シナリオ詳細
雪の妖精の裁きと訣別する為に
オープニング
●雪の妖精の為の連続殺人劇
――私は、妻である事も、母である事も、貴方の脚本の女優である事も……。全てを演じるのに飽きてしまったのです。
――舞台女優・エリーゼ・カルヴァーニ
『鉄帝』の北国にぽつねんと位置する田舎のウィンタウンは初秋の頃から銀世界である。
長閑な過疎地である為、今年も平和な日常が静寂に繰り返されるはずだったが……。
現在、この町は『鉄帝』当局より厳重な警戒態勢が敷かれていた。
「御免下さい。ここがフランフォン・カルヴァーニさんのお宅でしょうか?」
当局の捜査関係者がとある民家に訪問して住人に調査を申し出る。
ところが、玄関は全開で空いているはずだが、誰も応対してくれない。
件の捜査が緊急時であると判断して当局は民家に踏み込んだ。
「ふふふ……。我が愛娘オペレッタ、君の長髪も素肌もなんて艶やかで美しいのだろう?」
民家の地下室では、身嗜みが乱れてやつれている浅黒い年配男が喋っていた。
会話の相手は誰だろう、と当局の者達が地下室の奥へ視線を向けると……。
そこには、若き女性の冷たい体が血塗れでベッドに寝ていた。
瞳に狂気を宿した男は、女性死体の紫色の髪や血色の素肌を撫でて笑っていた。
「お取り込み中の所、申し訳ありません。フランフォン・カルヴァーニさんご本人で間違いはありませんね? 巷を騒がせる連続殺人事件の容疑者として当局より逮捕命令が出ています。あなたを殺人の現行犯で逮捕します」
当局から派遣された捜査の長がフランフォンの罪状を滔々と述べる。
地下室へ流れ込んで来た捜査関係者達が「殺人犯」を包囲して取り押さえるが……。
「はっ!? なんだって? 当局から僕に逮捕命令が出ているだと? しかも連続殺人事件の容疑者とは、また人聞きが悪くて困るなあ……。僕はね、ただただ、可愛いオペレッタと愛し合っているだけじゃないか! 僕達の愛の対話を邪魔しないでくれ!」
念の為、補足しておくが、フランフォンが「オペレッタ」と呼ぶ娘は本人ではない。
錯乱した彼の脳は「紫髪の年頃の娘」を全員「オペレッタ」と認識するのである。
怒り心頭に発するフランフォンは幻想的な雪の魔力を解放すると荒れ狂った。
勝負は瞬時に決着して、当局の者達が氷漬けの返り討ちに遭ってしまった。
そして、当局が派遣した精鋭達が殺人犯に破れた情報はローレットにも流れた。
●凋落した劇作家の討伐依頼
「今回、皆さんにお願いしたい依頼は、とある殺人犯の討伐です。仮に一回で討伐出来ない場合でも、撃退して段階的に追い込んで討伐するようにして頂きたいです」
『鉄騎学者』ロゼッタ・ライヘンバッハ(p3n000165)があなた方に語り掛ける。
近頃、『鉄帝』のとある田舎町で紫髪の若い女性を誘拐した連続殺人事件が起きている。
その件の殺人犯が『鉄帝』の当局ですら手に負えなかったという話であって……。
「はい、その殺人犯ですが、名前はフランフォン・カルヴァーニと言います。その昔、エリーゼという舞台女優を主演にした『雪の女王に捧げるレクイエム』で大ヒットした事で有名な劇作家だった男性です。ちなみにエリーゼという女優はフランフォンの妻となった女性です。彼女の方は現在、失踪中で演劇の世界にはいません」
ところで、そのフランフォンという殺人犯だが、彼の何が当局の手を焼かせているのだろうか。
「ええ、そのフランフォンという人物ですが……。私達の調査によれば『魔種』と見て間違いのない事でしょう。当局の精鋭達を氷漬けにして殺害した戦闘力の高さも裏付けの一つとなっています。実際にローレットにフランフォンの討伐依頼が舞い込んで来た訳でありまして……。特異運命座標の皆さんの実力が必要となったケースですね」
なるほど、そのような事情があった訳かとあなた方は納得する。
しかし、そのような危険人物と対決するのであれば僅かでも情報が欲しい。
「実は、申し上げ難い話ですが、フランフォン・カルヴァーニは、特異運命座標の仲間であるエル・エ・ルーエ(p3p008216)さんのお父様です。ん? エルさん? ほら、あの冬好きな雪の妖精みたいな女の子ですよ」
つまり、今回の依頼は魔種討伐である上に因縁の親子対決でもあり得る訳か。
丁度、依頼相談の場に同席していたエルに視線が集まってしまった。
果たして彼女は、魔種に堕ちたと雖も父親である人物と戦う事が出来るのだろうか?
