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シナリオ詳細

海妖双眸

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 海は静かだ。
 夜。月明かりが目立つ豊穣の海――こんな時間だからこそ海の漁へ出る船もある。
 朝一の市場に間に合う様にする為には、この時間の都合がいい面もあるのだ。あまりに暗ければ漁もしにくいが、幸いと言うべきか今日の月明かりは実に明るい。水面が見えて、魚の存在も感じ取れれば――
「……んっ?」
 だが、と。船に乗る一人の男が気付いた。
 なにやら様子がおかしい。『何が』と上手く口には出来ないのだが。
 ――いつもと違う。
 それは幾度も海に出た男だからこその『勘』にして、確かな予測でもある。不意に感じた嫌な予感が背筋を撫でれば『何か』が起こる前に船を港に戻そうとして。

「お、おい! なんだありゃあ!!」

 同時。船の反対側にいた同僚が声を荒げた。
 その色は焦りに満ちている――すぐさま振り向いた、が。もう遅かった。
 船の隣。暗黒の海が『競り上がって』いる。
 否、否。それは海の中から何か、巨大なモノが浮上してきているというのが正確だ。塩水を大量に巻き込み、船を揺らし海面を乱し……夜空に向けて上がって来るのは――
 妖怪。
 暗黒の坊主。巨人にも似た、その怪異の名前は。

 『海坊主』

「に、逃げろ――!! 船が沈められるぞ――!!」
 舵をきり船を動かさんとする海の男達。されど海坊主の視線は既に『こちら』
 巨大なる瞳が確かに視ている。こちらを、視認している。
 しかもそれは一体ではない――続いて浮上してくるその数は、二か。いや三……
 大量だ。まずい、囲まれる前に逃げねば。さもなくば死ぬ。
 その事実に恐怖が伝播する。半ば狂乱になる男達の様子を他所に、海坊主は妖力を収束させ。

 まるで光帯でも放つかのように――船を撃沈した。


「海坊主っていうのは海の怪異の一種でね。まぁ簡単に言うと海に突然出てきて船を襲う妖怪さ――それの目撃情報が最近この近辺で起こっている」
 ギルオス・ホリス(p3n000016)が語るのは事件の内容。
 ここ豊穣の地で最近起こっている妖怪騒ぎである。海に漁に出た船が度々『海坊主』なる怪異に襲われているのだとか。海坊主とは巨大な人型の様な存在で、その体は黒に染まっているのだという……夜の海の場に突然現れれば、遭遇した人間の混乱も激しい。
 船ごと行方不明になる者も多く、最初は事故か何かだと思われていたが――なんとか岸に辿り着いた者の証言で分かったのだとか。
「このままじゃあ安心して海に出られないていう事ですね。僕達に白羽の矢が立った」
「聞いた限りの話だと……夜に海に出て、海坊主を倒せばいいのか?」
「そうだね。近くの村の人が小型船を一台貸してくれるらしいから、船の類を持ってなくても現地に行くことに問題はないよ。海坊主が出現すると言われているおおまかな場所も分かっているしね。ただ……突然出てくるらしいから、奇襲の類は難しいかな」
 むしろ奇襲される側、という訳か。
 小型船は用意してもいいし、しなくても村の者が用意してくれているとの事だ。海坊主の件が無事に片付くなら壊れても特に気にしないという……彼らにとっても海に安心して出られるかは死活問題であるからだろうか。
「それと――これは目撃情報から予測された敵の攻撃方法なんだけど。
 結構かなり広く攻撃してくるみたいなんだ。それこそ船全体を覆うぐらいはね」
 しかし話はまだ終わらない。
 海坊主は……その巨体故もあるかもしれないが、攻撃範囲が非常に広いのだという。船全域を攻撃してくる妖力は迂闊に固まっていれば被害が多くなる恐れがあるだろう。かといって分散しようにも周りは海で、手段が無ければ移動も難しい。
「簡易飛行とかじゃすぐに叩き落とされるだろうから、気を付けておいてね。
 船を複数用意するのも手だろうけど……操舵する人がいなければ的にもなる」
 ふむ――行くには問題ないが、行った先でどう戦うか……と言った所か。
 日も暮れ始めている。現地に向かうなら、そろそろ出る時間か。

 どのように戦うものか。作戦を練り、海を荒らす怪異を――倒すとしよう。

GMコメント

 カムイグラ、その海の方での依頼です。
 来たる海の怪異、海坊主……!

