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シナリオ詳細

ハクスラネコ2

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●要:救助
 泣き叫ぶ我が子から目を背けた母親を、男達は下卑た表情を浮かべてその後ろ髪を引っ掴んで面を上げさせた。
 母娘を取り囲んだ男達の傍で倒れ伏せていた男が呻く。
 自分達が、その娘が、一体何をしたと言うのか。
「いやぁ! お母さん! お母さん!!」
「アイシャ! お願いやめて……その子を連れて行かないで下さい、何でもしますから……! お願い!」
 村中に響く悲痛な二人の声は、誰にも届かない。
 家々から不安そうに。しかし、手を差し伸べる事のない。ただ己に火の粉が降りかからぬ事を祈るばかりの視線を向けているだけだ。
 彼等は、あの家族が町の不当な取り立て屋によって脅かされている事を知りながら助けない。
 抵抗し殴り倒された父親はそんな村人達を恨みがましく睨みつけるが、それで目の前の悲劇は終わらない。
「だれか……誰か助けて!」
 少女の叫びは、誰にも――――

「にゃーん」

 救いはない筈だった。
 しかしネコの鳴き声が聞こえて来たその瞬間、全ての流れが変わった。
「なんだアイツ……ネコ……?」
「いや違う、スライムだ!」
「にゃーん」
「何ビビってやがる。可愛いスライムじゃねえか、見ろよ猫みたいな声出してら」
 突然、馬車の下から這い出てきた乳白色のネコ耳を立てたスライムが男達の足元へ擦り寄って行く。
 特に体格の良い男の足に頭を、ネコ耳のような突起を擦り付けるその姿は愛らしい。
 腰に斧を差した男はすっかり気を良くした様子でそのスライムを抱き上げた。
「にゃーん」
「グフ。なーにぷるぷるしてんだぁ? 可愛いでちゅねーロベルト」
 可愛がる大男を呆然とした様子で見ている周囲の者達。
 と、そこで少女を取り押さえていた別の男が何か言いたそうに仲間の肩を叩く。
「なぁ……あれ」
「お? って、オイオイオイすげーな他にもいるじゃねえか!」
 思わず後退る仲間に気付かず、大男は指差された先の民家を見て大興奮する。
「にゃーん」
「にゃーん」
「にゃーん」
 民家の脇から。後ろから、その隣から、自身の足元から。
 あちこちに姿を見せる乳白色のネコ耳のスライム達は、つぶらな瞳をぱちぱちさせて――村を囲んでいた。

●ハクスラネコ
 ……そこまで語ってくれた包帯で全身を巻かれた少女は、イレギュラーズに乾いた笑い声と共に言った。
「てっきり助けてくれたんだと思ったのに……取り立て屋の人たちをあっという間にやっつけたネコさん達ね、私やお父さんお母さん……村の人達をみんなやっつけちゃったの」
 イレギュラーズは、ベッドの上の少女から隣のベッドの包帯ミイラに目を向けた。
「あ、私がその子の母です。
 本当に……あの時は何がなんだか。どこから来たのかもしりません、わかってるのは村にいた43人もの人が私達のように重傷を負わされたということだけでして。
 え? ああ、はい。あの取り立て屋たちは後から来た憲兵が詐欺グループの参考人として連れて行きました」
 モゴモゴと話してくれた母親はそう言って、俯いたように顔を伏せた。
 無理もない。恐ろしい目に遭ったのだから。
「私達も襲われたことで……これから先、二ヶ月は働けません。せめて領主様が今回の件を認知して下されば良いのですが……」

 暫く、そのまま湿った空気にイレギュラーズはいたたまれない気持ちになる。
 それから、彼女達はようやく依頼について口を開いた。
「まだ口も聞けない村の人達や夫に代わって、皆様にご依頼したく思います……!
 どうかあのハクスラネコを退治して下さいまし! 私達の村を、取り返していただきたいのです!」

