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シナリオ詳細

再現性東京2010:みぃつけた。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 8月。希望ヶ浜学園も夏休みに突入だ。学生は宿題をたんまり持ち帰っており早々に消化する者もいれば新学期直前に慌てて取り組み始める者もいることだろう。遊ぶ他にもバイトをしたり補講を受けに登校したりとすることは多い。昼間から若者が街へ繰り出す時期であった。
『なーあれいつ行く?』
『いつでも空いてるよー』
『今週末どうよ』
 SNSがポコポコと通知を飛ばす。美玲は『私もいつでも』と送り、友人たちの反応を眺めていた。皆aPhoneには慣れており、自分の発言はすぐ流れて見えなくなってしまう。あっという間に今週末の夜決行となった予定をカレンダーに書き込むと、美玲はベッドへ転がった。
 手際よくとあるサイトを開けば、そこには希望ヶ浜の心霊スポットが並んでいる。顔も知らない誰かがまとめたサイトのようだが、その編集はそのうち止まってしまっていた。
 新規スポットが見つからなかったのか、それとも編集者は既に──。
(やめよう)
 サイトを閉じて目を瞑る。考え始めるとキリがないことだと、代わりにこの夏の予定や積み上がった宿題へ意識を向けた。
 本当に何か起こるわけがない。お化け屋敷と一緒なのだ。

「みーれーい! こっちこっち」
「ごめん、遅くなった」
 大きく手を振る友の元へ駆け寄ると、一緒に待っていた男子が「揃ったな」と頷く。誰も彼もが私服だから、普段の制服姿を知っている身としては新鮮だ。
「今日行くの、写真を撮ると人が消えるんだっけ?」
「そうそう」
「実際に消えた話なんて聞かないけどな」
 集まった人数はこうして見ると多く、たとえ幽霊がいても逃げてしまいそうな賑やかさだ。
 だよねと相槌を返しながら美玲たち女子も男子についていく。踏み込んだ廃校は静まり返り、どこか埃っぽい。
「屋上ってどこからだ」
「あ、そこに階段」
「行ってみようぜ」
 土足で学校の廊下を進むなんて、普段じゃできない。少しばかりワクワクしたものを感じながら、一同は屋上に続く階段を上がった。扉には鍵がかけられるようだったが、鍵自体はかけられておらず簡単に開く。
「天気良くてよかったなぁ」
「ね〜。星見えんじゃん」
「手すり落ちそうだから気をつけてね」
 屋上からの景色にひと時の盛り上がりを見せる一同だが、目的を忘れているわけではない。さあよったよったと声をかけ、自撮り棒でaPhoneを固定するとその場の全員が映るようにカメラを向ける。
「はい、いくよー」

 カシャッ

 シャッター音に密着を解く一同。皆で画面を覗き込めば、楽しそうな夏の1枚が写っていた。
「全員いるじゃーん」
「迷信かー」
「帰ろ帰ろ」
 残念、と肩を竦めながらバラバラと校舎の中へ入っていく。美玲もまた残念なような、ホッとしたような気持ちで屋上を後にした。廃校を出て街の明かりに安堵して、帰路の途中で友人とも別れていく。程なくしてポロン、という通知音が鳴った。
(? ……あ、さっきの)
 開いてみれば、グループチャットに写真が投稿されている。1人1人の顔を見ながらくすりと笑っていた矢先、美玲はあることに気がついてギョッとした。
「……嘘」
 最初に見た時は確かに居たはずだ。だというのに再度眺めた今、発案者である男子の姿がない。そこには確かに居たであろう証拠に、人ひとりぶんだけの空きがある。
 悪寒を感じた美玲は思わず走って帰宅し、チャットに『皆帰れた?』とメッセージを送って──。

 ──彼からのメッセージは返ってこなかった。

GMコメント

●成功条件
 悪性怪異ヨルの退治

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。嘘はありませんが不明点もあります。

●悪性怪異『屋上の怪』
 街はずれの廃校屋上にて、写真を撮ることで発生します。その瞬間には登場しませんが、写真からターゲットの姿を消した直後に現れます。人気の有無は関係ありませんが、写真に写っていない人間がいる時は姿を現しません。
 泥をスライムにしたようなそれは「みぃつけた」と呟くなりターゲットへ襲いかかるようです。対象を飲み込んだ直後、姿を消します。
 命中と特殊抵抗に長けています。素早くはありません。

分離:体を分裂させて小さなスライムを複数発生させます。不思議なことに体積は変わらないようです。スライムは自律行動します。

●発生方法
 この依頼を受けたイレギュラーズは、廃校の屋上で揃って写真を撮ってください。その後は自由ですが、依頼達成するならば8人でまとまっていることが望ましいでしょう。
 時間差でエンカウントします。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●ご挨拶
 愁と申します。心霊スポットの季節ですね。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 再現性東京2010:みぃつけた。完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月20日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー

リプレイ


「やってきました学校の怪談! ……じゃなくて怪異討伐!」
 初っ端からテンション高く廃校へやってきた『特異運命座標』秋野 雪見(p3p008507)の言葉に『レッド・ドラマー』眞田(p3p008414)は懐かしいなぁと目を細める。心霊スポットを訪れる、いわゆる肝試しと言うやつは彼も高校生であった頃に体験したものだ。
「でも実際に狙われたら洒落にならないんだよね……」
 もしも自分が狙われたら、と想像した眞田はぶるっと体を震わせた。こういうものは出ないと知りながら不気味さを感じるのが楽しく面白いのである。本当に起こったら普通に怖い。
 そんな感覚が強い者が、再現性東京に逃げ込む──いや、足を運ぶのかもしれない。
「人間消失奇術のようでは御座いますが、本当に消えてしまうのでは奇術になりませんね」
「うん……飲み込まれた人はどこに行っちゃうんだろう?」
 肩を竦める『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。疑問を零したのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。出来ることなら助けたいが、その行方も知れない状況である。
「流石に望みは薄いけど、せめてこれ以上被害が出ないように倒さないと」
「ええ。あたしも教師として関わっている以上、手は抜けない」
 『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)と『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)に一同は頷き、いざ屋上へと歩き始める。廃校にもはや電気の類は通っていないようだが、幻の持つカンテラとサイバーゴーグルをつけた『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の補助で一同は迷うことなく屋上への階段を上がった。
 キィィ、と音を立てて屋上の扉が開かれる。比較的広いそこは、しかしよくよく見れば所々傷んでいることが察せられた。
「まずは皆で写真を撮らないとね。再現するなら楽しそうな方が良いかな?」
「俺の時は楽しく撮ってたよ」
 眞田が高校生頃の記憶を掘り返せば、ムスティスラーフは「じゃあそうしよう」と頷く。『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は先にSNSへ投稿するためのタグを書き込んでいるようだ。
「えーっと、廃校探索……肝試し、あとは……心霊画像?」
 こんなもんかな、とリアナルは顔を上げる。最初の写真は誰かが消えてしまうだろうし、全て終わったらこのaPhoneでも撮らせてもらおう。
 全員がカメラへ収まるように体を寄せて、数度カメラのシャッター音が響く。その音を聞きながら竜胆はふと思いを巡らせた。
(写真を撮ると魂を抜かれるって話もあったわね)
 そんなものは迷信だととっくに知られているだろうが、物理的に飲み込まれるとは誰も予想していなかっただろう。再現性東京の住人はそんな可能性すら考えようとしないし、考えたとてあるわけがないと認識しているのだから。
「とりあえず、皆のaPhoneに送信を……」
 リアは手慣れた様子でaPhoneを操作し、皆へ今しがたの写真を共有する。眞田は不思議そうにその姿を眺めていたが、ふと視線が合った。
「……結構すんなり使えるなって思いました?」
「え? あ、まあ。この世界の人だよね?」
 練達が特異なだけで、彼からしてみれば混沌は二次元に出てくるファンタジー世界のようなもの。このような文明の利器も出回ってはいないはずだ。
 彼の問いかけにリアは小さく肩を竦め、希望ヶ浜の学生に教えてもらったのだと告げた。彼らはイレギュラーズが再現性東京の外から来た者だと知っている。そのためか、誰も彼もが寄って集まって教えたがりなのだ。もしかしたらリアの雰囲気や気質がそうさせるのかもしれない。それに。
「……ホントもう、面倒な奴らよ」
 そう告げるリアの表情は、言葉の裏に隠れた思いを表すかのようだった。
「記念写真にゃー♪」
「これけっこうイケてない?」
 雪見とムスティスラーフは送られてきた写真を見て盛り上がるが、それも一時のこと。一同は周囲と写真に注意を払いながら、一刻も早くと廃校のグラウンドへ降りていく。アレクシアは持ってきていたランプに火を灯し、少しでも明るくなるようにグラウンドへ置いた。円陣を組むように陣取り、イレギュラーズたちは仲間の背後を警戒する。
(隠れんぼで俺に挑むのか! って思って勝つ気満々で来たけど、幽霊相手に勝てるかな〜)
 眞田は送られてきた写真を見下ろす。ほとんどが初めましてのメンバーではあるが、これだけを見れば仲良し同士で残した青春の1ページだ。
 耳を澄ませる一同だが、その時間も長ければ苦痛とも感じるだろう。リアもクオリアでヨルの旋律が聞こえないかと耳を澄ませるが、入ってくるのは仲間たちの緊張を乗せた旋律ばかり。
 ──その緊張に引かれてだろうか? 小さく頭が頭を訴えたような気がした。
「まだ来ないようですね」
「そうね……あ、」
 幻に答えた竜胆が小さく声を上げる。皆が視線を写真へ落とすと同時、常にそちらを見ていたリアナルが叫んだ。
「幻殿!」
 写真から消えていく幻の姿。その瞬間、背後に気配を感じた。

