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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>黒き瞳に何を残すや

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 男が二人、畦道を走っていた。
 振り返ってみれば、人影はない。
「巻いたみてぇだな……!」
「このままいけば廃村があったはずです。
 兄者、そこまで行こう。ここじゃあ流石に休めません」
「それもそうだな……」
 兄者と呼ばれた鬼人種が頷いて弟であろう鬼人種を連れて再び走り出す。

 どれくらい走っただろうか。
 月は既に中天にかかり、やがて黒が満ちるだろう。
 視線の先に見えてきた廃村に二人は駆け込んでいた。
 ひと休みを入れ、これからどうするか二人で相談しあっていたその時だった。
 ずしりと、何か音がした。
 重いその音が何かは分からない。
 だが、盗賊として生きてきた勘が拙いと直ぐに判断した。
 咄嗟に身を屈め、弟の方が窓部分に歩み寄る。
「兄者……見ろ」
「あん?」
 弟の言うように窓に目から上だけ顔を出してみれば、女がいる。
「なんだ――ありゃあ」
 複数のナニカを――鬼人種に似て非なるナニカを引き連れた女だ。
 その視線はまっすぐにこちらへ――
 ぞわりと、背筋が凍る。
 拙い拙い拙い! あれは駄目だ。
「声を出すなよ? いや、恐らくはもう気づいてるんだろうが……」
「分かってますって……しかし、あれは一体」
 顔を戻して弟の方に言う。
 その時――扉が吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「ぁ――」
 扉を粉砕した破城槌のようなソレが腕だと直ぐに判断することは叶わなかった。
 腕が引いていくのに合わせて、ゆらり、女が姿を現しこちらに視線を向ける。
「――――貴様らがかつて京で騒がせた二人組の賊であろうか?」
 近づいてきて、問われた。
「か――ッ」
 呼吸ができない。
 目の前に立つ女は――歪に伸びた角を一本持つソレは。
 どうという事もなさそうにこちらを見下ろしていた。
「……まぁ良い。どうであれ――」
 女の手に、一本の刀がある。
 久しぶりに感じる死への恐怖が視野を狭めていたのを、今更になって男は気づいた。
 そしてもう一つ。いつの間にか、妖力を帯びた刃が胸元に突き立っていた。
「カヒュ――ッ」
 口から血が零れ出る。身体が熱く痛む。
 ずきずきと疼くようなソレが、広がっていく。
 熱が全身を駆け巡る。意識が――零れ落ちていく。
「ぐ、ぐぐぅぅ……」
 痙攣する体で突き立つ刃を引っこ抜こうと試みるよりも前に、ナニカが抜けて落ちていく。
 全てが溶ける。いやに耳につく鳶の声が最後まで脳裏に響いていた。


「新田様、ちょっとよろしいですか?」
「はい、なんでしょう」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は不意に話しかけられて反応し、振り返る。
 そこにいたアナイス(p3n000154)は数枚の資料を手に彼の方に近づいた。
「はい、新田様のおっしゃられたように妖刀・鬼喰を用いられた複製肉腫の事件が
 どこかで起きていないか探っていたのですが……一件、それっぽいのが見つかりました」
「ぽいというと?」
「ええ、残念ながら彼女の姿が見受けられないのです。
 なので、既に発生してしまった複製肉腫を倒していただく依頼になってしまいますが……」
 少しばかり歯切れの悪い言い方だった。
「何かございましたか?」
「いえ……実は、こちらの案件なのですが、怪しい点があるのです。
「怪しい点、といいますと……」
「はい。彼らは我々がこの国に来るよりもかなり前に捕縛され、監獄に収監されていました。
 盗賊であり、強盗と殺人を重ねてきた大悪党で、極刑の身でした」
「つまり、その彼らは何かのタイミングで脱獄したと?」
「はい。……それに、彼らが留まっている廃村もおかしいのです。
 この廃村、京からそれほど離れていません」
「――なぜ、刑部省の方々が向かわないのか。
 いえ、そもそもなぜ取り逃したのか……ということですか?」
 そんな思いが過る。どうやら彼女の方もそう思ったようだった。
「ええ……それに、これが一番の不穏なのですが、現場には赤い鬼しかおりません。
 彼ら、というように、件の犯人は双子の鬼人種でした。
 しかも、確実に二人とも逃げおおせているのです。なので……」
「片方だけしか現場にいないのはおかしいと、そういうことですか」
 寛治の言葉にこくりとアナイスは頷く。
「嫌な予感がするんです。何か特大の邪悪な思惑があるような……そんな予感が。
 彼にそれを聞くことは敵わないでしょうが……くれぐれもご注意ください」
 珍しく怪訝そうに顔をしかめながらアナイスはそう締めくくった。
「そういうことですか……分かりました。直ぐに向かいましょう」
 そんな寛治の言葉にアナイスが頷いた。

