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シナリオ詳細

再現性東京2010:青色の約束

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「にぃちゃんのうそつき! こんどプールいけるっていったのに!」

 白い病室の中に木霊する幼い声。
 五歳年下の弟の泣き顔。
 顔を真っ赤にして怒りながらこちらに向かってくるのを両親に止められている。
 兄である自分の病状を理解出来ないだろうからと、軽はずみな約束をしてしまったことを森田一清は後悔した。
 けれど、その約束は一清の願いでもあった。
 ――良くなったら、今度プールで遊ぼう。
 指切りをして。特別な願いを祈った。
 一般病棟からターミナルケアに移る数日前の事だ。

 漠然と自分は助かるのではないかという思いがあった。
 だって、漫画や物語の世界では主人公達は果敢に戦い悪に打ち勝っていたから。
 挫けない心を持っていれば、病気は治って行くのだと信じていた。

 治ったら思いっきり走ったり泳いだりしてみたい。
 学校に行って皆と勉強をして。修学旅行にも行って。
 中学に上がれば林間学校や部活も始まるらしい。
 水泳はしたことが無いけれど、きっと楽しいのだろう。

 不安に駆られ泣いてしまうことだってあった。
 けれど、最期の瞬間まで。一清は生きる事を諦めなかった。
 弟の浩二との約束を果たすのだと思っていた。

「やく、そく、プール……」

 それが一清の最期の言葉だった。


 夏の日差しはアジュール・ブルーの空に降り注ぎ。
 じっとりと湿った汗が頬をゆっくりと伝っていくのが分かる。
 遠くで蝉の声が威勢良く鳴り続け、アスファルトから熱気が立ち上がっていた。

「熱いですねぇ」
 暑さに僅かに頬を染めた『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)はイレギュラーズに笑いかける。
 希望ヶ浜学園までの道のりを共に歩きながら、廻は噂話を語り出した。
「この近くの学校に幽霊が出るという噂があるんです」
「あー、よくあるヤツだな?」
 イレギュラーズの言葉に廻はこくりと頷く。
 学校のプールに幽霊が出るなんて、ありきたりな噂話だろう。
 ちょっとした不思議があったらいいな。そんな思いは誰しもが持っているものだろう。
 現実(ファンタジー)を否定するこの希望ヶ浜の住人の中にも、きっとそういう思いは存在する。

「でも、今回はどうやら本物らしいんです」
「ってことは、出るのか」
 廻がこのような話を持ちかけてくるということは、それが依頼と成り得る話だったということだ。
 早朝の水泳部の練習に夜妖が現れたらしい。
「夜妖は一番健康的な男子生徒を狙ったそうです。幸いな事に、かすり傷で済んだようですが」
 その少年は恐怖と共にその夜妖の事を『兄』だと語ったという。
「兄?」
 少年――森田浩二には幼い頃に死んだ一清という名の兄が居た。
 小さい頃から病弱で、生涯の殆どをベッドの上で過ごした兄。
 死んだ頃のまま、小さい子供の姿ままでプールに居たのだと。
 浩二は助けに来てくれた教師に話したらしい。
 もしかしたら、自分に対して怒っているのではないかとも。

「じゃあ、今回はその弟君も一緒につれて行くのか?」
「いえ、一般人を巻き込むのは危険ですから」
 イレギュラーズの問いに廻は首を振った。
「でもな。それじゃあ、納得できないんじゃないか? 一清も浩二も」
 その声に廻は瞳を上げる。
 ただ、夜妖を倒すだけなら、イレギュラーズの実力であれば難しくないだろう。
 けれど、彼等はそれ以上を成すというのだ。
 病弱でプールで遊ぶ事を望んだ兄、わがままを言って後悔している弟。
 兄弟が納得する形でお別れが出来るように。
「俺達は浩二を連れていくぜ」
「あ……、ありがとうございます」
 その言葉に廻はイレギュラーズへ向き直り頭を下げた。


