シナリオ詳細
奔走の
オープニング
●暴走する村人達
始まりは村に住む勇敢な青年が獣を追い払った話からだった。
幻想の片田舎で暮らす村人達は、日々を慎ましく。それでいて世俗の難から逃れながら、穏やかな日々を送っていた。
そんな彼等がある日。村の有する田畑を獣が漁った痕跡を見つける。
大事な食物を無駄にされ、糞便さえ撒き散らして逃げて行く獣を相手に村人は怒りを覚えた。そこで彼等の中から獣退治に乗り出した青年が登場する。
『俺がみんなの為に魔物をやっつけて来るよ!』
純粋な想いから出た言葉だった。
村の男女に魔物退治をした事のある者はなく、定期的に狩りを教えに来る流れの冒険者以外にその手の『戦い』を教授する者など、当然いない。
しかしそれでも人間勇気を振り絞れば出来ない事も無い。
何より、青年は歳若く体は頑丈だった。農業や日々の生活を支える狩りやその他の仕事は、青年に基礎体力というものを与えてくれた。
だから。彼は棒きれで腰まである獣を叩き、追い返すことが出来てしまった。
しかし話はこれで終わってはくれなかった。
彼が獣を追い払って暫く経った後、村の他の若者達が青年団を自称して森へ入って行く様になってしまったのだ。
最初は狩りの延長。何なら、狩りに出る者達に代わって薪や獲物を持ち帰ってくれる分、村にとって良い傾向だと思われた。
――足を食い千切られた友人を抱えた少年が逃げ帰ってくるまでは。
『なにがおきた』
『モンスターに挑んだんだ、村のためにやった』
そんなやりとりをしている最中に尊い命は失われてしまった。
無謀な行為を咎める声は多かった。だが、それ以上に……青年団を自称する若者の血気さが村人の怒りを上回ってしまう。焚き付けられたのだ。人食いのモンスターに報復を、と。
手に手に鍬や鎌を抱えて、彼等は森へ入って行った。
そうした後に、彼等は見事無事に帰還を果たして見せたのだ。熊のような魔物の母子を引き摺り、持ち帰った骸を高々と掲げて見せた青年団はまさしく村の英雄だった。
湧き立つ栄華の酔いは、若き男子達の心だけでなく少女達の心までも掴み始める。
村から出て行っては何かを仕留めて帰って来る彼等に、村の若き乙女達は心を寄せ、熱に侵されて行った。
じきにその熱は、定期に訪れる冒険者をも巻き込んだ。
青年団は冒険者にモンスターとの戦いに必要な武器や防具の調達を願い出たのだ。しかし片田舎、ただの道楽で物を教えがてら獲物を分けに来ていただけの男には、手も足も足りない。
そこで、彼に装備を一つ売ってくれないかと青年達は頼み込んだ。彼等は、村には無い銀や鉄の装飾された本物の『武器』を前に、危うい熱を籠めた眼差しを向けていた。
冒険者の男は身の危険を感じた。
売ってしまった。生き物を殺める為に研ぎ澄まされた、一本の短剣を。
青年団発祥に至った、最初に獣退治を成した青年へ短剣は渡された。この日から彼は皆のリーダーとなり、やがて……先人である大人の言葉が聴こえなくなってくるようになる。
獣を狩っていた青年団は、木の棒から粗製の手槍に装備を変え。囲む事を覚え。魔物を狩るようになる。
血の放つ熱は、世俗に疎い彼等にとって最高の娯楽で。一枚の金貨よりも多くを手に入れられる手形だった。
――いつの間にか、村は。
すっかりかつての慎ましさを忘れ、連日宴を開いては盛んに人としての悦びに興じるようになってしまっていた。
●血の味
依頼者コンフロスはそこまで語って息を吐いた。
「襲われたのは俺だけだ」
ゴトリ、と。食卓の上に置かれた布の包みが重々しい音を立てる。
