PandoraPartyProject

シナリオ詳細

向日葵畑で捕まえて

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 スカイブルーのインクを零したような青空に、真っ白な入道雲。
 少し先には白いペンでさっと線を引いたような飛行機雲が消えかかっている。
 そして地上には黄色の絨毯を敷いたような向日葵畑が広がっていた。
 風に揺られ、太陽の光を浴びんとその黄色の花びらを盛大に伸ばしていた。
 広大な黄色の中に一つ白い点。
 白いワンピースの裾を翻し、ストローハットを目深に被った少女がいた。
 艶のある長い黒髪を揺らした少女の名を「ヒナタ」という。
 年のころは八歳から十歳ほどで白い手足がすらりと伸びていた。
 ごくごく普通のどこにでもいそうな少女。
 唯一つ違う点があるとすれば――。

 足の先が透けていたことであろう。

「一人だとつまんない……」
 彼女のささやかな願いを聞いていたのは唯、向日葵だけだった。

 ヒナタは生まれつき難病を抱えていた。
 少しでもこの子が明るく楽しく暮らせます様に、そう願い「ヒナタ」とつけられた名前であった。
 病室からは向日葵畑がよく見え、それをただ上から見下ろす日々。
 子供が母親と追いかけっこをしている姿を見るたびに羨ましいなとため息をつく。ただ、懸命に生きようとする鮮やかなサンイエローが眩しく、元気を貰えるようでヒナタは大好きだった。
 いつかあの向日葵畑で思いっきり遊んでみたいな、そう日が暮れるまで遊びたい。暗くなるまで遊んじゃって、帰ったらどこ行ってたの。なんて叱られて。
 でも叱られながらこっそり友達と顔を見合わせて、笑いあって……。

 ヒナタの意識があったのはそこまでであった。
 徐々に瞼が下りていく。
 ああ、そうだ。起きたら看護師さんにお願いしてみようかな。
 向日葵畑で少しでいいから遊んでみたいって。怒られちゃうかな?

 ピーと無機質な音が響き、弱弱しかった心電図が一本の線になった。


「今回の依頼はとある女の子と遊んでやってほしいって内容だぜ」
 黒衣の境界案内人、朧が言った。
 随分簡単な内容だなとあなた方が問いかけると、朧は首を振った。
「それがなぁ……今回の舞台が広大な向日葵畑でな。女の子は幽霊だ」
 一度でいいから思いきり遊んでみたい。
 そんな想いから天の国へ昇ることができないのだとか。
「要は、まず女の子を見つけるとこから始めなきゃなんねぇのさ。それから、周りはどこを見ても向日葵だ。迷子にならねぇようにしろよ」
 そんじゃ、頼んだぜ。
 朧はあなた方を見送った。
 
 
 

NMコメント

 初めましての方は初めまして、白です。
 今回は幽霊少女と向日葵畑で遊ぶ心情系シナリオです。以下詳細。
●目標
 ヒナタと遊ぶ。
 かくれんぼでも、おにごっこでも。
 ヒナタが満足するまで遊んでください。
 時間は朝から夜までです。
 おにごっこでもかくれんぼでも、他の遊びでも構いません。

●舞台
 向日葵畑。
 見渡す限りの向日葵畑です。何も対策をしなかったら間違いなく迷子でしょう。
 ギフト、非戦、アイテム、アイデアを使って迷子対策を。
 朝は青空と入道雲、夕方は橙の空と夕日、夜は満天の星空が広がります。

●NPC
 ヒナタ
 病で亡くなった少女です。
 最期まで遊べなかったことが心残りで天国へ行けません。
 純真で人懐っこい子です。
 

●サンプルプレイング
 こんな小さい子が……よし、お姉さん頑張っちゃう!
 ファミリアで鳥さんの目を借りるわ。まずは現在地の確認とヒナタちゃんを見つけなきゃ!やっぱり王道のおにごっこよね!
 
 こんな感じです。
 貴方にとって良き旅路になります様に。それではいってらっしゃい

  • 向日葵畑で捕まえて完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月23日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ファレル(p3p007300)
修行中
冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉

リプレイ

 一面に広がる向日葵。
 大地に色付く太陽に色彩に『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)は方位磁石を片手に立っていた。
 かろうじて方角は判るけれど、どこを見ても太陽の花ばかり。
 捜索では他の者に頼るしかないけれど、紗夜は他にできることがあるはずだと皆の後をついていく。

