シナリオ詳細
再現性東京2010:公園前派出所。或いは、破天荒なおまわりさん…。
オープニング
●商店街店長同盟の巻
練達。再現性東京。
夏の日に起きたある騒動により生じた被害は甚大だった。
主戦場となった橋の上。巻き散らかされた大量の砂や、路面に残った破壊痕。横転したり、ガードレールにぶつかったりして半壊した車両は数知れず。
その騒動の中心となったのは、1人の少女と誘拐犯、そして数名のイレギュラーズたちである。
けれど、しかし……。
その騒動のきっかけがある少年の“初恋”だと知る者は少ない。
夕暮れの公園。
赤く染まる西の空を眺めながら、談笑していた2人の男女。
真庭 香織と 匠の前にやって来たのは5名の老人たちだった。
「ちょいと時間をもらえるかね、若いの。あぁ、いや、アタシたちは別に怪しい者じゃないんだ、そう警戒しないでおくれ……って言っても、つい最近誘拐されかけたばかりだからね。無理な話か」
困ったねぇ、と頭を掻いて老婆は「うぅむ」と小さく唸る。
残る4人は、そんな老婆を心配そうに見つめるばかり。どうやら彼女が、この集団のリーダー格であるようだ。
「えっと、香織ちゃん、どうしよう?」
「どうしよう、もないわよ。悪い人たちじゃなさそうだし、お話しぐらい聞いてあげれば?」
「あげれば、って人ごとみたいな。香織ちゃんも聞くんだよ?」
「えぇ、もちろん。あ、でも危なくなったらちゃんと助けてよ? あの人たちみたいに」
「……俺にできる限りで、全力を尽くすよ」
と、そう呟いて匠は無意識に手首をさする。
2人の会話を聞いていたのか、老婆は「それだ」と香織の胸元へ人差し指を向けた。
「それ?」
「そう。今、お嬢ちゃんが言ってた“あの人たち”のことなんだよ。実はね、お嬢ちゃんが橋で誘拐されてから、この公園にたどり着くまでの様子をね、アタシたちは見てたのさ」
「え? ずっと後ろを付いてきていたってこと?」
「違う違う。橋の上で、繁華街の裏通りで、この公園のすぐ側で、車の中や店の中、人混みの中から、アタシたちはソレを見ていたのさ」
聞けば老婆をはじめとしたこの5人、同じ商店街に店舗を構える商売人の仲間だそうだ。
定期的に開かれる集会で、ふとした拍子に誘拐事件の話となったのだという。
彼らの中に一部始終を目撃していた者はいない。けれど、各人の見たものを語り、情報を繋ぎ合わせた結果、老婆たちは若者たちとイレギュラーズの関係におよその当たりを付けたようである。
「この公園を張ってりゃ会えると思ってたんだよ。あぁ、あの人たちが何者かなんて聞かないよ。お嬢ちゃんを助けてたんだ、悪い人たちじゃないんだろ」
胸の前で手を組んで、老婆はうんうんと数度頷く。
一体何に納得しているのだろうか。
「ただ1つ、あの人たちに頼みたいことがあるんだ。どうか繋ぎを取ってやっちゃくれないかい?」
老婆曰く……。
その警察官は人間離れした体力と腕力を誇り、手先は器用で頭の回転は早く悪知恵が働くのだという。
その生命力はゴキブリ並で、嘘か誠か車に引かれても、ガス爆発に巻き込まれても、大きな怪我なく生還を果たしたそうである。
その体は筋肉に覆われた逞しい。背丈は低く足は短く、太い眉や無精髭も相まってまるで原始人のよう。
豪放磊落にして破天荒。そして何より、彼はひどく金にがめつく、だらしがない。
賭けに金をつぎ込むせいで、年中財布の中身は空っぽ。だというのに、彼は商店街の常連客であるという。
「要するにツケが溜まってんのさ。アタシらはそれを取り返したいんだ。そろそろボーナスが入っているころだろうからね、そいつも金を持ってるはずさ」
そう言って老婆は自身の背後、公園前の派出所を指さした。
派出所の前には、今し方老婆の告げた特徴と一致した外見の男が1人、あくびをしながら立っている。
老婆が話して聞かせたとおり、真面目に職務に励むような人柄ではないようだった。
「ボーナス強奪戦にどうか手を貸しちゃあくれないかい?」
