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シナリオ詳細

再現性東京Latest:没薬の行方

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●行方不明
「なぁ、知ってるかい。再現性東京の話」
 学園ノアの教室にて、ゴシップ好きな生徒達が噂話を交わしていた。
 再現性東京の方で近頃事件がよく起こっているだとか、ローレットがそれに着手し始めただとか……。
「ん、グレイルくん達の話?」
 ローレットの話をしているのが聞こえて、耳をピンと立てながらその生徒達に近寄るヒナタ=サマーライト。新聞部の一員である彼女は、ゴシップ好きの彼らに快く話の環に迎えられる。
「いやいや、それもあるけど。本題はこっちさ」
 生徒の一人が新しめな携帯を取り出す。
『【情報求む】再現性東京Latest街で連続的な失踪者。述べ6人に!!【怪奇現象】』
 いわゆるニュースや噂のまとめサイト。
 ローレットの直接的な関係者ではない者は雑誌や情報屋など何らかのマスメディアを通して情報を得るでもしなければ普通は情報を得られないが、練達においては勝手が少し違う。マスメディアではなくこういう個人が発信した情報源が先行する場合があるのだ。
 その情報精度については誰も保証してくれるものではないが、噂話のネタとして使うには十分に面白い。
 ヒナタは半信半疑ながら、身を乗り出すようにそれを覗き込んだ。
 その内容については、Latest街の特定地域において連続的に失踪しているという情報だ。無論、失踪が全て同じ理由だとは限らない。Latest街の原型となった世界はもとより、混沌世界において魔物に殺されたり賊に誘拐されるなど行方知れずになる理由はごまんとある。
 さて、なにゆえに失踪者の人数が特定されているのかといえば……それらを「紐付けるもの」があるからだ。
 失踪者のいずれもが、インターネットの掲示板に身分戸籍を明かして助けを求めているか、あるいは知人友人に場所を明かしてメールで助けを求めているか、何にしても通信を介して救助を求めている。
 そのどれもが特定の場所を指しているらしい。まとめサイトにはその詳細な場所までは載っていなかったが……。
「あ、この一人目! これ今朝ニュースで行方不明者って発表あった人じゃない!」
 ヒナタはその名前に見覚えがあった。確か最近活動し始めた芸能人だったか。
「マスメディアによる行方不明者情報の後追い。……あと五人も真実味があるだろう?」
 携帯を見せていた生徒の一人がほくそ笑んだ。ちょっとムッとする顔をするヒナタ。他人が被害にあっている分、面白おかしいモノであるといった反応は多少不謹慎に思えた。
 とはいえ、彼の言う事も然りだ。歴としたマスメディアが情報を出したのならば残りの五人の行方不明もデマじゃない可能性が高い。
 周囲の彼らが期待の眼でヒナタを見つめている事に、彼女自身が気付いた。
「……つまりは、情報を集めて欲しいって事?」
 学園で顔が広く、情報収集が上手いと評される新聞部のヒナタである。誰が誰を好きだかなんてゴシップだとか、学生服に合う最新のファッションだとか、学友達にそういう情報を頼まれる事は日常茶飯事だ。
 ……とはいえ、人が行方不明になっている事件に面白半分で関わるのは彼女にとってあまり快くはない。もちろん、興味が無いと言えば嘘になるが。
 彼女はウンウンとうなって悩んでいたが、話の最初に出て来たローレットの話を思い返した。確か、再現性東京の事件解決に着手し始めているといっていた。
 ――この事件についての情報を提供すれば、グレイルくんの役に立つかもしれない。
 ヒナタはそれで考えを改めて、彼らの頼み事を了承する旨を伝えるのであった。

●原因不明
 『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)は携帯をまじまじと見つめていた。
「……あー、えぇっと、手紙の情報を出すには確か……」
 イレギュラーズの目の前で依頼人から受け取った情報参照に四苦八苦していた。間違えてゲームのアプリを開いたりアドレス帳の宛先にメールを送信しかけたりしていたが、どうにか目的の画面に辿り着けたようだ。
 
