PandoraPartyProject

シナリオ詳細

空色奏で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しき鈴の音が小さく響き、空を見上げれば照り付く太陽が肌を焼く。
 茹だるような暑さが着物の奥でじっとりと籠もっていた。

「う~、暑い。流石の私でもこの日射と湿気は駄目だわ」
 茶屋の木陰で冷たい麦茶を啜った『花舞乙女』国府宮 篝は狩衣の襟を持ち上げバタバタと空気を入れる。
 うなじを透明な雫が流れていくのを感じて、僅かに瞼を落とした篝。
 茶屋の店員から見れば憂い気な美少女のうなじは儚く愛らしく見えるだろう。
 幼さの残る色香。可愛さ。其れこそが篝の求めているものだ。
 どうだ。可愛かろうとチラリ後ろに視線を向ければ、そこに居るはずの店員は居なかった。
「ふぐッ!」
 暑いのを我慢して可愛さを演出したというのに。
 何だか頬も火照ってきたようだ。
「……あれ、これは。危険かしら?」
 次第に目の前がぐるぐると回り出す。こんな所で倒れたら服に砂が付いてしまうのに。
 身体は言うことを聞かなくて。篝は茶屋の軒先にばたりと倒れ込んだ。

 ――――
 ――

 燦々と輝く太陽の下、枢木 華鈴(p3p003336)と桜坂 結乃(p3p004256)は目印の茶屋を目指していた。
 他の仲間と落ち合う場所がその茶屋『かなで屋』なのだ。
「もうすぐかのう」
「地図によれば、この道をまっすぐ……あ、あれじゃないかな」
 結乃が指差した方向に視線を上げれば、赤い旗が目印の茶屋らしき建物が見えてくる。
「おお、あれじゃ!」
 砂漠の中でオアシスを見つけたように目を輝かせる華鈴。

 やっとの思いでたどり着いた茶屋の中には既にローレットの仲間が揃っていた。
「お待たせして悪いのう」
「ごめんなさい。遅くなってしまった」
 二人の到着に大丈夫だと破顔する仲間達。

 何故此処に集まったかというと、この茶屋の近くの街道で行商人が度々、炎を纏った妖怪に襲われている。助けてくれと依頼があったからだ。
 茶屋の店員から話を聞く所によると、丁度このぐらいの時間になると表れるらしい。
「こぉんなに、一抱えぐらいのね。大きい火の車輪みたいなヤツなのよぉ」
「あんたら、神使様だろ? 強いって聞いてるぜ。倒し終わったら報酬とは別に此処の茶屋で一休みしていいからよ。頼りにしてるぜ!」
 ばしんと肩を叩いた店主が、気前よく茶屋の一時を提供してくれるというのだ。
 外を見れば青い空に大きな入道雲が掛かっている。
 じりじりと地面を焼く太陽の光が眩しい。
「しかし、暑そうじゃの」
「本当だね」
 暑い中での戦闘はさっさと済ませて、涼むに限るだろう。

「それじゃあ、頼んだよ」
「任せるのじゃ!」
「えいえいおー!」
 店員の激励と共に、蒼穹の空のもとへイレギュラーズは駆け出した。

GMコメント

 もみじです。かがりんの行方を追って。
 ゆるーいシナリオです。はじめたばかりの初心者の方も入りやすいです。
 難しくないのでご安心ください。

●目的
 敵の討伐
 茶屋でひと涼み

●ロケーション
 高天京の郊外の街道沿い。
 お昼時なので灯り十分。広いので戦闘に支障はありません。

 少し離れた場所に茶屋があります。
 茶屋の名物は冷たい水がゆっくり流れる小川。暑い夏に最高です。

●敵
○邪妖怪『炎車』×2
 怨霊のリーダー格の強さです。
 炎を纏った車輪の形をした妖怪です。
 もっと暑くしてやろうと、街道を行く人々を襲っていました。
 オールレンジ(至~超まで)の攻撃を仕掛けてきます。
 全ての攻撃にBSの火炎系が付いています。
 物理攻撃は近く、神秘攻撃は遠くのスキルを持っています。

○怨霊×10
 何処からともなく集った怨霊たち。倒して綺麗に成仏させてあげましょう。
 至~中まのでの神秘攻撃を仕掛けてきます。
 全ての攻撃に呪い系が付いています。

