シナリオ詳細
<巫蠱の劫>暁起き
オープニング
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「待て、逃がすな――!!」
高天京。その地にて流行る『呪詛』の影があった。
曰く、妖を切り刻みその恨み辛みを他者へと向ける呪詛だという――奴らは化物。ふとした拍子においてなにがしか巨大な力を手に入れても不思議ではない存在だ……それを意図的に発生させ、そして恨みの方向性をコントロールすることにより強大な刺客と成す。
カムイグラは鬼の差別がある地でもあれば。
自らの手を汚さずに恨み果たす手段があれば歓迎する者達もいる――まぁ対象が必ずしも差別をしてくるヤオヨロズとは限らないし。行う者が必ずしも鬼とは限らない訳だ、が。
ともあれかような出来事が高天京やその周辺において発生していた。
故に警邏をも行う刑部省――単純に言うとカムイグラの警察機構の彼らは、事件を追っていた。如何なる理由にせよ無法による殺害など容認されるべきでない故に。
そして今宵。刑部省はその『呪詛』を行ったと思わしき者を発見した。
事態の解明。そして事情の聴取を行おうと家に踏み込んだ――のだが。
「回り込め! 決して逃がしてはならんぞ!」
「くそ、逃げ足が速いぞ! 間に合うか……!?」
家の者は寸での所で気付いたのか脱出をしていたのだ。
すぐさま追いかける刑部省だが、夜である事も相まってか視界が悪い。陰に潜むかの様に路地裏を駆け抜ける者との一進一退。息が切れそうになる程の追跡を行い、さぁその手が届くか、それとも更なる闇へと逃れるかとの狭間にて。
「ぎゃッ」
短い悲鳴が前より響いた。
人が倒れる音がする。転んだのか? 何はともあれ事態を確かめようと目を凝らした、その時。
「――な、なんだお前らは!?」
陰に居たのは黒装束。
顔に面を。風貌分からぬ様にしているその気配はあまりにも『闇』に染まっていた。
思わず刑部省の者の足が止まる。
これ以上踏み込めば何が起こるか分からぬ気配があったのだ――闇夜に紛れる様に存在する彼らの足元には、追っていた家の者が倒れ伏している。よくは見えぬが、斬られたのか苦悶の呻き声が発せられていて……
「……」
そして。黒装束は一瞥。
一寸か二寸か、刑部省の者を眺めた後に――
「…………」
一言も発さずに、呪詛を行った者を担いでどこかへ消えんとする。
「ま、待て! それは我ら刑部省が……」
「――よせ。奴らに関わるな」
どこへ連れて行くのかと。思わず言葉を発した一人を、後ろから追いついた者が制止。
その瞬時の間にもはや黒装束達は消えていた。
「奴らは……『冥』の者達だ……関わるな」
呟く。それはカムイグラに伝わる『噂』の一つ。
ナナオウギには、上層部のごく一部の者達だけが知る闇の者達がいるという話だ。
彼らは闇夜の狭間にて動き、ただ忠実にその命令を実行する者達。
黒装束に身を包む『冥』と称される一団である……
●
「――お願いがあります。是非ともご協力頂ければと」
後日。高天京へ招待されたイレギュラーズ達を待っていたのは刑部省の者だった。
依頼であるらしい。とある人物を捕まえて欲しい、と。
「本来であれば我々の仕事ではあるのですが……些か事情がありまして」
それは昨今、京を騒がせている『呪詛』――を行っているとされる容疑者の捕縛だ。捕縛自体は『とある理由』により失敗しているのだが……実は、その呪詛を行っていた者は一人ではなく『二人』であったのだ。
元々容疑者は高天京に住まう鬼の者であった。
兄弟で住んでいたようで、ヤオヨロズからの差別を受けていたとか……ともあれ容疑者であったが故に家に踏み込んだ所、兄と弟は別々に逃げて。そして弟の方が刑部省の手からついに逃れて行方が分からなくなった。
……いや行方不明と言うのは正確ではないか。追われている以上京の中には留まれない。
となれば周辺の村落に潜んでいるのだろう。目星は付いている……のだが。
「その人物を――捕縛して頂きたい。『誰か』に奪われる前に」
「……『誰か』?」
声を潜める刑部省の者。
ソレはカムイグラの闇の一つ。ナナオウギが有するとされる私兵の者達。