 頭を下げた母親はそう言って。
 ハクスラネコのハクは、乳白色から来ているのだと最後に語ったのだった。

GMコメント

●依頼成功条件
 ハクスラネコの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●討伐目標
 ハクスラネコ(25)
 狡猾なスライムの集団です。乳白色の体にネコ耳のような突起の生えた珍妙モンスター。
 得意技は体当たり。
 可愛らしい見た目で相手を油断させたり、移動手段に用いる馬などを行動不能にしてくる特性があります。
 とにかく囲んで襲ってきます。
 また、彼らは全員背中(?)にトラのような黒いしま模様を背負っており、
 敵対する相手の数に関係なく非常に好戦的です。

能力)「にゃーん」(至・近・単 威力(中) 行動する前に味方が指定した対象へ全力で行う)
   「にゃーん」(至・近・単・溜1 威力(中)行動する前に味方が指定した対象へ高い命中で行う)
   「ぼくのしかばねをこえていくにゃ!」(死亡時・自身にトドメを刺した対象へ悲しい過去を一瞬見せて【恍惚】を付与する(非確定)

●目標地周辺・状況(ロケーション)
 幻想のとある田舎村。
 田舎集落にしては珍しく村民の数が多く、28戸もの家がある。
 ハクスラネコはこの村を現在は占領してから、5匹程度の少数を見張りにローテーションを組んで憲兵や他集落の人間が訪れた際に誘い出し、隠れた他の仲間達で襲っているらしい。
 罠の類いは見られないものの、群れを全滅させるには誘い出しに応じるか策が必要と見られる。

●最後に
 初めまして、シナリオを運営させて頂くイチゴと申します。よろしくお願いします。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • ハクスラネコ2完了
  • GM名いちごストリーム
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
マヤ ハグロ(p3p008008)

リプレイ


「良い話かと思ったら……ヒーロー失格ってゆーか、まぁ所詮スライムってゆーか」
 道中。小さな納屋を見かけた辺りで口を開いた『レディの味方』サンディ・カルタ(p3p000438)が肩を竦める。
 おもむろにバッグへ手を突っ込んだ彼は、古い羊皮紙の地図を広げて足を止めた。
「ここから東に行って森を出た先にある丘。西に谷。大体こんなもんだな、村を遠巻きに観察するならな」
 チラと目を向け、サンディの視線の先で眼鏡がくいと掛け直され光る。
「ああ、ヒィロ達と合流するまでになるべくハクスラネコの巡回経路を把握しておきたい」
 そう答え。まずは東だと進む『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)は、森の木々の向こうで垣間見える村の家屋を一瞥する。
 "向こう"はこちらに気付いていないだろうが。家屋の傍には横縞の入ったボールらしき物が幾つも、まるでお互いを突き飛ばし合うように小さく跳ねて戯れていた。
 そのシルエットはよく見ればぷるんとした質感にネコ耳のような物があることが確認できる。
「にゃーん」
 特に、鳴き声は聞き慣れた生物そっくりだった。
「……可愛い猫の鳴き声のするスライムとなると、緊張感が減るのは私だけかしら」
「しかし惜しいな、ハクスラネコ。猫の鳴き声と見た目に似てて戦闘能力もある、人間と友好関係が築ければ番犬ならぬ番猫――じゃなかった。番スライムによさそうな気がするんだがな」
「どんなにかわいくってもスライムじゃあね……乳白色のスライム猫だからハクスラネコなんでしょうか。まだまだ謎多き物体のようですね」
 とはいえ人に害をなすならば倒させていただきます、と『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は淡々と述べて。
 なんとも言えない表情を浮かべ『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)と修也の二人が顔を見合わせる。
「レディもボコしてたり、やってることがな……ま、化け物共へ敵討ち、なんてのはレディの仕事じゃねえし、サンディ様の出番だよなっ!」
 三人はそれぞれ、遠巻きに村の様子を観察しながら。事前に『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が交渉して得た地図を基に外周を回っていた。
 心地良い風が吹く。
 サンディのサラサラとした赤い髪が靡き、さざ波を立てる木々の音に耳を傾けている修也が「ふむ」と首肯した。
 新緑の香りだ。ハクスラネコの鳴き声も相まって、本当に緊張感は感じられない。
「向こうから来る」
「世界たちか?」
「ああ」
 密かに索敵を行っていたサンディが怪訝そうに眉根を上げるも、修也は味方のことだと首を振って言った。
 暫し、彼等は丘の上から村を見下ろしながら待つ。

