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シナリオ詳細

再現性東京2010:Fast food one days

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●日常の中の非日常の中の日常
 再現性東京2010希望ヶ浜。練達の一角に存在するそこは、文字通りに再現された東京の町並みである。
 特にこの街は『平和』と『日常』と『フツウ』に執着し、人々はおばけなんていない生活の中をごく自然に生きている。

 ……とはいえ。
 この街の闇をすこしでも知っているローレット・イレギュラーズからすれば、街の平和は欺瞞に見えるかもしれない。
 しかしだからこそ、欺瞞のなかでありふれた、当たり前すぎる毎日を生きる人々に混じるのも悪くはないだろう。
 これは、希望ヶ浜での仕事を終え、日常の中へと帰属したあなたの物語である。

●街は人でできている
 公園のベンチに、つかれた男が座っていた。
 目元にくまをつくって、昼間だというのに開いた缶ビールを片手にだらんと背もたれに肘を置く。ここまでの特徴をあげただけでは、本当にただの疲れたおっさんにすぎないが……。
「よせよせ、俺に期待するな。言っておくが俺は犬に噛まれただけでも死ぬぞ」
 紫の偽ブランドスーツは遠目にも『彼』だとわかった。スマホを耳に当て誰かと話している様子だったが、二言三言交わした末に通話をきりスマホを懐へとしまった。
「お前は……あー、たしか西山田だったか? いや、金子小路? それとも南越谷……ああ、どれでもないか。そうか、そんな名前だったか」
 見ていたことに気づいたのだろう。
 彼――『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式は缶を持った手でこちらを指さした。
 さした指でくいくいと手招きをする。
 およそ行儀の良い行いではないが、平日(?)の昼間から公園のベンチでビールをあおる校長という型破りさが些事をかき消していた。
「お前が出てくるのを待っていたところだ。今回の報酬をやろう」
 無名偲はポケットから革の財布を取り出すと、そこから直接紙幣を取り出し、あなたへと突き出してきた。
 受け取ってみると、少しばかり多い。
 といっても、ハンバーガーショップにいって一番高いメニューを注文できそうなくらいの些細な増え方だった。
「メシがまだだろう。それで食べていけばいい。ここをまっすぐ行けばハンバーガーチェーンの店があるからな。まあ、チェーンといってもこの世に二店舗しかないが。
 お前、ハンバーガーは好きか。俺は好きだ。ピクルスの入ったハンバーガーが特に好きだな。あの邪魔で少しもウマくない物体が平然と割り込んでるさまがいい。それにチキンナゲットだ。あの安っぽい作りと味がいい。安いものは好きになれんが、安っぽいものは好きだ。欺瞞の味がする」
 などと独特の感想を述べたあと、無名偲は缶に残ったビールを飲み干した。
 飲み干して、もう用は済んだとばかりにベンチから立ち上がった。
「じゃあな。今日はもう頼む仕事もない。自由な休日をすごしてくれ」

GMコメント

■オーダー?
 このシナリオは、再現性東京2010希望ヶ浜にて平和な日常を過ごし、描写するものであります。
 テーマはランチ。好きな店にいって、好きなものを頼んで、日常を過ごしてください。
 お店の情報はaPhonで調べることができるので、自分の好みを見つけることが出来るでしょう。
 なんでも……というとやや語弊がありますが、一般的なメシ屋なら大体あるとおもってください。

 一応全員別々に描写することを想定しています。
 が、一緒に行動(描写)したい場合はプレイングにその旨を記載してください。
 校長は誘えばべつに断らないと思いますが、急に帰っちゃったり気づいたらいなかったりするのはザラだとおもってください。彼は態度をころころ変えるし総じてよくわかんない男です。今回飯食う金をくれた理由もよくわかりません。

・シチュエーション
 あなたは簡単な夜妖退治を終えたか、もしくは昨日のうちにもう終えていたかして、お昼休みにどこかへ食べに行く途中です。
 折角なので、学園ではどんな立場として振る舞っているのか書いておくのもいいでしょう。
 たまの臨時収入があったので、今日はメニューをケチる必要はなさそうです。そこそこに好きなものを食べることにしましょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

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【オマケ解説】
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:Fast food one days完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年09月09日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
紫乃宮・奈々(p3p008028)
仕込みバッター

リプレイ

●悪魔に肉
「ハンバーガー、か。たまにはいいね」
 aPhonの地図アプリを起動して道を確かめながら、ワイルドナルドとかいうハンバーガーショップに目星をつけた『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。
 久々に懐が温かいものもあってか、『再現性東京メシ』を色々試したくなったようである。
「いち食の探究者としては、ああいった気取らぬ美味にも価値を見出さなければね」
 地球世界におけるハンバーガーの起源には諸説あるが、とりあえずアメリカのもんという世界認識は根強く、ステーキ文化と共に発達したためワイルドな作風がメインを占める。
 マルベートが写真から想像したのもまさにそれで、ゴマを振りかけてやいた分厚いパンズの間に粗めのハンバーグパティと野菜が挟まったものだ。
 黒コショウの風味と火傷しそうな程に熱い肉汁とさらにはチーズ。それらを想像しただけで空腹が増すというものである。

