PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夏の海に影が差す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻の巨人
 青い海。白い砂浜。光を吸い込む黒い洞窟。
 数日前までは人気のない漁場でしかなかった海洋の僻地が、今ではちょっとした観光名所だ。
「巨人が出るんだって?」
「洞窟の奥にお宝があるって聞いたぜ」
 野次馬は洞窟に近付けない。
 海賊以上に海賊らしい顔の地元漁師達が殺気だって洞窟周辺を封鎖しているのだ。
「こちらです」
 猟師の顔役がイレギュラーズを案内したのは、岩が多く小型船でも入り込むことが難しい複雑な地形だ。
 砂はほとんど波にさらわれ残っていない。
 水面ぎりぎりの高さに、成人が2人並んで通れる大きさの洞窟があった。
「先月末の時点ではありませんでした」
 漁場は文字通りの命綱だ。
 監視も環境維持も絶対に手を抜いていない。
「先週からは大きな人影を見たって野郎が何人もいます」
 他にも漁場はあるので命をかけて調査し討伐しようとする者はいなかった。
 しかし有力な漁場ではあるのだ。放置する訳にもいかず、ローレットに依頼を出したという訳だ。
「近づかなかったのは見事な判断だね」
 豪徳寺・芹奈 (p3p008798)は無表情のまま目つきだけを鋭くする。
 額の第三目が、洞窟周辺にこびりつく霊的な残滓を捉えている。
「専門家に褒められるのは嬉しいもんですね」
 顔役がほんのわずかに表情を緩める。頼りになるイレギュラーが来てくれたようだと、内心安堵していた。
 だが安堵するのは早すぎた。
「おーい!」
「出たぞっ」
 野次馬が騒ぎ出す。
 彼等が指差す先は、海面から数十メートル上の空間だ。
 全く何の予兆もなく巨大人影が水面から宙へ起き上がる。
 そして、巨大な腕を大きく振り上げ、振り下ろした。
 不可侵のフォースフィールドと拳がぶつかる。
 衝突の衝撃で海の波が吹き飛ぶ。
「魔種……ではないね。大きさの割には弱いけど」
 見事に防いだ藤野 蛍 (p3p003861)だが警戒心は最大だ。
 再度振り上げられる腕よりも速く、ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が放った黒の大顎が巨人の腹を食い破る。
 血の臭いがしない。
 内臓も鮮血も落ちてこない。
 明らかに異常だった。
 ほとんど影でしかない巨人が無音で勝ち誇る。
 技術ではイレギュラーズに勝てなくても、攻撃が効かない体がある以上勝ちは確定していると言いたげだ。
 だがそれは、彼等を知らないが故の傲慢だ。
「呪いの幻」
 男装の麗人にしか見えないはずの夜乃 幻 (p3p000824)が、妙齢の女性には出来ないはずの目付きで巨人と洞窟の奥を観る。
「これは、桜咲様の専門分野で御座いますね」
 桜咲 珠緒 (p3p004426)はこくりとうなずいて、目にもとまらぬ速度でその場から消えた。
 巨人は完全に彼女を見失う。
 珠緒を逃げたと勘違いしたのが、巨人の最大かつ致命的な失敗だった。