GMコメント

 もみじです。暑い日が続きますね。
 プールで遊びましょう。

●目的
 悪性怪異:夜妖『青』を鎮める。
 プールで遊ぶ

●ロケーション
 休日の早朝。中学校のプール施設。
 人気はありません。灯り、足場に問題はありません。プールサイドで戦います。
 プールには水が張られています。※引きずり込まれるので注意
 悪霊を倒し、夜妖『青』を鎮めれば遊ぶことが出来ます。

●敵
○悪性怪異:夜妖『青』
 十歳ほどの少年の姿をした怪異。(生前は森田一清という名前でした)
 プールで遊びたかったという思いが未練として残ってしまいました。
 周りの悪霊に影響され、恨みと共に健康的な人を攻撃してきます。
 悪影響を及ぼしている悪霊を倒し、力を発散させれば普通の幽霊に戻ります。
 約束を果たせば(一日プールで遊んであげれば)成仏するでしょう。

 至近物理攻撃、神秘オールレンジの攻撃を持っています。
 プールに引きずり込んでダメージを与えてきます。

○悪性怪異:悪霊×15
 プールに潜む怪異です。
 NPCを含む戦場の全てのものを攻撃します。

 至近神秘攻撃を仕掛けてきます。
 プールに引きずり込んでダメージを与えてきます。

●NPC
○『一清の弟』森田浩二
 近隣中学の水泳部の少年。プールサイドに居ます。
 一清が亡くなる少し前、兄と遊べない事に腹を立て喧嘩した事を悔やんでいます。
『にぃちゃんのうそつき! こんどプールいけるっていったのに!』
 当時、浩二は五歳でした。中学に入りその言葉の重さに悩んでいます。
 プールの幽霊が兄であれば謝りたいと思っています。

○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 浩二の隣に居ます。戦闘は行いませんが、いざとなれば浩二をかばいます。
 戦闘後は一緒にプールで遊べます。掃除は夜妖を見送ってから。


●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目は自由です。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:青色の約束完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月08日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
水底にて
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー

リプレイ


 見上げればアジュール・ブルーの空に飛行機雲が掛かっていた。
 本物の飛行機かは定かでは無いが、何かが空を飛んでいるのだろう。
 ありふれた光景。見慣れた風景。プールの塩素が鼻を擽った。

「夏といえばプール! 学校には幽霊! 水辺といえば悪霊にゃ!」
 薄茶の耳をピンと立てた『ニャー!』秋野 雪見(p3p008507)はドーナツを囓りながら頷く。
「というわけで今回は悪霊を倒してプールで優勝するわね!」
 キラキラとしたスプリング・グリーンの瞳が愛らしく細められた。
 口元に付いたドーナツの欠片を『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)がハンカチで拭き取る。
「んむ、む。……ありがとにゃ!」
「ほら、もうお仕事じゃぞ。食べるのは後にするのじゃ」
 アカツキの言葉にこくりと頷く雪見。少女達がふわふわはしゃいでるのは何とも愛らしい。
「……納得する、というのは大事なことじゃ。雪見みたいに素直に相手を受入れるのは難しい」
「そうなのかにゃー?」
 こてりと小首を傾げた雪見を琥珀の瞳で見つめるアカツキ。
「後悔を引きずったまま生きていくのは辛いことじゃからな」
「つらそうにゃ」
 アカツキは眉を下げた雪見の頭をぽんぽんと撫でた。
「降って湧いたチャンス、全力を尽くして二人を引き合わせてみせるのじゃ」
「うん。わかったにゃ!」

