シナリオ詳細
熱湯! ビバ、銭湯空間
オープニング
●とある町、ある日。
「栄と寿が『どすこい』にやられたぞ!」
悲鳴にも似た声が夕暮れの通りを駆け抜けていく。
「なんだって!? また出たのかい!」
「おい、ちょっと待て。詳しい話を――ちっ、行っちまいやがった」
悪い知らせを聞いて家や店から飛び出した人、たまたま通りを歩いていた人、見知らぬ者同士で不安で曇らせた顔を見合わせた。
「それにしてもどうなっちまうんだろうね」
「ついこの前、大黒と竹がやられちまったところじゃねぇか。お上はなにをしてるんでぇい……と、こうしちゃいられねぇ! おい、かかぁ。手拭いをよこせ! 松の湯がやられちまう前に、ひとっ風呂浴びてくるぜ!」
●翌日、松の湯。
破壊された男湯の入口には、どすこいの入浴を断固拒否しようとした番頭さんがぺらっべらになって落ちている。脱衣所もまた死屍累々。逃げ出そうとしてどすこいの下敷きになったじい様やばあ様が、すっぽんぽんで転がっていた。
浴室の最奥、壁に描かれた天下の名峰が、夏雲のごとく沸き立った湯気にかすんで見える。
ざっぱ~ん。
ざぶぶ~ん。
湯船からあふれた湯が、津波となって風呂桶や椅子を押し流した。
「た、たひゅけてくれー」
歯の九十九パーセントを失っているじい様が、はやくもピンク色にゆで上がったどすこい肉に挟まれ、埋もれかけていた。
このままでは圧死してしまう。
覚悟を背負った怖いお兄さんが、男気を発揮して救出を試みるも、どすこいの張り手一突きで、あえなく天井の星となってしまった。
「こ、このままではこの町に一軒の銭湯もなくなってしまう」
明日からどうすりゃいいんだ。体が臭くなっちまう。
町にあった銭湯に押しかけては、次々と営業停止に追い込む肉腫を、人々は『どすこい』とよんで恐れた。
白くてもちもちとしたもち肌を重ねたような、むっちりわがままボディー。そのうえに乗った小さな頭には、糸を引いて描いたような細い目が二つ。ほかには口も鼻も耳もない。シルエットが力士に似ていることからその名がつけられたらしい。
どすこいたちが去った後は、湯船に一滴の湯も残されていない。すべてむっちりボディに吸収されるか、吸収されなかった分は湯船から溢れ出て、流されてしまうのだ。
ただ、湯が無くなるだけならなんとかなる。湯膨れしたどすこいたちの肉圧はすごく、最終的には湯船が割れてしまうのだから、始末が悪い。
更に、被害は男湯だけに留まらない。ぶっくぶくに膨れたどすこいの肉は、男湯と女湯をくぎる壁を倒して破壊するのだ。もちろん湯船も粉々に……。
つまり、どすこいが来た銭湯は廃業を余儀なくされる。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた銭湯の主が、くしゃくしゃになった男湯の暖簾を前にしてがっくりと膝をついた。
「……だ、だれか。誰れかー! 大至急、イレギュラーズを呼んでくれ、たのむー!!」
- 熱湯! ビバ、銭湯空間完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月14日 23時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
高い天井に、湯が波打つ音と木桶がタイルとぶつかる小気味のいい音が響く。湯気の向こうに描かれているはずの霊峰は見えない。見えるのは、大湯船からそそり立つ三つの白い小山……。
『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は形の良い眉をひそめた。
