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シナリオ詳細

Aus der neuen Welt

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●日常とカーテン一枚だけを挟んで
 閑静な街を、ヨハン=レーム (p3p001117)は歩いていた。
 煉瓦で美しく舗装された道に靴を鳴らして、紙袋からフランスパンを出して。
 小さな依頼を終えた帰り道。とっておいた宿へ戻るさなかのことであった。
 口ずさむ鼻歌は穏やかな、家路へ帰ろうという意味の歌だった。
 鼻歌がひとしきり盛り上がり、ついうっかりスキップでもしそうになった、その矢先。
「ヨハン、お久しぶりです」
 と、虚空から声がした気がした。
「――!?」
 咄嗟に声のしたほうへ――自分の真後ろ20センチの距離へと素早く振り返った。
 いや、振り返るだけで留まらない。一切の気配を示さず注意ももたれず、やろうと思えばいつでも頸動脈を指で撫でられる距離まで接近していたのだ。
 ヨハンはビリビリとスパークを放ちながら飛び退き、戦闘の姿勢をとり――。
「反応の遅さは克服できていないようですね」
 と、ヨハンの真後ろから再び声がした。剣を抜こうとした手首を押さえられ、後ろからのぞき込むように金髪がかかる。
「リ、リルテア……さん、ですか?」
「はじめに声を聞いた時点で気づいておくべきでしたね?」
 ヨハンから手を離し、まるでどこにでもいる町娘のように……リルテア=ブライトストーンはスカートをつまんで小さく頭を垂れた。
「今すぐ、ローレットのお仲間を集められますか? 至急動いてほしい案件があります」
 まるで手品のように取り出した二つ折りのカードを見て、ヨハンは解きかけていた緊張を再び引き締める。
 そうだ。
 『彼女』が現れるということは、『彼ら』が動くということに他ならない。
「『新世界』が行動を始めました。いや……終えていた、というべきでしょうか」

●アドラステイアと新世界
 まず話に移る前に、独立都市『アドラステイア』と旅人抗議団体『新世界』について説明しなければなるまい。
 かつてアストリア枢機卿時代に行われていた魔種支配は天義を悉くに腐敗させ、冠位魔種ベアトリーチェによる国家転覆が実行されるまでに至っていた。
 かの戦いはそれでも天義に残った正義の力とローレット・イレギュラーズの活躍によって冠位魔種を滅ぼすという歴史的勝利に終わった。
 ……が、しかし、魔種を枢機卿にすえ続けていた事実や異端審問官が冠位魔種をわざと見逃した事実は国民達を不安がらせ、ある種当然の発露として天義の信仰を拒絶する者たちが現れた。
 そんな中でも独自の神ファルマコンを信仰する勢力が天義頭部の海沿い地域を占拠。独立都市アドラステイアと名乗って巨大な塀に囲まれた都市を建設したのだった。
「それに、『新世界』が関わっているというんですか……?」
 宿に備わった酒場スペースにて、紙袋を下ろしたヨハンと急いで集められた仲間達はローブを深く被ったリルテアの話を聞いていた。
 仲間の一人が『新世界?』と首をかしげたので、ヨハンは補足のために語り始める。
「旅人(ウォーカー)に対する抗議団体です。いや、『でした』。
 メビウスという男がギルドマスターに就任してからは旅人に対する過激な行動が増え始めて……」
「今では旅人に恨みをもつ者たちが集まりカルト化、テロリスト化しました。ですので、私たちは彼らを今は対旅人用の暗殺ギルドと認識しています」
 説明を途中で引き継いだリルテアは、二つ折りのカードをテーブルにおき、指でスッと押すようにヨハンたちへと突き出してきた。
「アドラステイア建設……いえ、それ以前の漁村武装制圧時にさえ、新世界の構成員たちの関与が確認されました。密偵を深く警戒しているらしく、一体何人の幹部がどのように関与したのかまではつかめませんでしたが……おそらくかなり深いところまで関わっていると、私は予測しています」
 ここで一旦リルテアについても説明しておこう。
 リルテアは新世界内部にスパイとして潜入し、ローレットへの報告を行ってきた人間である。
 今もアノニマス、インスタントキャリア、ブロッキングといった高度な非戦スキルをアクティブにしながらヨハンたちと接触していた。
 そんな彼女が『予測』で語ると言うことは、彼女がアドラステイア内部に潜入する前に見えない牽制が成されたということだろう。
 そして、その内容を開示してきたということは暗に『私の出番はここまでだ』という意味でもある。
「彼らは早速、アドラステイアを旅人を自由に拷問できる楽園に変えようとしています。いえ、私たちから見れば『地獄』……でしょうか。
 今更正義感を出して乗り込もうなどとはもうしません。
 ですが彼らの出鼻をくじくことで、『これからも邪魔をし続けるぞ』という牽制になるはず」
 ここへきてようやく、リルテアはカードをオープンにした。
 前置きが長くなってしまって申し訳ないが、ここからが本題である。
「この人物が明日、アドラステイアの聖銃士たちに拉致されます。護衛を、依頼します」

