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シナリオ詳細

<傾月の京>三千世界の鴉を殺し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「いつか」
 もう、ほんとうの名前を呼ぶ人間はここにはいない。
 風切羽を切られた籠の中の鴉は、右も左もわからぬ土地で、一夜の夢を売り生きてきた。

「何もいらないよ」
「え?」
 少女は驚いたように彼を見上げる。
 何が欲しいと囁くカラスに、『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)は何も求めない。
ヴォルペはただ、惜しみなく与えるだけ。
 さらさらと髪を撫でる手は優しかった。
 少女はぎゅう、と衣の裾を握る。
 夜が明けなければいいのにと、初めて願った。
……初めて。

●満月をのぞむ
  仏の御石の鉢をねだるように、袖に顔を埋めて。
「あの女が私を泣かせましたのや」
  蓬莱の玉の枝を求めるように、しなだれかかって。
「あの女の持っている宝玉、きれいやなぁ……」
 火鼠の皮衣をせびるように、うるんだ瞳で見上げて。
「あのじいさんの、腰につけた刀、さぞかし値がはるんやろうな」
  龍の首の玉をたかるように、唇が告げる。
「……あの男が私を無理矢理……」
  燕の子安貝を催促するように、衣をはだける。
「あの人の首が欲しいわあ」
 でも、本当に欲しいものは。
 一瞬だけ与えられたぬくもりは。
 いつだってこの手をすり抜けていく。

 カラスが、鳴いた。
「綺麗な満月やねぇ」
 激しい戦いの音が、高天御所のあちらこちらから響いている。
 その喧噪を意にも介さず、八咫姫は完璧な所作で茶をすすっていた。
 馬鹿げたことではあるが、このどうしようもなくきまりきった型というものが、宮廷では何より重んじられるものでもある。
 生きるために。他人を悦ばせるために。八咫姫は必死に茶番をなぞり、今、こうして、顔色一つ変えずにこの喧噪をやり過ごせる。
 八咫姫がまいた呪詛は、高天京にほどよくはびこってくれた。最も、特異運命座標による対処によって幾分か予定外はあったけれども、それでも多くが、互いを呪って死んでいった。
「姫……! 万事、貴女の言うとおりにいたしました」
 熱っぽい視線を帯びた男が、八咫姫に言い寄る。
 装束は血を浴びている。首尾良くいったのだろう。八咫姫は、先日、自分の役職を良く思わない男の首を言外に願ったばかりだ。
「万事、貴女の望むとおりに……」
「よう働いてくれはったね」
「では……私のものになっていただけますか」
 言外に求められるものを察し、八咫姫は笑った。
 こうしていても、どうしようもなく、あの人とは違うと知るだけだ。
 言い寄る男の背後から、刃が突き出る。
 七扇直轄部隊『冥』であった。
「おおきに」
 位の高い男であったけれど、この男にもう利用価値はない。
 もうすぐ、大呪が実を結ぶ。

 八咫姫は、この世の全てを呪っている。
 ぽっかりと空に浮かぶ、ただ一つを除いて。
 この地位に就いた八咫姫は、じわじわと呪いを混ぜていった。儀礼のひとつひとつに、さりげなく毒を混ぜていった。
 何気ない規則、その一つ一つが呪術であった。
 空を見上げる。
 一羽のカラスが横切った。
 カラスは、純正肉腫とよばれるものであった。
「そうせっかちにならんでもええのよ。もうすぐ、友達がたくさん増えるわ」
 カラスは、嬉しそうに喉を鳴らす。

 嗚呼、天女様。もしもひとつだけ。
 ひとつだけ、持って行けるとしたら……。

GMコメント

 時は秋にして、奇しくも満月。
 七扇、宮内省が一扇。
 八咫姫は、イレギュラーズたちが来るのを待っています。
 お月見と破滅のお誘いです。

※当シナリオではPCの拉致判定が発生する可能性があります。

●目標
純正肉腫『カラス』の撃退。
純正肉腫であるカラスを仕留めるのはかなり難易度が高いのですが、可能です。
ただ、撃退だけでも成功条件を満たします。

●場所
高天御所内。
室内ですが戦闘するにふさわしい広さがあります。調度品はどれも豪華です。

●登場
八咫姫……巫女姫に協力する魔種です。
元々はバグ召喚でこの世界に落ち、売り払われた飛行種でした。
この世の全てを憎んでいて、破滅を望んでいます。袖の下に隠した扇をふるい、呪を撒きます。
けれど、もしもあの人が手を取ってくれるなら……。
目的はPCの拉致であり、口説かれても寝返ることはないでしょう。目的を果たせば撤退します。
「まあ、ゆっくりしてはって」
「同類は、なんとなく分かってしまうなあ……」
「この世界を壊したいと、思ったことはあらへんの?」

