PandoraPartyProject

シナリオ詳細

有るはずのない宝を探して――

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「よし、行くぞ!」
 一人の男がパンっと頬を叩いて気合を入れ、正面に広がる林を見た。
「皆、準備はいいか? 傭兵の目は?」
「大丈夫だ、今のところはない」
「なら行くぞ! お宝は俺達が手に入れるしかねえ!」
 男の指示を受けて、数人の男が頷きあう。
 彼らはそのまま走り出すと、林の中へと入っていった。

 それからどれだけ経っただろうか。
 進行方向でがさり、がさりと不意に音が鳴る。
 ぴたりと止まった彼らが腰を落として後ずさりする中、ペキと音を立て、姿を現したのは、四足歩行の爬虫類にも似た生物。
 だが、特徴的なのはその両前足の付け根と尻尾だ。
 そこに生えそろうのは巨大な棘――
「まずい! 逃げろ!」
 男が声を殺していい、それに応じた数人が踵を返して走り出す。
 一心不乱に走り出した彼らが林を抜けて平野部に転がり出たその時――最後の一人が背中に衝撃を受けて倒れこむ。
「う、うわぁぁ!!」
 うつぶせに倒れこんだ男が叫ぶ。
 その背中にのしかかるのは、大型のネコ科動物。
 その牙は鋭い。ぴちゃりと動物の口から垂れた涎に男が悲鳴を上げた時、ほら貝の音が鳴る。
 それを聞きつけた動物がぴくりと反応し、跳ねるように林へと消えていった。


「姫様、またありました」
 入室許可を得て入ってきた隻眼の男は、部屋の主へとそう声をかけた。
「……またですか?」
 げんなりとした顔を浮かべて、スカイブルーの髪をした女性――『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が溜息を吐いた。
 執務のために握っていた羽ペンをぺたんと横たえ、露骨に辟易とした様子で視線を男に向ける。
「それで……その賞金稼ぎさん達はどうなりましたか?」
「はい、幸い魔獣にこそであったもののちょうど見回りが到着して助かったようです」
「それは良かったです。……それにしても、このままだと拙いですね。
 規制しても行くのを止めないとなると……」
 隻眼の男の返答に、テレーゼは深々と溜息を吐いた。
「えぇ。規制してダメならば、恐らくは姫様がそんなものはないと宣言したところで駄目でしょう」
「でしょうね。賞金稼ぎの方々からすれば、私は管轄区を要する立場。
 自分の財産のためにある物を無いと言っているとか何とか云われるのが関の山でしょう……」
 羽ペンを立て、炭にとんとんとつけながら、ぼんやりと虚空を見つめたテレーゼは、再び溜息を吐いた。
「……こうなるとやはり、イレギュラーズの方々にお願いするのが一番でしょうか。
 クラウスさん、ユルゲン団長と傭兵を数人見繕ってください。
 出来る限り表立って規制役員として動いてない者をお願いします」
「承知しました」
 隻眼の男――クラウスが言葉を少なに部屋を出ていくのを見届けたテレーゼは、少しの間ぼんやりとした後、机から羊皮紙を取り出してさらさらと書き連ね始めた。


 ローレットにて依頼を見た8人のイレギュラーズが訪れたのは幻想南部に存在するブラウベルクという町、その領主邸だった。
「こんにちは、ようこそお越しくださいました」
 ひとまずはと恭しく礼をしてみせたテレーゼは、そのまま隣にいた秘書に目配りする。
「皆さんに今回ご依頼したいのは、とある洞窟の探検です。
 実は、近頃、その洞窟の奥に宝物があるとの噂がありまして」
「その宝物を探せってことか?」
「――いえ。その宝物が無いことを確認してきてください」
 質問にテレーゼはふるふると首を振って、そう言った。
「無いことを確認してくる?」
「はい。どこの誰がそんな噂を流し始めたのかは知りませんが、そんなものはあるはずがないのです。
 場所はオランジュベネ――皆様の中には領地を持つ方もおられるかもしれませんね」
 そう言ってテレーゼは尻尾のような三つ編みをフルフルさせながら資料を見る。
「かつて、ブラウベルク家と旧オランジュベネ家は気の遠くなるほど長い間、権力闘争に明け暮れていました。
 もしも本当にそんな宝物があるのなら、とっくの大昔に見つけ出して政治運用しています」
 そして、こほん、と一つ咳払いをして、君達の方をじっと見つめた。
「実は、皆さんに領地として運用できるよう開放した場所は、比較的治安のいい場所が多いのです。
 一方で今回の案件の場所は魔獣がうろうろしてまして……大変危険なんです。
 ですが、この噂が流れ出始めてからというもの……」
 宝物の存在に惹かれたトレジャーハンターが我先にと向かっては魔獣を相手に撤退を繰り返しているのだという。
「今のところは魔獣に出会ったら退く命を大切にする人ばかりですが、いつ怪我人や死人が出てもおかしくありません。
 なので、この国でも名高き皆様に、洞窟を探索してそんな物はなかったと、そう確認してきてほしいのです」
 そう言うと、テレーゼは頭を下げ、次いで視線を隻眼の男に向ける。
「洞窟までの道のりは私が雇っている傭兵の方々が斬り開きます。
 なので、洞窟に入ってからが皆さんのお仕事、という事になります。
 どうか、御無事での帰還を――お待ちしておりますね」