●フーキと異端の聖銃士
 白黒の写真だった。天義では一般的なシスター服に身を包んだ、眼鏡におさげ髪の少女が写っている。
「彼女の名はフーキ。高いカリスマ性をもち、ウォーカーながら包容力のあるシスターとして知られています。
 アドラステイアは聖銃士と兵隊を派遣して村を攻撃。彼女を無理矢理拉致する計画を立てているようです。
 聖銃士たちはフーキがアストリアたち同様世界を滅ぼす魔女であると教えられ、これをアドラステイアに連れ去り『浄化』することでより高い信仰を得られると考えているようですね」
 しかしここは優秀なスパイであるリルテアのこと。
 派遣される聖銃士の戦闘データをきっちりと揃えてもってきたようだ。
「村には……というよりフーキ氏にはあらかじめこのことを話してあります。
 教会や周辺の家々をフーキ氏をのぞきほぼ無人状態として、かわりに皆さんを潜伏させることで襲撃してきた聖銃士たちへ奇襲をしかけるという作戦は、いかがでしょうか」
 手元には教会周辺の地図。聖銃士たちのデータ。フーキの顔写真。
 しかしヨハンたちがどうしても目を離せなかったのは、聖銃士たちについての補足であった。
 一部を抜粋すると、こうだ。
 『選抜された聖銃士の平均年齢は15歳である』
 こちらの表情を読んだのだろうか。
 リルテアは、よく通る声で言った。
「くれぐれも、同情などせぬように。彼らに言葉など、もはや通じはしませんので」

GMコメント

■オーダー
 対象のウォーカー『フーキ』を保護し、彼女を拉致する目的で襲撃してきた聖銃士及び兵隊たちを撃退すること。

 聖銃士も含め、彼らは本作戦に対して『命を賭してでも達成すべき』とまでは考えていない節があるようなので、おそらく撤退すべき損害を与えれば自ずと撤退していくでしょう。
 逆に彼らの感情を刺激しすぎたり捕らえようとしたりすると、戦いが泥沼化して非常に危険です。
 味方の戦力バランスも考えつつ、落とし所を作ることも検討してみてください。

■エネミーデータ
 聖銃士たちの戦闘データが一部判明しています。
 彼らの『称号』とステータス傾向、そして使用スキルの一部です。
 武装は不明。聖銃士と名はついていますが剣であったり銃であったり魔道書であったりスタイルは様々なようです。同じアドラステイアの紋章がついている以外、鎧に統一性もありません。
 聖銃士の戦闘力は割と高めなので、かなりガチめの対抗作戦を立ててください。ちょっと頑張った程度では敗北しかねないほど危険な戦力です。

