シナリオ詳細
ザ・フライングオムレツ
オープニング
●読む飯テロ
ご想像いただきたい。カンカンに熱したフライパンに混ぜた卵を流し込む瞬間。
油と混ざってじゅわあと鳴く卵を菜箸で&(アンパサンド)マークを描いて小さな塊をランダムに作るとそう待たずにフライパンを傾けてアーモンド型にまとめると、少しばかり残した卵を更に引いてから膜状にしてぱったんと閉じる。
まだ固まりきらないうちに火を止め、大皿をかぶせるように構えるとくるんとフライパンごと上下反転。
できあがった鮮やかなイエローカラーのオムレツにうっすらと包丁を通したなら、とろりと広がるふわふわ。
以上が一般的なふわとろオムレツの作り方であるが……。
「フライングオムレツの旬なのです!」
ビッて親指を立てて、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が牧場の屋根で虫取り網をぶんまわしていた。
「この地域では、オムレツは――飛ぶものなのです!!」
イレギュラーズ諸兄のなかに混沌食材学に詳しいかたはおられようか。
もし詳しいなら知っているだろう。鉄帝北部の夏には渡りオムレツが通り過ぎることを。
産卵のために北から南へと群れで飛ぶ渡りオムレツもとい『フライングオムレツ』はこの地方の民にとってのソウルフードである。
毎年夏の梅雨明けごろになれば家の屋根に登ってオムレツとり網を振り回した少年時代もあったことだろう。
「地元では古くからご家庭の屋根に登ってフライングオムレツをとるというイベントがお正月や節分的なアレとして毎年行われているのです。
特にプロとかそういう人はいないのですが、少しやれば大体コツはつかめるらしいので、もしオムレツとり未経験の方でも安心なのです!」
今回はそんなフライングオムレツを……。
「文化研究の権威ヨクシール・ミテクル博士からの依頼で、実際にボクたちが体験しているところを観察したいそうなのです」
ユリーカは地元で売ってる大型虫取り編みに似たオムレツとり網を構え、『やってやるでーす!』て言いながらダッシュジャンプした。
そして思い出して欲しい。
彼女が立っていたのが、牧場の屋根であったことを。
さて、話をまとめよう。
「飛ぶのすらわすれていたのです」
腕ギプスをつるしたユリーカがハイライトの消えた目で説明することにゃあ、協力してくれた農夫さんから農場を借りて、きょう一日フライングオムレツとりをするのが依頼内容であるという。
「基本は高いところに登って飛んできたオムレツをえいってするのですが、オムレツをおびき寄せてからえいってやるのも主流のひとつなのです」
フライングオムレツは『楽しい気分』につられて寄ってくる習性があるらしい。
なので地元民のとくにオッサン世代には酒とつまみ用意して昼間っから飲んだくれることで寄ってきたオムレツをとってさらなるつまみにするというのがセオリーである。
「オムレツは独自の衛生魔法で包まれていて地面や網にふれたりしても汚れることなくいただけるそうなのです。ですので好きな方法でつかまえてください!」
ビッて親指を立てるユリーカ。
「楽しんできてくださいね――ボクのかわりに!!!!」
- ザ・フライングオムレツ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年08月08日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●呼んでるうちに徐々に慣れていくイレギュラーズ
「ふらいんぐ……おむ……れつ……?」
「野生の……おむ……?」
紫月・灰人(p3p001126)と『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)の背景が大宇宙だった。
みんなも電話とかかかってきて開口一番『オムレツが空を飛んでるの』って言われたらこんな顔するとおもう。ひとによっては有給休暇をあげたりお布団に行くように促すとおもう。とくにいま夏だし。
しかし混沌世界にだいぶ慣れた面々は、この事態をわりと柔軟に受け止めていた。
「なるほどなあ。ぶははっ! 俺もオムレツは何度も作ってきたが、天然物は初めてみたぜ。相変わらず混沌ってやつは混沌としてるねぇ」
愛用の折りたたみ式フライパンを組み立てながら豪快にわらう『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)に至ってはバスケットに入れたティーセット用テーブルを組み立てながら目の光を消していた。
「ああ、ああ、はい、はい、フライングオムレツね? 完全に理解したのだわ?
