シナリオ詳細
ハイランダーへの憧憬
オープニング
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_bg/14257/a8e70c922b1f1b78e11b47f3bd9368cc.png)
●
ハイエスタの戦士達は雷神の末裔であることを誇りとしている。それは誰もが知ることだ。
では、一部の者は彼らのことを畏敬の念を込めてハイランダーと呼んでいることは知っているだろうか?
ハイランダーとは直訳すると『高所に住まう者』を表すが、読んで字の如しだと本質を見失う。
ハイエスタの地、彼らが住まう高山や山岳地帯を指す。村にもよるが山岳地帯での生活は決して楽ではない。
厳しい冬には死者も出る。村の外には危険な猛獣が徘徊する。鉄帝国との終わらない戦争に、同盟であるはずのノルダインとの小競り合い……。彼らの世界は住まう者達に対して決して優しくない。
だが、そんな世界の中でも一握りの者は、流れに逆らうかのように逞しく健やかに育ち輝きを増していく。そして幾度の死線を超えた者が勇者<ハイランダー>となるのだ。
もしかすると実在のしない伝説上の存在なのかもしれないが。
そういえば、高所に住まう者はハイランダーだけではなかった。
彼らは少しも立派ではないが……高いところに住んでいるところだけは勇者と同じである。
「今日もお疲れさん。乾杯」
山賊団の首領ボルボは今宵も豪快に酒をあおる。ワインを飲むのにグラスはいらぬ。彼の信条である。
「ああ」
ボルボの陽気を裏腹に団員のウガンダはどこか上の空だ。
「どうした飲めよ。今日の稼ぎだぜ。当然の権利だ」
ボルボは行商人から奪った金で買ったワインの瓶を誇らしげに掲げて見せた。
「俺は山賊を辞める」
ウガンダは戦利品に目もくれずに呟いた。
「また病気が始まったか」
ボルボはわざとらしく辟易した表情を作るが内心では舌打ちして詰めよりたいところであった。
峠で待ち伏せをして商人を襲い金品を巻き上げる日々はウガンダの心に少しずつ影を落とし続けた。
何よりも今日の獲物……商人の一家だ。商人は小さな子供を連れていた。子供を人質に取ると簡単に金品をよこしてきた。
彼が本当に目指したかったものは……。あのガキは俺なんだ。
「俺はハイランダーになりたかったんだよ」
ウガンダは自分に言い聞かせるように呟く。
「なっただろう! しかも成功している! 何の文句がある?」
ボルボはワインの瓶を住処の床に叩きつけた。
ボルボとウガンダは同志の誓いを立ててから早三十年。自分より弱い者を三十年にもわたって苦しめてきたということだ。
一度でも商人を襲った山には数年は近づかない。情報屋に十分に投資し自警団や討伐隊の動向を逐次把握して危険を遠ざけてきた。賢くはあるが勇気がある行動では決してない。
幼少の頃のことだ。ウガンダは峠で運悪く山賊の集団に捕まったことがあった。その不運なウガンダ少年の窮地を救ったのがハイエスタの戦士であった。
鮮烈だった。たった一人で無数の無法者を次々と斬り捨てるその姿はまごうことなき勇者であった。雷神だった。
戦闘の後、最後に立っていたのはハイエスタの戦士であったが、彼も無傷とはいかなかった。ウガンダ少年と目があうと微笑みを浮かべ、怪我をした体を引きずって深い山に消えていった。
少しでも彼に近づくにはどうすればよいだろうか?
体を鍛えた。髭も蓄えた。無骨な鎧に身を包み、振り回す予定のない斧を担ぐ。これで見た目だけは立派になっただろうか?
