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シナリオ詳細

<傾月の京>妖鬼之王

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しく、怪しい輝きを放つ月が、空に浮かび上がっていた。
 月明かりに照らされ、しん、と静まった高天の京が入り口に影があった。
 中央に立つ者の額には一本の角。蜘蛛か何かの足を思わせるその角が歪に伸びていた。
 その影の後ろには、3mほどの怪物が従っている。
「……ほう、直接見るとなかなかではないか」
 一本角の影の後ろ、3mほどの怪物を見上げて、狩衣姿の男が感嘆の声を上げる。
「何ぞ用でもあるのであろう?」
 男の言葉を無視して角の生えた女――紫は男へ問いかけた。
「長政だったか……オマエが直接姿を見せたのだ」
「あぁそうだ。貴様に罪人をくれてやろう。
 今、刑部省の人材の多くは宮中にいる。監獄の防備は皆無だぞ」
「それを知らせるためにワタシをわざわざ呼んだのか?
 聞いてやる理由もないであろう」
「はっ、良いのか? 貴様の手札を増やせる機会だぞ」
 紫に笑って、男――長政はそう告げた。
「私はその刀が産む物が多くほしい。そこは共通しているはず、違ったか?」
 紫はそれに答えず長政の横を通り過ぎて京の中へと消えていく。
「……ふん、扱い辛い女だ。まぁよい……あの刀が産む鬼は戦力として都合がいい。
 今はせいぜい増やしてもらうとしよう」
 紫を見送った長政の声が、名月の京の中に溶けていった。

 かなり目立つ状況であるはずにもかかわらず、誰かが彼女たちの存在を見咎めるということはない。
 長政の言っていた通り、この辺りの刑部省の者達はみな、宮中に回されているという事か。
「ふふ、待っててね。頼々クン――」
 華美な部分などひとつもなく、ただひたすらに防御性能だけを高めた堂々たる御門。
 本来であれば、立ち止まれば確実に声を掛けられるばかりか、四方から弓を構えられ、槍で取り囲まれる厳重地区。
 ――ここはカムイグラ。高天京において、犯罪者を収監する監獄。
 その中でも、凶悪な武闘派の犯罪者たちを収監する収容所である。

 思わずつぶやいた言葉に、胸が躍る。
 こんなにも、こんなにも胸を締め付けるほどに、愛おしい(悍ましい)
 あんなにもひ弱で非力なのに。首を絞めれば折れてしまいそうなのに。
 この身へと食らいつこうとし続けて――気づいたらもう、新しく二つも出来てしまった。
 そう、と掌でうっすらと残る傷痕を触れる。
 ここまで来たのだ。
 だから。あぁ――あぁ、きっと。この身が彼に殺されたとしても。
 その時はきっと、もっともっと。あの子は――――

「開けよ」
 振り払うように、紫は声を上げた。
 抜き身の刃を門へと突きつけるように構えれば、後ろにいた3mほどの大きさの怪物どもが門を開けようと動き出す。。
 門は鍵も閉められてないのか――あるいは、鍵を開けてから行ったのか。
 門は音を立てながら開いていた。


「……皆様、高天京の監獄へと行ってくださらないでしょうか」
 アナイス(p3n000154)が集まってきたイレギュラーズへとそう言った。
 満月の今日、高天京の中央、御所のある区域では『大呪』の発動を計画しているという。
 それだけにはとどまらず、イレギュラーズの転送拠点たる『此岸の辺』へと攻撃が仕掛けられようとしているという。
「今回、これまで紫は、罪人を鬼にも似た怪物に変えてました。
 今、高天京の監獄の防衛に回されるはずの戦力が、皆様を宮中で待ち受けるために回されています。
 ――つまり、今の監獄は無防備です。この状況で監獄に紫さんが突入すれば……その被害は計り知れません」
「あのクソ鬼が、その監獄とやらに乗り込む絶好の機会というわけか」
 集められたイレギュラーズの一人、『虚刃流開祖』源 頼々 (p3p008328)は目を閉じた。
「分かった。行こう――奴は、どちらにしても殺さねばならん」
 胸が疼く。この世界に来て――この国で、今までではあり得ぬものを知った。
 たらればが思い浮かぶことはある。
 けれど――本当に悪鬼と化したあの女を殺すのは、きっと自分の責任なのだ。


 足音がした。感じ取る気配に心が躍る。
 紫は、静かにその場で振り返る。
 月下に映える長髪が静かに流れた。
「こんばんは、頼々クン。来てくれたんだね」
 口角が緩む。漏れる、零れる。
 最初に再開したあの時よりも、ずっとずっと――
 すっと心に何かが落ちて、荒ぶる嫌悪に空間が軋みを上げた。

