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シナリオ詳細

熱砂の月に夢を探して

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ムーンライト・マーケット
「ラサの、マーケット……ね」
 熱砂の地に特別な思い入れを持つエルスは、それと聞いて煌びやかな光景を思い描いた。
 ラサの市場といえばサンド・バザールが有名どころだが、それ以外にも様々な市場があり、不定期に開かれるモノもある。
 今回ローレットに持ち込まれた依頼の舞台、新月の夜を選んで不定期に行われる『ノワ・ルーナ』もそのひとつ。
「――で、私達へのご依頼はその警備、という事で宜しいでしょうか?」
 ある筋の者の中ではこと有名な敏腕ファンドマネージャー、寛治が眼鏡の端を持ち上げ、依頼人と内容の擦り合わせを行う。この依頼は、ノワ・ルーナの実行委員長が直々に出向いてのものだ。その内容で間違いないと、依頼主は頷いた。
 サンド・バザール同様、質を問わねば、質を問うてもあらゆるモノが揃うこの市場には『日の当たらない』店も多くあり、昼の市とはまた違う掘り出し物が出てくる、知る人ぞ知る催し物となっている――という話だったが。
「最近はそこそこ規模が大きくなって参りました故に、治安の悪化が懸念されまして……今回は急に出店が増えた事もあり、自前の警備員ではやや数が足りないのです」
「文字通り『闇の中のマーケット』ね。どんなモノかは、推して知るべしか」
「はい、左様でございます。我々の理念としては、個々人の自由と幸福を最大限に……という訳で、ですね」
 幾つかの世界を回った旅人の世界にとって、それがどんな場所で、どういった者が集まるかを推し量るのは容易いこと。どの世界でも、白か黒ではっきり分けられるモノの方がむしろ少ないようだ。
「しかし。自由には責任が付きまとうとか、自由と我儘の差がどうとか。ヒトはそういうものだったかな」
 愛無がこれまで見てきたヒトのルールにも、凡その共通点があった。まったくの無法地帯という訳ではなく、暗黙のうちにも『超えてはいけないライン』はしっかりと存在する。その細く強固なラインを綱渡りするような、文字通りの砂上の楼閣。
「だから、こう! 明らかにアウトな人を見たらダメっ! ってすればいいんですよね!」
 あまりにも力強い鉄拳制裁の構えをとるウィズィを、依頼人は慌てて窘める。
「いえ、えと、その……アウト、かどうかは我々で話し合って決めますので、怪しい……いや、相当に怪しいレベルだとか、明らかに現行犯だとか、そういう方は見つけ次第、私たちの所に連れてきて頂ければ、と」
「understand,ぶん殴りは控えめにして引っ張って来い、って感じですね!」
「平和にやればいいんだよね」
 アイラは律儀に、メモを取りながら依頼人の話を聞いている。
「はい。組織だった犯行の気配や特別厄介な無法者の気配はありませんので……皆様はとにかく、その場に居てさえ頂ければ」
「あれだね。強そうな人を見れば引っ込むぐらいの人しか居ない感じ?」
「そうですそうです。見回りの間は、お買い物を楽しんで頂いても構いません。ああ、勿論、お店を出して頂いても」
 ノワ・ルーナは煌めく宝石のような場所であり、アイラ、エルス、ウィズィ達、麗しき女性の眼鏡に叶う品も必ずある、むしろお任せあれ、と。自信たっぷりに依頼主は言った。

「新しいマーケット……新しいビジネスチャンスもありそうですね」
「おお。悪い顔だ。何を売り買いするのやら」
 有形無形の『可能性』に考えを巡らせるファンドマネージャーを、世界が茶化す。
「いえ、そんな。私はただ、大勢の方の幸せを考えているだけです」
 何となく悪そうなやり取りの傍ら、エルスは砂漠に思いを馳せる。必要なものは、何かあっただろうか。贈り物にしようか、飾って見せるものも良いか――

(……し、仕事だから。仕事はちゃんとやらないと、ね)
 それぞれが見る一夜限りの夢はまだ、夜の冷たい砂の下。

GMコメント

リクエストありがとうございます!
いつでも買えるようなアイテムでも、お祭りで買うとまた違いますよね。

●目標
夜の市『ノワ・ルーナ』を大事なく終了させること

●情報精度:A
現地の運営委員、およびラサの傭兵ネットワークからの情報です。
想定外の内容は絶対に起こりません。

●ロケーションなど
ラサの地で、新月の夜に開かれる夜闇のマーケットです。
掘り出し物から違法スレスレ、はたまたご禁制のモノまで色々あります。
無数のランプが点されて視界は良好ですが、一部、灯りの薄い場所もあります。
売り買い、出店なども自由にできます。

※ご禁制の品の売買については、おおっぴらでなければお目こぼしされます
(あまりにもアウトなお買い物内容についてだけマスタリングされます)

●エネミー?