ハイエスタの村の暮らしは楽ではないと聞く。あの戦士も綺麗な格好ではなかったと記憶している。見栄えではないのだ。
三十年間の過ちを清算する時が来たのだ。
ウガンダはその日、長年連れ添った相棒との別離を決意した。翌日、ローレットに依頼が舞い込んだ。
●
「少々面倒な依頼がある。いや、捉えようによってはむしろ簡単かもしれないな」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は不敵な笑みを浮かべた。
「鉄帝とノーザン・キングスが近々戦端を開く。その最前線にある人物をエスコートしてもらいたい」
依頼主の素性は不明だがなかなか風格のある男らしい。
「依頼主は情報屋を囲っているらしく、鉄帝とノーザン・キングスが衝突するタイミングを把握しているようだ」
ショウの方でも裏を取ったそうだがその情報に間違いないようだ。
依頼主はノーザン・キングス陣営の先鋒がハイエスタであることまで把握していた。
依頼主はそのハイエスタに混ざって戦いたいらしい。つまり構図だけでいうとイレギュラーズ達は鉄帝と対峙することになる。
「依頼主曰く、一人で戦場近くをふらつくと目につくので部隊として自然に振る舞える頭数が欲しいそうだ」
ショウはわざとらしくため息をついた。
「戦線に紛れるところまで付き添ってくれたら、鉄帝とやり合わずに戦場を脱してもいいそうだ」
な、おかしいだろう。ショウはおどけて見せる。
「思うに、依頼主は死ぬ気なのだろう」
死ぬ前にハイエスタの勇者と肩を並べてみたいのだろうか。だとしたら酔狂な話だ。まぁ依頼料はもらっているからいいのだが。ショウは独り言のように呟いた。
「さぁ、男一人を最前線までエスコートだ。検討してもらいたい」
ああ、エスコートが完了した後にハイエスタ陣営に加担して鉄帝と戦うのは自由だ。全て片付けてから大手を振って帰還もいいだろう。ショウは説明を終えた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/19773/0b61e0b51eb2377cb824c8bb24dab3c0.png)
- ハイランダーへの憧憬完了
- GM名日高ロマン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●道すがら
「戦いが始まる前にちゃんと聞いておきたいんだ」
道すがら『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)はウガンダに向き合って尋ねた。
「なんだい嬢ちゃん。真面目な顔して」
ウガンダは茶化すように応える。まるで何を問われるか分かっているかのように。
「本当に死ぬ気なの……だとしたらその必要は本当にあるのかな?」
マリアはまっすぐな瞳で問いかける。心から彼の心情を察する努力をしている。
「止めてくれるな。俺は百人以上斬ってきた大罪人よ。見てくれよ、この血塗られた武具を?」
戦場で死ぬのが性に合っている、そう思っただけさ。ウガンダは自嘲気味に吐き捨てる。
マリアが背負う過去、それはウガンダのそれと比較してはいけないほど凄惨なもの。しかし彼女にはそれを受け入れて得た健やかさがある。
僅かでもいいから彼に伝われば、と心情を吐露する。
「(血塗られた武具……嘘でありますな。あんなはったり装備で)」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)胸の内で呟いた。まだ声には出さないでおく。
続いて『命の守人』節樹 トウカ(p3p008730)も問いかける。
「なぜそうまでして最前線に拘る」とトウカ。
「う~ん。人生を取り返せないところまで進めちまった、からかな」
滑稽な男は顎をさすり悩んだ振りをしてから、もったいぶって応える。
「生き残ってやり直す道もあるだろう」
「生き残るか、そんな道はないだろう。英雄は死んでなんぼだぜ」
ウガンダは真意を相手に悟らせなかった。無骨な鎧が心に蓋をしているかのようだ。真面目なのかふざけているのか。
「よろしかったら貴方が憧れた英雄の話を聞かせてもらえるかしら?」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は別の切り口を持ち出した。
「へへ、いいとも。今も忘れないぜ」ウガンダは自分のことのように嬉しそうに語りだした。