 『夏らしく』と言うべきなのか、ワイシャツのボタンを三つほど外したラフな格好で自動ドアを潜るマルベート。
 にこやかな店員が『らっしゃーせー』とカウンター越しに歓迎するさまをよそに、カウンター上に大きく表示されたメニューを眺めた。
 マルベートは『欲しいもの』に対して忠実だ。
 それゆえ、欲望の引き算ができる。
 セット商品や割引サービスに目もくれず、パティが大胆に四つも挟まったハンバーガーと多人数用のチキンナゲットを迷わず注文したのだった。
 相手もさすがチェーン店というべきか、チーズバーガーのチーズ抜きとか言われても平気でいられそうな鉄面皮の笑顔で、素早く確実に倍ビッグバーガーとチキンナゲットボックスをトレーに載せて差し出してきた。
「ん、ありがとう」
 マルベートは肩にバッグをかけなおし、トレーを両手でしっかりもつと座れる場所をなにとはなしに探してみた。

 こうしてみると不思議なもので、普段化け物退治をしている事実も、どころか街の外に剣と魔法が充満している事実すら忘れそうなほど、店は『当たり前』で満たされていた。
 スマホをいじりながら黙々とポテトをかじるサラリーマン。他愛のない会話をいつまでも続ける女子高生。ただただ穏やかな家族連れ。
 マルベートは(街になじむための制服姿ゆえにか)自分が悪魔だということすら忘れそうになったが、そこは『欲しいもの』に忠実な彼女のこと。
 適当なカウンター席に座り、包みを解いてハンバーガーへ大胆にかじりついた。
「ふふっ、こういう粗野な食事は昔を思い出すよ」
 頬についたケチャップを親指でとってなめると、大きなガラス窓ごしに見える日常風景に眼を細めた。

●お人形とピクルス
 電柱とガードレール。カーブミラーにうつる町並みにはコンクリートと特殊建材によるビルが並んでいた。
 そんな二車線道路の端を、白いワイシャツとチェックのスカートをした少女が足取り軽く歩いて行く。
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)。再現性東京希望ヶ浜にて生徒という立場で一仕事を終えたところだ。
「私の元いた世界に似ているけれど、あの頃は体験できなかったことを体験できるのは楽しみだわ!」
 舗装されたアスファルト道路を靴底ごしに踏む感覚。通り過ぎる自転車の音。
 何もかもが懐かしいような新鮮なような。
「そうね。校長先生も紹介していたことだし、ハンバーガーを食べてみようかしら」
 無論というべきなのか、混沌各地にハンバーガーショップはあり、割と当たり前の料理ではあるのだが……。
「ファーストフード店でジャンクフードを食べるなんて、初体験ね」
 食は経験。
 場所と雰囲気こみこみで楽しむものだ。

 自動ドアを潜ると、既にふんわりとハンバーガーショップらしい香りが漂った。
 フライドポテトと肉、そしてほんのり焼いたパンだ。
 特にこの店は注文されてから高速で提供することを完全マニュアル化しているようで、ヴァイスの注文したハンバーガーセットが目玉焼きを作るより早い時間でやってきた。
 待ってる間にaPhonでもいじろうかしらと取り出したヴァイスが二度見したほどである。
 注文したメニューはオーソドックスなハンバーガーとポテトフライ。更にチキンナゲット。それに氷の入ったコーラである。
 変な話だが、ここはあくまで再現性東京。この『コーラ』の味を再現するためにものすごい研究が成されたと考えると、このハンバーガーショップひとつを作るのにどれだけの労力があったのか計り知れない。
 けれどよくよく考えてみれば、世界のどこにだってハンバーガーが最初からあった場所なんてない……と思う。ハンバーガーのなる木が無いとはいわないが。
 そんな、創造主たちの気持ちをちょっとだけ考えながら、ヴァイスはトレーをカウンターテーブルへと置いた。
「そうだわ。報酬を多めにもらったお礼と、あと、ステキなお店を教えてくださったお礼を、校長先生にしないといけないわね!」
 ポテト片手にaPhonを取り出すと、ヴァイスはぽちぽちとメッセージを打ち込んだ。
『理由は深く聞かないけれふぉ、とても嬉しいわ! ありがとうございます、校長先生!』
 DOを打ち間違えたことに、送信してから気がついた。