『たすけて
 場所は――』

 そのような短いメール文章を見せられた。書かれている場所についてはLatest街のようだが。
「この場所は今は使われてないトンネル道路らしい。君達が知ってるかどうかは知らんが……情報屋曰く、この場所で“救出を求めている”という行方不明者が何人も出ているそうだ」
 正確な数についてはその情報屋達も詳しくは分かっていない。エディが歯切れの悪い言い方をしているのは、おそらくその情報が不確かである事が一番の理由だろう。
「依頼人は学園ノアの学生達……その内容はヒナタ=サマーライトの救出だ。自分達から彼女をけしかけたようなものだと、泣きそうな顔でギルドに飛び込んできたよ」
 彼らの行動についてとやかく自論を述べる気はないといったエディは、イレギュラーズに対して依頼の事について言葉を重ねた。
「留意してほしいのはこの場所にモンスター……怪異か? それらしきものの目撃情報が情報屋から出ている事だ。確認されたのは単体だというが」
 それは何らか魔術を使う系統のモンスターだという話だが、その詳細までは分かっていない。こういったモンスターの魔術攻撃ならば体力面への攻撃よりもバッドステータスを付与する攻撃をしてくる可能性が高いだろうとエディは経験則から進言をする。
「……しかし、いまいち分からんのが行方不明者の行動についてだ。助けを求められる状態ならば、現地の警察や傭兵などの機関に連絡するというやり方もあるだろうに。そういった機関には救助の要請が届いていないらしい」
 行方不明者やモンスターについて情報が少ない原因がそれだ。自分達がそれらを調べる事も手段であるが、今回ばかりは情報収集に手間暇を掛けている余裕もあまりない。何故なら
「繰り返し言うが、今回の目的はヒナタ=サマーライトの救出だ。行方不明になって既に丸一日経っている。一般人ならば水分不足や空腹で衰弱が始まっているだろう。情報収集をすれば察知出来る事も増えるかもしれんが、時間を掛けすぎれば彼女の命はないと思ってくれ」

GMコメント

●成功条件
『ヒナタ=サマーライト』の救出
●失敗条件
『ヒナタ=サマーライト』の死亡

●情報精度と環境情報
B-
 リプレイ内で何かしら情報収集出来たならば判定面で優位な補正が付きます。
 プレイング内で情報を断定して行動すれば補正を得るのに時間は掛からない可能性はあるまでも、それが当たるとは限らない為にご注意下さい。
 場所については再現性東京Latest街のトンネル道路。
 電気は通っていないので暗視といったスキルが無いなら光源はほぼ必須となるでしょう。
 現地には正体不明の怪異がいるとの情報もあります。目撃されたのは一体限りですが……。

●エネミー
正体不明の霊体:
 神秘攻撃関連。バッドステータス付与は高確率。
 バッドステータス回復か耐性のスキルを基点にすると良いかも。
 
●NPC情報
ヒナタ=サマーライト:
 今回の救出対象。グレイル・テンペスタ(p3p001964)さんの学友。
非常にせっかちで早とちりが多いが、ここぞという時は自分の実力を発揮できるタイプ。
 噂話や流行に敏感で、特ダネ情報を探すためによく学園中を走り回っている。
 補足情報として、逃走技術は高いらしい。

エディ:
 全体的にステータスそれなりの傭兵。単体攻撃得意で【不殺】持ち。遠距離以遠や対複数戦は不得意。
 基本的にイレギュラーズの指示に従います。
 情報収集をするならば、人手が要る行動については頭数に入れるのも有用。

  • 再現性東京Latest:没薬の行方完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月03日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に
天雷 紅璃(p3p008467)
新米P-Tuber