●茶屋『かなで屋』
 ゆっくりと流れる小川に面した茶屋です。
 小川の水はひんやりと冷たく、足を浸けて涼むのに丁度良いでしょう。
 座布団の置かれた椅子に座って寛ぎましょう。

○メニュー
 わらび餅、おはぎ、水ようかん、氷菓子、かき氷、味噌田楽、
 ところてん、焼きおにぎり、焼きもろこし、釜飯など。
 ひやしあめや甘酒、お茶や果実を絞ったものなどがあります。
 ありそうなものが有るので安心してください。

●NPC
『花舞乙女』国府宮 篝
 かがりん。色んな所で暗躍中。
 それなりに強いですが、今回は茶屋で倒れているので基本的に戦闘に参加しません。
 ピンチになったら助けてくれるかも?
 可愛い自分と華鈴と結乃が大好き。
 目標は三人だけの秘密の花園を作る事。
 その為なら悪い事だって出来ちゃうちょぴりいけない子。
 枢木 華鈴(p3p003336)さんの関係者です。
 今回は戦闘の後、一緒に茶屋で寛げます。
 会話してみるのも良いでしょうし、追い払うでも構いません。

●ポイント
 はじめたばかりの初心者の方にも優しいシナリオです。
 遠慮無く参加して大丈夫ですよ。
 勿論初心者ではないと自負されている方の参加も問題ありません。

 プレイングは戦闘半分、茶屋半分ぐらいだと丁度いいでしょう。
 戦闘プレイングが難しい場合は周りの人に相談してみましょう。
 茶屋のシーンは思いっきりはしゃいでみましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 空色奏で完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月25日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
砧 琥太郎(p3p008773)
つよいおにだぞ

リプレイ


 燦々と照りつける陽光は蒼穹の空を焼いてなお降り注ぐ。
「今日も暑いねぇ……夏は嫌いじゃないけど、こうも暑いとまいっちゃう」
 頭に付けたボンネットに風を送り込んだ『ふんわりラプンツェル』桜坂 結乃(p3p004256)は頬を染めながら隣に立つ『ゆるっと狐姫』枢木 華鈴(p3p003336)を見つめた。
「そうじゃのう。襲われる事自体厄介な話ではあるのじゃが……この炎天下、炎を纏った妖怪に襲われるというのは堪った物ではないのぅ」
 華鈴の着物の中にじっとりと汗が滲んでいく。
 茶屋から一歩外に出れば熱気が一段と増したのが分かった。
「結乃は大丈夫かのう? 皆の迷惑とならぬよう、さくりと倒してしまおう!」
「うん。さっさとやっつけて、皆で涼もうね」
 こんな暑さの中、火の妖怪を相手にしなければいけないのだ。早急に終わらせるしかないと華鈴の結乃は日向へと向かう。

「妖怪退治のついでに、お茶をいただけるとは。良い縁に巡り会いましたね」
 暑さを感じさせない『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の振る舞いに『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)はこくりと頷いた。
「報酬も貰えてお茶屋で一休みも出来るなら是非もないよねっ!」
 それだけ火の妖怪に困っていると言うことだろう。雪之丞は花丸と共に茶屋の暖簾を潜り外に出る。
 肌を焼く陽光に雪之丞は手で目元を覆った。
「拙も、暑さは苦手ですので、手早く片付けるとしましょう」
「そうなの? 涼しげな感じだけど。お外はまだまだ暑いからちゃっちゃとお仕事を片付けようか」
 ぴょんぴょんと元気に飛び回る花丸に雪之丞は笑みを零す。
「あ、戦闘とは別に倒れちゃ困るし水分補給だとかは忘れちゃダメだよ? 花丸ちゃん、飲み物貰って来たから喉が乾いたら言ってね!」
 花丸は茶筒を手に『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)へと振り向いた。
「そうですね。こんな素敵なお店の近くで熱中症を大量発生させる訳にはいきませんからね」
 ハンスの視線は花丸の向こうに見える空へと注がれる。
 高く積み上がる入道雲、照りつける太陽。夏の昼下がり。茹だるような暑さ。
「絶好のお茶日和ですね! ……正直な事を言うと、お菓子が楽しみで楽しみで。えへへ。
 さあーー邪魔者には、さっさとご退場願いましょうか!」
 ハンスの後から暖簾を出てくるのは『新たな可能性』久泉 清鷹(p3p008726)だった。
「まったく街道を襲う怨霊か、迷惑千万だな」
 痛い程の日差しに目が眩みそうだと眉を顰める。
「店主が困り果てて頼ってくれたのだ、期待に応えて。きっちりと退治しなくてはな」
 清鷹の後ろに付いてくる『つよいおにだぞ』砧 琥太郎(p3p008773)へと手を広げ。
「そだそだ! 店主に頼りにしてるって言われちゃ、つえー男の出番だな!」
 小さい身体でうんと手を伸ばして清鷹の手にタッチした琥太郎。
「茶屋のもてなしを心おきなく受ける為にも油断せず行こうか」
「オレ達がばーっと倒すから、安心してろー! でもって茶屋で飯だ!」
 言いながら塩むすびを頬張る琥太郎に笑顔を向ける清鷹。