店の給仕がその様子に一瞬視線を向けるが、気にしない。"そういう店"を選んでいるのだと依頼者は言うと。改めてその包みを開いて中身をイレギュラーズに見せた。
それは呪符に包まれた腕だ。視線が、彼のヨレヨレに萎んだ右腕の裾へ集中した。
「気にするな。知人に腕のいい呪術師がいる、保存状態が良ければ……もう一度接合できるだろう。
些事はともかく、これをやったのはたかだか三ヶ月の間に増長した田舎村の子供だという問題にある。
……人を狩る事を覚えた以上は悪い方向にしか行かない。わかるな?」
依頼者コンフロスはそう言って酒場の薄汚れた天井を仰いで続けた。
「村人はざっと60人。多いが、半数以上は老人。近年その村周辺で起きた水害で幾つかの集落が統合された結果ってとこだ。
件の青年団はもう首魁に据えた小僧……アニスの名を使って組織を気取っている。村の長や大人たちはすっかり新世代に唆されて『その気』だ、説得は難しいだろう」
一拍置いて。彼は卓上の腕を仕舞い込みながら言った。
「"だが説得してくれ"
誰でもいい、手段は……村の連中の明日を奪う事にならなければ問わない。
あんな片田舎をうろつく連中はそうはいないだろう、だがいずれ足を伸ばせば他の集落や村に行き着く。
奴等は玩具を使って暴れる楽しみを覚えただけ。これは――俺の責任だ」
そう締め括った彼は素早く、卓上に地図を広げた。
それが描かれたのは最近なのだろう。その真新しい地図を前にイレギュラーズは覗き込みながら、彼の次の言葉を待った。
「依頼を受けてくれて感謝する。頼んだぞ、殺しは……なしだ」
- 奔走の完了
- GM名いちごストリーム
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月24日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●朝陽は遠く
太く巨大な木の根が剥き出しになった大樹の森の側。
街道に近い山道ならば馬車は通れるだろうかと思う『観光客』アト・サイン(p3p001394)は、一定のルートに新たな罠を仕掛けていた。
夜露に濡れ不気味さを醸し出す人狩りの森はアトの手によって、見る者へ違和感を与えぬよう工作が成されて行く。
「アトさん、これ」
「多いな……狩りに熱中して人を襲うスリルにも目覚めた、か」
アトを呼んだ『自分にはない色』グリーフ・ロス(p3p008615)が指差す先、木陰に隠すように設置されたその縄は狩猟罠を改造した対人用のスネアトラップ等だ。
「始めはひとであったのでしょうけれど、今や半分ひとでなし。おやさしい依頼人がいなければ不殺を考慮する事も無い相手ですね」
淡々と、腹を立てた様子で『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)もまたグリーフ達と共に仕掛けられた罠を除去する。
一方、『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は馬車の荷台に腰掛けながら金髪を生き物のように蠢かせていた。
「……生きる糧として、狩人は、命を奪う。
しかし、そこには常に、敬意と責任が、ある。玩具ではしゃぐ子供の遊びでは――断じて、無い」
静かな怒りは沸々とその身に溜まっていく。
アト達仲間が作業に耽る間、山道沿いの茂みに隠した馬車の御者台で『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)が『ファミリアー』を用いて村の様子を見ていた。