噂でしかなかったのだが――しかし我々は先日見た。
「奴らは得体が知れませぬ……どうして容疑者を連れ去ったのか……」
曰く。奴らの目に留まった者は命を取られるという。
曰く。奴らに捕まった者はとある島に流されるという。
……真実はともあれ、刑部省としては呪詛などという行いの情報を知りたく容疑者を捕縛したいのだ。勿論自ら達の管轄で。しかし『奴ら』がナナオウギのどこかの者であるというなら――その一派である我々が動けば、情報を先んじられて『奴ら』も動くやもしれない。
「だから部外者の俺達が、か」
捕縛が第一だ。もし『奴ら』が現れれば――どうなるかは分からない。
もしかすれば戦闘になるかもしれない。その覚悟だけはしておくべきだろうか……
カムイグラ。夏祭りより不穏だった影は――やはり未だ揺らめているようだ。
- <巫蠱の劫>暁起き完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月23日 00時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「ガキを締め上げるのは好みじゃないが――話がどうもキナ臭い。
急いだほうが良いだろうな……大分暗くなってきやがった」
空を見上げる『大地に刻む拳』郷田 貴道(p3p000401)はどことなく感じる『気配』を前に眉を顰めていた。今の所敵の気配などを探知している訳では無いが……しかし脳のどこかが『何か』が来ていると――第六感の様なモノを鳴らしている。『冥』とかいう連中だったか。
「まるで暗殺令嬢の犬たちみてぇな奴らだなァ……どこの国にもそういうモンはいるんだろうが、暗部を担う連中が動いてる時ってのはいつも碌な事が起こらねぇもんさ」
「ええ、そうね……それに。話を聞いてると、どうしたって好き好んで呪いをかけてたカンジじゃないわ」
同じく『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)も予感を感じ、『揺蕩』タイム(p3p007854)と共に周囲の索敵をせんとする。レイチェルは空へ。放つ烏の目を通して地上を上から見据えるのだ。一方でタイムは鼠のファミリアーを使役し、地上から周囲を眺める。いずれも人では無き目にて『冥』を捉えんとする動きだ。
「事情があるにしても……まずは話さないと、ね」
同時にタイムは感情を探知する術を用いて周囲を探る。
それは『冥』を探す為ではなく少年を探す為の一手――追われている自覚があるのならば常に拭えぬ不安がある筈だ。探知出来れば手がかりとなる。
「あぁとりあえずこれで『目』は出来ただろ……さて後は少年を探す事だけだな。
あんまり騒ぎは起こすなよ――笑顔で。なるべく穏便に、な」
当面は良し、とレイチェルは紡ぎ。そして見据えるは村の家々。
少年や村人に怖がられない様に穏やかな表情を己も心掛けねばと……大丈夫。大丈夫だ、元は医者だから。礼儀正しくも出来るぞ! 医者も患者から病状を聞き出す為にコミュニケーション能力は重要で……
言い聞かせるように胸の内で反芻しながら口の端を指で吊り上げ笑顔の練習。さてしかし。
「冥。冥か――成程。既に暗躍していた可能性もあるが、豊穣で多数の呪殺が行われたこの機会と同時に姿を現した……その上で呪殺を行った者を確保しているともなれば『段階』が進んだか――或いは進むが故に情報を漏らしたくなかったか」
いずれにせよ魔種や巫女姫の動きに呼応するものに違いないと『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は推察しながら村を駆ける――豊穣に来てから夏祭りの折にも色々と不穏な影はあったが、此処に来て更に更にだ。
闇の者が動くなど面白くなりそうだと。思考しながらも動きは素早く。
匂いが無いかと愛無は探る。普段この村に居なかったのであれば、違う匂いの者が混じっている筈だ――都の匂い。優れた嗅覚の器官をもつ愛無であればこそ、猟犬の様に各地の家を調べる事が出来ていた。
急がねばならない。冥の者達が来る前に見つけてはおかねばならぬと――だから。
