シナリオ詳細
<幻想蜂起>ネバーランドと魚の夢
オープニング
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しあわせはおいしいのかしら。
水の中で魚のように息をして居なくてはあたしは溺れてしまうでしょう――
ああ、不幸せだわ。不幸せだわ。不幸せだわ。
かわいそう、わたしってかわいそう。どうして、どうして、こんなにかわいそうなのかしら。
●
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以降より幻想に蔓延する不穏な空気は導火線に火をつけじりじりと燃やし続ける。
サーカスの影響か、それとも『何らかの外的要因』があるのか――連鎖的に起きる蜂起は無計画に近く、貴族たちに敵うものではない。
誰かが言った。
『魔種』の影響か。『原罪の呼び声』に値するものか。
誰かが言った。
「軍を派遣し完全鎮圧を決めるべきだ」
そして、ローレットは言った。
「反乱はこちらが封じよう。だからこそ、軍派遣は待て」
クライアントの意向は無視できないが軍派遣による市民への被害は計りしれない。
イレギュラーズの活躍次第では領地の傷は最低限に住み、貴族は軍費を失わずに済む。
そして、ローレットにとって貴族たちへ恩を売っておく事こそ最適な選択肢に違いない。
「宜しくてよ」
ティーカップを手にしたリーゼロッテ・アーベントロートの言葉はやけにすっきりしていた。
「ローレットの皆様方にお任せ致しましょう。いいえ、全てをお任せするわけではありませんわ。
私の領土のほんの一掴み――角砂糖を一つ珈琲に入れる程度に細やかな――が何らかの暴動を起こしているに過ぎないのですもの。
『幾許か』遊んで差し上げるのも構わないでしょう? ええ、言葉を知らぬ愚民(かれら)の命など対価に過ぎませんのよ」
アーベントロートの暗殺令嬢はそう言った。
彼女の住まう領地にて起きた小さな暴動は特異運命座標たちの手に託されたのだった。
●
「暴動って、アニメ第一話にちょっと起きて、それをどっかーんと解決するパターンか3話位であるよね」
『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は何時もの如く眠たげな顔をして特異運命座標へとそう言った。
アーベントロート領の一部、リーゼロッテ嬢は『角砂糖一つ程度』と称するほどに小規模な暴動が発生しているのだという。
「その暴動の扇動者の名前は、えーと……『マリオネット』って言うらしいンすよね。
彼女と、それから『アルルカン』って奴が示し合わせてアーベントロート領の教会を中心に『幸福そうな人を殺せ』と説法を説いてるそうで」
アルルカンに関しては他の情報屋から伝えられるだろうと雪風は言った。
教会を中心にマリオネットは己の不幸を嘆いているのだそうだ。可哀想で、醜い己の事を――どうか、幸福にしてほしいと。
幸福で仕方がない人々を殺し続ければいつかはその幸運が己に回ってくるのだと扇動者は口にし続ける。
その言葉に共感した人々が幸福そうな市民の――貴族もその対象になるかしれない――虐殺を企てているのだという。
対するアルルカンは『不幸せ』を憂いているのだそうだが、真逆な二人が手を取り合いそれぞれのシンパを集めているというのはどうにも不思議な話である。
まだ、それは計画段階であるかもしれないが動き出すときは近い。雪風の情報ではマリオネットの指示で行動を開始するだろうという事だ。
「実はマリオネット達の進行開始場所になる教会でその日結婚式が行われる予定で……結婚式言った事ないわ」
ぼそ、と呟く雪風は小さく首を振った。それは関係はないが――他人の不幸は蜜の味という言葉が何となく頭に過った。
「身分違いの恋の関係上、貴族サマが絡んでくるんだよね。貴族が止めに入った場合は『どうしても被害が大きくなる』かもしれないじゃん。
だから、秘密裏に大人数の進行を阻止して欲しいってわけでして。幸せそうな村の人たちに被害が及ばないように道中で暴徒の無力化をお願いしたいんすよ」
