PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>魔の従僕

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 高天の京の一角、小さなお山の中腹に、そこは静かに存在していた。
 石を削りだした綺麗な階段を登り広がるは一つの神社。
 参道たる石の絨毯が敷かれ、朱に満ちた鳥居を入り口とするその空間は静謐なる空気に満ちていた。
 人気のない境内では、幾つもの狐達が寝ころび、遊んで暮らしている。
 石段の頂きから見て左手の奥にも鳥居が見え、右手には社務所らしき場所が見える。
 そして中央、やや奥ばった場所にある拝殿の前で、女が座って狐達を見つめていた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ……ふむ?」
 美しい白い髪を靡かせた女が、すぅと金色の目を細めた。
 高天が京の一角、無人の神社にて、そいつは狐に囲われゆったりと賽銭箱にもたれ掛かっている。
 着込む十二単が重たいのであろうか。身動きをあまりしていない。
「おかしいのう……また一匹、姿が見えぬようじゃが……」
 扇子で口元を隠し、首を傾げた女は、視線だけで周囲を見渡すと、一匹の大きな白狐を呼び寄せる。
「久里、うぬは何か知らぬかえ?」
 尾を二つに分けた、涼しげな顔をしたその狐は女の問いにふるふると首を振る。
 そんなとき、不意に周囲にいた数匹の狐がこゃんこゃんと騒ぎ立てた。
「ほう……呪詛とな……そのような物が巷では流行っておるのかえ?
 阿保らしいのう……呪いなぞすれば己も変えるというのにのう……」
 女が呟いたのに続けるように、再び狐達が吼え始める。
「ほうほう……なんと、それには妖怪を切り刻む必要があると……
 なるほどのう、もしかするとそれに利用された可能性があるのかのう……」
 ポンッと扇子を纏めれば、とんとんと顎の下らへんを軽くたたく。
「そんなものに引っかかって利用されるお間抜けが妾の僕とは思いたくないのう……
 もしも利用されているのであれば、妾としても直々に天誅を降すもやぶさかではなかろうかのう……」
 そういうと、女はゆったりと賽銭箱から起き上がる。
 そんな彼女に寄り添うように、久里と呼ばれた白い毛並みの狐が近づいた。
「では、参ろうかのう」
 そう言って再び扇子を開き、パタパタとあおりながら女が動き出した。


 呪詛と呼ばれるものが高天の宮中を――市井を満たしている。
 夜半に妖の身体を切り刻み、その血肉を以て相手を呪うというその呪式は、今は公然と人々の間で行われる物と化していた。
 成功すれば『忌』と呼ばれる呪詛となって呪うべき対象の下へ顕現して襲い掛かり、失敗しても『呪獣』と呼ばれる一種の暴走状態と化して暴れまわる。
 手の付けられない邪悪なその手法による事件は、散発的にとはいえ、高天京のほぼ全土を震撼させていきつつあった。

 男は――憎かったのだ。
 いつもいつも、自分にばかり仕事を押し付けて何もしない同僚――その八百万が。
 それどころか、聞いた話では働かないで得た給料で女を食い散らかしているというではないか。
「はは、ははは! あははははは! やっとだ、やっと捕まえたぞ!」
 唸り声をあげて、こちらを見ながら忌々し気に見る一匹の狐。魔が差したという他ない。
 流行りに流行る呪詛――妖を切り刻んで行なうというソレの話は聞いていた。
 だから、この狐の妖がたまたま川で水浴びをしていたのを捕らえてここまで連れて来たのも、単純に偶然だった。
「悪いな、狐! 貴様を殺して、やつへの恨みを晴らさせてもらうぞ!」
 狂気に満ちた笑みを浮かべ、男は槍を取り出すと、狐を一突きした。
 吼える。吠える。怒りに、憎しみに、悔しさに。
 狂ったように狐が叫び続ける。
 その狐の鳴き声は家を越え、外にまであふれ出るほどに大きかった。