●『撃鉄』
・超物攻。CTFBやや高。EXA超高。
・付自単アーリーデイズ
・物至単【連】攻撃
・物至単【連】【ブレイク】【必殺】【恍惚】攻撃

●『穂刈』
・超物攻。防御、抵抗やや高。
・物至単【災厄】【麻痺】【自カ至】
・物至単【防無】【恍惚】
・物中単【ブレイク】

●『威武』
・ハイバランス+超抵抗+高EXA
・神至単【毒】【猛毒】【致命】
・神中単【弱点】【狂気】
・神遠単【治癒】

●『重奉』
・高回避、高命中、P【反】
・物至単【災厄】【麻痺】【自カ至】
・物至単【泥沼】【停滞】
・物至単【必殺】【恍惚】
・物至単【防無】

●『血刀』
・高回避、高防御、高抵抗。
・物至単【乱れ】【凍結】【麻痺】
・物至単【ショック】【ブレイク】
・物至単【恍惚】【致命】

●『雷桜』
・高回避、高防御、高抵抗、高再生、飛行
・物至単【出血】【痺れ】
・物近単【致死毒】【炎獄】【失血】【致命】
・物遠単【乱れ】【崩れ】【ショック】

●『未來』
・ハイバランス+高命中。
・物至単【弱点】【出血】
・物中単【防無】【ブレイク】
・通常攻撃レンジ4

●一般の兵士
・10代前半の子供たち。具体的な人数は不明だが4人以上は確認されている。
 武装しているが聖銃士ほどの戦闘力はない。

■フィールドデータ&シチュエーションデータ
 教会を中心に3件の小さな民家が集まっています。
 教会はきわめて小さなもので、住民が集まって祈りを捧げるためだけに存在しているような場所です。
 フーキはこの場所で質素に暮らしているようです。
 聖銃士はファミリアーによる偵察や五感強化系スキルによる探りを行いながらこの集落へ攻撃を仕掛けるでしょう。
 予測されているルートは東側の森を抜け教会へ直行。家々から邪魔する者が現れた場合これをすべて抹殺します。邪魔者が現れなかった場合も魔女に従っていた者たちであるとしてすべて抹殺する予定のようです。
 フーキに抵抗でいるだけの戦闘力は備わっていないので、なにもしなければ一方的に倒され拉致されるでしょう。
 先述しましたが家々の住民は事前に避難しているため、これを奇襲のための隠れ場所として使用することも可能です。
 状況が状況なので、教会を一部破壊したり燃やしたりする程度は許可されています。

■オマケ解説
●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖銃士とは
 キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
 鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。

  • Aus der neuen WeltLv:20以上、名声:天義10以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月24日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ

●新世界
「あなたたちがリルテアの言っていた傭兵? 随分統一感がないのね」
 祈りの姿勢をとっていたシスター・フーキは立ち上がり、協会へ入ってきた『(((´・ω・`)))』ヨハン=レーム(p3p001117)たちへと振り返った。
 黒縁の眼鏡、長い金髪。青い目。服装もあいまってこの世界の人間とそう違いは見られないが、どうやら彼女はウォーカーであるという。
「ローレットっていうギルドなんですよ。あなたがフーキさんですね」
 歩み寄って差し出したヨハンの手に、フーキは『ん』といって軽く握手をかわした。
「それでは魔女の手先として世界を滅ぼす側に就きましょうか、ふふ」
 おっと、と眉をあげるヨハン。思っていたことがつい口に出た。フーキにはどうやらそういう所があるらしい。彼女の前で隠し事ができないような、そんな不思議な雰囲気だ。
 対してフーキは表情を殆ど変えずに首をかしげる。
「ブラックジョークが好きなのね。別にいいわ。あなたはちゃんと仕事をしそう。リルテアがよこすだけはあるわね」
「そういう言い方をしますか」
 からかったつもりがかわされた。ヨハンは肩をすくめて苦笑した。