リプレイ


「頼りになるのは文明の利器ね」
 澄ました顔でそう口にする『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。エディは彼女達の手元にある物を物珍しげに覗き込む。
「ふむ、依頼人が使ってたものと違うようだな」
「えぇ、これも通信機の一種よ」
 aPhone<アデプト・フォン>。再現性東京の希望ヶ浜で使われる通信機。こういったものを手配するのは彼女達にとってお手の物だ。
 対して、エディはこの手の道具に疎い。イーリンは説明代わりに一瞬だけ手渡して、すぐ返してもらった。
「相変わらず抜け目がないな。何処から調達したんだ?」
「ヒミツ。私もグレイルの淹れる紅茶が不味くなる事態はイヤなのよ……って」
 通信不能。イーリンはムッとした顔でエディを睨んだ。
「俺は何もしてない」
 困惑したような表情を浮かべるエディ。……いや、彼だけではない。『森アザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)、『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)。イーリン以外のイレギュラーズも各自のaPhoneと睨めっこ。
「まさか再現性東京の中でも通信帯が違う?」
 インターネット文化にいくらか知識があるゼフィラがそのように推察を漏らした。
 正確な事は専門家に尋ねでもしないと分からないだろうが、Latest街でaPhoneが使えない可能性は高い。
 それならば困った事になった。aPhoneが作戦内容の中核を担っているから、急いでその代替手段を探す必要がある。Latest街ならインターネットカフェや公衆電話でもありそうなものだが、そうなると作戦の変更が……。
「……なぁ、もしかしてこれ使えへん?」
 各々が難しい顔をしている中、遅れて合流した『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)がポケットから何かを取り出した。見た目は何の変哲もない携帯だが……イーリンがそれを受け取り、具合を確かめた。
 通信可能。
「何処でこれを?」
 皆の顔色を見てブーケは冗談ぶって得意げになる。
「こんなこともあろうかと! ……なんてな。ヒナタさんの友人とか、ご家族とかに会ってる時に気付いて、皆と合流する前にちょちょいと――」

 時間は少し遡る。
「ヒナタちゃんについて聞きたい事あるんやけど、え? ナンパ? 違う違う、そうやなくて」
「そう、芸能人の人が行方不明になってた件! 再現性東京の外でもニュースになってて……」
 学園ノアにて聞き込みをするブーケ。『スレ主』天雷 紅璃(p3p008467)。行方不明のヒナタを探すという大義名分がある手前、学園関係者は協力的で彼らの人柄も相俟って情報収集は円滑に入手出来た。しかしその内容は玉石混交。
 とはいうのも、彼女の交友関係の広さからして宛てが多かった。普段の依頼ならまだしも、今回に限っては全て聞き回っている時間が無い。
 何かを聞き出すのはブーケや紅璃の得意分野だが、ヒナタと親交の浅い深いなどの事柄は判別しかねる。それは彼の領分だろうと、ブーケは連れてきた仲間の顔色をうかがった。
「…………」
 不機嫌そうに廊下を歩き、眉間に皺を寄せている『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)。彼にしては珍しく、怒りを露わにしている。
 気まずそうに笑うブーケ。その親しい宛てである生徒も、グレイルの顔を一目見るや驚いた様子で事情を問い尋ねてきた。

「……久しぶりに……ヒナタさんの名前を聞いたと思ったら……なんでよりにもよって……こんな危険なことに……しかも命の危機って……」
「まぁー、都市伝説は現場に赴くのが伝統ですからねぇ」
 情報収集をしながら、心の内を吐露するグレイル。何処ぞの掲示板のノリを思い返す紅璃。
 ヒナタは昔から噂好きな性分であった。学園で流行といった情報は在籍当時のグレイルにとってありがたくも思えていたが、今回のように危ない事に巻き込まれて人に迷惑を掛けるのは話が別だ。
 ヒナタと親しい生徒が、彼女の連絡先や住所その他の情報をブーケに渡し終えてから口を開く。
「彼女は弁明しないだろうから、ボクの方から言うんだけどね」
「……平賀君?」
 彼が言うには、ヒナタはグレイルがイレギュラーズになったという話を聞いてから「いつかグレイル君達の役に立ちたい」と度々口にしていたという。決して記者魂から面白半分で首を突っ込んだわけではない。イレギュラーズの役に立ちたかったんだろう、と。
 それを聞いてグレイルの険しい顔がくしゃっと歪んだ。
 ――それなら……彼女が危険にあっているのはボクのせいじゃ……。
 自責の念に眩暈がした。だが、仲間や見知った生徒の顔を見てすぐに気を取り直す。誰かを責めるのは彼女を助け出した後にやる事だ。
「ヒナタは情報収集で使い別けする為にわざわざ何種類か持ってた。それと通信出来る物を現地のお店とかで調達出来るかもしれない。急いで」
 グレイル達はそれを聞いて作戦を思い出し、手短に礼を言ってから急ぎ走り出す。
「……大事な友達なんだ……ヒナタさんは絶対に助ける……死なせたりなんかしない……絶対に……!」


