うことだ。そんな敵との激突が楽しみだと言わんばかりに、エレンシアは八重歯を覗かせた。
「手練の武士とその一党ですか……誰であれ、此岸ノ辺には行かせません。何としてでも、止めます!」
「そうだよねぇ。取り逃せば、確実に大きな被害が出る……そうと知っていて、通してあげる訳には行かないよねぇ。
だから……ここで必ず食い止める!」
自らも武士である『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、実重と『紅備』の進攻を必ず阻止すると強く言い放つ。そしてその一方で、武士同士の戦いがどのようなものになるのかと、心の片隅で沸き立つ様な思いを抱いていた。
『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)は、ルーキスの宣言にうんうんと同意しながら、同じく自身も実重と『紅備』を止めると宣言してのけた。実重と『紅備』を止められなければ、此岸の辺自体の被害もさることながら、ローレットの活動に大きな影響を及ぼしてしまうのだ。
●『紅備』、到来
ドドドドド……と騎馬の駆ける音が響く。やがて、十一騎の武者が現れた。大田 実重と『紅備』の一党だ。
「……お前らン中では、やり合う前に名乗り合うのが常識なんだろ?
旅人、異世界の太陽の勇者、アラン・アークライトだ!
今からお前らを殺す奴の名前だ。地獄まで覚えて、逝け!」
実重の姿を認めるやいなや、アランが真っ先に駆け出して実重の馬の前に立ちはだかった。突然目の前に現れたアランの姿に、実重の馬は驚き立ち上がる。だが、実重は上半身を前に倒して馬の首に寄せ、辛うじて落馬を防いだ。
「アランと言うたか! よかろう、儂は天香様より貴様らを蹴散らす任を受けし大田……」
「アンタの名乗りなど、聞く価値もねえ!」
体勢を落ち着けた実重だったが、名乗り返すことは出来なかった。黒羽が実重の後方に回り込みつつ、突然大声で名乗りを遮ったからだ。
「な……! この、下郎がっ!」
(……どうやら、予想どおりだな)
怒髪天を衝いた実重は、強烈な敵意を隠そうともせず黒羽に向けた。我の強い性格のようだから、
事が自分の思うように進まなかったり、言動を遮られれば簡単に怒りに囚われるのではないか、と言う黒羽の予想は当たったのだ。
前後を塞がれた実重は、馬首を巡らして大身槍をぶんぶんと振るい、穂先を横から黒羽に叩き付けた。
(……折れたか)
肋骨の折れた痛みに、黒羽は反射的に顔を歪める。だが、黒羽はすぐに表情を戻すと淡々と実重の行く手を塞ぎ続けるのだった。
『紅備』は主君を前後から挟み込んだアランと黒羽を排除せんとするも、果たせなかった。
「さあ、一人残らずこの『帰心人心』彼岸会 無量が頂いて仕舞いましょう!」
「これは、噂に違わぬ見事な紅備。同じく『士道』を歩む身として……『散華閃刀』ルーキス・ファウン、いざ、お相手仕る!」
実重の左の五騎に向けて無量が、右の五騎に向けてルーキスが、口上を述べてその注意を引き寄せたからだ。『紅備』は主人など素知らぬ様子で、無量とルーキスに槍を向ける。
「……ち、儂を捨て置いて他にかかるとは。肉腫とするも、考えものよ」
苦々しげに、実重が舌打ちする。明かされた事実に、イレギュラーズ達の間にざわりとした空気が漂った。
「……想像以上の下衆だな。こいつらを片付けたら、おまえさんの顔に一発くれてやるよ」
部下を肉腫に感染させると言う非道に、義弘は苦虫をまとめて噛み潰しながら、実重の右の五騎へと飛び込んでいく。猛烈な拳の嵐が吹き荒れ、鈍い音を立てながら五騎の『紅備』に叩き付けられていった。
「何と言うことをするんだ……」
修也は呻くようにつぶやきながらも、義弘に続いて実重の右の『紅備』五騎との距離を詰める。そして全身の力を魔力と換えると、一騎の馬の首に掌を押し当て、直線状に魔力を放出した。魔力は馬の首から騎乗している『紅備』を、そしてその後ろの一騎を馬もろとも撃ち抜く。息絶えた馬はその場に倒れ、乗っていた『紅備』は馬の背中から逃れる様に飛び降りた。