 独立都市アドラステイアの設立に、暗殺ギルド『新世界』が関与していることがわかってからしばし。
 まるで彼らが生贄を求めるかのようにたてられたフーキの拉致計画を先回りする形で、ヨハンたちはこの小さな集落を訪れていた。
「ただ言われるがまま祈ることになんの価値があるというのか。罪も無いものに罪を与える信仰になんの価値があるというのか……」
 星の力を巡らせ、立てた人差し指のさきをキラキラと光らせる『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)。
 彼女の声を聞きつけて、フーキがゆっくりと歩いてきた。
「人はしばしば、行動を『形のないもの』のせいにするわ。夢、希望、神。思考の停止に気づかずに、前向きになったつもりでいる。けどきっと、私たちだって多少はそうなのよ」
「それでも、誰かを拉致して魔女裁判にかける理由には納得できません」
「そうだよ。私もアドラステイアの歪な在り方は見過ごせない。
 お兄ちゃんなら、見過ごさない筈だ。
 騙されているだけの、私より小さい様な子供達だとしても……」
 ぎゅっと自分の手首を握り、うつむく『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)。
 きっと信じるもののために戦うのは、あの子供たちも自分も同じなのかもしれない。
 だからきっと、信じることは悪じゃない。
 悪とはいつも、ものの使い方を指す言葉だから。
 メルナは深い自己暗示をかけると、すぅっと目を開いた。
 もう迷いはない。覚悟なら……喚ばれた日からできていた。

「アドラステイア……か。あちらから外に出てくるんだね。好都合、なのかな」
 『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は心のなかにあった力を解放し、自らの周囲にかすかな歌と見えない壁を作り出した。
「わたしの知りたい事があの都市にはある。
 糸を手繰り寄せる機会を逃したくない……」
「それは、私たちも一緒よぉ」
 ワインボトルを空っぽにした『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は、ベンチにゆったりと背を持たれて、のけぞるようにココロへと振り返った。
「私がもう少し遅く生まれていたら、聖銃士の一人だったのかも。なんて……」
 頭に浮かぶのは妹のこと。
 彼女もまた『間違った』人間だ。アドラステイアがそのための逃げ道として開かれていた以上、同じようになったのかもしれない。
「それにしても、人攫いに魔女裁判……ノフノで起きてたことと、関係があるのかしらね」
「……アーリアさんも、そう思う?」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は祈る姿勢を解いてアーリアを横目にみ見た。
「私も、あの事件と共通点を感じてるんだ。魔女裁判。居なくなった子供たち。狂わされた騎士たち……ウォーカーを必要以上に敵視するのも、少し似てるよね」
「似てるからどうした。奴らはマジで無関係な奴を血祭りに上げようとしてる。しかもそれを邪魔する俺らを皆殺しにしようってハラだ。容赦はしねえ。しねェが……」
 ベンチに剣を立てかけ、脚を揺すっていた『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)がイライラした様子で爪を噛んだ。
「クソ、いざって時に斬れるか不安じゃねェかこの野郎!」
 本能的にぶるりと震えた膝を、アランは握りこぶしで叩いた。
「やりきれねぇよな」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が、ホルスターから抜いた回転式大型拳銃を窓から指す光に照らしている。
 解放したリボルバー弾倉へ、丁寧に一個ずつ弾をさしこんで語った。まるで、そういうルーティーンのように。
「相手が子供ってのが気に入らねえし、その子供を利用している奴が居るかと思うと腸が煮えくり返る思いさ。
 とはいえ、手を抜けるほど甘い相手じゃねえんだろ」
「ああ……」
「第一、ウォーカーを魔女裁判にって考えが気に掛かる。俺の嫁もウォーカーだしな」
 丁寧に弾倉を収めると、窓からの光が遮られた。
 正純たちが窓に板を打ち付けることで教会への侵入を防ぐ処置を施しているようだ。
 といっても、裏口の外にベンチをつんだり窓をあからさまに塞いだりして、進入路を正面にある両開きの扉に限定することが狙いなのだが。
 やがてジェイクやアーリアも手分けして陣地構築にあたり、フーキは教会の二階にある小部屋にてすべての窓を塞いで閉じこもってもらうことにした。
 そんななかで、ふと。
「来たわ」
 アーリアがぽつりとつぶやいた。
 教会の鐘が鳴る。そばに止まっていた鳩が銃撃によって殺された音だった。

