シナリオ詳細
<夏の夢の終わりに>ふたりぼっちのアイビー・ガーデン
オープニング
●わたしはひかげもの
生まれつき身体が弱く、陽のひかりが苦手なわたしは、陽だまりで楽しそうに遊ぶみんなを陰で見守るだけ。そんな日々を、長いこと過ごしてきた。
わたしがひとり遊ぶのは、この暗くて深い森。びっしりと生えた木々が空を覆ってくれるおかげで日当たりが弱いから、ここでだけは普通に遊べる。
でも、他の子たちはみんな陽だまりが好きで、暗い森を怖がっていた。そもそも、あんな風にきらきらした子たちに話しかける勇気なんて、わたしにはかけらも無かった。
そういった日々がずっと、ずうっと続くのだろうと思っていたある日。
『ねえ君。手を貸してくれる? 君の力が必要なんだ』
わたしなんかに話しかけてくれたのは、同種(ようせい)じゃないヒトだった。そのヒトは、妖精の力を借りて成し遂げたいことがあると言って。
はじめてダレカから声をかけてもらったわたしは、ただとっても嬉しくて。具体的に何をするのかも聞かないまま、そのひとに付いていった。
ついていった先で何があって、いまの『わたしたち』があるのだろう?
その辺りの記憶は、すっかり思い出せなくなっていた。
●光と影はふたつでひとつ
目覚めた『あたし』は何処だろう、とても暗くて深い森の中に居た。
深緑、にしては木の感じが違うというか――とにかくとても暗くて寒くて、さみしい場所だ。
日のひかりもあまり届かない。お日様って、あんなに頼りなかったかな。
さみしいな、なんて思っていると。何処からか、か細い声が聞こえた。
『あなた、だあれ? ハーモニアさん?』
声が聞こえたのはあたしの中から。なんと、あたしの中にもう一人『だれか』が居るらしい。あなたこそだぁれと聞いてみると、その子はシシリーと名乗った。
――ああ、よかった。どうやら、ひとりぼっちではないようだ。あたしの中の妖精さんも、同じように寂しがっている。ならば、する事はひとつだ。
「ねえ、ようせいさん。お友達になろっ!」
『……え!? お、おともだ、ち……』
「いいからいいから!」
『そ、それじゃあ……あなたとわたしは、お友達、ね』
「うん! お友達よ!」
さて、これから『わたしたち』は、何をすべきだろう?
陽だまりのおんなのこは『何かを護らなきゃ』と言っている。その『なにか』が何なのかまでは、分からないけれど。
この森に日は当たらないけど、おんなのこの傍はとてもあたたかい。陽だまりの中ってきっと、こんな感じなんだろうなあ――おんなのこの胸の中で、小さく丸まったまま考える。
当分はここで一緒に居たい、とわたしが言うと、おんなのこはにっこり笑って答えてくれた。
「それじゃあ、ここを護ろう! シシリーの大事な場所だもんね!」
さっそくだれか、敵意を持ったなにかが来る気配を感じて、お友達のおんなのこにそう伝える。
おんなのこが杖を掲げると、黒い森がざわめいて、たくさんの黒い蔦が通せんぼをするように現れた。
●ブラックアイビー・ガーデン
「魔種タータリクスが作った『アルペド』については、すでに、すでにご存じの事と思いますが……」
状況を説明するプルサティラの傍らには、妖精がふたり。猛吹雪に見舞われすっかりと凍えた様子で、室内のストーブに張り付き暖をとっている。
アルヴィオンへの進撃を果たしたイレギュラーズ達の前に、彼ら自身の姿を模した魔物が立ちはだかった事は記憶に新しい。
妖精城はもう目前。これまで同様、アルペドを始めとした錬金術の魔物たちのが道を阻んでくる事は確実。しかも、いにしえの『大いなる冬』の力までもが災厄を振るい始め、道のりはいっそう厳しいものとなる。
「ですが、ですが……彼女たちの協力がありまして、少しばかり、進み易そうな道を見つけました」
その道はとても深い森で、生い茂る草木が天然の防雪柵となり、吹き荒れる冬の影響もかなり和らぐのだという。普段から進んで近寄る者も居ないが、道自体は単純で迷う事もない。
「ひとつだけ、ひとつだけ問題があるのですが……」
