シナリオ詳細
再現性東京2010:球技感染症
オープニング
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「何を言っているのかわからない、と言う顔だな」
『焔の因子』フレイムタン(p3n000090)は揃ったイレギュラーズたちにさもありなんと頷いて見せる。告げた彼自身とて何を言っているかよく分かっていない。けれどもaPhoneを介しての指令にはそう書いてあるのだからそのまま告げるしかないのである。
『悪性怪異:夜妖<ヨル>出現。球技感染症を食い止めろ』
この再現性東京において、球技感染症なるものを調べたとしても『通常は』何も出てこないだろう。非日常を受け入れられなかった人々がそのようなものを許容するはずもなく、人によっては目撃しても白昼夢を見たと言い張るかもしれない。
そのような街に潜む怪異──非日常を打ち倒す専門家としてイレギュラーズは呼ばれているわけだが、敵の実態を知らなければ対処も難しくなる。イレギュラーズたちは説明を、とフレイムタンへ視線で請うた。
「俺も又聞きにはなるが……まず、ヨルが出現するのはこの体育館だ」
振り返るフレイムタン。一同は今立っている体育館全域を見渡す。広い室内には日が差し込み、空調(エアコン)なるものが効いていてもやや厚い。左右にはバスケットゴールが設置されており、脇には体育館倉庫があるようだ。
「この学園にも体育という授業がある……らしいな。体を動かす時間だが、ボールで競うこともあると聞いた」
この辺りに関しては精霊種たる彼よりも、イレギュラーズの方が知っているかもしれない。再現性東京と近い環境に身を置いていた旅人(ウォーカー)なら尚更だろう。体育館では雨天時の体育を行う他、マット運動や球技をして過ごすことができるのである。そのため体育倉庫にはバスケやバレー、ドッヂボール、卓球といったものの備品が詰め込まれていた。
「備品を使えば当然片付ける訳だが、ここで片付け忘れられたボールがあったりする。
……が。それは本当に『片付け忘れたボールなのか』?」
フレイムタンの言葉にイレギュラーズは目を瞬かせ、気づいた者は表情を改めたことだろう。この片付け忘れたボールこそ、怪異の一端である。
たったひとつ忘れられていたボールが、次の日はふたつに。さらに次の日はみっつに。少しずつ増えていくボールはもはや悪質と呼ぶべきものである。何者かが悪さをしているのだろうとある職員が真夜中にこの体育館へ向かったそうだが、次の早朝に全身打撲の大怪我をした状態で発見され、病院へ搬送された。
「まあ状況からして、転がっているボールで相当打ち付けられたんだろう。幸か不幸か……はわからないが、職員はその夜の事を何も覚えていないそうだ」
小さな怪異ならば目を瞑れたかもしれないが、こうして人へ害をなす以上討伐は避けられない。故に呼ばれたイレギュラーズ、なのである。
- 再現性東京2010:球技感染症完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月11日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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球技感染症。その言葉はあまりにも聞き馴染みのない言葉だった。
「学ぶ価値が大いにあると判断します」
顔に当たる部位──モニターへ顔文字を映し出す『痛みを知っている』ボディ・ダクレ(p3p008384)。詳しいことは不明だが、日に日に片付けられないボールが増えていくという事案らしい。人間は使ったものを片付けることが当たり前と言うが。
「体育館に散らしっぱなしか」
どういう意味なんだとしきりに首を傾げていた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は、知った事実になんとも言えない顔をする。やっていることは地味だが、それで怪我人が出ているのだから気を緩められるはずもない。
「夜妖の名前としては……そう、騒霊の類型のようなものでしょうか?」
「今のところは夜中に見に行かなければ危険はなさそうだけれど……」
『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)の口にした『騒霊』とはポルターガイストのこと。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はうーんと小さく唸る。毎日少しずつ増えるボール。果たして、放置しておいて安全な保証はあるだろうか?