●七人の聖銃士
 翼を羽ばたかせ、ゆっくりと降下する革鎧に眼帯をつけた少女。
「まわりの民家に人はいないわ。教会に集まってる。武装してるみたいね。バリケードもあった」
「あの魔女、僕らが来ることに気づいてたのかな。秘密の作戦だったはずなのに」
「わからないけど、考えるのは後回しだ。今は魔女を連れ出すことに専念する。邪魔するなら……倒すだけだ」
 黄金の両手剣を握りしめ、全身を包む重鎧の少年がつぶやいた。
「パパやママは天義の魔女たちに殺されたんだよ。他にもこんな悲しい想いをする人が出ないように、私たちでとめなくちゃ」
 白い法衣とフルフェイスヘルメットを被った少女が、錫杖を鳴らして自分に気合いを入れていた。
「大人達はみんな気づいてないんです。天義がずっと嘘をついてるって。
 法王たちも冠位魔種を倒したからって、うやむやにするつもりなんですよ。
 言って聞かないなら、僕らがやるしかないんです。ファーザー・Mから授かった、この力で……」
 両手にはめ込んだ白銀の爪を見つめ、少年が深く呼吸を整える。
「さあ、行こう。僕らが世界を変えるんだ」
 使命感に彩られ、少年少女は教会へと駆けだしていく。