「あのね、あのね! シシリーがあの森に居るの」
プルサティラの横に、妖精たちが姿を現す。
「シシリーがね、あの白い子にされちゃったの!」
その森には現在、とあるイレギュラーズの姿をしたアルペドが居るという。
「その、シシリーさんが、妖精のシシリーさんが、アルペドの核にされています……これまでの記録から見ますと、核部分を壊さずにおけば、助け出せる可能性があります」
「お願い! シシリーを助けて!」
「あの子とはなかなか遊べなかったけど、それでも、私たちの仲間だから!」
妖精たちが揃って頭を下げる。
「彼女と同じ姿の魔物で、シシリーさんの事も考えると、やりづらいとは思いますが……」
二の足を踏む間にも犠牲は出続ける。そして、動力源にされた妖精もアルペドの身体も、最期を迎えるのはそう遠くなく、二の足を踏む間にも犠牲は出続ける。
ふたつにひとつ。とにかく、今は進まなければ。妖精たちとプルサティラの道案内を得て、あなた達は深い森の路を進んだ。
- <夏の夢の終わりに>ふたりぼっちのアイビー・ガーデン完了
- GM名白夜ゆう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●森のいとしご
ひと恋しくて近づきたかったのか、それとも怖くて逃げたかったのか。
じつは自分でもよく分からないけど、わたしに意気地がない事は分かった。
ああ、怖いんだなあ。『わたし』と向き合うっていうのは、こんなにも――
「さむ! い、いわしが凍っちゃう!!」
黒蔦の森までの道中、横殴りの吹雪には随分と悩まされた。森の中風が和らいでも、温暖な海育ちの『エンジェルいわし』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)にはだいぶ堪える
「オゥオゥオゥ!! かわいい妹分の危機とあっちゃあ気合入れねえ訳にはいかねえぜ!」
鬱蒼とした森の中、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)の明るい声が響く。
「まあ、森の中は随分とマシだな」
『観光客』アト・サイン(p3p001394)は上下左右、あらゆる草木の位置を慎重に確かめながら進む。
「土足でお邪魔して、すまないね」
「俺も謝らねぇと。すまねぇ、キルシュちゃんにアビーちゃん。それに植物さんたちよ」
人の手が入っていない森を進むには、ある程度の草木、森のいのちを切り開く必要があるのだ。
「妖精さん達にとってもそういう事だよね。ごめんね」
自分も海を汚されたらと、海種のアンジュは考え詫びる。
「高い所からも見てみよう!」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は小鳥を呼び寄せ協力を仰ぐ。こくりと頷いた小鳥は木の枝に止まり、焔と共に見下ろせば、すぐに蠢く黒蔦が見える。
「うわっ、来てる来てる……あの木の間! 向こうの木からも!」
「焔君の後ろにも!」
「おっと!」
人一倍注意を払っていたアトが焔に迫る蔦に気づき、それを聞いた焔がひらりと蔦を避ける。
「棘も飛んでくる! 撃たれないように気を付けて」
間髪入れず飛んでくる棘も、木を盾にしてやり過ごした。
「『あたし』は何処かな……」
黒蔦が出てきたという事は、それらを操る『番人』も遠くない。草木の向こうの薄闇を『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が探る。妖精郷の主たる彼女には多くの精霊が手を貸しており、番人の居場所をそれと伝えた。
雪がちらつく闇の向こう、白く佇む影が見え。
「「……あ、あたしがもうひとりー!?」」
華奢な身体にポニーテール、同じ姿の少女同士が出会う。
「わっ! 本当にフランちゃんにそっくり!」
小鳥越しにその姿を見た焔も驚く。少女たちの声に番人の核、目を閉じて丸くなっていたシシリーがうっすらと目を開けた。
(妖精さん達まで……なんで?)