「事件に該当する掲示板はこれだな」
「まとめサイトの元スレッドはこっち、スレで身分を明かした人のデータはそっち……」
 携帯で情報収集を行うゼフィラと紅璃。二人とも出身が出身だけに、この携帯の扱い方は熟知していた。
 彼女達は目的地に向かいながら、周囲のコンクリートビルが立ち並ぶ光景を見上げる。
「いやはや、元の世界で生きていたとして、こういう風景を見ることになったのかも知れないと考えると感慨深くは有るね」
「都市伝説か何かなのか、余計なものまで再現されちゃってるよねぇ」
 二人は乾いた笑いを浮かべる。実在不確かなお化けなど元の世界では娯楽の一種だったが、いざ実在が証明される世界ともなれば……。
「ん、どうした。そんな風に俺の顔を見て」
 ……傍らの狼男(カナタ)が元・日本在住という話を思い出して、故郷と比べるのをやめた。
 調べている内に分かった事は『事件がニュース報道されてからイタズラらしき投稿が明らかに増えた』という事だ。使えそうな情報が埋もれてしまうようなありさまで、ゼフィラのように手慣れたものでなければ検索に難儀する。
 ゼフィラは仲間からの情報を思い返す。

「ニュースで行方不明の芸能人か、様子がおかしい人をそこのトンネル道路付近で見かけなかったきゅー?」
 レーゲンは的を絞って聞き込みを行っていた。実際、その聞き込みは有効であり、コンビニの店員が「あぁ、覚えてるよ。サインもらおうとしたもん」と情報をくれた。
「! その人、どんな様子だったっきゅ?」
「どんな様子だったか、って言われても……酒を買ってったのは覚えてるよ。他の店で花買ってきてたみたいだし、献花だろうね」
 レーゲンは首を傾げる。
「あ、知らない? トンネル道路の方で事故がさ。天井の鉄板が落ちて、女の人が潰れて。他に気になるお客さんといえば、そうだな……」
 事故自体は単なる老朽化といった事故で、特に怪しい点もなくそれだけの話であるとの事だが。

 それを検索の宛てにするゼフィラ。すぐにその事故の記事に辿り着く。事故の犠牲者についてや、後処理に関わった作業員の何人かが精神に不調を来したなど。ゼフィラはそれらを記憶に留めた。


「……おや、これは」
「うーむ……」
 目的地に辿り着いたのは夜半。周囲の動物から情報を尋ねるべく捜索するカナタであったが、それは出来なかった。一緒に探していたエディの顔も少し歪む。
 見つけたのは手足が千切れかけた猫の死骸だ。他の動物に襲われたのだろうか。何にしてもあまり気の良いものではない。
「怪異の正体が狼男の可能性は?」
「猫をイジめる同族は御免だな。グレイル。そっちはどうだ?」
「……ダメだ、繋がらない」
 グレイルは携帯でヒナタと通信を試みていた。しかし、どういうわけか繋がらない。電池切れか、電波が届かないのか。

「たすけて、ください」

 そんな時に声が聞こえた。トンネル入り口の少し進んだ地点から?
 入り口近くで準備を整えていたイーリン達がすぐにその声の主を見つける。
「行方不明者のヒトっきゅ!」
 レーゲンがそのように声をあげる。
「落ち着いて。状況を話してくれる?」
「トンネルの中に、まだ人がいます。たすけてください」
 衰弱して意識も朦朧としているのであろうか。そう繰り返してイレギュラーズの手を引っ張り先へ進む事を促す。
 レーゲンやエディなどはすぐ奥へ踏み入ろうとしたが、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がそれを制止した。
「……所謂、友釣りという手法を思い起こすな」
 汰磨羈は討伐対象が何らかの魔術を使うだろう、という事から洗脳を警戒した。
 無論、あくまで推測だ。彼が純粋な救助対象者という可能性もある。しかし警戒しておくに越した事はない。
「友釣り的手法なら、深入りした段階で来る筈……」
 彼の促す通りに進めば討伐対象と相まみえる。皆にそのように提案し、目の前にいる行方不明者には水と食事を与えてその場で待機させた。