■依頼達成条件
 海坊主×3の撃破。

■戦場
 カムイグラのとある海。
 時刻は夜。月明かりがありますので、視界にはさほど問題ありません。
 ただし海の奥底まで見えるかは話が別です。

 特に嵐が来る様子もない、穏やかな海の真ん中です。
 海坊主たちはシナリオ開始後暫くしてから突如として、船を取り囲むように出現します。海坊主たちは逃げる様子はなさそうですが、逆言うと船を力の限り鎮めようとしてくるでしょう。

■敵戦力:海坊主×3
 海の怪異。船より幾分も巨大である人型妖怪の一種です。
 巨大であるため攻撃は当てやすいでしょう。
 反面、敵の攻撃能力は中々のものです。まず攻撃範囲が広く、小型船をゆうに包む妖力の波動の様なもので基本的に攻撃してきます。また腕力にも優れている様で物理的に船に攻撃してきたりするかもしれません。

 周囲は海ですので、海坊主に近接系の攻撃を届かせるには船を思いっきり近付けるか、水中・飛行手段が別途必要と成るでしょう。ただし飛行ではなく『簡易飛行』など弱い場合すぐに叩き落とされる可能性があるのでご注意ください。

■小型船×1台
 近隣の村の住人(依頼人)が貸し出してくれた小型船です。
 これで現地に迎えますので、小型船、もしくはそれに準ずるものが無くても問題ありません。海坊主の件が片付くのなら壊れても問題ないとの事です。ちなみに用意出来るのならば、これとは別の小型船(もしくは似たもの)を持ち込んでも問題ありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 海妖双眸完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ


「ふむ――うっかり落ちればどこまでも吸い込まれてしまいそうでござるな」
「実際の所は昼も夜も大して変わらねぇ。此処にあるのは大量の寿司ネタってな!!」
 真夜中の海。暗黒に染まるソレを覗く『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)に対し、ぶはははと笑うは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。見えぬだけで確かにそこにいる魚達……寝ているのもいるだろうが、とにかく寿司のネタになる者らで溢れている宝庫に違いはない。
 故に――そんな海に出れなくなるというのは困りものだ。
 海坊主。やれやれ厄介な妖怪の様ではあるが、なんとかするしかあるまい。
「つー訳で、俺は一足先に潜っとくぜ。上の方は頼む!」
「ええ。操船はお任せあれ」
 ゴリョウの一声。軽く手を挙げ応えるは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 此処に至るまでの船を出しているのが彼女だ。巧みな操船でその舵を取りつつ、前へ前へと慎重に進んでいる。故にゴリョウは水中に適する効果を齎す酒を一口に――海の方へと。
 船に張り付くように位置しながら周囲を警戒する。
 まるでその行動はソナーの様に。敵意の感情を探知せんとする様に。
 奴らは、海坊主は明らかに船に乗る者達を『敵』と見定めて襲ってきている。ならば必ずある筈だ……奴らがこちらを知覚した時。『敵意』の誕生が。
「海坊主とな……あちらを狙っている訳ではなかろうに、わざわざ船を潰して回るとは暇な奴じゃ」
「ハッ。海坊主だかウニ坊主だかウニだか知らねぇが、要はカチ割ればいいんだろ?」
 そして船上からは『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)と『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)の目がある。ウィズィの船に乗り込んだ二人はいつでも奴らが出てきても良いようにと戦闘態勢。
 取り囲むように出てくる? 知らぬ知らぬ全て潰せば問題なし。
 升麻は猛る戦意を抑えつつ、何処から至るのかと目を輝かせて。
「海での戦いか……滅海竜との闘いを思い出すな、比べるべくは無いのだろうが」
 どうしても想起するものだと、言うは『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)――彼はウィズィの船の少し後ろの二隻目の船の舵を取っている。村より借りた小型船だ。
 舵から、あるいは足から感じる波の感触を感じれば……かの大竜の一件を思い起こす。
 瞼を閉じても思い起こすものだ……今宵の戦いはそれと比べれば些細であるが。
「それでも村人達の安寧に繋がるのならば手は抜けまい。全力で行こう」
「え、ええ。そうですね……ええ、大丈夫。海に落ちさえしなければ大丈夫、大丈夫ですよね?」
 そんなベネディクトの言葉に反応し……『流星光底の如く』小金井・正純(p3p008000)がじっと海の水面を見ながら呟いた。咲耶の様に暗黒を眺めている――が、その胸中にあるは不安のみ。おちたらやばいかも……
 いや大丈夫。落ちなければなんとでもなる! 喝を込めるように、自らを奮い立たせ、た。