●その男、破天荒につきの巻
「というわけで、香織ちゃんと匠くんからの依頼なのです。商店街の皆さんと協力して、ボーナスを強奪してきてほしいのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)曰く、現地の者の好感度を高くするためには、こういう依頼も時には必要なのだという。
また、相互あるいは客との結びつきが強い店長たちから得られる情報は、無視できない程度には有用なものが多いらしい。
「なるほど、な。話はわかった。それで、そのおまわりさんはどういう人物なん、だ?」
金の髪をうねらせながら、褐色肌の小柄な女性『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はそう問うた。
「その男の名は片津というです。先にも述べた通り、皆さんに勝るとも劣らぬフィジカルを誇るちょっとした超人なのですよ」
怪物染みたフィジカルを活かし、これまで多くの事件を解決に導いてきた歴戦の“おまわりさん”である。
常人なら大怪我を負い、最悪の場合死に至るほどの事件や事故を難なく生き延び、車を身ひとつで動かすほどの筋力を持つ怪物のような警官だ。
ゴキブリ並の生命力などと揶揄される通り、体力が0になるダメージを受けた際に、1度だけ体力1で持ち堪えるという特性を持つ。
「自転車で車に追いつくような機動力の高い男なのです。商店街の人たちと協力して、とっ捕まえてやるのです!」
ふんす、と鼻息も荒くユリーカは告げる。
曰く「お代はきっちり取り立てるです」とのことだ。
ともすると、多額のツケを背負わされている商店街の店長たちに同情しているのかもしれない。
「そうだ、な。お代はしっかりと……しかし、聞けば聞くほどに人間離れした男性だ、な」
「なのです。捕まえる時には注意してくださいね。片津に殴られたら【ブレイク】されてしまうです」
また、与えられるダメージもかなり高いものらしい。
街中という場所柄、イレギュラーズがあまり目立つ真似を出来ないことも問題か。
一方で片津は地元の名物警官だ。多少の大暴れも「またやってるよ」と流されるし、聞けば店長同盟との追いかけっこは地元の者にとってある種の見世物となっているらしい。
「作戦開始地点は公園前の派出所となるです。任意のタイミングで襲撃を仕掛け、片津をとっ捕まえるです」
野生の勘か、片津はひどく察しが良い。
少しでも不信感を抱かれれば、接触前に逃走を開始されることも十分にあり得るだろう。
「公園を中心に、西側が商店街や住宅街、東側が大通りと繁華街、北方向には香織ちゃんのお家や小山があるです。南には川と大きな橋があるのです」
逃げ出すであろう片津を追いかけ、捕まえる。
フィジカルに優れているとはいえ、相手は一般の警察官。普通に考えれば、さほど手こずる依頼でもない。
地の利という1点だけに目を瞑れば……ではあるけれど。
「地の利、か。どうにも、この場所の街並みは、煩雑としていて、わかりづらい」
頬を指で掻きながら、エクスマリアはそう唸る。
金の髪も、彼女の困惑を現すかのようにうねりうねりと揺れていた。
「まぁ、地元の人たちの協力があれば、どうにかなる……か?」
「でも、地元の人である店長さんたちも手こずっていることからも分かる通り、一筋縄ではいかない予感がするのです」
なんて、言って。
ユリーカは妙に神妙な顔をして言った。
- 再現性東京2010:公園前派出所。或いは、破天荒なおまわりさん…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ボーナスを回収せよ! の巻
とある公園前の派出所にゆっくりと近づいていく子供が1人。褐色の肌に艶やかで長い金の髪。
実年齢はどうにしろ外見だけなら『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は十二分に愛らしい童女であった。