『シシリーちゃん、怖がらないで! あたしが護ってあげるから!』
来訪者を脅威と認識した番人が杖を掲げ、蔦を呼び寄せる。
「これはなかなか、どうして」
そんな姿を前にして、『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は微か目を細める。姿だけでなく、その心までそっくりとは。
「おねがい!」
「シシリーを助けて!」
友人の似姿に戸惑う焔に、キルシュとアビーの懇願が届く。
「……大丈夫、助けるよ」
フラン達が願いに応える。
黒の蔦の壁は分厚い。それでも絶対、助けてみせる。
その為に、この森に踏み込んだのだから!
「君たちに恨みはないけど、僕らにも守りたいものがあるからさ。悪いね」
「ええ。僕達は僕たちのやるべきことをやるだけです」
友人と同じ姿とて、アレはあくまで作り物。ルフナは泰然とマナを巡らせ、『逆襲のたい焼き』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はその身に強固な力を降ろす。
「――どうか、通らせて欲しい。大切な友達のため、冬をもう一度眠らせるために」
澱の森の子が語り掛けると、周りの草木がさわ、と揺れた。
●陰鬱Breakersが森を行く
「これは随分アウェーな舞台ね」
『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)の戦場は、開けた海と打って変わって陸上の森。ホームでない戦いだが、危険があるのは海とて同じ。この程度の『荒波』を超えられずして、求める宝に近づけようか。
ベークの撒く甘い香りは確実に蔦をおびき寄せており、マヤもそれに続く。ポケットからラム酒を出し、景気づけにと一気に飲み干す。
「我は海賊マヤ・ハグロ! 愚かな者どもよ、私と戦う勇気があれば、正面切ってかかってくるがいい!」
抜き放つ銃とカトラスは海賊の誇り。どんな荒波が来ようとも、乗り越えてみせよう――!
「流石にいきなりは近づけないね……まずは地道に!」
焔の御子の祝福の火が、黒蔦を内より焼き尽くす。ここまで燃やせば、分裂が出来た所で形になるまい。地道にとは言っても、とことん前のめり。蔦は思ったよりも脆いが、囲まれれば厄介な事に変わりは無いのだ。
「全く、ブラックアイビーだかブラックタイガーだか知りませんが、あまり人に迷惑はかけないでほしいものです」
身を焼くほどの献身で仲間を支える、そんな彼はfish-shaped pan cake。
「ベーク君、分裂が来るよ!」
ルフナの忠告が功を奏し、ベークは不意打ちを完璧に防ぐ。
「お、おおぅ……どうして分かったんです?」
「文字通りの草の根ネットワーク、ってやつだね」
深緑育ちのルフナもまた森の一部。黒蔦はともかく、森の方はルフナの味方だ。無数に生い茂る森のいのちが、迫る危険を友人へ伝える。
忠告通り背の高い草むらに潜れば、迫り来る黒蔦同士がぶつかり絡まり、自縄自縛で動けなくなる。
「みんな、ありがとう。これなら――」
攻めた方が良い。ルフナを中心に舞い散る光翼が黒蔦と周囲の木々に降り注ぐ。優しい雪のような光は黒蔦を惑わせ、友人の木々を温かく癒した。
「パパ達お願い! いっけー!」
娘の危機に何処からか駆け付けた『父親』たちが弾幕となり、黒蔦の塊を食い破る。
「いわしミサイル! どっかーん!」
容赦なく父親が降り注ぐ。いわしの泥に、悪しき蔦は根を張れない。
進路が曲がる事はあれど、黒蔦はかなり正確に侵入者の位置を捕え迫り来る。
「なあに……僕の勘が正しければ、おそらくは」
「そういう事、らしいな!」
あらゆる地形を利用して器用に立ち回るのは、旅慣れたアトと千尋の二人。