「──みぃつけた」

 その声と同時、隣にいた眞田は剣を振るう。口のように開いた場所へそれは叩き込まれ、ソレはぬるりと後退した。その全体を見ると同時、眞田は顔をしかめる。現れたのはスライムといえばスライムだが、泥を纏ったような姿は醜い──というか、ただただ汚い。
「人間消失奇術のタネは夜妖……もっと面白いタネを用意して頂きたいもので御座いますね」
 ショーを始めようと言わんばかりに一礼する幻が魅せるのは本物の奇術。それよりも先に眞田が率先して突っ込んでいく。
「隠れんぼで言えばゲーオーバーなんだけど、俺負けず嫌いだから」
 負けを認めて飲み込まれますとは言えない。何をしてても勝つのだと眞田はその背後へ回り込んだ。リアナルの支援を受けたムスティスラーフは大きく息を吸い込み、緑の閃光でソレ本体を飲み込んだ。
「仲間を飲み込ませないよ!」
 アレクシアは幻を庇うように立ちはだかり、ソレを真っ直ぐに見据える。そんな彼女を守るようにリアは聖躰降臨をかけた。
(これ以上の被害は出させないわ!)
 教え子となる学生たちにはもちろん、仲間たちだって守る。その意思を込めるように、リアは耳障りな旋律を響かせるソレを睨みつける。
 不意にソレがぶるぶると震えだした。何かと思うよりも先にソレは外へと液体を吐き出し、液体は地面に吸収されずに凝固する。
「お出ましね」
 竜胆は小さなスライムたちの注意を引きつけ、守りに集中する。1人を狙ってくれていれば、その他の仲間はより攻撃に集中しやすくなるのだから。
 アレクシアがより多くを庇えるとはいえ、人数としては1人きり。彼女が飲み込まれたら突破されてしまうと雪見もまた盾役へ躍り出る。そして竜胆の思惑通り、スライムたちに邪魔されることなく幻が動いた。
「夜妖に愛しい人はいるのでしょうか」
 楽しみでございますね──眼前まで肉薄した幻は奇術を見せ、瞬く間に離れていく。遠く遠く、ヨルでも届かない場所まで。
 リアナルはちらりとaPhoneへ視線をくれたが、相変わらず写真に眞田の姿はない。まだ彼を狙っているということなのか、それとも後になれば変わるのか。もしくはヨルにも『消した者を飲み込まなければならない』などという制約があるのか。
 いずれであるのかわからないが──ソレは不満そうにぶるんと体を揺らした。

 広いところまで急ぎ出たこともあり、イレギュラーズに場所での縛りは発生しない。スライムたちを一手に集められたことも順調と言うべきだろう。
「優位なポジションを取るのが勝利の秘訣! ここテストに出るからにゃ!」
 弱点を突くように雪見が刃を振るい、ソレの一部を裂いていく。落ちた──というよりはわざと思い切り落とした液体が周囲のイレギュラーズへと被弾し、置かれていたランプを破壊し、のちにスライムに変わるが竜胆が仲間への接触を許さない。竜胆へと引きつけられなかったスライムは幻の奇術とともに青い蝶が群がっていく。
 分離したスライムたちは異常状態への耐性はないものの、攻撃の的格さは本体と近いものを持つらしい。それらの攻撃を受けながら、竜胆は倒れるものかと歯をくいしばる。
(これ以上、思うようにはさせない!)
 運命の欠片が彼女を取り巻くように輝き、直後ムスティスラーフの放つ雷撃に合わせて魔法のヴァイオリンが優しい旋律を奏でた。
「あんま、心配かけさせないでくださいよ」
 その奏者であるリアは竜胆の傷を癒しながら周囲を見る。次に癒すべきは誰か、それとも攻撃へ転じるべきかと判断するように。
(攻撃を受けないようにしないとね)
 イレギュラーズとしては並であると考える眞田は、しかし瞬発力にはそこそこの自負がある。スライムを撒く行為はこちらにとって攻撃ともなるようだが、近くで躱しきれないのならヨルから届かないくらい離れれば良い。彼は一撃与えるごとに距離を取り、再び攻撃のために近づいていく。
 それは幻もまた同様で、彼女が遠くへ引けばアレクシアもそれを追いかけ始める。そしてその後にヨルが。動き出しの順は同時に瞬発力の順だ。一時引き離されるヨルをじっくりとアレクシアは眺める。
(これまで飲み込まれた人はどこに? まだその中にいるの?)
 未知であろうそれは、未知のままあり続けようとでも言うのかアレクシアへその実態を知らせない。被害者たちの行方も、また。