 茶屋から街道へと進んでいくイレギュラーズ達は前方に蘇芳の色を見つける。
「あれは火車……それとも輪入道……?」
 若紫の瞳で敵を見据える『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は慎重に歩を進めた。
 輪入道や火車と似ている形状ではあるが、別物だろうかと思案する。
 されど、周囲の怨霊を集めているのはその邪妖怪である事は間違いないだろう。
「行きましょう」
 冬佳は仲間へと伝え、敵を射程に捉えた。

 ――――
 ――

 暑さ故に。イレギュラーズは奮闘した。
 早く終わらせなければ、別の意味で命の危険が生ずると何時になく全力で戦ったのだ。
 多少の数の多さはあれど、祓う分には問題無いと冬佳は若紫の視線を上げる。
 先ほどまでの戦いを冬佳は思い返した――

「わらわの可愛さに、皆注目すると良いのじゃ☆(ゝω・)v」
「おいでませ、おいでませ。怨み辛み。荒ぶる魂。かの鬼が引き受けましょう」
 華鈴と雪之丞の声が戦場に響き渡る。
 二人が距離を上手く取り合い、全ての怨霊を手中に捉えた。
 暑さから逃れたい一心が働いたのだろうか。イレギュラーズの動きはとても機敏であった。
「花丸ちゃんは炎車を抑えるよ! 近付くとホント暑いねっ!? でも、こんなんじゃまだまだだよ。さっ、我慢比べと行こうかっ!」
 燃え盛る邪妖怪の前に立ちはだかる花丸。肌を焼く痛みは結乃によって直ぐに回復されていく。
「みんながしっかり動けるようにサポートするのがボクのお仕事だからね」
 こくりと頷いた結乃は戦場を見渡した。
 引き寄せられた怨霊目がけて、水の奔流が押し寄せる。
「とてもとても暑いでしょう? 打ち水でも如何?」
 この声はハンスのものだ。その影から飛び出す琥太郎。
「怨霊なんてオレの風で吹き飛ばす!」
 琥太郎の声に華鈴はその場をひらりと飛び退く。刹那、鎚嵐が怨霊を切り裂いた。
 イレギュラーズの猛攻に次々に散って行く怨霊達。

 残すところ炎車だけとなった戦場。
 伝う汗と上がってきた体温を感じながら冬佳は指先を開く。
「――洗い浄め、祓い鎮めましょう。この地に彷徨う霊魂よ、御霊安らかなれ」
 冬佳の声に続く雪之丞の旋律。
「夏は過ぎ去ります。貴方も、夏と共に消え去りましょうか」
 雪之丞の守り抜く意思がそのまま力となって敵を打ち砕く。

 逃がさぬようにと華鈴は剣を振るった。切っ先に輝く陽光が走る。
「おねーちゃん頑張って!」
「任せるのじゃ!」
 華鈴が立っていられるのも結乃が賢明に癒やしの言葉を紡いだから。
「挟み撃ちだ、琥太郎!」
「分かった! 必殺つきだぞー、おらー!」
 琥太郎の戦鎚と清鷹の刀が邪妖怪を挟んで交差する。
 ねじ切られた炎車は一瞬大きな炎柱を上げて自然へと還っていった。