「妖……の様な物なのだろうか、スライムにも見えなくも無いが……」
その正体はこれから探るとして、まずはこの迷惑な妖を排除しなくてはならない。
「話に聞いた情報からすると、余り時間の余裕は無い。迅速に事を進めて行こう」
湯船に漬かる妖の体は時間とともに水を吸って膨張し、やがて銭湯の建物自体を破壊する。町人たちの憩いの場を、町からなくすわけにはいかない。
……餅、と独りごちたのは『水神の加護』カイト・シャルラハ(p3p000684)だ。
「焼いたら美味しいだろうけど、温泉で煮られたのは流石に不味そうだなぁ。そもそも肉腫か」
早くも湿り気を帯びて重くなってきた翼をぶるりと震わせ、水しぶきを飛ばした。濡れて滑る足元を気にして、早々に体を空に浮かす。
「それにしても呑気な……俺たちに気づいていないのか?」
それなりに殺気を放っているはずなのだが、目の前の妖たち――どすこいと呼ばれる肉腫たちは、体をふるふるとさせているだけで、一向に湯船から出てこようとはしない。
「あれが多くの銭湯を営業停止に追い込んだ肉腫か……」
水着に着替えた『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は、呆れまじりの声を漏らした。
「これはかなり大きな厄介ごとだな。ほかのところへ被害が及ぶ前に、可能な限り早く片付けるとしよう。ところで、じい様はどこだ?」
もう一人、逃げ遅れたじい様を助けようとした怖いお兄さんの位置は、入った瞬間にイレギュラーズ全員が把握していた。背中の覚悟があまりにも鮮やかに、湯気の当る天井に浮かび上がっていたからだ。
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)が大湯舟の一角を指さした。
「あそこです」
波打つもち、いやどすこいの間に枯れた細枝のような腕が覗いていた。耳を澄ませると、微かに、流れる湯音に混じって、助けを求める不明瞭な声が聞こえてくる。
「はやく入れ歯を見つけてあげなくてはなりませんね」
いや、救助が先だろという突っ込みが黒子に入れられるよりも早く、『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)がボケをかます。いや、ボケではなく本心か。
「白くてもちっとしたボディとか、羨ましすぎます……!」
乙女は日々、白くてムダ毛のない滑らかな肌を保つために努力しているのだ。
ルルリアは白の半袖シャツを肩までめくりあげた。
「ちょっと肉付きが良い気もしますが、そんな魅惑的な体をもつ謎の生き物を野放しにしていては皆の美的感覚が狂ってしまうに違いありません……粛清しないといけませんね!!!」
声の響きに嫉妬が感じられるのは、気のせいではあるまい。さっと張った保護結界にも、絶対に逃がさないという意図が感じられる。
やっと危険を感じたか、どすこいたちがぶるんと音をたてて湯船から立ち上がった。相変わらずじい様は白くてもちもちした肉の間に挟まれたままだ。
『魅惑の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)は怖気を震った。
「今回の依頼……な、なんて魔境なの。来ちゃったわね、うねる肉の樹海に」
そこで言葉を切って、視線をつっと上にあげる。
濡れてじとじとしているうえに、うねうねしている。そんな気持ちの悪いデ……肉なんて目に入れたくない。それよりも――。
「でも、あそこに私好みっぽい男性がいるわ」
まってて、今助けるから。と、その前に……。は自身を見えない魔法の壁で取り囲んだ。