 一方こちらは協会内。
 積み上げたベンチを壁にして、アランは身を伏せていた。
 目を細め、ベンチと更に教会の壁をうっすらと透視する。
 近づく敵影。リルテアから聞いていた装備の特徴から、狙うべき対象はほぼ絞り込めていた。
「よし、やってやる……! 決めろよ、覚悟を!」
「ああ、いつでも」
 初撃は相手のものだった。
 扉を剣による打撃で吹き飛ばし、更に積み上げたベンチをへし折る勢いで斬り付けた。
 左右に飛び退いてかわしたアランとジェイク。
「俺はこいつ、お前は――」
「分かってる。任せた」
 アランは教会の床を転がりながらも『イグナイト=チェーン』を発動。赤黒い鎖を放ち、両手剣の少年の腕へと絡めた。
「さァこっちだ、おチビちゃん!」
「魔女を――シスター・フーキを出せ! お前達は騙されてるんだ!」
 愚直にも殴りかかってくる少年。
 剣が腕に深々と食い込むが、アランは気合いで痛みに耐えた。
 一方のジェイクは二丁拳銃を乱射することで
「遠慮しないで受け取りな! これが俺のからの挨拶だ!」
 攻撃を受けた法衣の子供は錫杖をぐるぐると回転させてこれを防御。急速に距離をつめてジェイクの側頭部へと錫杖の打撃を繰り出した。
「もう、あんな悲劇は繰り返させない!」
 直撃を受けて吹き飛ぶジェイク。舌打ちして転がり、すぐに射撃を再開した。
「思いのほか連携してるな」
「誰か撃鉄への守りを引き剥がして。私はあっちに対処する」
 スティアは聖銃士たちに伴って攻め込んできたマスケット銃の子供たちへと急加速。
 一人を剣で殴りつけると、斬撃が青白い光のラインとなって他の子供たちを貫いていく。
 散開して他の聖銃士のもとへ加わる者や、聖銃士の攻撃に協力する形でスティアに攻め込む者など動きはバラバラだった。聖銃士たちに深く混じり込んだことで、兵士だけをピンポイントに引きつけるのは難しそうだ。
 氷のように冷たい魔力を伴ったレイピアを構え、スティアめがけてまっすぐ突っ込んでくる少女。刀身に刻まれた聖なる文字が青白く輝き、スティアの作り出した聖域術式を貫いた。
「惑わされちゃだめよぉ。撃鉄集中。守りについてる子ごといくわよ」
 アーリアは二本指を唇につけると、魔法のささやきと共にそれを放った。
 ――と同時に。アーリアの仕掛けていたレーダー能力があるスキル使用反応を感知した。
「『物質透過』!」
 アーリアの叫びをうけ、正純とココロはそれぞれ周囲を素早く観察。どの壁からも侵入した様子がみられないことから、何がおこったのかすぐに感づいた。
「上です! ココロさん、一緒に来てください!」
 階段を猛烈な速度で駆け上がる正純。扉を激しく開くと、フーキの腕を掴んで翼の少女がナイフを突きつけているところだった。
「その人から離れてください!」
 『右腕』に輝く力をみなぎらせ、拳を突き出す動作と共に流星の奇跡を放った。
 咄嗟にフーキから手を離して飛び退く少女。
 本棚が崩壊し、少女は壁と天井をそれぞれ蹴ると正純の背後へと素早く回り込んでいた。
 ナイフが振り下ろされ――。
「味方との連絡がつかない。あなたが邪魔してるの?」
「だったら、どうだっていうんです」
 かざした右腕でナイフをうけとめていた正純は、部屋の鏡をちらりと見て笑った。
 次の瞬間。
 部屋中に激しい光が爆発。
 ココロの放った神気閃光である。
 衝撃で壁に叩きつけられた少女はそのまま地面に沈むように撤退。
 もとい下で戦う仲間達へと加わったようだ。
 ココロは沈んでいった床と、階段と、そしてフーキをそれぞれ見てから素早く選択をした。
「ここに居て! あの子は私が追い返すから!」
 正純の手を引くと、ココロは下の階へと走り出した
 そしてこちらは一階の広間。
 ヨハンは白銀の爪を繰り出す少年をバリアシステムの防御によってギリギリこらえていた。
「あなた、ローレットのヨハン=レームですね? 冠位魔種を倒したからって、法王のいいなりですか!」
「あなたこそ『彼ら』のいいなりじゃないですか」
 バリアを貫き、爪がヨハンの身体に食い込んでいく。
 しかし流し込まれた魔術に対してカウンタースペルを放ち瞬間除去。
「第一、僕なんかを狙っていてよかったんですか?」
 ヨハンは指先からぱちりと青白い電光を放つと……。
「オールハンデッド……目標、『撃鉄』の聖銃士。ファイア」
 ヨハンの力をうけたメルナが蒼い炎を伴って突撃。
 炎はまばゆい光となって、撃鉄の聖銃士に叩きつけられた。
「ぐお……!」
 防御仕切れず直撃をうけ、光の波に流されるかのように吹き飛ぶ少年。
 彼の手から両手剣が離れ、ごろごろと床を転がる。
 が、彼が手を伸ばした瞬間に剣が吸い寄せられるように収まった。
「まだだ! 俺はまだ戦える! お前等を倒すまで……死なん!」
 無理矢理立ち上がる少年。それを支えるように駆け寄り、大口径の銃をもった少女がアランめがけて銃を乱射した。
 防御しせいをとるも衝撃におしきられ、ベンチを積み上げた壁に激突するアラン。
「おいたが過ぎるんじゃねえのか、なあ……!」
 ジェイクは叫びながら二丁拳銃をありったけ乱射。
 少女へ弾が迫る……が、両手剣の少年もとい『撃鉄』の聖銃士が彼女を庇うように前に出て剣をかざした。
 剣を破壊する銃弾。更に打ち込まれた弾が少年の頭を抜き、少年は膝からその場に崩れ落ちた。
「――■■!」
 その少年の名を叫んだのだろうか。あまりに乱れて聞き取れなかったが……。
「そこまでだよ」
 階段を駆け下りてきたココロが叫ぶと同時に、教会の二階からアシカールパンツァーが発射され激しい音と光が空に広がった。
「天義の援軍を呼んだわ! あなた達はもうおしまいだから!」
「嘘です。こんな田舎に騎士をよこせる余力なんてない。ファーザーMもそれを見越して……!」
 爪をバチバチと赤くスパークさせた少年が吠えるが、それを別の少年がとめた。
「どうやら、本当みたいだ」
「…………!」
 舌打ちし、ヨハンから飛び退く少年。
「もうそこまでよ。まだやるの?」
 魔術による呪縛によって行動を押さえつけていた少女にに、口角だけをあげて笑いかけた。
 唇をかんでわなわなと震える少女。
 自分をにらみつける目から、アーリアはあえて死線をそらさなかった。
「絶対に、絶対に許さない。彼を殺した報いを、必ず受けさせてやるから……」
「いや、今だ。いま報いる」
 トンファーのような道具を持ち出した少女が、ジェイクめがけて飛びかかった。
「殺す! 殺す! 殺してやる! 今、いま、今だ!」
 動き出したのはほぼ同時だった。
 正純の放つ流星が、メルナの放つ剣が、そして何よりアランの大剣が少女へと叩きつけられた。
 中に浮く少女の身体。そこへ突き抜けるように走ったスティア。舞い散る天使の羽のなかで、少女は大きく目を見開いた。
 あまりの衝撃にぐるんと後方に一回転頭から地面に落ちる少女。
「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!」
「やめろ」
 頭めがけ、アランは剣を振り上げた。
「頼む、覚めろ。覚めてくれ、俺に殺させるな……!!」
 叩きつけた剣が、少女のかぶとを粉砕した。