「体育館が埋まることはそうそうないだろうが……そのうち、別の場所から持ってくるかもしれん」
「あ、まだ体育館にあるボールなの?」
焔の問いに『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は頷く。備品管理台帳では『まだ』ボールの数は合っているらしい。夜妖の一部というわけでも、毎日どこからか持ってきているということもないようだ。
「ひとつ増えたボールがふたつになって、みっつになって、よっつになって……今、いくつあるんだろう?」
『腐女子(種族)』ローズ=ク=サレ(p3p008145)がフレイムタンへ視線を向ける──もちろん擬態している──と、彼は少なくとも1ヶ月と答えた。1ヶ月、だから30日程度か。今宵の体育館にも最低30はボールが転がっていると見て良いはずである。これだけボールがあれば、誰もが好きに遊んで尚余りある数だ。
「わたしはバスケットボールが好きだな。ルールは覚えやすいし、たくさん汗かけて走れて楽しいし」
「オレは断然サッカーっスね。ボールを蹴る感覚も、ゴールに決まる瞬間も堪らねえっスから!」
『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)と葵は球技について語り合う。葵は元より身近にあったし、ココロも希望ヶ浜学園で生徒として過ごすうち多少の知識は得た。とは言えまだまだ知らないことも多く、故に先ほどの『ルールは覚えやすい』という言葉も出たのだろう。
(お片付けされなくて……大切にされなくて、寂しくなってしまったのでしょう、か)
『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)はそっと視線を伏せる。こうして楽しく遊んでもらえる一方で、遊んでもらえなかったり放置されたボールもあったはずだ。そう考えると少しばかり、可哀想で。けれども同情で解決するほど優しくないことも知っている。
「お片付けしない悪いヨルは、メイ達がお片付けするのですよ!」
『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)はえいえいおー、と拳を突き上げた。その昔、母に片付けをしなかったことで怒られた記憶は未だ鮮明である。もう散らかしたままということはなくなったが、だからこそ散らかしたボールを放っておけないのも事実である。
「色々なことは行ってみてから考えよ」
「はい。全霊を持って依頼を遂行します」
体育館前にたどり着いた一同。上履きを体育館履きに変え、ボディが扉に手をかける。皆の様子を見て一思いに開いた先は、何も見えない闇。メイメイのファミリアーが飛び込み、天井近くまで飛翔するがそちらの視界も真っ暗だ。かちりと懐中電灯のスイッチを入れるメイメイの傍ら、メイはフレイムタンを振り返る。
「先生! 明かりをお願いしたいのですよ!」
「ああ、確かそっちに──」
体育館へと1歩足を踏み出したフレイムタンの顔面すれすれをなにかが飛来し、脇の壁でバウンドする。思わず固まったフレイムタンは視線を巡らせた。コロコロと転がるバスケットボールはやけに勢いづいていたように感じたが、もしあれが直撃していたのなら。
「きっかけはボールを動かす事、じゃなくて体育館に入る事か」
「反響音は十分。明かりは心許ないですが」
ヴァーミリオンを構えるローズの視界をボディのモニターがぺっかり光って補助する。ほとんどは闇に包まれているが、無いよりは余程良い。同時にボディの放つ蒼き彗星が闇の中へ叩き込まれた。
ダン、ダダン、ダン。ボン、ボボボン。
彗星に打たれたか、複数のボールのバウンドする音が響く。その中を飛び出してきたバレーボールにメイはキラリと瞳を光らせ、腰を落とした。
「行くのですよ! ソニックエッジスパイク!」
小気味良い音を立ててボールが飛んでいく。直後、フレイムタンによって明かりがつけられた。
「え……?」
「これは……」
「幽霊みたいっスね」
葵はピンポン玉を受けながら呟く。あまり痛くないのは球の大きさゆえだろう。ボールで襲ってくる人影たちは必ず自らのボールを手元へ戻しているらしい。これだけ同じようなボールがありながら器用なことである。