「ですね。父親と対決するかしないかは、エルさんご本人の決断に委ねます。そして、もし、対決する覚悟であれば、仲間の皆さんと共にこの地点へ向かって下さい……」
ロゼッタは問題となる田舎町の古びた地図をテーブルに広げて解説を続ける。
どうやら、フランフォンは既に犯行現場の民家から逃亡したようだ。
情報屋達の調査によると、最近はその町の裏山の洞穴に潜伏しているらしい。
エルは、紫と青の混ざる美しい瞳を潤ませて決断をする。
「今回の依頼ですが、エルはお父さんとの対決を…………」
- 雪の妖精の裁きと訣別する為にLv:20以上完了
- GM名ヤガ・ガラス
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年09月18日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●作戦開始
――オペレッタは、加護をもらった事がただ嬉しくて、外に出てしまいました。お父さんの事を、少しも考えていませんでした。それはいけなかった事だと、エルは思います。
でも世界をちょっとだけ知ったエルは、オペレッタとは違います。沢山の方に冬を好きになってもらいたいから、傷つく人を増やしたくないから、エルは戦います。
――『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)
粉雪が舞い散る初秋の雪山を特異運命座標の討伐隊が行軍する。
渓谷の中腹まで歩みを進め、フランフォンが潜伏している洞穴まで辿り着く。
『昼は学生、夜の魔法少女(偽)』天之空・ミーナ(p3p005003)が歩行の停止と警戒を呼び掛けた。
「皆、気を付けろよな。洞穴の中から生体反応を確認。おそらく奴がいるぜ」
温度視覚を持つミーナは熱源を把握出来る為、洞穴で微かに動く「赤」を確認した。
因縁の対決の時も間近に迫りエルが不安そうに震えている。
「親子で相争うなんてなぁ。正直やってられねぇが……そうも言ってられねぇよな。ああ、安心しな。私は、可愛い女の子の味方なんだぜ?」
「は、はい? ありがとうございます」
口調がやや荒いミーナだが、激励の意味と受け取ったエルは笑顔で礼をする。
「さて、洞穴に突入する前に私の方からエルに加護を授けよう」
「はい、お願いします」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は、聖なる力を詠唱してエルの身体能力の強化を図る。直接的な言葉よりもストイックなゲオルグらしい彼なりの餞別である。
他の仲間達の配置の確認後、エルが囮となり洞穴へ侵入する。
洞穴は仄暗いが暗視能力があるエルからすれば視界がほぼ鮮明だ。
ミーナの助言もあったように温度反応があった人物はすぐに発見出来た。
そして、洞穴の簡素な部屋に居るフランフォンに呼び掛ける……。
「お父さん、お父さん? お話しましょう?」
フランフォンは大仰に起き上がると近くまで駆け寄った。
「おおっ、君は……! 正しく、僕の愛しのオペレッタではないか!?」
しかし、親子が感動の抱擁を交わす事はなかった。
フランフォンが抱き締めようとするとエルは身を躱して後退した。
「お父さん、ごめんなさい。エルはお父さんと、一緒に居られません」
「待て、待ってくれ、オペレッタ!」
エルは仲間が待つ洞穴の外を目指して一目散に走り抜ける。
フランフォンも形振り構わずエルを追い掛けて洞穴を飛び抜けてしまった。
洞穴の外へ飛び出た標的の姿を銃口の照準器が狙い定める。