結婚式の披露宴を行う事となる村の人々は暴徒の進行に気付かないだろう。幸福に満ち溢れた彼らに凶刃が迫り、気付いた頃には――
それは避けるべきだと雪風は力強く言った。
貴族が絡めば被害が多きくなるというのは『貴族の兵士達との戦闘に巻き込まれる人々が増えるかもしれない』ということだ。
「リーゼロッテ嬢にとって、暴動はどーでもよくって、つまるところは手を汚させられるのが気にくわないみたいでどうするかは一任されてるけど。
マリオネットが幸福なひとを殺すのを止めて欲しいってのはローレットとしても、人の倫理観的にも当て嵌まってると思うんだ」
大量殺人を企てるために己の言に賛同する相手を探している。それは放置しておくのも危険だろう。
「マリオネット本人を捕らえるのは難しいかもしれないんだけど、他の奴らをどうにか止めて来て欲しいんだよね。
このままだと『幸福そうな市民』を狙っての虐殺が起こるから。
ヒーロー物だったら熱き気持ちで悪党を捕らえて、一般人への被害を抑えるー! ……て、的な」
雪風はそこまで告げて、どうぞよろしくお願いしますとぺこりと頭を下げた。
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- <幻想蜂起>ネバーランドと魚の夢完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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ああ、しあわせね、ねえ、しあわせでしょう。
わらって、わらって。わらって、アルル。わたしにその愛らしい笑顔をみせて?
いつだってしあわせを歌ってくれるアルルが誰よりもしあわせそう。
知っている、知っているわ。誰かが幸せなのが気にくわないの。
だってだって、アルルが一番しあわせじゃなくなるじゃない?
あなたのしあわせはわたしのふしあわせだけれど、あなたが嗤わない世界は味気ないパンのようだもの。
この世界はこどもの国よ。悪戯とわがままばかりが溢れててる。
ねえ、アルル、笑って――?
●
足元の感覚は上々だ。それもその筈か。世界が『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)に与えた贈物は彼を戦場に立たせ続ける矜持のためにあるようなものだった。
決して安定しているとは言わない。硬い地面を確かめながらラノールは傷だらけのマトックの感触を確かめる様に握り込む。
祝福(しあわせ)に満ち溢れた村の喧騒から離れ山道を行く『流るること、儚幻の如し』鳶島 津々流(p3p000141)はその穏やかなかんばせを曇らせる。
ひととせ過ぎても変わることないその養子は人々のしあわせもふしあわせも全てを眺めてきたのだろう。月色を讃えた双眸は移ろうものを移ろうが儘にとらえて離すことはない。
「不幸せであるなら、幸せを滅茶苦茶にしてしまってもいいのかい? ……そんな訳、ないよねえ」
ぼそりと呟いた津々流の声音は穏やかさの中に不和を讃えている。
――奪い奪われて。そんな先に幸せなど、ないのだろうに。
それは毒とも言えぬ一人の少女の言葉だった。塵芥転がる山道に罠を仕掛けながらも『白仙湯狐』コルザ・テルマレス(p3p004008)は各地で起こる動乱を憂う様に深く息を吐く。
憂うだけでは何も始まらない。それでも尚、人々は幸福にならんとするのだ。
彼女達の背後にある村では祝いの準備が進められ、彼女達の進行方向にある山頂の教会では、今まさに将来の誓いを交わさんとする男女がいる。
「綺麗事を言うわけじゃねぇけど、せっかくのめでたい結婚式の邪魔はさせたくねぇな!」
楽器を抱えた『幻獣の魔物』トート・T・セクト(p3p001270)はにぃ、と唇を歪める。どこにでもいる素朴な青年にとって結婚式というのは人生の幸福と呼ぶに相応しいのだろう。