「病気で死んじゃった女の子かぁ……。寂しかったろうなぁ、いっぱい遊びたかったのに遊べなくて、ずっと一人きりで」
 そして最期はベッドの上で一つの願いを抱いたままこの世を去った少女はどんな思いだったのだろうか。『修行中』ファレル(p3p007300)は目を伏せた。
「そうっすね、小さい子供ってのは、本来、親が守りながら、もっと好きなこといっぱいやるべきなんすよ」
 ファレルに同意したのは『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)だ。
 大切に育てられていたのは間違いがないだろうが、別の何かにひっかかってしまったのだろう。
 遊びたくても遊べなかった少女、死してなお誰かと遊びたいと願う彼女の為に慧は今日は彼女に好きなことをやらせてあげようと決めていた。
 慧は手近に咲いていた向日葵に意識を集中すると、やがてそのイメージがおぼろげだが伝わってくる。
 確かに誰かがここにいたようだ、という小さな手掛かりだがとても重要な物であった。
 万が一走り回っても戻ってこれるように、腰につけていたホルダーからナイフを一本を取り出し地面に刺した。

「ボクは、カルウェット、いうー!! 今日はー、お前とー、勝負、する、しにきたー! 弱いお前なんてー、めきょめきょ、だぞー」 
 慧が見た方向に、大きな声で叫んだのは『新たな可能性』カルウェット コーラス(p3p008549)だ。
 カルウェットもまたヒナタと同じように遊びたいのだ。今日一日はとことん楽しむと決めていた。

 青空にカルウェットの声が響いて溶けていく。
 返事はない、怯えているのかそれとも様子をうかがっているのか。
 ならば、とカルウェットはむむむと意識を集中させ、凡人ならばまず聞き逃すであろうかさりという音に気が付いた。
「そこだー!」
「わぁっ!」
 カルウェットが向日葵を掻きわけると、白いワンピースの少女が驚いて尻餅をついている。
 落ちたストローハットを拾い上げてファレルが少女に手を伸ばした。
「ヒナタちゃん、だよね?」
「私を知っているの?」
 ぱちくりと目を瞬きさせるヒナタにファレルは鼻の下を摩った。
「うん! 今日は君と遊びに来たんだ。君が満足するまで、たくさんたくさん一緒に遊ぼう!」
 依頼なんか関係ない、ファレルはヒナタと遊びたかった。
「……うん!」
 眩しい笑顔でヒナタはファレルの手を取った。


「よし、かけっこするぞ! ボクが勝つ、したら、ボクがリーダーだぞ。いいな」
 びしっとヒナタを指さしてカルウェットは高らかな宣戦布告。
「かけっこ!? いいよ! やる!」
 微笑ましい二人の様子を見ながら慧が「よーい、どん」と手を鳴らすと二人は勢いよく駆け出した。
 ゴールで待っているのは紗夜とファレルだ。
 抜きつ抜かれつつのなかなか激しい接戦を制したのは――。
「ボクの勝ちだぞ! ボクがリーダー!」
「負けちゃったぁ!」
 カルウェットが僅差で先にゴールへたどり着いた。
 飛び込んできた二人を優しく受け止めながら紗夜とファレルはすごいすごいと二人を褒める。
 負けたはずのヒナタの顔はとても楽しそうにからからと笑っていた。

「では次は私も追いかけっこに参加させてくださいな」
「うん! えへへ、こっちだよ!」
 喜んで駆け出したヒナタを紗夜は追いかける。
 いつもの疾風のような速さは封印し、ヒナタが楽しめる速度で思う存分黄色の中を駆けていく。
 子どもの足に合わせてやるというのはなかなか大変だったが、ヒナタの笑顔をがそんな大変さを吹き飛ばしてくれた。ゆっくり追いついてぽんと華奢な肩に手を乗せると嬉しそうにまたヒナタは笑った。
「あのね、次はね! かくれんぼしたい!」
「うん、ひまわり畑の迷路、絶対、楽しい、一緒に隠れる」
「じゃあ俺は隠れる側やるっす」
 手をすっと上げたのは見た目で慧だ。
 怖がらせちゃうかもなんでと、心優しい鬼人種は鬼役を辞退した。
「なら私は探す方を」
「オレも!」
 こうして紗夜とファレルが鬼、カルウェットと慧。ヒナタが隠れる役となり向日葵迷路のかくれんぼが始まった。大柄で角が目立つ慧は簡単に見つかったが小柄なカルウェットとヒナタはなかなかうまく隠れたようだ。
「しー、だぞ。しーっ」
「うんっ」
「ヒナタって、ヒマワリ、似てる、する。明るく、なる。一緒、いて、楽しい。会えて、嬉しい。」
「わたしもカルウェットくんと会えて嬉しい!」
 そんな無邪気な声を聞きつけて、向日葵がかさかさと揺れる。
 掻きわけた向日葵の間から顔を覗かせたファレルのエメラルドグリーンの目が二人を映した。
「ヒナタちゃん、カルウェット君。みーつけた」
「見つかっちゃった!」
 鬼ごっこ、かくれんぼ、おままごと。花冠は――ちょっと大きくて難しかったが、幸い小さく咲いていた雑草をうまく丸めて草笛をみんなで吹いた。
 最初は鳴らなかった草笛だが、ぴぃと小さく鳴った音にヒナタは大層喜んだ。