GMコメント

さてこんばんは、春野紅葉です。
アフターアクションありがとうございました。

はてさて、運が良かったのか、あるいは……?
それでは早速詳細をば。

●オーダー
黒瞳鬼の討伐

●戦場
近年になって廃墟された村です。
住居の類などはほぼそのまま残っています。
遮蔽物などに利用可能です。

●エネミーデータ
【黒瞳鬼】
3mの巨躯をした赤肌黒瞳の鬼です。
元は極刑を言い渡された犯罪者ですが、もはや人としての性質は皆無。
獲物のない廃墟にて憎悪に猛る化け物と化しています。

物攻、神攻、命中などに秀でたアタッカー型です。
EXA、防技、抵抗、反応は並み、CT、回避などはやや低めです。

<スキル>
轟気:物自域 威力中 【ショック】【崩れ】【恍惚】【識別】
鬼眼之呪:神超単 威力小 【万能】【猛毒】【業炎】【麻痺】【呪殺】
鬼闘術:物近単 威力大 【ブレイク】【スプラッシュ2】
鬼気剛腕:神中貫 威力中 【万能】【致命】
呪躰変生:自付与 【棘】【物攻小アップ】【神攻小アップ】【防技小アップ】【抵抗小アップ】【自身にダメージ500を付与(デメリット)】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <巫蠱の劫>黒き瞳に何を残すや完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月12日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

咲々宮 幻介(p3p001387)
咲々宮一刀流
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
散々・未散(p3p008200)
L'Oiseau bleu
天目 錬(p3p008364)
魔剣鍛冶師
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
花榮・しきみ(p3p008719)
荊棘