英雄譚は壮大なものであった。山中を駆け巡りウガンダ少年を守りつつ、百人もの山賊を二刀流の奥義でばっさばっさと切り倒し……三分とかからず決着が付いたそうだ。
「ありえないであります。どこの殺戮兵器でありますか?」
エッダはぴしゃりと否定する。
「嘘じゃねぇよ!」
ウガンダの弁にエッダは首を横に振る。三十年も前の話なのにやけにディティールが鮮明であったり、たった一人で子供を守りつつ、百人を三分で殲滅するのは確かに無理がある。
「俺からも一つ聞いておきたいんです」
ウガンダさんは、戦いで死ぬのが怖くないのですか? 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は率直に胸の内側を問うた。
「そりゃあ死ぬのは怖い。でもやばくなったら、あんたらが助けてくれるんだろう?」
あんたいい人そうだからこっそり言うけどな、実は人を斬ったことがなくてな、とウガンダが小声で漏らした。ルーキスの胸に不安が過る。
安全な環境を捨ててまで、かつて焦がれた景色を目指す心意気はよし。ルーキスはその点にはある種の敬意を表していた。
しかし、一度も人を斬ったことがない者が憧れだけで戦場に出ればどうなるか。この依頼は要人警護ではなく、あくまでオールドルーキーのエスコートであるはずだ。庇ってもらえる前提では戦場で生き残ることなどできやしない。
だがルーキスはそれでも彼を見捨てるつもりはない。俺がなんとかしますから。戦闘時は彼を常に視界に置き最後まで守る、そう誓った。
●ヴィーザル地方へ
「この景色懐かしいね」
『C級アニマル』リズリー・クレイグ(p3p008130)はヴィーザル地方に入ると思わず目を細めた。
「アタシはリズリー。リズリー・クレイグだ。山賊団の元頭領さ。ヴィーザルはアタシの庭のようなもんさ。任せておきな」
「そいつは頼もしいぜ。荒熊リズリー」
「おや嬉しいねぇ。アタシのこと知ってるのかい」
「伊達に頭脳派山賊を名乗っていないからな。情報網だけは自信がある」
なんだいそれ、とリズリーはウガンダの背中を冗談交じりに豪快に叩く。
「頼もしいといえばアンタ、立派な得物を持ってるじゃないか。今日のために新調したのかい?」
リズリーはウガンダの斧を顎で示す。
「ああ……まぁな」ウガンダは一度も振ったことのない、黒光りする斧をリズリーの視界から隠した。
「アタシの得物はこれだ」
リズリーが掲げたのはクレイグ一族に伝わる宝剣ベアヴォロス。質実剛健を体現した銘品は見る者の心を奪う。
ベアヴォロスを目にしたウガンダは思わず目を伏せた。やや顔が赤い。
傷一つなく黒光りするウガンダの斧はまるで昨日鍛冶屋から納められたかのようだったが、そんなことはない。山賊になった日に手にしたものだ。
ウガンダは道を急ぐふりをしてその場を後しようとしたが、
「キミ、ちょっと待って」
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が呼び止めた。
「……グリムゲルデさんと言ったか。今日は頼むぜ。しっかり守ってくれ」
ウガンダは平静を装ったが内心はルーキスが纏う幻想的な雰囲気に見とれて身動きが取れなかった。魅力に釘付けになるというよりは金縛りに近かった。
「結果はキミが決める。既に決まっているとも言える。因果というものだ」
「え?」彼女の言葉に面食らう。
前線に出ることを望んだのはキミだ。山賊を辞めることを選んだのもキミだ。
明確に警護を依頼せずにエスコートまででいいと見栄を張ったのもキミだ。全てキミが選択した。ルーキス・グリムゲルデは淡々と語りだした。
「そ、そんなことは分かっている」
ウガンダは金縛りが解けると足早にルーキス・グリムゲルデの前から離れる。原因と結果は表裏一体。キミは結果を知って納得できるだろうか? 彼女は去る者を止めず言葉を紡ぐのを止めた。
●戦場を前にして
「なかなかの規模だな。ただの小競り合いだなんて、誰が言いやがった?」
『朱の願い』晋 飛(p3p008588)は戦場を見て思わず漏らした。両軍の布陣は概ね完了したようで人の動きが少ない。開戦前特有の静けさがある。
「こんなの無理だ。やっぱり来なきゃよかった!」とウガンダ。彼の落ち着きのなさと言ったら、杖を無くして狼狽える老人かピクニックにランチを忘れた少年の様だ。
