シナリオ詳細
略奪部隊“レイヴン”。或いは、氷雪に舞うコルポー……。
オープニング
●闇に紛れて
鉄帝国ヴィーザル地方。
そこは北国の厳しい大自然に鍛えられた、屈強な者たちが多く暮らす地域であった。
無論、それは軍属の者に限らず、一般に暮らす人々であれど例外ではない。
氷雪に覆われた山中で、彼らはひっそりと暮らしていた。
白い頭髪に褐色の肌。狼の特徴を色濃く残すブルーブラッドの一族だ。
数十名ごとに別れ、いくつかの集落に分かれて暮らす生粋の山の民たちである。
彼らは山で狩りをし、野草を採取し、時には近くを通る商人たちの護衛を引き受けることで生計を立てている。
それゆえ、彼らの身体は強靭で、彼らの気質は荒々しく、彼らの結束は固かった。
有事ともなれば、集落の者総出で武器を取り、勇猛果敢に敵を討つ。
彼らのことを知る者たちは、彼らを指して“蛮族”或いは〝ウォーウルフ〟とそう呼んだ。
だが、しかし。
ある寒い夜、彼らの住む集落が何者かに襲われた。
おびただしい量の血の痕。
地面は焼け焦げ、無数のクレーターが刻まれている。
倒れ伏す遺体には、鋼の鏃が無数に突き刺さっていた。
焼けた家屋を打ち壊し、村を調べる人影が8。
烏の顔に似た暗視マスクを身に付けて、ライフルを構えた一団だ。
身に纏う衣服は、黒い厚手の軍服に見える。
「この村には無いか……では、次の集落に向かうとしよう」
高い声と、空気を打つ音がした。
8名の軍人たちは、その声を聞くと同時に背筋を伸ばし整列する。
そんな8名の前に降り立ったのは黒い翼のスカイウェザーの男性だ。
ゴーグルを付けたその顔は、まさしく烏のそれである。
「残る集落はいくつだったかな?」
鳥頭の男は嘴に手を当て、そう問うた。
「はっ! 残りの集落は3つであります」
腰に下げた装飾過多のサーベルに鳥頭の男は手を添えて、呟くようにそう告げた。
そして……。
「あぁ、出立前に村人の生き残りがいないか探すのだぞ? 殲滅するなら徹底的に、だ」
●ベアードによる依頼
「おぉ、お嬢! 来てくれたか!」
唸るような大声でスーツ姿の白熊……否、ブルーブラッド“ベアード”は言う。
彼の視線の先には、褐色肌の女丈夫【C級アニマル】 リズリー・クレイグ (p3p008130)の姿があった。
「久しぶりだね、ベアード。それで、何があったんだい? わざわざあたしを呼ぶなんて、よほど困ってるんだろう?」
差し出されたベアードの手を取り、リズリーは獣のような笑みを浮かべてそう問うた。
「近頃、連合王国に属さない少数部族の集落を狙った襲撃が多発している。やってんのは、連合王国の略奪部隊だ」
拳をきつく握りしめ、ベアードは告げる。
本来であれば、連合王国が対応すべき案件だ。それをしないのは、連合王国の主戦力が多忙で派兵できないからと聞いている。
それゆえ、ベアードはかつての“頭目”であるリズリーと、その仲間たちに依頼を出した。
「部隊の名は“レイヴン”。隊長は“コルポー”って名の強欲野郎だ」
コルポー+8名の隊員。都合9名という少人数の部隊である。
何よりも迅速を旨とする略奪部隊であり、コルポーの趣味か襲った相手の“大切なもの”を奪い去っていくという。
「部隊の装備は暗視ゴーグルと黒い装束、鏃を撃ち出すライフルというものだ。闇夜に紛れての作戦を得意としている」
兵士たちの撃つ鏃には【麻痺】薬が塗布されているようだ。
対象の機動力を奪ったうえで、的として弄ぶような悪癖持ちがレイヴンには多く所属しているらしい。
「それと、小型の爆薬だな。村を焼いたのはこいつだ」
炎と轟音は恐怖の感情を喚起する。
恐怖に怯えた人間は冷静な判断力を失ってしまう。状態異常で言うのなら、それは【火炎】と【混乱】ということになるだろうか。
「コルポーは飛行能力と、兵士たちと同じライフルと爆弾。そしてサーベルを所持している」
強欲かつ横暴という決して褒められた者ではないが、その実力は本物だ。
彼は状況判断の能力に長け、自分たちの得意と不得意を正しく理解している。