純正肉腫『ヤタガラス』
 この世で生まれた、この世の異物。
 ぎょろりとした目。3本の足を持ったカラス。
 状態異常、妨害に特化しています。常に遠距離にいます。

七扇直轄部隊『冥』×5
 カムイグラの暗部として暗躍している者達。七扇の『闇』。覆面で深く顔を隠し、剣や槍、鎖で戦います。
 八咫姫に心酔しているものたちのようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>三千世界の鴉を殺し Lv:10以上完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
秋宮・史之(p3p002233)
浮草
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
小金井・正純(p3p008000)
星詠みの巫女
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
誰かの為の墓守

リプレイ

●月夜
「綺麗な月やなあ」
 衣擦れの音と共に、八咫姫が立ち上がる。
 不意に明かりが落とされた。
 扇の一薙ぎが畳をえぐる。
『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)のマギ・ペンタグラムが、見えぬ衝撃を受け止めた。
 その寸前まではどこか挨拶でもかわすような調子ではあったが、双方、ともに無手ではない。
「ああ、この香り。とても久しいね」
 腱を狙った呪いは、打ち消されてただ掻き消えるのみ。
 明確に刃を向けられてなお、ヴォルペの声は蕩ける様に優しく、どこまでも甘やかだ。
「鳥籠の中に閉じ込められた愛しい雛鳥ちゃん。
自由に空を舞っているかと思えば、また新しい鳥籠を見つけたんだね」
 相対し、それでも弾む心に、八咫姫は自嘲してしまいたいくらいである。
――ひどい人、嫌いにさせてくれもしない。