「しかしまた性懲りもなく出やがったか……というか結局命名ハクスラネコで決定したんだな」
「懲りない奴等ね。まぁでも、倒してしまえば同じこと。さっさと片付けてしまいましょうか?」
 草葉を掻き分けて現れたのはサンディと同じく、エネミーサーチを用いて索敵と情報収集にあたっていた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)達三人だった。
 彼等も村にいるハクスラネコを見て来たのだろう。既に最近、一度同じモンスターを目にしている『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)も呆れた様子で装備を検めていた。
 合流した一同は簡潔に偵察の結果を共有し合う。
「中央で陣取っている見張り役のハクスラネコが探知に引っかかっていないにしても、数は二十程度か」
「向こうの納屋から進んで行くと二十一だった。ま、目視できてる奴は感知の外にいても関係ないだろーな。事前情報の通り二十五匹だ」
「不審な気配や音も無し……強いて言えば、集まってるハクスラネコは村の奥にある集会所を囲んでいるようだ。こいつら、釣りの戦術を用いてきたり、各個撃破を狙ってきたり中々侮れないな」
 油断せずに行こうと言う世界に、彼等は一様に頷いた。
「じゃあ、予定通り少し僕は離れてもいい?」
「……奇襲だったな。集会所手前の民家までなら、村の西側から近付けば見つからずに行動できると思うが」
 気をつけろよ? と告げる世界の言葉に睦月はニコッと笑顔を見せる。
 それから。彼等は改めてその場から村の内部を巡回しているハクスラネコを見遣る。
 仲間の到着を待っている間も、村の方からは時折「にゃーん」という鳴き声が聴こえて来ていた。

「おまたせ!」
 一同が振り返った先に、手を振る二人の少女の姿。
「話はつけて来たよ、道すがら話すね。それじゃ……行きましょうか」
 ヒィロと共に来た『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)はそう言って、数刻前の出来事を語り始めるのだった。

§
「最初は驚いたものだ。あんなに強いスライムはこの辺りではまず見かけない、何年も、俺はあの地域を見回っているが……初めてだ」
 とある町の病室で全身包帯姿となった男を前に、ヒィロと美咲は首を捻る。
「では、ハクスラネコは何処か別の場所から来たと?」
「それは……どうだろう。あんたらイレギュラーズも聞いた事なんて無い筈だ。
 この世界にはぽっと出の魔物なんてよくある話だが、ああも手慣れた感のあるモンスターはそういない」
「というと……?」
 美咲が近くに置かれていた水差しを手渡しながら、問いかける。
 憲兵の男は震える手で水を一口飲むと、暫しの後に首を左右に振った。
「思うにあれは、どこかでひっそりと暮らしていた魔物なのではないか。それが何かの拍子に外へ出て、人間だけを襲う様になったとか……クマという奴が巣穴から出て来て人の味を覚えたような」
 曖昧な答え。
 ヒィロは話をそこで切り上げる事にして、別の話に変えた。
「この事件で、きっと憲兵隊に不名誉な話が出ると思います。それを今回は私達が後から調査に応じる事で、皆さんでは戦力的に厳しかった事を報告しようと思ってます」
「それは有り難いな。この怪我ではすぐに復帰は難しいものでね、減俸はつらい所だった」
「その代わりに、どうか皆さんからこの地の領主様に村で起きている危機に関して認知して頂けるように取り計らっていただけないでしょうか」
 その言葉に、憲兵の男は声を詰まらせた。
 ただの一兵卒には難しい事だと考えたのだろう、暫し迷ったように顔を上げ、視線を回した。分かっているのだ、ヒィロ達の頼んだ事はあの村人たちを想ってのことだと。
 それから。
「……相手が相手だ、イレギュラーズが依頼を完了した後に領主様へ文を出しても多少時間はかかるだろうが――何とかお取り計らい頂ける様に頼もう」
§