どすこいの一体が、湯船から片足を出す。
唐突にどすこいの体の一部がびょーんと伸びた。
「えー……?」
いきなり拙者をご指名か。『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は落ち着いて、どすこいが伸ばした肉を叩き落とした。ぺちん、と気持ちいい音がした。
床でぶよよんと跳ね返った肉が体の中に戻っていく。じい様を間に挟んだまま、他の二体も湯船からゆっくりと出て来た。
「この肉腫も元はなにかの生き物だったんでしょうか……?」
麩か。麩なのか? でも麩は生き物じゃないぞ。宇宙警察忍者でも、麩は生き物にあらず、と教えられている。教えられたことはないが。
「じゃあ、やっぱり鏡餅とかですか……? しかも銭湯にばっかりいくって……何なんですかね……?」
どすこいに問いかけてみたが返事はない。ぶよんぶよんと湯にふやけた肉を揺らすだけだ。ますますじい様が肉の中に埋まっていく。
「ひゃふけてー」
「おっと、こりゃいけねぇ。イマイチ危機感のない依頼ですが……肉腫は肉腫! 豊穣の平和の為! 宇宙警察忍者、夢見ルル家! いざ発進!」
宇宙忍者が銭湯の中心で叫ぶ。超新星が爆発を起こしたがごとく、ルル家は水しぶきをあげて、濡れた床から蹴り飛んだ。
どすこい当てた拳を中心に、おもしろいように肉がへこむ。衝撃が同心円状に広がっていく様子が、肉眼ではっきりと見えた。
「野盗共の返り血の匂いが気になってしゃーないから久々に銭湯に行ってみたら、なんどすかこれは……」
『アヤシイオニイサン』如月 追儺(p3p008982)は、前の依頼で返り血のついた服を脱ぎながら、のんびりと浴場の様子を見ていた。愛用の傘は脱衣所の隅に置いてある。
脱衣場に転がっていた町民の避難は、追儺があらかたすませていた。あとは浴場にいる二人の避難が済めば、何の気兼ねもなく、思う存分戦えるはずだ。
銭湯の主に、増幅した筋肉をポージングで見せつける。
「手応えは無さそうやけど、倒し甲斐はありそうな肉塊ですなぁ。折角やし、ここで血で血を洗ってみるのも酔狂やと思いまへんか?」
「思います。思いますから、に、兄さんも、はやく……どすこいを倒しに行ってください」
「もうちょっと、待ってからにしましょ。ヒーローは遅れてやってくるもんやからね~」
●
その音は遅れて聞こえてきた。
ルル家のロケットパンチで波打ったどすこい肉は、背後の壁にぶち当たり、落雷を思わせる音を響かせた。
ルルリアの保護結界のおかげで、壁にかかれた天下の霊峰は無事だ。かなりの衝撃を受けたにも関わらず、一筋の亀裂も入っていない。
ベネディクトは、力強い踏み込みで水しぶきをあげながら抜刀した。
「皆の憩いの湯をこれ以上、お前達に壊される訳にはいかん──!」
蒼き月光の刃が、不定形で跳ね返ってくるどすこい肉を切り裂く。
切り裂かれた肉は、投げられたパイ生地のごとく回転しながら薄く広がり、女湯側の天井へ向かって飛ぶ。軌道上に、ちょうど、保護結界のカバー範囲を広げていたカイトがいた。
「うわっ!?」
驚きながらもカイトは翼に炎を纏わせた。前に一回、両翼を合わせるように羽ばたいて炎の竜巻を起こす。
炎の竜巻はどすこい生地を飲みこむと、渦巻きながらこんがりと焼きあげた。
「いい焼き色だ! ピザ職人になれるんじゃないか、カイト」
ベネディクトは長剣を鞘に納めると、背中に手を回し、短い槍を手にした。落ちてくるどすこいピザ風に向けて、鋭く突き立てる。
魔を喰らう黒き大顎が開き、一口でどすこいピザ風を喰らった。
――ごわす!!