ファンタジー的な見地ではトートはまだ『知らないこと』が多い。外見こそゲームのアバターを思わせるが、その実、一般的な感性を持っているのだから。
無益な血を流したくないのは『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)とて同じだ。
できる限りの犠牲を、死者を、無くすのだと己が掌を見下ろした利香は深くため息を吐いた。その耳朶に響くは規則正しい足音。
「破滅にも満たぬ脆弱風情が、揃いも揃って哀れだな」
聞こえるは耳障りな雑踏。『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)――ルインは遠巻きに見えた人々の群れを哀れだと一笑した。
このどこかにマリオネットがいる。この一件の首謀者と呼ぶべき存在が。そう思えば、『武装猫メイド♂』ヨハン=レーム(p3p001117)には緊張が走った。
彼は機動力を生かし、マリネットの追撃の任を担っていた。勿論、この一件の目的が『到達阻止』であることを忘れてはいけないと『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)は仲間たちに念を押したが。
「他のイレギュラーズさんも関わるお仕事で、失敗できないのですが……マリオネットを安々と逃がしてしまえば悲劇のいたちごっこです!」
気合は十分だ。その言葉にゆるりとうなづいたラダとルインにヨハンは肺の中いっぱいに吸い込んだ息を深く吐き出した。
「僕の機動力を信じてくれた仲間のためにも絶対逃がしません!!」
不幸の鼬ごっこ。コルザとトートはその言葉を繰り返すように顔を見合わせる。村の喧騒も、森のざわめきも全てがすべて、しあわせとふこうの鬩ぎあいなのだと嫌でも思い知らされるから。
――反響する。
足音が。ふしあわせを憂う一団のやつあたりだ。
――反響する。
声音が。しあわせを祝う人々の祝福の声が。
――反響する。
「お待ちあそばせ、イレギュラーズ」
嗚呼、その声はどこからしたか。
津々流の表情が曇る。きょろりと探せば、その視線の先にちらりと見えたのは一際薄汚れた襤褸。
マリオネット、と呼んだラノールの声に顔を上げた利香が一歩踏み出した。幸福だ、不幸だ、幸福だ、不幸だ、幸福だ――その幸福を富と呼ぶのなら、あるいは理解できたかもしれない。
「理解ができないんだ。マリオネット」
ラダは言う。お前の言う幸せとは何なのか、と。その声にぎょろりと剥いた無数の目。
その中に、どこかにふたつある筈のそれを探してヨハンは走り出す。ショートソードで傷つけぬようにと進む彼の行く先をブロックするように立ちはだかった村人に少年の表情が僅かに歪む。
「簡単にはマリオネットの所には行かせてくれないですか……!」
木々の間に張り巡らせたロープを振り仰ぎラノールはマトックを起用に使い軍勢を無力化せんとヨハンの行く先へと歩み寄っていく。
ぱちりと瞬く利香の色香に惑わされたように軍勢が進めば定石だ。広い範囲内で彼女に向けられた敵意の数が多ければ多いほどにヨハンがマリオネットに近づく可能性が高まってくる。
暗がりから不意を狙って打ち続けるラダは照らしたカンテラの明かりの中で銃をぐるりと持ち替えて、歩み続けんとする一員へと殴りつけた。
「殺す気はないが、死んだ方がマシだったか?」
「死にたい程の不幸はここにあるかもしれないね」
少年のようにそう言ったコルザの癒しが利香を鼓舞し続ける。指先に飾ったリングは魔力を帯びて、まるで手繰るように揺れ動かされた。
「凄いね、君たちは。こんなに多くの人数が同じ方向を向いて事を行えるのだよ。とても素晴らしいことだよ」
讃えるコルザの声に無数の瞳が射るように向けられる。怯むことなく彼女は手を差し伸べるように声を発した。
「幸せな者を殺して。それでその人間になれるわけではないのだよ。幸せの定義なんて、一人一人の胸の中次第だ。
君たちの中でも幸せの形は一人一人違うだろう? ――だから、奪っても呪いになってしまうのだよ。望んだ形とは違うモノだから」