「夜分にすみません――人を探しているんですが」
「な、なんだアンタ達は……人だと? ウチには家族以外おらんよ」
『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は家の戸を叩く。この時間に至る部外者となれば警戒される……故に礼儀正しく丁寧に。相手を敬う事を忘れない。
「ええ。いやご存知ないならいいんですただ――危ない連中に目をつけられたってんで、その保護に」
「見かけたのであればご協力賜りたく思います……どうか、手遅れになる前に」
同時に『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)もまた人を惹きつける声色を忘れずに。
彼女の一挙一動が村人の目に留まる――此方は、神使。
「拙らは、ナナオウギの者ではありません」
言うのだ。こちらに敵意は無いと。
そしてやんわりと伝える――敵意を持つ者達が迫っていると。
ナナオウギの、闇が。
恐らく少年がいるであろう家に皆が集まり始める。暫く周囲の家に訪問していたり様子を伺っていたが……タイムの感情を探知する術としても『こちら』の家がそうではないかと感じているのだ。
だからあえて声を少しだけ上げて。潜んでいる彼にも聞こえる様に。
「今しかないんだよ。少年を保護するのはもし知ってれば、教えてくれないかな?」
「時は金なりとはよく言いますが、さてこの場合は命なりと言うべきでしょうか。」
周囲で聞き込みを行っていた『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)や『群鱗』只野・黒子(p3p008597)もまた続々と。とにかく鬼の少年を救うため、彼の安全確保を念頭に置くために。語るのは『安心』と『危険』の話も混ぜて。
「――もし件の少年がいるとして。今のうちに自首して頂けるなら、刑部省には話を此方からつけてあります。最大限に配慮してもらえるでしょう……向こうも事情を聴くのが最優先であれば無碍にはならない筈です」
黒子はカムイグラにおけるヤオヨロズと鬼の確執と差別を勿論知っている――故に罪人や獄人だのと以前に『人』として扱われるべきであると刑部省には打診している。
そも、そうであればこそ犯人は己の命とを天秤にかけ自首……或いは協力的になるものだ。善悪がどうだのという以前に雲隠れを多発させるような扱いをすべきではない。
「急に訪ねてきて、会った事もない私達にいきなりこんな事を言われても信じられないかもしれない。でも――どうか信じてほしいんだよ。だから、私達は君に行動で示してみせるよ」
信じられぬかもしれないが、それでも。
花丸は言うのだ。
私達は敵ではない。君に悪意は持たないから、どうか姿を見せて欲しい。
信じて欲しいのだ――その為にも。
「君を守らせて?」
どうか言葉が届いてほしいと。
願う心はただ一途に。彼の安全を願っている。
対応する家の者は拒絶するかのように扉を閉めようとする、が。しかし同時に感じたのは奥から何か足音が聞こえる音。花丸達イレギュラーズの言葉に何か感じる事があったのか、様子を見に来た『彼』の、足音が――
聞こえた直後。
「来たぜ――無粋な連中がよ」
周囲を警戒していた貴道が横を見据える。
そこに在ったのは深夜の闇。只人には見えぬ黒き空間、それでも。
確かにそこに『奴ら』がいるのを感じていた。
●
貴道は捜索や説得を周囲のメンバーに任せ、己はとにかく『奴ら』の襲来に備えていた。
言葉よりも拳で語るのがスタンスである。まぁどう考えても肉体的に逞し過ぎる自らでは、か弱い一般ピーポー少年の心を掴むにはきっと刺激が強いと思っていた面もあるのさHAHAHA。
そして暗視の目をもってすれば夜の闇であろうと昼の様にその先を見通せる。
構える拳。ファイティングスタイルに込められし力は、正に戦闘態勢のソレ。
――いる。
粘り付くよう様な殺意。首筋を撫ぜる風が妙に気持ち悪く、ああ全く――
「趣味も悪い連中だな全く!」
瞬間。鋭く突き刺さる様な殺意を感じた貴道はほぼ反射で動いていた。
上半身を捩じり、腰の動きだけで『ソレ』を回避する――刃だ。