約半分に体積を減らしたどすこいその一が、ぶるんぶるん揺れながら突進してくる。
「どすこいって鳴くんだ?!」
黒子は新たな事実の発覚に目を見張りながらも、冷静に、隅に落ちていた固形石鹸を蹴ってどすこいその一の足元へ滑らせた。
つるん。
まんまと固形石鹸を踏んですってんころりん。どすこい、大股開きの一回転。
「……く、目が穢されそうだ」
水しぶきと泡をあげてバウンドしたどすこいを、シューヴェルトが狙いすました一撃で撃ち抜く。びちびちと音をたてて細切れになった肉が湯の中に落ちた。たちまち水分をすって膨張する。
「ふぁあ……放置すると、あとあとお掃除が大変になるのです。即刻、片付けるのです!」
ルルリアはライフル銃を撃ちまくって、片っ端からどすこい肉片を撃ち抜いた。
膨れ上がるどすこい肉片に意思はなさそうだが、肉腫のことだ。いつ何時、目覚めるかわかっものではない。そうでなくても体積を増やされると戦いの邪魔になる。
「シチュエーションはともかく! 水分を吸収してどんどん肥大化するのは非常に厄介! 短期で決着をつけますよ!」
ルル家も秘密の宇宙警察忍者武器を刀に変形させて、ずばずばと飛ばした斬撃で切り刻んでいく。
水を吸っても対して膨らまなくなるぐらい、小さく、小さく……。
脱衣所から戦いを見守っていた追儺は、極めて冷めた口調でぼやいた。
(「……あれ、排水溝につまるやろうな」)
どすこいその二とどすこいその三は、じい様を肉で挟んだまま、静かに自分の出番を待っている。
それを見たチェルシーは、ニヤリと笑った。
「どうやら私たちに恐れをなして動けないようね。カイト!」
腰に左手をあてて、右の人差し指で天井に張りつくコワいお兄さんをびしっと指す。
「いまよ! そこの素敵なお兄さんを落として!」
「え? なに、オレ? オレが剥すの?」
「そう、君! 君がやらなくて誰がやる」
「オレはキャッチするほうじゃ……えーっ」
でも、まあ、考えてみたら、全裸のコワいお兄さんを全身で受け止めるよりも、ちょっと触って自然落下させる方が、受ける精神的ダメージはガチで少なくなる。
カイトは意を決して、コワいお兄さんの所へ飛んでいくと、肩に手をかけて天井から剥した。
頭から落ちるコワいお兄さん。
「あらら。あきまへん、破廉恥や」
追儺はすかさず浴場の戸口から手拭いをしゅるるっと飛ばし、チェルシーがバッチリ見てしまう前に、コワいお兄さんの腰に巻きつけて珍宝を覆い隠した。
コワいお兄さんは追儺のおかげで『漢』の矜持を損なうことなく、無事チェルシーに抱きとめられた。
いや、チェルシーに乙女抱っこされた時点で、まて、天井に張りつけられた時点でかなり『漢』を損なっているような気がするぞ……。
ともあれ、本人に意識がなかったのは幸いだ。
「う……うう……こ、これは……おめぇさんは、いったい」
「うふふ。気がついたのね。よかった……。あなたの様な素敵な漢を助けられて嬉しいわ、それじゃ…それじゃ私、逝ってくるわね……」
チェルシーは指の背でそっと(偽の)涙をぬぐい、どすこいたちと向き合った。おもむろに取り出したマイクを握り、腹の底に力を入れてドスの利いた声を張りあげる。
「オラァ! この肉塊ども! 風呂は周りの事を考えて入らんかぁい!! 私の歌をよーく聞いて反省しろっ」
「待ってくれ! せめて、名前を――」
「名乗るほどのものじゃないわ。縁があったらまた会いましょう。アデュー!」
天使か!