「つまり、アドバンテージは俺らにあり、だ!」
迫る蔦を、千尋が髑髏型の罪でぶん殴る。灰色に染め灰燼に帰し、さっと草むらに身を隠す。
そう。あの黒蔦、つまり番人は、草木を派手に壊せない。故に、一見邪魔なこの草木は有用な盾として成立する。正確に狙えるとしても、射線や進路の問題までは除けない。
「こういう状況ならば逆手に取ってやるのが上策、ってね」
無銘の旅人の無銘のリボルバーが、赤と黒の火を吹き上げる。
「へへっ、元の世界でちょっと読んだサバゲー雑誌の知識がここで生きるとはな」
立場の上下を理解らせるには、一発殴っただけでは足りない。ならばもう一発。
「お友達を助けるためなんだ! 押し通らせて貰うぜ!」
己を黒に染め上げろ。天井知らずの千尋の勢いが、その場を大いに熱くした。
「わわっ」
ベーク達が切り開いた道の向こう、フランがいよいよ番人を射程に捕えるが、黒蔦が再びその道を阻む。
「吹っ飛べー!」
青色の衝撃に桜色の炎の粉が舞い上がる。援護に追い付いた焔が、吹き飛ばした蔦から友人を護るように回り込む。
「こっちは任せて、フランちゃん!」
「焔ちゃんっ!」
引き付けた蔦は1,2――5体。回避に優れる焔だが、囲まれた際の危うさはある。心配したフランが振り返るが、問題ないと焔が答えて。
「フラン、今は行きなさい!」
正確無比なマヤの抜き打ち。精神を研ぎ澄ませていたその一撃は、フランを阻む細い蔦を塵と返した。
「ボクだって余裕だもん! 絶対止めてやるんだから!」
焔とマヤは蔦の向こう、フランが走っていくのを確かめた。
(みんなが作ってくれた道だもん! 何が何でも突っ込まなきゃ!)
この瞬間、道を阻む蔦は無い。素肌に枝葉が突き刺さる中、全速力で森の主へ迫る。慌てた番人が身を護るべく、フランと同じ声で毒の歌を歌った。
「なんのっ!」
緑の護り手毒は通らず、足止めも叶わない。
そして、いよいよ目の前――
「こんにちは、あたし。……ううん、シシリーさん」
『こ、こんにち、は……?』
殴られると思ったのに。呆気にとられたシシリーは、思わず普通に挨拶を返す。
『ま、待って、来ないで……”ひとり”にして……!』
殻に閉じこもる彼女自身も、本当は知っているのだ。
「ごめんね、そういう訳にはいかないの!」
番人は命なきつくりもの。その核となって馴染んできた今、その在り方は嫌という程によく分かる。だからこそ、フランは目の前に立つ。
「絶対!”ひとり”になんて、させないんだからっ!」
ベークの放つ甘い香りは、味方には献身と魔性の支えとなり。敵にとっては、破滅へ誘う甘い焼き菓子。
「うおっやべっ!?」
千尋の調子が急激に落ちる。賭けは連戦連敗。黒い蔦を捌き切れない。
そこに、香ばしく甘い香りがふわっと広がる。丁度、ベークが自己強化を掛け直したところで、
「たい焼きシーーーーーーーーーールド!!!」
「みぎゃー!?」
ベークを鷲掴みにし盾とする。焼き立てのおかわり、お届け完了。
「セーフセーフ! 助かったぜ!」
「ま、まあ。これが僕のお仕事ですが……やれやれです」
「つ―訳で! そっちのモノクロフランちゃんも覚えておきな、俺は『悠久ーUQー』の伊達千尋ってんだ!」
手近な黒蔦に分からせながら、番人に向けシルバーを巻いた手を振った。
●拳といわしで語らう時間
黒蔦の数に押されると思いきや、予想よりも蔦は増えず、いわしと光翼を始めとした範囲攻撃がそれを上回る。経験豊富なアトと千尋の立ち回りに、ルフナとフランが得た森の加護が危機を好機へと押し上げた結果だ。
絡まる蔦をカトラスで斬り払いつつ、マヤが再びラム酒を取り出す。もう一杯かと思いきや、
「最期に、海賊からのプレゼントよ」