呪いのように、蝕み続けるのは妬ましさなのだろうか。自身にないものを奪いたいと衝動に駆られるのはどうしてか。
毒の様に蝕むそれから逃れんと尚も歩みを進める一団の前で柔らかに微笑んでトートはゆるりと頭を下げた。
「ねぇ。俺の歌を聴いていかない? これでも俺結構売れっ子の歌い手なんだぜ?」
祝歌にも似たトートの歌声は思考を停止させた脳を搔き乱すかのように響く。ざ、ざ、ざ、と歩む音を掻き消すように掻き鳴らせやと指先は弦を弾く。
「最初は外してあげる。でも、次はもうない。
人の不幸が大好きでも別に俺は良いと思うけど、その快楽を得るのと控えに自分の命を散らしても良い、って認識で良いんだよな?」
その言葉に津々流の表情が曇る。威嚇術を使用して、退く様にと声高に告げる彼の声はまだ、届かない。
(彼らは命にこだわりはないようだけど……そんな姿勢じゃ、いつまでたっても幸せになんてなれない)
倒した木々の向こう、ルインは不幸せな一団を見遣った。倒した木々はボーダーラインだ。あちらとこちら――死地と認識出るのかと。
「その木を跨ぎ、無益な戦いに身を投じるならば我々も容赦はしない。アンタ達の安い覚悟で、その一線を越えられるか」
脅しの言葉は狂乱の中に掻き消される。一般人であれど、彼らは扇動者によって『全員で掛かれば大丈夫だ』と思い込んでいる。
特異運命座標たちの中でも身に覚えのある扇動の技術を有する人間がいるかのように。ライブで心が熱に浮かされているかのように軽率に歩みだす。
「おしろいでお顔を覆って笑うおバカさんを演じるの。それって、とってもとってもすてきでしょ?」
どこからか聞こえたのは扇動者の声。顔を隠して俯いて――嗚呼、その姿。ヨハンの両眼にはしっかりと映り込んでいた。
●
マリオネットを目指しながらも進軍を止めんとするラダとラノールは、木々を跨ぎ尚も進まんとする人々に手を焼いていた。
できれば傷つけたくないのだと、緑の衝動を纏いながら津々流は首を振る。流れに身を任せていればこのまま不幸せは濁流のように村へと流れ込むだろう。
流るる刻に身を任せるだけではなく、ひたむきに顔を上げた彼はぎゅ、と本を抱える指先に力を籠める。
「無論君たちにも幸せになる権利がある! しかし、」
幸福になりたいのだと投げ人々がいる。コルザは、トートはその声を無碍にはできないのだと一団の負傷者を眺めながら口にした。
「無為に他人を傷つける者に、神は幸福など与えない! ――だから。だから、その歩みを止めておくれ。
幸せが欲しいと君たちの光が謳うのなら、誰も傷つけることのない幸せを与える道を探してみないか!」
コルザの声音に重ねるように歌い続けたトートが肩を竦める。何も、この歩みを止めんとするものが『幸せ』である保証はない。
「俺もあんまり幸せな出生じゃねぇーんだよな。血縁者は死んでる、貧乏、仕事は辛い、っな。でも、俺、その後、幸せになれたんだ。今も幸せだ。お前ら勿体ないよ」
誰もが影を抱えている。この一件が終われば、トートは祝歌を捧げるのだと決めていた。だから、安穏無事にこの動乱が収まることを願っている。
(――こんなんじゃ、花嫁や花婿に顔向けできないだろ?)
地面を踏みしめる。歌え歌え。舞う様に治癒を与えるコルザはトートの動きに合わせて揺れ動く。
「アンタは破滅だ、マリオネット――――ならば、滅ぼさなくてはな」
内包する破滅を。ルインはマリオネットへ放たんと距離を詰める。だがしかし、距離が壁となる。五臓六腑全てに破滅は腐敗として染み込むはずだ。
破滅の気配を鼻先に感じながらルインがマリオネットをその両眼に捉える。ラノールは人々を逃さぬようにと深く息をついた。
(マリオネットを狙えば進軍の足が速くなるってか……? 俺たちを『誘って』るのか)
マリオネットを逃がさんと狙うかのような一群の動きにラノールは傷つく己を再生しながらできうる限り傷つけぬようにとマトックを振りかざす。
追いすがるように利香は走る。首謀者を捕縛することでこの狂乱を終わらせられると考えた彼女は落ちた木々を踏み鳴らしながら走る。
