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シナリオ詳細

再現性東京2010:ドリームランドは眠らない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰も知らない、遊園地
 ……くらいくらい、くらやみのそこにおっこちそうになって。
 でも、だれかがぼくをよんでいて。
 ぐいっとひっぱりあげられた。

 そこからどうすればいいかわからなくて、
 ぼくはたぶんまいごになったんだと思う。

 くらい道をあるいていたら、
 あかるいかんばんが見えてきて、
 気が付いたらぼくはゆうえんちにいた!

 ゲートをくぐると、着ぐるみのクマが風船をくれる。
「今日は貸し切りだよ。たくさん遊んでいってね!
はるきくんはなにがしたいのかな?」
「えっとね、ジェットコースターでしょ。ゴーカートでしょ。あ、あのね、ロボットのヒーローショーが見たいしね! それから……それから、サッカーかな」
「え?」
 ふいに出た言葉にびっくりした。ゆうえんちでサッカー?
 ここで。ううん。ちょっとたのしいかもしれないけど……。クマはちょっと困っている。
「うんとね、やっぱりゴーカートにするよ」
「そっか! ずっとずっと、たくさん遊ぼうね!」

●再現性東京2010、カフェ、ローレット
 ヨルの事件に巻き込まれ、重傷を負った少年がいた。
 邪悪なヨルはイレギュラーズたちの活躍によって、この世界から消滅した。痕跡は掃除屋によって消されることとなった。
 少年の名は「はるき」という。

「……。友達が夢に出てきたらしいわ」
 音呂木ひよのは、しゃくりあげる少年の背をさすっていた。肩書が多い彼女は、カフェ・ローレットの日であるらしい。
 どこで聞いたのか、「こまったときにたすけてくれる」という評判だけをあてにして、バスを乗り継ぎ、やってきたらしい。安心したのか、ついに泣き出してしまった。
「ゆめのなかで、はるきはゆうえんちにいて。でもね、おれ、おれのことわすれてて……どうしよう、どうしよう」
「大丈夫よ」
 そっと背に手を添える。
「……ただの夢かもしれない。ヨルの仕業なのかは微妙なところだけど。はるきという少年は以前にもヨルにかかわっていたようだから、また別の何かに巻き込まれている可能性はあるかもしれない。調査、といっても、その子は病院で寝ているのよね。……なら、寝たらたどり着くかしら?」
 安眠(?)の札を取り出すひよの。彼女のもう一つの顔は、音呂木神社の巫女であった。

GMコメント

アフターアクションありがとうございます。
「再現性東京2010:痛いの痛いのとんでいけ」 の続き、レッツ冥界ツアー(比較的ほんわか)です!
とはいえ戦闘はありますが……、ご無事をお祈りしております!

●目標
 少年を連れて、夢の中の奇妙な遊園地からの脱出

●状況
 依頼を受けて眠りにつくと、奇妙な遊園地にいます(場所は任意)。
 ふいに、自分が何者であるか、何をするべきか忘れて、遊び惚けたくなるような心地になります。
 思うだけであり、強制力はそれほどのものではありません。
 比較的簡単に意思(スキル、RP、他人からの呼びかけ)で抜け出すことが可能です。

 ここは、人の思い出を映し出す場所のようです。
 元の世界のものであったり、思い出の品であったり、懐かしいと感じるようなものがたくさんあるでしょう。
 遊園地にはなさそうな公園の遊具や、その他、いろいろありるようです。
 制限時間やペナルティもないので、ちょっと遊んでいっても大丈夫です。そこにとどまる限りはキャストは優しく、乗り放題です。

●登場人物
はるき……夢に迷い込んで出られなくなっている少年です。
別件に巻き込まれて元の世界では重体を負っています。
ゴーカートに乗って遊んでいます。探せばすぐに見つかるでしょう。
ちらちら時計を見ては「まだ遊んでいても大丈夫な時間」と認識してほっとして遊びを再開しています(ここでは時間が進まないようです)。
なぜか遊園地にある、不思議なサッカーボールが気になるようです(元の世界での持ち物)。
遊んでいるうちにいろいろと忘れかけているようです。
「帰ろう」と言われたら素直に帰る場所があることを思い出すでしょう。