 暑い日差しの中、青い顔をしているのは『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)だ。
 ジルーシャは幽霊が怖い。しかも今回は本物であるらしい。
「ううっ怖い……」
「故人と幽霊は連続した存在かと云うのは甚だ疑問ですが……」
 突然聞こえた声にジルーシャは驚いて肩を振るわせる。
 ジルーシャの隣に立った『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が肩を竦めた。
「そ、そうなの? でも、幽霊には違いないわよね?」
「まあ、情報ではそうなっていますね」
「ひぃ! けど、その幽霊が本当に浩二のお兄さんなら、ちゃんと会わせてあげたいし……成仏、させてあげたいものね」
 ジルーシャの言葉にマカライトの瞳を向けるヘイゼル。
「記憶を持った別人であろうと。少なくても、未練を果たす助けにはなると思うのですよ。御互いにね」
 姿形は違っても共通した記憶を持っているのならば『辻褄』は合うのだ。
 相手がどう思うかなんて知る由も無いのだから、思いや未練をぶつけ合えるなら問題は無いとヘイゼルは僅かに瞳を伏せた。
「朝に出るおばけはいいおばけよね! しゃきっとするのよ、アタシ!」
「ええ、行きましょう」
 二人の後ろに妖艶な色香を漂わせる『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)の姿があった。
「……ヒッヒッヒ、後悔先に立たずとはよく言った事で」
 死の運命は画面の向こう側にある訳でも、スーパーに並べられたラップの中にあるわけでも無い。
 我々の直ぐ傍にあり、何処にだって潜んでいる。
 心無い一言が胸に残り続ける事は因果応報を良しとするヴァイオレットにとって蜜の味だった。
「……ただまぁ。彼らは心置きなく愉悦に興じれるような人物ではありませんね」
 ぽつりと呟いた言葉。不幸の味は『事実』のみで十分なのだとヴァイオレットは目を細める。
「味わわせて頂いた対価に、かの後悔を拭う一助をすると致しましょうか」

「約束は鎖と成り呪いと成り。願いとはそういうものなのでしょう」
 瞳を伏せた『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は指先を胸元に当てる。彼女の隣には『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)が立っていた。
「忌避すべきモノとしながら、夜妖や怪異であろうと、己の望むモノであれば受け入れる。人の危うさというか傲慢さというか」
 愛無の言葉に雪之丞は伏せていた瞼を上げる。
「そうですね。自身を此岸に留めてしまうほど、その約束は大事なものだったのでしょう」
 その約束が未練が果たせるならば、縁を取り持つのも良いだろう。
 僅かばかりこの停滞の街に不思議な体験談が増えるだけのことだと雪之丞は視線を空へ向けた。
 これより対峙する怪異が一清由来のものなのか、それとも浩二君が作り出した都合の良いモノなのか。その存在自体にこそ興味があるのだと愛無は口の端を上げる。
「浩二君の負い目が生んだ彼にとって都合の良いモノなのか。謝罪して誤れば消えてなくなる都合の良いモノなのか。それとも一清君の忘れ物なのか。どう思う? 廻君」
 愛無は背後に歩く『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)に視線を送った。
「そうですねぇ……両方とか?」
 廻はこてりと小首を傾げる。
「愛憎表裏か。まあ、何にせよ、対峙すれば自ずと分かるかな」
 プールサイドの影から見える水面は陽光を反射してキラキラと輝いていた。


「初めまして、妾はアカツキ・アマギ。君の名前を聞いても良いかのう?」
「森田浩二です」
 応えた少年にアカツキは頷く。
「今回はちょっと怖い思いをするかもしれぬが、必ず守るので安心して欲しいのじゃ」
 きっと『青』の正体は兄一清なのだろう。それを確かめる為、最後の言葉を託すための助力をしようとアカツキは少年に語りかけた。
「思いの丈をぶつけて欲しいのじゃ、それが届くように妾達が道筋をつけてみせる」
 同時に何処からともなく怨霊と『青』が水面に浮かび上がった。
 水音は激しく波打つように木霊する。
 プールサイドにアカツキが放った閃光が怨霊を捉えた。
「今時点で声が届くかどうかわからんが、出来るだけ浩二には声掛けをさせたいところだな」
 巨大な熊の着ぐるみが浩二の前に現れる。暑くないのかと問えば頭を撫でられた。
『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は問題無いと笑って見せる。
「ほ、本物?」
「どうかな?」
 子供を揶揄うように口の端を上げたエイヴァン。ガチガチに緊張した浩二には丁度良い気遣いだった。
 奇妙ではあるけれど、悪い人達では無さそうだと安堵する。
「浩二様は、そうですね。舞台でも見ているものと思って、ご観覧くださいませ」
 雪之丞が微笑み踵を返した。プールサイドに着物の袖が揺れる。
「貴方様には指一本触れさせることなく、終わらせますので」
「そうだぜ。安心しなボウズ。俺らが守ってやるからよ」
 大きな熊の手が浩二の頭を掻き回した。