 辺りは昏く、暗闇が人を飲み込もうと揺らいでいる。
「っきゅ!」
『守りたいものの為に』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)の星灯りが、主人の意思を汲んでまたたいた。ちび星海豹は主人と同じように勇気を振り絞り、灯りをつけて、一緒に魔種と立ち向かう。
 世を呪うことは罪ではない。それを咎めるつもりもない。
 だが、実際に行動を起こし、ここにかち合ったならば。
「戦うんだね、俺たちと」
 守るために『浮草』秋宮・史之(p3p002233)は武器を取るだろう。今、この時こうしているように。
「八咫は太陽の化身であるはずが今じゃまっくろくろすけだねえ」
「貰った名前よ。ふふ、私、太陽は嫌いやわあ……ねえ、大人しく見逃してくれへんかしら?」
「放っておくことはできないよ。やっとここまでこれたんだからね」
 ようやく辿り着いた静寂の青の先の一大事、この先の景色を見るために。
 眼鏡の奥の真剣なまなざしは、八咫姫を通り越してもっともっと先を見ている。
「……海の向こうからここまできて。それでも満足せえへんで。まだ、どこかへ行けるつもりでおるん?」
 カラスが鳴いて、闇より冥が刀を振るった。
 死角からの一撃。だが……。
 振り下ろす前に、何かに動きを阻まれた。
 それは、見えない一本の線。
「破滅願望、別にそれ自体はどうでもいい。世界を壊したいと願うことも構わない。……けれど、お前は死を汚したな?」
『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は静かに怒っていた。
 込められた力はすさまじい。
 糸の絡まった刀はカタカタと揺れ、冥の身体は不気味に動かなかった。
「ふふ。ふふふふ。いややわあ。怖い顔して」
「全ては最後に死に絶える、それは構わない。けれど最後の選択は呪詛なんかで奪われていいモノじゃない。これ以上奪わせてなるものか」
 星灯りに照らされ、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)の赤毛が燃えるようにあたりを照らす。ホークアイのお守りは、カイトに暗闇を見通す力を授けていた。
「ああ、そうだ。まだ旨いもん巡りや観光してないんだ。国を勝手に壊されるわけにはいかねぇよ!」
 赤い羽に誘われ、ぐらりと冥の景色がゆがむ。
「あ、あ……っ」
 緋天歪星。
 緋色の大地、虹色に輝く空、昏き宇宙。言葉や文字、声は虚空に奪われてゆく……。無限大の自由は常人には耐えられぬ狂気である。
(けったいな術や、見たことあらへん……)
「へへっ、お袋にならったんだぜ!」
 籠の鳥の知らない世界。
 これほどまでに闇をはこびらせようとも、呪詛をまこうとも。重力はカイトの重荷にはならない。風を切って、羽ばたくのだ。
(そんなの)
「そんなの、ずるいわぁ……!」
 八咫姫に呼応するように、カラスが鳴いた。
 呼び寄せる闇に潜み、刀を振り上げた冥。
 しかし、『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)は星を視ていた。
「たとえ身体が痛むとも、ここで止めさせていただきます」
 星鎖痕が鈍い痛みを訴える。正純にとっては、それは祝福に他ならない。尋常ならざる感覚で星を知覚している。
 狙いを定めて一矢を放つ。
 全身全霊を込めた一撃。流星のごとき一撃が尾を引いて闇を切り裂いて行く。
 次はそこ、とカラスが鳴いて、正純の位置を知らせた。
「させない……っ!」
 英魂の紅花。舞い散る花びらが凶刃の毒を阻んだ。それは、大気中に漂う魔素を利用し、瞬間的に術者を強化する魔術。
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の魔術は、気丈にも攻撃を受け止めた。
「大丈夫」と、アレクシアは言い聞かせるように口にした。
 強がってみせるのは、アレクシアの強さ。
 兄さんなら、きっとこうするだろう。
「どういう思惑があるにせよ、好きにさせるわけにはいかないからね」
 立ち向かうアレクシアはヒーローであった。
「ありがとうございます。迷いなく、敵を撃てます」
 正純は矢をつがえた。
 狙う。
 今はただ、目の前の敵を排除することを考えればいい。
 紅花の奥、鴉の声は壁を一枚隔てたように遠い。
 こんなものに惑わされてたまるものか。
 燃えるような怒りを覚えて、レーゲンの毛並みがさざ波だった。
 傍にはグリュックがいる。魂はないけれど、そばにきっと。
(誰にでも心に暗い部分があって、それを抑えられなくなる事が反転だと思うから)
 理解はできるが共感はできない。
 線を引き、レーゲンはその一線に踏みとどまる。
 ヒレをぎゅっと握り込んで、決意して向き直る。
「きゅっ!」
 全てを壊すためではなく。
 世界を、みんなを守る為に、力を振るって目的を果たそう。
 穢れなき白いアザラシ。
 きらきらと輝く瞳。
 誇り高く、消して手に入らないもの。
 矜持を持って立ち向かい、決して陰らないものたち。
 手の届かない星々。
 八咫姫はそれが気に食わない。
「ふふっ、憎悪か。悪魔の身としては好ましい感情だよ」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の唇が弧を描く。
 暗闇を別の闇が呑み込む。黒きマナがあたりを満たしていった。
 それは、あらゆる魔法を唱える為の源。同じように邪悪でありながらも、どこか楽しむような不思議な気配。
 コウモリの翼に似た大きな黒い翼が広がり、色濃い影をさした。
 張りつめた空気と心地良い緊張感。眼前には相対する強敵は、マルベートにとってごちそうであった。
「せっかくの夜だからね。さあ、楽しもうか」
 ヴォルペもマルベートも。そして神使たちは。迫りくる攻撃も、ものともせず、苦痛の表情を浮かべることもなく。
 星を頼りに、軽々と夜を駆けていく。