ごう……はるきくんの友達です。夢で遊んでいるはるきを見ました。巻き込まれているということはなく、安全に待機中です。

●キャスト
 この世界にいるキャストたち。
「辛い世界に帰ってほしくない」というヨルの思念が生み出したものです。
 帰ろうとすると慌てて追いかけてきて、説得します。それでもだめなら取り押さえて無理やり遊んでもらおうとします。
 基本的にコミカル基調で、おっかないほど豹変するということはありませんが、押し売り状態なのに変わりはなく……。
 必死さは少し怖いです。

クマの着ぐるみ
 クラッカーをもっているクマ。
 持ち味はハグ。動きはコミカル。
 中は空洞で誰もいません。

メリーゴーランド×7色+馬車
 パステルカラーの馬。一匹だけ自分を馬だと思い込んでいる馬車がいる。メリーゴーランドで回っているが取り外し可能。
 色とりどり、パステルカラーの光線を出します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:ドリームランドは眠らない完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月11日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ

●病室
……イシュミル・アズラッドはそっと少年の身体に触れる。
 医者がどうして目覚めないのかと首をひねるのも無理はない。”普通”の人間には荷が重いものか。
「様子を見ててやってくれないか?」
『新たな可能性』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はそう言い残して夢の中へと潜っていった。
「無茶をするね」
 無意識のうちに、死の気配の色濃い方へと惹かれてしまうものだろうか……。

……俺は何者だったか。
 アーマデルの意識だけがふわふわと浮いている。
 armored-el, al-amal.
 七翼の系譜になれなかったもの。
 一翼の加護を編む糸のひと撚りであったもの。
 今は……ただのイレギュラーズ。
 それを思い出せば、景色ははっきりとする。アーマデルは額を押さえた。
「……ああ、認識が歪むのは、気持ち悪いものだな」

「ふむ、ここはどこだ? 我はなぜここに……いや、我は何者だ?」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は、漂うようにしてそこにいる。上へ下へ、視界は揺れる。
(ーーだが、己を忘れるこの感覚が久しい……と、思うのは一体)
 身に沁みついた本能のような動作は、思考停止を許さない。
(いや、周りを見よ、順を辿れ、推測せよ。なんだ、この旋律は……?)
「思い出せ、ここにいる目的を!」
 on メリーゴーランド。
 ♪~♪~♪
 なるほど、ここは、……遊園地だ!

「ふむ。一種の精神世界か」
『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)にとっては、この幻想はあまりに稚拙すぎた。
 安っぽいプラスティックのレンガ。
 傷一つなく、あからさまに作り物の遺跡は、もしかするとシグの内心を写そうと試みたものかもしれない。出来は、この世界を彩るヨルの限界か。
 明くる日も遺跡発掘にあけくれたかつての日々。シグにとって、ここに懐かしいと呼べるものはない。
「興味深い。その仕組みを調べていくのも一興であろう」
 シグはゆっくりと歩みを進める。
 しかし……。
 ここで得られる情報の全ては劣悪で単調、パターンもほぼ繰り返しでしかない。
「所詮はただの幻影か……その『情報』は私を満足させるには程遠い」
 ぱたんと本を閉じるかのように、どこかへと失せる。

 さて、何をしに来たのだったか。
『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は海賊船を見上げて思い出す。
「おっと、そうだったな」
 海洋王国軍大佐としての自分は、いつだってはっきりしている。

「今度は夢の世界か? 夜妖の多様化が加速しているのは気のせいだろうか」
『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)にとってははしばし難しい顔で黙り込んだのだが、とりあえず事態を受け入れることにした。
 数えた齢はとうに千を越し、この程度の幻惑に惑わされることはない。
「まぁ、その辺りの事を考えるのは後だな。まずは、やるべき事をやらねば」

(はるきくん……きっとこの世界はキミのさみしいって心から生み出された世界)
『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はぎゅっと手を握り締めた。何故この世界が懐かしいのか、その理由が分かる気がして。
(私は! 誰か、誰かを助けに来た……)
『不撓の刃』太井 数子(p3p007907)が真っ先に思い出したのは自分のことよりもはるきのことだった。
 ふと右手の甲に書いてあった文字に目がとまる。
「帰る」と。
 そう。帰る。一緒に帰るのだ。
(今回は必ず助けるからね)
この世界に取り込まれないよう、強く念じて……。
 彼を探して。
『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)らは、心もとない道をひた走る。
「あんな事があった後だ、せめて完治するまでは穏やかに……と願っていたけれど、また厄介な怪異に気に入られてしまったのか」
「俺達が思っている以上ニ、はるきは『呼んでしまう』体質なのかもなァ」
「けど、彼はまだ帰ってこられる」
「ちゃあんト、俺達が元の場所まで送ってやらねぇとナ」
 どこか懐かしい遊園地。
 それは、誰かの行きたかった場所なのだろう。