「それにしても、多すぎるだろう」
些か呆れたようなフレイムタンへ抗議のようにバレーボールが力強く叩きつけられる。はっと振り返る焔をフレイムタンは手で制した。
「すごく痛そうな音だったよ!?」
「いや、まあ……痛いな。受けないよう気をつけてくれ」
顔をしかめるフレイムタン。さすがにこればかりは痛かったらしい。イレギュラーズはボールを受け、時に跳ね返しながら怪異の観察を続ける。
「どこかに、敵が潜んでいる……と言うよりは……」
「全部でひとつだね」
メイメイの呟きをローズが拾い上げる。個として分かれてこそいるが、その意思はひとつとしてまとまっている。自由に遊び始めれば皆が遊び始めるし、誰かを狙えば集中攻撃となる。体育館には隠れられるような場所もさしてなく、何より目の前に『悪意』は凝り固まっているようだった。
イレギュラーズの総意が決まったならばあとは討伐するだけ。ココロは素早くリリカルスターを飛ばす。虹色の尾を引いたそれは敵の1体へこつんと当たった。それはたった1体だけのはずだが、ざわりと周囲のボール──を持つ幽霊のようなもの──もココロへ向かって動き出す。
「フレイムタンさんはサイドからお願い!」
「承知した」
頷いたフレイムタンが駆け出す。その対角線へ走りながら、焔は1枚の札を放った。ぺたりとボールに張り付いたそれは炎を吐き出し、燃やすのではなく絡みついて束縛していく。
「借り物だったら困るからね! さあ、大人しくなってもらうよ!」
戒められるボールと人型。少し離れた場所ではボディのブルーコメットが床へボールを押し付ける。エエメスドライブでボールを無力化していたメイメイはボディの下で力を無くすボールにはっとし、持っていた袋の口を開いてアピールした。ボディはそれを見てボールを拾い上げ──ついでに周囲のボールもいくつか持って──メイメイの持つ袋に入れる。元あったカゴに入れても構わないが、こちらの方が飛び出してこなさそうだ。
(こうなってしまった状況を、変えられたら、本当は……)
夜妖がどうしてこのような形として現れたのかわからない。この状況さえなければ討伐せずに済んだかも、と思いながらメイメイは袋の口をしっかりと縛った。これ以上誰かを傷つけてしまわないように、と。
「どっからでもかかって来い、全部ダイレクトシュートしてやるっスよ!」
自らのサッカーボールを見失わないようにと気を付けながら葵が声を上げる。スポーツマンとしてはサッカーボール以外のボールを蹴ることに思う事がないわけではないが、そんなことを言っている余裕もないだろう。
(まだまだ多いですね。出ているボールが全て夜妖となっていることが不幸中の幸いでしょうか)
ただのボールが混ざっていたら、きっとやりづらくて仕方なかっただろうから。ボールを薙ぎ払いながらも冬佳は癒しの術法を放つ。水で形取られた華は仲間の打撲痕を包み、痛みを癒していくようだ。
「こういう球技で感染していく夜妖なのかな?」
よく分からないや、とローズはシールドバッシュでボールごと人影を吹き飛ばす。球技をしているからなのか、それとも球技で使うボールを対象にしているからなのか。規模が大きくなっていたのは理解しているが、その過程がイマイチ想像できないのだった。
そうしてボールを対処していく中、ひときわ煌めいている存在がひとつ。額を流れた汗をぬぐい、体操服姿のメイはまだまだと構えを取る。
「コーチ! メイはまだやれるのですよ!」
テニス、バレーボール、サッカー。向かってくるボールをそれに合った動きで反撃していくメイは屈しない。彼女の胸には輝くスポ魂があるのだから!
多少の打撲痕はどうしようもないが、彼らの尽力によって今宵『球技感染症』は終わりを告げることとなった。
●
バウンドした音が体育館内に響き、やがて消えていく。一同はようやくの静けさにほう、と息をついた。
「お片づけの前に治療ですね」
冬佳は順番に仲間たちを呼び、回復を施していく。あとは後片付けを残すのみ──だが。
「ちょっとなら遊んでもいいのですよね?」
きらりん、とメイの瞳が光る。悪い子の目だ。でもでも最後には片付けるから、良いんです。
だってこんな真夜中にボール遊びをしたって誰にも怒られない。ここで素直に後片付けして帰ると思ったか!