両軍を合わせると百人以上の兵士が衝突する戦場であった。小競り合いではなく戦争。喧嘩ではなく殺し合い。ウガンダは初めて感じる重圧に、あるいは死の恐怖に内臓を揺さぶられ胃液が喉まで込み上げてきた。
「情けねぇこと言ってんな。全員とやり合う訳じゃないだろ」
「晋さんとやら、助けてくれるんだろうな……俺はやっぱり死にたくない」
ウガンダは飛に飛にすがりつく。もはやなりふり構わずだ。道中の威勢は見る影もない。
「おい、お前さんが憧れた戦士はやばい状況でも助けを求めたのかい?」
ウガンダは口をへの字に結び、言葉を失う。
「戦って生きてここを切り抜けてみせろ」
勝てなくても俺は戦士だったと胸を張って笑って死んで見せな。飛はシニカルな笑みを浮かべる。
「俺は助けないぜ」飛はきっぱりと言い切る。
「そんな」飛には甘い言葉は期待できないことはすぐに理解したようで、飛の強烈なエールに背を押されたウガンダは夢遊病者のように戦列に向かい始める。
こんなケチな闘いで死ぬかどうかはお前次第だ。飛は百二十秒後、ウガンダに合流し付かず離れずの位置で待機する。
●開戦
「やれやれ鉄帝の面々は相変わらず血気盛んだなあ」
ルーキス・グリムゲルデは電を手に収め戦場を見やる。人数の上では鉄帝軍が有利。面の力で戦線を押し上げるのは帝国の歩法だ。
そしてすぐに十人からの部隊と交戦状態に入る。イレギュラーズ全員とウガンダ、それに彼が望んだハイエスタの小隊と足並みを合わせる形だ。
「ヴァリューシャ! エッダ君! 君達も気を付けてね!」
ウガンダ君のこともやらせないよ! マリアは突出した敵を目掛けて神速の蹴りを繰り出す。好機とばかり更に追撃に蹴り込む。後一手で確実に戦闘不能に追い込むことが出来るであろう。
ヴァレーリヤかエッダがとどめを……と思いきや二人は必要以上に戦線には介入しない。
――貴方を戦場へ送り届けたら、後は私達の好きにして良いんですのね?
ヴァレーリヤが道中、ウガンダに聞いていたことだ。彼はその時、堂々と首を縦に振った。
「おい、司祭さんよ。助けてくれよ。あいつら俺を見てやがる」
「貴方、言ったでしょう? 戦場に着いたら好きにして良いって」
ヴァレーリヤはぴしゃりと一言。エッダも続く。
「鉄帝の同志よ。自分は……あれの助太刀をするであります。皆様方に於かれましては、付き合う必要のない戦い故」
宜しきようになさるのが、宜しいかと――最前線で見事な口上である。前線の鉄帝兵が一瞬ざわついた気がした。
だが鉄帝兵の一人がエッダに接近するも――エッダは拳は振るわず、敢えて弾き飛ばして距離を稼ぐ。相手に有効打を許さない。
「倒してくれないのかよ」ウガンダは本日何度目かの泣き言を漏らす。
皆、なかなか厳しいじゃないか。面白いね。リズリーは前衛に立ち一人目の敵を打ち倒す。
「リズリーさん、ありがてぇ。あんたは味方だな」
「馬鹿言っちゃいけないよ! お節介で言うけどさ」
鉄帝も、ハイエスタも、死にたい奴はいないはずさ。皆生きるために死ぬ気で戦ってるんだ。だから強い。それを忘れちゃいけないよ。
そんな及び腰で振ってたら斧が泣くよ。リズリーはウガンダの背中を豪快に叩いた。
●戦闘I
一部の鉄帝兵は明確にイレギュラーズをターゲットにしていた。一度狙った獲物を簡単に逃すほど彼らは甘くない。
ウガンダのフォローをしつつ、自分たちに食らいつく敵の対応も必要となる。
「我ら誇り高きハイエスタの戦士。死力を尽くして来るがいい」
ルーキスはハイエスタの戦士であることを名乗り、最前線に躍り出た。
俺は手放しであの人を守ると決めましたから。盾にだってなって見せる。
「あたしの名前を覚えて逝きな!」
リズリーは対面する敵に獣の如き一撃を食らわせる。瀕死となった敵をトウカが攻め立てる。
「命は奪わん。自身の為に桃の花は血に塗れる」
トウカは蛇腹剣で瀕死の鉄帝兵を斬るも……蛇腹剣の刃は峰へと変容を果たし命は奪わない。
「(どうした? これは自殺でも贖罪でもない。試練だ。乗り越えて見せろ)」
飛は自分の敵と対峙しつつもウガンダを常に監視<護衛>している。言葉と態度とは裏腹であるが他のメンバーには決して悟らせない。
先端が開いてからどれほどの時間が経過したか。少なくともウガンダはそんなことを意識する余裕はなかった。
「君が生きてここから帰れたら変われると思っているんだ!」
ハイエスタとは方法は違うかもしれないけど……誰かを救える人に!
