PandoraPartyProject

シナリオ詳細

最終電車は波と共に花火の海へ誘いゆく

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あるサラリーマンの記憶

(何処か遠い所に行きたいなぁ)
 くたびれた様子を隠しもせず、背もたれに身を預けるようにだらりと真澄(ますみ)は席に座った。
 どうせここに居るのは酔っ払いか眠気にまけて船をこいでいる人間ばかりだ。営業職で表向きの顔が大事といっても気にも留める人はいない。

 ここは地下鉄メトロの最終電車。都会で身を粉にして働く者達の終着点。

 社会人になって、今の会社に入社してから初めての夏。
 サラリーマンに憧れてなった訳でもなく、この会社に骨を埋めるつもりもない。
 なのについつい終電間際まで働いてしまうのは真澄の悪癖ゆえだ。切り上げるタイミングに気付いているのに、あと少しやれば、もう少しで……その誘惑に逆らえない。

 ガタン、ゴトン。

 つり革と客が揺られている。寄せては返すその姿はまるで波のよう。

(実家の方だと、そろそろ海辺で花火大会をやる時期だっけ。今年は何も夏らしい事ができなかったなぁ……)

 ガ タ ン ! !

「うわっ!」

 大きな揺れに思わず真澄は身を大きく座席へ倒れ込ませた。
 乱暴な運転だと不機嫌気味に身を起こし――車窓からさし込む夕日が眩しくて目を細める。

「眩しっ。ていうか、何で夕日? 俺が乗ってたのって深夜の最終電……しゃ……」
 戸惑いに声量がすぼんでいく。ラッシュ時にも耐えうるよう、ロングベンチだった筈の座席はいつの間にか、四人で向かい合えるタイプの席に。
 窓の外は白い砂浜のロングビーチ。さざ波の奥で夕日が沈みかけている。

「楽しみね。もうすぐ日が沈むわ」

 聞こえて来た声の方へ顔を向けると、先程まで無人だった向かい側の席に一人の女性が座っていた。
 さっきまで見ていた酔っ払いでも、眠りこけていた乗客でもない。夜を纏ったような黒い聖衣に群青色の長い髪。
 
「夜が来れば、この列車は海を走る。海中花火が見れるわね」
「海中……なんだって?」

 聞き返す真澄へ女は微笑む。

「花火よ。ようこそ、忘れられない夏の夜へ」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 最後に見た花火は冬の夜空にあがったものでした。夏も見たかったなぁ。

●目的
 海中列車と花火を楽しむ

●場所
 異世界列車『浜の幻影号』
  海の中を走る事ができる不思議な機関車です。煙突からは絶えずぷくぷくと泡が出ており、車窓を開けても海の水が車内に入って来る事はありません。
  スピードは緩やかで、並走して泳ぐ事もできます。

●出来る事
 出来る事は色々あります。
  1.列車の旅を楽しむ
    レトロな車内では車掌さんが切符をもいだり駅弁を売ったりしています。海中の景色を見ながら優雅な船旅はいかがでしょうか?
    今回のルートでは道中『海中花火』の中を走るそうです。空に打ち上げ花火が昇るように、水面から海底へ降りて綺麗に咲く花火。不思議な事に触れても火傷はしないそうです。
  2.夢光花火を楽しむ
    車内のお土産として一番人気なのが、この機関車の中だけで使える『夢光花火』。
    地面に向かって垂らすと、その時の気分や心情を反映したような色と火花でパチパチ、線香花火のように弾ける様を楽しめるのだとか。
    不思議な力で作られた花火で、火に触れても火傷せず、燃え移る事はないそうです。
  3.その他
    その他、やってみたい事があればお気軽にご参加ください!

●登場人物
『新人サラリーマン』真澄(ますみ)
  現代風の世界で過ごしていたはずのサラリーマン。オフホワイトな企業でほどよく社畜ライフを過ごしていた男性。
  最終電車にのった事をきっかけに、いつの間にか浜の幻影号に乗車していました。
  目の前で繰り広げられる不思議の数々に驚き気味です。

『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
  ご存じ弑逆的な境界案内人。元々はどこかの世界で聖女として崇められていたという噂もあります。

●その他
 ・こちらのシナリオは一章完結の予定です。オープニング一覧から消えるまでプレイングを受け付けます。
 ・複数人で参加される場合は【】でグループタグをご利用ください。
 ・登場人物を同行者に指名する事もできます。

 それでは、よい旅路を!