●ハクスラネコ(縞柄)
 ヒィロ達が憲兵の男に交渉をして領主へ働きかけてみたという話を聞いて、アリシアは感心した様子で頷いた。
「なら、この村にいた人達の今後の生活は心配ないのね」
「にゃーん」
「うん! でも話は聞けたけど、結局この子達が何なのかよく分からなかったんだよね。
 ……大増殖なのか誰かが裏で糸を引いているのか、分からないけど……とにかく、油断せずにいこう!」
「にゃーん」
「……舐められてそうなうちに、裏を探りたいものね」
 ぽよん、と。爪先で球体を小突きながら美咲は思案する。
 誘い出し、つまりは囮作戦。このハクスラネコ達の動きは少し前に自分達の取った作戦とほぼ同じだ。
「にゃーん」
「にゃーん」
「つーか……めちゃくちゃ擦り寄って来るなこいつ」
「誘い出しのつもりにしても露骨ね」
「にゃーん」
 むず痒そうに、ぎこちない動きで歩くサンディは足元にやたら擦り寄って来るハクスラネコを避けながら、先頭を歩く(?)スラに着いて行く。
 前回のような油断を誘う時と違うしつこさにマヤが眉根を顰める横では、落ち着かない様子で下を見つめるアリシアの姿が映る。
「弱点探りたいけどなかなかやり辛いわね……」
(ここは我慢だアリシアさん)
 隣で察した修也が眼鏡を光らせて首を振る。
 彼も内心、ワンチャン殴り合いから懐いてくれない物かと思ってはいたのだ。
「にゃーん」
「着いた――……集会所だ」
 世界とサンディの感知にはずっと。円形ホール状になった集会所の建物を囲んでいるのが分かっている。
 開いたままの戸を潜って行くハクスラネコは振り向かない。ただ、一声鳴くだけ。
 そこに続くイレギュラーズも視界の殆どが集会所という檻の内に入れられてしまうと、相手が如何に愛らしい姿でも僅かに緊張が走った。
 ホールまで付き従い。一同は足元のハクスラネコが急に離れて行くのを見ながら、窓の数は四つだけだと確認した。
「……さて」
 チャポ、と波打つラム酒の瓶を手に。マヤが栓を弾いて一息に煽る。
 ――刹那。