リプレイ


 獣の声が響く。いや、獣にも似た声の方が正しいか。
 ざわつく濃密な気配を放つそれの姿が、村の中央にあった。
 月の明かりに照らされ、赤い肌が映し出された。
 射干玉のような黒がイレギュラーズを見る。
「因果応報とはいえ、ああまでなっちゃうのはちょっと可愛そうですね……」
 月に照らされる赤い肌を見据える『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はファンシーな傘――に似せたライフルを構えると、引き金を引いた。
 ありったけの弾丸が隆々とした鬼の肉体に突き刺さっていく。
 しにゃこの砲撃を受けて応じるように雄叫びを上げた鬼の前へと、最初に躍り出たのは『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)である。
「堕ちる所まで堕ちたか、もはや畜生にも劣る化物に御座るな。
 なればこそ、此処で終わらせてやるのも我等が務め……一思いにその身を華と咲かせてやるとしよう」
 鏡花水月に手をかけ、疾走。軽い踏み込みの後、振り抜くは無形の術。
 まるで流水の如き留まることなき斬撃が黒瞳鬼の弱点を暴き立て深い傷を叩きつけていく。
「紫を追っていたら、こちらはこちらで別口の事件の事件の匂いがしますね……」
 遠くレンジを取った『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は、敵と周辺の様子を合わせ見ながら、少しだけ考えを纏めていた。
 ちょうど都合のよさそうな建物の上に上がり、黒傘に仕込んだ銃の引き金を引いた。
 一弾一殺と伝わる妙技が鬼の頭部に叩き込まれた。
 鬼が雄叫びを上げる。
 苦悶にも聞こえるその声の直後、赤い肌に黒い文様が浮かび上がる。
 強力な呪性を帯びた文様を纏い、拳が幻介へと振り下ろされる。
「……元から極刑を受けた身か、この様な言も無駄で御座ったかな」
 幻介は振り下ろされた拳をするりと躱し、ついで振ってきたもう一方の拳の軌道を刀で逸らしてみせる。
 殺しきれなかった衝撃に身体が軋む。
「何だか怪しい雰囲気だね……倒して終わり……となればいいけれど」
 暴れ出した鬼を見た『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はブレスレットに魔力を通しながら、敵を見上げた。
(そうもいかなさそうな……気を抜かずにいこう!)
 空色の石が輝き、三角の魔法陣が浮かび上がり、同時に花を象るブレスレットのより一層と輝いた。
 黒瞳鬼の肉体に半透明な花が咲く。瞬く間に枯れ果てていくその虚無の花が黒瞳鬼の身体から呪性を解き放つ。
「さて、どんな思惑があるかは分からないが。まずは目の前の問題だな」
 『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は練達上位式に信号弾を持たせて村の物見櫓らしき場所に放つ。
 姿の見えぬ双子――奇襲を警戒してのことだ。
 自らに再生力をもたらせる魔術を行使すると式符より一枚の鏡を創鍛させる。
 それはまるで日中の如く鮮やかに陽光の輝きを放ち、黒瞳鬼の頭部に光線となって注がれる。
「――さあ、貴方の相手は私です。私を殺してごらんなさい!」
 愛剣を抜き放ち、身を躍らせた『月下美人』久住・舞花(p3p005056)が宣言と共に黒瞳鬼の前へ。
 黒瞳鬼がうめき声のようなものを上げながら舞花を見下ろした。
 感情探知で憎悪の感情を探る『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)は心酔するお姉さまの事を思って不機嫌さを隠していない。
 そのまま練達上位式のかわうそ君を偵察に出すと、黒瞳鬼の方を見据えた。
「罪人の罪も知らずに私は其れを悪とは断じませんよ。しかし、肉腫と言うなれば別です。
 お姉様が大層困っていらっしゃるのです。折角の豊穣で善からぬ者が存在すると優雅に遊べぬ、と」
 更なる式符より呼び出すは冥闇の黒鴉。
 まっすぐに飛んだ鴉はまるで黒き矢の如く疾走し、黒瞳鬼の瞳へと炸裂する。
(激しい、憎悪。嗚呼、肌がぴりぴりと震える様だ)
 指揮杖を握る『午睡』散々・未散(p3p008200)は痛ましそうに眉を細めた。
(恐怖したのでしょう。痛んだのでしょう。様々な感情を分かち合った筈の双子。
 一層、何の様な悪党でも構いやしませんので逃げ果せてれば良いのですが)
 哀れみにも似た視線を向けた未散の指揮に応じるように突如として形成された土の壁が黒瞳鬼を包みこむように倒れていく。
 それはまるで土葬の如く、黒瞳鬼を取り囲み、身動きさせぬように閉じ込めた。

 しにゃこは敵へ攻撃するたびに身を隠していた。
 その超聴覚にも、温度視覚にも黒瞳鬼以外の敵の姿は見えない。
 けれど、警戒を解くつもりはなかった。
(あれには近づきたくないですね!)
 前衛の仲間たちとの間で繰り広げられる敵の攻撃、そのたびに余波が伝わってくる。
 あんなものに触れたくない。
 敵の様子を見る。こちらを見ていないことを確かめ、引き金を引いた。
 鬼の弱点を暴き立てるような文字通りの弾幕が放たれ、少なからぬ傷を刻む。
「やってくれたな。だが、此処からが拙者の本番で御座る……!
 せめてもの慈悲として、その粗末な首……我が愛刀の露と消してやろうぞ」
 多くの傷を受けた幻介はひょうひょうとした様子を崩さぬまま、全身から闘気を剥き出しにした。
 走り出した幻介は近くにあった建物を蹴り飛ばすようにして跳躍すると、最後の一歩を踏み込み代わりに刀を走らせた。
 まっすぐに横薙ぎに打ち込まれる一筋は、鬼の首あたり目掛けて傷を残す。
 寛治は高台となる建物から再び弾丸を放つ。
 必殺を狙う熾烈な魔弾が黒瞳鬼の胸元をくり抜くように撃ち抜いた。
「もうひとり、一緒に逃げた人がいるんでしょう? どこにいったの?」
 アレクシアは視線を黒瞳鬼と合わせるようにして問いかけた。
 言葉は分からなくとも、思考ならば――他心の心得を用いた問いかけだ。
『――――れた』
「なに? なんて言ったの!」
『ガァァアア!!!! 憎い憎い! 許さぬアァァア!!!!』
 ぎろりとした瞳が、アレクシアを射抜く。
 思考を読まれたことに対する嫌悪感か――
 舞花は静かに敵の行動を見据えていた。
 振り抜かれる剛腕。まっすぐに迫る拳へと合わせるように身を躍らせる。
 後の先を撃ち抜く神速の一太刀が黒瞳鬼の腕を深く切り裂いた。
 痺れたように腕を伸ばしたままの黒瞳鬼へと、残された勢いに任せて二の太刀を放つ。
 紫電を纏った斬撃を受けた黒瞳鬼が悲鳴らしき雄叫びを上げた。
(しかし自業自得とはいえ、妖刀で肉腫に感染……ふむ、そういえばギルドメンバーから聞いたことがあるような気がするな?)
 黒髪の青年と青い翼の青年の話を思い出しながら、錬は敵の動きを見据えて再び式符を切る。
 形成された陽鏡が黒瞳鬼の頭部を焼き払い、大きな隙を見せたその身体を強烈に焼き付ける。
「ところで、どうしてこんなことをなさったのか聞いても?
 興味本位なのです。同じ鬼同士ならば教えてくださいませんか?」
 黒鴉をけしかけたしきみは黒瞳鬼に対して声をかけた。
『ガァァァア!!!!』
 返答はない。あるのは怒号のような雄叫びだけだ。
 これには最早人語を解する知性など存在していない。
 対話を求めるのであれば、アレクシアのよう意識へ直接問う他ない。