「残るはこいつだけだよ!」
 花丸の声に全員が頷く。
「さて、反応できるかな? 物理的に歪めてあげるよ!」
 ハンスが炎車を青い空へと蹴り上げた。
 イレギュラーズの攻撃は邪妖怪へと降り注ぎ――
 ふわりと和らいだ暑さは戦闘の終わりを告げていた。


「お、終わったーっ! 引き受けた時点で分かってたけど別の意味で倒れるかって思ったよ!?」
 無事に敵を倒し終わった花丸が勝利の雄叫びを上げる。
 だらだらと流れる汗をハンカチで拭きながら、いざ、お待ちかねの茶屋へ走り込むイレギュラーズ。

 太陽の光を反射してキラキラと光る小川にちゃぷりと付けた花丸は余りの気持ちよさに脱力する。
「んーっ、生き返るーっ!」
「皆おつかれさま! ふぁぁ……小川、お水冷たいねぇ。きもちいい」
 花丸と並んで結乃が小川に足を入れながら顔を綻ばせた。

「皆さんお疲れ様でした。好きなもんを頼んでねえ!」
 店主がイレギュラーズを労い、手作りのお品書きを持ってくる。
 冷たいおしぼりで手を拭いた花丸はどれにしょうかと書かれている文字を指先で追った。
「どれから食べようかなーどれも美味しそうだし悩む」
「色々あって、目移りしますね」
 花丸と同じようにお品書きを見つめるのは雪之丞の赤い瞳。
 他の仲間が選ぶものにも興味がある。
「店主のオススメは、何でしょうか」
「そうだねえ。水ようかんに金時入りのかき氷も美味しいよ」
 抹茶のかき氷に白玉とあんこが乗せられて、贅沢な逸品なのだと店主は雪之丞に勧める。
「なるほど、ではそれをお願いします」
「はいよ!」
 雪之丞は店内を見渡す。他の客もいるようで机の上には水ようかんが、ふるりと揺れていた。
「水ようかん……美味しそうですね。これなら、報酬と言わず、銭を払って、お土産に包んでもらうのも良さそうです」
「あ、いいね! お土産……って、あの子大丈夫かな?」
 花丸はお品書きを見つめながらふと視線を店内に向けた。そこにはフラフラと奥の席から立ち上がる少女がいる。明らかに体調の悪そうな少女に駆け寄る花丸。
「ちょっと君大丈夫!?」
「なんだ倒れたのか? 肩を貸そう」
 清鷹が駆け寄り少女を抱え上げた。そして、面を上げた少女に目を丸くしたのは冬佳と華鈴。
「貴女……確か。黒い彼岸花の時の」
「何で篝が此処に居るのじゃ?」
 清鷹に抱えられてぐったりとした国府宮篝が長い睫毛を上げる。
「あれ……華鈴に結乃? 何、此処は天国? 私、死んでしまったのかしら」
「いや、しっかりせい」
 冷たいおしぼりを篝の額に押しつけた華鈴。その後ろでは冬佳が僅かに眉を寄せた。
 冬佳は国府宮篝という人物に以前在ったことがある。練達における動画配信の事件に関わった一人としては今回の怨霊についても関与しているのではないかと疑念が生じたのだ。
「……この近くに現れた炎車の妖怪は貴方の仕業でしょうか?」
 報告書や人づてに聞いた限りの人物像から考えてみても碌な事をしているとは思えない。
 昨今の一連。カムイグラを取り巻く呪具について、恐らく無関係ではないはずなのだ。
 そもそも、此処に居る理由さえどこか罠に思えるのだと冬佳は若紫の視線を篝に向けた。
「さて、何のことやら。私は華鈴と結乃が居れば其れで良いわ」
 華鈴に押し当てられたおしぼりを愛おしそうに撫でて、篝は上半身を起こす。
 其れの意図する所。二人を呼び寄せる為ならば手段を問わないと言っているようにも聞こえた。
 今回の事件に関与していなくとも。冬佳の考察通り、きっと気を許してはいけない相手なのだろう。
「でも、一度倒れたなら安静にしてたほうがいいよ」
 花丸の言葉に篝は素直に頷く。
「そう。そんなに言うなら私も皆と一緒に茶菓子を頂いちゃおうかな」
「うんうん。大丈夫そうなら一緒に食べよ! 目指せ全品制覇!」
 花丸の声が店内に響き渡った。