「レイヴンは山のどこかに潜伏しているが、夜になれば次の集落へ進行を開始するだろう。オレは狙うならそこだと思っている」
牙を剥き出し、吠えるようにベアードは告げた。
奇襲を得意とする部隊に、逆に奇襲を仕掛けてしまえ、と。
つまりはそう言う話なのだろう。
「お嬢。悪いが、頼まれちゃくれないか?」
そう告げたベアードの肩を、リズリーは力強く叩いた。
にぃ、と好戦的な笑みを浮かべてリズリーは告げる。
「まったく、水臭いぞ、ベアード。何のためにアタシらが来たと思ってるんだい?」
- 略奪部隊“レイヴン”。或いは、氷雪に舞うコルポー……。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●氷雪世界のシーカーズ
鉄帝国ヴィーザル地方。
氷雪に覆われた山名の村の中央広場。『C級アニマル』リズリー・クレイグ(p3p008130)をはじめとするイレギュラーズたちはウォー・ウルフの一族から武器を突きつけられていた。
「だからさぁ、言ってんだろ? この村に帝国の略奪部隊が迫ってるんだって」
長い黒髪を掻きながらリズリーは告げる。
それに対し、ウォー・ウルフの戦士……銀毛のブルーブラッドだ……は剣を手にしたまま、嘲るような笑みを浮かべた。
「略奪部隊とは貴様らのことじゃないのか? 撃退に協力するなどと、見え透いた嘘だな」
「あたしらがそうだって言うなら、今頃あんたら全員地面に伏してるところだよ」
「あぁ? 貴様、我らが弱いとそう言っているのか?」
「別の意味に聞こえたかい?」
リズリーの挑発に、銀毛の戦士たちは吠え猛る。その会話を聞いていたラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)は、リズリーの脇腹を指先で突いて問いかけた。
「おねげーします、と頼んでおいてあれですが。事情を説明して村人に衣装やらを借りる手筈では? 喧嘩売っていいんです? いーんなら手伝いますけど」
「いや、これでいいんだよ。ヴィーザルにおいては何より力が価値を持つんだ。それを示すってのは、よそが思う以上に意味があるのさ……なぁ、いつまで突っついてんの?」
脇腹を突き続けるラグラの手を軽く払って、リズリーは銀毛の戦士へ向き直った。
にぃ、と牙を剝きだした笑顔を浮かべ彼女は言う。
「自分らの村は自分らの手で守りたいだろうけど、相手は銃持ち。あんたらじゃ確実に全滅さ。あたしはそれが癪なんだ。ってわけで、分かりやすくいこうよ」
そう言ってリズリーは、腰に佩いた剣を抜く。
どちらの意見を通すのか、決闘で決めようということだ。
「おぉっ! らぁぁっ!!」
怒号が寒気を震わせた。
横に薙がれたリズリーの盾が、銀毛の戦士のあばらを叩く。呼吸が止まり、戦士はどうと雪に埋もれるように倒れた。
ぼんやりとした目で、その様子を眺めていた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は「決まりでありますね」と声を零す。
決闘の勝者はリズリーだ。
彼女の言を信じるのなら、以降ウォー・ウルフたちは協力的になるはずだ。
「それにしても……動きにくい。北は人の住むところではないでありますな」
村一番の戦士が敗れた不安からか、表情を曇らせているウォー・ウルフたちに視線を向けて、エッダは思う。
住むならやはり温暖な気候の土地が良い、と。
長くこの地に住む彼らとて、毛皮のコートをしっかりと纏っているのだから。
「おーい、皆! 服とか貸してくれるってさ! 物分かりがいい連中で良かったよ!」
ぶんぶんと剣を振りながら、上機嫌にリズリーが叫んだ。
物分かりが良いと彼女は言うが、きっとそれは「力でねじ伏せ分からせた」が正しいだろう。
「流石は蛮ぞ……いや、これがこの地の流儀なのか。とにかく、任された以上尽くせる限りの事は尽くす。指示があるならくれ、リズリー!」
外套に積もった雪を払い退けながら『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は槍に手をかけ叫び返した。