「ごめんなさい!」
それを肉壁と呼ばずになんと呼ぶのか。マリオネットを狙わんと進む冒険者達に気づき、ふしあわせな軍勢は真っ先に『マリオネットを狙う狼藉者』の排除へと動いた。
「マリア様」
「マリア様、はやく」
襤褸を纏ったこどもは不幸せを嘆きながらくすくす笑う。
衝撃と共に前へ前へと押し返さんとする津々流は人々の動きを目にしてぱちりと瞬く。
嗚呼――そうか。
「マリオネット、最初から『見物』のつもりだったのか」
ルインの言葉に鱗が涙のメイクのようにも見える不幸そうなかんばせに三日月浮かべて、「わらうなんてひさしぶり」と舌足らずに囁いた。
「人魚姫は怯えるの。だって、だって――王子様は他のお姫様に夢中のはずでしょう?」
「人魚姫に愛を囁くのも私たちの仕事の一部のようだが?」
銃弾が跳ねる。ラダの放つ一撃からマリオネットを庇う様に身を挺した村人が「うう」と低く唸り倒れていく。
痛ましいものをみたというように津々流の表情が蒼褪めた。殺さずと口にする彼らの眼前で『敵を庇う為に』身を挺する彼らは熱狂の渦に取り残されているのだろう。
「ああ、かわいそう」
歯噛みしたラダはマリオネットが未知な相手であることを把握している。捕縛できずとも探れれば――そう、きょろりと見遣れば彼女は愛おしげに山頂を見上げラダに見える様に「アルルのところにいかなくちゃ」と嘯いた。
「お前は――」
「ふふ、うふふ、『また遊びましょう』ね。しあわせなひとたちのところに、わたしは来るから」
待っていて、と唇を揺れ動かすマリオネットの元へとラダは弾丸を届かせる。その左胸を穿ったそれにわずかに表情を歪めた彼女はぱちりと瞬いた。
倒れ、薙ぎ倒されていく軍勢の向こう側、マリオネットは泣いている。不幸だわ不幸だわと『特異運命座標が来たことを嘆く様に』。
「これだけ、庇い立てする奴がいても不幸を嘆くのか?」
「……本当にわたしをしあわせにしてくれる人たちじゃないもの。みんな、みんな、一緒なの。不幸だわ、不幸だわ、みんな不幸なのを嘆いてるの」
「こんなことをして幸せになれるはずがない……」
津々流の声音が悲痛が混じる。これ以上はだめだと告げる声音を振り払うようにマリオネットは眼窩に広がった倒れる人々を見下ろした。
「不幸だわ……わたしの声を聴いてくれた人たちが傷つき倒れてるの。悪魔だわ、悪魔がやってきたの」
「悪魔? ……他人の幸福を呪うくせに?」
毒吐く利香の声にマリオネットは首傾ぐ。それのなにがいけないの、と瞬いて。
利香を受け止めたのは不幸せな一団。気を引く様にその身を投じる利香を癒すコルザの表情が僅かに歪む。
80の数は途方もない。どれもが力なき人々であれど、不殺を謳えば難易度は跳ね上がる。傷つけることなく、壊すことなく、ただ、戦意を削ることに注力すれば骨が折れるのは利香も、津々流も良くわかっていた。
ラダの弾丸が跳ねる。死よりもまだましだと無力化するように放つ弾丸は人々の足を貫き赤い血潮を溢れさせた。
「ああ、かわいそう」
「なら、どうして、こんなことを!」
肉薄する。少女のなりをして、少年のように悲哀を浮かべ、幼いこどもぶって涙を浮かべたマリオネットの瞳がヨハンを映す。
愛らしい少年のかんばせを覗き込むようにマリオネットは瞬いた。
「わたしは笑顔なんてだいきらいよ。だから泣いてみせるのよ。かわいそうな、わたし」
マリオネットの逃亡を支援する貧民の群れを薙ぎ倒すようにヨハンは手を伸ばしてもがく。歯を食いしばり、マリオネットの名を呼んだ。
噛みつく様に伸ばした手がマリオネットの襤褸を掴む。するりと細い指先がヨハンの手を握り不幸せな人形は「あとすこしね」と首を傾いだ。
不幸せな軍勢は特異運命座標たちの前へと立ちはだかった。無論、マリオネットがヨハンを突き飛ばしたのも、マリオネットを庇う様に不幸せな軍勢が立ちはだかったのも敵の策の内なのだろう。
(――そうか、マリオネットにとって『数』は自分が安全に逃げるための舞台装置でしかないんだ!)