村では、夜明けの狩りに向けて早々に準備を始めていた若い男女が行き交う。その光景は普通の田舎村にしか見えない。
こんな村が、なぜ。
「力を手にしたが故の増長……ということでしょうか。取り返しがつかなくなる前に止めねばなりませんね……」
そう独り言つ彼女の傍でマルク・シリング(p3p001309)はそっと手を伸ばす。
「少しずつ、少しずつ、歯車がずれていってしまったんだね……けれど、まだやり直せる」
ヴァージニアの被っていた旅装のフードに、かつてマルクが居た『家』で見たものと同じく行商を装うように柄のある紐を引っ掛けて横に流す。
その姿は普段よりも一層、令嬢然とした雰囲気を醸し出していた。
「……!」
そんな時、ヴァージニアが御者台から立ち上がり仲間へ報せる。
村人。件の『アニス団』が動き出したのだ。
「予定通りだ」
予め狩りのルートを把握していたアトはそう言って。配置に着き始める仲間を一望した。
これから慌ただしくなる中、『天罰』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)は逆に静かな森の木々を見据え。
「相手は一線を越えかけているか……私に出来る事は、何なのだろうな」
……揺れる銀の髪の下。虹彩と交わり揺れる魔を秘めた瞳は、何を想うのか。
彼等は待った。
鬱蒼とした森に薄ら朝陽が射すまで、じっと。
ただ武器を振り回す愉しみに溺れた愚かな少年達を"狩る"為に。
マルクとヴァージニアが放ったファミリアーによって見通される景色の向こう。アニス団が近付いてくるのを待ちながら。
「じゃあ存分に感じてもらおうじゃないか、逆に狩られる側に立ってしまったときのスリルってやつをね」
アトの声は、鋭い切先のように響いた。
●
ハイセンスで索敵と捕捉を兼ねる蝙蝠は、迫り来るアニス団の面々を捉えていた。
「剣よ。俺に――続けェッ!!」
赤髪の青年が腰から抜いた短剣が妖しく輝く。その輝きは取り巻きの数人を順に包む。
「……!」
一瞬早く。危機を察知した行商に扮していたヴァージニアがグリーフの握る手綱を奪い取った。
短い馬の嘶きが連続し。軌道と共に車体が傾き、馬の首を獲り損ねた投擲ナイフが荷台天幕を僅かに引き裂いた。
驚くべき速度で回り込んで来た三人の濁った眼がヴァージニア達を捉える。
馬車は停まらず、山道を駆け下りる。
やがて到達した開けた空間――倒木によって塞がれ袋小路と化した場所だった。
「降りろ! 抵抗すると容赦しないぞ!」
迫る青年達は、積み上がった倒木に荷台を打ち付けるように急停止した馬車へと――雪崩れ込もうとした。
青白い光が青年達の前で閃く。
「なに……!? ぐああぁぁあああ!!」
馬車の荷台から飛び出した金髪。エクスマリアから放たれた弾幕が次々に周囲の樹木を薙ぎ倒す。
散開し、馬車の周囲にあった背の高い茂みへと逃げる青年達の悲鳴が連続した。
半ば飛び上がるかのように足を吊られ、樹木に叩き付けられる者。踏み抜いた落とし穴に隣の者を引き摺り込んでしまい有刺鉄線に絡まり血飛沫を上げる者。トラバサミに足首を砕かれる者。
奇襲と罠の連鎖に乗じて複数の影が動き出す。
「ま、魔獣!?」
「……心外な」
ヌゥ、と青年達の眼前に姿を現した中でも目を引いたのはアレックスの変異態……神秘の獣。
そして水晶が如き鈍い輝きを携えた槍の穂先を揺らす彼の隣にはズゥンッ!! と地響きをさせて、鉄鬼が召喚されたのだ。