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)はその刹那に冷笑した。
(魔種はすべて殺す! そこに例外は一切ない。ただ今回は、エルに父親である魔種を倒させるのが筋だろう。俺達に出来るのは、エルが動きやすい舞台を設置することだ。今回の主演はエル・エ・ルーエ。物語の結末は、彼女の父親の死を以って終わるのさ)
無言で峻厳な表情のジェイクが静かに愛銃の引き金に指を掛ける。
銃口が吠えて吹き荒ぶと怒りの魔弾がフランフォンの堪忍袋を撃ち抜いた。
「狙撃された、だと……!? オペレッタは、なぜ、逃げる? それに君達は誰だ? そうか、僕は騙されたのか!? ならば君達を血祭にしてくれる!」
逆上したフランフォンがジェイクを目掛けて疾走して襲い掛かる。
脚本から暗黒の雪の妖精が召喚されると裁きの氷雷が荒れ狂った。
「そうはさせない! 私がジェイクさんの盾になるから……!」
魔氷の雷がジェイクを捉え切る前に『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)が側面から飛び出ると代わりに被雷する。彼女の兄であれば、エルのような子の苦痛を共に背負うぐらいの覚悟で盾になるだろうと想像して。
魔種の神秘魔術の一撃は流石に堪える痛切さだが氷漬や電流の衝撃は防ぎ切った。
「魔種に堕ちた家族は……聞いたり見たりしてきた事は何度かあるけど。……せめて、エルちゃんの望む形になる様に。支えられる様に頑張らないと……!」
「相手が魔種になった父親、っスか……。オレに縁がある訳じゃねぇけど、やりづれぇだろうなと思ってな。いや、んな事心配するような立場でもねぇか。当人の気持ちがどうであれ依頼には変わりないっス。一先ず目的くらいは果たさねぇとな」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が黄金の左足から魔球を猛速度で蹴り飛ばす。
魔球が魔犬を襲撃すると配下達も血相を変えて葵に牙を向けた。
「エルさんの決意、確かに受け止めました。で、あれば、このリディア・T・レオンハート、全霊を以って助太刀致しましょう!」
湧き出る敵前衛の魔犬達に向かって『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が蒼光の宝剣を掲げて宣戦布告する。アドレナリンを爆発させて闘気が高まると常時の碧眼は深紅の煌眼へと変化した。
「魔種とはいえお父上と戦うことになるなんて……。しかしながら放っておけば被害者が増えるのは確実。エルさんのために微力ならがお力添えをいたしましょう」
悲愴な決意を胸に秘めたエルに同情するかのように『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)も前衛のリディアに加勢する。
敵陣は魔犬以外にも、魔性と化した雪の妖精や雪達磨まで続々と出没しているからだ。
先手の策が必勝して戦場はエル達の思惑通りに二分された。
対魔種の班であるエル、ジェイク、メルナ、ゲオルグ。
対配下の班である葵、リディア、睦月、ミーナである。
●対配下
堕ちた劇作家の創造力は雪崩の如く魔物達を召喚していた。
冬の魔犬は群集本能を発揮すると隊列を組んでリディア達前衛を襲う。
「確かに、数の上でも地の利でも貴方達は強いでしょう。ですが、私は姫騎士。正義を助け、悪を挫く! そうですよね、お兄様!」
リディアが翠色の闘気を輝剣に煌めかせて全身全霊で必殺の刃を解き放つ。
『断空牙』と呼ばれる聖なる刃の輝きが直線上に位置する魔犬達を悉く一刀両断した。