「球技感染症が再発しないか、確認するのにも良さそうだね」
「ドリブルくらいならできますよ」
ローズの言葉にココロがバスケットボールを持ち、焔が感嘆の眼差しで彼女を見る。ボール遊びに疎い焔からすれば、ボールで知っている、ボールで遊べると言うだけですごいのだ。
ココロはバスケットゴールへ向かってドリブルしながら走り出し、不意にそちらへ背中を見せる。ディフェンダーがいるかのような動きである点を避けると、その勢いを殺さずココロは地面を蹴った。鎧の飛行力がその力を後押しし、身長が足りなくともダンクシュートを届かせる。
「おお~!」
「こういうの、格好良いよね」
ぱっと手を放して地面へ着地するココロ。転がったバスケットボールを拾い上げれば、メイが「やはり都会はバスケットなのですね!」と目を輝かせる。焔はフレイムタンを振り返った。
「フレイムタンくんもバスケットボールで遊んだことあるの?」
「遊んだことは無いが見たことはあるな。まだ数日とはいえ教師として入っているんだ」
「そうなの? それじゃあ一緒に遊んでみようよ!」
見たことがあるのなら多少は知っているはずだ、と前のめりな焔にフレイムタンはふっと笑いながら頷く。バスケ漫画に嵌っているのだというローズも加え、遊ぶのなら付き合おうという葵や混ざりたいとボディも共に遊び始める。真夜中の体育館にドリブルと靴の擦れる音が響いた。
そんな合間合間にメイメイと冬佳は無事なボールを1つずつ拾い上げ、皆が踏んでしまわない場所へ集めてから磨き始める。綺麗な方が気持ちよく使えるだろうから。
「これは、どう使うのでしょう……?」
少し柔らかな、それでいてしっかりとした芯のあるボールを拭いてメイメイは顔の高さまで持ち上げる。休憩に外れてきた葵がそれを見て「バレーボールだな」と告げた。首を傾げるメイメイに、葵は腕を使って飛ばすのだと教えてやる。
「こう……でしょうか。えいっ」
試しにと教えられたままにボールを飛ばしてみるメイメイ。しっかりとした弾力を感じたのち、ボールはポーンと高く飛び上がって──。
「とってこいですか!」
なぜかメイがそれに目を輝かせ、一目散に走りだした。あっという間にボールの真下まで追いついたメイメイはジャンプしてボールをキャッチする。
「とれたのです!」
「お、おみごと、です……!」
ぱちぱちと拍手するメイメイに得意げな表情。メイは山にいた時、犬に『とってこい』をよくしていたのだと言う。
「お姉ちゃんに投げてもらって、メイとワンちゃんで競争してたですよ!」
それは犬『に』というより犬『と』ではないだろうか。そう思った葵だが口にはせず、影へ隠れたボールを拾いに行く。余計な事は言わぬが吉なのだ。
皆の気が済めばようやく本格的な片付けだ。メイメイたちが磨いたボールを体育館倉庫へとしまい、焔は倉庫からモップを取り出して体育館の床を掃除する。
「ダメになってしまったボールは……」
「……あ、あの。良ければこれを」
メイメイが取り出したのは怪異を倒した際に使っていた袋。確かにこれへ入れておけば持ち運びが楽だろう。
「よし、これで全部っスね? もう片付け忘れはないな?」
「バッチリ!」
注意深く見渡す葵に焔はにっと笑ってみせる。ローズは「増えてないといいな」と呟くけれども、こればかりは明日次第。折角怪異を倒したのだ、これ以上は残っていないと信じたい。
フレイムタンよりカフェ・ローレットへ吉報が届けられたのは、次の日のことだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
皆も安心して体育館を使えるようになったことでしょう。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ヨル『球技感染症』の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●球技感染症
悪性怪異:夜妖<ヨル>の一種。真夜中の体育館に出没します。早朝に備品が転がっている他、真夜中にボールをつく音が聞こえてきたりするそうです。目撃者は記憶を失うまで滅多打ちにされました。
一般職員が大怪我をする程度ですので、そこまで強いとも思えませんが油断は禁物でしょう。
少しずつ感染していくように早朝転がっているボールは増えています。それだけのボール(あるいはそれを操る何か)が真夜中に動いているということでしょうが、少なくとも『1ヶ月前』よりしまい忘れのボールが確認されているということです。
●フィールド
体育館です。とても広く、戦うのには困りません。
傷を付けても『掃除屋』がどうにかしてくれますので、気にする必要もありません。
●NPC
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000090)
精霊種の青年。そこそこ戦えます。近接アタッカーです。
指示があれば叶えられる範囲で従います。
●ご挨拶
愁と申します。
無事に球技感染症を倒したらボールの片付けまでしてしまいましょう。誰もいないからちょっと遊んでもバレません。きっと。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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