「……それにしてもあの篝ってやつ、暑さに参っちまうなんて弱っちいなー。
 でもまー元気になったならよかったぜ、うんうん。ああいう子を護れるよう、オレもつえー男にならないとな!」
 琥太郎がハンスと清鷹に笑顔を向ける。
「そうだねえ……ふぅ。あいつのせいで汗はダラダラだけど、本当に良い天気だなぁ」
「あいつのせいで、ほんとうに暑かったからな」
 鳥の声がチクチクと青い空に木霊して、羽ばたきが聞こえてくるのにハンスは目を細めた。
 こんな天気の良い快晴の日には、思いっきり全速力で飛んだら気持ちいいのだろう。
 暑いのは代わりないけれど。
「ま、ひとまず食欲だね」
 つま先を僅かに小川の流れに浸けて。ハンスは琥太郎と清鷹にお品書きを広げた。
「そうだな。まずはところ天と抹茶のかき氷にしよう」
「飯だー! 動き回ったら腹ペコだし、今日のオレは店のもん全種類制覇してやる!」
 花丸の全品制覇という声に琥太郎も負けじと同じように注文を店主に伝える。
「でも、まず釜飯とおはぎと焼きもろこしと、ひやしあめもよろしくな!」
「ははは! よく食べるねえ! 腕によりをかけて作らなきゃあね!」

 しばらくして並べられる茶菓子や料理に琥太郎と花丸は目を輝かせる。
「わぁ! 沢山だ!」
「すげえ! いっぱい食うぞ!」
 ガツガツと平らげて行く花丸と琥太郎に清鷹は感心しながらも、微笑ましく見守った。
「わ、こういうの練り切りって言うんでしたっけ。かわいいし美味しくて好きなんですよね。お茶もおいしいし。良いですねえ。……あ。折角だし、琥太郎くんと久泉と男同士でお話でもしましょうか!」
 ハンスがにっこりと笑って琥太郎がトウモロコシを頬張りながら頷く。
「オレは強い男になりてー!」
「強い男、かぁ。んー、難しいなぁ」
 漠然とした『強い男』という概念にハンスと清鷹は頭を捻った。
「やっぱまずは筋肉と身長だよなー、牛乳足らねーのかな? おっちゃん、牛乳あるー?」
「あるよー!」
 自由気ままな琥太郎に笑いながら、清鷹は言葉を伝う。
「強い男になるにはやはり心身の鍛錬では。無いだろうか。強く無ければ何も守れぬし、また人に優しく無ければ外道にもなり得よう」
「おお、清鷹なんか格好いいな! 心の鍛錬かあ」
 おはぎを口の中に一つ二つと詰め込んでいく琥太郎にハンスも頷いた。
「……身長は欲しい、わかる。ずっと成長してなかったし、大きくなりたいよね」
 ハンスは自分の手に視線を落とす。筋肉はつくのに見た目が変わらない。止まったままの時間。
 何かきっかけがあれば動き出すのだろうか。そんな時がやってくるのだろうか。
 僅かに曇った思考に肩を軽く叩かれて、はたと我に返れば清鷹が大丈夫だという様に微笑んだ。
「まあ、そのうち成長もしていくさ」
「そうかな。そうだといいな」
「オレも大きくなる!」
 いつか訪れるかもしれない変化の時。怖くもあり待ち遠しくもあるのだと。
 三人は語り合う――