●うたげ
 軽やかなフィンガースナップを合図に、マルベートの双槍が紫雷をまとう。
 穢命を綴るグランフルシェット。煌命を喰らうグランクトー。それは、ディナーナイフとディナーフォークを模している。
 マルベートにとって、この熾烈な状況は食卓だ。戦闘とは、群がるディナーをどう料理するかということだ。
「私だけ痛いのはフェアではないだろう? 君等も愛すべき苦痛を一緒に愉しもうじゃないか」
 立ち塞がって身を盾とすれど、黙って肉壁となるつもりはない。
 貪食に妖しく輝く悪魔の雷は、襲い来る冥を焼け焦がした。
 神使たちを塗りつぶせない。
 それは高みにあって、二度と手に入らないもの。
 届かないなら、ここまで堕とせば良いと、影から生まれたカラスは囁く。
「させるかよ!」
 カイトは素早く翼をひるがえし、斬神空波を放った。
 八咫姫の呪術を遮った。
 その翼を、その加護を、八咫姫は憎悪の目で見ている。激しいやり取りのうちに生まれる風。自由は、カイトの味方をしている。
 空と海を愛し、空と海に愛されている。
「よそ見はいけないな」
「……っ!」
 八咫姫の結ぶ呪術に、ヴォルペは素早く逆の魔術を結び、打ち消し。首をかしげて、にこりと笑った。
「それと、月見の誘いに無粋な輩が多いんじゃない?」
 背後から斬りかかる冥の攻撃を、ヴォルペは一顧だにはしない。マギ・ペンタグラムの術式と仲間の援護に任せ。
 まるで二人っきりの世界かのように、二人は見つめ合った。
「おにーさんも満月を冠する二つ名で呼ばれることが多いけれど、それだけじゃあ足りないかな」
 ヴォルペは、どこまでも、どこまでも優しい笑みを崩さない。
「君が受けた数多の理不尽も苦痛も全ておにーさんに会う為に手にしたのなら歓迎しよう。
その代価を受けて今、おにーさんは君の前に立っている」
 ヴォルペの言葉にかかれば、呪いが祝福へと転じるだろう。今までの苦痛にも、意味はあったのだという道理があれば、これまでの理不尽も、受け入れられる気がする。
 今、この満月の夜に、こに遭ったのは導きだと……。
 これから救われるのだ、と。
(今更……)
 それにすがりたくなる。
「けれど君が七扇の八咫姫として存在するなら、おにーさんはイレギュラーズの中の一人だ」
 仲間を狙うなら、容赦はしないと。
 すっと細められる瞳の奥は、ぞっとするほどにどこか冷めていて、それでもなお、この人が欲しい。
「八咫姫様の命だ。捕らえろ!」
 神使たちを取り囲む冥の背中に赤いとげが生えた。
 グリムのレッドニードルが、冥の一人に突き刺さったのだ。
「させはするものか。これ以上の死の冒涜、許すことはできない」
「ぐあっ……!」
 凶刃を受ける。自分のために倒れる冥を、八咫姫は一顧だにしない。
 みているのはただ一人のみ。
 カラスが鳴いて、闇が這い寄る。
「レーゲンさん、正純さん! 2時方向です。カラスが潜んでる!」
 史之の耳はかすかな音すらとらえ、体はすでに敵の方向へ向いている。
(あちらですね。なら……)
 正純は、史之の指した方を向き、射線を天井へと向けて矢をつがえる。
 周囲一帯を矢の嵐にすれば、広い範囲を攻撃できる。理論上は可能であろう。だが、屋内の暗がりでのそれは、針を通すような技巧であった。
 鋼の驟雨、プラチナム・インベルタがあたりに降り注ぐ。
「レーゲン君っ! こっちに!」
「っきゅ!」
 色とりどりの小さな花弁が闇を押しとどめていた。アレクシアの周りから、すうと闇が引いていった。
「きゅっ、楽になったっきゅ! これなら……」
 レーゲンは、清香の純花を辿って、それを頼みに相手を見据えた。
 兵器としての、ありとあらゆる世界の障害を殲滅する為の力。あり余るほどの、破壊の力。
 レーゲンは、その力を持っている。
 でも、今は、仲間を守るために使うと決めた。
 レーゲンの神気閃光が、あたりをまばゆく照らし出した。

