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シナリオ詳細

再現性東京2010:酒灯りに酔う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ブラウンライトの照明がカウンターの縁に反射していた。
 ゆったりと流れるジャズは何処か気分を弾ませてくれる。
 カランとコリンズグラスの氷が、薄緑色のカクテルに転がった。

「何を飲んでいるの?」
 ルビーの瞳で久夛良木・ウタ(p3p007885)が視線を注ぐ。
 ミントとレモンスライスが乗せられた細長いグラスはペール・グリーンが広がっていた。
「これは、アプレ・スキーですね」
 ウォッカベースのスッキリしたカクテルなのだと『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は応える。
「美味しそう! マスター、私も同じのちょうだい!」
 畏まりましたと頷いたバーのマスターは手際よくカクテルを作り出した。

 此処、BAR『luna piena』に集まったのはウタと廻だけではない。
 廻の向こう側には恋屍・愛無(p3p007296)と湖潤・狸尾も同じようにカウンターに座っていた。
「それで、私が呼び出されたのは、どういったご用件なんでしょう」
 ぴこりとウタの方を向いた狸尾が興味津々といった様子で問いかける。

『――善性の怪異が居るのか』

 ウタの疑問はそんな話から始まった。
 この希望ヶ浜の住民は自分達の常識から外れたものを『怪異』と呼ぶ。
 例えば、幽霊や妖怪、モンスターなどが分かりやすいだろう。
「でも、それだけじゃないんです。ウタさんや愛無さんみたいな人も、この街の人達にとっては『怪異』になってしまうんです」
 廻は神妙な顔でウタに語りかける。
「え? どうして? 私は怪異じゃないよ」
 愛無のモンスターのような本体ならいざ知らず、人間と同じウタの外見は『怪異』として見えない。
 けれど。
「魔砲を使ったり、炎を出したり。精霊を呼び出したり。そういったこの街の人達にとって『普通』ではないものは全部、怪異(ばけもの)になってしまうんです」
「この街の人達は変わってるね」
 ウタの率直な意見に頷いた廻は困った様に笑いながら言葉を紡ぐ。
「でも、この街の人達にとっての『平穏』を守るのがお仕事ですから」
 愛無が擬態を解除しないようにしているのも、希望ヶ浜の平穏を守る為なのだ。

 そして、本題に戻る。
「だから、善性の怪異は居るのかの答えは、イエスです。つまり、僕達は善性の怪異ですね」
 にっこりと笑った廻に不服そうな表情を浮かべるウタ。
「そうじゃないんだよ~!」
 ウタが聞きたかったのは、その答えでは無いのだろう。
「ええと、怪異というか……あ、そうそう! 善性の夜妖っていうの? そういう感じの!」
 悪性の夜妖が居るのなら、善性の夜妖も居るのかも知れないとウタは考えたのだろう。
「ふふ、多分そう言うと思ったので、彼女に来て貰いました」
 廻は愛無の隣に座る狸尾に視線を向けた。
「狸尾さんはウタさんの言う所の『善性の夜妖』です」
 ウタは愛らしい狸尾をじっと見つめる。この狸耳尻尾の少女が夜妖なのだろうか。

「えっと、初めまして湖潤・狸尾です。
 見ての通り、豆狸の――『夜妖憑き』です」

 夜妖憑き。
 憑依型の夜妖に憑かれてしまった人の事をそう呼ぶのだという。
 多くは悪性怪異に憑依される事が多く、操られ凶行に及ぶものが多い。
 されど、狸尾の様に共存しているケースもあるのだ。

「代償というのでしょうか。共存するにはそれなりの対価を支払う必要があります。
 私の場合はお酒を摂取することですね。でも、私自身お酒が好きなので、問題無いんです」
 狸尾はその名が表す通り、豆狸ととても相性が良かったのだろう。
「でも、凶暴な夜妖に憑かれたり、共存しても酷く代償が大きい場合もあります……」
 狸尾は視線を上げて廻を見つめる。其れに応えるように廻は首を横に振った。否定の意。
「……と、とにかく。きっと私はウタ様の求められている善性の夜妖になるのではないでしょうか」
「なるほどぉ! うんうん、そうだね! こんなに早く会えるなんてうれしい!」
 立ち上がったウタは狸尾の後ろに歩き、ぎゅうぎゅうと彼女を抱きしめた。