目をウルウルさせてチェルシーに手を伸ばすコワいお兄さんを、追儺が後から脇に腕を回して脱衣場に引きずっていく。
「はい、はい、はい。ここにおるとみんなの邪魔やからね~。大人しく下がってようか」
チェルシーの挑発的な歌詞に気分を害し、ようやく動き出したどすこいその二とその三を相手取りながら、ベネディクトがくるりと首を後へ回した。
「――というか、追儺! 貴様もここに来て一緒に戦わんか!」
「ん~。私な、思いっきり暴れたいんよ。そやから、じい様がこっちに来はったら行くわ」
ベネディクトは呆れながらも剣を振り上げて、どすこいその二の肉を削ぎ落した。
ぼたんと床に落ちた肉を避けて、シューヴェルトが軽やかにどすこいその三に接近する。
「ご老体、気を確かに。いまお助けいたします」
枯れ枝のような腕が突き出ているあたりを、ひらりひらりと剣を振って削っていく。薄く削られた肉は白い花弁となって湯気に吹雪き、じい様の腕に張りついて、桜花を咲かせた。
「ふぇ~、ふるしぃ~」
「顔が完全に出た。もう少しの辛抱だ。がんばれ!」
カイトが肉の谷に舞い降りて、桜木のようになったじい様の腕を引っ張り上げる。
「くそ、ぶよぶよして踏ん張りがきかない……こっちまで肉に沈みそうだ」
黒子は額に噴きだした汗を手の甲で拭った。
「では、腰まで出ればなんとかなりそうですか?」
指を開いて、ヒマワリの種を出す。
「カイト様、一旦離れてください」
カイトが離脱すると同時に、黒子はヒマワリの種を指で弾いて飛ばし、どすこいたちの肉に埋めた。直後――。
どすこいの肉から水分を吸い上げて、ヒマワリがにょきっと生え、大輪の花を咲かせた。水分吸収の能力が阻害されたどすこいたちの体が一回り小さくなる。
じい様の肩まで肉の外に出た。
「ふひゃあ! たふけて、はひゃくたふけてふれぇー」
「あともう一押しですね。ここはルルにお任せください!」
弱者の叫びを受けて、ルルリアが持つルーク・ストライクの銃身がほのかに熱を帯びる。銃口をどすこいその二とその三に向けたまま、急接近した。
「ずどーんと一発、かますですよ!」
ボルトが引かれ、また押しこまれる。
火薬の爆発音がイレギュラーズの耳朶を強く打ったと同時に、どすこい肉に弾丸が触れた。衝撃が激しくきのご状に炸裂し、命中した部分から穴が広がっていく。
挟まれていたじい様は、広がる肉の波に押し上げられて、腰まで飛び出した。
すかさずカイトが腕を掴んで引っ張り上げる。
「ベネディクト、頼んだ!」
カイトは、マントを広げて受け取り体制を整えたベネディクトへ、じい様を投げ落とした。
じい様に向かって絡み合いながら伸ばされる二本のどすこい肉を、ルル家が宇宙警察忍者仕様の銃をぶっぱなし、きらめく流星の弾丸で打ち払う。
「お風呂好きは良いですが……人の迷惑を顧みずにお風呂を破壊する行為、このルル家が天誅を下します!」
ルル家は宇宙の深淵を突き進むロケットになって飛んだ。ライフルが穿った穴をさらに広げ、突き抜ける。
どすこいその三の体は四散爆発した。
「大変な目にあったな。怪我などは無いだろうか、ご老体」
ベネディクトはじい様の体にマントを撒きつけると、床に横たえた。ウォータースライダ―の要領で、脱衣所まで滑らせる。
「追儺、ご老体を頼むぞ」
じい様が豪快な波しぶき飛ばしながら滑っていく。
待ち構えていた追儺は、まともに波をかぶった。
「ぺっ、ぺっ……保護完了や。これで気兼ねなく戦えますなぁ」
場にのこるは手負いのどすこいその二のみ。
●
楽勝ムードが浴場に流れかけた時、どすこいその二の反撃が始まった。素早く肉を四方に伸ばしてカランをいくつも叩き壊し、湯と言わず水を吹きださせた。ついでバラバラになったどすこい肉をかき集め、自分の体にくっつけていく。
「いかん! 合体膨張するつもりだ」
細切れのどすこい肉が膨張して排水溝を詰まらせていた。浴場の水位がぐんぐん上がる。
合体膨張どすこいは四股を踏んだ。
――よいしょっ!