●誰も知らない地の底へ
 岩に刻み込まれた紋様を、形の良い指先がそっと撫でる。
「豊穣式?」
 紋様と指先に重なり合う形で仮想画面が透過召喚される。
「……違う。海洋式でもない。旅人が持ち込んだもの?」
 岩の形は変わらず、しかし画面と岩の中の術式が珠緒にあやされ、解される。
 世界からずらされていた洞窟が正され、洞窟本来の姿がイレギュラーズに晒された。
 水面ぎりぎりにある洞窟から下に伸びる階段。
 奥には、素朴ではあるが人工物で出来た通路が延びている。
 巨人は激変した状況についていけず、呆然と立ち尽くしていた。
「あれはスプリガンの亜種です。力の源は」
 遺跡の奥にある。
「なるほどつまり」
 宮峰 死聖 (p3p005112)の車椅子がぎしりと鳴る。
「宝探しだね」
 咄嗟に手伸ばしてきた巨人に、躱しようのない猛毒を死聖が打ち込む。
 死聖が乗る車椅子は猛加速して石の階段を猛烈な速度で駆け下りそのまま速度を緩めず直進する。
「後数分で海水が洞窟に流れ込みます!」
 後ろから、切羽詰まった顔役の声が聞こえる。
 干潮が終わるのはもうすぐだ。
「巨人がっ」
 縮む。
 腕力はサイズに比例して低下し、脚力はサイズに反比例して上昇する。
 死聖を凄まじい速度で追い、だがその程度の速度では全く足りない。
「あばよ」
 ただの銃弾がジェイク・夜乃 (p3p001103)の絶技で以て放たれる。
 超高速の人影の真芯を捉え、これまで元巨人の命を守っていた力を引き剥がした。
「急げ。おそらく」
 ベネディクトの刺突がスプリガンもどきの頭部を貫く。
 巨人サイズのときの無敵っぷりが嘘のように、毒で消耗した元巨人は一瞬痙攣して絶命した。
「ここか。なんと厄介な」
 芹奈がそれ以上近づかないよう警告する。
 持ち込んだ光を黄金に見える何かが反射し、しかし古の宝物庫のあちこちに闇が凝り奥が見通せない。
 フレイ・イング・ラーセン (p3p007598)が黒い翼を広げる。
 地上にいた巨人と同種の存在が、闇の中からフレイ達を奇襲しようと飛び出し……闇より暗い雷を浴びせられる。
 その数、実に10と4。
 同時に攻撃しあえばイレギュラーズも危ない大戦力だが、今は黒雷の影響で連携は乱れに乱れていた。
「珠緒、結局これは何なの?」
 蛍が敵を防ぎながら問うと、珠緒が迷いなく宝物庫の中を示す。
 古ぼけた、釣り道具が入った木箱が、いくつもの杭で刺し貫かれ宝物庫の床に固定されている。
 永い時を経ても残った霊的な力が床を通して吸い取られ、スプリガンもどきの力として使われていた。
「どこかの誰かがした呪術の痕。金に見えるのはおそらく罠なのです」
 潮が流入を開始するまで、残り4分であった。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 活劇風宝探しを目指してみました。

 箱の中身は全長3メートルの竹竿。
 敵は、大きければHPと物理威力に優れ、小さければ命中と回避と機動力に優れるスプリガンもどきです。
 宝を地上に持ち帰れば、スプリガンもどきから特殊な力は全て失われます。

 戦いの後は海水浴や釣りを楽しむことも出来ます。


●目標
 敵の撃破


●ロケーション
 地の底にある、石造の宝物庫。
 とても広く、奥がどこまで続いているか分かりません。
 入り口から100メートル通路が続き、そこから急角度の階段を50メートル登り切ると地上に戻ることが可能です。


●エネミー
・『スプリガンもどき』×22
 人間に対する悪意に満ちた敵です。
 人間をなめてかかる性質があるためこれまで人死には出ていませんが、今回全て殺害するか地下に封印しないと今後確実に被害者が出ます。
 個々の能力は今回の参加者の皆さんと比べるとかなり低いです。
 ですが、3分の1程度の個体は【神無】【物無】のスキルを得ています。
 イレギュラーズが宝物である竹竿を回収した場合、その時点で『スプリガンもどき』の【神無】【物無】は消滅します。
 竹竿が地上に持ち出されると、体を大きくしたり小さくする能力を失います。
 戦闘開始時点で、イレギュラーズの視界内にいるのは14体です。


●他
・古びた木箱
 特別な装備やスキルや行動がなくても、イレギュラーズ1人が20秒間妨害を受けずに専念すれば、中身を安全に回収出来ます。箱ごと運ぼうとした場合は30秒必要です。
 行動次第で時間は短くも長くもなります。