 その時。

「う、うぉぉ!? 来るぞ! 来るぞ――! でっけぇのが来るぞ――!!」
 『受け継がれるアザラシ伝説』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)の声が鳴り響いた。
 彼とゴリョウの探知の枠に引っ掛かった『敵意』が海の底より上がってきているのだ。船の操舵者であるウィズィとベネディクトに届くようにとすぐさま声を。ほーれんそーは大事ってな!
 同時、下を覗いてみれば確かに『何か』が昇って来る気配を感じて。
「うひー! こいつぁ確かにやべぇ! ――海坊主だぁッ!!」
 直後に三つの『山』が海に顕現した。
 船を取り囲むかのように。水を引きずり上げながら、黒き体がそこへと。
 海坊主。船を破壊せし妖怪。

 その瞳が――『こちら』を向いた。


 あまりに巨大。あまりのサイズ差。成程これが……
「ふむ、流石は海の定番妖怪、海坊主。噂に違わぬ巨体でござるな!」
「夜中の海でこんなんでてくるのかよ! ひょえー! こいつぁ事前に知らなきゃおしっこちびっちゃいそうだぜ!」
 だが恐れる理由にはならずと咲耶とワモンが往く。
 大きな図体如き『向こうの海』でも何度も見てきた。
 今更この程度の図体に臆す理由がどこにあろうか――ワモンも咲耶も海に飛び込み、攻撃の意思を紡いで。
「ああ。ともすればこれは、童が『虫』と戯れている様な気持ちでいるやもしれぬな」
 それでも。ただやられたままではいくまいし、これから弄ばれてやる心算もない。
 飛び込む海――水中を往く技術を備えた彼女の動きは、早い。
 海坊主の背後に回りてそちらから攻撃を行うつもりなのだ。奴らの攻撃は情報が正しければ。
「右の奴から先に来るぞぉッ!! 躱せェ!!」
「オーライッ、させっか――ってのッ!!」
 それは船を『包む』様に攻撃するものなのだから。
 升麻の警告にウィズィが即座に反応を。切る舵のソレが、奴らの攻撃範囲から抜け出す様に。
 直後に炸裂。一瞬でも遅れれば『その中』に居たであろう、が。ウィズィの操船技術は並ではないのだ。この程度など早々に当たってやるものか――