外套を纏った小柄な女が森の中を駆けていく。
「おばさま、大丈夫かしら。私達が到着するまでもってくれるといいのだけれど……」
なんて、震えた声が夜闇に響いた。
胸にしかと抱いた大荷の中身は果たしていったい何だろう。
小柄な女性を先頭に、続く3名もどうやら全員女性のようだ。こんな夜の森の中、女だけで移動するなどよほどの土地勘がなければきっと適うまい。
あるいは、それほどまでに急ぐ用事があったのか。
「止まれ」
女性たちはウォー・ウルフの集落がある方向からやってきた。
ならばきっと、彼女たちは別の集落へと向かうウォー・ウルフに違いない。そう考えた兵士が数名、銃を構えて女たちの周囲を取り囲む。
鴉を模したマスクを被った黒い軍服の一団だ。足を止めた小柄な女は、荷物をきつく抱きしめる。
言わずもがな、彼らこそが略奪部隊“レイヴン”。その斥候部隊である。
「女の夜歩きは危険だぞ? 俺たちが保護してやろう。なに、遠慮はいらん」
「待って、待って下さいまし! 私達、何としても隣町まで行かなくてはなりませんの! お金が欲しいのであれば……」
そう言って、小柄な女性……『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は荷物に手を伸ばし……。
「……なんて、ね!」
はらりとほどけた布のうちから取り出したのは、雪の色よりなお白い天使を模したメイスであった。
略奪部隊“レイヴン”
または“飛んで火に入る夏の虫”
「ウォー・ウルフじゃない!? ちっ、発砲開始! 誰か、後続へ急ぎ知らせに走れ!」
兵の1人が声を荒げる。
どうやら彼が一団……斥候部隊の指揮官のようだ。
いち早く反応した兵が踵を返すが……。
「悪いけど、誰一人帰すつもりはないよ」
静かな声と疾る赤雷。
稲妻の軌跡を描き滑るように雪の上を駆け抜ける。
彼女の名は『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)。異界よりこの地へ降り立った歴戦の軍人である。
「ふっ!!」
短く息を吐き出して、マリアは低く身を沈める。
風に煽られ、雪花が散った。
低く放たれた足刀が兵士の脛を打ち抜く。
「うぎっ!? く、この……」
「黙って!」
もんどり打って倒れる兵士の横面に、くるりと回ってマリアは蹴りを叩き込む。
ひゅおん、と風の唸る音。
振るわれた槍が舞い散る雪のヴェールを裂いた。
「嗚呼、やだやだ。弱いもの苛めが生業の部隊だなんて、ねえ?」
垂れた眼に灯る感情の名は“嫌悪”。ゴキブリでも見やるような視線を兵士たちへ向けた、その直後『never miss you』ゼファー(p3p007625)は地面を蹴った。
その様はまるで、雪原に吹く一迅の銀風。
「ロクでなししかいないのが分かり切ってるじゃないの。利一、B班に連絡を!」
銃を構えた兵士たちのただ中へ駆け込みながらゼファーは言った。
彼女に照準を合わせた兵は、そこでぴたりと動きを止める。引き金を引けば、撒かれた鏃が仲間を巻き込んでしまうからだ。
「今、梟を飛ばしたよ。これで……あぁ、いや、だめだ。何かにやられた!」
舌打ちを零し『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は眉をしかめる。
仲間への連絡のため、空に飛ばした梟はけれど何かに切られて消えた。
頭上を見上げた利一の瞳に、空を舞う1羽の黒鳥が映る。
否、どうやらそれは鳥ではない。
「コルポー?」
その鳥影こそ“レイヴン”の隊長を務める男、コルポーに相違ないだろう。
●激闘レイヴン
急降下からの斬撃を、利一は紙一重で受け流す。
舌打ちを零し、コルポーは素早くサーベルを引き急上昇。伸ばされた利一の手を掻い潜ると、再び空高くへと舞い上がる。
と、同時に利一の靴先にコツンと当たる硬質な何か。
「なっ……くっ!」