 衝撃。轟音。爆風。
 窓ではなく。木造の厚い壁が砲撃を受けたかのように爆ぜ、突如として火蓋が切られたのを全員が察する。
 一人として狼狽える者はいない。これは――先読みできた事だ。
 飛散する木片さえ潜り抜け、半ば反射的に躍り出たヒィロから奔った闘志が。場に踏み込んだハクスラネコ達さえ飲み込んで、意識を自身に集中させる。
「来たよ!」
 声を掛け合う。油断が許される相手ではないと、懐へ飛び込んで来た乳白色の砲弾を受け流して天井へ捌いたヒィロが示す。
 半壊する集会所。世界のイオニアスデイブレイクがその場の七人全員に付与され、マヤがヒィロに続いて名乗りを上げる。
「海賊だからと言って、海でしか戦えないと思ったら大間違いだし、悪党だと思うのも大間違い。お宝か、大金を払ってくれたら人助けでも何でもやるわ!
 ――我は海賊マヤ・ハグロ! 恐れを知らぬ無法者ならばかかってくるがいいわ!」
 ラム酒爆弾で瓦礫と粉塵が吹き飛び、ヒィロに集中しかけた敵の戦意が半ば削れ。マヤの方へ砲弾が飛び交う。
「随分派手なのね、本当に見かけに依らない……」
「単純だが、囲まれたら文字通り骨が折れる相手だ。立ち位置に気をつけた方がいい」
 床板が吹き飛んでめり込むハクスラネコを紫電の魔法刃が切り裂き、アリシアの頭上を飛び越えた修也がグローブを握り締めて拳ごと魔砲を撃つ。
 外から破壊された壁へ更に大穴を穿ち、修也の一撃に巻き込まれたハクスラネコが蒸発した。
「あー、あっちの壁の外から狙って来てる奴等。なんか光ってんだけど見覚えあるか?」
「ない!」
 中衛。サンディが後方で超震動と共に発光しているハクスラネコを指差すと、世界が勢いよく振り向いて答えた。
 サンディの口角が不敵に上がる。
「だったらあっちはこのサンディ様に任せな!」
 吹き荒れる風。瞬く魔力の奔流に僅かばかりの祝福が乗って、サンディの意思に呼応した『嵐』がその場を奔り抜ける。
「にゃ、にゃーん!」
 後方で何らかの動作の前準備に入っていたハクスラネコ達が宙に攫われ、その身を攫って尚、魔力を帯びた暴風は脱出を許さない。
 派手な奇襲にぶつける、ド派手な正面戦闘。
 保護結界を張っていた美咲は外の嵐の中へチェインライトニングを叩き込みながら、改めてハクスラネコを再評価する。
(念のため結界を張っておいて正解だった、これだけ周囲を巻き込む戦闘になるなら村の人への配慮以外にもこれは……戦局にも影響する)
 場合によっては倒壊していただろう集会所を、彼女は見回して。それ以上の破壊が起きない事を確認する。
 奇襲は失敗。警戒し、奇襲時の穴から機を伺って侵入してくる敵を迎え撃つ形にイレギュラーズ側が持ち込めたのは僥倖。
 その上で、油断はしない。
「――かわいいからって油断はしませんよ! 見た目なら僕のほうが上です! 今決めました!!」
 正しくそれは急襲。輝く白き翼を縦横無尽に振り回してハクスラネコを蹴散らしながら飛び込んで来た睦月が、頭頂部の赤いアンテナを揺らして切なくも儚げなポーズを決める。
「にゃーん」
 ネコ髭がピンと張る。睦月に集中しかける戦力が、横合いから這い回る世界の放った『身軀を黒き呪に染めて』による白蛇が次々にハクスラネコを襲う事で散らされ、阻まれる。
 どうにかイレギュラーズの陣形で突出した者を囲んで叩こうとするが、包囲は不完全なまま、ハクスラネコは完全に正面戦闘に持ち込まれたままターンを経過させる。
 マヤが精密射撃を見舞う一方、その傍らでカバーしながら応戦する修也が繰り返し魔砲を撃つだけで誘い出された複数の敵が壁のシミと化して行く。
 床下を潜る気配。
「下から来るぜ!」
「任せなさい」
 直前にサンディが注意を促す。
 床板が爆ぜ、突き上がった乳白色の砲弾の軌道が一陣の突風に逸らされた瞬間。ハクスラネコと共に飛び上ったアリシアの全てを切り裂く一太刀が、逆袈裟の一閃の下に降した。
「すんごい飛び跳ねてますね。これしーちゃんに見せたかったなぁ!」
 数瞬の後。ハクスラネコを仕留めた味方に流れ込む、謎めいたフラッシュバックが光り輝く睦月から伸びた翼によって掻き消される。
 そんな戦場の隅で、とあるハクスラネコが致死毒によって人知れず息絶えた。
(ん……?)
 世界の頭の中に。イメージが流れ込む。

§
「にゃーん」
 駅前広場で期間限定の甘味を買いに来た際のこと。
 長い列をあくび一つこぼして。ハクスラネコは待ち続けた……しかし、彼が待ち続けた末に待っていたのは完売の立て札とコンニチハすることだった。
 ああ……この世は無情……。
§