GMコメント

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

複雑に絡んだ思惑を阻止いたしましょう。

●諸注意
 本シナリオと『<傾月の京>月下に踊る鏡と蛇』は、どちらか片方しか参加出来ません。
 あらかじめご了承くださいませ。
 
 
●オーダー
【1】紫の撤退
【2】罪人を出来る限り脱獄させない

【1】【2】どちらか片方の成功でよいものとします。

●戦場
高天京内部、罪人を収監する監獄――それも、任侠者や殺人鬼のような武闘派層が収監されていた収容所。
土牢や鉄、木材など様々な素材を利用して作られた独房形式の大監獄です。
広々とした中庭が存在しており、ここが主戦場となります。

皆さんは紫突入の直後に後から突入した形になります。

●エネミーデータ
【紫】
『虚刃流開祖』源 頼々 (p3p008328)さんの関係者です。
魔種に匹敵する高いスペックを有した旅人です。
尋常じゃない再生能力を有しており、生半可な火力では直ぐに復活してしまいます。
ここで止めなければ、彼女の戦力が増えていくでしょう。
なお、今回は明確に皆さんとの戦闘をしようとしてきます。

これまでの戦いで【足止め】系、【麻痺】系、【飛】、【ブレイク】のBSらしき技を使ってきました。
ただし、これらはどちらかというとあくまで『目的の邪魔に対する迎撃処置』のスキルです。
明確に皆さんを倒すつもりで放つスキルは不明ですが、彼女の性質を考えれば、神攻スキルであろうことは推察できます。

【妖鬼】×2
便宜上名付けられた紫が<妖刀・鬼喰>で斬り伏せた存在が変化した物。
トータルファイター型。
<スキル>
鬼眼之呪:神超単 【万能】【猛毒】【業炎】【麻痺】【呪殺】
鬼闘殲:物近単 威力大 【必殺】【ブレイク】【スプラッシュ2】

●特殊ルール(罪人脱獄)
 戦闘開始後、4Tを過ぎたあたりで囚人たちによる脱獄が開始されます。
 以後、1Tに着き、1~2人ほど、鬼人種の囚人が中庭に出現します。

 彼らは監獄内で広まっていた噂から紫さんを味方と思い込んでおり、
 紫さんの方へと接近していくか、監獄の外へ向けて全ての行動を移動に費やして脱獄を試みます。

 これらの囚人が6人、監獄を突破した時点で、成功条件【2】は失敗とします。

●特殊ルール(獄吏出現)
 脱獄開始から16T経過後、戦場に刑部省所属の獄吏が出現します。
 彼らはPCと紫さんを『監獄へと侵入した犯罪者』と判断し、
 脱獄済みの罪人を含み全てを『再収容』するべく動き出します。

 捕らえられてしまった場合、PCは下記『捕虜』判定を受けます。
 ここまでくると事実上の失敗です。退却を推奨します。

●紫撤退条件
【1】HPが一度でも6割を切る、
【2】HPの合計消費量が最大値の1.5倍以上となる。
【3】囚人6人の妖鬼化を果たす。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 当シナリオに関しては、皆様も紫も平等に『監獄への侵入者』として捕縛される可能性があります。
 捕縛されたなら、PCの場合は『刑部省に捕縛』され、【不明】状態となるでしょう。
 紫さんの場合、こちらは捕縛後に『近衛 長政の手で釈放』されてしまいます。

  • <傾月の京>妖鬼之王Lv:20以上完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月05日 22時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
ルチア・アフラニア(p3p006865)
「Concordia」船長
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
天目 錬(p3p008364)
魔剣鍛冶師
ハンス・キングスレー(p3p008418)
虚刃流直弟
喜久蔵・刑部(p3p008800)
『元』獄卒