 ……いやそれだけではないか。舵を取る、指先への集中力も段違い。

「ハッ……中々殺意の高い事だけど、海に還るのは死んでもゴメンだよ。
 私にはちゃんと帰る場所があるからね!」
 自前の船。慣れた海。
 最愛の恋人と一緒に死線を越えて辿り着いた海だ――こんな海坊主共にそれら全てをくれてはやれないと、口端吊り上げ余裕の表情を。ああ、それにきっと。
「こんな程度の荒波に根を上げたら笑われてしまうからね!」
 帽子の持ち主に、と。被り直すは絶望であった海を越えた証。
 偉大なる先達にそっぽ向かれる様な躍動は出来ないのだと。
 水飛沫を挙げて――船を進める。
「フッ。どうやら前の方は随分と巧みなようだ――小金井! こちらも少々以上動かすぞ!」
「は、はい! いつでも、ええ、だい、丈夫です!! よ、よろしくお願いします!!」
 なればと負け時にベネディクトも舵を。
 ここは海の上。陸上とは異なり、地が無くば船を『そう』とするより他はなく、故に船体を海坊主の至近へと持ってゆこう。正純の撃が届く位置にまで。幸いにして海坊主の動きは巨体故か決して早いものではなく。
 そして正純自身も――海に落ちた時の想像を、頭を振って払いのけ。
「人に害成す存在であれば……撃ち祓いましょう!」
 放つ一閃。その弓から放たたれる一筋は精密に。
 狙うは海坊主の――腕。あの腕力で船を狙われてはたまらない。その前に、削ぐ。
 一寸でも二寸でも。肉を剥いでその力を落とさん!
「でけぇのも腕の力が強ぇのも分かってんよ。だがなぁ――」
 故に升麻も往く。風の力を宿した護符を手に、その身に空を舞う力を付与すれば。
「要は、叩き落される前に素早く戻ればいいだけの話だ。翻弄してやんよ、デカブツ!」
 前へ。ウィズィの船から跳躍する様に海坊主へと向かう。
 超速度の輝きはそれ自体が刃と成り、振るう妖刀の一撃を強化。飛び掛かり身を回し、円の軌道を描いて海坊主の身を斬り裂こう。刻まれる線は升麻が通った死の直線。海坊主の命を削る闘志の一撃。
「――よっ、とぉッ!」
 そして海坊主の肉を地として。再度跳躍し船へと舞い戻る。
 一撃離脱。正にその言葉通りの行動を行えばよいのだと。叩き落とされる? なに、その前に船へと戻っていれば関係ない。

 無論。海坊主達もただやられてばかりではない。

 走る痛みに咆哮を。直後に見据える小賢しい船の小人らへ追撃を。
 妖力が満ちる――波動の一撃、いや三撃が船を捉えて――
「かっかっか、船が壊されればお終い。何とも綱渡りじゃなぁ!」
「ぶっはっは! だがそうはさせねぇのが俺らの役目だよなぁ!」
 されど瑞鬼とゴリョウがその対策へと突き走る。瑞鬼は船の左舷から一体を見据え、ゴリョウは己が大鎧による駆動を駆使しながら海中より、海坊主の背後へと。
 共に狙うは奴らの目を逸らす事。三者の攻撃を一つでも多く逸らし、船を護る事。
「よう、デカブツ! ちょいと俺と遊ぼうや!」
「船にばかり気を取られれば、それが命取りであると教えて進ぜようでござる!」
 到達せしゴリョウは、同じく海中へと潜っていた咲耶と共に。
 放つ攻撃――背に直撃するソレらは海坊主の気を後ろへと向かせるものだ。
 代わりに。前に放たれる筈だった妖力が後ろを向き二人を包む。身を痺れさせるかのような――強大な衝撃波が襲い掛かって来る、が。
「効かねぇな……! その程度じゃぁよ!」
 己に宿した聖なる加護がゴリョウの身を護る。
 この程度で砕けるものか。ああまだまだ遊ぼうじゃないか海坊主よ!
「さぁ――海を荒らす怪異など退治させてもらおうかの!」
 そして船の方でも。瑞鬼の一撃が海坊主の一体を襲う。
 それは黄泉返しの秘儀。常世と幽世。その境界を操る鬼の技。
 遍く総てを幽世へ――一切合切の何もかもを『送らん』とするそれに危機を抱けば、敵意の目は瑞鬼を見るモノ。
「かっかっか! 来るぞウィズィ、操舵はしかと任せたッ!」
「ああ全く! あっちからもこっちからも――荒波みたいなもんねこれは!」
 僅かにズレる狙いが隙間を作る。波動ではなく腕を振りかぶっての一撃であれば尚更に。
 そこへ飛び込むウィズィの舵がダメージを減らすのだ。
 ほんの微かな間違いが甚大な被害を齎すかもしれぬこの瀬戸際の感覚――ああ全く、腕の見せ所というヤツか!
「よしっ! ならまずはあっちの奴から一気に落とすぞ! おらおらおら――! しずめ――っ! アザラシの力をみやがれこんちくしょ――!!」
 そして注意を寄せていない海坊主の一体へと集中攻撃を重ねるのが、ワモンだ。
 秘薬を呑んで元気全開。身体能力の強化を施しながら『アシカじゃねぇからな! 間違えんなよ!』と膂力をも全開。まずは海坊主の包囲を崩さんと、その攻勢を強めていく。
 どれだけ巨大であろうと生物であれば倒せる。不死の属性などこいつらにはないのだから。
「ならば――先ずは数を減らし、此方に趨勢を傾けさせる!」
 故に轟かせよう。己が武威を。己らが力を。
 船を寄せたベネディクトが掲げる槍は海坊主への身へと届き。
 その囲いを食い破る――黒狼の意思がここに在ったのだ。