 未散が形成するはあらゆる苦難を掻き消す大号令。
 多くの状態異常を消し去り、尽きかけた気力を取り戻すソレは魔性さえ帯びる。
 イレギュラーズの戦いは上手く行っていた。
 警戒していた増援が来る様子が全くないこともあって、黒瞳鬼への攻撃だけで済んでいることが大きいといえる。
 舞花による怒り付与を黒瞳鬼に弾かれたこともあったが、個人のやるべき役割を明確にできていることもあって、後衛への被害は限定的だ。
『グゥゥゥゥゥァァアアァ!!!!』
 黒瞳鬼が吼える。
 しにゃこは弾丸を傘に籠めなおす。
 大盤振る舞いとばかりにぶちまけまくったことで、もうほとんどの弾丸がない。
 ここからは節約していくしかあるまい。――とはいえ、黒瞳鬼の様子を見れば危機的状況とは言うわけでもない。
 黒瞳鬼は傷を多く受けて動きが鈍りつつある。このままいけばすぐに終わらせられよう。
 遠くから放った弾丸が傷深く受けた黒瞳鬼の露出した肉部分に吸い込まれていった。
(油断はできませんが、ここまで来ないとなると、彼は放置されているという可能性も……)
 寛治は弾丸を再び胸部目掛けて撃ち込むと共に思考する。
(では彼を放置する理由とは? ……何らかの実験でしょうか)
 思考を続けながら、余念なく次弾の準備を整えていく。
 アレクシアは魔力を籠め上げると調和の魔術を発動させた。
 白黄の花が開く。美しき花の温かさが、疲労と傷の蓄積した身体を癒していく。
『グルゥゥゥォォ!!!!』
 黒瞳鬼が雄叫びを上げたその瞬間、轟と空気が迸る。
 続くように舞花へと黒瞳鬼の腕が伸びる。
 尋常じゃない圧力で打ち込まれた腕に返すように刀を閃かせる。
 錬は幾度目かになる式符を切る。
 そのまま邪を照らす陽光の鏡を掲げると、再び光線となって陽光が注がれる。
 照りつけられた黒瞳鬼の肉体が大きく焼けていく。
「分かり合えないなら死んで貰うだけですが」
 一時的にやや前に出ていたしきみは後退すると、式を放った。
 それはこれまでとは違う不可視の力。
 不可視の悪意が、ボロボロの黒瞳鬼へと必殺を狙い放たれる。
 舞花は爆ぜるように間合いを詰めた。充足させた『気』をあらん限り籠める。
 強引にギアを叩き上げて撃ち込む紫電の閃雷が迸り、ただでさえ傷を負った黒瞳鬼を大きく切り裂いた。
 そのまま自らの身体を起こすようにしてもう一歩前へ。
 一条の雷光の如き紫電の輝きは刺突。黒瞳鬼の身体がぐらりと揺れる。
 黒瞳鬼がうめき声を上げた。再びその体を覆いつくす呪性。
 それを見た 未散は落ち着いた様子で指揮杖を握り振るう。
「其の一切の艱苦、辛酸を嚥下するよりも早く。
 吹き消しましょう、嵐の様に。刈り取りましょう、蝋燭番の様に!」
 杖に導かれるように顕現した熱砂の嵐が黒瞳鬼を中心に吹き荒れる。
 苛烈な嵐が黒瞳鬼を汚染する呪性を再び駆逐した。
「地獄の底で閻魔に土下座して詫びでも入れてこい……まぁ、許されるとは思わぬで御座るがな」
 幻介は踏み込みと同時に走り出す。
 速度を跳ね上げたその足さばきが残像を生みだし、刹那の内に刀を払う。
 綺麗に入った斬撃を受け、黒瞳鬼の脚部が大地に落ちた。


