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シナリオ詳細

再現性東京2010:希望ヶ浜怪談『黒い影』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 チャイムの音が廊下に響く。
 ガタガタと椅子が動いて生徒達が着席した。
 しばらくすると教師がやってきて授業を始める。
 何のことは無い学校の日常。
 窓から見える空は青くて。飛行機雲が尾を引いていそうな、アジュール・ブルー。

 少女はウォーカーだった。
 突然見知らぬ場所に飛ばされて、怖くてどうしようもなくて。
 泣いていたらこの希望ヶ浜に連れて来られた。
 此処には少女にとっての『現実』とそっくりな街があって。心底安心したのだ。

 授業が終わり、チャイムの音が鳴る。
 ふと、顔を上げれば視界の片隅に――黒い影が見えた。
 ドキリとして瞬きをする。
 背筋が凍るとは子の事だろうか。
 それは人の形をしていて、目の所だけぽっかり白く光っている。
 子供の頃に見たお化けの映像そのもの。今ならば怖くも何とも無いアニメの敵。
 しかし、それがいざ目の前に実体を伴って現れるのであれば話は別だ。
 この日常において異質と言わざるおえないもの。

 もう一度瞬きをした。
 そこにあったはずの黒い影は段々と近づいて来る。
 ゆっくりと、机や人を起用に避けながら近づいて来る。
 周りの生徒は見えていないのだろうか。
 視線だけを巡らせれば、自分以外の『平穏』が流れていた。
 ゆっくり、近づいて来る。

 ダメだ。ダメだだめだ!
 逃げないと、逃げないと!
 動け、動け、動け!

「由香ちゃん、放課後どこか行く?」
 友人の声にはっと目が覚める。
 切欠が生まれた。
 少女は黒い影から逃げるように走り出す。
 友人の声を背に受けながら教室から飛び出した。


「黒い影って聞いた事ありますか?」
 夕暮れ時の橙色が差し込むカフェ・ローレットで『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)はイレギュラーズに問いかける。この町に来たばかりのイレギュラーズは首を横に振った。
「他人には見えない黒い影が何処までも追いかけてきて、最終的には食べられるそうなんです」
「食べられる?」
 イレギュラーズの声に廻は頷く。
「文字通り頭からばくりと」
 この街の住民にとって幽霊や怪異といったものは見たくないもの、忌避すべきものだ。
 けれど、それは裏を返せば居ないで欲しいという願いでもあった。
 怪異が居る事を目の辺りにしたからこそ。それを否定する心が生まれる。
 そんなもの居ないのだと自分に言い聞かせるのだ。
 即ちそれは、怪異の存在を否定するほど、出会った時の恐怖は大きくなるということだ。

「例えるなら市街地の家の中に、突然熊が現れたみたいな感じでしょうか」
 出会ったことも無い生身の熊。匂いは強烈だろう、息づかいや雄叫びは獰猛だろう。
 フローリングを引っ掻く爪の音と重量。意外としなやかに動く腕。
 爪は己の皮膚を切り裂いて。生きたまま肉を咀嚼される感覚に恐怖を覚えるだろう。

「最近、その黒い影が『近くの高校』に出没するらしいんです」
 希望ヶ浜学園ではない普通の学校ということだろう。
 一人の少女が今回のターゲット。
 数日前から黒い影に付き纏われていると友人達に漏らしていたらしい。
 それを心配した教師達の一人が音呂木神社に相談したことで、希望ヶ浜学園に話が持ち込まれた。
「黒い影は目標を追いかけている時には姿が見えません。でも、いざ食べようとする時には……」
「姿を現し倒す事が出来るってわけか」
 イレギュラーズの言葉に廻はこくりと頷く。
「今回はターゲットのお友達に協力してもらって、少女を呼び出してもらいます」
 警戒心が強くなっているとはいえ、友人がいるのであればと夜の公園に出てくるだろう。

 黒い影は静かな場所で食べることを好む習性があると言われている。
 食事の時間に目の前に邪魔者が現れれば、そちらを先に片付ける方向に動くだろう。
「へえ、じゃあ俺達はその怪異を倒せばいいんだな」
「はい。皆さんは怪異を倒す事に注力してもらえれば」
 分かったと頷いたイレギュラーズに廻は微笑む。
 窓の外を見れば、赤い夕焼けがゆっくりと紫色に変わって行くのが見えた。