そんなエクスマリアの様子を公園の植え込みに隠れて見守る影が幾つか。
「頼んだよ相棒!」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)とをはじめ、再現性東京に住む高校生、神崎匠と真庭香織、それから依頼主である商店街“おもちゃ屋”店長の4名である。
派出所の前であくびを零していた警察官“片津”が、接近するエクスマリアの存在に気付いた。
「ん? 見慣れん子だな。どうしたんだ、お嬢ちゃん。迷子かな?」
よく響く声だ。粗野な印象こそあるが、いかつい顔に人好きのする笑みを浮かべて片津はしゃがむ。
「こんにちは、だ。おまわりさん」
「はい、こんにちは。ちゃんと挨拶できて偉いぞ」
「うん。それで、な。1つ、おまわりさんに用事があるん、だ」
片津の顔を見上げたマリアの青い瞳が妖しく光る。
「お、おわぁー!?」
顔を押さえた片津は、大きくのけ反り悲鳴をあげた。
「よし! 上手くいったみたいだね!」
片津とエクスマリアの様子を見ていたおもちゃ屋が拳を握って息巻いた。植え込みから飛び出すおもちゃ屋を、香織と匠が引き留めようとするが間に合わない。
「ここが年貢の納め時だよ、片さん!」
「ちょっとおばあちゃん!?」
ウィズィの声もおもちゃ屋の耳には届かない。
「ん? お、おもちゃ屋じゃないか!? ってことは、そうか! 貴様らさては、性懲りもなくわしのボーナスを狙ってやがるな!」
そうはいくかと、片津は素早く派出所前に停めていた自転車へ飛び乗った。
競輪選手もかくやと言うほどの高速ケイデンス。土煙をあげながら、ママチャリとは思えない急加速で道路を走り去っていく。
「いたいけな子供を囮に使いよって! 人の心がないのか、貴様ら!」
「借金踏み倒すような男に言われたかないんだよ!!」
なんて、怒鳴り合う片津とおもちゃ屋の様子をウィズィとエクスマリアは困った顔で眺めていた。
商店街へと向かって走る片津の前に『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が跳び出した。『昼は学生、夜の魔法少女(偽)』天之空・ミーナ(p3p005003)の提案で一般人に変装して、人混みに紛れ込んでいたのだ。
「追いかけっこの始まりってな、さァ! 行くぞ!」
大上段から振り下ろされた一撃を、片津は寸でで回避する。地面を蹴って自転車ごと片津は跳んだ。
「は、ちょ!」
「町中でそんなものを振り回した危ないだろうが!」
「自転車で暴走してる奴に言われたく……」
「言い訳無用!」
自転車の前輪でアランを轢いて、片津はそのまま走り去る。
「やはり逃げるか。さあ砂駆、お前の足の強さを見せてやれよ」
顔を押さえるアランを置いてミーナは愛パカダクラ“砂駆”を発進させた。先を進む片津はぎょっとした顔でミーナを見やる。
「ら、ラクダだと!?」
「悪いか?」
「いや、軽車両だ、びっくりはするが問題ない! だが道路交通法は守れよ! 軽車両だからな、二段階右折だぞ!」
自分のことは棚にあげての発言である。
破天荒で名の知れた名物警官の面目躍如といったところか。
「なんて逃げ足!? しかし速さで負ける訳にはいかない!」
「幾らそれなりに頑丈と聞いても、こういうのは少し……気が引けるわね」
赤雷を纏って駆ける『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)。そして後に続く『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は商店街の店長の1人、魚屋を伴に連れていた。
「この先は商店街だけど、片さん、まさか突っ切る気じゃないだろうな……いや、あの人ならやるな」
「……元気なお巡りさんもいたものね」
呆れたようにヴァイスはそう言葉を零す。