リプレイ


 月明かりの下、長髪を風に揺らめかせた女――紫が、イレギュラーズを回し見る。
(被害は、最小限に……
ただあの人の、撤退だけで済ませる、ように……)
 ウェーブかかった銀髪が風に煽られるのを押さえた『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は一つ深呼吸する。
「いきましょう。わたしも、できる限りお手伝い……します」
 そう言ってギュッとタクトを握り締めた。
「ハッ。イイオンナだからって容赦しねえぜ。
 ボコボコにされて泣きながら逃げる覚悟は出来たかよ?
 最初(ハナ)っから言っておくが、おれさまはメチャクチャ強ェぞ!?」
 斧を担ぐように持って啖呵を切った『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)を女がちらりと見る。
(罪人とはいえ、人ならざるモノへと変えられてしまうような事まで犯したわけではないでしょうに……)
 この監獄に収監されているという罪人たちを思う『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は祈りをささげた後に油断なく敵を見る。
(ああ、実力は確かなのだろう。だがそれよりも、行動や思考が読めないことの方が脅威に感じるが……さて)
 ゆったりとその場で笑む敵を見ながら、『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)は拳銃を構えた。
「まぁったく、囚人どもの脱獄たぁ太ぇ考えの奴もいたもんだぁな。
 そんなことをすりゃあ、神威神楽は間違いなく地獄になるぞ」
 両の手足を呪具に覆いつくされた鬼人種『『元』獄卒』喜久蔵・刑部(p3p008800)は今回の件の大本にいるであろう誰かに意識を向ける。
「あのクレイジーな鬼さんはヨリヨリの知り合いなんだっけ?
 魔物を量産出来るノウリョクはちょっとカンベンして欲しいよね」
 こちらまで漂ってくる濃密な神秘性を受けながら『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は笑っていた。
「あぁ……」
 言葉少なに頷いた『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)は腰に佩いていた鞘――歪な形状をした角を握り締める。
(奴の蛮行を止めるのも、奴を殺すのも我の責務。
 今の我の一撃が紫を殺すに足らぬというなら二撃、三撃……死ぬまで殺しに行くだけの話)
 考えても仕方のないことは、ひとまず心の奥に潜ませる。
 結局、ここまでのことをしでかした以上、彼女が許されることなどありえない。
 ――いや、それ以前に。
 ここまでのことが道のりの一つにすぎない以上、止める方法などひとつしかない。
 握りしめる角が、嫌に熱を帯びたような、酷く手になじむ気がする――そんな気持ちを振り払う。
「それよりも、自ら監獄に出向くとは殊勝なことではないか、なあ紫?」
「あははは! ここじゃ狭すぎるよ!」
 まるで大したことないと言わんばかりに、鬼が――もはや明確に、『いてはならぬもの』の意味で使うに足る者とかした紫が笑っている。
(とっくに分かってる。いつか、彼は命を懸けてこの女と殺し合う。
 だったら全力で戦えよ。……詭弁でもなんでもなく!
 召喚されてから繋いだ縁は、確かに君が得た力の筈なんだ)
 頼々の背中を見据えた『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は言葉に出すことなくそう、静かに思う。
 美しき青い翼を広げ、ハンスは自らのギフトを意識的に振り絞る。
(頼々も厄介な女に狙われているものだ。
 俺がどれだけ力になれるかは分からんが、まぁ同じ日に召喚されたギルドメンバーの誼だ
 やれるだけやってみようじゃないか)
 上位練達式を作製した『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は式符を構えて敵を見る。
「さ、怖いお役人さんが来るまでにバカ騒ぎを終わらせなきゃね!
 気になることは多いけれど今はこっちに集中!」
 話を切り替えるようにイグナートはそう言った。
 囚人たちが逃げそうな扉を事前に防ごうとも考えていたが、自分たちの後ろにある城門以外には逃亡できそうな場所はない。
 ひとまずは自分たちがいることで盾代わりとするしかなさそうだ。
(刑部の人間が何故に……今は影も掴めねど)
 刑部省が魔種の側に立っていることはおおよその推察が立っている。
 思考を纏めなおしながら、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は魔書より戦旗――刀の形を取ったそれを取り出した。
「神がそれを望まれる」
 いつものように、その言葉を紡ぐ。
 対するように、女が笑った。
「もう、いいよね――」
 憎悪を向ける相手が死の淵に立ったのを喜ぶかのように笑った。
 先手を取るはハンスだった。
 低空を飛行して、少しながら前へ。
 そのまま、少し深呼吸する。
 自分が溶けだしていく。
 今までなら、そうすることを嫌だと、魂が揺らいだだろう。
 けれど、今は不思議とそれほどじゃない。
 蕩け、揺蕩い、融けだした其を、ハンスは静かに世界へと映し出す。
 その瞬間、何もないはずのそこが、波を打った。
 揺らめき、溢れ、漣を立てる。
 零れ落ちたそれは虚構の大海。
 ぽっかりと開いた海の中へと、妖鬼の1体と紫が落ちた。
 妖鬼が体勢を崩し、ハンスに視線を向ける。
「――さぁ、ヒーロータイムだ」
 それに続けるように動いたのはスカルだった。
 パイルバンカー片手に走り抜けたスカルはハンスが攻撃した妖鬼の死角に移動すると、その腹部へと拳銃を突きつけ、引き金を引いた。
 魔力を帯びた実弾が爆ぜ、妖鬼の腹部の肉を削り落とす。
 イーリンは続くように剣を構えて走り抜けた。
 剣身に帯びるは雷霆。
 スパークを爆ぜ、描き出すは雷の『波』――
 稲光と雷鳴を鳴らしながら振り抜いた。
 閃光と共に描かれる雷の波は妖鬼と紫を狙い澄ましたように撃ち抜いた。
 続くようにイグナートが動かんとしたその時だった。
 紫が動いた。ごく自然に――或いはごく適当に。
 刀が振るわれる。技術として振るったのではなく、ただそう指向性を持たせただけのように。
 直後――頼々の身体に傷が浮かぶ。
 油断などしていない。それでも、防御をする瞬間が掴めなかった。
 熱を感じて、思わず触れた場所がしっとりと濡れていた。
 ――超レンジ。範囲は、自分だけ。
(なるほど……我が貴様の力の一部を引き出したのだから、同じことができないはずがないか)
 首を傾げた女は、愉しげに笑っている。
 イグナートは爆ぜるように疾走し、黒鉄の拳を握り締める。
 雷鳴が吼えるようなスパークを迸らせ、強く踏み込んだ。
 そのままに放つはまっすぐに突き立つ拳。
 一撃を受けた妖鬼の視線がイグナートへと注がれる。
 走り抜けた錬は式符を放つ。魔力による輝きを放った式符は無数の金属槍へと姿を変質させ――横列を描いて妖鬼へと撃ち込まれる。
 それは宛ら隊列を組んで突撃するパンクのように、鮮やかな金色の横陣が真っすぐに妖鬼の身体を貫いた。
 フェリシアは頼々の下へと近づくと、最適化を齎す特殊魔術を頼々へと注ぐ。
 そのまま一気に後ろへと後退すると、指揮棒を振るう。
 どこからともなくあふれ出した穏やかな波の音を耳に入れた頼々の致命傷が癒えていく。
 紫へと接近し、どこからか取り出した革袋の水筒を煽るように飲んだグドルフは、そのまま大きなゲップをかます。
 尋常じゃない悪臭のそれが紫へと漂っていく。
 不愉快そうに紫が顔をしかめた。
 ルチアは自らの指揮を振るう。
 的確に発された大号令は、名もなき兵士を英雄へと押し上げる全軍銃帯の号令である。
 研ぎ澄まされた感覚がイレギュラーズの技術を押し上げる。
 喜久蔵は鬼人種の象徴でもあるその巨大な鬼の腕を引き絞ると、傷を受けている思いっきりへと叩き込む。
 傲慢極まる暴威の左腕が妖鬼に防御さえ許さずその強烈な一撃を叩き込む。
 頼々はいびつな角を頼守へと納めた。
 深呼吸する。一気に走り出し射線を変えて、こちらを見ながら笑う女へと、紫染を抜いた。
 空想の刃ごとに抜き放つ納抜刀が迸る。凄絶な一撃が撃ち込まれたその身体に風穴が開く。
 数多の支援を受けた一撃は、普段使うソレよりも使い勝手が良くなっている。
 紫の身に宿る致命的な傷口は、閉じない。
 妖鬼が雄叫びを上げる。
 奇襲気味に殴りつけたスカルへと苛立ちを向けるように体当たりをかまし、拳を叩きつける。
 その行動を補佐するように、もう1体の視線がスカルへと注がれた。
 強い呪性を帯びた視線が、スカルの身体を内側から痛めつける。