 ねえ、こっちを見て。
 無視しないで。僕は此処にいるよ。
 どうして、逃げるの。
 僕は君とお話がしたいだけなのに。
 ねえ、ねえ。こっちを向いてよ。
 そうだ。ずっと一緒に居ればお話もいっぱいできるよね。
 ずっと一緒にお話しようね。

GMコメント

 もみじです。希望ヶ浜怪談です。
 さくっと行きましょう。

●目的
 悪性怪異:夜妖『黒』の討伐
 少女の保護

●ロケーション
 希望ヶ浜のとある公園
 人気はありません。灯り、足場に問題はありません。
 少女を狙いやってきた怪異を倒しましょう。

●敵
○悪性怪異:夜妖『黒』
 人の形をした黒い影。
 強い思いがカタチとなって現れたもの。
 怪異なりの考えで少女と仲良くなりたかったようですが、すれ違っています。
 無垢故に残酷です。
 少女との交流を邪魔されたと認識すれば攻撃してきます。
 静かな場所で『食事』をしたいので先にイレギュラーズを倒そうとするでしょう。

 至近物理攻撃、神秘オールレンジの攻撃を持っています。

○悪性怪異:名も無き者達×15
 闇に潜む怪異です。
 NPCを含む戦場の全てのものを攻撃します。

 至近物理攻撃を仕掛けてきます。

●NPC
○『怯えた少女』由香
 悪性怪異:夜妖『黒』に付き纏われてしまった少女。
 黒い影にとても怯えています。
 攻撃を受けたり黒い影が近づいて来ると錯乱状態になります。

○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 由香の傍に居ますが、戦闘は行いません。いざとなれば由香を庇います。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目は自由です。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

  • 再現性東京2010:希望ヶ浜怪談『黒い影』完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
威風戦柱
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
一ノ太刀
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ルティエラ アレクシア(p3p007664)
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
久夛良木・ウタ(p3p007885)
赤き炎に
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花

リプレイ


 インク・ブルーの宵闇の中からひたひたと音がした。
 ゆっくりと近づいて来るそれは、振り向けば消えている。

「ふむ……この都市化け物多くない? あ、夜妖か……」
 顎に手を当てた『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はこてりと小首を傾げた。
 悪しきモノの兆候か。或いは誰かの思惑があるのか。
 散らばったパズルのピースを嵌めるには、欠けたものが多すぎるとリアナルは肩をすくませる。
「さて」
 それらは考えても栓の無い事。まずは目の前の事を一つずつこなしていこう。
「細かな一歩が大切らしいしな。しっかしまぁ……」
「黒い影の捕食者。なるほどね」
 リアナルの声に応えるのは『覇剣王道』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)だ。
「怪異としちゃ、ありがちちゃありがちだな」
「そうだな。ただのストーカーならまだしも怪異となれば嫌な話だ」
 変化で翼をを隠したエレンシアは隣のリアナルを見遣る。
 隠さないのだろうかと紫紺の瞳は視線を送った。
「あ、私の耳と尻尾? いいコスプレだろう? ピースピース」
「耳と尻尾の方がコスプレ……ところで、リアナルは何歳なんだ?」
 口外に言葉を含んだ言い回し。
「はいそこセーラー服の方がコスプレだなんて言わない」
「ごめん、聞こえないな」
 二人のやり取りにくすくすと笑うのは『街角に来た秘宝種第一号()』ルティエラ アレクシア(p3p007664)だ。
「うん、まだここのことはよくわかってはいないが……君たちが面白いのは分かるよ」
 ルティエラは名前の前にある称号に眉を寄せる。
「……あ、称号の所は特に気にしないでほしい当時レオンに確認してから名乗ったものだが、そろそろ変える必要があるとは思ってるから(」
「なあ、それは誰に対して言ったんだ?」
 エレンシアは激しく突っ込みをいれた。
「……それで、困ってる人がいれば助けるものだろう?」
「いきなり話戻したな!? おい! ま、黒い影なんて一瞬で始末してやるさ」
「そうそう。私たちに任せないってな」
 三人は頷き合い、公園への道を歩いて行く。