 本体への猛攻は続き、その間も幻の動きに合わせるようにアレクシアは彼女を庇わんと追いかけた。本体が動けば一同も合わせて動き、竜胆の引きつけるスライムはムスティスラーフが一掃する。まさに広い場所でなければ成せなかった作戦であろう。

 リアナルの言葉は言霊となり、仲間たちを鼓舞する。続けざま彼女はムスティスラーフへ特別支援を送った。
 ムスティスラーフそれを受け、手をかざすと再び雷撃の鞭を作り出す。味方を避けるそれはスライムやヨルだけを飲み込み、うねった。続けざまに竜胆の起こした暴風がスライムを巻き上げ、無に返していく。
「あとは本体だけだよ!」
 英霊の魂、その生き様を体現せしアレクシアが徹底的に防御しながら叫ぶ。ヨルはなおも幻を狙って顎を開けていたが、仲間をみすみすくれてやるものかと彼女が体を張っていたのだ。身の内に宿る運命力を燃やそうとも、そこは引けない思いである。
 同時に被害者もいれば引きずり出せないか──そう考えていたアレクシアだが、被害者の姿はヨルの口と思しき中にも、分離したスライムの中にも見当たらなかった。吸収されてしまったのか、どこかへ連れ去られてしまったのかまでは判断できないが、ここにいないことだけは確かだ。
 ヨルは早く飲み込んでしまおうとでも言うように口のような場所を開ける。ドロドロと液体の落ちていくそこに、リアがすかさず旋律の魔法を発動させた。彼女の周囲を五線譜が取り巻き、旋律を描き奏でていく。
「既に犠牲者を出しやがったこのクソ野郎……この手でぶちのめさないと気が済まないわ!」
 リアの英雄幻想が形なきモノに形を与える。おどろおどろしい姿へ身をやつした外なる邪神は、まるで魔物には魔物をと言わんばかり。
 それは今まさにアレクシアごと幻を飲み込まんとしていたヨルの口目掛けて、勢いよく突っ込んでいったのだった。



 本体が力尽きると、途端にその体を形成していたものは泥のようになって崩れていく。グラウンドの地面に沈み込んでしまうのが先か、掃除屋が痕跡を消すのが先か。いずれにせよ大元がなくなったことで危険性は失われたとみて良さそうだ。
「飲み込まれた人たちは……」
「見当たらない、ね」
 竜胆の言葉にアレクシアが辺りを見回すが、どこにも現れていない。もちろん崩れ去ったスライムたちの元にもだ。
「諦めるのはまだ早いよ。捜してみよう」
 ムスティスラーフの言葉に皆が頷き、いくつかのグループに分かれてこれまでの犠牲者を捜す。けれどもその結果は屋上に集まった皆の様子が物語っていた。
(奇術は人を驚かせ、喜ばせるためのもの)
 幻はそっと視線を伏せる。用意してあるタネも仕掛けも、見てくれる人がいなければ見せどころがないのだ。
「けれど、もう彼らが変な噂に釣られて被害に遭う事はないですね……」
 リアの言葉に思わず視線が集中し、彼女は誤魔化すようにふいとそっぽを向く。別に心霊スポットへ訪れる子供たちを心配していたわけではない。ここで依頼をこなさねば明日に響くのだ。非常勤とは言えど朝早くから出勤する時はするのだから。
「あとのことは掃除屋が何とかしてくれるとして……心霊写真はあげられないから、改めて写真を撮らないか?」
 リアナルがaPhoneを軽く振る。先ほどの写真はヨルのせいで人が消えてしまったが、もう消えることはないだろう。
 最初のように集まって、今度こそ皆の揃った写真を撮る。SNSにアップされたそれに、気づく人は気づくだろうし、気づかない人は心霊だと叫ぶかもしれない。そんな悪戯を残した写真は、今後増えていくだろう。

成否

成功

MVP

リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

状態異常

九重 竜胆(p3p002735)[重傷]
青花の寄辺

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 今後、ここはただの心霊スポットとなるでしょう。リアナルさんのような悪戯をする人も、きっと増えますね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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