「商店街の方へ向かったそうです。それにしても……何というか、よく解雇されませんね?」
「きっと、みんなを守るすごい人なんだよ! でも、お金のことを守らないのはこまっちゃうね……」
馬を操る『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)と、後ろに乗った『ふわふわ』えくれあ(p3p009062)は仲間からの連絡を受け商店街の方向へと進む。
風になびく金の髪に、疾走る軍馬。後ろに乗ったぬいぐるみ……に似た兎の獣種といった組み合わせは否応にも人目を集めてしまっていた。
「あぁ、待ってくれ! 片さんは商店街を経由してこっちに来るかもしれない!」
走り去る2人の背後から、八百屋のおやじが助言を飛ばした。
●疾走、練達クライシス!!の巻
電光と共にマリアは跳んだ。
道路を焦がしながらの急加速。伸ばした手が片津の乗った自転車の荷台にかかる、その瞬間……片津は前輪にブレーキをかけ、その場でくるりと180度方向転換。マリアの手は空を掴み、そのまま彼女は商店街の真ん中へと転がって行った。
「ちょ! ここはUターン禁止って聞いたよ!」
「わしがやったのはVターンだからいいんだよ!」
「なっ……片津君! 待ちたまえ! 君に警官の誇りは無いのか! こらー!」
「どんな時も全力全開がわしの誇りだ!」
商店街に入る直前で南方向へと進路を変えた片津の前に、アランとミーナが回り込む。
自身も追走に加わろうとしたマリアの肩を追いついて来たヴァイスが抑えた。
「待って。戦いを生業をしていない人に手を出すのは、ちょっとね……」
「それはそうかもだけど、じゃあどうするんだい?」
「アレを使いましょう」
白い髪を風になびかせ、ヴァイスは悪戯っぽく片目を閉じる。ヴァイスに先導されながら、マリアは脇道へと入っていく。
片津の進む先に、予め回り込むためだ。
業火の柱が進路を塞ぐ。
ミーナの放った火炎の礫によるものだ。急ブレーキをかけたが、ほんのわずかに間に合わす片津の尻に火が付いた。
「あち! あちちち!?」
「やぁ、幾らなんでも焼かれたくはないだろう? 観念したらどうだ?」
「お、お前か町中で火なんぞ打ちよって! 当たったらどうする!? わしじゃなきゃ死んでるぞ!」
「……普通なら死ぬとこだが。大丈夫だ。痛いのは最初だけ、後はすご〜く眠くなるだけだ!」
馬上のミーナと、剣を手にしたアランがゆっくり距離を詰める。
自転車に乗ったまま、片津は視線を左右へ素早く泳がせた。その一瞬の隙を突き、アランが駆ける。
「死ねオラァー!」
「ぬぅ! やっぱりそう来たか! 商店街の連中め、年々やり方がエスカレートしてるな。ここまでくるとマフィアのやり口だぞ!」
自転車から降りた片津は、ハンドルを支点にそれを大きく振り回す。
命を奪わないよう手加減をしていたのだろうが、それでも片津はタイミングを合わせアランの剣を防いで見せた。
代償として片津の自転車はバラバラに壊れてしまったが……。
「あぁ! 何をするんだ。サドルにはわしのへそくりが隠してあるんだぞ!」
「聞いたな店主! 回収だ!」
「おぉ、恩に着るよ嬢ちゃん!」
物影から飛び出した電気屋店主が、地面を転がるサドルを拾って逃げ出した。それを追おうとした片津だが、進路をミーナとアランに塞がれ敵わない。
「えぇい、今は逃げるのが先か」
舌打ちを零し、片津は跳んだ。向かった先には電信柱。身軽にそれを這いあがる様は、まさに類人猿のそれである。
そんな片津の耳に、チャリン、と何かの音が届いた。目を「¥」にした片津は電信柱から民家の屋根に飛び移ると、そのまま反対側の通りへ向かう。
「な……なんて野郎だ」
「追いかけるぞ、アラン」
片津を追ってミーナとアランは走り出す。
マリアの行使した【ドリームシアター】が、道路の真ん中に金塊を生じさせている。
「来たか。行くぞ、親友。些か信じ難いが、奴は恐ろしく俊敏、且つ、鼻が利く。人と見るな、アレは獣、だ」