●煩悩を断つつもりが煩悩そのものになりつつあるねこ
 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は胸ポケットにさしていた眼鏡を取り出すと、手首をひねる動きだけで開いた。
 眼鏡を装着し、開いた手でワイシャツのボタンを上から順に外していく。
 過剰なほど外したところで、手元のaPhon10が周辺グルメショップの情報を羅列しはじめた。
 汰磨羈はこの街の一側面しか知らない。希望ヶ浜学園という土地と、学校という組織形態。そしてこのスマートホンというかなり特殊な機械。汰磨羈視点から見るとものすごく原始的なうえ非効率的なのだが、この街の人々はスマホがないと死ぬくらいこの機械の形態を信仰しているらしい。
 その証拠にというべきか、どこかの誰かが頼まれてもいないのに街のショップ情報を投稿し、それをまとめるサイトがどこかのサーバーで運営され、その情報を発信するアンテナが毎日二十四時間起動し続けインターネット送受信網を維持しているのだそうだ。なんだその、『星の血管(ガイアニューロン)』の超劣化互換みたいなのは。
 ちなみに街全体を支えているエネルギーは電気。
 ……電気!
 汰磨羈のもといた文明からすれば、石炭を燃やして汽車を走らせてるのと大して変わんない文明レベルだった。
 しかし。
「こうしてなじんでみると、なかなかどうして楽しめるものだな」
 ガードレールに腰を預けるようにして腰掛け、ゆるく足を組む。
 道行く人々がチラチラと見てくるが、汰磨羈は気にせずスマホをいじっていた。
「さて、折角の臨時収入だ。ハンバーガー……いやラーメン? それは前食べたばかりだしなあ」
 親指のスワイプ動作が、ぴたりととまる。
 眼鏡のレンズに反射した文字には、こうある。
 ――『鮭だくサンド』

 ウェルカムベルと共に閉じる扉。
 クラシックカフェの雰囲気に纏まった店内には落ち着いたサイフォン式コーヒーの香りとレコードによるジャズが流れている。
 汰磨羈は重くなった肩を下ろすように椅子に腰を下ろした。
「若い世代と戯れる事が出来るのは嬉しいし楽しいが……うむ。二股にするのは尻尾だけで十分だな?」
 希望ヶ浜学園にはもちろん学年制度があるが、校長の方針から生徒は希望した学年に何年でも在学することができるという。
 そのせいで生徒数は異常なほど多く、教員も本職の者から臨時講師までとにかく大量に採用していた。汰磨羈はそのなかで美術と音楽の科目にて臨時講師を務め、希望ヶ浜エロ教師四天王とうわされていた。あと三人誰だよ。
 汰磨羈の注文した鮭だくサンドはややあってからコーヒーと共に運ばれてきた。
 どっさり挟んだサーモンを適度に炙りサニーレタスと果実をブレンドした透明なタレで仕上げるというなんとも風変わりかつ贅沢なサンドイッチである。
「流石はボリュームに定評のある店。
 この胃袋を直撃せんばかりの重量、こうでなければ始まらぬ」
 汰磨羈はしばらくの間、店の空気と鮭を堪能したのだった。

●買い食いは学生の特権
「ふ……ふふふふふ……この世界でこの日がまさか来るとは思わなかったッス!」
 バットを背中にすっと収めると、『仕込みバッター』紫乃宮・奈々(p3p008028)は懐からお財布を取り出しウェスタンガンマンのごとくクルクル回してキャッチした。
「レッツ、買い食い!」
「少し豪勢なお昼が食べられそうだね。コンビニいくの?」
 長財布を両手でしっかり握った『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が後ろからちらりと顔を出す。
「買い食いするならコンビニでしょー」
 常識ッスよーと財布をふりふり語る奈々に、ルフナはぼんやーりとコンビニ像を思い浮かべた。
「僕、ああいうお店って経験なかったから、初めて入ったときは驚いたな。透明なドアが勝手に開くの」
「そこから?」
 入り口からじゃないッスか、と語る一方で、ルフナはほわほわとした顔をした。
「お店の中は白くてぺかぺかしてて、ぎっしりした棚に知らない袋が一杯おいてあったよね」
「そこから?」
 余談だが、一部海外の人がはじめて日本のコンビニに入るとあまりのオープンさにビビるらしい。罠かな? ってくらい。
「あの商品を適当に掴んで逃げたり、武器を向けて脅されたらどうするんだろう」
「カラーボールぶつけるだけッスよ」
「え、なにそれは……死ぬの……?」
「まあ、社会的には?」
「トーキョーの魔術、怖……」
 そして厳密にはぶつけない。足下にパァンして飛び散ったインクが二度と落ちないという割と繊細な科学でできたボールである。
 だが、まあ、ある意味トーキョーという街には巨大な魔法がかかっているといっていい。
 人は恐ろしい犯罪を犯さないという認識の魔法。
 オバケなんていないと疑わない魔法。
 今日とおなじ明日が来ると信じる魔法。
 国と国が政権を争おうが魔種が国を滅ぼしかけようが、自分のネイルにはいったヒビのほうが何千倍も重要にみえる魔法。
 コンビニの防犯性もまた、そんな魔法によって守られていると言ってよかった。
 ここ再現性東京も、実は例外ではない。
「えっと、じゃあ、揚げ物食べたいな。前に食べたチキン、悪魔的に美味しかったよね」
「わかるッス~」
 コンビニエンスストアなるもんが社会で一般化して久しい2010年。子供たちにとってここは魔法の国だ。
「やっぱりハンバーガーやポテト……フライドチキンとかホットスナックのたこ焼きッスか。いやいやクレープにアイスクリームに白いたい焼きの甘いものも外せないッス!」
 貰ったお小遣い(?)から逆算しながら食べたいものを脳内で選び始める奈々。
「あ、僕肉まんもすき。ピザのやつ。チョコレートが入ったのもあったよね。あれまだやってるかなあ」