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
久しぶり? 久しぶりの純粋な探索系依頼でしょうか。

それではさっそく詳細をば。

●オーダー

洞窟を踏破して帰ってくる

●情報
・高さと幅
天井まで5m程の高さ、
横幅は一般男性が4人ほど手を伸ばして並べる程度。

・内部状況
洞窟内部はひんやりと冷たい他、
地面は基本的に水滴でぬかるんでいます。

・明るさ
奥に行けば暗視か光源無しでは周りを見渡すことができなくなるでしょう。
なお、光源の種類によっては天井から降ってきた水滴などで
使い物にならなくなる可能性もあります。

また、このため上記のような暗視や光源が無ければ
命中、回避、防技にペナルティが加わります。

・構造
基本的にはまっすぐな気もしますが、行ってみなければはわかりません。

・エネミー
魔獣が潜んでいる可能性は大いにあります。
最近、付近で多く見受けられる魔獣は以下です。

『シャドウレパード』
非常に隠密性に長けた魔獣で、無音での奇襲攻撃が可能です。
反応が高めで暗所でも命中にペナルティを受けません。

爪や牙での【出血】系【致命】系攻撃の他、
体当たりによる【崩し】系攻撃が予想されます

『ホーンリザード』
かなり鈍重で音も鳴りまくりますが、暗視でも命中にペナルティはかかりません。
角に毒があり、刺されば【毒】系統のBSが入ります。
大きな尻尾による【飛】の攻撃の他、噛み付き攻撃が予想されます。

●リプレイスタート時状況
皆さんはリプレイ開始時に洞窟の前に立っています。
出入口は傭兵が固めて待っていてくれるので、安心して入ってください。
彼らは信頼できます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はB-です。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、
不明点が多く不測の事態が起きる可能性があります。

  • 有るはずのない宝を探して――完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ


「火のないところに煙はナンとかっていうけど、本当にないのか?」
 上着を着込む『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は洞窟の入り口に立ち、傭兵の方に問いかけた。
「トレジャーハンターの方が毎回無傷で撤退できているというのも変ですね?」
 自らの戦略眼を以って『宵闇の調べ』ヨハン=レーム(p3p001117)も見解を呟いた。
「そうですね。本当にないはずです。
 トレジャーハンターの件は噂が出てきてから警戒を強めているからですね。
 ただ……これはあくまで、我々の監督できている範囲の話ではありますが」
 ここまで案内してくれた傭兵のリーダー格らしき人物が2人の問いかけに応じる。
(他ならぬテレーゼ様からの依頼だからね。確実に、着実に対応しよう)
 意欲を見せるマルク・シリング(p3p001309)はちらりと彼らが腰に下げ、ここまで来るのに時折吹いていた法螺貝を見る。
「その法螺貝は?」
「これは元々、この近くの集落に居住する人々が魔物への対処のために使っていた法螺貝です。
 この音を聞くと魔獣は退いていくのです。
 恐らくは進化の過程でこの音が鳴ると敵が来ると学んだのだろう……と学者は言っています」
「気持ちはよく分かるな。宝物はロマンだものね!
 でもそれで命を落とす人が出ちゃうのは良くない!」
 そう言うのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。
 そんな彼女の様子に、傭兵が微笑ましそうに笑ったあと、こくりと頷いた。
「『何もないことを確認する』なんて、悪魔の証明みたいで興味深いね……
 お宝集めは好きだから……何もないかもしれないのは残念だけど、これもお仕事……」
 ランプの中の火を灯した『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は耳をすまして傭兵と他のイレギュラーズの会話を聞いていた。
「何人ものトレジャーハンターを返り討ちにした洞窟ですか……
 宝箱がないのは残念ですが、どのような場所なのでしょうね」
 洞窟の奥から感じるひんやりとした冷たさに微かに身体を震わせた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)が入り口を見上げた。
「無いものを「ある」と勝手に思われて……か。大変だね。
 それを最初に騒ぎ立てたのは誰かというのが気になるけれど……」
 ひとまず依頼成功の方に集中しないと――そう考える『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)は暗視で洞窟の方を見る。
(何もないはずのダンジョンか…そうだとしたらなんか隠したくなるよな、最奥に伝説の剣よろしく剣とか突き刺してみたい)
 したらいけないと分かっていても、やはり思ってしまう『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)であった。