陰から半身を晒し『朱の願い』晋 飛(p3p008588)が驚愕に目を見開くアニス団の前で獰猛な笑みを浮かべる。
「自分達が狩られる側になるのを忘れちまったかい?」
瞬間。アレックスがへ跳び掛かろうとした強化された青年を二人ほど抑え、互いの穂先がぶつかり合う。
「そりゃあな……あんだろ、他人様を狙えばよ」
呆れたように吐いたその声。その吐息を最後にアニス団の前で光が爆発した。
「ぐぁああっ!? 目が――」
狼狽。痛み霞む眼を開けた瞬間に襲うはまさかの二発目。距離を一挙に詰めて来るイレギュラーズを前に目も開けられぬ彼等は、複数の悲鳴に次いで炸裂する榴弾砲の爆裂によって一人、吹き飛ぶ。
錐揉みする赤髪の青年は背後へ高速で回り込む鉄塊に短剣を切り込む。が――鉄鬼の装甲面に傷は一つも無い。
鉄塊の関節部が蒸気を吹かし、岩が擦れ合うかのような駆動音を鳴らして大地を砕く。
奮われる、暴力的な一撃。
「……え?」
仲間の間抜けな声。赤髪の青年が彼等にとっての首魁『アニス』だと、イレギュラーズが把握していたと知らなかったのだ。
荒々しく振り抜かれた晋飛のAGは地面ごとその拳でアニスを打ち上げ、続くダブルスレッジハンマーが宙に浮いたその体躯を土中へとめり込ませたのだ。
数瞬遅れて響く轟音。
呆気に取られた青年達の前で、ナイフ振り上げたアニスが何か叫ぼうとして。直後にその顔面を鉄塊が打ち抜いた事で木々の向こうへ吹っ飛んで行った。
「ひ、ヒィッ!? アニス……!」
「がああぁ……ッ、いてぇ!!」
狼狽する彼等の元へ雄々しい声が一喝する。
「勘違いしてんなよ! 戦いってな痛くて怖いもんだ!」
アニスへ駆け寄る取り巻きに向かって猛烈な勢いで制圧しに掛かる晋飛。
「どうしたよ若いのォッ! 逃げたらお前の仲間ァビビっちまうんじゃねえのかよ!!」
彼は思い知らせる――――これは、戦いであり暴力なのだと。
「アニスに加勢しろ!」
「行かせん――!」
アレックスが背を向けた者の足を払い、掬い上げたその身を激しい薙ぎ払いで弾く。
呻き声を上げて足止めをくらう者に続いて果敢に挑む青年が二人。振り上げられた斧や槍を剣尾であしらい、文字通り蹴散らしたアレックスは咆哮を上げて注目を集める。
そこへ、先の奇襲の要ともなったエクスマリアが押し寄せて来た数人を相手に瑠璃やアトらと共に次々に打ちのめして行く。
スパァン、と入る金髪のナックルがボディブロウ。派手なその一撃に隠れ距離を詰めたアトが鋭い剣閃で刻み、瑠璃が閃光を投げ放つ。
「安心、しろ。命を奪わぬよう、後の生活に支障を来さぬよう、急所は避け、五体満足で済むように、配慮はする」
静かな怒気を帯びた長い金髪は炎の如く揺れている。
直前まで青年達が垣間見せたその狂笑が、エクスマリアの何かに火を着けたのだ。
ハッとした青年の前で爆ぜる。三対にも及ぶ金の翼、それらはうねり、微かに火花にも似た光を散らし、エクスマリアの前に立ちはだかった青年の四肢を回転鋸のように切り裂いた。
悲鳴。
金髪の下で光る碧眼が揺れる。
「痛みと、恐怖。これは、刻みつけさせて、貰う。
自分達が、奪うつもりでいた、もの。自分達が、奪われていたかも知れない、もの――その身を以て、学べ」
配慮はするだろう、だが少なくとも彼女は容赦をするつもりはなかった。
●
罠から抜け出したものの、襲う相手が悪かったのだろう。
突き出した槍の穂先を足捌き一つで絡め落とし、行商の装いから姿を変えたグリーフが手刀で延髄を打つ。
崩れ落ちる青年を他の青年達ごと罠の仕掛けられた茂みへ蹴り落して、彼女達は互いに背を預け合う。