 ――太陽に見守られながら、あっという間に真夏の昼間が過ぎていった


 太陽と見守り役を交代したのは夜空に煌めく満天の星達だ。
 その輝きを見上げヒナタを膝に乗せながら、紗夜は一つの星を指差した。
「あれはわし座です。すぐそばにあるのはこと座とはくちょう座。あの三つを結んで夏の大三角というのですよ」
「すごい! 紗夜お姉ちゃんは物知りなんだね!」
 燥ぐヒナタの髪を梳きながら紗夜は語り掛ける。
 
 夜空と星達も、延々と続いているのだと。
 果てなどないのは大地も空も、思いも魂も。

「――ご存じですか。星というのは、人の魂だというお話を」
 空にある輝きのひとつ、ひとつ。
 それらは生きていた人間の思いと、記憶が煌めいているのだと。

 世界は常に移ろい行く。
 それは混沌の地であろうと、この異世界であろうと変わりはない。
 幼いヒナタに紗夜の言葉は難しかったかもしれない、が一言も聞き漏らすまいとヒナタは真剣に紗夜の話を聞いていた。
 
 そんな二人の様子を少し離れた場所で眺めながら慧は幼少の頃を思い返していた。
 小さい頃、何もできないようなとき、手を差し出して助けてくれた人。
 後退を知らぬ勇敢な人。主さんと呼び慕う彼女の顔が目に浮かぶ。
 一人の寂しさも、無力感も、優しい手の温かさも知っている。
 だから、いま無邪気に笑うヒナタの姿に慧は心から安堵していた。
 そして慧は気づいた。徐々にだが、ヒナタの身体が透き通っていくことに。
 別れの時間がもうすぐそこまで近づいていることに。

「あ……」
 そしてそれは、次は石を積んで遊ぼうと、小石を拾い集めてきたカルウェットも同じであった。
「もう、終わり?ヒナタ、帰るするの?」
 まだ遊びたい。明日は?明後日は?
 もう会える、しないの?
 せっかくできた大切な友達。まだ、まだちょっとしか遊んでいないのに。
「………やだ、けど、だめ、なのか」
 ぽろぽろと大きな瞳から零れ落ちる雫をごしごし拭って。精一杯の強がりを。

「ヒナタ、ボク、忘れない、から。また、遊ぶ、するぞ。リーダー命令、だぞ」
「うん!」
 聡い彼女は自分がすでに満ち足りて、『星になる』ということを
理解していたようであった。けれどその顔に悲しさは見えずただ無邪気にまた遊ぼうという約束を喜んでいた。
 
「――ヒナタちゃん」
 膝を折り、ファレルはヒナタの手に紙で出来た花束をそっと握らせる。
 ひとひとつ色も形も違う手作りの花達、見慣れた向日葵とは違うけれどヒナタにとってはどれも鮮やかで綺麗な花だった。
「綺麗……! ありがとう、ファレルくん!」
 ヒナタの白い肌と黒い髪の先がもうほとんど透けてしまって、ファレルの視界が滲む。三秒だけ深呼吸して、涙をしまってファレルは白い歯を見せた。
 優しいヒナタのことだ。泣いた顔で送られたら、心配で向こうに行けないかもしれない。――だから『さよなら』は言わない。
「ヒナタちゃん、またいつか一緒に遊ぼうね!」
「――うん! またね!」
 満天の星空と、一面の向日葵を背に、紙の花束を抱えたヒナタの笑顔はこの景色のどこよりも輝いていた。

 紗夜の膝から降りたヒナタは天へ向かって走り出した。
 そこに階段があるように、軽やかにステップを踏んでいく。
 天へ昇る少女の軌跡に星が降り、向日葵の花びらが彩を添える。
『一度でいいから思いきり遊んでみたい』
 あまりにもささやかで健気な願い。
 生きているうちに叶えることができず、ベッドから解放されても独りぼっちだった少女。
 けれど今日、突然現れた四人の人たちと思い切り遊んで、お話しして、お友達になってくれて。こんな素敵な贈り物までもらった。
 なんて幸せな一日だっただろうか。
 たくさんの思い出を胸に詰め込んでヒナタは真夏の夢に幕を下ろす。
 正直に言うとちょっと名残惜しいけれど、それは内緒だ。
 さよなら、というとお別れになってしまいそうだから。
「――またね、いつかまた出会えたら」
 その時はまた、遊んでね。
 
「何かが消えて、なくなってしまう。そんなものはないのですよ」
 夏の空にある一枚の星空もまた、流れて続く。
 その一瞬、一夜を記憶に刻めるようにと
 空に輝く星々、あの中の一つに懸命に生きた少女、ヒナタがいる。
 今度は病室ではなく天から向日葵畑を見下ろすのだろう。
 
 目印に刺していたナイフを地面から引き抜く、役目を立派に果たしたナイフをホルダーへと閉まった。

 地には向日葵の花、空には思い出の星たち。
 懸命に生きて笑顔でこの向日葵畑を飛び出したヒナタを、彼らは決して忘れない。


成否

成功

状態異常

なし

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