 ひんやりとした空気が肌を撫でる。
 ぴちょんと落ちた水滴の音が、洞窟の内部に反響して消えていく。
 ぽつ、ぽつと仲間たちが灯すランプ、カンテラといったものによる、ぼんやりとした光が洞窟内部を照らしている。
 イレギュラーズは一悟、サイズ、ヨハン、シルヴェストルの4人を前衛に、陣形を組んで進んでいた。
 サイズは鍛冶道具の一つであるハンマーを洞窟の壁に着けて進んでいる。
 軽くカン、カンと響く音は石や岩の洞窟らしい音ばかり。
 第三者を警戒するヨハンは、最前衛にて仲間たちの下へ聖なる盾のオーラを与えながら突き進んでいる。
 ペース配分を整え、陣形を崩すことなく、淀みなく静かに突き進んでいく。
 一悟はカンテラを若干顔に近いところに持ち上げていた。
 カンテラの炎の揺らぎは今のところ、歩いていることで揺らぐだけにすぎない。
 だが、横道や縦穴のようなものがあればこの炎の揺れ方も変わるはずとの判断だった。
 暗視を用いて進むシルヴェストルはその一方で耳をすませていた。
 ただ音を聞いているわけではなく、聞いているのは音の反響だ。
 反響する音によって洞窟の形式をおおよそ確かめていく。
 サイバーゴーグルで視界を確保するマルクは洞窟内部、特に天井へ注意を向けていた。
 鍾乳洞のようになった部分から落ちてくる水滴が顔を微かに濡らす。
 じぃと見つめて人工物が無いかどうかを探り続ける。
 リュティスは陣形の中央から若干ながら後方寄りを進んでいた。
 暗視によるその目は後方へと注がれている。
 フラーゴラは耳をすませている。
 ハイセンスで感じ取る物音は、水滴の音の他には風の吹き抜ける音、サイズがハンマーで壁を軽く叩いていく音ぐらいか。
 臭いに関しても、今はまだ水の匂いとぬめった草の臭いばかりで。特には感じ取れない。
 聞き耳を立てながら進むアレクシアはその一方でエネミーをサーチしていた。
 カンテラの輝きに照らされる洞窟内には今のところ敵性存在の類は感じられない。


 さて、洞窟の中に入ってから少しずつ時間が過ぎていきつつある。
 ずる、ずる、と何かを引きずるような音が奥から聞こえてきた。
 一つじゃない。二つ、三つ、四つ、五つ。
 続くように、低い音が鳴った。独特なギャォといった感じの音――いや、これは声か。
「来ますね……さぁ、始めよう! オールハンデッド!」
 ヨハンが指揮棒を用いて奏でるは全軍銃帯の大号令。
 卓越した統率指揮能力を有するヨハンの指示は的確という他ない。
 発されたる大号令は名もなき兵士を英雄に変える大号令。
 それが元より英雄と呼ぶべきイレギュラーズより、イレギュラーズへと齎されるのだから比較するまでもない。
 暗所を物ともせぬ正確性が齎される。
 姿を現した五匹の魔獣――身体に角の生えたその魔獣たちがイレギュラーズへと襲い掛かってきた。
 自らの周囲を氷のバリアで包み込んだサイズは鎌を強く活性化させると、血色の輝きを放つ鎌へと砲口の付いたユニットを無理やりにくっつけた。
 けたたましく鳴り響く警戒メッセージを無視して、鎌の切っ先を大地へ突き立てる。
 収束するは艶やかななる真紅の魔力。鮮血を思わせるそれが魔力が一直線に魔獣を焼いていく。
 シルヴェストルは自らの収集してきた膨大なる魔術の一編を紐解いた。
 鮮やかに生じる雷霆をサイズが一撃を見舞った方角へとけしかけた。
 うねりながら駆け抜けた雷霆はまるで檻でも作るかのように迸った。
 二匹が地面に倒れたのを見たその時だった。死角より現れた漆黒がサイズへと突撃する。
 ぴしりと走る傷は、思ったよりも深そうだ。
 それに続くようにホーンリザードがギャオと声を上げ、角ごと突撃を仕掛けてくる。
「気をつけろ!シャドウレパードもいるぞ!」
 一悟はサイズへとのしかかった漆黒――シャドウレパードへとトンファーを叩き込む。
 リュティスは宵闇の弓を構えた。
 闇多き洞窟に溶けるような流麗なデザインの弓を引き絞る。
 その脳裏で思考を効率化させ――放つ。
 真っすぐに跳んだ闇の矢はその色からは想像もつかない眩き光を魔獣たちへと降り注ぐ。
 強烈な一撃で叩きつけられたトンファーの先から漏れた炎がシャドウレパードの身体に火花をつける。
 両手にはめられたブレスレットを活性化させたアレクシアは前衛へと近づくと、魔力を拡散させる。
 美しき色とりどりの花々は傷を受けた前衛の仲間たちの状態異常を削ぎ落し、気力を取り戻す。
 フラーゴラは魔術式が表となってまとめられた書物から一頁を紐解いた。
 聖なる光となって輝く癒しの魔力は、サイズの身体に刻まれた傷を癒していった。
 マルクは魔力を練り上げると、アムネシアワンドを洞窟に掲げた。
 神秘の杖が鮮烈な輝きを放ち、魔獣たちを包み込む。
 不死の慈悲を伴う強烈な輝きに魔獣たちが唸り声を上げた。