 腕まくりをしたジルーシャは気合い十分だとプールサイドに立つ。
 しかし膝はがくがくと震え、顔は引きつっていた。
「でもホラ、あれよね。いいお天気だし、水面が反射した光を幽霊と見間違えたのかも
 ――キャーッ、出たー!?」
 呼び出したウンディーネにしがみつきながら涙を浮かべるジルーシャ。
 数体を射程に捉えた青の波動が空気を震わせながら打ち付けられる。
 次手をと視線を上げれば『青』を巻き込む位置取り。
 ならばと更なる精霊を呼び出すジルーシャ。
「お願いね、リドル。できるだけ苦しくないように……一撃で終わらせてあげて頂戴な」
 闇夜紛れる漆黒のチャーチグリムが怨霊の喉元に噛みついた。

「まぁ、喧嘩したいことを謝りたいのはわかるが。今、清一に必要なのは謝罪じゃないだろう?」
 エイヴァンは迫り来る敵の攻撃を受け止めながら、背に隠した浩二へと語りかける。
「遊びたくても遊べなかった。そんな相手にしてやれることは遊んでやる以外にないだろう?」
 違うかとアイスブルーの瞳が問う。
 その瞬間にもエイヴァンの分厚い皮膚には幾重にも傷が重なっていた。
 されど、彼はその痛みをおくびにも出さぬ気概で、浩二に安心をもたらす。
 少しでも痛がれば子供はそれを敏感に察知するのだ。
「今の自分の素直な気持ちをぶつければいい」
 その思いは必ず伝わるのだからとエイヴァンは頷く。
「うん。やってみる」
「おうその調子だぜ! だから、大人しくまってろよ」
 逞しい背中が浩二に傷一つ付けさせまいと闘士を燃やしていた。

「おいでませおいでませ。有象無象ども。仲間を求むなら此方へ。生者を怨むなら此処へ」
 火の鈴を。拍手一つ打ち鳴らし。雪之丞が怨霊を引きつける。
 群がる怨霊の群れ。されど、この身が傷つく分だけ浩二への危険は防ぐ事が出来るのだ。

 ――――
 ――

 戦闘は加速していく。目の前で繰り広げられる戦いに浩二は目を白黒させていた。
 けれど、それでも安心して居られるのは彼等が自分達の為に戦ってくれているのが分かるから。
 エイヴァンやアカツキ、雪之丞が声を掛けてくれたから。

 水面に大きな波紋が描かれる。
 音を立てて雪見がプールの中へと引きずり込まれた。
「にゃあ! 助けて!!」
 ばしゃばしゃと水飛沫を上げながら、それでも怨霊に一撃を食らわせる気概。
 愛無が投げたロープ付の浮き輪に捕まり、引っ張り上げてもらう。
「大丈夫かい?」
「ありがとにゃ!」
 手を差し伸べる愛無の手を掴みながら笑顔を見せる雪見。
「心の準備してないのに、お前らのタイミングで引きずりこむんじゃあないにゃ!!!」
 再び水の中へと誘う怨霊に雪見は怒りの刃を走らせる。
「滅多刺しにして成仏させるにゃ!!」
 幾重にも走る凶刃に怨霊は散り散りになった。
 直ぐさまその場から翻る雪見はプールサイドを駆け回る。
「ヒットアンドウェイってやつにゃ!」

 雪見が倒した敵で12体目。残る3体だと愛無は一番近くの怨霊の前に立ちはだかった。
 此処でプールに逃がして仕舞えば悪戯に時間を消費してしまうだけ。
「尻尾ぐらいなら大丈夫か」
 ちらりと浩二に視線をやれば、エイヴァンの大きな身体に阻まれて殆ど戦場は見えていないようだった。
 これならば、少しぐらい擬態解除しても問題ないだろう。
 あとで廻に「めっ」と言われるかもしれないが緊急事態だ。そういう事にしておこう。
 どろりと崩した擬態の一部を敵に絡ませ固定する。
「じゃあ、いただきます」
 存在してはならないものを喰らう。すべて。跡形も残さず喰らうのは捕食者たる矜持。