●探索
「受付でもらってきた」
 正面からもらったパンフレットを配る汰磨羈であった。
 基本的には、平和な世界のようだった。
 テーマパークだが、汰磨羈の耳は自前である。
「こちらも預けておこうか」
「おや」
 黒猫がリュグナーの影に滑り込んだ。
「都市伝説的には子供が帰りたがらない捕獲トラップなのかな」
 アーマデルがぱらぱらとパンフレットをめくる。
「そういえば、遊園地ではあまり遊んだ事が無かったな」
 汰磨羈はちらりとジェットコースターを見るが。
「まあいい。私はメリハリのある女だからな。仕事中は遊ばんよ」
 アーマデルは、出口を探して外周をゆっくりと回る。
 うっすらとゲートが見えた。
『そっちにはなにもないクマ~! もうちょっとゆっくりしていくといいクマ!』
 クマの着ぐるみが慌てて寄ってくる。

●つかの間の休息
「よ、ようやく見つけたわ……!」
 ミーティアがはるきを呼び止める。その姿は真剣そのものだ。
「? えっと……」
「かず……ううん、違う違う。私は、ミーティア!」
「ココにいたカ」
「私たちと一緒に遊びましょう」
「! うん!」
 ミルヴィと大地らと、そしてミーティア。
 3人は、遊園地を回っていく。
 ヒーローショーを見てはしゃいで、お土産に悩んだりもして。
「えいっ、犬耳よっ! どう?」
「こっちは猫の尻尾よ?」
「え、えええっと……」
 ほっぺを真っ赤にしてぼそぼそと感想をつぶやく少年であった。
「青春ってやつカ?」
「ずいぶん懐かしい気がするな」

「ふふっ、あの馬鹿父がアタシをこういう所に連れてってくれたとしたら……ないかぁ……」
 ミルヴィはベンチに座って、ふと思いを巡らせる。
(それでも、もしもそんな未来があったら……)
『オラ、クソガキ。倒れたら荷物が増えるだろうが。水を飲めつってんだよ』
「!」
 冷たい水滴。
 在りし日のあったかもしれない思い出にミルヴィははっとなる。
「はいっ、ジュース! 大地のお兄さん……たち? がくれたの」
「ありがとう」
「わわっ」
 ぎゅっと抱きしめられてまたもや顔を赤くする少年だった。