 戦場を斬り裂く槍の一閃は海坊主の身を更に抉る。
 イレギュラーズ達の戦術は三体の内の一体に集中し、他二体をゴリョウらで引きよせ倒していく……そういうモノだ。船に纏まり迎撃する形では狙いが絞られ被害が増えよう――ともすれば足場の消滅が先かもしれぬ。
「そーなる前に三体ともぶっとばしちゃおうぜ!! ふぁいあッ――!!」
「巨体であればこその死角もあろう――参るッ!」
 故にワモンの殴打と咲耶の暗技が海坊主のあちらこちらへと。
 巨大な体から繰り出される攻撃は脅威だが、大きな的でもある。
 ならばそんなモノは幾らでも刺し所のある砂山に過ぎぬ!
『――!!』
 抉り抉り心の臓へと届かせる。臓腑を斬り裂き命を奪おう。
 死間際に放ってきた妖力の波動がワモン達を包む――が。
「おっとっと! だけどよ、へっ! この程度で沈むオイラじゃねーぜ!!」
 意気は死なず。ワモンが背負うガトリングの銃口が新たな海坊主の方へと向いて――その銃身を回す。
 一体倒せば後は二体。元より数の上では勝っているのだ――このまま押し切る!
「小金井、いざとなれば俺の事は気にせず相手を攻撃してくれ。戦いが終わらん限り、危険も続くからな!」
 だからこそベネディクトは再び船の操艦を。向かう先にはもう一体の海坊主。
 被害など元よりある程度は承知の上。無傷での勝利などあり得ないと。
「ええ――承知しました。しかしご無理はさせぬよう、立ち回りますよ!」
 そして正純は近付けば見上げる。こちらの海坊主もまた同様に巨大だ。
 下は見ない。もしかすれば落ちるかもしれないから。
 ただただ戦意と共に見据えるは天のみ。振り上げられた拳の行き先は、ああこちらか?
「月も星も出ている夜。
 私にとって絶好であり絶不の環境――せいぜい気張らせていただきます」
 故、なら、ば。
 構えた弓の行き先は敵の肩。付け根たるそこを穿ちて攻撃の意を削がん。
 指先に、弦が弾けた感覚が残り。
 月光を浴びて紡がれる一閃は拳より早く。
 ――妖の肉を解き穿つ。
『――■■■!!』
 人に理解出来ぬ声が海坊主の喉から発せられ。
 千切れかける腕。それでも振り下ろされる一撃は船を逸れて海を叩き割り。
 衝撃が皆を襲う。
 激しい。成程、これを只の船が受ければ転覆もしよう――ああ煙草でも持ってこれればよかっただろうかと、正純は水飛沫を頬に浴びながら思考して。
「こっちを向いておらんのならやりたい放題じゃな! それ、おぬしの敵はこちらにもおるぞ!」
 そこへ瑞鬼が踏み込んだ。
 痛みに気を取られた海坊主の横っ面を殴る様に。放つ陰気が生と死を流転させる――
「濡れるのは嫌なのじゃ。はよう仕舞いにさせてもらおうか」
 体内、炸裂。
 闇夜の中に新たな闇夜が。包むそれは生を終わらせ閉じ込める。
 海坊主の嘆き。或いは咆哮が天をつんざき――また一体、海の底へと沈む様に倒れて。
 ――あと一体!
『■■!! ■■■■■――!!』
 されば仲間を倒された事に憤慨したのか、強烈なる抵抗を見せてくる。
 海を揺らす妖力の波動。次こそ逃さぬ沈めてくれるとばかりに。
 見えぬ奔流が船を包む――
「当たらないっつってんでしょ――がッ!」
 されど。それでも。
 ウィズィの心は最後まで油断せぬ。
 船の進路をまっすぐ海坊主へ。最早ここまで来れば後はあやつを倒す事が優先であり――波動の被害を減らす意味でもその懐に飛び込んだ方が良いと判断したのだ。
 撒き散らされる波動。急速前進する船の上を掠める様に薙がれて往く。
 決して手放さぬ舵の行く末。見据える瞳には――明日を映して。
「しゃあ! 行くぞ、こんだけ図体がデカいんだ。
 きっちりと急所を狙わねーと、蚊が刺した程度になっちまう!」
 そして再び跳ぶ升麻。狙う先は肩や膝の関節、あるいは首か腰の裏側から贓物か。
 いずれにせよ人体にとっての急所。致命傷と成り得る箇所を的確に『視て』いるのだ。巨体に応じた体力はあろう。無駄なる一撃は敵の反撃を許し、それがこちらの災いを招く可能性があるのなら――無駄は撃てぬ!
 裂く。紡がれる斬撃は再び高速に。
 ベネディクト達も到達すれば更なる撃も重なるものだ。投擲の一閃が闇夜を穿ち、正純の弓が紡がれて。
 ワモンの射撃。影より至る咲耶の一撃。瑞鬼の術――全てが最後の海坊主へと集中。
「おうここまでだな! 海の連中に迷惑かけた自分の行いを呪いな!!」
 そこへゴリョウの打も加わる。事此処に至ればもはや引き付けの為の一撃は必要ない。
 見ている不快の一撃よりも確かなる剛打を。
 自らの意思を力に籠める。膂力へと変換されしソレは腕を膨張させるかの如く。
 水面の上に大青鎧は駆動し。
 水面を地と見定めて――海坊主の全身を揺らがせる一撃を。