魔犬共も数を減らせども増える一方で、敵中衛達も距離攻撃で援護する。
睦月は敵陣から包囲されても余裕の笑みを浮かべて冷静に距離を詰めた。
「ふふ、魔物の皆さん、どんどん僕の周りに集まってくださいね?」
睦月は背面に眩く輝く光翼を羽ばたかせながら軽やかなステップで舞い踊る。
両翼から散り抜ける光刃は魔犬を始めとする敵陣営を鮮やかに駆逐していく。
一方で光の浄化は友軍の氷結化を解かして身体の鈍化を食い止めた。
「睦月さん、ありがとうございます! 助かりました!」
敵の氷結異常化攻撃を苦手とするリディアは解凍されると感謝の声で叫んだ。
その代わりだが、防御に覚えがある彼女は睦月の盾にもなっている。
前衛はリディアと睦月が魔犬を相手取るが中後衛同士の戦いもある。
氷撃を放つ魔性雪妖精と雪玉を乱打する雪達磨が友軍前衛を押している。
もっとも、友軍後衛にいるミーナの激烈な支援を忘れてはならない。
「前衛の皆、負けんなよ! 背中は私が引き受けたから心配するな?」
ミーナは美麗な声を響かせて呪い歌を何曲も謡い上げる。
絶望の海を詠う魅惑の旋律が密集している敵中後衛を捕縛して巻き込んだ。
煉獄の唄に魅力された妖精や雪達磨達は仲間割れを始めて相互に狙い撃つ。
後衛の強襲に拍手を掛けているのは葵の砲撃とも呼べるシュートの数々である。
葵は戦闘開始と同時に自慢の反応速度と機動力を活かして戦場を駆け回っていた。
決して友軍から孤立しない立ち位置での遊撃離脱(ヒット&アウェー)だ。
「おらおら、そこ、がら空きっスよ? がんがん撃つから覚悟っス!」
名選手の左足からは白銀の軌道を描く黄金の魔球が流麗に炸裂する。
全てを計算されたシュートは、的確に味方をすり抜けて敵陣を狙い撃つのである。
熱い推進力(エネルギー)を纏った魔球は鮮やかに敵中後衛を爆裂させた。
友軍の順調な攻勢により敵勢は着実に数が減少していく。
前衛の魔犬達も残す所僅かとなるとリディアは一騎打ちに切り替える。
「とうっ! さて、そろそろ終わりですかね?」
魔犬共は姫騎士が粉砕せんとする蒼炎の斬撃で叩き伏せられていた。
時に後半戦ともなると友軍も体力の残量が心配にもなる。
「皆、敵共の雪や氷の攻撃に凍えるなよ? 今、助けるからな?」
ミーナが心身を蝕む異常攻撃に打ち克てるように治癒術式で恐怖を蹴散らす。
「前衛も後衛もがんばってください。今、癒しの音色を届けましょう」
睦月が美少年の透き通る声で天使の神曲を歌い上げて友軍の痛みを和らげる。
ミーナとの見事な連携によって回復の無駄打ちが全くない程だ。
「おっしゃあ! こいつで最後っスね?」
最後の魔物である妖精には葵の強烈な無回転シュートが決まりゴールイン。
対配下班は対戦敵の全滅を確認すると魔種戦へと向かう。
睦月とミーナが早速戦場を離脱して応援に駆け付けるが……。
葵は独りで戦場に残り周囲を抜かりなく観察していた。
(また魔物が追加で召喚されないか警戒するっス。油断してパニックを起こしてもしょうがねぇからな、その対策だ)
そして戦況は、葵の鋭い予想が直ぐに現実となる。
終わったはずの戦場に魔犬が、妖精が、雪達磨が幾度も沸いて来た。
「召喚来たっスよ! フォロー頼むわ!」
葵が全力で叫ぶが既に離脱した面子には声が届かなかったようだ。
山の天候が悪化して吹雪が強まり仲間達から分断されてしまったのだ。
「くっ、なんてこった。この数を一人で相手にするっスか……!?」
魔犬共が徒党を組んで葵を強襲する。
葵が決死の覚悟を決めたその刹那……。
「大丈夫ですか、葵さん? 少し遅れたようでごめんなさいね?」