そっかぁ……もうそんな時期かあ……時間が経つのって早いのだわぁ……」
「空を飛ぶオムレツがいるなんて、世界は広いね!」
『甘いかおり』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)もこの状況をとりあえず受け入れて、そういうもんだと理解したらしい。
「色んな種類のオムレツがあるなら、フルーツが入った甘いデザートオムレツとかもいるのかな? いるならぜひとも捕まえてみたいね!」
「そうかもしれないのだわ? たのしみなのだわー」
会話が成立する程度には理解が及んでいる彼女たちである。
その一方、なじむ以前に元から適性のあった者たちもいた。
「もはや驚くことすらなくなってしまって、混沌に染められているのを実感してしまうな。
それにしても、オムレツとかが空を飛ぶならフライングスフレチーズケーキとかフライングチョコレートパフェとかも出てきてくれれば嬉しいのだが……」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が肩とか頭とか腕とかににゃんたまのっけてもにもにしながら遠くを見た。
「わかんないけど、あるんじゃない? フライング照り焼きチキンとかフライングハンバーグとかフライングクレープとかさ」
『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)はぼんやーり遠い世界を見つめていた。遠い世界っていうか別の世界かもしれない。
「おにーさんも昔は何度も空飛ぶ食べ物を……いや何でもない」
で。なじむ以前に最初からどうかしてるイレギュラーズの姿が、コレだァ――。
「教会の雑務から解放してくれた上お酒を飲んでオムレツを食べるだけで報酬がもらえるだなんてローレットには感謝感激酒池肉林ですわねこんな休日はハイソで清楚な私にぴったりでございまごぼぼぼぼぼぼぼぼ」
頭から酒樽に突っ込んだ足をびったんびったんする『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
これどうするのって顔で見てる仲間達をよそに樽が音をたてて倒れ、坂道を転がっていく。
「お゛あ゛ぁあああああああああああああああああああ!?」
遠ざかる反響した悲鳴。その上を飛んでいくオムレツ。
今日もローレットは平和らしい。
●楽しい時間は早く過ぎるもの
「お茶会するひとこの指とーまれ☆」
「ごーざる☆」
広い草原の真ん中に立てた指。ミルキィに至東たちがぴょんととびついていった。
華蓮は丸めて持ち込んでいたチェック柄のシートを広げ、仲間達の無邪気な様子にくすくすと笑いながらもピックを土に刺していく。
その作業を手伝いながら、灰人はふと空を見上げた。
今も沢山のオムレツが空をゆき、時にたわむれるように交差している。
組み立てたテーブルの上にティーソーサーやカップを並べ、華蓮は早速ポットを火にかけた。
「皆でお茶会なんてとっても楽しいに決まっているのだもの、きっと上手くいくのだわ♪」
「今日はお菓子をご馳走になれる日だもんね。楽しみだなー」
ミルキィはシートにうえに腰を下ろすと、はやくはやくとスプーンを手に取った。
「おう、任せとけ!」
ゴリョウはエプロンとコック帽をかぶり、火にかけていたフライパンにフライ返しを差し込んでいた。上手に板上を整えると、腕と手首の動きで上手にパンケーキをひっくり返してみせる。
「今日はパンケーキ!?」
「でござる!?」
フォークとナイフを両手に握ってシャッて振り向くミルキィと至東。
ゴリョウはぶははと笑ってパンケーキをお皿へ四段重ねにしてから、蜂蜜の瓶を真上で傾けた。
しみこむよりも早く溢れ、広がる蜜。淵を越えた蜜が垂れ下がり、下のパンケーキをしっとりとぬらしていく。
「もちろんこれだけじゃねえ」
隣のコンロでは蒸し器が湯気をたて、ちょうど醸成が済んだあつあつのチーズスフレケーキが顔をだした。
「スフレなのだわ! あっ、でも同じ蒸し器が三つ……てことは……」
華蓮はわくわくに目を開き、ゴリョウは歯を見せて笑った。
じゃじゃーん! と声をかけながら蓋を開くと、プレーンスフレにチョコレートスフレがお目見えした。
「なんと。オムレツだけでなくスイーツまで食べられるとは」
ゲオルグは感無量って顔をして、千切ったパンケーキをにゃんたまにもちもち食わせていた。たぶんだけのこのにゃんたまはタマネギもチョコも問題なく食える生物だとおもう。
そうこうしていると、ミルキィが早速温まったお湯で自慢のフレーバーティーをいれはじめた。