「ところで、廻君は狸尾君と知り合いだったのかい?」
 愛無がカクテルを手に廻へ問いかける。
 とある仕事で知り合った狸尾と廻の組み合わせに僅かに興味が湧いたのだと愛無は紡いだ。
「ええ、彼女は僕がお世話になっている『燈堂家』に掃除屋兼お手伝いとして下宿しています」
「お世話になっている燈堂家に下宿。つまり、一緒に住んでる?」
「えっと、建物が違うので同じ敷地内に住んでる感じですかね」
 廻が説明するには燈堂家は大きな日本家屋が何棟も連なっているらしい。
 燈堂家当主一家が住まう本邸と、下宿人や管理人が住まう棟が存在する。
 狸尾は何人もの下宿人――『燈堂一門』の門下生の一人という訳だった。

 ――――
 ――

 善性の怪異の定義に、憑依型の夜妖。それに憑かれたもの。夜妖憑き。
 北の『澄原病院』では何やら、その夜妖憑きの動きがあったらしい。
 南の『燈堂一門』にも夜妖憑きが存在している。じわりと広がる疑念。
 先の見えぬ回廊を思考の波に囚われ、堂々巡りするようではないか。

 されど、ここはお洒落なバーだ。
 ブラウンライトが注ぐカウンターに優雅なジャズが耳朶に届く。
 フードが豊富なダイニングバーだが、比較的オーセンティックな空気感もあって、このバーは廻のお気に入りの店だった。とは言えマスターはカマーベストを着ておらず小洒落たエプロン姿で、カジュアルに入店出来るのも若者には良い所。
 マスターがシェイカーを振る音が心地良い。 
 グラスの中に落とされた赤いチェリーが、黄緑色のカクテルに浮かんでいた。
「あ、グラス開いてますね。次は何を飲みますか?」
 沢山の難しい話は置いておいて。今日は酒灯りに酔いしれるのも悪く無いだろう。

GMコメント

 もみじです。廻とちょっぴり大人な雰囲気のバーでお酒を飲みましょう。
 未成年はジュースです。

●目的
 お洒落なバーで楽しい一時を過ごす

●BAR『luna piena』
 ブラウンライトに照らされた室内に、ジャズが流れるお洒落なバーです。
 本日は貸し切りなので店内では気兼ねなく寛げます。
 カウンター席とゆったりとしたソファ席があります。
 アルコールはもちろん、フードにもこだわっているので、どれも逸品です。

○アルコール
・アデプト・マティーニ
・アラウンド・ザ・セフィロト
・ミサオフィズ
・シンロン
・シュペリアル
・カスパライズ
・アデプト・トーキョー
・夜妖・オン・ザ・ビーチ
・他、ウィスキーにワインや各種果実酒、各種スピリッツ類、日本酒等
 各種定番のカクテルにリキュールとフレッシュジュースを使ったオリジナルまで。

○ノンアルコール
 フレッシュジュースやコーラにジンジャーエールなど。

○フード
 ナッツ、自家製スモークナッツ、自家製ピクルスの盛り合わせ
 ジャーキー盛り合わせ、チーズ盛り合わせ
 燻製盛り合わせ、クリームチーズのヅケ
 ソーセージ盛り合わせ、生ハムとサラミの盛り合わせ、オイルサーディン
 ポークパテ、鶏レバーパテ、自家製コンビーフ、厚切りベーコンエッグ
 ローストビーフ、1ポンドステーキ
 コンビーフとキャベツのアーリオ・オーリオ・スパゲッティー、
 オイルサーディンのスパゲッティー、ジェノベーゼ(リングイネ)
 ペンネアラビアータ
 バゲット、ガーリックトースト、その他

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(とうどう めぐり)(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 お酒が好きですが、あまり強くありません。割と絡み酒。

○湖潤・狸尾(こうるい・りお)
 豆狸の夜妖憑き。共存代償は飲酒。
 燈堂一門の門下生。掃除屋兼お手伝い。バイトを掛け持ちしているのでいつも忙しい。
 愛嬌のある言動と顔立ち、生来の人の好さから燈堂家当主に気に入られ、本邸への出入りを許されている。
 恋屍・愛無(p3p007296)さんの関係者です。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告。

  • 再現性東京2010:酒灯りに酔う完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
久夛良木・ウタ(p3p007885)
赤き炎に
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者