「ヴァージニアさんは私の後ろに」
「はい!」
轟音。森の木々を縫って逃げるアニスを追う、晋飛が駆るAGの姿が視界を横切る。
傷ついたアレックスにヴァージニアがヒールをかける間際、気絶した青年を戦場から離脱させようとしていた瑠璃の方へ青年が一人襲い掛かる。
「……親切心を無碍にするからこうなるのよ?」
至近で閃光が炸裂し、直後に青年の鳩尾に踵が打ち込まれる。
神気閃光を放ったマルクは"ここ"だと確信して口を開いた。
「これ以上続れば死者が出るかもしれない……降伏し、話を聞いて欲しい!」
降伏勧告だ。彼はこれ以上の戦闘は無意味だと、諭すように言い放った。
だが、返答は無い。
そのせいか、彼の背後で血飛沫が上がる。
姿勢を異様に低く、足を集中的に狙い切り刻みに掛かった後に膝蹴りから跳び掛かっていくアトがいた。
マルクはそちらを一瞥し、改めて目の前の青年達へ視線を向ける。
だが、青年達はアトに襲われる仲間の奥で起きている光景に戦慄していた。
肩を並べ連携をしようと試みる槍持ちの二人組を瑠璃が放った閃光弾が怯ませ、続いて一対の戦槌と化した金髪で殴りかかるエクスマリアが縦横無尽に飛び回り翻弄し、二人共ボコボコに仕上げ。懐に潜り込んだ瑠璃が締め落とし、トドメを刺して行く。
「ぐああああぁぁぁぁ……!!」
丁度そんな時である。
馬車の荷台へ青年アニスがボロボロになった姿で降って来て、そのまま降伏を選んだのは。
●
――半壊した馬車に揺られ。
荷台に縛り付けられ、武装解除させられたアニス団は無力だ。
彼等は精巧な作りの短剣を金髪で包み、取り上げるようにして見下ろしてくるエクスマリアの視線に恨みがましく睨み上げてくる。
青年達の前に立ったアトが口を開いた。
「さて……君等を騙すような真似をしたのは確かに僕らだ。
君たちは納得いかないんだろうさ、こんな騙し討で狩人たる自分たちを捕まえるなんて許されることではない! ……ってね。
だが生憎、既に一人襲っちまってるようじゃないか。
キミらは僕たちを獣のように狩るつもりだったんだろうけど……僕らに取っちゃキミらの方が『獣』なのさ」
アトは、エクスマリアに一瞬目配せしてから。
「獣が罠を仕掛けられたと不平を言ったところで知ったこっちゃないんだよ、それが今のキミらの立場だ」
ボコボコに顔を腫らした青年。団のリーダー格だったアニスが声を荒げた。
「だったら殺せよ! どうせ、俺達はもうおしまいなんだろ! 畜生ッ、なんでお前ら降伏なんかしたんだよ!! 男ならあの鉄の男みたいに!」
――瞬間、血飛沫が上がる。
「!?」
アニスの前に崩れ落ちたのは。『自分』だ。
アトが翻弄する剣は容赦なく青年達を刻み、瑠璃やグリーフのような女性達でさえ見た事も無いような技を使って。僅か四十秒足らずで全滅する。そんな幻視だった。
瞠目する青年達の前に、一歩エクスマリアは進む。これは幻影だ、と彼女は語った。
化け物は――鉄鬼に乗り込んでアニスたちを蹂躙して見せた晋飛だけではなかったのだ。
「こんなの幻っ……ヒィッ!?」
一瞬。
球体の様に収縮して閃光を放ったエクスマリアの金髪が数瞬後に轟音を鳴らし、馬車から離れた位置の大木を砕いて見せた。
鼓膜を叩くその電雷。空気を走るエネルギーの奔流が有する凄まじさを見せつけられた青年達は、それを最後に何も言わなくなった。
顔を蒼くして震える少年の前に立ったエクスマリアはほんの少し電流を帯びた髪を揺らして。
「考えろ。腕を落とされても、憎しみでなく、責任を以てマリア達を雇った、冒険者の意思を」