 魔獣たちとの遭遇戦を潜り抜けたイレギュラーズの足並みは再び洞窟の奥の方へと進んでいた。
 進み続けてどれくらいが経ったか。想像していたよりもかなり奥の方まで、進んでいる。
「……思いの他深いですね」
 ヨハンがぽつりと呟いた言葉が壁に吸い込まれるように洞窟に反響して消えていく。
「うん。この洞窟、注意しておかないと難しいけど、徐々に下に行ってる。
 ここが地表からどれぐらいなのか分からないね」
 こくりと頷いて答えたのはマルクだった。
「地図は作ってあるけど、そうみたいだね。
 人工物みたいなのはあったかな?」
 続くように行ったのはアレクシアだ。
「人工物じゃないが、これが関係してないか?」
 アレクシアに答えるように行ったサイズは小さな鉱物を明かりの下へ晒す。
 何の変哲もない物だ。
「珍しくはないが、これ鉄鉱石みたいだ。
 徐々に深く進んでいて、かつこういうのがあるってことは、もしかするとここは……」
「そういえば、この角とか貴重な薬になりそうじゃね?」
 なんて言って一悟が取り出したのは先の遭遇戦にて倒したホーンリザードから切り取ってきた角だった。
 とはいえ、強力な毒性を持ったその角は持ち歩くにも処理するにも難しそうだ。
「……お二人とも、どうしたのでしょうか?」
 リュティスは先ほどからどこか一方向へと視線を向けるフラーゴラとシルヴェストルに問いかけた。
「……静かに。サイズ、適当に軽く壁を削って手ごろな石を作ってくれないかな?」
 集中するように碧眼をすぅ、と細めたシルヴェストルは近くの壁面を軽く削り落としてもらうとそれを思いっきり進行方向めがけて放り投げた。
 反響音が、今までと少し違う。
「……うん。やっぱり……水の音がするよ……」
 白い耳をピクピクと動かしたフラーゴラが確信を声に滲ませていた。
「水? この水滴ではなくてでしょうか?」
 リュティスの言葉に、フラーゴラがこくりと頷いた。
「行ってみましょうか。何か違うものがあるのなら」
 ヨハンの言葉に肯定してイレギュラーズが再び足を洞窟の奥の方へと進めていく。
 乱れぬ陣形をそのままに突き進む中で、徐々にその音はそれぞれに聞こえるようになってきた。
 ――水の音だ。
 天井から落ちてくる水滴などとはまるで違う。
 勢いよく下へ落ちる大量の水の音。
 やがて、歪な半円を描くような形式のその先が、見えてくる。
「これは……」
 激しく落ちる水の音が鳴り続けている。
 ぽっかりと開かれた大きな空間には天井が広く、足元は水浸しだった。
 広い空間の奥、泉のようになった地面へと、地下水が落ちていく。
「うぇ……」
 フラーゴラが口元を抑えた。
「魔獣の糞の臭いがする」
 よく見れば、そこら辺に獣の糞にも似た何かが落ちている。
「地下水が滝になってるみたいだね」
 シルヴェストルは水滴に濡れる眼鏡をふき取ってかけなおすと好奇を滲ませる。
 景観は悪くはない。そこら中に糞が落ちてなければ、だが。
「あっちに続いてるみたいだ」
 サイズが指さした方向には確かに小川のようになって泉に湛えきれなくなった水が流れ出ていた。
 よく見れば小川自体が誰かが手を加えて作った物のようにも見える。
「皆さん、光を。あれを見てください」
 それを見つけたのはリュティスだ。
 警戒のために周囲を見渡していたその暗視が捉えたのだ。
 暗視と、各々の光源がそちらを照らし出す。
 そこにあったのは――
「……小屋?」
 近づいてみれば、意外と大きい。
 これならば数人が休憩をするのに問題なさそうだ。
「もう当分使われてなさそうですね」
 リュティスは小屋を下から上へ見上げるように眺めて呟いた。
 それは完全に風化していた。
 木材は水気を吸って多分の湿気を帯びて腐り果て、何かの襲撃を受けたようにへし折れ割れている。
 襲撃の方は辺りに散らばっている糞を考えれば魔獣のせいであろうことは明白だ。
「待って、一応、エネミーサーチをしてからにしよう」
 近づいたイレギュラーズの中でアレクシアは一度止めると、意識を集中させる。
 漂う魔力が小屋の中へと入り込む。
「うん、敵対反応はないよ」
 念のためにアレクシアが行なったエネミーサーチの後、マルクは朽ち果てた入り口を乗り越えた。
 外と同じように、内部もひどいありさまだ。
 鼻のつく黴臭さに顔をゆがめながら、後ろで仲間たちが入ってくるのを感じつつ周囲を見る。
「……ツルハシ?」
 ひどく錆びついた刃部分と、湿気で持ち上げた瞬間にへし折れた柄の形状を形容するならば、そういう物だ。
「やっぱり、ここは炭鉱の類みたいだな」
 他にもあったツルハシを持ち上げてサイズはつぶやいた。
(ここの景色なら守る価値はありそうですが……)
 ヨハンは自分の推測を思案しつつも、悩ましそうに唸る。
 どちらとも言い切れないが、どちらかというと第三者はいないような気もする。
「あとはあの小川の奥か。ここまで来たんだ行ってみようぜ」
 一悟の言葉に頷いて、イレギュラーズ達は小川に沿うようにして歩き出した。