「貴方たちの相手ももう終わりですか。水の中に引きずり込まれるなんて、どんなに恐ろしい怨霊かと思いましたが、大したことなかったですね」
 ヴァイオレットがワインレッドの瞳で敵を見据える。
 もし、彼等に語る言葉があるのなら、怨霊となる過程(ふこう)を楽しめたというのに。
 低俗な下等幽霊は邪念に囚われ言語すら介さないのだから相手する事すら面倒くさい。
「ワタクシが求めるのは不幸の蜜。紡ぐ物語さえ無い残り滓はさっさと消えて欲しいものです」
 只でさえこの燦々たる太陽の下に居る事が煩わしいのだ。
 夜色の短剣を翳せば双眸に影が落ちる。額に隠された第三の目開くとき目の前の存在は星に焼き尽くされるだろう。
「では、サヨウナラ」
 瞬時に蒸発した怨霊は断末魔さえ上げること無く霧散した。

 ヘイゼルはエメラルドの瞳を目の前の敵へと向ける。
 強く吹いた涼しい風にヘイゼルのセイラー服が揺れた。
 エイヴァンの巨体の隙間から見える戦場は浩二にとってアクションアニメそのものだった。
 少女の身体がプールの上に浮いている。
 ヘイゼルは拳を振り上げ怨霊へ叩き込んだ。
 だが、僅かに浅い。
 返す怨霊の攻撃を難なく躱し再度、魔力を手に集中させるヘイゼル。
 全身を覆うトライバルタトゥーが赤く熱を帯びていく。

「故人を惑わす輩は一人で水底に沈むが良いのです――」

 魔力の奔流を叩き込まれた怨霊は砕け散り、プールに漂っていた瘴気が解放を待ちわびて居たかのように弾けて消えて行った。
 後に残されたのはプールサイドに横たわる『青』の姿。
 怨霊に縛り付けられた悪性怪異ではない。一清のカタチで現れた少年に浩二は駆け寄る。
「兄さん!」
 優しく揺り動かせば、薄らと瞼が持ち上がった。
「……浩二? ごめんな。約束」
「良いんだ。良いんだよ。ほら、約束のプールだよ。兄さん。一緒に遊ぼうよ」
 起こされた一清は目の前に広がる水面に目を奪われる。
 待ち望んでいたプール。約束の場所。
 一清の眦から一筋の涙が零れ落ちた。


 アジュール・ブルーの空におはじきの色が散らばる。
 プールの水底へ沈んで行くそれに一清の瞳は爛々と輝いた。

 一清はプールで遊びたかった。つまり泳げなくとも出来る遊びをとヘイゼルが考えたのだ。
「ルールと致しましては色毎に点数を決めたおはじきをプールに投げ入れて、それを探して拾い集めて点数を競うという遊びです」
 ヘイゼルの言葉にこくこくと頷く一清。その表情は嬉しげでヘイゼルも目を細めた。
「泳げなくても水に入れるなら遊べますし、水底のおはじきは煌めいて美しく拾うだけでも楽しくなりますので思い出とするには良いと思うのですよ」
「ありがとう、ヘイゼルさん」
 一清はヘイゼルへと微笑む。太陽の煌めきのように眩しいぐらいの笑顔。
 本当に心の底から楽しいのだろうとヘイゼルも同じように笑顔を見せる。

「フフ、ちゃんとおニューの水着も持ってきたのよ♪」
 プールサイドにスラリと美脚が披露された。新調した水着を纏ったジルーシャがプールに飛び込んだ。
 最初にお化けを怖がっていた彼は何処かへ行って、今は子供の様にはしゃぐ姿を見せる。
「ホラ、浩二と一清も来なさいな!」
 プールサイドに居る浩二と一清に手を差し伸べるジルーシャ。
「はやくしないと、綺麗なおはじきは全部ディーちゃんがとっちゃうわよ?」
「待って、僕も……」
 一清は飛び込もうとするが、寸前の所で怖じ気づいた。
『青』であった頃の記憶は殆ど失われ、只の一清としてこの場に立っているのだ。
「では、浩二様は一清様に泳ぎ方を教えてあげたらどうでしょう」
 弟の隣に立った雪之丞は兄への道を示す。