 深呼吸する。紫と、削りにかかっている方を中心とすればどうあがいても至近距離にいる仲間を巻き込む。
 だが、もう一体の方へ近づく妖鬼を中心とすればそれほどでもない。
 ばさりと、自分の翼が羽ばたく音が嫌に耳に着いた。
 その一方で、視界に映った青い翼が自然と心を安定させる。
 再びあふれ出した海が、妖鬼たちを水底へと誘っていく。
 スカルは至近距離に立ち、自分へと拳を向けた妖鬼に対して反撃に出た。
 思いっきりパイルバンカーで殴りかかり、そのまま引き金を引く。
 爆ぜた銃弾が、真っすぐに妖鬼をぶち抜いた。
 頼々も再び頼守に収めた角を抜き放つ。
 超距離を一直線に削り取る空想の刃が紫を穿つ。
 まだ、傷は癒えない。この調子であれば、思ったよりも早く――そう思った刹那。
「ふふふふ、いいよ、良いよ頼々クン。やっぱりそれ、とっても素敵だよ!
 ワタシももうちょっとだけ頑張ってみようかな」
 頬に手を添え悦に浸るように笑う女が、動きを見せる。
 その瞬間、紫の傷が癒えていく。尋常じゃない治癒速度だった。
 彼女が行動を始めるのとほぼ同時、与えた状態異常がまるで大気中に溶けだすかのように消えてしまっていた。
 空間が強烈に軋みを上げる。
「オマエたちの多くは目障りだけど、頼々クンを強くする奴らは見逃してあげる――だから」
 その視線が、紫の前に立つグドルフを見下ろして、すたすたと紫が歩く。
「オマエからだ」
 そう言った紫の声の直後、グドルフの身体が後ろへ吹っ飛んだ。
「ハッ! 言うからにゃどんなもんかと思ったが、こんなもんかよ?」
 斧を構えなおして言い放った啖呵に、相手は見ていなかった。
 身体が痺れたように動かない。
 自らにも最適化魔術を掛けたフェリシアはタクトを振るい、英雄を賛美する詩を歌う。
 誰かを勇気づけ、誰かを奮い立たせるその旋律は穏やかに浸透していく。
 ルチア指揮棒を振るう。その指揮は魔力を撹拌し、自らの者へと昇華させる。
 指揮に応じて高められた魔力は自然に言葉に乗って旋律となり、グドルフが受けた状態異常を取り払う。
 グドルフは再び紫の前へと攻め上がるや、もう一度酒臭い息を吹きかける。
 対する紫は目を細めたままグドルフを見ていた。
「上手くいくといいのだけれど……そちらに行くのはまだ速いわ」
 こともなげにそう言ったイーリンの紫苑の瞳が魔を孕む。
 魔眼の縛りに引き付けられるように、妖鬼の視線がスカルからイーリンへと変わっていく。
 雄叫びを上げ、拳を振り下ろしてくる。
 真上から振り下ろされたそれを剣で防いで見せるが、衝撃で加護が外れ――横殴りに真正面から撃ち込まれた拳が綺麗に入る。
 イグナートは自らの拳を握りなおすと、呼吸を整える。
 合わせるように動いてきた鬼の拳に応じるように、ひたむきにその拳を叩きつけた。
 雷鳴を帯びた拳が妖鬼のそれと合わさり、衝突が風となって吹き付ける。
 錬は再び符から金の槍を生みだすと、紫と妖鬼を合わせるような位置取りを改めて、槍を放つ。
 真っすぐに伸びた槍が2人の隙を突くように迸る。
 順調に削っていっている片方へ向けて、喜久蔵は自らの拳を振るう。
 鬼人種としての巨大な腕が妖鬼のそれを削るように振り抜かれる。
 ただの殴打。けれどそれは人を殺すことを目指した傲慢なる左の一撃であった。