「さっき動いてお腹すいたから、おなかにたまるものがいいかな。ああでも甘いものもいいよねぇ」
「ふむ、甘味だけで無く、食事もあるようじゃな。結乃……と篝は何を食べるかのぅ?」
 冷たい小川の水が足下を浚っていく。
「篝さんも一緒に食べる?」
 恐る恐る篝に視線を向ける結乃。慈愛に満ちた表情で篝は結乃の視線を受け止めた。
「ふふ、華鈴と結乃から誘ってくれるなんて。やっぱり此処は天国なのかしら?」
「……名前、言ったっけ」
 結乃は小首を傾げ篝を見遣る。篝は長い睫毛を伏せてこくりと頷いた。
「この前、一緒に戦った中なのよ。それぐらい覚えているわ。ね、結乃」
 愛らしい篝ウィンクに結乃は視線を落とした。えも言われぬ違和感が結乃を襲う。
 この篝という少女は華鈴の知り合いだという話だが、どういった間柄なのか前々から気になっていた。
「ふむ……おはぎが良さそうかのぅ」
「はーい! あっでもわらび餅も……わけっこしよ?」
 お品書きを眺める華鈴は結乃の提案に嬉しげに頷く。
「うむ、ならば半分こじゃな。おはぎを一つ、わらび餅に変えるとするかのぅ」
 おはぎも食べたいし、甘いわらび餅も食べたいのだという結乃の小さなおねだりに華鈴……と篝は心をときめかせた。

「さて、篝よ……此処豊穣で何を企んでおるのじゃ?」
 前回出会った時――海洋との合同祭事の最中、天香・遮那と一緒に居たのは偶然では無いと華鈴は踏んでいた。篝を真っ直ぐに見つめ意思を問いただす華鈴。
「それは、悪い事かの?」
 和やかな空気の中。陽光が輝くほど、影は大きくなっていくように。
 日陰に隠れた篝の唇が笑みを浮かべた。
 何処か飄々としてつかみ所の無い篝の底知れぬ闇を垣間見たようで。
 結乃が咄嗟に二人の間に腕を広げる。
 じりりと照らす太陽の暑さも感じられぬ、冷たい緊張感――

「今も昔も。私の目的は貴女を手に入れること。この豊穣に来て結乃も手に入れたいと思ったわ。ねえ、三人だけの楽園でのんびり過ごさない?」
 篝の指先は結乃の手と華鈴の頬に添えられた。
「争いも無く、辛いことも何も無い。楽しくて幸せな時間だけが流れてる素敵な場所で」
 今まで流した血。苦しんだ心。それらを味合わなくて良い三人だけの楽園を作りたいのだと篝は微笑む。
「この国がどうなっても知ったことじゃない。問題は、あの場所に貴女達が来たこと。そして、此処に貴女たちがいること。練達に居たのも、華鈴が来てくれる可能性が高かったから」
 利用出来るものは利用する。極論から言えば『可愛さ』だって手段の一つなのだ。
 見目の麗しさは流浪する時にこそ絶大なる効果を発揮する。
 誰だって可愛い子猫には手を差し伸べたくなるのだ。
「だから、ね。一緒に……」
「駄目! おねーちゃんは渡さない!」
 結乃が篝の手を振り払って睨み付ける。そんな表情も愛おしいと篝は微笑んだ。
「そうじゃ。わらわ達は篝の玩具ではない」
「ふふ、そう言うと思ったわ。大丈夫よ。一回だけで陥落するなんて思ってないもの。それじゃあ面白くないしね。良いわよ、根比べと行きましょう? でもね、私は確信しているわ。華鈴。貴女自ら私の元へ来てくれることを」
 不敵な笑みとはこういう表情なのだろう。
 愛らしさの中に絶対的な不穏が混ざる。
「ま、でも。今日はお茶を楽しみましょう。店主さんにも悪いしね」
「はぁ……何処までが本気なんじゃか。ああ、でもこのわらび餅はうまいのう、結乃も食べるといい」
 華鈴が差し出したわらび餅をぱくりと頬張る結乃。

「ふあー! いっぱい食べたぁ! く、くるしーっ!?」
「オレもおー!」
 花丸と琥太郎の声が店内に響き渡り、冬佳と雪之丞が微笑みを零す。
「暑さ寒さも彼岸までですかね」
「そうですね。そろそろ涼しくなって欲しいものです」
 寒くなれば夏の暑さを恋しく思うのだろう。
「今は、この季節を楽しみながら、この時期に味わえる冷たさと甘味に、舌つづみを。
 とても、美味しゅうございました」

 リンと風鈴の音が鳴る。
 僅かに涼しさを帯びた風が雪之丞の頬を撫でていった――


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 戦闘はさくっと終わったので、茶屋を多めに描写してます。
 少しでも涼んで頂ければ幸いです。

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