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シナリオ詳細

ドクドク? ドクナシドクドク?? ドクアリドクナシドクドク???

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

ドクドク? ドクナシドクドク?? ドクアリドクナシドクドク???


 見知らぬ世界に飛ばされて早10年。

 最初は右も左も分からなかった。でも、練達という似たような境遇の同志が集う国家に辿り着いた。
 まだ中学生だった己が進んだのは理系。元々興味のあった、水棲生物を研究する道だ。
 練達の大学院で学問を修め、この世界に実際に住まう水の生き物を追いかけて。クラゲの分布調査のため、フィールドワークで訪れた海洋の漁村で、彼は運命の女性に出会った。
 水の生き物を研究する彼だが、まさか人魚――海種を妻にするなど、元の世界では思ってもみなかっただろう。

 互いに一目惚れだ。愛しき妻はいつ見ても美しい。
 妻は網元の一人娘であったがために、彼はその家の入り婿ということになる。

 練達の人間として専門分野である水棲生物の研究は今も続けている。その傍ら、この田舎の漁村の海産物を各国に売り込む方法を考えたりだとか、漁村の子供たちに読み書き計算を教えているうちについたあだ名は『若旦那先生』
 悪くない、むしろ誇らしいあだ名だと自分でも思う。

 その『若旦那先生』が発見した特産品の卵はクラゲ。ちなみに、この近辺のクラゲが単一種ではなく三つの亜種に分かれていることを突き止めて論文も発表した。
 海に入れば必ず目にするくらいには多いのに、この村ではクラゲを食べる習慣がなかったのだ。
 試しに様々な調理法で食してみたが、ここのクラゲは加熱するとうまみが増すようで、種によって異なる毒性がそのままうまみの強さに繋がっているらしい。

 そうと分かれば早速水揚げ……といきたいところなのだが、そうは問屋が卸さない。
 この辺一帯のクラゲのボスが、大規模な捕獲を妨害するのだ。
 普通に漁業をしている分には邪魔してこない。クラゲの多いエリアに入ると即やってくる。
 しかも触手で漁船を転覆させようとするし、刺されれば凄まじい激痛が走って命に関わるのだ。
 あれさえ、あいつさえどうにかなればクラゲは商業ベースに乗せられるくらいの水揚げが見込めるのに……

「あのヌシドクドクがなんとかなればなぁ……」
 輸送方法次第では新鮮なままリッツパークへ出荷することも可能な位置に村があるだけに、大規模なクラゲ漁ができれば村全体を豊かにすることも夢ではない。
 かつては旅人としてこの世界へと導かれた少年にして、現在は海洋の漁村で網元の入り婿となった『若旦那先生』は、虹色の光を放って海面を揺蕩う巨大なクラゲを苦々しく見つめるのだった。


 あついなー、とグッタリして独り言を呟いていた『いくさむすめ』ネリヤ・ヴィヒレア・レヴォントゥリ(p3n000141)が、ローレットにやってきたイレギュラーズに向き直った。
「今回は海洋の任務。練達からお婿にやってきた、網元の若旦那さんを手伝ってあげて」

 クラゲを特産品にしたい漁村で、巨大な有毒クラゲが漁業の邪魔をするので駆除してほしいという。
 ちなみにその村と近隣地域ではクラゲを方言で呼ぶのが一般的。スムーズなコミュニケーションのために、覚えていった方がいいだろう。

「まず、この辺の方言で一般的なクラゲのことをドクドクと言うんだ」
 フォルムとしてはおおよそ、一般的なミズクラゲを想像して頂きたい。しかし、ミズクラゲと違って大型であり、食べると歯ごたえが良い。水中では分かりづらいが、この辺の物はほかの海域の同種よりも青みがやや強い。

「そして、ドクナシドクドクという種類がいるのも分かったんだ」
 違いとしては刺されても痛くない、姿はドクドクと同じだが身体は淡い紫色。ただし、水中では違いがほぼ分からない。

「更に、ドクアリドクナシドクドクという種類も見つかったんだ」
 ドクドクの亜種であるドクナシドクドクの亜種に、ドクアリドクナシドクドクという種類も発見された。体色は淡いピンク。しかし、水中では違いがいまいち分からない。
 無毒なドクナシドクドクの亜種のくせにドクドクよりも毒性が強く、刺されるととても痛いらしい。