 応酬は続いている。連携の取れた攻撃により、既に1体目の妖鬼は大地に伏した。
 2体目との継戦を果たさんと動いたその時だった。
「おいおい、なんだぁ、こりゃあ!」
 新手の声。した方を見れば、監獄から2人の人影がある。
 風貌は明らかにカタギではない。
「ほら、あそこにいるいい女、あれが助けてくれるっていう女じゃないです?
 あの伸びた角とか特に」
 片方が言う。伸びた角がある女は、今この戦場にて一人しかいない。
「あぁ、なるほど、あれが。ってことは、あっちのやつらはなんだ?」
「近づくな! 之がそちらに与するか、獄囚なら嗅覚を使え!」
 イーリンが声を張り上げた。
 それを聞いた2人が、じっとイーリンを見る。
「まぁ、たしかに。そっちの女はやばそうでもあらぁな。お邪魔するとするか」
 いうや、2人の人影が外に向かって走り出した。
「オメェ等そこから一歩でも出でみやがれ、必ず全員見つけ出してその首ねじり取ってやるぞ」
 喜久蔵が一喝する。だが、こんな場所にぶち込まれているような奴らが恫喝で委縮するはずもない。
「そりゃあ良かった! ぜひとも見つけてくれや!」
 カカ、と笑って先頭に立つ男が速度を上げる。
 錬はそんな囚人たちへ向けて練達上位式をけしかけた。
 しかし、式は有刺鉄線を置いたところで、近づいてきた囚人に殴り飛ばされて紙に還る。
「女にコウベを垂れて、バケモノに成り下がってまで檻から出たい、
 なんて恥ずかしいことを思ってるんじゃなきゃオレにかかって来なよ!
 オレを倒せたら好きに出て行くがイイさ!」
「それはどっちもいやですね。お外でお待ちしておりますよ、色男さん」
 名乗り向上を上げて割り込んだイグナートに対するもう片方の言葉も連れないものだ。
 だが、割り込んだことで目の前の男には相対できる。
 そのまま、踏み込み、思いっきり拳を叩きつけた。
 だが、芯には通らない。ぎりぎりの体捌きで勢いを殺される。
「逃げよ、すぐにな」
 紫がそう声を上げ――イグナートの身体にずっしりと重い圧力がかかる。
「いいの、おばさん? 手ごまが欲しいんじゃない?」
 最前衛へと跳びこんで言い放ったのはハンスだ。
 思考を神秘へ奉納し、現実へと産み落とすは虚構の扇。
 火焔を帯びるそれを、ハンスは横に薙ぎ払うように打ち据えた。
 近距離を巻き込むソレは、位置調整も相まって仲間を巻き込むことはない。
 紫の身に、炎が散りついた。
「あの程度、ここでやらなくとも何時でも切れる。
 ――どうでもいいもので無為にするのもあほらしいであろう?」
 紫が静かに言い切った。
 恐らくは、彼女も気に食わないのだ。彼女が手を組んでいる相手のことが。
 間違いなく紫は誰かと利用しあっているのであって、協力体制も何もない。
 だとしたら――今回ここに立って、イレギュラーズを相手に立ちまわっているのは本当に『殺し合い』をするためなのだろう。
 偶然に舞台が用意されたが故に使ってる、大雑把に言えばその程度だ。
 紫の視線がハンスを見るその時、頼々の空想の刃が爆ぜるように駆け抜けた。
 それに続くように動いた錬は金色の槍を紫へとけしかけた。
 弾幕のように伸びる一撃の一本が、紫の身体に突き立った。
 グドルフは神秘の霊薬を煽るように飲み干すと、大上段から大ぶりの一撃を叩き込む。
 文字通りのぶった切りが紫に防御の隙さえ与えず刻まれた致命傷を深くした。
 スカルは引き続いて残っている妖鬼へと攻めかかる。
 魔力を帯びた弾丸をぶち込み、妖鬼への奇襲を叩き込んだ。
 猛り狂う妖鬼の視線は、相変わらずイーリンに注がれている。
 イーリンも自分にそれが注がれていることを理解するや、魔眼の掛けなおしに図る。
 真っすぐに見据えたその紫苑の色に、魅了されたが如く妖気が雄叫びを上げ、突っ込んでくる。
 初撃、二撃を共に体捌きで勢いを殺して構えを続けていく。
 フェリシアはイグナートへ向けて魔性の号令をかけた。
 魔力を帯びた言霊は、イグナートを縛り付ける神秘性の重圧を打ち消すように渦を巻く。
 その一瞬を突いてイグナートが離脱する。
 休んでいる暇などない。イグナートは前を――先程囚人たちが出てきた方を向いた。
 あそこの扉がある限り、第二、第三の波が来る。
 ルチアは指揮棒を振るう。自らの内側を安定させ、調和を作り上げるための指揮を。
 それを賦活へと変質させたルチアは、イグナートに向けて注ぎ込んだ。
 喜久蔵は拳を握り締めると、意識を集中させて踏み込んだ。
 全体重を乗せて叩き込む怪腕による傲慢なる暴威は、妖鬼の腹部を抉り取った。