顔の前で両腕を交差させた利一は、雪の上に身を投げ出す。直後、利一の背後で爆音が鳴り響く。
火炎に巻かれ、脳を揺らされた利一がよろりと立ち上がる。
「おい! 降りて来いよ! 私を倒せずに後退するとは、コルポー隊長も落ちぶれたものだな!」
額を伝う血もそのままに、利一はコルポーへ向け中指を突き立ててみせた。
「……お前、あまりに調子に乗るんじゃないぞ? ……おい、お前たち、何をしているのだ! たった4人にあまり時間をかけるんじゃない!」
胸の前でサーベルを構え、コルポーは部下たちへ指示を出す。
すい、とサーベルを泳がせるのに従ってレイブン部隊は動き始めた。イレギュラーズの攻撃範囲から銃を撃ちながら後退していく部下たちを見て、コルポーはゆっくりと高度を落とす。
その様子を窺いながら、利一は【ファミリア―】で喚んだリスを1匹、森の中へと駆けさせた。
森を進むラグラの肩に1匹のリスが飛び乗った。それは利一の喚んだリスだ。リスの頬袋を突きつつ、ラグラは視線をリスのやって来た方へ向ける。
「……2時の方向ですか。レイヴン部隊は全員勢ぞろいということは、なんですかねこれ? 私ちゃんのファンとかですかね? 出待ちかな?」
などと言いながら、ラグラをはじめ4人は駆け出す。
暗がりの中、疾走するリスの後ろ姿を見失わぬよう注視しながら。
「どぉぉっせぇぇい!」
響く怒号が、枝葉に積もった雪を崩した。
振り抜かれたメイスの一撃が、樹木を激しく軋ませる。砕けた木っ端が周囲に散って、ゆっくりと樹が傾いた。
ばさばさと激しい音を鳴らして、倒れた樹木が兵士の1人を押しつぶす。舞い散る雪と射線を塞ぐ樹のせいで、兵士たちが狼狽える。
「ふふ、スナイパーであれば、視界を塞がれるのは困るでしょう?」
薄い胸をふふんと逸らし、ヴァレーリヤは得意げな顔でそう告げる。
「何してる! 足を止めるな! 射線を塞がれたのなら、問題ない位置まで速やかに移動を開始せよ!」
利一と激しく切り合いながら、コルポーはそう指示を出す。
我に返り動き始めた騎士が数名。
その後を追って、木々の間からラグラが姿を顕した。
倒れた兵士の手元に転がる銃を拾って、ラグラはそれを力任せに一閃させる。
「は!? あっ……が!!」
ガツン、と一撃。
側頭部に殴打を受けて兵士はよろりと倒れ伏す。
「先制攻撃はこちらがもらいますよ。あ、でも困った。敵がたくさん。足場も微妙。足場は頑張るしかないぞ私、頑張れ」
危機感に欠ける声音でもって、ラグラは銃を投げ捨てた。代わりに翳した手の平を、利一へ向けてその身に負った傷を癒す。
ラグラへ向けて兵士たちが鏃を撃ち出す。
「ああわわわ」
慌てて倒れた木の影へ、ラグラは素早く跳び込んだ。腕に刺さった鏃を引き抜き「うえ」と呻き声を零した。
銃を構えた兵士たちが、じわじわと包囲の幅を狭める。
そのうち1人、最後尾に位置していた兵士の肩を小さな手がガシと掴んだ。それは鋼鉄の腕だった。
「略奪も虐殺も、全ては戦いの中で起きたこと。それらの全てを否定は出来ないでありますな」
呟くような澄んだ声。
金の髪が寒風に揺れた。
そう告げたのは鉄帝の騎士(メイド)エッダである。
「……め、メイド?」
「メイドにあらず。それはそれとして、貴様らは気に入らないので潰す」
兵士の肩を握る手にエッダは強く力を込めた。ミシ、と骨の軋む音。痛みに姿勢を崩した兵士を、そのまま彼女は引き倒す。
「な、あ、やめっ!」
「この痩せた地に、貴様らの濡れ手で掴める粟は無いと知れ」
ぐしゃり、と。
兵士の後頭部に手を添えて、その顔面を地面に叩きつけるのだった。
突然の乱入者に慌てふためく兵士たち。コルポーの指示に一度は立て直した陣形も、再び崩れ気味である。
再度指揮を出すためにコルポーは大きく翼を広げて、地面を蹴った。
戦線離脱の隙を生むべく、前方へ向け爆弾を投げる。爆音と共に周囲に火炎が舞い散った。
けれど、しかし……。
「飛ばせないよ! 言ったでしょ、誰も逃がす気はないって!」
火炎の最中を駆け抜けて、赤電を纏ったマリアが跳んだ。