リプレイ


 星の無い夜空に浮かぶ月は欠け、雫落とす杯の如く薄らと月影を落とす。
 ブラウンライトに照らされたバーのドアを開けた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。
 黒縁眼鏡は集まったメンバーの中に『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の姿を見つけ胸を震わせた。こみ上げるのは期待か不安か。
 靴音を鳴らしながら寬治はカウンターへと向かう。
「廻さん、狸尾さん、お招きありがとうございました。これ差し入れです」
「わぁ! ありがとうございます」
 差し出されたヴォードリエ・ワインを手に『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は微笑んだ。
 この場の酒がより美味しいものになるようにと願う寬治の意をくみ取った廻はマスターにワインを渡す。
「今日は運悪く来られなかった、某へべれけお姉さんの写真も置いておきましょう」
「ふふ、来たがってましたからね」

 カランと次の来訪者を告げるカウベルが鳴った。
「やあ。今日は誘ってくれてありがとう。そして初めましての人は初めまして。俺は伏見行人者だ……ここじゃあしがない理科教師さ」
 微笑みながら入って来た『希望ヶ浜学園高等部理科教師』伏見 行人(p3p000858)がカウンターへと腰掛ける。
「俺からは、差し入れという訳じゃあないが保護結界を張っておくよ……一応、壊す気で無ければ原状復帰はまあ、楽になるはずだ」
「えっと……?」
 小首を傾げる湖潤・狸尾に気まずそうに頷いてみせる行人。
「マスター、すまない……今夜は騒がしくなる。あとは、ちょっと変わったオイルが手に入ってね。使えそうかな?」
「これはこれは、ありがとうございます」
 オイルを受け取ったマスターは気さくに微笑んだ。

「いいこな夜妖もいたんだね~! 出会えて感激だよ!」
 狸尾に抱きついた『赤き炎に』久夛良木・ウタ(p3p007885)は猫を愛でる様にもふもふと遊ぶ。
 念願の善性の夜妖に会えてご満悦なウタ。
「これは親睦を深めるしかない! とあらばみんなで酒盛りだ~!」
「はい! お酒飲みましょう!」
 こくりと頷く狸尾の隣。『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)が狸尾の袖を引く。
「時に狸尾君。君を見込んで頼みがある。万が一、状況が『何らかの要因』により、抜き差しならない状況になったら、君が何とかするんだ」
 小声で紡がれる愛無の言葉は拒否を許さぬ迫力があった。
「えっと」
「巧く行ったら僕の領地でいくらでも奢るゆえに。任せたよ。廻君のお気に入りの店なのだから。マジで!
 僕は廻君と静かに飲みたい。絡まれたい。任せたよ!」
 何かを察した狸尾は任せろと言わんばかりにぐっと拳を握る。

「いやはや再現性東京も大変だねえ」
 ふわりと左手の翼を広げた『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は窮屈そうなローブを脱いでハンガーにかけていく。
「ローブで羽根は隠さなきゃいけないわ、鱗と目隠しの眼帯は必須やら」
「すみません」
 ルーキスの言葉に廻が申し訳なさそうに眉を下げた。
「まあ。君のせいじゃないさ。これはこれで元の世界に戻ったみたいで楽しいからいいけど。頭のは隠せないから髪飾りってことで一つ。それに、このバーは隠さなくても問題無いんだろう?」
 ブラウンライトに照らされたお洒落なバーでゆったり飲めるのは有り難いとルーキスは目を細める。
 これで、相方が居れば最高だっただろう。
「今度連れてくるかな」
 カウンターの椅子にゆるりと腰掛けたルーキスは店内を見渡した。
 ソファには『ミス・トワイライト』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が黒いスーツに身を包み手元のメニューをじっと見つめている。
「酒宴も久しぶりだな。ここには見たこともない酒が沢山ある」
 楽しみだとメニューをパラパラと捲っていくブレンダ。
 その横には『イフリート・マッシャー』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が同じようにメニューと睨めっこしていた。

「ヴァリューシャちゃん係になったけど、一体何するのかわかんないんだ~……とりあえず、一緒にお酒飲もっか! いえーい!」
 ウタの言葉ににんまりと微笑むヴァレーリヤ。
「ひゅー、貸し切り! お酒! 飲み放題!
 お店も素敵な雰囲気だし、言うことありませんわね! 今日はとことん飲みましょう騒ぎましょう!」
 突然立ち上がったヴァレーリヤは最初に注がれたエールを手にする。
「かんぱいかんぱーい!」
「杯を乾すと書いてカンパアアアアアアイ!! FOOOOOO!!」
 ヴァレーリヤとイグナートの陽気な声が店内に響き渡った。