「だから、俺を守れと。あいつが呪ったのは俺に違いないんだからなと。
 そういうお話でございました」
 依頼人からの伝言を伝えたアナイス(p3n000154)が溜息を吐いた。
「このカムイグラにあるという鬼人種と八百万の身分差別も考えれば、
 依頼人がやってきたのが恐らくは非道であろうことは察するに余りあるのですが……
 依頼として発注された以上は仕方ありません。依頼人の家にて忌を迎え撃ってください」
 頭痛いといった顔でこめかみを抑えたアナイスに送り出される形で、目的地に向かって動き出した。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
アフターアクションありがとうございました。

手を出さんといた方がいい物もあるというのに……というやつでしょうか。

それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー
忌狐の討伐。

●戦場
とある貴族のお屋敷です。
屋敷内という事もあって広いレンジを取りにくいでしょう。
また、依頼人の意向であまり意図的に壊さないように注意してほしいとのことです。

●エネミーデータ
【忌狐】
半透明の姿をした体長3mほど狐の妖怪です。
本来は雑魚もいいところでしたが、呪詛と化したこれは強力です。
【不殺】属性以外での攻撃で倒した場合、呪詛返しにより『術者』に呪いが返ります。

反応回避型。
遠吠えによる【魅了】や【狂気】属性の攻撃や狐火による中距離【業炎】攻撃の他、【猛毒】付きの牙を持ちます。
また、すべての攻撃に【呪い】【呪殺】が着きます。

●介入
戦闘開始後15ターンを経過した時に魔種・鈴華御前が介入してきます。
それまでに討伐できていなかった場合、鈴華御前は【必殺】属性の攻撃でエネミーを殺します。
また、彼女は呪詛返しが起こった場合、『術者』の場所を把握し、術者を殺しに行きます。
その邪魔をする場合は戦闘に突入せざるを得ないでしょう。

討伐済みの場合、5ターンほど戦闘になったのち、撤退していきます。

【『狐婦人』鈴華御前】
『色欲』属性と思われる魔種。金色の瞳と白い髪の女性です。
4本の狐の尻尾を生やし、十二単風の衣装を着ています。

回避能力を犠牲に防技と抵抗、攻撃性能を高めたタイプ。
強い者を好むため、基本的にイレギュラーズには好意的です。

<スキル>
通旋風(A):神近列 威力小 【飛】【停滞】
通閃爆(A):神中貫 威力中 【自カ至】【飛】【業炎】【ブレイク】
通烈衝(A):神至単 威力中 【飛】【防無】【ブレイク】
通業撃(A):神超貫 威力大 【万能】【ブレイク】
???(P):???

【『白尾双』久里】
尻尾が2本に分かれた美しい白い毛並みをした狐の妖です。
比較的大柄であり、その瞳には知性の輝きすら感じます。
いうなれば鈴華御前の腹心といえるでしょう。

驚異的な反応速度、回避力、神攻、命中を持ちます。

<スキル>
・魅惑の咆哮〔雷〕(A):神中扇 威力中 【魅了】【ショック】【呪殺】【呪縛】
・誘いの鳴声〔氷〕(A):神遠範 威力中 【万能】【怒り】【凍結】【呪殺】【呪縛】
・毒婦の顎〔真〕(A):神至単 威力大 【猛毒】【致死毒】【麻痺】【呪い】

●以下プレイヤー情報
今回は一般人に捕まった挙句に利用されるなんて間抜けな僕のしりぬぐいと、
自身の僕を呪術に使う命知らずな輩への報復のために行動しております。

何となく察して進むもよし、全然知らないていで進んでも構いません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <巫蠱の劫>魔の従僕完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月12日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
すずな(p3p005307)
信ず刄
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
チェルカ・トーレ(p3p008654)
識りたがり
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