蓋を開けずに放り投げ。その瓶は、蔦の塊へと吸い込まれ――
「まとめて消し飛びなさい!」
蔦が大いに爆ぜ散り、爆風に森が揺れる。道すがら増えた弱い分体は、ひとたまりもなく焼け落ちた。
『来ないで!』
番人が生み出す拒絶の檻が、フランを傷つけ拒み続ける。その度に緑の葉が鮮やかにフランの周りを舞い、傷を癒した彼女はまた手を伸ばす。この繰り返しで持たせてきたが、番人の耐久は底知れず、このままでは徐々に不利。
今の攻撃は可能性を砕いて凌いだが、いよいよ危ない。そんな時は……
「ベーク先輩ー! ヘルプ!!」
「任されましたっ!」
飛来したベークが盾となり、再起したばかりのフランを庇う。甘い残り香が、ふわりと周囲に漂った。
「間に合いましたか。フランさん、生きてます?」
「やったー! 補給きたー!」
「だだだから僕は回復アイテムじゃありませんって!?」
「冗談冗談! 甘いものは、無事片付いたら……だよね!」
「結局食べるんですか……」
フランが自己回復を終えるまで、番人を抑えるのはベークの仕事。黒の恩寵に護られた番人には、甘い香りが通じ難い。
(早く、こっちに目を向けさせないと……!)
「待たせたわね!」
そこに再び閃くカトラス。マヤを始めとした後続が、障害を切り開きつつ駆け付けた。
「十分に体は温まったかしら? こっちは最初から本気で行くわ、覚悟しなさい!」
マヤの早打ちに続き、焔が肉薄。番人の身体の内側からも、紅蓮の桜が花開く。
「お胸には注意して……っと!」
番人の胸にはシシリーが居るので、そこには最新の注意を。ルフナと千尋も、シシリーの様子を注視した。
「みんな……」
フランの目が微妙に曇る。ちなみに焔も『同族』である。
「これはその、シシリーさんの心配してただけだし! 勘違いしないでよ馬鹿っ?!」
確たる理由はあるのだが、皆でフランの姿……番人の胸を凝視する形となっている。
「うーん、モノクロフランちゃんの方が少し『ある』なァ。再限度は65点ってトコか」
「……」
じっくり観察した千尋に、フランが無言の圧を送る。
ともあれ、これでメンバーは無事揃った。あとはシシリーの救出を残すのみだが、ここまでの疲労はやはり濃い。でも、大丈夫。
「森の声と……」
「いわしの歌を聴けえー!」
一瞬、ルフナの周囲が彼の故郷、不変の森に変じる。変質を嫌う森の力が仲間たちを常在へと引き戻し、その森にはいわしの歌が響く。大いなる癒しが、体勢を盤石のものとして。
「――そして、正義(いわし)は勝つ!」
いわし達の熱い思いが炸裂し、残りの蔦を肥料と変えて後顧の憂いを断つ。
「妖精よ! その友情に、命を削る価値はあるか!」
『観光』に訪れたアトの全身全霊。死中の生すら顧みず、生の全てを賭けた血意の一撃を番人に向け叩き込む。求めるならば対価を差し出す、それが観光客の流儀。
「行き着く果ては緩慢な自殺、分かっているだろう! このまま彼岸へ消えるというのか!」
『……っ!』
シシリーの拒絶は一層強く、アトを拒み弾き飛ばす。衝撃に『匣』が砕けるのを感じながら、彼はやはりと少し満足げに頷く。この激昂は彼女にとって、痛いところを突いたが故に。
アトと入れ替わるように、アンジュが滑り込む。
「うわ、ほんとにフランちゃんにそっくりじゃん。やばっ」
改めて近くで見ると、やはりよく出来たものだ。
「でももう、そっくりさんごっこは店じまい。友達が遊びに来てくれてるんだよ」
アンジュの背中から妖精二人、キルシュとアビーが心配そうに顔を出す。
「この子達は危ない事はわかってて、それでもシシリーちゃんを助ける為にここまで来てるんだよ」
妖精たちに気を配りながら、焔が一歩、『シシリー』へと強く踏み込む。
「そうだよ。いつまで閉じこもってるつもり?」