「元々通す気はないけどぉ……そんなことを聞いたら、ますます通すわけにはいかなくなったよねぇ」
語尾こそ普段の緩さを感じさせるものの、シルキィの口調には普段の緩さは全く残っていない。冷淡なトーンで告げながら、シルキィは義弘を中心に、熱砂の混じった嵐を召喚する。ゴウ、と吹き荒れる熱砂は『紅備』のみに絡みつき、その動きを鈍らせ、息を詰まらせる。まともに熱砂を受けた『紅備』達は、苦しみに身悶えした。
(――安心しました。これで心置きなく、斬れそうです)
実重の上昇志向に亡き夫に通じるものを見出していた牧だったが、夫なら絶対に手を染めることのなかったであろう非道を知り、心に残る躊躇を完全に捨て去った。修也の魔砲を受けた『紅備』の一体にスッと近付くと、憎悪を目に宿しつつ妖刀『破滅秀吉』を大上段に振りかぶり、物言わず振り下ろす。既に満身創痍であった『紅備』は、縦に大きく斬り裂かれると、ぐらり、と後ろに倒れていった。
「反吐が……出そうですよっ!」
実重の非道に、神那の憤怒が煮えたぎる。怒気を全身に纏わせた神那は、実重の左の『紅備』のうち最前にいる二騎に大音声の喝を浴びせた。神那の憤りを宿した大喝は、物理的な破壊力を持った衝撃波となって、二体の『紅備』を馬上から吹き飛ばす。
「さーて、そんじゃま狩りの時間と行こうかね! 雷の槍に痺れな!」
エレンシアにとって、『紅備』が肉腫に感染させられているなど些事であった。重要なのは、戦場において強いかどうかだ。エレンシアは『『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス』に雷を纏わせると、その穂先を馬上の『紅備』の胸へと突き立てた。『紅備』は落馬こそ耐えたものの、胸を突いた衝撃に苦しげに咳き込み、敵の血で染めた鎧を己の血で汚した。
『紅備』は無量とルーキスを狙って、次々と槍を繰り出す。無量もルーキスもその全てを躱しきるとはいかず、無量は一本、ルーキスは三本をその身に受けることになった。
『紅備』は、確かに武勇に優れた集団であった。しかしそれは、あくまで豊穣の武士を基準とした話である。多少数で優っているとは言え、歴戦のイレギュラーズを相手にしては分が悪く、徐々にその数を磨り減らされていった。
実重の左では、無量の刃が嵐となって吹き荒れる。そこに神那の絶えず続く刺突と斬撃、エレンシアの雷を纏った槍が襲いかかり、一体一体『紅備』は確実に各個撃破されていった。
実重の右では、シルキィの熱砂の嵐が吹き荒れ、義弘の拳、牧の憎悪を宿した斬撃、修也の魔力、ルーキスの太刀が順調に『紅備』を倒していく。
アランの紅のオーラを纏った斬撃に既に馬を潰されている実重は、アランと黒羽に挟まれて移動の自由を奪われている状況を打開すべく黒羽を苛烈に攻め立てるものの、黒羽を倒すには至らない。もう少し正確に言うならば、黒羽は既に何度か地に倒れ伏しているのだが、その度に必ず立ち上がり戦い続けているのだ。
そうしているうちに『紅備』は全滅し、残るは実重のみとなる。
●実重の猛攻
「くそっ、儂の兵が……許さんぞ、貴様ら!」
「どの口が言いますか……あなたに、部下を持つ資格はありません」
『紅備』の全滅に憤る実重に、牧は呆れた様に返しながら、鋭い太刀筋で幾度も斬り込んだ。
「むうっ、この太刀筋は……!」
「気が付いても、もう遅いです」
牧の斬撃を回避し、あるいは槍で巧みに捌いている様に見えた実重だったが、それさえも牧の計算の内であったことをやがて実重は思い知る。やがて回避も防御もままならないほどに追い詰められた実重は、鎧の隙間を深々と突かれてしまった。
「……自らは魔に堕ち、部下を化生に変えるとは、何処までも腐っていますね」