 ハンスは再び魔力を込めた。
 先ほど与えた状態異常は、紫の能力ではぎ取られている。
 虚構の大海を、虚ろなる火焔の大扇を、紫めがけて叩きつける。
 与える状態異常を、いつどのタイミングではぎ取るのか――それを見る為に。
 紫が刀を掲げ、振り下ろした。
 技量も何もないその振り抜きは、頼々とその付近にいたフェリシアへと放たれる。
 一直線上――ではない。
 頭上から一定範囲に打ち下ろす空想の刃。
 恐らくは、刀などいらぬ。刀を使って辺りを付けているに過ぎないのだろう。
 頼々の放つ虚刃流のような一撃が叩きつけられた。
 ルチアは攻撃を受けた後衛を見るや、直ぐに調和の力を賦活に転換し、フェリシアへともたらした。
 温かな調和の光が、受けた傷を癒していく。
 フェリシアは自身にかかっていた最適化の魔術が掻き消えていることに気づくや、クェーサーアナライズとソリッドエナジーを頼々にかけなおす。
 号令と魔術支援を受けた頼々は、衝撃で手から零れていた紫の角を握りなおすと、魔力を込める。
 ぴしりと砕けたゼピュロスの代わりに、頼々は全霊を込めた刃を振りぬいた。
 錬は駆け抜けた空想の刃に続けるように、もう一撃を撃ち込んだ。
 ずらりと並ぶ金色の槍を、まるで矢か何かのようにけしかけ、撃ち抜いていく。
 突き立つ矢に合わせるように、酒臭い息を吹きかける。
 連続して齎された傷と、状態異常とそれによる呪いが、紫を内側からむしばんでいく。