マリア&ヴァイスと合流したエクスマリアはウィズィへとそう言葉を投げる。
深く頷きウィズィはスタートダッシュの構えを取った。
4人の見守るその前で、屋根から跳び下りた片津が金塊へと忍び寄る。
「こんなところに金塊が。持ち主もいないみたいだし、わしが拾って保管しておこう! 拾得物の保管期限は3ヵ月だからな、それまでに持ち主が現れなければ……ぐふふ」
「……とんだ不良警官ですね。よし、行くよ親友!」
「うん、心得た」
「そうね、金にまつわるお話はきっちりとしておかなければいけないと思うし……私も少し頑張っちゃおうかしら」
片津が金塊に飛びつくと同時、ウィズィ、エクスマリア、ヴァイスが通りへ跳び出した。周辺住民や通行人は店主や匠、香織たちにより既に避難済である。
「な、なんだ!? この金塊はわしが拾ったんだから、もうわしのだぞ! 届け出もわしに任せておけ!」
金塊の幻想を抱きかかえ片津は叫んだ。直後、その身に力が漲る。
片津は腕に力を籠めるが……。
「って、女と子供じゃないか。こら、女の子はもっとお淑やかにせんか! うちの婦警どものようになってもしらんぞ!」
片津の知る婦警とは、よほどに荒々しい者たちなのだろう。
するり、と片津はヴァイスの腕を回避する。
低く繰り出されたウィズィの足刀はその太い脚で受け止めた。
ぎょっ、と目を見開くウィズィ。エクスマリアの助言もあり、へし折るつもりで蹴ったのだが、上手く衝撃を逃されたようで大したダメージを与えることは叶わなかった。
直後、エクスマリアはその金髪で自身の身体を球に覆った。髪の表面に紫電が奔る。放たれた雷撃が片津の身体を撃ち抜いた。
バリバリと瞬く閃光の中、片津の骨格が透けて見えたような気がする。
「ぬ……めちゃくちゃしおって! 死んだらどうする!」
けれど片津は生きていた。全身を黒く焦がし、煙を吐きながらもその腕はしっかりと胸の前で金塊を抱きしめているが、それは所詮幻想だ。
「あぁ、金塊はどこだ!? おい、わしの金塊をどこへやった!」
「そんなもの初めからないんだよ!」
「もう、大人しくして……」
「こら、嘘つきは泥棒の始まりだぞ!」
マリアとヴァイスの言葉を遮り、片津は駆ける。3人の包囲を抜けた先には大通り。走る車両のうち1つ、トラックへ向けて片津は跳んだ。
「はぁ!? なにやってんだ、おっさん!」
トラックの運転手が悲鳴をあげるが、片津は至極真面目な顔でこう告げた。
「まっすぐ全速力で進んでくれ! 非常事態だ!」
「非常事態って……」
「いいから早く!」
片津に怒鳴られトラックは速度をあげる。
「止まりなさい! そこの原始人……蛮族!」
「止まれと言われて止まる奴はいない! 悔しかったら止めてみろ!」
ウィズィに怒鳴り返す片津の声がトラックと共に遠ざかる。
その後ろをアランとミーナが追っていった。
追走に加わるエクスマリアたちの前に1台の軽トラックが止まる。
「乗ってくれ、片さんを追いかけるぞ!」
それは店長たちの1人、模型屋の操る車両であった。
その後も片津は逃走を続ける。臭いで追われていると分かれば、生ごみの中に跳び込んで見せ、体温で追われていると分かれば冷凍庫に閉じこもる。進路を塞ぐステラとえくれあには散歩中の園児たちをけしかけた。
「ツケを溜めたままだと、商店の経営が悪化して最悪閉店の原因になりますよ」
と、ステラは説得を試みたが返って来た答えは以下のようなものである。
「その時はわしがプロデュースして立て直してやるから心配するな! 金の無い奴はわしのところに来るといいぞ! もちろん手間賃はいただくがな!」
「なんて……自信なのかしら」
呆れるやら感心するやら。
ステラは唖然としたものだ。
園児に「抱っこ」「おんぶ」とせがまれてステラはひどく困惑気味だ。
えくれあなどは抱き着かれて楽しそうにしていたが……。