アンジュもまた一歩、その『殻』へ迫る。
『だって……だってわたし、なんか……』
「うーん、しぶとい! 出られないなら、こっちが来てあげる!」
「おうよっ! 行こうぜ!」
アンジュと千尋が一斉に飛び出す。番人の姿に気が引けつつも、一切の遠慮はしない。
「今助けるから、ちぃと我慢してくれよ!」
WHITE OUT――相手の意識を真っ白に染め上げる、千尋本人にも予測不能な『賭け』の一撃。されど必要以上には痛めつけない、優しさ溢れるしろいろだ。
「さあ、チェックメイトだよっ! だから――」
助けたい。アンジュ自身の気持ちと。
この場に立つ全員の気持ちと、散って行った『パパ達:の気持ち。それらすべてを力に変えて。
「この森の面白い場所を案内してよーー!」
『……!?』
彼女は何を言っているのか? 爆ぜるいわしの爆光の中、核の中のシシリーがはっと顔を上げる。
その瞬間、番人の胸に皹が入り、仮初の身体が光の中に砕け散り。
ころり。雪の上を、小さな核が転がった。
●陽だまり集うアイビーの庭で
「シシリーちゃん!」
気を失っていたシシリーが目を覚まし、キルシュが嬉しそうな声を上げる。シシリーはの身体はすっかり元踊りで、来訪者たちに囲まれていた。
「あの、あの……わたし」
森は少し荒れており、来訪者も大小の怪我を負っている。
自分で踏み出す事をせず、ただ決めつけて閉じ篭もった結果がこの惨状となれば、合わせる顔なんてある訳もなく。
しかし、それでもと。目を逸らしたシシリーを、フランが回り込むように覗き込み。
「ねえねえ、シシリーさん!」
守ってくれた己の殻(あのこ)はもう居らず、この状態では逃げ場もない。
(ど、どうしよう……!)
「おひさまとか、外で遊ぶの苦手なんだって?」
「え……」
「あのね、あたしの幼馴染にも外が嫌いで、おうちで本読んでるのが好きな子がいるんだー」
あの子の元になったおんなのこは、なんて事ないように言ったのだ。
「あたしは外遊びが好きだけど、でもその子、アルちゃんと本読んでごろごろするのも好き! だからね」
遊ぶのはお外でなくてもいいんじゃない? その言葉に妖精さんたち、キルシュとアビーもうんうんと頷く。
それはあまりに意外なことば。みんな陽だまりが好き、というのは徹頭徹尾、シシリーの思い込みだったのだ。
(は、恥ずかしすぎる……! やっぱりわたし、だめな子だぁ)
「ほらほら、顔を上げて!」
再び俯いたシシリーを、半ば無理やりアビーが起こす。
「私たちもね、シシリーとお話してみたかったの! でもでも、話しかけていいか分からなくって……」
妖精ふたりが寄り添って、目線を合わせて仲間に語る。お互いが知らず作っていた心の壁が、ゆっくりと融けていく。
「きっと他にも心配してる妖精さんだってたくさんいるし、お友達だってもっとたくさん作れるよ!」
焔の笑顔がまぶしく映る。
「それに、おひさまじゃなくて夜遊びも楽しいし……えーとえーとつまり、うん」
「「お友達になろ!」」
フランを始めとした少女たちが、笑顔でシシリーに手を差し出す。。
「いわしとも一緒にあそぼ! きっと楽しいよ」
エンジェルいわしも妖精たちに愛を振りまく。エンジェルいわしとはいったい――考える間もなくアンジュが問う。
「てかさ、妖精ちゃんはいわし好き?」
「…………好き!」
3人の妖精たちが、口を揃えて笑顔で答えた。
この雪が融ける頃には、新たな緑といわしが芽吹く。きっとこの森は、多くの優しさが集う庭となるだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
薄暗めのオープニングからの強烈な鬱Break! お疲れ様でした!