 さりげなく、赤羽と大地は自身の中で合図を交わして、そちらの方へと向かってゆく。
 この場には不釣り合いなサッカーボールがおいてある場所へ。
「あ、あれ……!? ぼくのだ!」
 ミーティアが拾って渡してくれる。
「サッカーボールね! サッカーが好きなの?」
「うん!」
 壁に向かって蹴られたサッカーボールはあまり上手には飛ばなかったが、ミルヴィが脚で受け止めた。
「ふふっ、踊り仕込みのリフティングは中々でしょっ?」
「えっ、お姉さんすごい!?」
 ただ蹴り上げるだけではない。輪をくぐるように、あるいは側転や宙返りまでする。
「はいっ、どうぞ」
「これね、お誕生日に買ってもらったの。どうして忘れちゃってたのかな……大事なことなのに」
「大丈夫。忘れてないでしょ? 思い出せたから」
 ミーティアの言葉に、はるきはうなずいた。
 サッカーをやるには人数が足りなくて、みんなでコロコロと小さなパスをして。
 楽しくて。
 ふいに、足が止まった。
 言い出せないようだったから、それを汲むようにミルヴィが言った。
「疲れたね、もう帰ろっか?」
 赤羽・大地が、はるきを見ていた。
「けんけが君を、きみは覚えているか」
「……」
 はるきはぎゅっと目を瞑る。
「怖かったろう、痛かったろう。あの時の事は、思い出したくないかもしれない」
「……けド、お前はあの時、確かに『生きたい』ト、本当のヒーローになりたいと願ったナ」
 ぎゅっとこぶしを握りしめて、覚悟を決めて見返す。
「ほラ、ヒーロー。こんな所で寝てる場合じゃねぇんだゾ?」
「ごうだって、きみを待ってる。元気になったら、また友達とサッカーをしよう」
 その名前を聞いて決意したように頷いた。
 最後にみんなで aPhoneのシャッターを切って。
「ぼく、帰るね」
 ざわりと、あたりがうなった。
『だめです! もうちょっとゆっくりしていきましょうよ~』
「いいじゃねぇか。そろそろ仕事も残してるしな」
 遠く離れた場所で着ぐるみと押し問答をしているのは、エイヴァンだ。ひらひらと後手で「いけ」と合図している。
 今なら。
「帰り道はわかるナ?」
 はるきは頷く。
 リジェネレートのフォーリングスター。くるりと回ったその姿。
「あ!」
 はるきは思い出す。あの時の人だ、と、ようやく記憶が浮かび上がる。
「お姉さん、前に……!」
「はるき君、今のうちに強く念じて帰るのよ!」
「でも!」
「元気になったらサッカーで遊ぶの。ごうくんと。その時は私も一緒に混ぜてほしいわ」
「……ぜったいきてね、あとからきてね!」
「私達もあとから追いかけるわ」
「うん!」
「あとで必ず会いに行くから、待ってて!」
「はるきの帰りを待ってるやつがいる」
 エイヴァンがにっ、と笑って、着ぐるみの前に立ちふさがった。
「そのサッカーボールは誰からもらったのか。一度思い出してみるといい」
「うん! ありがとう、シロクマさん!」
 出口は遠く、遠くに見える。
 足がすくむ。
「確かに、目を覚ませばそこは辛い世界やも知れぬ。痛みがあり、悲しみがあり、不安がある」
 そこにはリュグナーがいた。
「そういったモノから逃げる事を、我は否定せぬ。夢の中ならば、それも容易かろう」
ーーだが、とリュグナーは言葉を続ける。
「貴様の為に、我々を頼った者が。貴様の為に涙した者が、目覚めた世界で待っているのだ……逃げず、戦う理由としては充分だと思うが……貴様はどう思う?」
 待っている。そうだ。
 頷いて、確かに駆けてゆく。
『ダメだよ!』
 慌てたキャストが追いかけてくる。
「辛いか、帰るか留まるか。考え、選ぶのは本人の権利だ」
 アーマデルの抜いた刃の列が、一本の鞭剣に姿を変える。
「選択肢を与えないのは、詐欺の手口の一種だぞ」
 アーマデルは。イレギュラーズまだ攻撃しない。
(知ってるぞ……正当防衛って言うんだろう?)
 もしかすると、一応は楽しませようとしたのかもしれないし、一応は礼儀であろうから。
「その子は帰る場所がある。待ってくれている人がいるの。
辛い世界かもしれないけど……楽しい事だって必ず一緒にあるわ」
『でも、ここにいたらずっと楽しいよ!』
 ミーティアははっきりと首を横に振る。
「とても優しい思いで溢れているここはとても居心地がいいわ。
でも、つらい思いも全部自分のものだから。
ここには居られないわ」