ただありのままに。突きつけるように言った。
●
徹底的に痛めつけられて麻袋を被せられた姿で登場した青年達を目の当たりにして、村人達の間に動揺が広がっていた。
瑠璃は溜息を零す。
(冷や水代わりに色々叩き込むことにならなくて済みそうですね)
跪き、麻袋を頭に被って並ばされた青年達を背に、マルクが前に出る。
「どうか皆さん落ち着いて、僕達はギルド・ローレットの者です。村の代表者とお話させていただけますか」
ローレット。その名を聞いて見ずから出て来たのは、赤髪の老父だった。
「……私が村長だ」
事の顛末をマルクは語った。
「彼等は奪い続ければより強い力で抑えられる事を思い知ったでしょう、僕達も……次は手加減できない。
どうか落ち着いて聞いて、考えましょう。皆さんの"これから"について――時間は掛かるけど、僕も、皆がこの村で暮らす事を諦めたくは無い」
「……? それは、どういう事だ」
「皆さんに提示できる選択肢は三つです……村に残るか。今の村を棄て、別の土地でやり直すか。そして、村を解体し、外の世界で生きていくか。
ユースダス・コンフロスが冒険者組合に働きかけてくれるようです。少なくとも、皆さんが意思を捨てない限り明日の糧に貧する事は無いでしょう」
ただし、とマルクは村長達の前で。横から出て来たヴァージニアと並び付け加える。
「楽な道はありません……実は私達がこの土地を調べた結果、皆さんの住むこの村が数年経たないうちに水没してしまうからです」
「なっ!? な、なぜ……!」
「過去、ここは山間部にあった事から元々盆地のような形だったはずです。本来の土質も悪く、雨季は洪水が周辺地域に川となって流れ出していたとも……
それが緩和されるようになったのは、精霊か何かが一時住み着いた事で樹木などが大量に成長した為です。巨木の根がここを安定させ、長い年月の果てに今の形になったというわけです」
では、なぜそれが今になって水害となっているのか。
今度はヴァージニアが応えた。
「……もうここに精霊はいません、森の成長もじきに元の形に戻るにつれ森の生態も大きく変わると思います。
狩りでは、生きていけません。ただ他者から物を奪って生きたとしても、最後に待っているのは今日起きた事よりも酷い結末だけです」
……言葉を失う村長達。
過去に何らかの事情があり、寄り集まってできただけの村。そんな彼等に突きつけられた現実は重い。
だが、だからこそ。マルク達は再度呼び掛ける。
どうか、明日をこの手を取ってみないか――と。
●
傷ついた青年達の所へ集まって来た少女達に優しい声音で語りかける、グリーフの姿があった。
何処か哀し気な瞳を瞬かせ。彼女は少女達と向き合う。
「……女性のみなさん。男性の方はまだ実感は乏しいかもしれませんが……貴方たちの中には、親になる方もいるのでしょう。これから生まれる命を守っていかなければいけません」
不安はありませんか? と、彼女は切り出した。
そこでグリーフはこの村が置かれている状況と、真実を語り。少女達は初めて表情を曇らせる。
「近い将来ここで採れる物は無くなります。
そして今皆さんの立場は、討伐対象となるかどうかという、とても危うい状況です。
母体は、うまれてくる子は、大丈夫でしょうか。身重の身体で、あるいは子を連れて――お尋ね者として追われながら生きるのは辛いでしょう」
今度は少しだけ強く。グリーフの声が響く。
「――男性のみなさん。このまま狩猟や略奪だけを続けますか? 獲物を求めて、地の利のない他所の土地へ足を延ばしますか?