「身分差別……か。こうして見せつけられると嫌になるね」
 たたみに座していた『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)はそれが産んだこの事件に溜息を吐いた。
「術者は呪詛に手を出すほど追い詰められていたんだね。だからってやっていいことと悪いことがあるけどさ」
 カムイグラらしく和装に身を包んだ『浮草』秋宮・史之(p3p002233)は依頼人を呪った者に思いを馳せる。
 カムイグラ中枢――高天京の中にあるとある貴族屋敷にイレギュラーズは集結していた。
「うん……誰かを呪いで殺したり、そのために何か悪さをしたわけでもない妖を切り刻んだりするのはやっぱりよくないことだよね」
(出来ればちゃんと捕まえて、反省して罪を償って欲しいところなんだけど……)
 史之の言葉に頷く『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はそっと目を閉じる。
「逆恨みし罪なき妖を徒に犠牲など許せない」
 白い鎧をまとったまま、『ヴァイスドラッヘ!』レイリ―=シュタイン(p3p007270)はむしろ呪詛を行なった者への憤りを見せる。
「これ呪詛関係なければ絶対関わりたくないお仕事ですよ。
 恨みつらみは自業自得では……?
 御貴族様なら尚更そういうものだと思うのですが!」
 ちょっぴりげんなりした様子をみせるのは『血雨斬り』すずな(p3p005307)だった。
「市井で知られているような呪詛は、効果の程まで含め実行の容易さ同等の子供騙しのような拙い式です」
(高度に形式化されかつ実効力も高い呪式は、正式な術者のもので本来余人には知られる筈もない。
 それがこうまで広まっているという状況は、明らかに意図を感じます。
 狙いは……呪詛の実行か、そのものや返しによる犠牲か、或いは全ての積み重ねか)
 和装を払いながら『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は呪詛そのものに疑念が尽きない。
「酌量の余地あれど。僕には依頼人も呪詛を行った者も。
 別に死んでもいい人間だ。ただ、標的を倒せというのは楽でいいな。
 ――さて、始めるか」
 呟きながら『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は立ち上がる。
 それと同時、イレギュラーズの集まる広間に突如としてそれが姿を見せた。
『コゥゥォオォォン』
 半透明の狐の妖怪だ。
 胡乱な双眸に宿る光は良くないものに満ちていた。
「カムイカグラでの仕事ではよくよく狐に縁があるな私は」
 小鳥を外に飛ばした『探求者』チェルカ・トーレ(p3p008654)もステッキを構える。
「まあ自分自身が狐なのだから合縁奇縁……
 もとい合縁狐縁と言った所かな?」
 笑いながら、狐の様子を見る。
(――妖狐の側にいた妖と似た雰囲気、これはひょっとすると……?)
 竜胆を構えたすずなは現れた妖狐の姿に既視感を覚えてやや目を細めた。
「狐……妖狐。まだ幼く力の弱い者が狙われた、という所ですか」
 氷蓮華を構える冬佳は、その一方で意識を半透明の妖怪に向ける。
「しかしこの気配、先日遭遇した、鈴華御前が連れていた気狐のような……」
 同じ現場にいた冬佳も既視感を口にした。
「なんだかよくわからないけどゾワゾワした嫌な予感がする、早めに決着を付けよう!」
 焔が武器を構えたのとほぼ同時、妖狐が動く。
『クァァアァァ』
 脳に直接伝わるような鳴き声が響き渡る。
 ほとんどの者が持ち前の耐性と抵抗力で防ぎきるが、同時に伝わる強烈な呪の衝撃が身を蝕んだ。
 焔はそれを振り払うようにカグツチ天火を振るい、一気に跳びこんだ。
 極限にまで高められた紅蓮の刺突が妖狐へと注がれる。
 冬佳は魔力を高め、氷刃を形成すると、一気に突撃する。
 振るわれた氷刃が二度に渡って妖狐に撃ち込まれる。
 傷ついた箇所が氷に蝕まれていく。
 愛無は自らの溢れんばかりの破壊衝動に身を委ねると、全身の粘膜を展開する。
 体表を覆いつくした粘膜が無数の眼球を形成し、宛ら蛇のような姿へと変態する。
 その異質な存在の瞳で射抜かれた妖狐が委縮したように鳴いた。
 史之はネオ・フロンティア海洋王国の紋章が刻まれた打刀を抜き放ち、気力を高めていく。
 踏み込みと同時、白刃が閃き、閃光が迸る。
 雄大なる海洋への忠節を示すような真っすぐな太刀筋が妖狐を切り裂いた。
 花丸は自らの拳を握り締めると、思いっきり妖狐へと叩き込んだ。
 破壊する事しかできないその拳の衝撃は激しく、妖狐の身体を大きく揺らす。
 すずなはその時を待っていた。
 畳を踏み抜くような強烈な踏み込みと、バンッと大きな音を立てながら、竜胆を閃かせる。
 斬り払いに始まる無窮の斬撃。まるで生きているかの如く走る薙ぎ払い、刺突、振り下ろし。
 二度、三度と渡る連撃で責め立て、多くの傷を付けていく。
 チェルカはphilosopherに魔力を込め上げる。
 収束させた魔力を用いて放つは大号令。
 自身を始めとする周囲の仲間の異常を振り払う分析により、仲間たちが帯びた呪いが解けていく。
 駆けだした妖狐がその口を開き、史之めがけて噛み付かんと迫る。
 毒性を帯びたその牙が肉体に刺さるよりも前に、史之は一歩前に出た。
 口の中、走らせた打刀が妖狐の口を深く裂く。
「私の名はヴァイスドラッヘ。妖狐よ、私が……止めて見せるよ!」
 レイリーは槍を頭上で振り回して畳に叩きつけるようにうち、堂々たる宣誓を告げた。
 まっすぐな宣誓を受けた妖狐の視線がレイリーへと注がれる。