 キャストたちが一斉にビームを放った。
「右ダ!」
 赤羽・大地は、身を翻し、神気閃光で応戦する。
 地面が割れた。
「え?」
 地鳴り。
 キャストたちは思わず振り返る。彼らの意図したものではなかった。
 観覧車ごと大地を割って出現したのは一振りの剣。
 フェイズ・ソード。
 きらりと夕日を浴びて輝いた剣は、メリーゴーランドの遊具を真っ二つに切り裂き、くるりと向きを変える。
「さて……私も見た目に関しては遊具の一種ではあるが……『都市伝説』たる力をお見せしよう」
 幻想理論「斬理願望剣」。
 まるで冗談のような威力の光の刀身が振り下ろされた。まばゆく輝く勝利への意志は刃となって、敵を貫く。
「……全ての障害物は、私の前には障害物足らない。我が友が、それを望むのならば……な」
「わっ……!」
「さぁ行け、後は任せたまえ。この魔剣ローデッドの力をお見せしよう」
 黒猫が鳴いた。
 空中に波紋が現れる。
「待たせた、少々野暮用があってな」
 二刀を携えた汰磨羈がすたり、と着地する。睡蓮が咲き誇り舞い散る。美しい花弁は刃を織りなし、流れるがごとくに切り刻む。
 着地をとらえようとした敵の光線は空を切った。
 二度の飛翔。
『んっ!?』
 着ぐるみのクマの鼻がひくついた。
 捩れた一翼の蛇の吐息。彼岸と此岸の間に生る柘榴を漬けた果実酒は鮮やかに赤く、死神の系譜に添う者には優しく香る。
 しかし、加護無き者には。
『わぁぁあ! ごほっごほっ』
 アーマデルがいたのは、こんな半端な彼岸ではない。
 礫に半ば埋もれた箱庭、死と復讐とを司る神。アーマデルはそこで生まれた。
「走れ、はるき!」
 その者もまた地獄の底を知っているに違いない。
 リュグナーの影から、無数の赤黒い蛇が放たれた。追いかけるメリーゴーランドの乗り物たちがべしゃりとこける。
「貴様らには関係ない事だが、前回の責任というのが有ってだな……この少年には、触れさせぬ」
「走って!」
 ひるがえったミーティアの天下御免が、敵をひらりと押しとどめる。鮮やかな蝶のように舞う。
 誘うような一撃が敵を貫いた。
 美しいステップ。
 そう。ここはまだ夢の舞台でありつづけていた。
 夕陽を背にしたロザ・ムーナ。
「お願い! この子をもう放してあげて、帰る場所がこの子にはあるんだから!」
 どこかから聞こえる驚嘆と拍手喝采の声。
『ああっ! お客さんが行っちゃうよぉ!』
「行かせないぞ、はるきのところには!」
 エイヴァンの構える牆壁が、噴水の飛沫を装甲へとかえていた。
 あらゆる水分を瞬時に凍結し、防御力へと還元する盾。
 構想があったとして、誰がそれを作ろうと思うだろうか。揺るぎない防御力の代わりに、重量は増すのだ。
 エイヴァンは、それを易々と持ち上げてみせた。

●戦い
 フレンジーステップにつられて揺れるアーマデルの蛇鞭剣。馬ではなく馬車。
「いや、お前馬じゃないだろ」
 突然のブレーキ音を響かせ、馬車は抗議するように虹色の光線を放つ。
「お前も1680万色に光るヤツなのか? UMAなのか?」
 過剰なスペックで明滅する馬。
 ふわりと浮き上がる一頭であったが、赤羽・大地のダーティピンポイントの軌道は湾曲し、馬車の車軸を貫いた。
「さあ、どっちがホンモノか、勝負してみるか?」
 エイヴァンと着ぐるみのクマは取っ組み合いになっていたが、押さえこんでいるのはどう見てもエイヴァンである。
 クマの渾身のパンチは、エイヴァンの防御力の前に消える。張り付いた手が、凍ってどけられない!
 エイヴァンは吠えるようにして、野生の一撃を放った。
 着ぐるみは、大きく吹き飛ばされる。
「覚めない夢は、無間地獄と大差ない。"辛くないだけ"の地獄に、幼い子供を叩き落す気か!」
 汰磨羈はひらりと光線をかわし、流れるように攻撃を見舞った。
「生きるべき所で生きる。それこそが、命にとっての幸福だ。そうだろう?」 
 はらはらと散る水連とともに、馬の二体が沈む。
 見えない壁が、馬を吹き飛ばす。
『わっ』
『あれっ!?』
 ファンタジアロジック・ハウリングウォール。
 見えない壁が軌道を阻む。
 その脱出のゲートごと、はるきの姿がふわりと消えた。
 リュグナーの目が狂気を帯びる。
 オセの狂眼。
 正しかったのだと信じて果てしなく疾走をした玩具が、壁にぶつかって砕けて壊れる。
「帰るわ! 約束したもの!」
 くるりとスカートを翻し、ミーティアはフォーリングスターをつきつける。
 ふらふらと動くおもちゃの馬はもう限界だ。
 ミルヴィの熱情のアトフが、口づけるようなポーズで一撃を放ち、馬を安らかに眠らせる。