 アレクシアは集中力を高め続けた。
 脳細胞を消費していくかのような不快感にズキズキと頭が痛む。
 それでも、聞くべきことがある。
 だから――ぐっと自分を奮い立たせ、鬼を見た。

――――――――
――――
――

 倒れている。
 これは鬼(じぶん)か。
 身体がきしみ、頭が揺れる。
 意識が解け、全てが無くなっていくその最中。
 顔を動かして、女が弟の前に立つのを見た。
 壁が吹き飛び、そこから伸びてきた腕が、弟を握り締めて外へ消えていく。

――
――――
――――――――

「双子の片割れはどうなったんでしょうか」
「ええ……結局、現れませんでしたね」
 しにゃこの言葉に舞花が頷いて答える。
「敢えてこの状況を放置しているとするなら――何らかの実験などが疑われます」
 それに続けるように寛治は言葉をつなげた。
 地元のダチコーの伝手で集めようとした情報の殆どはかなり浅かった。
 この村が廃れたのは単純に人口減少だ。
 ほとんどの人々は京に居を移してしまった。
 それ以外の刑部省の動かない理由、二人組の脱走経緯に関しては分からなかった。
 ――いや、正確に言えば、分からないほどに厳重に隠されていた。
 バレては困るナニカがあるのは明白だったが、それを調べるには時間が足らなかった。
「あとの可能性としては、仕立て人が連れて行ったか――」
「――うん……そうみたい」
 舞花の推察に答える声がした。
 振り返れば顔を青ざめたアレクシアがいた。
「……もう片方の人は、女の人に連れていかれたみたいだよ。
 もうこの辺りにはいないと思う」
 深呼吸をしながら、ギュッと胸元を抑え、視線を後ろに。
 倒れた鬼の魂は、もうその輝きを持っていない。
 死にゆく魂のぎりぎりに覗いた彼の記憶はどこまでも悲嘆と怒り、悔恨に満ちていた。

 未散はせめてもの弔いをと鬼の下へ近づいていく。
 未練を残すやもしれぬこの魂が、望郷の地に骨を埋めることが叶わなくとも。
 それをせずにはいられない。
 錬も同じように弔いをするつもりだった。
 肉腫に感染しようと、憎悪にまみれようと死ねば仏。
 それは変わらないのだから。

 イレギュラーズの多くが鬼を弔う中、幻介は視線を上げた。
「あの鳶はなんでござろうな」
 振り仰いだ視線の先、やけにうるさい鳶が空を旋回していた。
「そういえば、ずっといるな」
「私も気になっていたんです」
 かわうそ君を抱きかかえたしきみと錬も同じように空を見上げた。

●????
「くっくっ……あれが神使という奴らか。
 なるほどな……あの女よりは話が通じそうだ」
 それはカムイグラのどこか――男が笑っていた。
 目を閉じて座していた男は、そっと目を開いて封筒らしきものを用意する。
 やがて、男の下に狩衣の人影が現れる。
「長政様。お呼びでしょうか」
「適当な罪人を逃がしてあの女に渡せ。人斬り、それも腕がいい者がよかろう。いるか?」
「はい、いくらでも――」
「適当に――そうだな、運んでおけ」
「承知いたしました」
「あぁ――それから、これをあの無能な蛇へ渡せ」
 男の言葉に応じた人影が瞬く間に姿を消した。
 手に握っていた封筒は既にない。
「面白そうなことになってきたわ」
 細く長い紙に何かを書こうとして、ふと男が窓辺に視線をやる。
 差し込む月明かりが窓辺を照らしていた。
「満月は近いか……さて。今後も使われてやるかどうか、見極めさせてもらおう」
 ぽつりと呟いた言葉が、窓から入ってきた風に乗って消えた。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹

状態異常

久住・舞花(p3p005056) [重傷]
月下美人

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

MVPは最も効果的に情報を引き出した貴方へ。

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