 イレギュラーズの戦いは順調に進みつつあった。
 命中精度の高い者が多く編成されていることもあり、高度な回避能力をねじ伏せて打ち込めることが多かったのは幸運であった。
 耐性こそあるものの、呪殺によるダメージの蓄積はあったが、抵抗力が比較的高い者が多いこともあってそちらもそもそも状態異常を受け付けずに済んだこともあって、明らかな脅威とまではいかない。
「私はヒーローだ! 絶対に、絶対に仲間を守り通す」
 白き装甲を展開し、ドラゴンの如き鎧を身に纏い立ちふさがる。
『クゥゥゥォォォ』
 跳躍と共に真っすぐに向かってくる妖狐に対して、ヴァイスドラッヘンフリューゲルでそれを防ぐ。
 牙を殺し、毒も弾いた堅牢な護りをそのままに、押し返す。
 妖狐の動きは当初より遥かに鈍っている。もうじきに倒れるのは明白だった。
 焔は魔力を込めると、真っすぐに妖狐目掛けて跳びこんだ。
 カグツチの穂先のような部分ではなく、柄のような部分を強烈に横薙ぎに打ち込むように叩きつけた。
 命は取らぬまでの衝撃に微かに妖狐が後退する。
 冬佳は一時的に後退していくと、清らかな水を触媒に、氷蓮華の能力を更に活性化させる。
 その刀身に更なる水が滞留していく。
 重心を押し出すようにして振るわれた刀身から舞うように放たれた水は鋭く走る。
 まっすぐに、刃の如くなった水がよろめく妖狐へと炸裂する。
 次に動いたのは愛無だ。
 自身の腕部粘膜を展開させて形成するは巨大な甲殻類を思わせる強靭そうな鋏。
 至近と共に撃ち込み、妖狐を捉える。
 万力ですりつぶすような圧力を仕掛けれ、同時に敵の生命力を同化させて吸い上げていく。
 史之は斥力を展開していく。
 赤く輝く理力は打刀の刀身を鮮やかに彩った。
 踏み込みと共に放たれた斥力の一撃が、赤い軌跡を描きながら強烈な衝撃を妖狐に叩きつけた。
 花丸は拳を握りなおす。そのまま真っすぐに走り出した。
 よろめく妖狐の胴部目掛け、アッパーカット気味に叩きつけた拳が、妖狐の顎を打ち上げる。
 チェルカはステッキの魔力を高めていく。
 バチバチとなり始めたステッキの頭頂部を振り下ろすように叩きつけた瞬間、一条の雷霆が迸る。
 まっすぐに駆け抜けた雷霆はよろめく妖狐へと強烈な一撃となって撃ち込まれた。
 すずなは竜胆の持ち方を改めていた。
 深めに握り、大きく踏み込むと同時、たたらを踏んだ妖狐を、横に薙ぐように撃ち抜いた。
 強烈な一撃は斬撃の一太刀にあらず。より霊刀らしく、慈悲を持って撃ち抜く峰内である。
 殺しはしない――けれど内臓をめちゃくちゃにできる強烈な一打撃だった。
『グルゥゥ……』
 すずなの一撃を受けた妖狐がズトンと畳の上に落ちる。
 そのままもう一度立ち上がろうとした妖狐はしかし、そのまま透けて消えていった。