●檻
 マルベートのナイフをかわし、身を焦がす紫雷を受け入れる代わりに、冥は一撃を入れたと考えた。しかし、マルベートが空中に投げたディナーフォークは、物理法則を曲げてありえない動きでくるりと刃を返して突き刺さった。
 穢命を綴るグランフルシェットとは、因果律を歪ませて自身にとって都合の良い運命を創り出す悪魔の権能である。
 塗りつぶし、あらゆる清らかなものを汚し、罪深き命の糧へと変える。
 そして、マルベートは腹を満たしていない。
「君の身は必ず私が守る。安心して思う存分に力を振るうといいよ」
「はい」
 正純のすぐ上を刃がかすめるが、正純は仲間を信じて眉一つ動かさない。その期待通り、マルベートが攻撃を喰らいつくした。
 冥の数は、残り3名。
「随分と射干玉な鴉が好きなんだな? でも赤いほうがもっとかっこいいぜ」
 暗闇からキラリと光るルビーのような真赤が、二つ。
 苛烈にて狩る側の色。
 壁へ、壁へ、後ずさる冥の一人はもう逃げ場がないことを悟る。
 怯えか、それとも挑戦か……逃げるように旋回していたカラスは、初めて宙で立ち止まった。
 赤を纏う一族。連綿と受け継がれてきた色。
 紅珞のシャルラハ。
「狂っちまいな、お前は獲物だ、もう逃げられないぞ」
 立場は、逆転している。
 今この瞬間、追い詰められているのはカラスであった。
 燃えるような赤が黒を追い詰め、カラスを見下ろしているのである。
「待って、何か、くるよ!」
 史之がいち早く警告を発した。妨害時のかすかな呼吸の乱れ。その律動を、史之は読み切っていた。
 だから、イレギュラーズたちは警戒することができた。
「ケエエエエーーーーーーーーー!」
 耳をつんざくような、一鳴き。
 それは、八咫姫が編んだ檻の籠。イレギュラーズを捕らえるための強烈な策。仕込まれた術。
「堕ちてもらうわ」
「いやだね」
 カイトは笑って風を切る。
「世界を壊したいほど世界を知ってるわけじゃないしな? お前のちっぽけな世界に付き合う気はないぞ」
(狙いは、これですか)
 カラスの鳴き声をかき消すように眩むような一撃が走った。魔性を纏い、邪魔するものを貪り喰らう一撃。ここを打破するためには攻勢と正純は判断した。正純はなおも、弓を手にする。
(この弓を引く手は止めません)
 闇夜に星が瞬いた。
 正純の一撃は、カラスの足を撃ち抜いた。
「……っ」
「取り押さえて!」
 八咫姫は叫ぶが、動ける冥は、もういない。
 この場所は八咫姫の庭である。
 完璧に編んだ術のつもりだった。しかし、発動させるにはあまりにも不都合が多い。
 カラスはカイトの一撃によって大きく揺らいでおり、そこへ正純が一射を放ったことで、術は大きく乱れている。
 魔力の流れは乱れ、経路に流れ込むアレクシアの花が、術を塞いでいる。
「おとなしく捕まったりはしないさ」
 紫電がばちばちと響き渡る。籠は、マルベートによって食い破られんばかりにたわんでいた。黒きマナ、これは取り込むことができない……。むしろ、じわじわと魔力を奪われていく。
「みんな!」
 アレクシアは叫んだ。立ちすくむ暇はなかった。クロランサスが輝き、闇の中に英魂の紅花が咲き誇る。
「俺は大丈夫! あそこだ、……カラスが媒介だ!」
 史之がクェーサーアナライズの大号令を放った。
「わかった、させはしない」
 狭まった檻が、何かを捕らえた。いや、違う。グリムの死骸盾によって呼び出された”なりそこない”であった。
 檻は壊れる。崩れ落ちてゆく。
「っきゅ!」
 もしも全力を出すなら、ここだ。
 仲間を守るなら、きっとここが正念場だ。
「消えてしまえばいい」。
 八咫姫が撒く呪いに。その気持ちに、レーゲンは覚えがある。
 独りの時は、レーゲンもよく思っていた。
(近づく人は皆自身を利用する為か畏怖するだけだから)
 だから、利用されて傷ついた少女の痛みが分かる。
 こんな世界、消えればいいと思っていた。
 でも、今は違う。
 グリュックと会い、独りじゃないと知って。
 ……また分かれて。
 悲しいだろう、壊してしまいたいだろう。こんな世界は。
 そうでしょう、と呪詛が撒かれる。
 けれど、レーゲンは体いっぱいでそれを拒否する。
(混沌には、この世界には今のレーさんを独りじゃないと認めてくれた人がいるから! この世界のどこかにグリュックの魂がいるかもしれないから!)
「レーゲンさん!」
 今だって、仲間がいる。
 傷ついたレーゲンの毛皮が、史之によってつややかに戻った。
「グリュックと共に守る為に、戦うっきゅ!」
 幾重にも分身したレーゲンのダークネスイリュージョンが、思い切りカラスをぶちのめした。
「お帰り頂くのは結構だけど、大切な仲間のお持ち帰りはご遠慮願いたいね」
 マルベートの周辺で、檻がぎりしと歪んだ。
(檻が、もたへん……)
 思いのほか抵抗が激しかった。
 狭めて、狭めて。これでは、引きずれてせいぜいが、”二人”。
「!」
 そのときだった。
 ヴォルペは、檻の中へと一歩を踏み出した。
 不意を突かれて、八咫姫は息を呑む。
 それは、囚われたとは違う。
「何を探しているのかな。よそ見はいけないと言ったね」
 ヴォルペが主体だ。誘われているのだ。
「君が上の思惑でもなく、築き上げた地位を捨てでも、それでも俺だけを求めるならばその手を取ろう。その全てを代償に、俺は君の望みを叶えよう」
 ヴォルペは、優しく手を差し伸べる。
「君が世界の破壊を望むなら、俺の腕の中で君の世界を壊してあげる。どんな非難を受けてでも、君の最期は俺が貰う」
 甘やかな声が響き渡る。
「美しき濡羽色の君、可愛い俺の瑠璃。
俺は世界を壊したいんじゃない。イレギュラーズ(せかい)の敵になりたいんだ」
 そう、はじめからただ一人、いれば良かった。
「ヴォルペ…………ヴォルペ!」
 八咫姫は、その腕をとった。