コルザはじりじりと後方へと移動し貧民の群れに埋もれる様にして姿を消そうとする指揮官の姿を捉えては歯噛みする。アルルカンと名を呼んで『悲しそう』に笑ったマーメイドは泡に消えるが如く姿を消した。
残された人々はぞろりぞろりと村へ向けて歩みだす。その歩みを止めるのは時間がかかれど容易かった――だが、ヨハンの掌には確かに生きた人のぬくもりが存在している。
「マリオネット――」
その名を呼んだラダを見上げて、ヨハンは掌に力を籠める。不幸の連鎖はまだ続く。
ああ、でも『あのこども』は言っていた。また会いましょう、と。
人魚姫は王子様(いれぎゅらーず)を求めている。いつだって、他の姫君を見てる浮気性な王子様。
「言ってたんです。マリオネットが」
「……なんて?」
確かめるように、津々流はヨハンを見遣る。
「マリオネットは――」
●
アルルカンはもっともっとしあわせになるわ!
わたしは可哀想な人魚姫。
せかいよせかい。もっともっとしあわせになぁれ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
首謀者の捕縛を中心としたプレイングも多かったため、少しばかり苦戦が見られましたがしあわせは守られました。
全てのことに柔軟に対応できたあなたへMVPをお送りいたします。
また、機動力抜群のあなたには、それを称して称号を。『驟猫』の名をお送りします。後、少しでしたね。
また、機械がありましたらよろしくお願いいたします。
GMコメント
菖蒲(あやめ)と申します。全体依頼ということですね。
ぬめGMとの連動以来となります。
●成功条件
暴動を起こす一団の村への到達阻止
暴動者への対処(殺害・捕縛)に関しては成功条件に含みません。
●アーベントロート領北方の村
小さな村ですが、皆、楽し気に過ごしています。それ故に幸福そうな市民として認識されているようで一団から狙われています。
マリオネットたちの出発地点となる教会で行われる結婚式の披露宴準備に追われ、進軍にはぎりぎりまで気付かないでしょう。
狙われていることを伝えるとパニックになる事が予想されています。
その為、イレギュラーズに求められるオーダーは村に到達する以前に一団と接敵する必要があります。
スタート地点は村より南に300mの教会。小高い山の上にある為、村を見下ろす事が出来ます。
一団はぞろぞろと武器を手に歩き出します。個々の戦闘能力はそこまで高くないため何より数が多いことが特徴です。
道は幾許か戦い辛さを感じます。時刻は夜です。足場、視界に関しては何らかの工夫があるとより戦いやすいでしょう。
木々が生い茂っているために一度に通れる人数は8人程度。裏道を迂回することもありません。(個々の戦闘能力が微弱の為)
リーゼロッテからは一任されているために降伏した場合は見逃しても構いません。所詮は、マリオネットの口車に乗せられた庶民です。
●マリオネット
通称はマリア。真白の肌に、幸の薄そうなかんばせです。外見は少女とも少年ともとれます。
魚を思わせる鱗がその身にはあります。
襤褸を身に纏い、己の不幸を嘆き、幸福そうな市民を抹殺せよと命じています。一団のどこかに居ますが危険を感じると逃走します。
基本的には扇動者として説法を説く事がメインのようです。戦闘能力に関しては不明です。
●不幸せな一団
人数にして80人規模。全員が貧民と呼ばれる人々です。武器を手にし、ぞろぞろと歩いています。
数は多いですが、戦闘能力は低めです。貧民たちは特に命にこだわりを持ちません。生きてたって幸福なことはないですから。
陸では魚息が出来ませんから、息をするために酸素(しあわせ)が必要なのです。
全員がまとまって動く、統率がとれているために、誰かが裏道に回る事もありません。
●連動について
鉄瓶ぬめぬめGM側が失敗した場合、警備兵が出動し一般市民の暴動にも気づき被害が拡散する可能性があります。
此方が失敗の場合は両家の貴族の警備兵も暴動を気付き警備が強化され、警備兵に此方の暴動も見つかりやすくななり、結婚式の進行が滞る、若しくは中止になるでしょう。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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