 忌を消滅させ、小休止を入れようとしたその時だった。
 ゴゥン、と音が鳴る。
 それを聞いたことがあるのはこの場で3――いや4人か。
「気配を感じてきてみたが、なんじゃ……もう消えたのかの」
 音が鳴り終わると同時、屋敷の中に突如としてそれは姿を現した。
「お早い再会となりましたね、御前?」
 すずなは一呼吸を入れると共に竜胆を構えた。
「ほほ、そうじゃのう。ひぃ、ふぅ、みぃ……ほほ、3人ほど見覚えがあるが」
 すずなを、その後に冬佳、レイリーと視線を巡らした女――鈴華御前が艶っぽく笑む。
「鈴華御前……。……この子は、貴女の所の狐でしたか?」
「ほほ、まぁの。ちょっと目を離していたら間抜けにもやられてしもうたわ」
 やれやれと肩を竦めた御前が冬佳の問いに答えた。
「申し訳ないけど、あの子は私達が決着をつけさせてもらったよ」
 花丸は油断なくそう言って、拳を構える。
 対して、鈴華御前はゆるゆると首を振った。
「いやいや、妾も生き恥を晒すよりはと思っただけよ。
 それに、ほほ。お主らならしかと仕留めてくれたじゃろうしの」
 扇子を開いて笑い、こてんと首をかしげる。
「しかしのう……妾としてもどうするべきかのう……
 ほれ、お主らはうちのを眠らせてくれたのじゃろう?
 それに関しては礼を言うべきじゃろう……じゃが」
 鈴華御前がふるりと狐の尾を揺らし、すぅ、と目を細めた。
「逆に言えば妾の下僕を殺しされてもうたということじゃろう?
 下僕を殺された礼はせねばならんとは思わんかの?」
「いいよ。――だったら、やろっか。
 私でいいなら、君が満足するまで付き合ってあげる」
「ほほほ。そう言ってもらえると助かるのう……」
「さぁ、来なさい鈴鹿御前。また、一緒にデートしましょうよ」
 レイリーは携行してきた霊薬をあおり、まるで誘うように武器を構えた。
「でぇと……ふむ? ぁあ、逢瀬かえ……これはこれは、照れるのぅ」
 緩やかに顔を扇子で隠した直後、ゴウ、と風が吹き荒れた。
 それと同時、傍に控える尾が二つ生えた狐が鳴いた。
 誘うような鳴き声に思わずそちらに意識が行く者も出た。
「全力で相手しなきゃ……」
 疲労を覚えながら、焔はカグツチを握りなおすと、槍に神炎を集めて一気に跳んだ。
 まっすぐな刺突は鈴華御前の腹部に突き立った。それと同時、焔は魔力を爆発させる。
 内側から焼く一撃を受けても、楽しそうに笑うだけで傷を負っている気がしない。
「良いの良いの。この手の技は好きじゃぞ――」
 それに合わせるように、鈴華御前が爆炎を放つ。
 強烈な衝撃と共に、身体にちりつく炎。
 炎神の系譜たる焔には痛くないが、連戦に疲弊する体には重い。
「短い逢瀬ではありますが、お付き合い頂きましょう……!」
 すずなが跳ぶように前へ出る。
 大技を撃つ気力は残っていない。それでも――
「此度こそ、その身にしかと刃を刻んであげたいものです!」
「ほほ、前もしかと受けたつもりじゃったがの!」