 〇チンピラ×複数(あちこちに居ます)
  闇夜の市場で無法を働こうとする、招かれざるお客様です。
  組織立った動きは無く、個々人のチンピラなので色々と大した事はありません。
 「なんか強そうな人」を見つけると、それだけで委縮して事に及ばない者も多いでしょう。

●友軍

 〇運営委員会×10人弱
  マーケットを見て回っています。全員、その辺りのチンピラに後れは取りません。

 〇【元・楽園の】プルサティラ (p3n000120)
  彼女も見回りに参加しています。回復・支援寄りの構成ですが、
  単体のチンピラ程度なら造作もなく捻れます。
  彼女のところには色々な噂話が集まって来るので、何か情報を聞いてみたいとか、
  ご用がありましたらご利用ください。
  (※友軍の描写はプレイングで触れられた分相応になります。何もなければ空気です)

●ルールなど
最大限に自由を尊重した『疑わしきは罰せず』の場所です。
かなり明確な証拠や現行犯でない限り、不当な拘束は出来ません。
拘束した者は、一度委員会に引き渡してください(私刑は禁止です)
お手付きペナルティなどはありませんが、無闇に捕まえるのは労力の無駄かも知れません。

  • 熱砂の月に夢を探して完了
  • GM名白夜ゆう
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月02日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談11日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ

●月は満ち欠け世界を廻る
「新月の夜市、ね……」
「中々に魅力的なマーケットですね。これは、色々と楽しめそうだ」
 プルサティラと何やら話し込んでいる『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)を他所に、『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)は夜空を見上げる。
 よもや、新月の日にラサでの依頼とは。エルスにとってラサは特別な場所で、新月は特別な時間。見えない筈の白銀の月を、その瞳に映していた。
「……こほん。け、警備もしなきゃね! 勿論!」
「身も蓋もない話をしてしまえば、ラサは金と力の世界だ。『お行儀のいい』店ばかりではないだろうしな」
『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)にとっても、ラサは縁深い地である。金が集まれば人が集まり、集う人々は様々に、好事家から良からぬ輩まで色々居よう、と。
「よ、夜のラサもやっぱり暑い……ふらふらします」
 砂漠の夜は昼間と真逆、非常に冷え込むが、暑がりの『未来に幸あれ』アイラ(p3p006523)は昼の暑さを未だ引き摺る。
「女子組で思いっきりふらふらしよ!」
 昼夜問わず元気な『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が、アイラにさっと水を手渡す。夜でも油断は禁物、砂漠では常に水分補給を。
「……はっ! そうだ。今日は見回りですね」
「うん! 皆でお買い物……と、お仕事が出来るのは仕事でも嬉しいものだね」
 水を得たアイラが持ち直し、こくこくと頷き拳を握る。
「ふふん。変な人がいたら、ボクが護ってみせますよ!」
「いやいや、お嬢さん! キミを守るのは私の仕事だよ!」
「そうね。一番危なっかしいのはアイラさんかも」
「……むむむ」
 エルスも交え、少女たちは一足先にと煌びやかな市場へ繰り出した。

「さて、ノワ・ルーナを無事に終わらせるために……簡単なお仕事といこうかな」
 少女たちに続いて、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)もいつもの砂糖菓子を齧りつつ屋台を見回る。この通りは混沌各地の――もしかすると異界を含めた――食料品が集まるエリアだ。
 お目当てはやはり甘味。それも、出来ればローカルなものがいい。
「ラサの気候的には、水気とか生ものは難しいだろうな……」
 とすればまずは、乾燥して保存がきくもの。一番最初に目についたのは、箱いっぱいの干したナツメヤシ。なるほどこれだ、と早速入手し、その場でまずひとかじり。
「これは……中々イケるな」
 果実の栄養価もそのままに保存まで効くとは、なんとも便利だ。ナツメヤシ以外にも、細かく切って干したフルーツを数種類小瓶に詰めたものもある。カラフルな見た目はちょっとした宝石のようで、サイズ的にもついつい手が伸びてしまうタイプと見る。
「……よし、いくつか土産用に買っていこう」
 世界の夜旅は始まったばかり。折角なので、もう少しその場で買い食いを。
 次に出会ったのは先ほどのナツメヤシを、今度はペースト状に練って揚げたもの。これを、シロップに浸していただけば……
「――甘ッ!!」
 砂漠の民は世界に負けず劣らず、甘党が多いのだ。