●退却
 離脱の時か。
 幸いにも敵はほぼ壊滅状態にあった。
「こっちだ!」
 汰磨羈の太極律道・魂刳魄導剣がキャストを切り刻む。
「っ!」
 赤羽・大地の術が、追手を墜落させた。
 捩れた一翼の蛇の吐息が、非現実的な芳香を放つ。
 それを道しるべにするかのように、リュグナーのロベリアの花が、道なりに咲き誇っていた。
「さあっ、どうだっ!」
 エイヴァンが完全にクマを振り切り、放り投げた。
「ばいばいっ!」
 ミーティアは振り切る。
「そう、終わりは来るわ……どんなショーでも!」
 ミルヴィの吹き荒れる剣と嵐の幻影が、終幕を告げる。
 黄昏のアーセファ。
「幻想には幻想を。私の作る恐怖を……味わってみるかね?」
 ひらり、ひらり、具現された無数の白き蝶が、この場所を暴いていく。崩壊した壁のヒビは大きく、大きく開いてゆく。
 ひらり、ひらりと白い蝶が、出口へ向かって進んでゆく。
 異想狂論「喪魂白蝶陣」。まるであったものを悼むかのように。
 ひらり、ひらりと。
 蝶が見る夢が反転する。
 今この場にあるのは……まぎれもない現実であった。

●夢の終わり
 夢はいつだって終わるもの。
 手すりやタイルまでもが動き出し、イレギュラーズたちを閉じ込めようとする。
 だが、もはやこの場所に彼らを引き留める力はない。
「こんなこともあろうかと。別の道を開けておいた。いざ」
 汰磨羈を先頭に、イレギュラーズたちはゆく。
 エイヴァンが、迫る攻撃を受け止めた。
「こちらか……ふむ」
 シグは正しく道順をたどる。
 パズルですらない。単調な作業。
「よし、先に行け!」
 その場から離れるとき、赤羽・大地はかすかに見た。
 自身の未練。
 後姿の、首狩り兎。
 首を締め付けるような感触があった。
(合格祈願のお参りに行った先で、あの女に首を落とされた冬のあの日)
(『三船大地』が死に、『赤羽』と『大地』が結びつキ、一つになった日)
(あの時、俺達が出会わなければ、あの場所にいなけれバ、どんな運命を辿っていたのだろう)
(無事に進学して、キャンパスライフを送っていたのか)
(一人孤独ニ、消えていたのカ)
 それはあったかもしれない未練の欠片。
 振り返るか?
(けれど、ここで止まっていても、俺達の未来は無い。過去は書き換えられない)
(俺達ハ、それを知っている筈だろウ?)
 だから、立ち止まることはない。
 意志を持って走れば、目まぐるしく時は進み、日は沈みゆく。
 汰磨羈が開放しておいたフェンスの隙間が、空間の崩壊とともに口を開いていく。
「御免」
 汰磨羈は追手に剣技を放ちながら、くるりと宙返りをして飛び込んだ。
「では、行こう。願わくは正しく目覚めんことを」
 リュグナーが空間の隙間に至る。
 こぼれた夢の残滓が追いかけてくる。
 かすかに、熱砂の匂いを感じた。
 ミルヴィは、振り切ってそのまま駆け抜ける。

――目覚める。

●後日談
「おそいぞはるき!」
「きゃっ」
「わあ、ごめんなさい!」
「やっぱり球技は苦手なのよね」
 ミーティアはスカートの裾をほろう。
「そういえば、お姉さんの名前って」
「”ミーティア”」
「えっと、うん!」
「戻ってこれた」
「なんとかナ」
 赤羽・大地はあのときとよく似た夕日を見上げる。彼らの目の色とも、よく似ていた。
 イシュミル曰く、もう心配はないとのこと。
「みんな、もう一回、撮ろうか?」
 セルフタイマーにして、セットして。少年たちはぎゅっと抱きしめればやっぱり恥ずかしそうに身じろいだので、頭をわしゃわしゃと優しくなで。
(ねぇ、親父。こんな光景あったかな)
 カメラ越しに誰かを思いながら……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シグ・ローデッド(p3p000483)[重傷]
艦斬り

あとがき

パシャリと!
というわけで、無事、現世への帰還を果たせたようでございます。
アフターアクション、お疲れ様でした!
縁がありましたら、また一緒に冒険いたしましょう。

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