リディアが葵の前で宝剣を盾にしながら庇ってくれた。
彼女は再び闘気を爆発させると紅の眼光を煌めかせて輝剣を上段に構える。
「思い知りなさい……。人は決して、脚本の魔物なんかに負けたりはしない!」
葵も援軍の登場に心を躍らせて魔球を快活に蹴り上げる。
「おうっ、終盤に向けてもう一戦やるっスか!」
その後、二人は満身創痍になるまで魔物の増援と激闘するのであった。
二人の奮闘と引き換えとして魔種戦では魔物から水が差される事はなかった。
●対魔種
「オペレッタは俺達仲間のものだ。父親が実の娘に手を出すんじゃねえ。耄碌して考えることも放棄したのか?」
ジェイクの決死の挑発は止まず愛銃からは焚付魔弾が勇ましく火花を散らす。
「いいや、オペレッタは僕だけのものだ! まずは君から殺してやろう!」
フランフォンは本来ならばエルを襲って攫いたい。
だが、ジェイクが挑発するのでジェイクを先に片付けたい。
「慣れない役割だけど……。お兄ちゃんなら慣れない役割だって、きっと完璧にこなす筈だから。大変でもやり遂げてみせるよ……!」
しかし、メルナがジェイクを庇うので先手としてメルナを張り倒すしかない。
「皆、持ち堪えるのだ。特にメルナ、辛いが耐えろ!」
もっとも、ゲオルグが治癒術式で回復させるのでメルナが全く倒れない。
「お父さん、早く倒れてください」
そして、追跡戦をしている父親を背後から追い駆けてエルが神秘狙撃をする。
エルは魔種の術を時に封印しながらも必殺魔撃を何発も撃ち込んだ。
もし、戦況が終盤戦まで現状で続けば魔種は案外楽に撃破されていたかもしれない。
メルナはジェイクを防衛しつつも、とある懸念点が思い浮かんだ。
(あの魔種は、エルちゃんの事を手元に置こうとして求め続けているみたいだね? もしかしたら、ジェイクさんが挑発で引き付けても、何かの弾みでエルちゃんに狙いを切り替えるかもしれないよね?)
実際にメルナの推測は正鵠を射ていた。
切れ目なく怒りの弾丸で狙う事に過失はないが、フランフォンには雪妖精の加護がある。
環境に雪がある限り怒り等の状態異常は平常よりも早く回復してしまう。
「ふん、君なんかどうでもいい! それよりもオペレッタだ!」
フランフォンが標的をエルに鞍替えすると雪の女王を脚本から召喚する。
かつての母親を彷彿とさせる魔性が神秘の氷撃でエルを襲撃する。
「きゃあ! 痛いです、お父さん。でもそれはお母さんですらありませんよ?」
さらに接近して襲い掛かる不埒な魔種に対してエルは衝撃波の勢いで弾き飛ばした。
だが「オペレッタ」を諦めきれない妄念親父が再び彼女を強襲する……。
「貴方のそれはもう愛情じゃない! 歪んだ、歪まされた情で……これ以上、家族を傷つけないで!」
間に合ったメルナが割って入りエルの盾となる。
エルには父親と戦う意思もあれば決着をつける覚悟もある。
彼女が最後まで戦い続けられるよう勇猛果敢に護り続けたい。
それこそメルナが自身に課した最大の役目である。
前衛の攻防戦を後方支援しているゲオルグがとある戦法を閃く。
「雪の妖精の加護ということは……。火炎撃を受けている間はその加護が弱まるかもしれないな。もし弱まらなくても体力を削げるだろうから……」
ゲオルグは陰陽操術である四大八方陣を構えて火炎撃の放射を試みる。
ジェイクからの挑発とメルナの打倒で必死になっているフランフォンが炎上する。
「冬がアンタの舞台だったよな。それなら、地獄の業火はどう見えるもんかね!」
配下討伐を終えて魔種の戦場に出現したミーナが登場と同時に追撃をする。
彼女もゲオルグと似た作戦を考案していたようで火炎撃の有効打を確かめる。