刀の突きが先程までいた空間に放たれていた。同時、放つアッパーが『ソレ』を放った者へとカウンターで叩き込むかのように抉って。
「嘘――鼠の目には見えなかったのに……!!」
「恐らく奴らも、小動物を操る術がある事は承知の上なのだろう。そうであるとして行動すれば、避ける事も不可能ではない」
驚愕するタイム。放っていた鼠の探知に引っ掛かる影は無かったのだが、そこは愛無の推察通りか。ファミリアーの術を向こうも熟知しているという訳だ――鼠自体が殺される可能性もあったのだが、殺されれば『何か』がいるのに気づかれる故、それも避けたという訳か。
己が直感がそうであると囁いている。成程成程――
「面白い。やはり面白くなりそうな連中だ――少年の確保を急ごう。時間は稼ぐ。
さぁ『冥』の者とやら……お前達の力を見せてみろ」
愛無は発光の度合いを極力まで強める。元々襲撃を警戒してある程度の光を常に発していたが、襲撃が始まったのならば後は奴らが潜めるような闇を潰してやるのみ。そして名乗りを挙げるかのように奴の注意を引く――
されば至る無数の刃。邪魔をするならば首を刎ねるとの殺意が押し寄せて。
「流石に向こうも備えてやがったって事か――だがよ。
闇夜の住人ってのがお前達だけの専売特許だとでも思ってんのか?」
そして参戦するレイチェルが魔力を纏いつつ参戦を。
不意打ち? ああそこいらのチンピラが相手であったのならばソレも通じたのだろうが、それは赦さない。
夜の闇に。真に生きるという事がどういうことなのか教えてやる。
――吸血鬼としての業の解放。魔力を帯びた衝撃波が『冥』の者を襲う。
油断など一切しない。闇の目を未だ抜けたと思うなよ――全て喰らいて潰してやろう。
「な、なんだぁアイツらは……!?」
「――落ち着いて。戸を閉めて家から出ないようにしてください。
激しい物音がするでしょうが……嵐と同じだと思って」
そして引き続き風牙は家の者に敬語を用いて警告しながら、少年の確保を急ぐ。
用意している馬車があるのだ。そこに彼を載せ、早急にここを離れる。中を見れば未だ戸惑う少年の様子が目に入るが――
「安心しろ。言ったろ? 俺達は敵じゃねぇよ――必ず、守ってやる」
ニッと笑って安心させてやる。
怪しい影、物音、近づく人、動物、物、すべてを疑ってかかれと心に刻み。怪しき影を彼に近付けさせぬと決意。だが戦闘の激しい表は駄目だ、裏から行くしかない。
「証拠隠滅の為にここまで強行するとは、実に野蛮な限りですね……」
とはいえ最早後はどう少年を安全圏まで運ぶかだと黒子は周囲を警戒。
必要なのは防御陣だ――少年が万が一にでも死んでしまえば全てが水泡に帰す。参謀たる心得の指揮によって味方の動きをスムーズにする黒子だが、敵は暗殺者。奴らは一瞬の隙間を縫ってこよう。見える範囲にだけいるとは限らぬと。
「――危ない! 上よ!!」
瞬間。裏口から脱出を果たさんとしていた正にその時を『冥』の一人が狙う。
屋根より飛び降り穿たんとするのだ。されど、走らせていた鼠越しに気付いたタイムが即座に魔力を放つ。暖かき魔力が敵の力を奪わせ、まるで眠らせる様に。時を稼ぐ一撃を紡いで――
「言ったでしょ? ――行動で示すって」
繋ぐ形で花丸が跳躍。タイムが作った隙の一秒で少年を庇う。
――走る激痛。されど、この程度が何だというのか。
少年に近付けさせぬ様に蹴りを一撃。距離を取らせて少年の方を向けば。
「だから君も私を信じて、傍から離れないで――約束してくれるかな?」
「……う、うん!」
安心させるように笑顔を向けた。
背後ではまだ幾つもの殺意が蠢いている。止まる訳にはいかない。
「……逃がすな。殺せ」
片隅に吐き捨てられる様に紡がれた声は――『冥』の誰かの声か。
イレギュラーズ達の妨害に捕獲は諦めたのか。悪意が全ての者に向く――
「……少年よ。呪詛について、正しく刑部の方々に話してください。そして――もし呪詛について話すなら、それを対価に、お兄様の捜索をローレットに依頼しませんか?」
迫る冥を雪之丞が妨げる。鳴り響く金属音に続く鍔迫り合い……