「東京か」
 ディープヴァイオレットの瞳を伏せた『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)は希望ヶ浜の星の無い夜に思いを馳せた。
 化け物たる愛無にはあまり縁の無い街だと思っていたのだ。
「まあ、これも縁か」
 仕事であるのならば是非も無いだろう。しかし『黒い影』に『食事』だなんてどうにも自分を見て居るようで。僅かばかり興味がそそられる。
「しかし、この戦場。シンプル過ぎて物足りない」
 敵の数は多いのだろう。広い公園に明かりも十分。
「擬態解除とかしたくなるな」
「だめですよ」
 愛無の言葉に『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は首を振る。
「まぁ、冗談だが。討伐されたくないし」
「本当ですか?」
「……少し、解除してみたかったかな」
「もうっ」
 愛無の冗談めかした台詞に口を尖らせる廻。
「さりとて、おかしな話だ。彼らとて「異邦人」。ましてや彼らの多くは帰還を望むのだろう?」
「そうですね。元の世界に帰りたいと願う人は大勢います」
 其れ等が故郷に似せて街を作る。其処からズレていれば『異物』と排除する。
 自らは世界の『異物』では無いと言い切れるのかと愛無の瞳は問うた。
「まったく人間とはわけが解らないよ」
「……すみません」
「廻君が謝ることじゃないさ。まあ、いい……おいでなさったようだ」
 愛無の視線の先。小花柄のロングスカートを履いた由香がキョロキョロと後ろを振り返りながら公園へと入ってくるのが見えた。
 その後ろにじわりと這い寄る黒い影――

『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)の眉間に皺が寄り緊張感が漂う。
 黒い影などが付き纏う怪異の話はよく聞くありきたりなものだろう。
 静かな食事場所を選ぶのは、ジョージ達にとっても都合の良い話だった。
 されど、少女にとっては悪夢以外の何物でも無いと、ゆっくりとジョージは息を吐く。
 戦場となるポイントまで少女が進んでいくのを見守る、アッシュグレイの瞳。
 小花柄のスカートを揺らしたごく普通の女の子が危険な目に遭うのは忍びない。
 敵が何で在ろうと、その瞳を曇らせる事は許されない。
「晴らしてやろう」
 平穏とは、何にも代え難いものなのだから。
 ジョージは隣の『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)に視線を送る。
 話を聞く限り霊体ではなく、実体を持つらしい夜妖。
 異界に存在する『透明人間』に酷似している性質ではあるが、少女にだけ見えるというのは実に奇妙だとセレマはジョージに視線を送り返した。
 転じて『影の薄い存在』を表す言葉にもなるが、果たしてどれ程の食欲に突き動かされば、獲物にのみ見る事が出来る存在となりうるのか。
「実に、ちぐはぐな怪異だとは思わないかい?」
「確かにな」
 美少年の言葉にジョージは頷く。
 セレマはこの公園にたどり着くまで周囲を入念に観察していた。
 退路然り、隠れ場所然り。
「恐らく黒い影とは反対側から名も無き者達は襲ってくる」
 その仮説は正しかった。
 ざわりと。ひたひたと。名も無き蠢く何かが這い出してくる。
 セレマは軽い身を翻し素早く駆け出した。