・釣り竿
 神秘的な力が少し残った品です。

・金
 金細工や大粒の宝石があしらわれた宝物です。
 宝物庫の床に無造作に並べられています。
 ただし触れると何が起きるかは……。

・宝物庫の奥
 極めて危険です。

・猟師の皆さん
 地上にいます。自衛する能力はありますが、イレギュラーズの援護無しで戦うと怪我人が続出します。
 イレギュラーズの指示に従います。

・野次馬
 地上にいます。イレギュラーズや猟師と敵対する気はありませんが、宝探しが可能なら宝探しをしようとします。
 また、釣った魚の一部を提供すると燃料や調理器具を提供してくれます。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 夏の海に影が差す完了
  • GM名馬車猪
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道

リプレイ

●地上
「イレギュラーズに加勢するぞ!」
 有り余っている。
 顔役の制止を振り切り地下への入り口へ飛び込もうとして、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の視線に遮られた。
「これ以上、一般の者が踏み込むのは危険だ」
 敵意も軽視もなく事実だけを告げる声だ。
「ここから先はプロの我々に任せて貰う、良いな?」
 不吉な暗がりに踏み込んでいるのに、怯えを強がりで隠す漁師達と違いマナガルムは平然としている。
「もし勝手に入って宝探ししても……命の保証は出来ないが?」
 『任侠道』豪徳寺・芹奈(p3p008798)の態度を高慢と感じた漁師もいたが、長く船に乗り生き延びてきた者は違う感想を持つ。
 鬼種であると同時に根本的に別の存在であるような、そんな気配を感じてしまっていた。

●地の底
「芹奈さん達は間に合わないか。分の悪い勝負は好きじゃないけど」
 宝物庫の形をした闇に踏み込んだ『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)が、押し入る前の戦いを思い出して柔らかな息を吐く。
 時間は限られ敵の能力もよく分からない。
 だがその程度では、蛍達を仕留めるには全く足りない。
「呪術も敵もさっさと破って、美味しい漁師料理をおねだりさせてもらいましょ!」
 死をもたらし死を汚す気配が押し寄せる。
 蛍は強気に笑い、遠くまで届く光を自らの体から発生させた。
 『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)が仮想画面を透過召喚するより早く、四頭身の青髪少女人形が地上へ繋がる逆走し始める。伝令だ。
「すぷりがん?」
 珠緒の五感と第六感で知覚した敵が仮想画面の1つにまとめて表示され、その数は実に20を越えている。
「伝聞では宝物の守護者らしいのですが」
 珠緒の霊力が魔力を経て破壊力に変換される。