マリアをはじめ、前線で戦うイレギュラーズを見てウガンダは何かを感じつつあった。
死を恐れぬその姿勢、何が皆を突き動かしているのだろうか。彼には分からない。
「そろそろでありますか?」
「死の恐怖は感じているでしょう。でももう少し……」
ヴァレーリヤとエッダは自衛以外の戦闘は極力避けてウガンダを見守る。
敵がウガンダを包囲する動きを見せたその時、
「数の不利は早めに打開するぜ」飛がカットインに入る。
飛はAGのリミッターを解除――猶予は十秒。正面の敵を撃破するには十分過ぎた。
その後、乱戦に揉まれて窮地に陥ったウガンダに手を差し伸べる。飛はあえて、ウガンダから見えるように前に立つ。
敵の剣を受けつつも……想起の力は無骨な両手斧の像を浮かび上がらせる。あの時の再現だ。
さあ、俺の背中を見ろ。あの時と同じだろ?
さあ、お前の番が来たんだ、立って戦え!
●戦闘II
鉄帝の猛攻にたて続けにハイエスタの戦士が絶命する。
「流石は鉄帝」さてどうする? ルーキス・グリムゲルデはウガンダを見やる。
「ハイエスタの戦士でも数には勝てないか」友軍の数が減ればその分、イレギュラーズへの攻撃が苛烈になる。トウカはウガンダを横目で見る。
さっきまで見事な剣術で鉄帝軍と戦っていたハイエスタの戦士は血まみれで絶命した。
勇者も英雄も戦場にはいないのではないか。綺麗にかっこよく死ぬことなんて出来ないのではないか? だったら格好悪くても生き残りたい……。
ウガンダはついに走り出した。イレギュラーズ達を背にして、生き残ったハイエスタの戦士と肩を並べて。メッキをはった木の斧を担いで……。
「ようやくか」
ルーキス・グリムゲルデは走り出した哀れな男を目で追いつつ思案する。
この戦線から途中退場をするつもりはない。最後まで見届けるよ。
「ごめんねー、今回はこっちなんだ」
彼女は得意の間合いから強烈な電撃を撃ち出し鉄帝兵をまとめて退ける。彼を支援すると決めたからにはすまないが敵対させてもらう。
さぁ足掻けばいい。最期に納得できるように。
ウガンダは何度かの斬撃を受けた。
たて続けに斬られそうにあればイレギュラーズがカバーに入る。敵本体の迎撃役とウガンダのフォロー役は明確に役割分担が成立していた。
だがエッダはなかなかフォローに入らない。まだまだ。致死量までは、と。
「ヴィーシャもマリア嬢も全くもって甘いであります」
しかしながらこの戦場に足を運び鉄帝に形だけでも敵対した自分も……。
我々、たぶん性根はけっこう似通っているものかと。エッダの口元に一瞬だけ微笑が浮かんだ。
戦場は乱戦となりウガンダへのフォローにも限界が――来ることはなくイレギュラーズの厳しくも情のある支援が彼を支えぬいた。
「侍さんよ、俺はもうだめだ。ここまで頑張っただけで十分だろう……?」
ウガンダはルーキスの傍で戦っていたが限界は近い。斬られた傷の治療はここまで出来ていない。加えて初の戦場だ。ここまで持ったのがイレギュラーズの努力の賜物であろう。
「怯むな。ハイエスタの勇気を示せ!」
我に続け。ルーキスは傷だらけの体でウガンダを鼓舞する。怪我の治療を出来ていないのは彼も同じだった。
「俺の知ってる勇者は最後まで諦めない!」
トウカも盾を買って出る。マリアとリズリーが右翼なら二人の侍は左翼を守る。飛とルーキス・グリムゲルデはウガンダを視界に置きつつも少し距離を置き、ヴァレーリヤとエッダは……トリッキーな位置で依頼主を見守る。
「それくらいで引いた方がいい。君が先に倒れてしまう」
トウカは明らかに負傷しているルーキスの身を案じる。ルーキスは最初からフォローに入った分、皆よりも多くの攻撃を受けることになった。
「重症ってほどじゃない。まだいけますよ」
●戦闘III
「そろそろ、よろしくて?」