 轟音。

 確実に仕留めんとする撃の激しさは正に絶大。海坊主の身体が『くの字』に曲がりて。
「これは今まで沈められた者達の怒りと知れ! 天罰・覿面! ぜぇぇぇえい!!」
 そこを咲耶が逃さない。
 お主は今まで船を沈めてきた。今宵は貴様を此方が沈めてやろう。
 怒りを、報いを受けるがいいと。慈悲の存在せぬ無形の型が狙うのは――首。
 滅びよ海坊主。滅びよ海の怪異よ!
「所詮坊主如きに私達の邪魔が出来る訳がない――っていう事!」
 崩れ往く海坊主。その最後の一打を紡ぐのは、ウィズィ。
 彼女の意思を常に前へと向かせていたのは己が愛し人への想い。
 彼女と紡いだここまでの全てが――海坊主を。何もかもを凌駕していたから。

「これが、私の! 恋の力だ!」

 だから心が燃え盛る。数多の記憶が薪となり彼女を奮い立たせて。
 巨大な刃と姿を変える。
 さぁこれが私の恋心。何者にも邪魔をさせぬ――あらゆる障害を踏破する強さの源!
 ――斬撃一閃。
 海諸本も斬り裂かんとする一撃で――怪異を叩き割ってやった。


 海坊主が滅びれば海は再び静寂を取り戻す。
 荒波が如き一幕は終わり、取り戻した静けさからは先程までの戦闘が嘘の様で。
「やれやれ……しっかし最近船と縁があるのう。わしも船を用意した方がいいか?」
 煙管を手に煙を揺蕩せ、瑞鬼は静かに呟いた。
 豊穣は四方海の地。
 またこのような機会もあるだろうかと思案しながら。
「ま、とりあえずはこのまま帰還するとするかね! どうよ。さっき海潜ってた時にふと自然と掴んでたんだが――この魚、新鮮だぜ! 村で米でも貰って寿司でもするか!」
 魚の尾付近を掴んで船に上がって来るゴリョウ。お疲れさんという区切りは重要であり、なにより料理なら任せておけという分野である。
 海坊主が消えればまたこのように漁を再開する事が出来よう。
 だから。
「これでもうこの辺りの海は静かになるだろう……安らかに眠ってくれ」
 ベネディクトは紡ぐ。海坊主によりこの海に散った、者達に。
 安らかなれと安寧の言葉を。
 心の底より――願いながら。

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 豊穣には様々な妖怪が存在します。この海坊主もその一体……
 皆さんのおかげでこの海域はまた平穏を取り戻す事でしょう。

 ありがとうございました!

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