その所業への嫌悪を隠そうともせず、無量は大太刀『朱呑童子切』で突きかかる。斬った相手の血を吸った紅の刃が、瞬時にして六度、突き出された。
「うぬっ、ぐうっ……!」
牧の斬撃を避けるために無理をしたのが祟り、六度の突きは全て実重に突き刺さる。敵の血を浴びた鎧に実重自身の血が流れるが、まだまだ余力はあるようであった。
「ようやく、おまえさんを殴れるな。俺の命を使って、その身に呪いを刻み込んでやるぜ!」
「ぐげえっ!」
無量の反対側に回った義弘が、実重の背中に真っ直ぐ豪腕を叩き付ける。生命を燃やして放った一発は、実重の背中にズドン! と鈍い音を立てて突き刺さり、鎧をひしゃげさせ肉へとめり込む。拳の跡は、毒をもたらす刻印となって実重の生命力を蝕むこととなる。
「隙だらけだねぇ。このキューブに包まれて、たっぷり苦しんでねぇ」
「ぐ、うあああああっ!」
シルキィは黒い立方体を召喚すると、立て続けに攻撃を受けて守りもままならない実重をその中に包み込んでいく。立方体の中で数多の痛苦が実重を苛み、苦悶の声をあげさせた。立方体から脱出した実重は、鎧の上にさらに自らの血を垂れ流し、ゼイゼイと息苦しそうにしている。
「武に奢った貴方の、ここが終着点です! これ以上の非道は、させません!」
「く……そっ。鬱陶……しい」
さらに、神那がここぞとばかりに畳みかけていく。此岸の辺を守るというのを別としても、実重はこれ以上放っておいてはならない手合いだった。既に攻撃を避ける余裕を失っている実重は、間断なく続く刺突と斬撃にその身を曝され、次々と身体に傷を刻まれていく。
「あとはお前さんだけだ、大物。もう、出し惜しみもなしだ」
渾身の力を込めたエレンシアの『『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス』が、実重をめがけてただ真っ直ぐに繰り出される。
「てめえの立身はここまでだ。アタシらを敵にしたことを後悔するといいぜ!」
「ぐっ、むうっ……!」
『『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス』の穂先が、その突きの向きを逸らそうとした大身槍の柄を弾き、実重の横腹に深々と突き刺さる。実重は苦悶の表情を浮かべながらも、『『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス』の柄を掴み、横腹から穂先を引き抜いた。
「ここがお前の墓場なんだよ! 死ぬまでたっぷり味わえよクソ野郎がァ!!」
「うぐうっ!」
『紅備』の全滅によって他のイレギュラーズが実重への攻撃に加わったことに、アランは勢いづいた。『星界剣〈アルファード』に憎悪を紅く纏わせ、袈裟懸けに斬りかかる。斬撃は実重の左肩から右脇腹にかけてを、鎧もろともに斬り裂いた。
「武士っても所詮下級。魔種になろうともそれは変わらねぇってか」
実重の移動を封じ続ける傍ら、その矛先を自身に向けるべく敵意を煽る黒羽。これまではその挑発が通じて実重は黒羽を攻撃し続けていたのだが、今度ばかりはその反応が違っていた。
「ふっ、ははは……流石にもう、その手には乗らんぞ。的が増えたからな。
儂に集っている奴らを先に仕留めて、貴様は最後にしてやるわ。
いや、先にあっちの勇者とやらを仕留めれば、貴様と戯れる必要も無いか」
「く……」
『紅備』の全滅に激昂した実重だったが、その衝撃が実重に改めて戦況を確認させる契機ともなった。いくら攻撃しても黒羽が倒れないのなら、先に倒せる者を相手にすればいいだけのことだ。
これまで立て続けにイレギュラーズの攻撃を受け続けていた実重が、大身槍の柄を強く握りしめ、呼吸を整える。そして、向きを変え様に、大身槍をぶうんと振るった。穂先がエレンシアの、ルーキスの、義弘の身体をずっぱりと深く斬り裂いていく。
(まさか、一撃でパンドラを費やすことになるとは……こうなったら、この一刀に懸ける!)