●向こう
 八咫姫の檻は砕け散る。
 アレクシアの清香の純花が咲き誇り、仲間を守る。その中にいればずいぶんと気分が楽になった。
「ヴォルペ君……」
 唯一、向こうに渡ったのはヴォルペであったが、おそらくはそれはヴォルペの意思だろう。
 檻は閉じた。仲間は誰一人囚われてはいない。
 八咫姫の、思惑は……全てを引きずって連れて行くという思惑は、破綻したのだ。
「よかった。みんないるね」
 アレクシアはひとまずの安堵の息を吐く。
「……それにしても、もっと裏でアレコレすると思ったら、派手に動き出したね」
「みんな、動ける? 辛いだろうけれど、今は立って!」
 史之のミリアドハーモニクスが、仲間を癒やしていった。
 ここは敵陣のまっただ中。立ち止まるわけにはいかなかった。
 カラスはよろよろとしながらも、闇に滑っていくのだった。
「はい。おかげで……おそらく、肉腫は深手かと。今、戻ってくることはないでしょう」
「よし、行ったみたいだ!」
 カイトがちいさく消えていく鳥を睨んでいた。
「大丈夫っきゅ?」
「ありがとう。いや、大丈夫だ……簡単にはやられてやらないさ。あの程度の器では、私を平らげることはできないよ」
 レーゲンのメガヒールがマルベートを癒やす。傷つくマルベートを正純が気遣わしげにみたが、マルベートはゆるりと首を横に振った。
 まだ、戦いは続いている。
 その意図を汲み、正純は再び弓を手に引き寄せた。ためらうことはない。仲間にならば、背中を任せられる。
「! 追っ手が来る……一度、退こう」
 史之の言葉の通り、次々と冥がやってくる。
 八咫姫の思惑は外れ、仲間たちは奪われることはなかった。ヴォルペは……。
「それが自分の意思ならば、……深追いはするまい」
 グリムは言った。おそらく何か意図があってのことだろう。何を思い、何を囁くのか……。
「きゅっ、……みんな、先に行くっきゅ!」
 レーゲンの神気閃光が炸裂した。
 敵の増援だけではない。仲間もまたこちらにやってくる。ここも戦場に変わるだろう。
 純正肉腫を退けたことは、大いなる成果だっただろう。後発隊の犠牲者は、……驚くほど少なかった。

成否

成功

MVP

ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐

状態異常

ヴォルペ(p3p007135) [不明]
満月の緋狐
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578) [重傷]
誰かの為の墓守

あとがき

七扇との戦闘、お疲れ様でした!
八咫姫の目的は、術を発動させ、ヴォルペ様含む全てのPCを連れ去ることでした。
ダメージソースの配分と防衛、鋭い攻勢、さらには交渉が幸いし、それは不完全であり、さらに、失敗に終わりました。
純正肉腫も討伐こそ果たせませんでしたが、大きな傷を負いました。

被害は、最小限です。
敵の元へと去ったヴォルペ様につきましては、また別途お誘いがかかるかと思われます。
それではまた、ご縁があったらお会いしましょう。

=====
捕虜なのか?:ヴォルペ(p3p007135)

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