「今日の茶葉はとっておきだよ。華蓮ちゃんに持ってきてもらったんだ」
ウキウキ気分が伝わってくるほどの笑顔でお茶をカップに注ぎ込む。
華蓮たちはカップを手に取り、華やかな香りにうっとりとした。
「楽しい時間だけど……そろそろおにーさん、こっちの仕事もしないとね」
ヴォルペはすっくと立ち上がり、適当な台の上に立った。
とつぜんおりるスポットライト。
顔のいい男(ヴォルペ)がふぁさあっと前髪をかきあげ、オムレツたちへと振り返った。
「美しい食器の上で愛らしくふるりと震えるその身でみんなのお腹を満たしてくれる素敵なオムレツちゃんは……誰かな?」
片眉をあげて微笑むヴォルペ。
その様子を、至東と灰人は若干遠くから眺めていた。
「何してるんだあれ」
「オムレツを口説いているのでござる」
「おむ……くど……」
「流石にオムレツ相手に顔の良さは通用するはずが――」
「あづあッ!?」
ヴォルペの顔面にあつあつのオムレツが抱きついた。
「「効いてる!?」」
至東は手刀でガッとオムレツをたたき落としてお皿に載せると、ヴォルペに『もっとくれ』のサインを出した。
赤くなった鼻をさすり、頷くヴォルペ。
「見ての通り、最高級のオムレツちゃんに似合う美しい場を用意したよ。この中で一番可愛い子だけが座れる席さ。ほら――おいで」
片腕を柔らかく受け止めるかのように広げてウィンクするヴォルペ――の顔に熱々オムレツ。
「あづあああああああ!?」
「その調子でござるヴォルペ殿!」
オムレツの首の後ろ(?)をガッてやって別の皿にとると、至東が『もっともっと』のサインを出してきた。
咳払いし、足下の花をつむヴォルペ。
「ふっくらと魅力的でとても美味しいと自負がある子はおいでおいで。おにーさんから祝福あげよう。そう――祝福の口づけあづああああああああああああ!?」
二本指で投げキスをするヴォルペの顔に熱オム。
「入れ食いでござるな!」
「なんでだ……」
「説明しますわ」
ころがってきた樽がひとりでに立ち上がり、蓋がぱかっと開いてヴァレーリヤが現れた。頭に蓋のっけた状態で。
「顔のいいヴォルペさんがオムレツを口説くことでヴォルペさんのいいところに向かってオムレツが飛ぶという現象がおきたのですわ」
「ほう……」
「なるほど……」
納得……したところで、ゲオルグがぽつりとつぶやいた。
「それは、『顔』しか良いところがないと言っているようなものではないか?」
「事実だからね☆」
顔にオムレツ貼り付けたヴォルペが横ピースで振り返った。
「さあ、そろそろ私も出撃しますわよ。私のいいところをフルに使ってオムレツをつかまうっぷ――!?」
樽からぬるぅって出来たヴァレーリヤが、口を押さえてそっぽをむいた。
「これはグルメ系の依頼。私、空気の読めるシスターですのよ」
「なんの話だ」
「おお、主よ。どうかこの悪魔に打ち勝つ力をお与え下さうっぷ――!?」
べろんべろんになったヴァレーリヤ。
幸せぽさを感じたのか、ふよふよ近づいてきたオムレツをゲオルグが手刀でたたき落とした。
釣られたことをさっして素早く逃げだそうとしたオムレツに、ゲオルグは助走をつけて跳躍。
シュオンと狼めいたもふもふなオーラを纏うと、風をあやつって飛行しはじめた。
「にがさん」
空へ飛び上がったオムレツを急上昇によって追尾し、空中で繰り出す手刀にオーラを載せて、離れたオムレツを撃墜した。
オムレツがヴァレーリヤの樽にぽんぽん入っていく。
「まあ! 大漁ですわ!」
ヴァレーリヤは懐から取り出したスキットルをキュッて親指で開くと、中身を飲み干しはじめた。
●スーパーオムライスタイム
「俺の!」
鎧ががしょがしょと展開し、全身を覆う武者鎧の姿をとった。
「出番が!」
かと思いきやいきなり鎧をパージして和風の割烹着と帽子を被った状態でゴリョウが現れた。
「またまた来たぜ!」
どこからともなく出してきたオカモチを開くと、そこにあるのはチキンライス。
それもケチャップ、鶏胸肉、米というきわめてシンプルかつ一般家庭的なスタイルのチキラである。
「こいつをどうするか……わかるか?」
「まさか……!」
「それを……!?」
灰人と至東が身を乗り出すなか、ゴリョウはニヤリと笑った。
「見てな、おまえの大好きなオムレツちゃんが変貌していく姿をなぁ!」
「言い方」
ゴリョウは流行のふわとろオムレツ(チーズイン)をチキンライスの上に無造作にドンと置くと、包丁でうっすらと線をいれた。
するとどうだろうか。
まるで紐をほどかれた乙女の衣服のごとくするりとひらいたオムライスの外皮が左右へ流れていき、ちょうどオムライスの内側と外側が入れ替わった状態へと変化した。