 ちなみにドクドク種はどれも加熱すると毒がうまみ成分に変わるため、食べて美味しいのはドクアリドクナシドクドク。しかし水揚げ量で言えば一番多いのはドクドクである。
 ドクナシドクドクは水に晒して塩気を抜いて、蜂蜜をかけたら美味しかったようだ。

「そんでもって、この辺一帯のボスであるヌシドクドクっていう個体がいる」
 水中で揺らめく七色の身体と猛毒を持つ、4mの巨大クラゲ。そいつが大規模なクラゲ漁を邪魔しているようだ。
 体の大きさに任せた体当たりで漁船を転覆させる、身の丈の倍以上伸びる毒の触手で刺してくる等、普通の漁師には倒せそうにもない強敵である。
 これを倒すことが今回の任務の最優先事項。

「あと、周囲にはさっき説明したクラゲたちも漂ってるから注意して」
 ついでに、このクラゲたちの販路開拓もちょっと手伝ってあげてほしい。網元の若旦那の持つコネは練達のみ。
 しかし、人口を考えると他国への販路を作った方が儲けが大きいだろう。

「それじゃあ、よろしくー。お土産、貝殻がいいなー」
 図々しくお土産を要求する住所不定年齢不詳のニート。
 ネリヤは手を振って、海洋へ出発するイレギュラーズを見送るのだった。

GMコメント

※注:ゲーミングクラゲではありません

 あしっどぼむとどくどくかえして……かえして……。
 お世話になっております。瑠璃星らぴすです。

 現実ではなかなか梅雨が明けませんが、夏真っ盛りピーカン晴れの海洋のお仕事です。

●場所
 海洋の漁村。活気はあるのですが若干ひなびた雰囲気です。目立った特産品がありません。

●成功条件
・ヌシドクドクを倒す。
・クラゲを村の特産品として販路に乗せる。

●依頼人
・網元の若旦那『若旦那先生』
 旅人。色白でインテリタイプ、線の細い優男。漁村の網元の跡取り娘とお互いに一目惚れしそのまま入り婿に。
 少年時代にこの世界にやってきて、練達で大学院まで出た後、専門である水棲生物の研究のために村にやってきました。
 この地域の魚介類の研究を続ける傍ら、村の特産品の販路開拓や、子供たちへ読み書き計算を教えるなど精力的に働いています。

・網元の跡取り娘
 アンボイナの海種です。見た目は漁村らしく日に焼けたナイスバディ美女ですが、髪飾りのようにアンボイナの貝殻がくっついてます。
 旦那さんとはラブラブですが鬼嫁だそうです。現在妊娠中。

・漁師&おかみさん
 海種や海鳥の飛行種、人間種など様々です。ヌシドクドクに悩まされているため、イレギュラーズにも協力してくれます。
 近づくための船などは彼ら彼女らに頼ることになります。(自前でもOKです)

●敵
・ヌシドクドク
 4mもの巨体を誇るクラゲのボスです。七色に揺らめいて見えます。
 動きこそゆっくりしていますが、体格に任せた体当たりやそれに伴う波のうねりは侮れません。
 触手が非常に長く、中~遠距離で猛毒を放ってきます。
 数多い触手の中で一本だけ、致死毒の触手がありますので注意してください。

・ドクドク
 この辺で一番多い種類のクラゲ。刺されると痛いですが、10ダメージくらいです。
 BS毒にはなりません。
 火を通すとまあまあ美味しいです。

・ドクアリドクナシドクドク
 毒性が強い亜種のクラゲです。よく見ると淡いピンク色をしています(水中では判別が難しいです。スキルで補えば識別可能です)
 刺されると10のダメージとBS毒が付与されます。
 火を通すととても美味しいです。

●プレイング記入
 字数を食うことが予想されますので、ドクドクはDD、ドクナシドクドクはDNDD、ドクアリドクナシドクドクはDADNDD、ヌシドクドクはNSDDと記入して頂いてもOKです。
 もちろん、そのまま記入しても大丈夫です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ドクドク? ドクナシドクドク?? ドクアリドクナシドクドク???完了
  • GM名瑠璃星らぴす
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
マヤ ハグロ(p3p008008)
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ

●海の月と書いてクラゲ
「暑さと日差しで溶けてしまいそうです……」
 玉の肌に流れるのは滝のような汗。元病弱少女『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)は、刀をぎゅっと握りしめる。
「お嬢ちゃん、そんな風体じゃ倒れちまうが?」
 漁村のおかみさんが、綾姫を見るに見かねて麦わら帽子を被せ、氷を入れた麦茶を渡す。ただでさえ、漆黒の髪は太陽光を吸収して全体が熱を帯びているのだ。いくらギフト『剣身共鳴』である程度の体調改善は見込めても、それを上回って衰弱してしまえば元も子もない。任務前に倒れたら、チームに大穴が開くことになってしまう。

 おかみさんはもう一人の年若い人影にも声をかける。
「そっちの坊ちゃんも」
「暑いですね……水浴びは気持ちいいですけど、今回は大きなクラゲ退治……」
 不思議なことに、水面にはぼんやりとした影しか映らない『鏡面の妖怪』水月・鏡禍(p3p008354)だが、それに気付く村人は今のところいない。
 彼は先んじて、自分の持つコネクション――幻想、海洋、それぞれの国にて、目新しい食材等を探している商人宛に手紙を送ったり、ここまでの行きがけで面会できた商人に話をしてきたが、結果ははてさて。

『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は、クラゲ掴み放題(毒)の海面を眺めて呟く。
「にしても、クラゲかァ……俺そういうのに縁があるのか? 勘弁してくれや……」
 大号令の時も、戦ったのはクラゲの狂王種だった。別に、クラゲなんて好きでもなんでもない。色んな意味でふわふわとした生き物は、知り合いのピンクっこだけで充分だ。
 そんな彼の頭の中を汲んだかのように、視界を横切る淡いピンクのドクアリドクナシドクドク(DADNDD)

「この地方の方言ではクラゲの事をドクドクと言うのか。毒がある奴、無い奴、ボス…ええい、呼び方がややこしいな」
 漁村のでのクラゲの呼び名に苦戦する『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)
 渋いおじさまはカタカナ語は苦手。

「販路、販路か……おっと、まずは目の前のことに集中!」
 幾つかの案も脳裏を過るものの、先にやるべきは巨大クラゲ退治。『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、伸びやかに育った身体をぐーっと伸ばして深呼吸。

『海賊見習い』マヤ ハグロ(p3p008008)はオニキス色の瞳で海面を見つめる。目を細めて思い返すのは過去の光景。クラゲが海面を舞う場面は幾度となく。
 海こそ己のホームグラウンドなれば、大時化のように暴れるのもまた一興ーーとはいえ、クラゲは販路に乗せなくてはいけない大切な商品。あまり傷はつけられないか……

「頭がこんがらがりそうになる名前だなぁ……」
 そう呟くのは吊り気味で個性的な涼やかな目元。マニッシュな雰囲気の美人……というかぶっちゃけ元はれっきとした男性の『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)
 彼女(?)が向けた視線の先は、今回の依頼人である若旦那夫妻。おめでたの妻のお腹は大分目立ってきた頃。クラゲを販路に乗せた収益が出産祝になればと、利一は肩を回して戦いに備える。

「クラゲか。食材になるのだな。」
 飛行種でありつつも海に親しむ『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は、この任務で知った一つのささやかな驚きを口にした。
 彼の生まれた地と同様にこの村も海洋に位置しているのだが、所変われば風習も食生活も違いがある。同じ国内でも、まだまだ未知の物事は多い。
「それに、惚れた女のために頑張っている男は、力を貸したくなる」
 そう言って見つめた若旦那夫妻は、妻がニコニコとして夫に何かを告げている様子だった。

 と、微笑ましい人影の片方がこっちに駆けてくる。
「ローレットの皆さーん!ホントーに、僕たちで船出さなくてもいいんですか?」
 漁村の人々の船を借りるという選択肢もあったのだが、イレギュラーズ達は自前で船を用意するという方法をとった。
 一つは既にウィズィが浮かべている小型の船。もう一つは、今まさにジョージが桟橋で展開しようとしている魔法のボトルシップ。
 物理法則を無視するかのように立派な小型船舶が瓶から飛び出してくる光景に、周囲で見ていた村人はあんぐりと口を開ける。