 友人に呼び出され、影に怯えながらこの場所まで来てみれば。
 その友人は其処には居ない。
「あれ……? 何で?」
 少女は待ち合わせたはずの友人が居ない事に気付いた。
 そんな状況。誰だって怖いはずだと『命の守人』節樹 トウカ(p3p008730)は眉を下げる。
 その上これから戦闘が始まるというのだ。
 誰だって逃げたくなるだろう。
 少女が後ろを振り返れば、教室で見た黒い影が居た。
 のたりのたりとゆっくりと近づいて来るのに少女は震え上がる。
「嫌……、来ないで!」
『お、はなし』
「来ないで!」
 目を瞑りその場に蹲った少女の元へ。黒い影との間に割って入ったトウカは少女を庇った。
 トウカの出現により、驚いた夜妖は敵意をむき出しに後ずさる。
「仲良くなりたくって追いかけるの?」
 夜妖へと言葉を向けるのは『赤き炎に』久夛良木・ウタ(p3p007885)だ。
 う~んと目を瞑り顎に手を当てるウタ。
「それじゃあうまくいかないよ! ともだちっていうのはもっと、みーんな楽しいんだから!」
 目を開いた彼女はビシっと人差し指を上げて、うんうんと頷く。
「そうだ、私がともだちになるっていうのはどーかな? いい案だと思わない?」
『?』
 黒の反応にカラカラと笑いながらウタは駆け出した。
 とにもかくにも邪魔な者達の数は減らすべきであるとウタはルベライトの瞳を名も無き者達に向ける。
「にんげん助けるのは任せちゃうね。私た~くさん戦いたいんだ!」
「分かった。そっちは頼む」
 トウカの声にウタがニシシと笑い指示棒を振りかざす。
「とりあえず一発、撃っとこか!」
 名も無き影へ風を伴った閃光が放たれた。


「さて……群れで食事を行うとは聞いていなかったが」
 最初に飛び出したセレマは蠢く群れをシトリンの瞳で見遣る。
 其れは人の形をしている『黒』とは似ても似つかぬ異形。
「そこにいる人型と随分気風が異なるじゃあないか」
 にも拘わらず集まってくる理由。『黒』の特性か、あるいは彼女――由香の餌としての魅力が呼び水となっているのか。
「……それともボクが美しいからかい? じゃあ仕方ないね。美しさはいつだって罪だ」
 唇に指先を添えてセレマは微笑んだ。
 キシキシと音を立てて美少年へ手を伸ばす無名達。
 セレマの美しい肌は一瞬にして割かれ、月光にブラッディ・レッドの飛沫が散る。
「ひっ……!」
 小さく声を漏らしたのは由香だ。
 グチグチと肉を食らう音が戦場に木霊する。
 それは『普通』の少女にとって想像絶する光景だっただろう。
 されど由香は又もや自身の常識とは離れた事象を目の当たりにした。
 ぐちゃぐちゃになったセレマが体組織を元に戻しながら、ゆるりと立ち上がる。
 そして、同じように戦場にやってきたエレンシアの大剣に名も無き怪異ごとセレマの身体が引き裂かれるのを見た。
「……っ!」
 どういう事だろう。仲間ではないのだろうか。
 由香にとって目の前で起る全てが、理解の及ばない所にあるのだ。

「セレマは別に巻き込んでいいって言ってたんで」
 そう切り出したエレンシアが、間合いに居たセレマ諸共、暴風剣の餌食とする。
「まあ、痛くない訳ではないんだけどね」
「倒すためだ! 仕方ないだろ!」
 セレマの声にエレンシアが剣を構え腰を低くした。
 その頭上擦れ擦れを魔力の奔流が掠めて行く。
「うわっ」
 ウタの魔砲は狙いを逸れて公園の木を破砕した。
「あはは! 外れちゃったぁ!」
「ウタぁっ! アタシは巻き込むなよ!? 巻き込んでいいのはセレマだけだからな!」
「ごめんごめんっ!」
 エレンシアの絶叫に、こてりと舌を出したウタはもう一度指揮棒を構え直す。
「いっくよー!」
 超絶火力の弾丸は夜の公園に解き放たれ、チリチリと残滓を残した。

「火力は高いが燃費が悪い美少年には必要なものだろう?」
「ふ……ありがとう」
 リアナルはセレマへと最適化の支援を行い、名も無き者達へ視線を合わせる。
 ざわざわと蠢く者達。カサカサと昆虫のようでもあり、揺蕩う影のようでもあった。
「何この湧いてきたの。本物のストーカー? あ、違う?」
「えっ! ストーカーなの?」
「んな訳ないだろ!」
 リアナルの問いにウタが驚いたように答え、エレンシアが鋭いツッコミを入れる。