 それからは各々のペットに捜索に活用するイレギュラーズである。
「あの子達、動物に食われたりしたらどないしょ……」
「まさか。メカ子は金属の塊よ?」
「私の黒猫はその心配もないがな」
 入り口にメカカレッジを置いて、先行させたのはメカ子ロリババアと汰磨羈の黒猫。
 メカ二匹は鳴き声で合図を出してもらう命令は出しておいた。
 カレッジは一定毎に一回鳴き声をあげてもらう。これについては滞りなく鳴き声が聞こえてきた。
「時間感覚を狂わせるタイプではないようね」
「そやね。メカ子の方は――」
 メカ子の鳴き声(?)が聞こえてきた。鳴き声の合図は異変を感知したら1回。
「……いたぞ。ヒナタだ」
 汰磨羈は黒猫と共有していた視界から救出対象を見つける事が出来たが……直後、黒猫の体は霧散した。
 一瞬の間を置いて、メカ子の悲鳴が鳴り続けた。ヒナタちゃんを見つけたら2回で……他の緊急事態は3回……。
 ブーケは慌てて返事を求めるが、メカ子の応答はない。
「おいおい……」
 嫌な予感を抱いて額を抑えるカナタ。皆は警戒しながら先へ進んだ。

 辿り着いたのはトンネルの天上が崩落した場所である。
「大部分は放置したままか」
 ゼフィラが調べた限りでは犠牲者の遺体を回収した後は、トンネルは修復されていないそうだ。一般人の使用頻度など自分達に関わりのない事情があるのだろう。
 ヒナタを見つけたのは此処のはずである。グレイルも嗅覚からヒナタの匂いを感じていた。
 周囲を照らすようにエディが光をかざすと、倒れ伏した人影が見えた。
 ヒナタだ。他の行方不明者達も数人いる。最初の犠牲者であろう芸能人は特に衰弱が酷い。傍らに気絶(?)しているメカ子もいる。
「これは……生きているのか?」
「ヒナタさん……!」
 医薬品を片手に近づくエディ。グレイルもヒナタの方に近づく。
 行方不明者達は助けを求めるようにエディやグレイルの腕を掴もうとする。直後、レーゲンが複数の敵対象を感知した。
「攻撃が来るっきゅ!!」
 倒れ伏した者の一人がブツブツと何か呟いている。イレギュラーズ達は咄嗟に耳を塞ぐ。エディやグレイルも行方不明者達は不意打ちの一部と気付いて彼らの腕を撥ね除けた。
「……う、ぁ」
「……っ!!」
 撥ね除けられた痛みでヒナタが呻いた。その弱った声にグレイルが動揺する。
「くそっ」
 ブツブツと詠唱を発していた者へカナタは走り出す。
 暗がりでよく見えなかったが、それはまるでドライアイスの煙だった、カナタが蹴り上げるとその一部が霧散する。
 ゆっくり立ち上がるその者の顔を見て、ゼフィラは大声をあげた。
「そいつだ! 事故犠牲者の顔写真と一致する!」
 やはり崩落事故に巻き込まれた女が原因らしい。哀れではあるが、他人を巻き込む免罪符にはならぬ。
 戦況を窺うエディ。行方不明者達は操られている節があるが、幸か不幸か衰弱が進んで不意打ちでなければあまり驚異にならぬであろう。
 であれば驚異となるのはあの霊体だけか。汰磨羈を感心したように見やった。
「推測通り。流石だな」
「釣りで言うなら爆釣といった所か。なんせ、私達を釣ったのだからな?」
 戦況有利とみてお互いニヤリと笑う。エディは続けてグレイルに背を預けながら敵を見据える。
「ヒナタの救出は打ち合わせ通りにやる。相手が死なば諸共に出ないとも限らない」
 言葉は返って来ず、グレイルは「ハァ、ハァ」と息を漏らしていた。何かがおかしい。
「……グレイル?」
 エディは後ろに振り向く。その瞬間、彼の目に鮮血が飛び散る。
 真後ろにいたグレイルは、自らを傷つける形で顔面の肉を両手の爪で深く抉っていた。


 死者の声を耳にしたグレイルは、異常な自責の念に苛まれた。
 彼女がこんな目に遭ってるのは自分のせいだ。償わなければ。
 グレイルは自身の両目を抉ろうともう一度顔を覆う。