 濃く、澄んで、何より速い。
 発射の頻度も当然のように凄まじく、直線貫通型の攻撃術が戦場全てを埋め尽くすようにも見える。
 広大な宝物庫に広がる黄金を盾にしても通用せず、形の歪んだる魔性達が激しく揺さぶられた。
「うわっ。これだと序盤から飛ばして行かないとね」
 『同人勇者』宮峰 死聖(p3p005112)の車椅子が鋭角的に角度を変える。
 敵の被害は個体ごとに違う。
 文字通り傷一つない個体もいるし、体積の4分の1以上を失いいつ滅んでもおかしくない個体もいる。
 前者が、物理や神秘に対する無効化能力を持っているのだ。
「無敵のつもりかい?」
 無傷のスプリガンもどきは悠然として勝利を確信している。
 条件を維持する限り己を無敵と思い込んでいた。
「闘技場に行けば対策も強化策を見ることが出来るのだけどね」
 死聖が拳を振り上げる。
 宝物庫の奥よりも暗い気配が、決して太くない腕に宿る。
「死者の嘆き、苦しみの声……どうやら無敵の身体を持つ君に、かなり御立腹の様だよ?」
 左手で車輪の回転を加速させる。
 完全にバランスの取れた殴打を先頭の敵にめり込ませる。
 打撲によるダメージは皆無だ
 しかし拳から侵入した複数の死霊が、炎と致死毒を導き内側から敵を苛んだ。
 平均的スプリガンより邪悪な敵達に最も狙われているのは『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)だ。
 技に欠けるとはいえ、敵の速度と数は脅威。
 フレイが的確に防御を行っても、決して無視出来ないダメージがフレイの体に残る。
 勝利を確信した異形の群れが、音の無い笑い声で黒翼の飛行種を嘲笑う。
 だがそれもすぐに止まる。
 わずかに乱れた黒い羽まで、無傷に近い状態に回復している。
 偶然という賽子の目が敵の有利だったとしても結果は同じだ。心技体を揃えた上で、耐久力を補う術を予め己に施しているのだから。
「俺はここにいるぞ」
 フレイが1歩前に出る。
 黒い雷が白い肌を照らし、禍々しくも美しく広がりスプリガンもどきを打ち据えた。
「待たせた」
 地上から駆け下りてきたマナガルムは止まらない。
 ジェットパックで飛び、最も神秘の気配がする物の手前へ着地する。
「まさに宝物か」
 箱は質素で風化していても、中から感じる威はかなりものだ。
 しかし箱全体に無数に打ち付けられた杭が、絶対に渡さぬという敵の意思を感じさせる。
「かかって来るが良い。苦痛の中で滅びたければ、な」
 己の中から引き出した力を槍へと注ぐ。
 短槍となっても強靱さを保った軽槍が、悪を食らう魔槍として復活する。
 闇の奥から這い出た小人が、魔槍に気づいていないのに恐怖で体を震わせる。
 次の瞬間、投げられた魔槍が頭蓋の上半分を消し飛ばして止まらず、数体の魔物の胸や腰を貫通して石畳の地面に突き立つ。
 狼の遠吠えを思わせる音が、槍の通り過ぎた空間に響いていた。