●忍ぼうと、月に出にける……
「わ、わ、すごい……! 目移りしそう」
「アイラさん、もうだいぶ移っているわよ」
 女子は三人並んで大小様々、色とりどりのランプが灯る、ひときわ煌びやかな通りを進む。初めての夜市に目を輝かせるアイラの様子に、エルスも自然と笑みが零れた。
「エルスさんはラサに詳しいんですよね。ウィズィは、この辺りは来たことある?」
「ん、私もこの辺は初めて! わくわくするなぁ」
「ボクははじめてなんだぁ……ふふ。一緒に楽しもうね!」
「おー!」
 どうやって進もうか、ラサに慣れたエルスに頼るか。相談の末、初心者の勘に任せてみる事になった。
「あ、あそこに売ってる食べ物、ちょっと気になるかも……」
「見てみたらどうかしら? 私も少し、口寂しい所だし」
 ここはアイラの直感に頼る。彼女が探し当てた屋台では、店員が長い棒を持ち、筒状の容器の中身を何度も突くのが見える。筒の中身は……にゅーっと伸びるアイスクリーム。
「お、おおお!」
 買うかどうかを悩むより先に手が動き、気付いた時にはつり銭が手の中にある。
 食べ歩きにも向いた容器三つに店員が手際よくアイスを詰めたらば、その上から砕いたピスタチオをたっぷりかけて。
「こいつは容赦ない盛り盛りですね! 食べがいありそうです!」
 それを受け取ったウィズィの目はぱっと輝き、エルスもこれは、とアイスに見入る。
「食べながら歩くのって初めてです、どきどきします……零さないように、っと」
 アイス自体の盛りも、容器から聳え立たんばかり。慎重に、慎重にアイラは進む。
「……あっ、あそこ……お洋服のお店! み、見てもいいですか!?」
「ああ! ほらほら、アイス落っこちちゃうよ!」
 鮮やかな布地に目を奪われたアイラの手元が疎かになったが、ウィズィがすかさず両手でアイラの手ごとカップを包み支えて、事なきを得た。
「さっすがウィズィさん! 相変わらずカッコイイわねぇ!」
「何、当然のことしてるまでさ!」
 惜しみない称賛を送るエルスに、ウィズィはイケメンスマイルで返す。
「あ、危なかった、ありがと……それじゃあ、ちょっと見てきますね!」

 あれもこれも。次々と掘り出し物を見つけるアイラの勘が今宵、大いに冴え渡っている。
「お土産も買いたいな……エルスさん、何かおすすめありますか?」
「ラサならそうね、アズライト系のアクセサリーなんでどう?」
 エルスのお勧めは天然石をを扱う出店の、深いウルトラマリンの石に繊細な金細工を組み合わせたブローチである。
「あっ。アズライトだと『ラピスラズリ』に嫉妬されちゃうかしら?」
「わわ……でも、アズライトはラピスラズリの青い部分だから大丈夫です、よ! た、多分」
 アイラはこの青色とエルスの言葉に、瑠璃の石より蒼く輝く、あたたかい星を思い浮かべる。友人の歩む道にどうか幸あれと、エルスは心の中で声援を送った。

 思い切り月の市場を楽しむ三人だが、その間も常にウィズィは警戒を緩めない。同行者たちの買い物に付き添いつつ、協力者の小鳥とともに市場を見渡す。
「ふーむ。チンピラは、外には居なさそうか」
「チンピラ……? き、きんぴらみたいな名前……」
「不良、っていう意味だね。あれアイラ、もうお腹空いたの?」
「不良、なるほど……さ、さっきアイス食べたばっかりだから大丈夫だよ!」
「あっ、ウィズィ。見て。あのおにいさん、何だか様子が……」
 この店の中に不審者が居る。しかし、この場は穏便に納めなければならない。ならば心の方を刺すべきと、アイラはその手腕を学んできたとか。実に律儀である。
「ほんとだ。何かあの人コソコソしてない? やばくなーい?」
「切羽詰まった顔してるよ! 困ってるのかも」
「あら。だったら声、かけてみる?」
 平和に騒ぐ女子三人、寄ればかしまし。わざと聞こえるよう騒いで、不審者へプレッシャーをかけていく。
「はいはーい、お兄さん? 何かお困り?」
「……! いえ、お構いなく、です!」
 ウィズィが肩をぽんと叩くと、男は慌てて小走りに立ち去った。そのまま男の居た場所を確認し、被害がない事を確かめる。
 買い物を終えたアイラを出迎え、この場を上手く収める事が出来た。
「さてさて。エルスちゃんも、何かご用事ある?」
「そうね。私は……隣の通りを見てみたいわ。事前調査を、念の為……」
「調査? 調べもの?」
 首を傾げるアイラ。
「え、ええ! シャイネンナハトとか……は、まだ遠いけれど、ほら! そういうのが必要になるお仕事も、少なくはないでしょう?」
「確かに! 変装とか、結構必要になるからね!」
 それじゃあ存分に見ておいでと、エルスの荷物をウィズィが預かる。