「浩二様。伝えたい言葉は、伝えましょう。お兄様が、安心して旅立つことができるように」
 少年の中に残った悔いを残さぬように。未練を昇華できるように。雪之丞は言葉を掛ける。
「勇気を、出しましょう」
「……うん。ありがとう。雪之丞さん」
 雪之丞の言葉で迷っていた瞳が前に向けられた。
「水泳部なら多少なりとも泳ぎを教える事だってできるだろうしな。なんなら、俺もそれなりの心得はあるから安心しな。だてに海暮らしはしてないからな」
 エイヴァンはニヒルに口の端を上げる。
「上手く教えられるか分からないけど、やってみる」
「おう。その調子だぜ。浩二」
 激励するようにエイヴァンは少年の背をバシンと叩いた。

「わーい! ぷーるだにゃ!」
 水飛沫を上げながらプールへと飛び込んだ雪見は楽しそうにはしゃぐ。
 飛び込む時に感じる水の冷たさ、身体を押し上げる抵抗。
「気持ちいいにゃぁ!」
 一清や浩二よりも雪見が一番楽しそうである。
「おはじきを探すにはビート板とか浮き輪があれば安心にゃ!」
「わぁ、浮き輪があれば怖くないかも」
「そうにゃ! 怖くないにゃ!」
 雪見は一清に浮き輪を被せて、良い笑顔を向ける。
「やりたいことを! 思う存分やる! 出来なかったことは、また今度……にゃ」
 はしゃぐ子供達を見ながらヴァイオレットは微笑んだ。
 プール遊びなど殆ど経験が無いのだ。
 されど、それが一清と浩二の後悔を拭う為に必要ならば仕方の無いこと。
「遊びの経験のないワタクシではどれほど楽しませるかは解りませんが……一時の夢に興じさせるのも吝かではありませんね」
 指先に感じる水面の冷たさの奥に、おはじきの色を見つけるヴァイオレット。

 浮き輪でぷかぷかと浮かぶ愛無は手で水を掻いて廻の元へ流れて来た。
「時に廻君は『怪異』なのかね? 特に他意はないのだが……」
「えっと……」
 <夜妖>なのかと問う愛無の言葉に視線を落とす廻。言いかけて澱む唇。
「何、暴こうというつもりは無いよ。誰にだって他人に知られたくないことはある。
 ただ、まあもし、そうなら、今より親近感がわくと思ってね」
 廻は愛無の耳元に口唇を寄せる。
 水音とはしゃぐ子供達の声に混ざりながらも確かに彼は「半分」と言ったのだ。
「内緒ですよ……」
 唇に指を当てて微笑む廻の背後に迫る影あり。
「ふふーん! 何を話しておるのじゃ!」
「わっ!」
 アカツキの浮き輪が廻の背に直撃する。
「何じゃ、内緒話か? 青春だのう」
 くつくつと冗談めかしたアカツキの声に「そんなんじゃ無いですよー」と首を振る廻。
「それはそうと、掃除屋殿、此度のバックアップ感謝なのじゃよ」
「いえ、僕は弟くんの傍に居ただけです。彼等を救ったのはアカツキさん達ですよ」
 少女の言葉に頭を下げた廻は僅かに間を置いて微笑んだ。
「……アカツキって良い名前ですね。僕の……僕がお世話になってる人と同じです」
「そうなのか? 奇遇じゃのう」
 夏の日差しにアカツキの笑顔が照らされる。

 子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
 あの日、果たせなかった約束を取り戻すように、兄と弟が笑い合う。
 ごめんという言葉もきっと受け止めてくれるだろう。
 大丈夫だと言って抱きしめてくれるだろう。

 ミンミンとセミの鳴く声が遠くで響いた。
 夏の終わりの青色――

成否

成功

MVP

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 皆さんのおかげで二人は未練を解消できたでしょう。
 身体を張って浩二を守り抜いた貴方へMVPをお送りします。
 ご参加ありがとうございました。

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