傷の苦痛と失血に意識を手放しかけたところを、ルーキスはパンドラを費やして耐えた。そして刀を大きく振り上げると間合いを詰め、残る力を全て注ぎ込んで一気に振り下ろす。
「があっ!」
ルーキスの一刀は実重の左肩、アランの付けた傷に深く食い込んだ。そして、斜めではなく真っ直ぐ下へと振り下ろされる。実重の左肩からは、右脇腹に斜めに向かうものと、そのまままっすぐ真下に降りていくものの、二つの傷が刻まれた。
(やはり、尋常な威力ではないな……誰を癒やすか……)
実重の攻撃をいくら受けても黒羽が立ち続けていたことから感覚が麻痺しかけていたが、やはり実重の一撃は重いと修也は改めて痛感する。問題は、今攻撃された三人の誰を選ぶかだった。生半可な回復では厳しいと思いつつもルーキスを癒やそうとしたところで、ルーキスが修也を振り返って首を横に振る。
いくら回復を受けても次を食らえば、間違いなく戦闘不能となるだろう。そう判断したルーキスは、他のイレギュラーズを回復する様修也に求めたのだった。修也はそれを容れ、義弘の傷を癒やすことにした。
●消耗戦の果てに
イレギュラーズ達の攻撃は激しく、並の魔物程度なら既に倒れているところであったろうが、実重の生命力は尋常ではなかった。流石に魔種と言うべきだろうか。幾度傷を負い、流血を続け、猛毒に蝕まれても、一向に倒れる気配を見せないのだ。
その一方で、イレギュラーズ達は一人、また一人と力尽きていった。実重を攻撃するため、八人もの人数が実重との白兵戦の距離に入り、密集したことが災いした。実重の大身槍が振るわれる度に、一度に二人、あるいは三人が深い傷を負わされていったのである。
戦況は、先に実重が力尽きるか、イレギュラーズが全員倒れるかと言う消耗戦となっていた。
「いい加減……こいつで、倒れろよ!」
既に気力を消耗しきったアランが、肩で息をしながら、瞬間、両手に顕現させた太陽の聖剣《ヘリオス》と月輪の聖剣《セレネ》の二刀流で実重に斬りかかる。紅と蒼の剣閃は、鎧も砕かれ傷だらけとなった実重の身体に、さらに十字の傷を刻み込んだ。
(これで決められなければ……次に倒れるのは、私ですね)
既にパンドラを費やした無量が、最後となる一撃を仕掛けるべく、『朱呑童子切』の柄を握る手に力を込める。
「――その首、頂きます」
無量が繰り出したのは、恍惚の内に首を奪う、変幻の邪剣。魔性の切っ先に惑わされた実重は、避けるも防ぐも出来ないままに、首を落とされた。ゴロリと地面に落ちた首には、驚愕と無念が刻まれていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。厳しい戦いとはなりましたが、此岸の辺に攻め込んだ実重と『紅備』は一人残らず討ち果たされました。
MVPは、『紅備』半数に対する盾役を見事に務めたこと、またその際に戦鬼暴風陣によって『紅備』の殲滅を早めたこと、携行品によって確実に一手長く戦場に残ったこと、瞬天三段のスプラッシュによる回避低下や落首山茶花の恍惚によって味方の与ダメージ増加に貢献したことを総合的に評価しまして、無量さんにお送りします。
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回は全体依頼<傾月の京>のうちの1本をお送りします。此岸の辺に攻め入る魔種達の一団を討ち果たして下さい。
●成功条件
大田 実重とその一党の撃破
●失敗条件
大田 実重とその一党を一人でも取り逃がす
●Danger! 捕虜判定について
このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
此岸の辺の中でも、平坦な場所です。
時刻は夜ですが、月明かりがあるため暗視がなくても戦闘へのペナルティーはありません。
また、此岸の辺に襲来した他の肉腫や妖と遭遇したことによる損耗は無いものとします。
●大田 実重(おおた さねしげ) ✕1
長胤の要請を受けて此岸の辺へ攻め入った魔種です。
武人として元より高い戦闘能力を持っていましたが、反転してさらに能力が強化されました。
性質は元より粗暴であり、敵の血で鎧が紅く染まっていることを武勇の誉れとしています。
命中、回避、特殊抵抗いずれも極めて高く、防御技術もそれらに比べればやや低めではありますが高い水準にあります。
搦め手はありませんが、一撃の威力は非常に重くなっています。
戦闘開始時は馬に騎乗していますが、徒歩でも戦闘力は変わりません。
・攻撃手段など
大身槍 物至単
薙ぎ払い 物至列
衝撃波 物超単
疾風突き 物超貫 【弱点】
突撃(※騎乗時のみ) 物超単 【移】【弱点】
精神系BS耐性(高)
●紅備(あかぞなえ) ✕10
実重の部下です。勘蔵は知らないのですが、実は肉腫に感染しています。もっとも、それ以前から凶暴な性ではありました。
実力としては、一般的な騎士レベルです。攻撃力とHPと命中が高く、防御力と特殊抵抗は低めになっています。
戦闘開始時は騎乗していますが、徒歩でも戦闘力は変わりません。
・攻撃手段など
槍 物至単
薙ぎ払い 物至列
弓 物遠単
突撃(※騎乗時のみ) 物超単 【移】【弱点】
●備考
・当シナリオでは依頼の成否、もしくは此岸ノ辺へのダメージによって、此岸ノ辺に様々な影響が出る場合があります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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