 ――――
 ――

 再現性東京の中でもこの希望ヶ浜の空気は肌に馴染むと寬治はアデプト・マティーニを揺らす。
 普段は日本酒を好む寬治だが、今夜はカクテルや洋酒を『飲み比べ』するつもりなのだ。
「マスター、このメニューの端から端まで全部、お酒を持って来て下さいまし!
 1人各種1ボトルで!」
 ゆったりとした雰囲気を演出するバーにヴァレーリヤの声が響き渡る。
「……飲み比べ、比べるのは『種類』であって『量』では無いですからね?」
 黒縁眼鏡のレンズがライトに反射して視線が見えない。
 気を取り直して寬治は視線を看板メニューに向けた。
 燻製やパテ、生ハムにオイルサーディン。バーとしてはフードメニューが豊富なのは嬉しい所。
「ここはやはり……1ポンドステーキは試しておきたい」
 大量の肉というものは酒を前にしても魅惑的であるのだ。

「さて、乾杯はエールだったから。今度は赤ワインと行こう」
「良いじゃないか。おつまみはローストビーフと盛り合わせでどうだい?」
 ソファに身体を預けたブレンダとルーキスは程よく酒を飲み比べていく。
「たまにはこういう仲間内での呑みもいいね」
「そうだな。戦い続きだからたまの休息も悪く無い……所でそのルーキスが飲んでいるカクテルは美味しいのだろうか?」
 グラスの中で揺れる赤色のカクテルに視線を奪われるブレンダ。
「ああ、これはアラウンド・ザ・セフィロトだよ。カクテルが初めてなら優しいものから始めると良い」
 ルーキスがメニューを開いて指さしたのはファジーネーブル。初心者でも優しいおカクテルだ。
「ほう。では其れにしようか」
 フードを突きながらルーキスとブレンダはグラスを傾ける。
「甘い酒……というのも存外いけるものだな」
「そうだろう? アルコールには滅法強いけどこの雰囲気と舌を滑る酒の味は格別だと思う」
 確かにと目を伏せるブレンダ。二人が醸し出すのは静かで小洒落たバーの一時。

 されど。
「オレはイフリート・マッシャー! 精霊を酔い潰したオトコさ!」
「おいしい! もう一杯!」
「えへへへ、なんだか楽しくなって来ましたわー!」
 騒がしくなってくる仲間の声が店内を埋め尽くしていく。

「飲み比べは量じゃない……? 度数でショウブってことかな? 先に1000%行ったヒトが勝ち、とか?」
 イグナートの疑問にウタが答える。
「じゃあここで一番強いお酒をください! ……ぷはー! おかわりー! お酒のお名前は詳しく知らないけど、どれもおいしいね! 久しぶりにこんなに飲むよ~」
「ウタも良い飲みっぷり! オレも負けてられないな! メグリたちも飲んでるかい? どんな酒が好み?
 火が点くやつ?」
「イグナートさんたちもう酔ってます?」
「「まだまだだよ!」」
 酒は好きだがイグナートもウタも値段の安さや高さは分からない。銘柄だってあやふやだ。
「人のカネで飲む高い酒がイチバン美味しく飲める酒だってことはタシカだね!」
「……え、いやえっと。あれ?」
 これはもしかして奢りだと思われているのだろうかと廻の背中に冷や汗が流れていく。


「飲み比べは種類だからね? ほら、酒の好みは本当に人それぞれ違うから、さ。
 好みの物を自分のペースで……だ。誰も君の酒を取る人は居ないからね」
「えっ、今日は静かに飲みたい? どういうつもりですの? 私のお酒が呑めないとでも?
 Repeat after me.『ヴァリューシャ様の命令は絶対』!!!!」
 酒瓶を掴んで行人のグラスに注いでいくヴァレーリヤ。
「料理は酒の種類に合わせて頼みたい所だが……ほら、腹にたまる物を先に食べると良い。酔いが穏やかになるからな……」
 どうどうと自分を落ち着かせようと奮闘する行人の肩をヴァレーリヤはむんずと掴む。
「おそらくこれから修羅に入ります。店は最大限守りますが、損害についてはこちらへご連絡ください」
 まだ酒が入らない内に寬治はマスターへと連絡先を書いた名刺を渡した。