フランフォンは地獄の業火に焼き払われてさらなる炎上に呑まれた。
「素晴らしいぐらいに燃えていますね、エルさんのお父上? さて、ここで呪いの槍撃はいかがでしょうか?」
ミーナに続き睦月も参上すると即座に戦線に加わり追撃を放つ。
雪山の大地から発生した無数の晶槍が魔種を串刺しにして追い詰める。
睦月は状態異常の多重付与に対して呪い殺しが有効打だと判断したようだ。
実際に加護が弱体化したかはともかく、複合火炎によって呪殺が鮮やかに決まる。
「ぬおお……。どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって……。僕はね……あの一世を風靡した劇作家フランフォン・カルヴァーニなんだよ? いいさ、僕の最強の脚本を見せてやろう!」
魔種の実力が全力で発揮されると戦場全体が脚本の中の劇場仕立ての空間になる。
無数の空中ギロチンが猛回転して戦場を跋扈すると何名かの女性達が狂刃に堕ちた。
エルが、メルナが、ミーナが容赦なく切り刻まれると吐血して地に伏せるが……。
三人分の運命の箱から尊い欠片が砕け飛ぶ。
奇跡の復活を以って三人の女性達は血色の雪の大地から勇敢にも立ち上がる。
「僕では庇いきれなくてごめんなさい。ですが……僕はあなた方を癒すことはできます」
「同じく。女性達よ、どうか私に最後まで支援をさせて頂けないだろうか?」
睦月の優しい音色に包まれた天使の歌声が傷付いた女性達を鼓舞した。
ゲオルグが治癒術式を解放すると女性達は聖域に包まれて安堵の表情を浮かべた。
「皆、怯むな! あともう一息ってやつだぜ!」
ジェイクは『狼牙』と『餓狼』の二丁拳銃を装填すると全身全霊で魔弾を撃ち込む。
魔王の如き暗褐色の魔弾は魔性の大顎を形勢しながらも魔種を貪り喰らった。
次でおそらく最後の一手だが、ジェイクは憎き天敵の最期をエルに譲る。
「止めはエル、おめえに任せるぜ。今日の俺はただのエキストラ。最後に決めるのは主演女優と相場は決まっているからな」
●最期?
――エルは、冬を、お父さんとの思い出を、これ以上悲くしたくありません。なので、エルが貰った加護を、全力で出し切ります。お父さん、さようなら。
満身創痍のエルは渾身の力を振り絞って氷の召喚獣である「つらら」を解き放つ。
棘だらけの氷の獣が最期の一撃で魔種を打ち破った。
吹雪が悪化する中、フランフォンは足を滑らせて谷間の深淵へと転落してしまう……。
魔種として最期を迎えた父親の背中を見送るかのようにエルが静かに涙を流した。
その様子を見ながらジェイクは力なく肩を竦める。
「最期ぐらい二人きりにしてやろう。端役がコーラスラインを割って入るわけにはいかねえしな」
葵も無言で同意してジェイクと共に静かに立ち去る。
その一方で睦月が仲間達に餞を提案する。
「いくら雪を好む劇作家とはいえ雪が積もる渓谷は寒いことでしょう。彼の旅路が今度こそ迷わぬものであるように雪を彩る献花でも捧げませんか?」
だが、メルナがとある重大な事実に気が付いて仲間達に勧告する。
「本当に……これで終わりかな? 念の為、後でローレットに死体の捜索届を出さない?」
ゲオルグが負傷した仲間達を治癒しながら同意する。
「ありうるな……。でも、一先ず今は退こう」
もっとも、次回に決着が持ち越されるのだとしたら、エルはまだ戦い続ける事だろう。
「あとの事はエルに任せる。私は彼女がどのような道をとるのか見守ろう」
ミーナは見捨てる訳ではないが、討伐継続の意思はエル自身が決断する事でもある。
リディアもその意見に同意すると今後のエルの行く末に温かな思いを馳せた。