術者を連れ去る謎の人物――意図は不明であり、情報の隠蔽が目的か。それとも呪詛を行える者を探すのが目的だったのか。どちらも在り得る話だが、ともあれ。『依頼』であるのならばなんでも行うのがローレットだ。
少年よ。
「安否は分かりませんが、此方に協力するなら。拙も、拙の力の限り手を貸すと約束します」
「――ホントに? 兄ちゃんを、助けてくれる?」
「ええ無論」
貴方が私達を信じて頂けるなら。
微笑む優しさを少年に。悪意に負けぬ強さを目の前の暗殺者に。
雪之丞の振り抜いた斬撃が――闇の中に潜む『冥』を弾き飛ばした。
●
村は突如として始まった戦闘に慌ただしくなり始めていた。
戸を閉める者――何事かと外を覗く者――様々いる、が。
「ぎ」
あ、と続く声は許されなかった。
冥の者が邪魔な村人を一瞥もせずに斬り捨てたのだ――一切の躊躇もなく、刃を胸に。
「……ッ! てめぇらふざやがって……! 何者なんだよお前らは……!」
風牙の中にふとした怒りが灯る――闇、冥。
呼び方は何でもいいがお前らもまた豊穣の民だろうに。豊穣の者を殺すのか。
尻尾すらよく分からぬ謎の者達。夜の目となるゴーグルを使って冥の者を捉えれば。
「俺の今回の仕事は『護ること』なんだ――絶対に近付けさせねぇぞ!!」
敵へ仕掛ける白兵戦。全身を加速させ、数多の動作を連動。
雷の如き速さで己が身を射出させるかのように――跳躍。
音を置き去りにせんとする一撃をもってその身を砕く!
「住民の方々は中へ! 決して外も覗かぬ様にお願いします!!」
黒子の声が飛び、敵を近付けさせぬ様に拍撃の掌底を一閃。
相手より『安定』の概念を奪う――衝撃。空間を歪ませるが如く。されど冥の者達もやはり只の兵士ではないのか。その一撃を受けて尚――返しの斬撃を黒子へと。
奴らからは任務の遂行に対する、岩の様な意思を感じる。
強い、だとか弱い、だとかそういう感覚ではないのだ。
硬い。
ただ只管に――目標を成す事だけを目指している。
「相手は随分容赦がないようだ。まぁ『そういう』手合いであると想像には易いが」
「ハッ――上等だよ。生憎、暗部の人間だからって怖がる様なタチじゃねぇんでな」
敵を引きよせる愛無が、寄った冥の者へ紡ぐは『鋏』である。
それは巨大な甲殻類を思わせるような怪物のソレ。その身喰らわんとするような恐怖と共に、その腕をねじ切らんとする――さればレイチェルもまた憤怒の感情を携えし焔を纏いて。
薙ぐ。彼女の力は血液にも及び、媒介として地獄を顕現せしめるのだ。
「もう少しだから頑張ってね。大丈夫、大丈夫だよ……! 最後まで一緒だからね!」
「急いで馬車まで! すぐに出発しましょう!!」
そして――待機させていた馬車の所へと辿り着く。
花丸は少年を抱きしめる様に庇い続けていれば、その背には苛烈な傷が刻まれるものだ。それでも腕の中に確かにある命を、彼らに渡したりなどは出来ぬとむしろ意思は強くなり。そしてタイムもまた見えたゴールがあれば更なる死力を尽くすモノだ。
紡いだ雷撃が冥を薙ぎ払う。迸った光が蛇の様に地を舐めて。
それでも冥は諦めない。苦悶の声上げる事すらなく、ただただ殺意と共に迫りくる。
「少年を馬車に乗せな! ――後は馬車ごと纏めて守り抜ければいい!」
が、邪魔をする冥の者を――貴道の拳が一閃。
それは超至近距離から投じられる必殺拳。
溜めも予兆も一切見せぬ、自らの筋肉と捩じりの動きだけで事を成す神速の拳打。
――冥の者の顔を撃ち抜く。鼻の骨が折れるような感触と共に奴らを吹き飛ばして。
「参りましょう。夜道掛ければすぐに都の方へと着くはずです」
雪之丞の声と共に馬の声が天へと吠える。
脱出だ。後は都の方にまで辿り着ければなんとかなる筈……暗部の者であらば多くの者の目に触れるような事態は避けたい事だろう。
――無論それまではまだ追撃が発生する訳だが。
「ご安心を。何があろうと、お守りします」
それでも、守る。信頼を受けたのであれば自らの矜持で――果たすのだ。
馬車に飛び乗ろうと襲い掛かって来た冥の者複数。
愛無が鋏をもって挟み込み、風牙と雪之丞がそこへと槍を一閃。貴道も拳を振るい、レイチェルとタイムの魔術が追い縋る冥の者へと振るわれて、黒子の防御指揮の声が皆の身を固めるのだ。馬車の内部では花丸が少年を腕の内に。万が一突入されても無事な様にと構えているのだ。