●死と引き換えに
 教会の床には四つほどの死体が転がっていた。
 フーキはそれを見て、深く深くため息をつく。
「またこうなるのね」
「……?」
 スティアが振り向くが、フーキは『なんでもない』と言って小さく首を振る。
「一応聞いておくけど、この子達の死体を持ち帰っていじくりまわしたいなんて言わないわよね」
「意地悪な聞き方、するんですね」
 ココロの返し方に、フーキは何も言わずに答えを待った。
「何もしません。弔えるなら、それがいいんですけど」
「お安いご用よ。ここは教会だもの。墓地だってあるわ」

「己の中で祈るのはいい、されど信仰を押し付けるのは誰をも幸福にせず、ただいたずらに苦しみを広げるだけです。
 それを分かった上でそういう運用をしているのでしょうね、かの都市は」
 不愉快ですね。と正純は後処理にかかりながらつぶやいた。
「それが搾取の形ですから」
 ヨハンはそう応えて、倒れたベンチを元に戻す。
 そして、最も触れねばならないものへと触れることになった。
 聖銃士が二人。一般兵士が二人。
 名前も知らない少年少女が死んでいる。
 アーリアは肩を落とし、深く息を吐いた。
「子供を手に掛けたのね、私」
「仕方なかったことです。こうしなくちゃ、私たちは……」
 メルナは先をいいかけて、やめた。
 アランが膝を突いて、頭の砕けた少女を抱いていたからだ。
「…………」
 誰も声をかけられないような中で、あえてスティアが口を開いた。
「その子の洗脳は、解けたの?」
「!?」
 ハッとして振り返るヨハン。
「執拗に鎧ばかりを攻撃してたみたいだから。それが目的だったのかなって」
「さあな」
 アランは少女を床に寝かせ、開いたままの目をそっと閉じさせた。
「けど、最後に小さい声で言ってたよ」
「……なんて、言ったんです」
 聞くべきか。どうか。
 迷うままに、しかしヨハンは問いかけた。
「『ママはどこ』……だと」

 アランの手には、少女の持っていたであろうコインがひとつ。握られていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――聖銃士は誘拐を諦め撤退していきました。
 ――聖銃士『撃鉄』『穂刈』が死亡しました。
 ――名も無き子供二人が死亡しました。

 ――アドラステイアには新世界の深い関与が疑われています。天義よりローレットへ継続調査が要請されました。

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