  • 最終電車は波と共に花火の海へ誘いゆく完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月06日 20時12分
  • 章数1章
  • 総採用数8人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

「まいどあり。楽しんでおいで」
 駅の売店のおばちゃんは気さくな笑顔の人だった。
「電車か……殆ど乗ったことないな」
 混沌はどの国も治安が安定しづらい。こういう特定のルートを走る乗り物は狙われる危険があるのだろう。握りしめた切符には『浜の駅▶不思議の海』
「……この際だ。じっくり楽しもうか」
 ほら、汽笛を響かせやって来る。乗り込めばそこは日常と隔絶された優雅な客室。
 温かみのある木製の壁にふかふかの座席。列車がゆるりと動き出せば、買ったばかりのスペシャルサンドを口いっぱいに頬張った。鎌は鎌でも妖精鎌。サイズはしっかり味覚を持っている。
「……ん。美味い」
 ざくざく、揚げたてのフィレカツの衣がいい音を立てて砕けた後に、肉汁がじわりと染み出してくる。レタスやパンと舌の上で絡み、響き合う旨味のハーモニー。
「こんなまったりと景色をみながらすごすのが電車の醍醐味なのかな?」
 お茶を飲みつつ眺める車窓は段々と海面に浸りはじめている。じきに花火も見えて来る事だろう。
「まあ、なんにせよ……ぼんやりしすぎて降りるところを過ごさないように気を付けないとな…」
 ガタンゴトン、ゆりかごのように穏やかに、心地よく揺れる列車の中。
 気づけばうとうと、瞼が落ちて――。

成否

成功


第1章 第2節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 駅弁、それは旅の喜び。
「でも僕はしーちゃんのお弁当の方が好きなのになぁ」
「今日は駅弁で我慢して」
 作って貰えなかった事に睦月はいじけてしまったようだ。ちぇ、と不機嫌そうに車窓の方を向いてしまう。
「正直僕は味音痴だから何食べても同じなの。だからよけい誰が作ったかが大事なの」
「こないだ冷やし中華食べさせてあげたばかりじゃない」
 やれやれ、と息をつきながらも史之は大して凹まない。弁当を箸でつつき、ひと口分を睦月の前へと運びはじめる。
「これ好きだったよねカンちゃん」
「えっ」
「はい、あーん」

 ぱくり。

(……しーちゃんからはいあーんってされたよ! 今日の運勢は大吉なの?)
「あ、あとねー、それも食べたい。そっちも食べたい」
「これも? こっちも?」

 はいあーん、あーん、あーん……。

「俺の弁当がもりもり減っていくわけだが」
「はー幸せ」
「カンちゃん食べないならその駅弁俺にちょうだい」

 何にせよ機嫌が直ってよかった。交換した駅弁をつまむ最中に、どーんと大きな音がする。
「本当に海の中であがる花火なんだね」
 それは女王陛下にお見せしたい程の美しさで、異界の海もあの御方の海と繋がっていたらいいのに――なんて、彼方に想いを馳せてしまう。
「花火きれいだねしーちゃん。しーちゃん?」
 睦月がいくら声をかけても史之は車窓を眺めっぱなしだ。
(また女王様のこと考えてる。今隣にいるのは僕なんだけど!)
「しーちゃんってば!」
「なに? いま花火鑑賞をたのしんでるんだけど――」
「はい」
 ちゃぽん、と揺れる音は海からではなく。睦月の手元、握られた酒瓶からだ。
「バラムタイムオールド! 飲んでみたいって言ってたよね?」
「えええええおまえそれどこで手に入れたの!?」
 伊達に幼馴染を長くやってきた訳じゃない。女王様への対策も今日ばかりはバッチリだ。
 ふふんと得意気に笑いながら、車内販売で買った氷をグラスに満たしてロックで淹れる。
「練達から通販したんだよ」
「なるほど……って、こら。さりげなく自分も飲もうとしない。カンちゃんはジュース!」
 ドリンクフォーユー。ギフトで新たに作られたジュースはある意味史之の手作りだ。盗み飲みしようとしていたお酒のグラスと交換でジュースの満たされてグラスを持ち、睦月は幸せそうに飲み始める。