「では、出発ですよー!」
 元気よく、クラゲの群れが屯する方向へ漕ぎだす二艘の船。ウィズィの船はマヤが操舵し、ジョージのボトルシップは意図する方向へスウッと動き出す。
 その方向には、たくさんのクラゲとその王が――

●水の母と書いてもクラゲ
 ややスピードを上げて先行するのは、マヤが操るウィズィの船。そのすぐ後追うように、魔法のボトルシップがついてゆく。前衛、後衛で分乗……という案もあったのだが、いざ乗り込むとなると色々なバランスを考えねばならず、そこら辺は当たって砕けることになった。
「ウィズィの大事な船だから、壊さないように気をつけるけど……安全航行は心がける。けど、やむを得ず多少荒っぽくなるかもしれないから注意してね?」
 全体的に「強い」生き物といえるイレギュラーズだが、マヤの脳裏を過るのは船酔いの心配。短距離なら心配ないと思えるが……。

 貴重な資源である普通のクラゲたちは極力傷つけない作戦を取ることになったイレギュラーズ。
 狙うは一点突破で大将首。ヌシドクドクである。 

「さあ、Step on it!! 骨のあるクラゲだといいですね!」
「とっくの昔に、海の王様に取られてしまったそうですよ?」
 軽口を叩くウィズィと、おとぎ話の冗談を返す綾姫。
 昔々のおとぎ話では、海の王の怒りを買ったがためにクラゲは全身の骨を引っこ抜かれてしまったし、猿と亀の友情は崩壊したそうな。
 ウィズィがファミリアーとした魚たちが示すのは、すべてが同じ方角。

「!! ねえ、アレじゃない!?」
 操舵していたマヤが、真っ先に気付く。
 魚たちも示した方向に漂う……いや、君臨するのはクラゲの王様、ヌシドクドク。七色に光を反射するその身体は非常に美しいが、大きさもあって不気味である。

 水の中での行動が不得手な者が海に入れば毒の的になりかねない。故に幾人かは船上からの攻撃が自然と選択肢に上がってくる。
 水中へ切り込むのはジョージ、義弘、鏡禍。操舵専念のマヤを抜くと水上が4人、水中が3人。丁度挟み撃ちになる形だ。

(痛てえな。)
 毒の無効化手段がない義弘が感じるのは、チクチクとした肌の痛み。普通のクラゲ達の毒だろう。
 鏡禍も身体のあちこちを早速刺されてしまうが、涙は海水に溶けてしまう。
「大変綺麗な見た目ですが……その視界、覆わせていただきますっ!」
 お返しとばかりに、鏡禍が放つ暗黒剣。ニセモノの聖杯から海中へ放たれるそれは、見ようによってはタコの墨のようにも見える。

 義弘は致死毒の触手を恐れることなく、海中で君臨するヌシドクドクへと接近する。鬼の如き腕力で殴りつけるはスーサイド・ブラック。
 目には目を歯には歯を。毒を持つ生物といえど、効かないのは己の毒だけだ。

「そーれっ!」
 綾姫の魔力を帯びた砲撃めいた斬撃は、その衝撃波が海上を走ってヌシの身体を切り裂く。
 ぷかりと浮かぶ、真っ二つになった小さいクラゲ。

 ここまでは然程邪魔も入らなかったのだが、周囲のクラゲ達の自発的な意思か、はたまた王の号令か。
 ふよふよとクラゲ達がヌシの近くへと集まってくる。
 そして、ズズズズッと聞こえそうな質量が二艘へと迫ってきて――

「結構多いな!?」
 船上でもクッキリと見えるその数に驚く利一。彼女がヌシめがけて放つD・ペネトレイションは海面を抉るように、クラゲ達ごとヌシへと叩きつけられる!だがまたワラワラと集まってきてしまう。