 仲間の剣檄を聞きながら少女の元へと駆けたルティエラとトウカ。
「大丈夫だ、君は私“達”が守ろう」
 ルティエラは由香と視線を合わせ、安心させるように頷く。
 そして、今度はトウカへと視線を送った。
「回復は任せて」
 ルティエラの言葉にトウカは任せるとアイコンタクトを返す。
 トウカの周りに桃の花弁がふわりと浮かんだ。
「こんな事になってすまない」
 由香は桃の花弁を手の平に受け止めた。
 そこから伝わってくるトウカの思いと言葉。
 友達の名を騙り由香を此処に呼び出した事。
 あの『黒』を倒すには由香が此処に来なければならなかった事。
「危険な目にあわせてすまない。だが、それも今日ここで終わりだから」
 恨んでくれてもいい。
 ただ、少女がこれからもいつも通りの日常を過ごすためにトウカは言葉と思いを重ねる。
「君の無事を祈っている友達と先生が明日涙を流さないために。
 俺達が君の剣となり、盾となることを許してほしい。――君を絶対に守るから」
「本当ですか? もう、怖くないんですか?」
「ああ大丈夫」
 由香は涙を滲ませて、トウカの胸に頭を預ける。
 トウカの思いは少女に伝わったのだ。


 戦場は加速し、名も無き者たちは闇に葬られた。
 しかし、イレギュラーズの傷も深く刻まれている。

「ふふ! 楽しいなぁ!」
 口元の血を吹いたウタは嬉しそうに目を細める。
 身体は満身創痍。内蔵は軋んだ。
 されど、その痛みがスパイスになるのだ。
「私とともだちになろうよお!」
 狂気に満ちたウタの瞳に黒が敵意を向ける。
「そうだね、まずは遊ぼっか!」
 至近距離からの打ち合い。セレマとは別の意味でダメージを物ともしないウタの戦闘スタイル。
 まるで夜空に咲く花火の様だとセレマ思う。
「生まれが異なれば、価値観も世界観も異なってくる。人であれ魔性であれ、当たり前のことだよ」
『う、う……仲良く』
 セレマは黒に言葉を投げかけた。歩み寄り方が違えば脅威となり得るのだと。
「少女と仲良くしたかった? 人と化け物じゃどう頑張っても無理だろ」
 エレンシアは剣を振るい言葉を叩きつける。
 目の前の夜妖は人の言葉を発するが、それが人間と同じ意味を持つのか定かではない。
「仲良くすると見せかけて食らいたかったんじゃねぇの?  まあそうすりゃ仲良くなるまでもなく一つになれるものな」
 だから、仲良くすることは恐らく『食べる』ということなのだとエレンシアは眉を寄せた。
 そんなことは許されないのだ。理不尽に殺されるなんて誰が許容できようか。
「消えろよ、とっとと。こいつが……由香が平穏に暮らせるようにな」
 深緑の魔力を帯びた大剣が風を纏う。
 上段に構えた刃が月の灯りに照らされ、一直線に振り落ろされた

「彼女と何を話すつもりだ?」
 ジョージの眼鏡が電灯にチクリと光る。
 青白く光るイサリビが宵闇に浮かび上がった。
 近頃黒い影が付き纏い、人を食らうという噂がある。
「正体が貴様なら、話というは、『食事』の話か?」
『仲良く……』
 あくまで仲良くしたいのだと黒は言葉を乗せるが、生憎と由香は乗り気では無いと肩を竦めるジョージ。
「諦めて、ここで消えることを推奨する!」
 ペール・ブルーの殺人剣は人ならざる者を斬らんと唸りを上げる。
 根本的に相容れぬ存在。
「貴様が話し相手を欲しようと、その内側に取り込んでも、ただ犠牲者が増えるだけだ」
 ジョージは眉を寄せ、黒と対峙した。
 人の形をした人の心をなぞる夜妖。何が元になったのかすら朧気なもの。
 されど、悪性と見做されるまで歪んでしまった怪異ならば打ち破るのみ。
「さぁ、貴様はここで果てるがいい!」
 ジョージのイサリビが黒の境界線を焼いた。