「ヴァレーリヤさん落ち着いて!」
 行人を掴んで身体を揺さぶっているヴァレーリヤを引き剥がす寬治。
「げははは、観念なさい! ここに来た時点で呑まないという選択肢は存在しませんのよ!」
 行人から離れたヴァレーリヤの腕はそのまま寬治の胴にボディブローを叩き込む。
 全体重が掛けられたスュマッシュヒットに倒れ込む寬治。
「今日はいつもの面子でもなければ、マリアさんも居ないんですから……ぐええ!!!!」
 暴れるのは止めなさいと次の句を放つ前に、寬治は酒瓶を口の中に突っ込まれる。
 羽交い締めにされながら、ゴボゴボと喉の奥に直接流し込まれる酒の度数は高い。
「あれっ、遊んでるのヴァリューシャちゃん? いいな、私もみんなと遊びたい!」
 寬治とヴァレーリヤの乱闘にウタが目を輝かせた。
「ヴァリューシャちゃん係なんだからまざってもいいよね!!!!」
 酒乱王に習ってウタも寬治の上に飛び込んでいく。
 きゃぁきゃぁとはしゃぐ声にブレンダは視線を上げた。
「ん? なんだか騒がしいな。ヴァレーリヤ殿が暴れているのか」
 そういう年頃なのかもしれないと空になったグラスをテーブルの上に置いてメニューに視線を落とすブレンダの頭上に酒乱王の姿あり。
「ふっふっふ、グラスが開いてますわよ~~~!!!」
 ダバダバと溢れんばかりの酒を注がれ口の端を上げるブレンダ。
「いいだろう! 飲んでやろうではないか!」
 挑戦は受けて立つ主義だ。ブレンダはワインを手にヴァレーリヤに負けじとラッパ飲みをする。
「のむくらべなら~! まけまへんよ!」
 顔を真っ赤にしたヴァレーリヤも対抗して次から次へと酒を煽った。
「ふう、みんな楽しめているようれ何よりれすわね! お酒も御飯も美味しいお店を紹介してくれた愛無のお陰……でもろうしてかしら、このパンすごく硬いれすわ。これが練達風のパン?」
「それはお皿だからお腹壊しちゃうかも……ぺってしなきゃ! エイ!!」
 ヴァレーリヤの奇行に力一杯のウタ。ヴァレーリヤの口から吐き出された皿は床に落ちて割れる。

「わぁ。大変だ」
 そう言いながら悪い笑みを浮かべるのはルーキスだ。
 ブレンダとヴァレーリヤの飲み比べの手助けをしようと加勢する。
「よしよし、幾らでも付き合うから君もじゃんじゃん飲もうね」
「次だ次ぃ!!!」
「ほら、落ち着いて、水飲んで下さい水。ああ! それは水じゃなくてウォッカ!」
 酒で暴れる相手を落ち着ける一番の方法。それは酒に溺れさせること。
「つまり潰せば早い」
「そんにゃことしりゃん!!!」
 ルーキスは混乱を呼ぶ不敵な笑みを携え、ブレンダとヴァレーリヤへ次々に酒を渡していった。

「これでヴァレーリヤは出禁か……哀しいデキゴトだったね。ウタには悪いけれどギセイになってもらおう。え? やらかすとオレたちも出禁になるの?」
 イグナートの心配を余所にヴァレーリヤはフラフラと立ち上がり徐に上着へ手を掛ける。
「なんらか暑くなってきましたわ」
「ヤバイ! そこの脱ごうとしてるシスターを捕まえろ!」
 ボタンをポチポチと外していくヴァレーリヤにイグナートは掴みかかった。
「女の子が酔っ払って脱ぎ出すなんてラブコメみたいなシチュエーションなのに何でこんなに緊迫感があるんだ!」
「どうして止めますの!? 私は! 暑いのだけれど!」
 取っ組み合いの組技が繰り広げられる。マウントを取るか関節技に持ち込めれば体格差を利用してイグナートの方が有利だろう。
 しかし。
「……クソッ、なんてチカラだ!」
「わ~、女の子が急に脱いじゃだめだよ! 身体冷やしちゃう」
 イグナートにウタの援護が加わり。ヴァレーリヤの裸体は阻止できた。