「で、用件は何? 何か言いたいことあるからこんなの用意したんでしょう」
「えへへ、察しがいいね、しーちゃん」

 空調に揺れる横髪を、さらりとかき上げ耳にかける。大人びた仕草と共に開く唇。

「代わりに付き合って欲しいんだ」
「つき……」

 グラスに口に唇を寄せたまま、史之はそのまま静止した。
 ガタンゴトン、静寂の中で列車の揺れる音が、心臓の音を掻き消して――。

「なにあわててるの、買い物にだよ?」
「……あ…うん買い物に。買い物かよかった本当に良かった。買い物くらいならいつでも、うん」

 頬が熱い。これはきっと飲み過ぎだ。

成否

成功


第1章 第3節

江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット

「……ふむ。ここはどこでしょう」
 ガタンゴトン、列車の揺れに合わせて長い黒髪が揺れる。
 フィールドワーク(という名の迷子)を楽しんでいるうちに迷い込んだ境界図書館。
 怪し気な黒衣の人攫いもとい境界案内人に流されるまま至った場所は、海中を列車が走るなんとも妙な異世界だった。
「これも迷子(ぁ)の醍醐味ですね」
 うんうんと納得したように頷いた後、適当な座席にぽすんと座る。
 体力のないフィールドワーカーに乗り物とは天の助け。購入していた駅弁を開くと、駅の形をしたお弁当箱に色彩豊かな料理達が所せましと並んでいる。だし巻き卵をぱくりと口にし、もっきゅもっきゅと咀嚼しつつ、外の景色を眺めてみる。
「……どうやら水の中を移動しているみたいですね」
 躊躇なく窓の縁に手をかけ、がっと開けようとするが――悲しきかな。樹里フィジカルは生まれたての小鹿ほどしかなく。
「むぅ。無念」
 ぜぇぜぇ、車内に呼吸が響く。その音をかき消すようにどーんと目の前で咲く花火は、目を奪うほどの大輪で。

――花火。それは人々の願いを乗せたもの。
 ならばそれは、私のギフトとほぼ同義。
 で、あるならば。私はそれを見届けましょう。
 花火を飲み干す水に抗う無限の祈りを捧げて。

「……それにしても」
 窓に映るしょんぼりした自分の顔に溜息が止まらない。
「もし窓が開けたら、景気づけに一発樹里の魔法をぶっぱしたかったのですが……本当に、無念です」

成否

成功


第1章 第4節

ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛

 その乗車に理由はない。強いていえば、なんとなくだ。
「お手元の乗車券を確認します」

 バチン。

 車掌が改札鋏で『未来』への片道切符に鋏痕を入れて過ぎていく。

(今の車掌、どこかで見たような)
 揺れる車内でゆるりと記憶を掘り起こす。――嗚呼、と合点がいったのは数分後。
(人懐っこい笑顔が、あの方に似ていたからかもしれません)
 出会ったあの日も、花火のあがる夜だった。
 誰も彼もが空を見上げ、夜空を彩る大輪を楽しんでいる。その中でブラッドの心だけが凪いでいた。
 喜び、楽しみ。その感情が理解できない。きっとそれが表情に出ていたのだろう。
「一緒に見た方が楽しいよ」
 あの方はそう告げて、俺の手を引いて歩き出した。
「何故ですか?」
「その方がワクワクするし、素敵だ」
 言葉の通り、その横顔は心底嬉しそうで。

 花火はきっと他の方には美しく映るのだろうと。
 その理由を、知りたかったのかもしれない。

「昼の空とは異なる青に包まれた海の中は、とても落ち着くものですね」
 ふと耳に届く車内販売のアナウンス。
 なんとなく手に取った夢光花火は、他者の心を理解し難い自分の心を目で知りたかったのかもしれず。

(全ての心が、この花火のように目で理解できたら――)

 ぱち、ぱち。白く静かな火花が爆ぜる。
 その色が何を表すのかブラッドには分からない。されど希望を抱かずにはいられない。

(この火花にいつか、色がつく日が来るのでしょうか)

成否

成功


第1章 第5節

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

「へぇ……私も数多くの世界を見てきたが、こんなのは初めてだな」
 海中を進む列車自体は覚えがあるが、そこに花火が加わるのは珍しい。
 ミーナが車内から外を眺めていると、窓に反射して人影が映り込む。振り向けばそれはワゴンを押した車掌だった。
「お土産、お弁当、いろいろありますよ」
 おひとつ如何と勧められたメニューを眺め、彼女は少し悩んだ後に指で示した。