 その好機に愛無が続く。
 少女がトウカの腕の中で縮こまっているのを確認して愛無は僅かに目を伏せた。
 ドロリと愛無の境界線が解けていく。黒き獣に戻る。
「さて人生……というのもおかしな話だが「先達」としてアドバイスをしよう」
 同じ黒者として。『怪異』と称される者として。
「そこに永遠は無く。喰ってしまえば。溶けて。消えて。何もなくなるだけだ」
『何も、無い……』
 故に何を足掻いたって『一緒に』などなれはしない。
 まして。黒い影は何れだけ羨もうと。何れだけ喰らおうと。
 永遠に人間にはなれやしない。仲良くなれることも無い。
「だから僕に喰われちまいなよ。大丈夫」
『何で……仲良くしたいだけ、なのに』
 砂が擦れる音がした。
 じりじりと迫ってくる愛無(くろきけもの)に夜妖は後ずさる。
 されど、愛無から伸びた『手』は黒に巻き付いてその身体を絡め取った。
「永遠は無くとも。覚えているから。君を忘れないさ。それじゃ……」
『嫌だ……! 食べられたくない、食べられたくない! ウワァあああァ!!!!』
 怪異が人を喰らうというのなら。その上を往く異形が怪異を喰らっても文句ないだろう。

 ――いただきます。

 唾液滴る口をがぱりと開いた愛無は怪異を丸ごと飲み込んだ。


 断末魔は消え、宵闇は静まりかえっていた。
「やっぱりともだちになりたいなら言葉にしないとね!」
 ウタはスーツに着いたホコリを払いながら黒い影の『痕』に視線を落とす。
「あの子、わたしのともだちになってくれるかな~?」
 ルベライトの瞳は楽しげに細められ、口元が綻んだ。
「まだ死んじゃうつもりはないけど、今からどきどきしてきちゃった!」
 カラカラとウタの笑い声が公園に響く。
「……ところで、悪性の怪異って話を聞いたけど、善性の怪異なんて存在するのか?」
 リアナルの問いかけに廻はこくりと頷く。
「座敷童見たいな? ケセランパサラン? それとも異形の旅人みたいな奴らのこと?」
「そうですね。この街の人達にとって自分達とは違う見た目や能力を持つものは皆怪異です。例えば超常的な魔法を使って戦う人達。見た目が『人間種』から逸脱している人達も含まれます」
 廻の言葉にリアナルは眉を寄せて口を尖らせる。
「……それって、私たちは歓迎されてないって事だよな」
 獣耳尾を持つリアナルはこの希望ヶ浜では怪異と見做されるだろう。
「まあ、リアナルさんの場合コスプレで通る感じですけど」
「コスプレ言うな」
 ツッコミがてら廻の頭をわしわしと捏ねたリアナル。
 ルティエラは少女を見遣る。
 おそらく回復により傷が瞬時に治っていく姿は恐怖を覚えるだろう。
 由香の顔には僅かばかりの恐れと安堵が広がっていた。
 驚きはあれど自分を助けてくれた相手に対して拒絶をすることは無い。
「あの、ありがとうございます」
 小さく紡がれた言葉にルティエラは微笑む。
 もし少女が受入れてくれるなら、友達になれるだろうかとルティエラは眉を下げた。
「さ、今日はもう遅い。送っていくよ」
 少女の背を押してイレギュラーズは帰路に着く。

 誰も居なくなった公園で廻は黒の死骸があった場所に触れた。
「もう大丈夫。お休み」
 祈るように最期の言葉を掛けた後、廻は硬く真剣な表情で深呼吸をした。
 ゆるりと廻の身体を覆う様に黒い霧が立籠める。
「――――」
 廻が発した言葉に呼応して、何かが戦闘で破壊された公園を駆け抜けた。
 紫色の視線を上げた先。
 綺麗に整備された公園が見える。
 戦闘の後など微塵も感じさせない、何事も無かったかのような『日常』が其処にはあった。

成否

成功

MVP

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

状態異常

久夛良木・ウタ(p3p007885)[重傷]
赤き炎に
節樹 トウカ(p3p008730)[重傷]
散らぬ桃花

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 MVPは戦術的勝利へと導いた美少年へ。
 ご参加ありがとうございました。

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