激しい攻防。迎撃ではなく振り払う戦い。
幾つもの衝撃と金属音が鳴り響き――しかし。
「…………」
やがて遂に冥の者は馬車から飛び降りた。
それを皮切りにいきなり姿が見えなくなり始める――漸く諦めたのか。
「深追いは不要か。気絶させられればと思っていたが……回収ぐらいはしているか」
見る後方。闇に消えた冥を見ながら、愛無は呟く。
闇夜より迫る奴らの刃には鋭さがあった――少年を守りながらという状況では中々厳しかったか。それに警戒を解けぬとなれば今から戻る事も出来ぬ。
奴らは一体何を企んでいたのだろうか。一体何の目的で少年を……
「――あなたの持ってる情報がこの国の先を変える事になるかもしれないの。
どうか、お願いします」
だから、タイムは紡ぐ。
呪詛を誰から齎されたのか何処から齎されたのか。
全て話してほしい。きっと重要な事があるのだと。
「……そういえば、名は何と言うのです?」
「名前――? オイラは隼刀っていうよ」
「そうですか。隼刀様、後で何か摘まんでから行きましょうかね」
もう安全だと安堵すれば雪之丞が件の少年――隼刀に食事の提案を。
軽いものをつまんでから往く暇ぐらいはあろう。握り飯でも何でもよいのだ。
気分を落ち着かせ、都へと。
「なぁ隼刀――必ず、お前の兄貴も見付け出して奪い返すから。待っててくれ」
そして、レイチェルは言う。其れは決意の様に、約束の様に。
冥。この国の闇に潜む者達。蠢く者達。
奴らを追い詰め――いつか必ずと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お待たせしました。依頼、お疲れさまでした。
『冥』はこの国の闇の一つ。彼らが動く意味は……その内に。
ありがとうございました!
GMコメント
■依頼達成条件
呪詛の容疑者の捕縛。
死亡、もしくは黒装束の手に落ちた場合失敗と成ります。
■依頼現場
高天京から少し離れた村落です。
住まう住民がぽつぽつといます。刑部省が手に入れた情報によると、容疑者は元々この村の出身者だそうで、匿われている可能性が高いのだとか……
今から向かうと夕方~夜にかけて村に到着しそうです。
少年を探し出し、捕縛してください。
■捕縛対象
・鬼人種の少年
十代前半程度の少年です。あまり裕福な生活ではなかったのか、痩せています。
高天京を騒がせている呪詛の容疑者の一人として刑部省にマークされている人物です。兄もいたのですが、彼は『行方不明』になりました。痩せているからか、あまり戦闘能力は高そうに見えません。逃げられない様にだけ注意すれば捕縛は容易でしょう。刑部省からの情報により顔は分かっているものとします。
その他村には鬼人種達の住民がいます。
老若男女様々。少年に対する感情は不明ですが、匿っているのであれば悪感情などはない事が予想されます。
■敵戦力?
・黒装束×3~
謎の存在です。『闇』とも『冥』とも呼ばれており『ナナオウギには表に知られぬ闇人がいる』との噂はありますが、それも真実かどうか……刑部省が以前目撃した時に三名は確認したとの事ですが、もっといるかもしれません。
いずれも寡黙。恐ろし気な雰囲気が特徴的です。
シナリオ開始後、暫くすると村のどこかの方角から現れます。
目的は不明ですが呪詛を行った容疑者を確保しようとしています。
これはすぐ分かる事なので情報として開示しますが『彼らは確保が難しいと判断した場合、少年を殺害しようと』してきます。殺された場合依頼は失敗ですのでご注意ください。
戦闘能力はそれなり以上に高いです。いずれもが刀を使う為、接近戦タイプかと思われますが……それ以上に闇夜に紛れて現れるステルス性能の高さにも注意しておくべきかもしれません……
彼らに関しては非常に未知数が多いです。
存分にお気を付けください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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