跳んだ勢いそのままに、彼女はコルポーの腰に手を回した。咄嗟に振り抜かれたサーベルがマリアの肩を深く抉るが、彼女は腕を離さない。
コルポーとマリアはもつれあうようにして地面を転がる。
「ぐっ……火炎も爆音も利かないような奴がいたか! 離せ!」
「悪いね、離す気はない!」
サーベルの柄でマリアの顔を殴りつけ、コルポーは怒声を張り上げる。
雪に塗れ、転がる2人のすぐ近く。
気を失った兵士が1人、倒れ込む。一体なにがあったのか。暗視マスクは原型をとどめぬほどにへしゃげていた。
倒れた兵士を踏みつけて、剣を手にしたリズリーが立つ。
「あんたらみたいのをつけ上がらせておくのは癪だからね、ここいらで徹底的に潰してやろうじゃないか」
浮かべる笑みは獣のそれだ。
荒熊リズリー、満を持しての参戦である。
紫電の爆ぜる音がした。
一条の閃光が暗闇を切り裂く。
それはベネディクトの投擲した短槍だ。積もった雪を溶かし、兵士を数名薙ぎ払い、そびえる大樹に深く突き立つ。
雷により焦げた大樹の表面が、炭と化して地面に零れた。
コルポーの指揮を失い逃走に転じた兵士たちは、目の前で起きた光景に驚愕して思わず足を止めた。
「略奪部隊か……久しくその単語を聞いては居なかったが、戦火がある以上はこの世界にも存在するのは当然だな」
黒いマントを翻しつつ、雪を踏みしめベネディクトが歩む。
逃走の隙を作ろうと、意識を保った兵士たちが一斉に銃を構えてみせた。指揮官が機能していないとはいえ、練度は上々。言葉にせずとも、今その場で行うべき最適解を皆が一瞬で共有できているのだろう。
けれど、それはベネディクトたちイレギュラーズも同様で……。
「緊張しているのは一目瞭然。戦えない相手ばかりを狙うのが得意みたいですけど生憎、こっちは簡単に狩られる気はありませんわ?」
ベネディクトが短槍を回収する時間は、割り込んだゼファーが稼いでみせた。
ゼファーの挑発に乗せられて、兵士たちの視線がそちらへ向いた。
殺気と敵意を涼しい顔で受け流し、ゼファーは軽く槍を薙ぐ。
直後、彼女は地面を蹴って駆け出すと低く槍を突き出した。槍の先端が地面を転がる爆弾を弾く。
空高くへと舞ったそれが爆発し、周囲に熱波を撒き散らした。
銀の髪が激しく靡く。爆炎がゼファーの頬を焼いたが、彼女はけれど余裕の表情を崩さない。
「ま、正々堂々戦えだのとは言いませんけど。それでも、唾棄すべきやり方ってのはあるからね?」
闇夜に紛れた襲撃や、戦えぬ者にまで及ぶ徹底した虐殺。
「あぁ、逃がしはせんッ!」
金と銀の槍使いが並び立つ。
怒りに戦意を滾らせる2人。相対し兵士たちはせめて一矢を報いるために、一斉に銃の引き金を引いた。
●白雪と黒翼
地面を擦る鋭い足刀。
投げ捨てられた爆弾をマリアは高くへ蹴り飛ばす。頭上で生じた爆風が、リズリーの身体を僅かに後方へと押した。
ほんの一瞬生まれた隙を見逃さず、コルポーは空へと舞い上がる。その手には、背から降ろしたライフルが握られている。
だが、しかし……。
「させないよ!」
空へ向けて利一はその手を翳して叫ぶ。「歪め」と脳裏で念じれば、広げた翼の中ほどで空間が捻じれ、ミシと骨がへし折れた。鳥の骨など中身はスカスカ。大した強度は持っていない。
「うおっ!?」
翼を折られたコルポーは否応もなく高度を下げた。
雪の欠片を撒き散らし、荒々しくもリズリーが駆ける。
コルポーの振るうサーベルを掲げた盾で受け止める。火花が散って、欠けた刃が宙を舞う。
上下左右から降る連撃が、盾を次第に押し下げた。一閃、二閃と褐色の肌に朱が走る。手首に一撃をもらい、リズリーは盾を取り落とした。
腕から胸にかけてを切り刻まれたリズリーは、右手に握った剣を頭上へ振り上げる。上半身を濡らす血が、その拍子に飛び散った。
命の危険さえ生じるほどの出血量だ。けれど、リズリーは歯を食いしばり途切れかける意識を繋ぐ。
直後、自己強化によりリズリーの身体に闘気が満ちた。
「や、やめっ……」
「強者は奪い、弱者は奪われる。道理さ。とくにこのヴィーザルの地じゃね!」