●宝
 戦闘はイレギュラーズが圧倒的有利だ。
 しかし敵の数は多い。
 マナガルムがこじ開けた穴が瞬く間に埋められていく。
 だが、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はそれより速い。
 身の丈ほどもある作業用シャベルを抱え、なのに優雅な歩みでマナガルムがこじ開けた戦力的空白を踏破する。
 幻は止まらない。
 鋭角的に曲がる様は蝶のようで、シャベルの先端が杭の1つの周囲を大きく抉る。
 スプリガンもどきは幻を目にしているのに認識出来ていない。
 幻の速度が以上過ぎるのだ。
 幻がシャベルと使ったのはほんの十数秒。床から浮き上がった杭は6本。
 使い捨ての約束で借りたシャベルが地面に投げ捨てると、呪詛に負けたシャベルが薄いガラスの如く割れた。
「呪いの残滓で御座いますか。呪いが完全成就しなかったのはよかったですが、こんな形で残るとは」
 埃で覆われた木箱の表面を手袋越しに撫でる。
 木箱が安堵したかのように震え、さらさらと崩れて形を失った。
「片付けまでが仕事で御座いますよ、呪い師様」
 何の役に立たなくなった杭を無視して、幻が古びた竹竿を抱き上げた。
 小柄な敵達が目を剥き騒ぎ出す。
 怒り、それ以上に焦り、精神を縛られていない個体全てが幻だけを狙い押し寄せる。
 蛍の持つ本の1つが剣に変わる。
 鋭く振り抜くと、一陣の風が桜吹雪の幻影を伴いスプリガンもどきの群を食い止め、押し戻した。
「退路はボクが確保する。地上まで運んで」
 蛍の覚悟が彼女の力を高め、剣の技を数段上のものに引き上げる。
 スプリガンもどきの被害が急激に増加し、しかし鉄壁の守りが邪魔で数はなかなか減らせなかった。
「音が」
 死聖が眉をしかめる。
 吹き飛ばされた敵が黄金の宝に見える罠に突っ込み、純金製の破片と一緒に闇の中へ滑っていく。
 貴金属が石の床をひっかく音は非常に不快だ。
 宝物庫で渦巻く瘴気が現実への干渉を強めている。このまま戦い続ければイレギュラーズ達もどうなるか分からない。
「悪感情を僕らに向けないでくれよ」
 車椅子を旋回させる。
 大きく回り込んで幻を狙った敵の進路を塞ぎ、正面から拳をめり込ませる。
 強力な障壁を纏った個体が、毒と炎を注ぎ込まれて全身を痙攣させた。
「釣り竿?」
 フレイは竹竿を見て戸惑っている。
 呪いや祝福の核にしては気配が弱い。
 強力な味方や敵に慣れた弊害かもしれない。
「何か良い魚でも釣れるんだろうか?」
 困惑はしても不注意にはならない。
 黒雷の制御は相変わらず完璧で、フレイから放たれた雷が天井を這い豪雨の如く宝物庫の中に降り注ぐ。
 物理的な威力は皆無。可能なのは思考の方向をフレイに無理矢理変更させること程度。つまり、小柄な異形達にとっては致命的ということだ。
 宝を奪い返すことも運び手である幻を妨害することも思考から消え、異形達はフレイを狙うことしか考えられなくなってしまった。
「では皆様お先に」
 幻が一礼する。
 竹竿が機嫌良く揺れる。
 誰も目を離していないのに、スプリガンもどきには一瞬で消えたようにしか見えなかった。