そんな様子を片津は満足そうに見つめていた。その眼差しは何処か優しい。金にがめつく、破天荒であろうとも、その本質はやはり町の頼れるおまわりさんなのだ。
「え、っと、あぁ、髪を引っ張らないで」
「あーうー、あったかーい」
「はははは! そうして子供たちと遊んでいる方が似合っているじゃないか」
子どもたちに危険が及ばないよう、片津は道路整備に勤しむ。
と、その時だ……。
「なんだあのトラック? 自棄にふらふらと……」
橋の向こうから迫るトラックを一瞥し、片津は太い眉をしかめる。ドラム缶を大量に積載したトラックだ。左右にふらふらと蛇行を繰り返しているその様子はひどく不穏。
園児に集られた状態でえくれあはトラックの運転席へ視線を向ける。片津の視力では分からないが、えくれあの瞳にそれは映った。
居眠りだろうか。意識を失い目をつむった運転手の姿を。
「おまわりさん! 運転手さんが眠ってるよ! ぼくはすごく目がいいから見えるんだ!」
「な、なんだと!? それは本当か!」
片津が声を荒げた直後、トラックは大きく傾いた。
荷台に積載されたドラム缶がけたたましい音を鳴らして道路に落ちる。橋が揺れ、子供たちが悲鳴をあげた。
「くっ、せめて子供たちだけでも!」
庇うように子供を抱きしめステラは叫ぶ。
トラックが転倒した衝撃で、砕けて散ったアスファルト片。
跳び出したえくれあがその身を挺して受け止める。子供たちを庇ったのだ。
「ぅあっ!?」
地面を転がるエクレアのふさふさとした体毛に、じわりと赤く血が滲む。
えくれあを助けに向かう子供たちをステラは慌てて引き留めた。
大混乱の最中、片津は下駄を脱ぎ捨て進む。
「お前ら、じっとしていろよ! 大丈夫、おまわりさんが守ってやるからな!」
その身の内から溢れる闘志と正義の心。野太い手足に力を込めて、片津は転がるドラム缶の前にその身を晒した。
●見よ、おまわりさんの生き様!の巻
現場に駆け付けたイレギュラーズは、即座に行動を開始する。馬を操りミーナは素早く子供たちの避難へ向かった。
「こっちだ。付いて来てくれ!」
退路の安全を保つべく、その左右にアランとヴァイスは展開した。
飛び散るアスファルト片はえくれあの放った火炎の花が焼き尽くす。
アランは剣を地面に突き立て、転がるドラム缶を押し留めた。
「っと、あぶねぇな」
剣に走る衝撃はかなりのものだ。
そんな中、駆ける金と赤の影。
赤雷を纏ったマリアは停車した車両の間を駆け抜けて、鋭い蹴りをドラム缶へと叩き込む。弾き飛ばされたドラム缶は宙を舞って川へと落ちた。
「もっとたくさん来るよ!」
えくれあが叫ぶ。怪我を負ったえくれあは子供の腕に抱かれていた。その子供もステラに促され、橋の外へと避難していく。
「さぁ、皆、泣かないで! 大丈夫、私たちに任せてください!」
そう言いつつも、いざという時に備えステラはその手に魔力を籠める。子供たちだけは、この身に変えても守って見せると彼女の瞳に強い意志が宿っているのが窺えた。
「止めます! 頼むわよ、相棒!」
「うん。任され、た」
ウィズィが道路に巨大ナイフを突き立てる。しゅるりと伸びたエクスマリアの髪が巨大ナイフに巻き付いた。
エクスマリアは道路を駆ける。
「おまわりさん。マリアの身体を支えてくれない、か?」
「何? ちっ、そう言うことか。情けないが、背に腹は変えられんな」
すまない、とエクスマリアに謝罪を告げて片津は彼女の身体を抱き上げた。ウィズィのナイフと片津の間に張られたエクスマリアの金髪は、まるでネットのように細かく絡み合っている。
直後、鳴り響く激しい音。
張られた髪でドラム缶を受け止めて、エクスマリアはきつく唇を噛みしめた。
「お、終わった。運転手も無事のようだし、怪我人も少数……諸君、ご協力に感謝する」
背筋を伸ばし、イレギュラーズへと敬礼をする片津の姿は威風堂々としたもので、なるほど彼が皆に慕われる理由の一端はきっとこういうところにあるのだ。
やる時はやる。それが片津という男の本質なのだろう。