いつ帰れるか、稼ぎを持って帰れるかも分からない旅程に出ますか? 妻や子を残して。待つ人は……不安ではないでしょうか」
真実味を帯びて彼等に浸透していく言葉。
ギリリ、と歯を食い縛る音が。苦悶の声が何処からか聞こえた。
先の見えない現実を直視した事で、少年少女達は圧倒されていた。
「……解こう」
不意にアレックスが一歩前に出た。
ぱん。と、乾いた音が鳴った直後には青年達を縛り上げていた縄やワイヤーはバラバラに解かれ。アレックスは多くを語らず。ただ周囲にいる仲間へその眼で訴えた。
「もう、彼等の心は折れている。そして今の間に全ては変わったと思っていいだろう。依頼主が信じた彼らを……私はその意志を信じたい」
麻袋を取り、無事を確かめ合う声と共に啜り泣く声が聴こえて来る。
物憂げな表情でアレックスはそれを見下ろしている。
これは、必要なことだと自らに言い聞かせて。グリーフが続ける言葉を目を閉じたまま聞いた。
「何を一番とするか、改めて皆さんで話し合った方がいいと思います」
刹那的な享楽か、村の存続か……己自身か。
いずれ大人になり、世界を生きる彼等には選ぶ強さが必要なのだと、アレックスは自らの甘さを飲み干した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
●……数日後
村人達は特異運命座標が導いたその標に手を伸ばした。
――力のある若者達は冒険者となって、自らを打ちのめした屈強さを求め。村で待つ将来の伴侶たちを守る為に働きに出た。
――生きる為に必要な智慧を得るが為に、村の外で生きる事を決めた若夫婦。
――償いと、故郷を作る為に。特異運命座標がもたらした知識を基に『堰堤』を作り村を存続させると決めた老人達。
彼等は一見すればバラバラになった。
だが、そこにある決意や絆は。例え未熟で、熱に浮かされ易い危うさを秘めていようと同じく、本物だ。
彼等はこれからを生きる。
二度と過ちを犯さない為に――
GMコメント
●依頼成功条件
村人の暴走を止める
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●敵対性NPC
【アニス団】
田舎集落や村で育った年若い子供達が集まり武装した集団。
少年少女が多い中、主な戦闘時に出張るのは年長者の青年達である。彼等は血に飢えている。
アニスと青年達(14人)
首魁アニスはとある名のある冒険者から譲り受けた、加速の秘法を持った短剣を携えている。
その他にも魔物の牙を削った槍や、粗製の鉄斧をそれぞれ武装しており。
なぜか名のある冒険者を相手にしても劣らぬ動きをして襲って来るようになってしまっている。
能力)【頭蓋割り】(至・単 威力(中) 全力で攻撃)
【腸抜き】(近・単・出血 威力(中) 全力で攻撃)
【剣よ!】(自・付与 機動力・反応・回避 上昇)
●目標地周辺・状況(ロケーション)
幻想のとある森に囲まれた田舎村。
最近人口が増えた村だが、既に村の若い娘達の多くは身籠っており年が明けた頃には更に増える。
食糧問題は特に抱えていないものの、現在備蓄は無く。近年雨季になると水害に見舞われていた事で畑など、作物の収穫問題を抱えている。
以上のことから。彼等は現在その食糧の殆どが若い男達の獲って来る狩猟物となっており、依頼者コンフロスを襲撃に至った際は彼の所持金や身包みを剥がそうとしていた事から、既に賊になりかけている。
村人の多くは世俗を嫌って離れた世捨て人だったり、いわくのある人物が集まっている。
しかし最年長の者達以外。つまり青年達の親に当たる世代の者達はそんな中でも純粋に育ち、同時に都会への憧れを懐いていた。
彼等を説得ないしは青年達にこれ以上の愚行を止める事を促す必要がある。
依頼者からの希望は、【彼等の明日を奪わずに過ちを止める事】なのを覚えておいて欲しい。
●判定
明確な失敗ラインはないですが青年団との戦闘時に一人でも殺めてしまうと取り返しのつかない事態になります。
純戦ではありませんが、皆様の各種有効スキル・ギフトなどを活かして。皆様なりに考えた方法で村人の暴走を止めてあげて下さい。
尚、依頼者の同行は(治療等の理由により)不可能です。
●最後に
初めまして、シナリオを運営させて頂くイチゴと申します。よろしくお願いします。
皆様のご参加をお待ちしております。
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