●粉砕
「そろそろ仕掛けも終わりだな」
 蛍の明かりがあっても暗い戦場を、大きなエネルギーを持つ銃弾が蹂躙する。
 無傷のスプリガンの表面から数ミリで何かが割れる。
 それまでの無敵っぷりが嘘のように、皮膚も肉も骨も抉られ中身を床にぶちまけた。
「邪妖精ですらないな」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は鮮やかな手つきで再装填を終え、闇から忍び寄る個体の眼窩を射貫く。
 その程度では銃弾の勢いは止まらず、後続の胸から背中へ骨に当たらず抜け3体の目の障壁を砕いてようやく止まる。
「諦めるなら楽に仕留めてやるぜ」
 ジェイクに驕りはない。
 今回の仕事は妻も参加している。
 避けられる危険は避ける。それだけだ。
「あのなぁ」
 1歩下がりながら銃を斜め下に向ける。
「足掻くなら真面目にしろ。決まった行動しか出来ないボロ機械かよ」
 ジェイクにタックルして押し押そうとした小柄な邪悪が、障壁ごと頭を破壊されて前のめりに倒れる。
 優れた回避能力を兼ね備えた障壁持ちは極めて危険な敵になるはずなのだが、圧倒的な技術を持ったジェイクがじっくり狙って撃てば障壁は無力だ。
 これまでの個体と同じように障壁を割られて負傷し、真横からさくりと刺してきた刀によってあっさり仕留められた。
「ふむ、当たればこんなものか。っとと」
 芹奈は障壁無しの個体を迎撃する。
 不意を打った直前の攻撃とは異なり、異様な機敏さを持つ妖精もどきに刃が追いつかない。
 折れた枝の断面じみた爪が、芹奈の足に突き込まれた。
「やるのう」
 芹奈の膝と、もどきの指が。正面衝突していた。
 被害の絶対値は芹奈の方が大きく、失った生命力の割合では芹奈の方が明らかに少ない。
「鍛錬を真面目に積んでいれば、拙の負けであったかもしれぬな」
 動きの鈍った個体に、十分狙った魔力砲撃が直撃して文字通り消し飛ばす。
 魔砲は1体消しても衰えず、しかし障壁が張られたままの大柄スプリガンもどきに防がれるはずだった。
 ジェイクの口元が優しく緩む。
 まだいくつか残っていた障壁と同じく、完全に同じタイミングで無敵の障壁が消えた。
 幻が役割を完遂したのだ。
「さあさあ! 拙はここに居るぞ! 我が刀の錆になりたいものからかかってくるがいい!」
 芹奈が威勢良く口上を述べる。
 敵から判断するための時間と余裕を奪って自身に引きつける。
 芹奈は攻撃よりカウンターが得意だ。高度な防御と豊富な生命力、そして優れた回復力を活かして敵を大いに痛めつけた。
(この場をつくったものは何を考えていたのか。扱いきれるものかどうかの区別もつかぬとはな)
 一時的に暗視能力を獲得した芹奈でも、宝物庫の奥に凝った闇の奥は見通せなかった。
「蛍さん」
 珠緒もこの場の異常性と危険性に気づいている。
 危険な闇を利用し戦うもどき達の思考が全く理解出来ない。
「分かった。みんな、いくよ!」
 蛍が敵を奥へ押し戻す技を連発する。
 複数の敵を追い詰めていた者も、多くの敵を引きつけ足止めしていた者達も、戦闘を放棄して地上への通路へ走る。
 それに蛍が続く。
 最後に残った珠緒に10にも満たぬ生き残りが襲いかかろうとして、幻とは別種の速さに遭遇した。
「さすが珠緒さん」
 先手をとるという面で、圧倒的に速い。
「横と後ろは任せて」
 珠緒はこくりとうなずき、海洋とは異なる乾いた熱砂の嵐の嵐を呼び寄せる。
 追撃を仕掛けたスプリガンでもない何かは、真正面から重く熱いものを浴びて足が鈍り体を傷つけられる。
 中には後ろに戻ろうとしたものもいはしたが、既に宝物庫は真の闇に消え、1歩下がったスプリガンもどきは底の見えない空間に落ちていった。
 イレギュラーズが後退を続ける。
 珠緒は確実に先手をとって愚か者達に追いつかせない。
 やがて通路は上りの階段に変わる。
 太陽の光が届き始め、蛍が自前の光を消しても足下まではっきり見えるようになる。
「俺達の勝ちだ!」
 光と潮の香りが出迎える。
 ジェイクが振り返ると、洞窟が半ば以上闇で埋まっていた。
 直前まであった階段はどこかへ消えて、大きくなる力を失った小人の腕がちらりと見え、闇に塗りつぶされる。
「楽しかったぜこの勝負」
 どうくつに見えていた境界が歪み、縮み、内側に向け崩れて最後には何も見えなくなる。
 古の悪意が微かな痕跡も残せず、この世から完全に消滅した。