「……さて」
 あの方に何を贈ろう? どんなものが似合うだろう?
(そういえば、当たり前だけど男物を買う事になるのよね……)
 何となく、買っている所を見られたくないような。下見だけにしておくか、機を伺って入手しようか。買い物では、迷うのもまた楽しい。

●砂の上に咲く花もある
 一方。やや薄暗い別の通りでは、愛無とプルサティラが目を光らせている。
「まさか……まさか、私が噂を流す側になるなんて」
「寛治君はやり手だからな。ぷーちゃん君ときたら騙される側だろうに、騙す方に使うとは。実に面白い発想だ」
 この通りは特に雑然としており、ガラクタから高そうな品まで、見て回る分にもなかなか飽きない。そして彼らが店を回れば回るほど、寛治の『仕込み』が効いてくる。

 ――今宵のマーケットは『やりにくい』ぞ。
 何しろ、あのイレギュラーズが『数十名も』紛れ込んでるんだから――

「いらっしゃい! ゆっくり見てってくれ」
 そして今、店のひとつを冷かしているのも『幻戯の愛無』その人である。向こうの宝飾通りでは、この地で著名な吸血鬼の姿もあったとか。
 このレベルの者が、あと八人――この通りで狼藉を働こうとした無法者が、その手をすぐに引っ込める。寛治によって数が盛られている事もあるが、余程の考え無しか鈍い者でなければ彼同様に、賢明な判断を行うだろう。
 トラブルがあっては、売り手も買い手も仕事にならぬ。仕掛けがあれば、下手な市場よりも大人しい。
「悪人ほど、秩序を守るのだろうな」
 矛盾するようだが、これもヒトの社会と愛無は考える。

 ひと通りの甘味を味わった世界が、曲がり角で愛無たちと出会う。
「ああ。愛無に、プルサティラだ。丁度良かった、ちょっといいか」
「世界さん。お疲れ様です。私に、何か御用でしょうか?」
「デートのお誘いに……っていうのは冗談で。どうだい、何か情報は得られたかい?」
「デート……あ、いえ。勿論、勿論幾つか聞けましたよ」
 道中ではいつも通り、プルサティラが小耳に挟んだ話も多い。警備を行うにしても、情報の有無で効率は大きく変わる。役立ちそうな情報を、世界と共有した。
「ふむ、次に見るのはあの通りかな。ご協力感謝だ」
 これはお礼に、と。世界がプルサティラに先ほどかった瓶詰めの菓子を手渡す。
「あ、あの……」
「貰っておくといい」
 受け取って良いのか迷うプルサティラだったが、愛無の助言を聞いて改めて世界に礼を述べ、情報の報酬を受け取った。
「……ところであれは『アウト』かな。世界君、どう思う?」
「うん。紛れもない阿呆かつ、真っ黒だ」
 世界達の目前の鉱石屋に並ぶ石を幾つか、店員の目を盗みポケットに詰めた男が居る。イレギュラーズ当人の目の前で窃盗とは、なんとも大胆、もとい無謀な。
 脅かして止めるには擬態解除かと愛無は考えたが、魔物と間違われたら余計に面倒か。ここは地道に。
「世界君。あの曲がり角に引っ張り込むぞ」
「りょーかい、っと」
 曲がり角を通り抜けようとした盗人を、路地の闇から伸びる愛無の触手が捕え引き摺り込む。
「君、あの店で盗んだものがあるな。ポケットからだいぶ臭うぞ」
 突然の異形に錯乱した盗人のポケットを確かめると、確かに鉱石が入っている。
「おいたは駄目だ。ああ、いけない」
 ここは穏便に。世界が威嚇術を放ち、無法者を気絶させ地面に転がす。
「あとは俺がやっとくから。愛無さんは、お祭りの方行ってきな」
「ご協力感謝だ。あとは、よろしく頼む」