マリアなどは釣られて“ガイアズユニオン”式の礼など返していた。
けれど、しかし……。
「いえいえ。子供たちが無事で良かったです。それと、ごめんなさいね? でも、お仕事なので……」
片津の背後に回ったヴァイスが、その首筋に鋭い手刀を叩き込む。意識を失い倒れた片津をアランが慌てて受け止める。
いかに頼りになろうとも、それはそれ、これはこれ。
ツケはきっちり払うべきだ、と。
店長同盟に引きずられていく片津を見ながらヴァイスは思う。
「うむ。これで、依頼は達成だ、な?」
頭部を押さえエクスマリアはそう呟く。ドラム缶を受け止めた際に傷めたのか。心配そうなウィズィに「大丈夫、だ」とそう返し、エクスマリアは空を見上げた。
練達。再現性東京。
今日の天気は快晴で、青い空に片津の悲鳴が木霊する。
「すいません。片津という男を見かけませんでしたかな?」
そんな彼らの元に来たのは背の低い初老の男性だった。どうやら彼は片津の上司であるらしい。
「片津さんなら、商店街の皆さんに連れられて行ったよ」
と、そう告げたのはアランである。
初老の男はため息を零す。
「まったく、なにをやっとるんだ、あの馬鹿者は」
今日も練達は平和である。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れまです。
片津は無事に捕縛され、ツケは回収されました。
お金はすっかりなくなったので、明日からもまたツケで買い物を続けるでしょう。
依頼は成功です。
この度はアフターアクション、ありがとうございました。
何処かで見たような物語、お楽しみいただけたでしょうか。
お楽しみいただけたなら幸いです。
また機会があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
アフターアクション、ありがとうございます。
こちらは「再現性東京2010:或いは、オー・マイ・ラブ…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3836
※元シナリオを未読でもお楽しみいただけます。
●ミッション
警察官“片津”を捕まえ、ボーナスを回収する。
※1分以上の間、片津を見失ってしまうと失敗になります。
●ターゲット
片津×1
豪放磊落にして破天荒。
手先は器用で、頭の回転も速い。
また、人並み外れたフィジカルを誇る。
金にがめつく、欲を掻いて失敗するなど短慮な面が目立つとのこと。
胴長短足。手足と眉は太い。その様はさながら原始人を想起させる。
生粋の地元民であるため周辺の地理に詳しい。
また、HP0以下になるダメージを受けた際、一度だけHP1で持ちこたえる。
わしに任せろ!:反応、命中、機動、クリティカルを大幅に強化する。
やらねばならん!:物至単に大ダメージ、ブレイク
・真庭 香織
黒く艶やかな長髪を持つ美しい少女。
つい最近、多額の遺産を相続し大きな家に1人暮らし。
商店街の店長たちにイレギュラーズとの“繋ぎ”を依頼された。
・神崎 匠
17歳の高校二年生。
陸上部に所属している。
174センチ。割と顔はいい方と評判。
少々思い込みが激しい傾向にある。
香織とは現状、友人同士。
よく2人で公園にいるらしい。
・商店街の店長たち×5
中年から老齢の店長たち。
年齢の割には動ける方だが、片津には遠く及ばない。
片津の行動パターンを理解していたり、周辺の地理に詳しい。
場所によっては彼らの案内がなければ到底発見できないような近道などもあるようだ。
●フィールド
練達。再現性東京の街中。
スタート地点はとある公園前の派出所。
公園を中心に
・西側には商店街や住宅街
・東側には大通りと繁華街
・北側には香織の住む屋敷や小山
・南側には広い川と大きな橋
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