 洞窟踏破を終えたイレギュラーズはブラウベルクの依頼人の下に訪れていた。
 あの後、小川に沿って進んでも終わりが見当たらなかった。
 恐らくは数代に渡って掘り進めていたのだろう。
「テレーゼさん。これ、洞窟の中にいた魔獣の情報だ」
 サイズがそう言って取り出したのは、魔獣の情報を記された文書と――あと一つ。
「それから、あの洞窟の中で落ちてた鉱物なんだが……」
「まぁ、これは?」
「鉄鉱石だな。それだけなら高価じゃないが……」
「あって無駄にはなりませんね」
 サイズの言葉を繋ぐように言われて、こくりと頷いた。
 マルクも同じように洞窟の奥で採れた鉱石を、それにあの地下水路で見つけたツルハシだったであろうガラクタを持ち帰っていた。
 それらを何もない証拠として提出しつつ、文書を手渡した。
「テレーゼ様、こちらは調査結果を踏まえて作成したレポートです。
 隠された宝物がある可能性は無いと、記してあります」
「ありがとうございます! これを公表しておけば、トレジャーハンターの方々も興味を失うでしょう」
 嬉しそうに笑うテレーゼに、マルクは笑みを返す。
「旧オランジュベネ領がより早期に復興し、より安定した地になるように。
 出来る限りのお手伝いをさせて下さい、テレーゼ様」
 オランジュベネは養父の暮らす第二の故郷でもある。
 この地が安定した場所になるようにそう願いを込めて。
 もちろんだと、テレーゼが笑っていた。
「テレーゼさん、可能ならこれが領内で出回るように計らってほしいな」
 そう言ってアレクシアが手渡したのは、洞窟内の事をできうる限りに精密に記した地図だった。
「こんな正確な地図のある洞窟にお宝があるなんて、早々思われないでしょう?」
「そうですね。はい、ではお預かりしますね」
 そう言ってテレーゼが地図を受け取った。
「ありがとうございます、皆さん。
 これならきっと、あの洞窟に行く人も減るでしょう」
 そう言って、依頼人がイレギュラーズに頭を下げる。
「それにしても……炭鉱の類だったのですね。
 一体どれぐらい前なのか分かりませんが……
 資料が残っていれば皆さんにご迷惑をおかけせずに済んだものを」
 遠くを見るような眼をした後、テレーゼから改めてお礼を言われつつ、君達はその場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
皆さんが齎した地図や文書は情報として出回ったようです。

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