 愛無が表通りに戻った後、世界のもとにあらかじめ呼んでおいた運営委員が訪れ、盗人をつつがなく引き渡す。
「お疲れ様、中の人。祭りってのは、人間が起こすゴタゴタ以外にも色々あるよな」
 無法まではいかなくとも、ちょっとしたケンカに不法投棄、迷子の対応。手元の運営委員だけでは到底追い付くまいと、世界が協力を申し出る。
「十分楽しませて貰ったし。俺達の仕事は、この市を大事なく終了させることだからな」

「お帰りなさい、愛無さん。泥棒さんは、どうでしたか?」
 その場で見張りを兼ねて待っていたプルサティラに、再び愛無が合流する。
「世界君が上手くやってくれた。ときにぷーちゃん君、なにか欲しいものはあったかね?」
「あ、あるにはありましたが……恐れ多いです、私も仕事ですし」
「付き合ってもらった礼だ。その程度の甲斐性はもちあわせているさ」
 愛無の働きぶりは、当然プルサティラも知るところ。ならばと、恐る恐る希望を口に出してみる。
「最初の通りの可愛い果実酒、いえ、それよりも先ほどのお店にあった、デザートローズの石でしょうか……」
「ああ、僕もあれは印象深いな。砂で出来た薔薇のような」
「不思議ですよね。昔聞いたお話ですが、砂の底にある水が、お花のような形を作るだなんて」
 この世界自体もやはり不思議で、ヒト程ではないが興味深い。
 雑多な通りの帰り路。プルサティラの手の中には、不思議な砂の薔薇があった。

 宝飾通りを出たウィズィ達一行も、また別の通りへと出る。
 ここは夜闇の中の、灰色の領域。ご禁制の売買についても『公の場である事を念頭に、各自の判断に任されている』が、やはり『難しい』品もある。
 この通りは特に人が多く、店の全容が捉えづらい。どうにか人を掻き分け進むと『最後尾』と書かれた札がある。複数列に渡って、そこそこ長い行列ができているようだ。
 そこまで繁盛しているこの店は、一体何を扱っているのか。訝しむウィズィが、列の先に見たものは――

「……何やってるんですか新田さん」

●一番ホットなスペースへようこそ
「イレギュラーズ達から珠玉の美女を選りすぐったファンドイラスト集。表紙は、今ラサで最も有名なイレギュラーズ『エルス・ティーネ』の裸エプロン。裏表紙は下着です。どうぞ、お手にとって御覧ください。なおこちらは三限、転売の方はご遠慮くださいませ」

 ファンド謹製の絵姿を印刷し、紙の資料を纏める要領で製本したものが細長い机狭しと積まれている。そう、今回の主役は――

「寛治さぁーーーーんっ!!!!」
 まさかのご本人登場に、一般参加もとい買い手の列が色めき立つ。

「な、ななな、なんてものを売ってるのもう!!!!」
「ファンブック。そう、有志によるファンドで制作した品になりますが?」
 今回の製本と頒布にはラサの知人も立ち合ったが、流石の練達プリンターである。通常よりもインクの色を増やした最新機種を使う事により、肌色の再限度が大幅に向上。その表紙の破壊力は、推して知るべし。
「よりにもよってこの表紙、裏表紙……ディルク様に知られでもしたら……っっ!」
「赤犬様も市にいらっしゃる事はありましょうが、何か問題でも?」
「大アリよっ! 何でもするから、発売禁止してちょうだいぃぃ!!!!」
「おや? 今、何でもするって」
「委員会さーーん! 怪しい眼鏡よーー! 取り締まってーーー!!」
 売り手にご本人、買い物客が大変なもみくちゃとなり、総員総出で落ち着ける事となった。

「……き、今日もラサの為にひと仕事出来たわね……!」
 騒ぎが終わる頃には、東の空には夜明けの気配。先ほどの騒ぎの中でも、客の質が良かったのか怪我人や火事場泥棒などは現れず、新月の市は何事もなく終わりを迎える。
(ええ、ええ。大事なく、何事もなく、平穏に終わったのよ……!)
 怪我人は居ない。割れた眼鏡と共に、店の跡地に転がっている敏腕マネージャーを数えなければ。

 ノワ・ルーナは『お忍び』の市。要人がこっそり訪れる事も、実は少なくない……というのもまた、月の夜の噂話である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ

あとがき

この度はご参加、誠にありがとうございました!
例のご本は監査委員会(私)が一部、見本誌としてお預かりしております。
やっぱりライブ感って大事ですよね。まったくの私事ですが、コピー本作る作業は超楽しいです。
そっちのマーケットも、早く再開できるといいなあ……

プルサティラにもいろいろ構ってくださって、ありがとうございました。
よろしければ、またどこかで遊んでくださいませ!

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