 ほこほこした気持ちになりながら、二人はコンビニエンスストアの自動ドア前に立った。
 テレテレテレーンという独特のチャイム音に迎えられ、ちょっとやりすぎなくらいひんやりした店内へと入っていく。
 制服を着た女性が振り返り、『いらっしゃいませ』と『あまびえ』の中間くらいの単語を述べた。
「あ、見てみて。このプリン頭悪いくらい大きい!」
 『やけくそプリンアラモード』とかいう商品を手に取ってキャッキャするルフナ。
 奈々もそれを指出してキャッキャ笑いながらジャガイモを細長くしたようなスナック菓子を手に取った。
 二人はしばらくの間キャッキャしたあと、あれもこれもと手に取ってビニール袋を一杯にして外へ出た。
 さんさんと照りつける太陽の下、とりあえずにと取り出したアイスを二つに割って、かじるのである。

●はらぺこなら靴を鳴らそう
「何を食べようかしら! ハンバーガーもいいけど、もっと色々……」
 コンビニ前でaPhonをついつい操作しながら、『不撓の刃』太井 数子(p3p007907)は長い髪を左右にゆったりとゆらしていた。
 彼女のような『出自』をもつ者にとって、再現性東京はやたら居心地の良い街だった。
 主な理由は『昔の知り合いがいないから』に他ならない。
 ある意味生まれ変わった彼女の、もう一週目の人生を、なじみある風景の中ですごす……という、奇妙な全能感。
 であると同時に、かつての世界ももしかしたら見えないところに闇があったのかもしれないというこそばゆい恐怖。
「……お、っと」
 ぼーっとしてると過去に引きずられそうだったので、数子は意図して自分のふわふわした金髪を指でまいた。
 お人形さんみたいな柔らかい髪。モデルさんみたいな細く白い指。
 それが自分を『ミーティア』にしてくれる。
「ここはひとつ、アナクロで行くわ!」
 数子はスマホの電源をあえてオフにすると、ポケットの奥底へと投げ落とした。
 背中をつけていたコンビニの壁から離れ、日の当たる道へと歩き出す。
 行き先不明。
 気の向くまま、いいにおいのする方向に歩くのだ。

 歩いているうちに、数子は見知らぬ住宅街へと迷い込んでいた。
 とてもじゃないが飲食店のあるような雰囲気じゃないが……しかし。
「いいにおいはするのよね。スパゲッティ……的な……オリーブオイル……的な……」
 一般家庭からはとてもじゃないけど香らない、閑静な住宅街には不似合いな香り。
 その行き着く先は、なんともはやド民家であった。
 が、数子の眼もとい鼻はごまかせない。
 扉の横にかろうじて置いてあるボードに、『イタリアンレストラン』と書き付けられていた。オープンのパネルがさがったドアにおそるおそる手をかけると、バジルとオリーブオイル、そしてフランスパンのいい香りが漂った。
 オレンジ色の落ち着いた照明に、スピーカーから流れるゆったりとしたピアノジャズ。
 数子はグッと片手でガッツポーズを作った。
 民家改装レストラン、発見。

 セットメニューを堪能し、ナプキンで口を拭く。
(中学卒業間近でこの世界に飛ばされて、こっちで高校に入学できて……。
 いじめっこなんて返り討ちにできるくらい強くなって、学校も楽しい!
 最初は戸惑ったけど、この世界に呼ばれて良かったわ。
 怖い思いも沢山したけど……今日という平和を楽しみましょ)
 数子の日常は、きょうもまだまだ続く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――そして今日はつづく

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