障害物(ピンチ)をチャンスに変える動きに、アイビーもざくざく燃えております。
今回のMVPは、意外過ぎる言葉でシシリーの心をこじ開けたアンジュさんへ。
なんというかこう、いわし! と心が叫びました。
いわしって、考えずに心で感じるものなのかなぁと個人的に思った次第です。
これからもイレギュラーズの皆さんは苦難続きとなるでしょうが、
胸の希望はいつまでも消さずにいて下さいね。
この度のシナリオご参加、誠にありがとうございました!
GMコメント
黒い森を独語で言うと超かっこいい。という訳でアルペドさんです。
●目標
『黒の森の番人』、及びブラックアイビーの全滅
(シシリーの生死は問いません)
●情報精度:A
この場所やシシリーの事を知っている妖精たちからの情報で、
非常に確かなものです。想定外の事態は絶対起こりません。
●ロケーション
アヴァル=ケイン城郭の一角、深い森のようになっているエリアです。
生い茂る草木は手入れされておらず、視界と足場は狭く劣悪です。
草や木の背は3m未満と低めで、それ以上の飛行はやや難しくなっています。
明るさは薄暗い程度で支障はなく、森の中で戦う限り、吹雪の影響もほぼ届きません。
●エネミー
〇『黒の森の番人』(プレイングでは”番人”表記で大丈夫です)
フラン・ヴィラネルさん(p3p006816)の姿をしたアルペドです。
フランさんご本人同様の非常に高い耐久力を持ち、フランさんとは逆に
BSで痛めつける戦い方をします。フェアリーシードは胸元です。
自我があり会話は可能、基本的な性格はフランさんに近いですが、当然ながら別人です。
・毒花の歌:神遠範/中ダメージ【暗闇・猛毒】
・黒の恩寵:自付/防御技術・特殊抵抗アップ【副】
・拒絶の檻:物近範/大ダメージ【ショック・ブレイク・飛】
・黒の森のいとしご【P】:再生・充填+ペナルティ軽減
持ち主の『番人』が存在する限り、彼女本人を含むエネミー全員の
地形による移動ペナルティが微減され、皆さんの位置を
それなりの精度で感じ取る力が付与されます。
〇ブラックアイビー×20
『番人』が操る、錬金術で出来た蔦の魔物です。
森の中では非常に俊敏に、統率の取れた動きをします。
耐久は平均的ですが、増える可能性もあり鬱陶しいです。
操っている『番人』を倒せばすべて停止するか、大幅に弱体化するでしょう。
・ふるえる森:神近範/小ダメージ【氷結】【泥沼】
・黒き森の棘:物超単/中ダメージ【流血/連・CT高め】
・増殖【P】:
ダメージを負った際【被ダメージ値/40】%の確率で増援が1体現れます。
増援のHPは【基本の最大HP-増殖成功時の与ダメージ】になります。
(例:500ダメージ与えた場合の発生率は12.5%,増援のHPは【最大HP-500】です)
〇障害物の草木×たくさん
攻撃すれば壊せます。敵味方とも遮蔽物としての利用が可能です。
〇(シシリー)
『番人』の核にされている妖精です。内に籠りがちで卑屈な性格。
意識があり、会話や意思疎通もある程度可能です。
この深い森ではじめての友人、『番人』とずっと一緒に居たいと思っています。
核は番人の胸元、一目で分かる位置にあります。
●友軍
〇妖精×2
それぞれ名前はキルシュとアビー、能力傾向はほぼ同じです。
簡単なHP、BS回復、自衛程度の戦闘力があります。神秘寄りです。
ご指示があればしっかり従います。
・・・・・・・・・
それでは、ご参加お待ちしております!
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