「こういう列車に乗ったときってさ、駅弁が大事だと思うんだよ。
 ご当地名物とかさ、意外とうまかったりすること多いからな」
 他の異世界で言えば赤提灯が並ぶ山中の街では小籠包は格別だったし、海の中を走る列車が巡る先なら、海鮮が美味いのはまず間違いないだろう。傭兵首都・ネフェルストでつまんだ魚介も良かったが、こちらはこちらで魚の種類も料理のメニューも新鮮味がある。
「食ってばかりとか思うなよ? 食は生活の基本だぞマジで」
 もぐもぐとほっぺを少し膨らませながら咀嚼していると、車窓の外からひゅるるるーと馴染みの音が聞こえてくる。視線を向ければ、どーんと豪快な爆発音。
「お、おー……なるほど。上から下に、かぁ」
 水の中にインクを落とした様に、その花火は降って咲く。瞳に鮮やかな光を映しながら、ミーナはふっと優しく笑んだ。
「普段飛んだりすることもあるけれど、こういった、いつもの視点とは違う花火もいいものだな」
 味覚も視覚も楽しみながら、穏やかな時間にただ浸る――。

成否

成功


第1章 第6節

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種

「はい、確認しました。切符をこっちに向けてくれる?」
――パチン。
 小気味よい音を立てて切符に鋏痕が刻まれる。
「ありがとうございますっ!」
 礼儀正しく頭を深々と下げた後、早速車内を散策しようとユーリエはパタパタ足早に歩く。
 初めて乗る電車。それも海の中を走る電車なんて!
「どんな感じなんだろう……あっ、酔ったりしないかな? 大丈夫かな…!?」
「酔い止めでも買ってくかい?」
 はっとした彼女へ声をかけたのは、車内販売中の車掌さんだ。
「駅弁なんてあるんだ! どんなものがあるのかな……?」
 美味しいものがあるならばと眺めていたら、可愛いお魚のパッケージが目をひいた。『おいしく取ろうDNA弁当』なるそれを買い、空いてる席につく。
「おいで、一緒に見よう?」
 茶から銀へ染まりゆく髪と広がる蝙蝠の羽。吸血鬼の姿へ変じて呼んだ蝙蝠は懐っこく頬擦りした後に肩へ乗った。弁当の魚肉ソーセージをもきゅもきゅ食しつつ、1人と1匹はのんびりと景色を楽しむ。
「わぁ、あれなんだろう……! 魚かなぁ?
 あ、見て見て面白い海藻…!」
 美味しいご飯に綺麗な風景。至れり尽くせりで最初ははしゃいでいたものの、うとうと……心地よい電車の揺れに瞼が重たくなってくる。蝙蝠も眠気が来たようで、気づけば寄り添いあっていた。
「おや。これは愛らしい寝顔だ」
 すやすや。後には静かな寝息が残り、車掌がこっそり、あったか毛布をかけていく――。

成否

成功


第1章 第7節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

 海中でも線路に沿えば、車内は常に揺れが走る。
 ベテランであれば大して気になる事もないが、車掌になりたての新人となれば話は別だ。
「ふわっ!?」
「危ない!」
 大きな揺れでバランスを崩した新人車掌を支えようと伸びる腕。
「大丈夫かい?」
「ぁ……ありがとうございます」
 アントワーヌに覗き込まれ、車掌は頬が熱くなった。すぐ体制を立て直そうとしながらも、足の痛みに片眼を閉じる。それに気付いたアントワーヌは車掌を座席に座らせて、穏やかに微笑みかけた。
「足を捻ってしまったようだね。少しここで休んで行くといい」
 上司に数度言葉を交わし、アントワーヌは彼女の休憩を取り付ける。
 優雅な姿に優雅な笑顔。
「海の中を走る列車だなんて素敵だね!
 深い青色がとても綺麗だ、人魚姫がいたら素敵だな」
 それでいて、時折見える無邪気さが心をぎゅっと掴む。

「それにしても何故水の中で花火が咲くんだろう、本当に興味深いや!
 夢光花火だっけ、あれも凄く気になるな!」
「私、それを車内販売で売る係です」
 おずおずとラッピングされた花火の袋を車掌が見せると、アントワーヌは優雅に手を差し伸べる。
「帽子の素敵なお姫様。私にもひとつその花火をくれないかい?」
――嗚呼、お姫様だなんて! 
「……わあ、私のリボンと同じ色だ!」
 オレンジ色の火花を眺め、時折触れて。楽し気に笑うアントワーヌ。
 その笑顔を見て車掌は気づく。嗚呼――恋に落ちる音がした。

成否

成功

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