「終幕はエルさんに託しましょう。きっとそれが、お二人の為でもあるのでしょうから」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオ参加ありがとうございました。
皆さんの奮闘の結果、今回は「撃退」までとなりました。
(判定は「成功」が出ていますのでご安心くださればと)
GMコメント
●注意事項
当依頼はエル・エ・ルーエ(p3p008216)さんの『関係者依頼』です。
関係者以外の方の参加も大歓迎です。
また、当依頼は『鉄帝』での名声獲得となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●目標
フランフォン・カルヴァーニの討伐または撃退。
●ロケーション
『鉄帝』の北国にある田舎町ウィンタウンの裏山が戦闘舞台です。
この地方は初秋頃から雪が積もる為、戦場の足場は雪の山道です。
雪の裏山は渓谷もある為、くれぐれも足元には注意しましょう。
この日の天候は終日、雪の日となります。
●シチュエーション
『鉄帝』の当局によって居場所が特定されたフランフォンは逃亡しました。
現在、問題となる田舎町の裏山の小さな洞穴に潜伏しています。
潜伏しているフランフォンを外に炙り出して叩きのめしましょう。
●敵
フランフォン・カルヴァーニ×1体(ボス)
『色欲』の魔種です。昔は有名な劇作家でしたが、現在は落ちぶれた殺人犯です。
エル・エ・ルーエ(p3p008216)さんの実父です。
彼はエルさんの事を実名の「オペレッタ」と呼んでいます。
戦闘スタイルは、前衛から中衛の神秘アタッカーです。
戦闘方法は以下。
・魔氷の脚本(A):氷の魔力の脚本で殴る攻撃をします。神近単ダメージ。BS凍結。
・雪の女王の亡霊(A):エリーゼ(妻)の亡霊を脚本から創造して神秘攻撃をします。
神自域ダメージ。BS氷結。BS魅了。BS魔凶。識別。
・雪の妖精の裁き(A):雪の妖精を脚本から創造して神秘攻撃をします。
神中域ダメージ。BS氷漬。BSショック。BS崩れ。識別。
・EX 色欲の殺人劇(A):殺人劇の脚本を召喚して神秘攻撃をします。1回だけ。
複数の女性PCをランダムで戦闘不能にします。神特レ。必殺。
・雪の妖精の加護(P):雪がある環境でHP、AP、BSの自然回復。
・劇作家の創造力(P):時間の経過と共に配下の魔物達を自動創造します。
・若き日の栄光(P):劇作家全盛期を思い出して稀にクリティカル状態になります。
フランフォンの配下達×??体
劇作家の脚本から召喚された配下達です。
妖精、魔犬、雪達磨等、冬や雪に関する魔物達です。
色々いますが魔種程強くはありません。
いずれも、タイプ的にもスキル的にもフランフォンの下位互換です。
(配下達にはEXスキルがありません)
●前日譚
このシナリオには作品背景となる前日譚(SS)が存在します。
以下のSSは参考になるかもしれませんが、シナリオ参加にあたり必読ではありません。
過去SS「カルヴァーニ家の昔話」(ヤガ・ガラスGM担当)
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/853
●GMより
冬もそうですが、季節感のある物語を好むGMのヤガ・ガラスです。
秋雪という言葉がありますが、北国の早い所では秋の降雪もあるようですね。
さて、凋落した劇作家を巡る悲劇はどういう結末を迎えるのでしょうか。
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