強さを尊ぶ部族に生まれ、山賊だった過去もある。
生きるだけでも難度の高いヴィーザルの地ではなおのこと。だが、しかし……それはそれとして、コルポーのやり口は彼女の怒りの琴線に触れた。
大上段から振り下ろされる一撃は、まさしく猛熊のそれである。
「今回、どっちがどっちなのかは……言うまでもない」
「……がっ」
胸部を深く抉られて、コルポーは地面に倒れ伏す。
白い雪に朱が広がった。
兵士たちを縛りあげ、ゼファーはその頭を数える。
「7人か。まぁ、生き残ってる方かな」
「部隊に痛打を与えても、頭脳に生きて帰られるのは厄介だからな。コルポーは仕留めたのだから問題なかろう」
死者たちに短く黙礼を捧げ、ベネディクトが言葉を返す。
白かった雪は戦士たちの血でまばらに染まっていた。
「こいつら、随分と金品を所持していたでありますな。こちらのペンダントは村長の証でしょうか」
兵士たちから回収した金貨や宝石を一か所に集め、エッダはそれを1つひとつ確かめる。
それらの持ち主は既にこの世にいないのだろうが、せめて墓前に供えることはできるだろうか。
「うぅ、寒いですわ。早く撤収しませんこと?」
戦場の隅で身を震わせるヴァレーリヤが仲間たちに向けそう言った。
そんな彼女に肩に優しくマリアは自身の外套をかける。
「あ、マリア……」
「私は平気だから。寒いんでしょ?」
ヴァレーリヤの隣に身を寄せ、マリアは告げる。
さらに反対側にはラグラが座る。こてんとヴァレーリヤの肩に自分の頭を預けて座った。
「あの、ラグラ?」
「星が良く見えますよ。寒いと空がきれいだからね、めっちゃさむいね」
なんて、言って空を見上げるラグラの視界。木々の合間から見える満点の星空を、3人は並んで座って眺め続ける。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
レイヴン部隊は壊滅し、隊長コルポーはヴィーザルの地にその命を散らしました。
壊滅した村から盗まれた貴重品も回収完了です。
依頼は成功です。
この度はシナリオリクエストありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけたのなら幸いです。
機会があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ターゲット
・コルポー(スカイウェザー)×1
暗視ゴーグルを付けた烏頭の軍人。
連合王国の略奪部隊“レイヴン”の隊長を務めている。
ライフルによる狙撃と、サーベルを用いた近接戦闘を得意としている。
性格は横暴にして強欲。価値あるものを収集する趣味を持つ。
けれど、彼は歴戦の軍人だ。
彼は況判断の能力に長け、自分たちの得意と不得意を正しく理解している。
スナイプ:物遠貫に中ダメージ、麻痺
ライフルによる射撃。射出されるのは鉛玉ではなく鋼の鏃である。
ボム:神遠範に小ダメージ、火炎、混乱
火炎と爆音を撒き散らす小型の爆弾。
・レイヴン隊員×8
烏を模した暗視マスクに黒装束。
ライフルと爆薬を主装備とする略奪部隊の隊員たち。
闇夜に紛れた音もない奇襲作戦を得意としている。
スナイプ:物遠貫に中ダメージ、麻痺
ライフルによる射撃。射出されるのは鉛玉ではなく鋼の鏃である。
ボム:神遠範に小ダメージ、火炎、混乱
火炎と爆音を撒き散らす小型の爆弾。
●場所
鉄帝国ヴィーザル地方。
氷雪に覆われた山中。
“ウォー・ウルフ”と呼ばれる者たちの住む、いくつかの集落が点在している。
1つの集落に住む人数は40人前後。
次に狙われる集落は判明している。周辺には背の高い木々が生えており、視界は悪く辺りは暗い。
集落内には背の低い家屋が20ほど。
木々がないため、月明りによりある程度の視界は確保できる。
山中にせよ、集落内にせよ、氷雪に覆われているため油断をするとよく滑る。
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