 イーリンの髪がふわりと浮かぶ。握りしめた剣に力を籠める。
 精気をこの世ならざる地へと押し込んで――ただ瞳だけを紅玉の如く輝かせた。
 いつのまにか、その手に握る剣には魔力の奔流が揺蕩っていた。
 振り抜き放たれるは紫の燐光。紫苑の奔流。
 全てを撃ち貫く強烈な斬撃が妖鬼の片腕を吹き飛ばす。
 その軌跡は紫をも巻き込み苛烈な一撃となって戦場に刻まれた。
 それに続くようにスカルと喜久蔵もはねるように動いた。
 スカルは幾度目かになる弾丸を銃装に込めて、妖鬼に肉薄する。
 露出した筋肉を殴りつけ、そのまま引き金を引いた。
 その衝撃に、妖鬼が思わず悲鳴を上げる。
 続くように喜久蔵も走る。
 スカルが残した弾丸を、より一層深くに打ち込むように、思いっきり露出した部分を殴りつけた。
 イグナートは名乗り向上を上げて2人を抑えるイグナートは、自身の向上の届かぬ距離を走り抜ける敵に向かって駆け抜けた。
「ごめんネ、逃がすわけにはいかないヨ!」
 握りしめた拳が、バリバリと黒きスパークを立てる。
 不殺など用意している暇はなかった。
 最悪死ぬかもしれないが――武闘派たる彼らであれば、きっと耐える。
 そういうことにして、拳を思いっきり振りぬいた。


 扉の向こうから、また囚人が2人姿を現した。
 イグナートは彼らが反応するよりも前に、堂々たる名乗り向上を上げる。
 今度は釣られた敵が、イグナートの方へと走り寄ってくる。
 その様子を見据えながら、腰を落として構え、静かに拳を握り締め、届く距離まで来ると同時に拳を撃ち抜いた。
「そろそろ眠りなさい」
 囁くように、イーリンはつぶやいた。
 紫苑に輝く魔眼の呪いは、その言葉と共に剣をじんわりと浸透していく。
 静かに、剣を振りぬいた。
 斬撃が妖鬼の身体を大きく切り裂く。
 それに続けるように撃ち込まれた魔力の刃が、妖鬼の腕を両断する。
 喜久蔵もそれに続くように拳を再びその抉り取られた肉体目掛けて叩きつけた。
 防御を許さぬ必滅の拳を引き抜けば、妖鬼が苦しげな声を上げる。
 ハンスは紫の動きを見据えながら、動きを定めようとしていた。
 敵の抵抗力は高くはない。低くもないだろうが――それでも、通る分は通る。
(例えるなら僕はきっと、勝手に舞台に上がり込んで踊らんとする邪魔者で。
 二人の終わりに、自分の姿は求められない。
 でもーーそんなのさ、認めてたまるかって思うんだ)
 真っすぐに思う心はその足に爪を生みだしながら。
(友達が死ぬとか冗談じゃない。
 ただ隣で、絶対に諦めない為に)
「今日という日の花を摘め」
 零れ落ちるように呟いた言葉。その言葉に呼応するように、脚甲が生み出す虚ろなる爪。
「ブチ抜いてあげるよ!」
 間合いを開ける様に飛翔し、槍のように真っすぐに紫めがけて突撃する。
 青き翼を引き、光すら置いていく蹴撃が紫を貫いた。
「……これはその時まで残しておくつもりだったんだけどなぁ……
 いいや。見せてあげるね」
 直後、空間が歪んだ。紫を中心とする歪みが、周囲にいたイレギュラーズを巻き込み――プツン、と音を立てた。
 防御技術を駆使する暇などない。咄嗟の回避さえできない。
 大雑把に自分の周囲の空間にいるすべてに対する技だった。それでもごっそりと生命力が削り取られる。
 継続した戦いの中で傷を負っていることもあるが、これ以上幾度も食らえば拙い。その手の技だ。
 かつて星の海を酒に変えたという彼女の力の規模を、ごくごく小規模で――自身の周囲のみで再現した技だ。
 可能性の扉を開いた錬は、再び符より呼び出した槍を叩きつけた。
 その身に幾つかの槍を突きたてられた紫が、錬のことをちらりと見る。
「悪いが、最後まで足がかせてもらうぞ」
「その傷で立てるとはな」
 錬はその言葉を受けながら立ち上がる。
 その身に、魔性を帯びた号令が放たれた。
 回復を阻害する傷口の呪いが癒えていく。
 それを確認したルチアは更に神聖なる天使の福音を錬へと注ぐ。
 温かい純白の福音による、穏やかな力が降り注ぐ。
 紫の前に、グドルフは身を躍らせた。
 先ほどの技を受けた中では一番傷が浅い。
 これはどちらかというとタフネスさと回避能力のおかげで元々の体力に余裕があったからだ。
 グドルフはそのまま紫へと突っ込むと、回し蹴りを叩き込み、そのままヤクザキックを叩き込んで紫を後ろへ吹っ飛ばした。
 呼吸を整えながら、自らの生存への最適解を選び取る。
「いくぜ、出し惜しみは無しだ」
 妖鬼の討伐からいち早く動いたスカルは、紫の背後を取るや、握りしめたパイルドライバーに魔力を込め、引き金を引いた。
 奇襲攻撃となったその魔実両弾が、防御しきれなかった紫の身体を大きく穿つ。
 フェリシアはそんな仲間たちの様子を見ながら、幾度目かになる魔性の号令を放つ。
 その号令は仲間たちの失いつつあった気力の幾つかを呼び戻し、状態異常さえ打ち消して万全へと押し上げる。
 射程外にいた頼々は鬼の角を握り締める。
(殺しきれぬ……やはり、あれを使うしかないのか? いや――駄目だ。
 やるならここではないいつか……)
「いつか、貴様と、貴様の犯した罪ごと叩き切ってくれる……」
 その果てに自分の命を懸けることになってでも。
 まっすぐに見据えて、仲間たちの支援を得てもそろそろ打ち止めになりそうな魔力を込める。;
「楽しみにしてるね――頼々クン」
 これまでで一番、嬉しそうな笑顔を浮かべた紫へと、頼々は刃を叩きつけた。