「自分が鉄帝軍を抑えるであります。当方、鉄帝故。その間に撤退がよろしいかと」ヴァレーリヤとエッダが潮時であることを伝えた。
もう満足した、そうしよう。とは言えない。ウガンダは己を恥じて意地になっていた。自ら撤退の意を示せない。
「よろしくて……何としてもこの戦場を生き延びて、かつての貴方と同じように助けを求める人達のために戦ってはみては?」
その恩義を返すべきなのではありませんこと? ウガンダはヴァレーリヤの言葉に頷いた。純粋に救いを受け入れ再起を目指したいと思い始めていた。
その時「ヴァリューシャは無事?」とマリアが言葉通りヴァレーリヤの元に飛んできた。ヴァレーリヤの無事を確認すると、
「私もヴァリューシャの言うとおりだと思うから! 生きて帰って誰かを救える人になって!」
私がこうしてウガンダ君を守るようにね……マリアはウガンダに思いを伝えると再び前線に飛んでいく……。
「情熱、思想、理念、頭脳」エッダが呟いた。
「え?」
「気品、優雅さ、勤勉さ、何より鉄帝力。貴方に足りないものであります」
さあ、まずはスタートラインに立つ為に撤退するところから始めるでありますよ。エッダはウガンダに撤退を促し自らは戦場に残る。
「ごきげんよう」
ヴァレーリヤも同様だ。マリア達を置いてはいけない。
前方に新たな敵が現れるとトウカ達も選択を余儀なくされる。
「君は先に撤退しろ」トウカはルーキスの撤退を進めるも、
「俺も最後まで残りますよ」最後まであの人を守ると決めたので。
「ならば俺も残ろう」トウカは桜の木刀をさすり、微笑んだ。
「どうだった? 現実を受け入れて畑を耕すのかは好きにすりゃあいいさ。じゃあな」
飛は別れの言葉で現実を突き付ける。
「がんばったじゃないか。答えは出たかい?」
もしかするとリズリーの子分になったほうがいい目を見れるかもしれない。
「殿は任せな!」
後で必ず追いつくから。と言ってリズリーはウガンダの背中を豪快に叩いた。
●戦場を離れた丘にて
「少しは満足できたかい?」
陽は谷間に沈みかけ、いずれ月夜が訪れる。
ウガンダを安全な場所にエスコートしたのはルーキス・グリムゲルデ。彼女が煙管を口にすると辺りには花の香が仄かに漂う。
「俺はここで死ぬつもりだった」
「そう」
「でも怖くてやっぱり無理だった」
「そう」
「できれば生きて償いたい。本心なんだ。皆の期待に応えたい」
彼女は煙管を嗜みウガンダの問答には付き合わない。
「それがキミの選択した結果だ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
見事成功となりました!
依頼者も生還できました!
※負傷
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)様
GMコメント
日高ロマンです。よろしくお願いいたします。
●依頼成功条件
・依頼主(ウガンダ)を最前線まで連れていくこと(彼を戦闘に参加させること)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●シナリオ補足
・依頼主とイレギュラーズは鉄帝とノーザン・キングスが戦端を開く直前に目的地に到着します
・目的地に到着するまでの間、依頼主と会話することが可能です
・イレギュラーズはノーザン・キングス(ハイエスタ)陣営です
・友軍に襲われることはありません
・依頼主と共に戦うか、彼とは別に鉄帝と戦うか、戦場を去るかはイレギュラーズにて判断可能です
・戦闘結果によってはイレギュラーズは負傷する可能性があります
●登場キャラクターの戦闘力捕捉
・依頼主:よわい
・鉄帝国の兵士(10人~12人):軽鎧、槍を装備。特殊能力なし。歩兵。
Tweet