●再びの地上
「例の巨人は2度と現れない」
 不気味な陰りの消えた岩場で、マナガルムは丁寧な報告を終えた。
「今後の警備は必要か」
 1人1人が巨大な戦力を持つイレギュラーズが長居するのも拙いだろうと考え、マナガルムは可能なら早々に出発するつもりだ。
「いえ、万一のときは改めて依頼します。今回は本当に……」
 漁師達の顔役は、心底安堵し心からの笑みを浮かべて深々と頭を下げた。
 慌ただしく行き交う漁師達を見下ろす岩の上で、珠緒が竹竿で意とを垂らしている。
 大量に釣れる訳でも特別な魚が釣れる訳でもないが、反応が楽しい。
 餌に食いついたのを感じ、蛍と力を合わせて海から引っ張り上げた。
「ぶり……はまち?」
「ちょっとこれどうすれば」
 元気すぎる銀の魚に蛍が困惑する。
「任せてくださぇ! おい真水持って来い!」
「恩人に危ない刺身を食わせる気か。下処理は徹底しろっ」
 漁師達が活け締めして解体して消毒もする。
 戦闘用の刃物とは異なる刃が素早くかつ丁寧に振るわれて、店の売り場で何度も見た切り身に変わる。
 ただし肉は艶々でぷりぷり。豊穣から持ち込まれた醤油が塗られ山葵が添えられると暴力的なまでに美味そうになる。
「これが漁師料理?」
 器は雑でも中身の存在感が違う。
 珠緒もオッドアイをきらきらさせて、行儀良く蛍を待っている。
「そうね。有り難く頂きましょう」
 2人とも慣れた様子で箸を使って口に運ぶ。
 香りはもちろん歯ごたえも違う。何度噛んでも何切れ食べても飽きずに食べられる。2人の箸の速度が同じ加速度で速くなる。
「調理法、世狩れば教えて頂けるかしら」
 一生懸命に食べる珠緒の様子から察して、蛍は1度箸を置いて質問した。
 珠緒は真剣な目付きで、刺身包丁の手入れをする漁師を凝視している。
「素材の良さに頼ってるだけですよ。工夫はしてますが消費地に運ぶ間に傷んでしまうんで」
 包丁の扱い方を見て盗まれていることに気付かず、元料理人の漁師がそんなことを言っていた。
「僕はお刺身に目が無くてね、漁師さんお願い出来るかな?」
 死聖が頼むと大皿が差し出された。
 刺身だけでなく、軽く炙ったものも大量に盛り付けられている
「これはこれは」
 死聖のうちにある男の魂が、酒が欲しいと強く感じた。
「さぁ、こっちで一緒に食べないかい?」
「いい匂いがするではないか!」
 芹奈が鮮やかな泳ぎで岩場まで戻り、海から上がって上着を引っ掛けた。
「む。そんな量で足りるのか? 仕事は終わったのだ。飲め飲め」
 死聖のコップにぎりぎりまで酒を注ぎ、残りを瓶から直接、味わって飲む。
「かぁ~! やはり、酒! 依頼終了後の一杯の為に拙は働いている!」
 漁師の中にいた飲兵衛が、飲み比べを挑むために集まり出した。
「結局この釣竿は何なんだ? 神秘の力が宿ったとか言うが、見た感じ普通の釣竿だろうに」
 フレイは1尾釣り上げ、釣り針から外した魚と竹竿本体を漁師に渡す。
 これでも最大限表現に気を遣った表現だ。
 古く、造りが雑なのだ。
「慰霊用の道具の一部だね」
 死聖は肉の体を労るためペースを落としている。
 戦闘中は全力疾走じみた勢いで術を使っていたので、まだ力が完全には戻っていない。
「心安らかに使っていけば、死霊術師の出番がないくらいに恨みが薄れて……いずれにしても後のことはこの地の人間次第だ」
 甘い海老を漁師から受け取り、上機嫌で辛い酒を傾けた。
「そうか」
 フレイは納得して箸を操る。
 酒の代わりに渡された酢飯が魚にあい、いくらでも食べられそうだった。
 がぶりと汁を飲む。
 魚の脂と豊穣産の味噌のバランスが好みから少し外れていて、ジェイクは心底残念に思う。
 なお、ジェイクがその感想を口にすれば主に独身者から嫉妬の視線を浴びただろう。
 妻である幻が、ジェイク個人の味覚にあわせた料理を作っているということなのだから。
「どうした?」
 一口飲んだ後、何やら考え込んでいる幻に声をかける。
 自然と労りが滲み出る、夫婦の気配があった。
「いえ、美味しいな、と」
「ああ」
 確かにと頷き、ジェイクはもう1杯汁を頼む。
「レシピを教えて頂けますか」
 幻が丁重にお願いすると漁師が戸惑った。
「人に教えるようなものでは……。恩人の頼みですから、捌き方ならいくらか教えますけど」
 分かり易く、3枚に下ろすところから始めて実例を示す。
 幻は捌き方は捌き方でしっかり記憶して、その上で幻は改めて要請する。
「夫に、食べて貰いたいですから」
 不完全な今の状態ですらジェイクが気に入った料理を、きちんとアレンジして完成させるつもりだ。
「……あんた愛されてるねぇ」
 にやりと笑うジェイクと照れている幻を見比べる。彼は久々にペンを手にとり魚介スープのレシピを隠し味も含めて全て書き出していく。
 美味しい香りが、潮の匂いに混じって広がっていた。

 地下へと続く穴があった場所には小さな社が建てられ、古びた竹竿が奉られるらしい。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました。
 オープニングもリプレイも書いていて楽しかったです。

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