 閃く剣が走る。一撃は深くはない。それでも、幾重にも重ねれば多少の傷は残せる。
 冬佳は氷蓮華に魔力を込めると、まるで指揮杖のようにして振り払う。
 清浄なる神水が焔の身体へと走り抜け、その傷口に水の華が開く。
 それは傷を癒すと、やがて水となって散って往く。
「今は君んトコの子用に調整してるゆえに。
 ちょいと君とやるのはしんどいのだが――」
 愛無は巨蟹掌を真っすぐに叩き込む。
 もとより気力も魔力もいらぬその力は鈍らない。
 堅牢な防御力を上から捩じり潰すような圧力をかけながら、ぎりぎりと押し付けていく。
「こっちも負ける気はないよ」
 史之は力を振り絞り、鈴華御前の傍にいる狐へ牽制を撃つ。
 受けた狐は涼し気な顔をしながらも、興味深そうに史之を見ていた。
 花丸は拳を握り締めると、思いっきり鈴華御前に向けて撃ち込んでいく。
 真っすぐに撃ち込んだ拳が鈴華御前へと吸い込まれた。
 チェルカは杖の魔力を天井目掛けて放つ。
 天井で形成された魔方陣から降り注ぐは無数の雹。
 逃げることを許さぬつぶての雨が鈴華御前と久里を巻き込み撃ち抜いていく。
 レイリーは残る気力の殆どを使ってトゥテラリィフォームを用いて鈴華御前の注意を引いていた。
 仲間を何時でも庇えるように注意しつつ、鈴華御前へ合わせるように捌き続ける。
「さぁ、遊ぼうよ」
「ほほ、では、遊ぶとしようかの」
 嬉しそうに笑いながら、魔種が扇子を振るう。
 振るわれた風が、レイリーの身体をあおり、鈴華御前から引き剥がそうとする。
 それに対してレイリーは槍を畳に立てて、グッと持ち堪えた。

――――――――
――――
――

「……ほほ、これぐらいにしておこうかの」
 パタン、と鈴華御前が扇子を閉じる。
 時間にして数十秒にすぎない。
 その上、かなり手加減されているのは明らかだった。
「せっかくの勇者が相手だというに、疲弊しているのを一方的に倒すのも面白うない」
「待ってくれ。何だかんで古狐そうだ。
 この状況、何か知っているなら教えてくれ」
 愛無は踵を返して立ち去ろうとした鈴華御前へと声をかけた。
「ふむ……この状況とな?」
 そういうと、鈴華御前は不思議そうに眉を上げて首をかしげる。
「あぁ……この呪詛のこととかね」
「あぁ――そういうことか。すまぬのう。
 お主も先程言っておったが、妾はこれでも歳がいっておっての。
 基本は隠居の身――正直、俗世のことは良くわからんのじゃ」
 そう言って扇子で顔を隠したあと、あぁ、そうだ、と顔を起こす。
「じゃが、そうじゃの。月の明かりが濃い。
 じきに大きなことが起きるのじゃろて……まぁ、妾には関係ない事じゃが」
 そう言うと、そのまま御前はその場を後にして消えた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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