「ブレイクフィアー!!」
 直後にイーリンの詠唱が走る。正気に戻ったグレイルはハッとして周囲を見回した。
 エディは作戦通り最優先にヒナタを退避させるべく彼女を抱えて戦線離脱を始め、カナタや汰磨羈が攻撃を仕掛けている。他の者は相手の攻撃妨害を中心に動いた。
「インターネットを悪用する夜妖は放って置けないよね、ここで終わらせちゃうよっ」
 霊体は行方不明者達やグレイルを洗脳で動かしていた。ならばその攻撃方法が主力だろう。イレギュラーズ側はそれに抗う手段が十全にあった。
 霊体は再度歌うような詠唱をイレギュラーズに向けるが、
「ブレイクフィアーっきゅ!」
「……脳筋狼。暴力isパワー。体力がないなら速攻あるのみ!」
「因果応報――悪霊とて、その理からは逃れられんよ」
 仲間が自傷に走る前に、レーゲンやイーリン、ゼフィラの誰かがそれをすぐ解除する。
 洗脳から生じる頭痛を堪えながら、 被弾覚悟で相手に攻撃を仕掛けるカナタ。攻撃と同時に気を練り上げて単独で抵抗する汰磨羈。
 霊体にとってこの戦況はあまりに分が悪い。
 それに耐えかねたのか、幽霊は行方不明者を盾にするように立ち回る。攻撃を担うイレギュラーズは一瞬手を止めたが、
「あとで治療してあげるから、堪忍なっ……!」
 ブーケが衝術で盾になっていた行方不明者を遠くに吹き飛ばす。
 それを受けて霊体は慌てるように詠唱を再度唱えようとした。
 ――――。
 ……声が、出ない。
「やった! やっぱり安価には従ってみるもんだね!」
 紅璃が霊体に魔術で何か刻み込みながら喜んでいた。封印の魔術だ。
 詠唱が不可能とみて、霊体は破れかぶれに負傷度合いが強いグレイルへ攻撃を仕掛けようとする。
「怪異ごときが、捉えさせないわよ」
 それを察知したイーリンが即座にグレイルの傷を回復する。グレイルは相手の攻撃をそのまま耐え抜き、相手を怒りに満ちた表情で睨み付ける。
「事故に巻き込まれたのは……不運だとは思うし……同情もする……けどっ!」
 魔力を右腕に圧縮し、そこから歪で巨大な爪を創り出す。制御が難しい魔術に腕が酷く軋んだが、グレイルは躊躇う事なくその腕を振り回す。
 魔力が籠もったそれは霊体を捉え、相手の胴体を殴打する。
 仲間の攻撃により霧散しかけていた霊体は、その一撃によってついには完全に消滅したのであった。


「っぁ」
 後日、病院のベッドでヒナタはようやく意識を取り戻した。彼女は痛む頭を抑え、イレギュラーズに気付く。
「貴方は……」
「初めましてお嬢さん。俺は君を保護した狼男だ」
「私は中等部のイーリンよ」
 カナタやイーリンが冗談ぶった風に笑う。彼らは形式的に事件の経緯をヒナタへ尋ねた。
「その、えーっと」
 ヒ傍らにいるグレイルを見て、ヒナタは口籠もる。複雑そうな顔をするグレイル。
 イーリンとカナタは「どう仲立ちしたものか」と頭を悩ませるが、会話が詰まった所で口を挟むエディ。
「救出された人達からお礼の言伝があるんだが」
「あら、それなら皆ギルドで伝えられたわよ?」
「ヒナタ君に対してだ」
 ヒナタ当人は「どういう事?」と目を丸くする。グレイルも驚いた表情でエディを見た。
「……レーゲンが店員から聞いたんだが、食料を鞄一杯買っていったそうだな。それを分け与えたお陰で、他の犠牲者は餓死しなかったとの事だ」
 その直後に霊体に襲われた様子だが、それを責めるのは野暮だ。三人はグレイルの顔を見やる。
「……今後、危ないことには……一人で手を出したりしないでね……流石に少し怒ったよ……」
 そう言われて、しゅんと俯くヒナタ。「もう二度と情報屋の真似事なんてしない」と言いかけた彼女を、グレイルが手仕草で制止する。
「ボクから言えば……ヒナタさんは人助けが出来たんだから、一人前。だから、『情報屋の真似事なんてしない』なんて言わず。危険な事をするなら今度からはボク達を頼ってね?」
「……うん!」
 その言葉を受けて、ヒナタは本来の明るさを取り戻す。
 グレイルは「こんな風で良いかな?」と言いたげに仲間達を見る。イーリンとカナタはホッと安堵しながら頷いた。
 エディは何故か両手で顔を覆っていたが、その理由はグレイル以外知る由もない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 ヒナタさんは無事に救出されたようで、他の行方不明者からも衰弱による死亡者や戦闘による死傷者も出なかったようです。
 戦闘回りはまさしくお見事。

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