 戦闘は継続していた。イレギュラーズの傷も増え、パンドラの箱も開いていた。
 一方で紫の傷も増えてきている。数度に渡って致命傷を与えている――はずだった。
 効いていないわけではない。ただ、その致命的な傷が致命的な物でなくなるのが異常なまでに早い。
 その一方で、多彩なサポートと、隙の無い連携が功を奏し、イレギュラーズ側もパンドラの箱が開いていることさえ除けば致命的なミスはない。
 よく言えば、徐々に拮抗している。悪く言えば、攻め手に欠ける。そんな状況となりつつある。
(自分が受けた状態異常を確率で消失させてるのね……)
 敵の状況から、イーリンは何となく辺りを付けていた。
 ならば、彼女を殺しきるのに足りないものがある。
(だとすると、より多くの手数でより多くの手傷を負わせる必要性があるわ。
 致命傷が癒されてなお、アドバンテージを取れるぐらいの攻め手がいる……)
 ごく単純な――だからこそ一番厄介な答え。
 ――殺しきるには人手が足りない。
 より多くの人手が。出来うるならば純粋なアタッカーが二桁は欲しい。
「あー良かった。収穫はたくさんあったし、今日はもういいかな」
 ひどく歪に、嬉しそうに笑った紫が身体に刻まれた複数の傷を撫でる。
「ふふふふ! じゃあね、頼々クン!」
 そう言うや、紫はイレギュラーズを避けて監獄を抜け退いていく。
 だが、イレギュラーズにも一息入れる時間はなかった。
 足音が聞こえてくる。
「獄吏が来てるみたいだネ」
「こんなところで捕まってたまるかよ!」
 イグナートとグドルフの言葉に応じるように、イレギュラーズはその場を後にした。


 翌日、脱獄者の存在も、監獄への侵入者の存在も明らか――にはならなかった。
 多数の脱獄を許したという失態の隠蔽か。
 あるいは、まったく別の理由だからか。
 それは分からなかったが、これだけでおわることはないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

天目 錬(p3p008364) [重傷]
魔剣鍛冶師
ハンス・キングスレー(p3p008418) [重傷]
虚刃流直弟

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
ひとまずは傷をお癒し下さい。

今回の戦闘で紫の特性の幾つかが判明しています。
正直、ここまで出す気はなかったので、
皆様の連携と作戦の賜物といえるでしょう。お見事です。

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