「……俺の過去じゃねーか! しかも薄っぺらいな俺の人生!?」
 もっと何かあっただろ。ほら異世界とか行ったし、などと眉根に深い溝を作りながら眼鏡がずり落ちる世界。
 そうする間にも戦闘は次第に佳境へと向かう。
 衝撃波を散らし、音速に至ったハクスラネコが床を蹴って天井を足場に砲弾の如き体当たりを繰り出したそれを読み切ったとばかりに、ヒィロが手足を用いて軌道を逸らした。
 果敢に、劣勢であろうとも仲間を飛び越え来るそのハクスラネコ達を前に、ヒィロの髪がざわりと揺れる。
「屍は越えるものじゃなくて、積み上げるものだって教えてあげるよ! ――アハッ」
 マヤと睦月が敵を挑発している最中、彼女の周囲一帯に緋色のオーラのようなものが圧し掛かる。
 乳白色の砲弾が動きを一瞬止め。彼女の方へ迂回、或いは外から飛び込んで来て殺到する。
「美咲さん、今だよ!」
「OK、いい仕込み……まとめて、砕けろ!」
 クェーサーアナライズ。次いで奔る美咲の雷撃がヒィロの眼前に突き立って、側撃雷となった電雷がハクスラネコ達を次々に葬って見せて。不意に魔を帯びた風が逃げるハクスラネコを捉える。
 雷撃が吹き荒ぶ嵐に絡み取られ、集会所の内側を一掃するように轟いたのである。
「吹けよ嵐! 派手に決めてやる!」
「いくら数が多かろうと、雑魚が寄ってたかっても私達を倒すことはできないわ。
 みんなまとめて――天高く舞い上がりなさい! そして消えなさい!」
 盤石となった譜面は大詰めに。中衛、後衛が温存していた力を一気に開放する一方で、マヤをはじめとした前衛もまた同じくハクスラネコの殲滅に力を注ぐ。
 目に見えて消滅していくハクスラネコを、雷撃を手繰る美咲がカウントしていく。
(15! 16! 17! …………21!)
 逃げ場を無くしていたつもりが、逃げ場を失ったことで消えゆくハクスラネコ達。
 確実に刻んで行くカウントは。やがてその場に静寂が訪れたのと同時に『25』に達したのだった。

●赤い影
 村に被害は殆どない。集会所が倒壊寸前の有り様となったが、代わりに得た平穏への切符は対価に見合っている筈だ。
「念のため気をつけて。話にあった敵はこれで全滅したはずだけど、何がいるか分からないから」
 戦闘後。美咲の提案に乗じて各々村を探索に出ていた。
「ま、そこは一応俺も警戒しとくから大丈夫だ。村の中に敵は今のトコいないぜ」
「……しかし壊れたな。後で修繕を手伝えれば来るか」
 同行するサンディの傍ら、集会所に飾られた村の子供が描いた絵を拾った修也が肩を竦める。
 壮絶な戦闘の後だからか。
 静かになった村を見回る仲間を余所に、睦月は一足先に帰路へ着こうと皆に手を振った。
「僕は先に例の町で療養している村人を治療しに行くよ。ヒィロさんのおかげで皆が村に戻って来るのは早まりそうだし……僕はかみさま、だからね」
「そういうことなら俺も行こう。依頼の報告も兼ねて、ついでにな」
 同行する世界を見送る。
 その後、それぞれ離れ過ぎない距離感を保ちながら村を見回って行った。
「スライムが村なんて占領して、何してたのかなー」
「前の依頼の時は絵や、他の戦利品があった。もしかすると何か置きに来たかもしれない……それか別の」
 美咲とヒィロが思案を巡らせている最中だった。
 不意に、彼女達の後ろを着いて来た修也が何者かの接近を報せたのだ。
「誰か来たな」
「敵?」
 修也は首を振って応える。人間だ、と。

 暫しの後。村の中央へ出て来た特異運命座標の前に、鎧姿の男が手を振った。
「やや! これは一体どうしたことだ? この村で何があった」
「あなたは? 私達は魔物の討伐に来た、ギルドローレットの者よ」
 取り次いだマヤの言葉に男は絶句した。彼に事情を話す。
「何という事だ……以前に妙なスライムを追い払ったのだが、まさか……来るのが遅かったか」
「どういう事なのか説明していただいても?」
 何か事情を知る反応を前に、美咲が詰め寄る。
 と、再びそこで。今度はサンディが声を挙げた。
「おい……待て。今何か、反応があったぞ」
 驚き視線を巡らせる一同の先で、赤い軌跡が村の奥へ消えた。
 即座に追跡に移る彼等は――やがて赤いシルエットを見失うと同時にあるものを発見する。

「洞窟だ」

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
依頼後、何を見つけたのか。その一端はまた別の機会に。

イレギュラーズの皆様お疲れ様でした。
MVPは依頼に関わった人達を案じて行動に起こして下さったエヒト様に。

またお会い出来る時を楽しみにしております、ご参加ありがとうございました!

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