どおん、と床が揺れ、水柱が立ち、どすこいの肉が重く振動しながら広がった。
ベネディクトは長剣と短槍を体の前でクロスさせて、ぶつかって来た肉をブロックする。が、シューベルト、ルル家と一緒に弾き飛ばされた。
合体膨張どすこいが、さらに足を高く上げる。
黒子が、合体膨張どすこいの顔を指で指して叫ぶ。
「あー、なんで喋るのかと思ったら、じい様の入れ歯をはめているのです!」
カイトはどすこいの糸のような目の前に姿をさらし、緋色の大きな翼をはためかせた。足を踏み落とされる前に、翼でペシペシとどすこいの頬を張る。
「おらっ! 入れ歯を返せ」
顔まわりの水分と一緒に、じい様の入れ歯が飛んだ。
ルルリアとチェルシーが必死になって排水溝に詰まったどすこい肉を取り除き、水位が下がる。
合体膨張どすこいが四股を踏んだ。
津波こそは起きなかったが、肉の揺れが最前列に立ち戻ったベネディクトとシューヴェルト、ルル家にまた襲い掛かる。
ずいっと、追儺が三人の前にでた。
「そこまで!」
どん、と波打つ肉に胸からぶつかって返す。
互いの体が離れ、仕切り直しとなった。
ぶよぶよ揺れるどすこいに対し、追儺は背筋を伸ばして胸を張り、腰を割って前かがみになる。どすこいを下から睨みあげながら、左手を浴床につけた。そして、ゆっくりと右の拳も降ろしていく。
「はっ!」
気合いとともに上体を伸ばした。肉に肉を叩きつける重い音。こんどはしっかりどすこいの体に腕を回して四つに組む。
「うぉぉぉ!」
追儺はどすこいの体を高く持ちあげると、浴槽の角に頭を叩きつけた。
もち肉玉が浴場いっぱいに飛び散った。
シューヴェルトが首をゆるゆると振る。
「何とか終わったようだが……はぁ、問題はこの浴室の状態だな」
●
早期に張った結界のおかげで、まったく被害が出なかった女湯を借り切り、イレギュラーズは戦いの汗を流した。もちろん、女性陣優先で。
男性陣は男湯で、女湯から聞こえてくる楽し気な鼻歌を聞きながら、修繕と清掃に追われていた。
銭湯の主とじい様、それにコワいお兄さんが、脱衣場からイレギュラーズに声をかける。
「みなさーん。よく冷えた牛乳とコーヒー牛乳、それにフルーツ牛乳をどうぞぉ!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした!
町の衛生はイレギュラーズの活躍によって守られました。
どすこいをたいじして、なおかつ銭湯の修繕までやってくれたみなさんに、町民たちがこぞって感謝していますよ!
で、どすこいの正体は……。
またのご参加、お待ちしております。
GMコメント
●依頼条件
・松の湯が再建不能になってしまう前に、どすこい(肉腫)3体を倒す。
・逃げ遅れのじい様と怖いお兄さんを助ける。
まだ湯船は潰れていません。仕切り壁も無事です。しかし、時間の問題です。
●敵……どすこい3体
鏡餅を重ねたような体形。
手足はありませんが、柔らかい体を伸ばして攻撃してきます。
お風呂が大好き。
水分を吸収して膨れるゲル体質で、どんどん巨大化します。
3体とも、一番大きな湯船につかっています。
【てっぽう突き】……物/中単、ノックB。体中どこでも伸ばすことができます。
【がっぷり】…………物/近単、麻痺。どーんとぶつかってきます。
【波打つ肉体】………物/近列、ぶるんぶるんの肉にぶたれます。
●松の湯
町で一番古い、老舗銭湯。
男湯の広さはテニスコート一面分あります。
大風呂の他に、薬湯や冷泉、サウナ室まであります。
●その他
・逃げ遅れのじい様(すっぽんぽん)
どすこいに挟まれて湯船にいます。どこかに入れ歯が転がっています。
・男気のある怖いお兄さん(すっぽんぽん)。
背中に覚悟を彫った怖いお兄さん。男湯の天井に張りつけられています。
時間が立てば重力に引かれて勝手に落下するでしょう。
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