 ――――
 ――

「ふふー、わらくし……もう呑めませんわ……」
「あーもう酒こぼしてびしょ濡れじゃないですか。ほら、マリアさんからパンツ預かってきてますから、トイレで着替えてきなさい」
 床に零れた酒の海で泳ぐヴァレーリヤを引き起こす寬治。
 ウタの手によって毛布でぐるぐる巻きにされたヴァレーリヤがむくりと起き上がった。
「どうして、当然のように私のパンツが……いえ、この状況では助かるのだけれど!」
 釈然としない表情でトイレへ向かうヴァレーリヤは個室から聞こえてくる嗚咽にドアを叩く。
「大丈夫ですの~?」
「―――ふぅ、強敵だった……」
 スッキリ顔のブレンダがトイレの中から出てきた。
 酔うのも早いが醒めるのだって早い。

「ごめんねマスター、せっかくの良いバーなのに騒がしくて」
 ヴァレーリヤ祭りに加担したルーキスのローブは酒に濡れている。
「あー洗うの大変なのに」
 やれやれといった口調で溜息を吐く。されど、二人に酒を渡したのはこのルーキスだ。
「え、自業自得? ふふふ、気のせいだよ。今度はうちの旦那と二人でのんびり来ようっと」
 その為にはまだまだ酒の種類が飲み足りないとルーキスは微笑んだ。


 ヴァレーリヤの大騒ぎを肴に、行人はソファへと移動する。
 騒ぐのも楽しいけれど、こうして静かに飲むのも悪く無い。
「酒と食事の組み合わせが好きでね、俺は」
 丁度移動してきた廻に行人は話けた。
「これは合う、っていう確信を持って合わせるのもあれば。これと合うのか? って組み合わせもある。それと出会うのが楽しくてね……」
「それでしたら、ここのお店はおすすめですよ。色々な種類のお酒とフードがありますから」
 にこりと笑う廻に行人は頷いてグラスを傾ける。
 透明なガラスの中に揺蕩うのは夜妖・オン・ザ・ビーチの紫色。
「ここって精霊とか出しても大丈夫なのか?」
「あ、はい。ここのマスターは元々各国を旅していた方なので問題無いですよ」
 経験を生かしてこのバーを切り盛りしているのだという。
「じゃあお言葉に甘えて……。ワッカ、カイ=レラ出ておいで」
 この希望ヶ浜に居る間は人目を避けるために隠れていた精霊がふわりと店内に現れる。
 手を貸してくれるお礼として花と蒸留酒を捧げるという彼女たちの在り方。
 それは何処か夜妖憑きと似ている契約の形だと行人は廻に語る。

「さて、甘い物が好みだが。酒は強いが雰囲気で酔うタイプなのでね」
 どれも悪く無さそうだとマスターにお任せすると愛無は告げた。
 ピクルスとパテを肴に。甘いパリジャンのショットグラスが互いに重なれば甲高い音が微かに鳴る。
「時に廻君。僕は君に感謝してるんだ」
「え?」
 こてりと小首を傾げた廻に愛無は紡ぐ。
 自分が『異邦人』だと理解した上で。豊穣では『穢れ』、希望ヶ浜では『怪異』と呼ばれる。
 人は何時だって自分と異なるモノを排除するものだ。それが解っていても、思う処はあるのだと愛無はグラスを傾けた。
「それが思わず口に出た時。君は話しかけてくれたろう?」
 廻にとっては取るに足らないもの、他意のないものだったとしても。愛無は其れが嬉しかった。
 だから。
「僕は君の事が好きになったよ」
 人では無い異邦人が、お気に入りを見つけたと言葉を繰る。
 先ほど狸尾が夜妖憑きの共存代償を語った事から察するに。相応の代償を背負って居るのだろう。
 堂々巡り。それは願いであり、抜け出せない輪廻とも取れる。
 燈堂廻とは暗示的な名前だと愛無は視線を向けた。北も南もキナ臭い。これから先も廻と会うこともあるだろう。物語は劇的な方が面白い。
「何かあったら、呼んでくれたまえ。僕は傭兵ゆえに。目と手の届く場所なら、いつでも駆けつけるよ」
 ポケットからaPhoneを取り出した愛無は廻に連作先を渡す。
「次は二人きりで飲みたいな」
「はい。また一緒に呑みにいきましょうね」
 ゆったりとした空間で少しずつ飲む酒と小さな会話はきっと楽しいと思うから。
 ブラウンライトに照らされたバーで約束をした――

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 色々、すごかったです。身体を張って危険を阻止した方にMVPを。
 またのご参加お待ちしております。

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