その下に包み込まれたのはもちろんチキンライス。
「どうだぁ? オムレツとして生まれたならオムライスになる誘惑はたまんねえだろう!?」
グワッと振り向くゴリョウ。
空を飛んでいたオムレツの一部が突如としてゴリョウの並べたチキンライスの上にばばばってとまってそわそわと包丁をいれられるのを待ち始めた。
あまりの効果にゴリョウが目を点にしていると、後ろからヴォルペがとんと肩を叩いた。
「モテモテだね、色男」
パチンとウィンクするヴォルペ。
その腕には彼に抱かれるのを待っているオムレツがそわそわしながら乗っていた。
なんだろうこの図。倒錯しきった夢女子小説かな。(オムレツに自分の名前を入力してください)
「わーい! オムライスだー!」
ミルキィは先割れスプーンを握りしめてばんざいした。
そこへ出されるオムライス。スプーンを入れればとろける卵部分がチキンライスへとしみこみ、ひとすくいすればそこに形成されるのはご飯とケチャップと肉と卵という小宇宙である。
口に含めばあら不思議、そっと伴走してきたチーズのまろやかさと相まって、深い満足感と安堵が身体を包むことだろう。
オムレツが包んでいたのはライスだったのか、それとも自分の心だったのか。
華蓮もお行儀良く手を合わせ、テーブルに置かれたオムレツに手をつけた。
「私としてはチーズ入りのオムレツが好きなのだわ! まずはこれだけいただくのだわ。えっと……」
ケチャップボトルに専用のペンキャップをつけ、オムレツの上に『レオン・ドーナツ・バルメロイ』ってケチャップ文字を書いていく。ハッとしてスプーンでぺちゃーって消していく華蓮。
「楽しくおいしく頂きます……なのだわー♪」
「さて、私もいただくとするか……」
ゲオルグもシートにあぐらをかき、膝ににゃんたまをこんもり載せた状態でオムレツの皿を手に取った。
選んだのチーズとソーセージが包まれたちょっとがっちりめのオムレツである。
とろとろ系と異なり食べたときのみちっとした歯ごたえや重みがあり、ソーセージの力も相まってその満足感は実質ステーキ肉であった。
「ううむ、いくつか持ち帰りたいところだな。ユリーカへのお土産にと……」
「それはい~い考えですわねぇ~!」
ヴァレーリヤが酒樽に放り込まれていたオムレツをトングでつかみ取り、豪快にがぶっと噛みちぎる。
「んん~……五臓六腑に染み渡る味がしますわ~」
「ってオイ! これワイン樽じゃねえか! このオムレツもほぼほぼワインじゃねえか!」
ワインにひたしたオムレツがおいしいのかどうか正直わからないが、ヴァレーリヤは両目をかっぴらいてうめえうめえって言いながら頬張っていた。
「ふふ、なんだか懐かしくて温かい味……。
これでますますお酒が進むというものでございますわー! 貴方も呑む? 遠慮しなくても良いんですのよ? 呑まないとどうなるか分かっていますわよね??」
って言いながら酒樽の襟首(?)を掴んでぐわんぐわんしていた。
『それは酒樽だ』って言って介抱しようとしたゴリョウが、そっと手をひっこめる。
「今日はステキな時間が送れたよ。アリガト」
ヴォルペ(全裸一歩手前。背景に薔薇)はオムレツにウィンクをした。
「一番可愛くて美しくて美味しそうな子はお持ち帰りしようかな。
飛ぶのを忘れた残念な看板美少女ちゃんのお見舞いくらいはしたいから、ね」
その瞬間、オムレツにハートのケチャップ文字が浮かんだという。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――おなかがすきましたね! 今からオムレツを焼いてきます!
GMコメント
■フライングオムレツ
以下のうちどちらかの(もしくは両方の)方法を使ってフライングオムレツをつかまえましょう。
・空を飛ぶオムレツに届くように高所へ飛んだり登ったりして巧みな機動でもってオムレツを捕まえる
・楽しい気分でもりあがって寄ってきたところをつかまえる
オムレツは網で捕まえるのが普通で、とらえてから手刀かなんかでガッてすると普通のオムレツになるそうです。
ちなみにオムレツの中身はプレーンタイプの他にチーズイン、挽肉イン、フィッシュインなどの亜種も一緒に飛んでおり、お好みのオムレツをお召し上がりいただけます。
リプレイは主に『つかまえる(おびき寄せる?)パート』と『食べるパート』に分かれる予定です。
おなかをすかせてご来場くださいませ。
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