 船上のウィズィが叫ぶ。
「集まってくるやつの露払いは任せて下さい、皆さんはヌシを!」
 このままでは商品にするためのクラゲまで大幅に減らしてしまう。叫びと同時に発動した名乗り口上が周囲のクラゲを寄せ集め、ヌシへの最大の攻撃チャンスが生まれる。

「『速攻』だ。ゼラチン野郎――こんな相手にあんまし使いたくねーけどなァ!」
 海上に今ひとたび現れるのは月の聖剣。

「さぁ、喰うか喰われるか。ヌシを決めるとしよう……!」
 海中ではジョージめがけてクラゲの王様の触手が迫ってくるが、彼の首にかかる緑の輝きは一切の毒を受け付けない。何より、今の彼の姿は『王様』」を上回る『皇帝』なのだ。
 大時化の前兆の如き一撃は、柔らかなゼリー状の身体でも衝撃を吸収しきれず。体内を荒波が駆け回る。

「悪いが海洋復興のためでもあるんだ、糧になってくれよ王様ァ!!!」
 最後とばかりに飛びかかったアランの聖剣が、真紅の殺意となってヌシの身体に深々と突き刺さる!

 水中の面々へ伸びようとしていた、虹色に煌めいて見える一本の触手。
 それは、彼らに届くことなくゆっくりと力なく垂れ下がるのだった。

●水の月と書いたってクラゲ
「大きいねぇ!」
「お、大きいですねぇ~!」
 間近でヌシドクドクを見て目を丸くする若旦那先生と奥さん。

 周囲のクラゲの水揚げを手伝いつつ、仕留めたヌシドクドクも陸に上げる。
 鏡禍が呼んだ商人達が丁度到着したところで、もてなす村人とで村がにわかにガヤガヤとしてきた。
 ここからは販路、出荷のターン。

 まず考えるのは、新鮮なままで出荷できる海洋国内。
「生クラゲだと地産地消するしかないですね。私は海洋には顔の利くとこが多いので!」
 ウィズィがウインクしつつ、さりげなく勲章をチラリと見せる。市場にも顔が利くデキる女だ。

 となると、まずは海洋の商人がターゲット。
 鏡禍は、水揚げされた中からドクアリドクナシドクドクをより分けて持ってくる。
 マヤは新鮮なそれらへ、ラム酒をかけて豪快に焼き上げる。いわゆる海賊焼き。

「さぁご覧あれ! 海賊マヤ・ハグロの豪快なる海月の海賊焼き、これを特産品にすれば大当たり間違いないわ」
 香ばしい匂いに釣られて、商人たちも寄ってくる。
「ウマいな。弾力のある出汁ゼリーのようだ!」
「ごまドレッシングで……いや塩を振るだけでもいけそう……。ああでもうち幻想だし……」
 リッツパークから来た商人と、メフ・メフィートから来た同業者が顔を見合わせながら海賊焼きをぱくつく。
 フォークを進める手が止まらない。
「確かにこれ美味しいですね」
 一緒に試食する鏡禍が思い出したのは「寄せ」や「煮凝り」という伝統的な和食。少し、懐かしい味がした。

「若旦那先生、このクラゲは海水に浸かっていればどの位生きていられるんだ?」
「3日でギリギリ、海水温にもよりますが4日以降は厳しいですねぇ~。それ以上だと干物じゃないと無理ですよぉ~」
 若旦那先生がジョージに答える。海洋国内だけでなく、幻想、天義、練達はギリギリで行けそうだ。
 それにしても、彼が「先生」と言うと、学者ではない何か別の業種に聞こえてしまう。
「海水で輸送はできるのか」
 となれば、やはり選択肢としては食道楽も多い幻想の貴族も浮かんでくる。
 ジョージは海賊焼きの試食にいた、幻想の商人へ声をかけに行った。

 共にフォークを進める綾姫がふと思いつく。
 ここのクラゲ、火を通すと毒が旨味に変化するのならば、
「もしかして、ヌシってとっても美味しいのでは?」
 思いついた綾姫。
 陸に揚げられたヌシドクドクの毒触手の先を、刀でスパッと斬って持ってくる。まだ毒は有しているため、触らぬようにお箸で扱う。

「マヤさん、これもお願いしていいですか?」
「了解。海月王の海賊焼き、略して海賊王焼きってとこかしら」
 そうして火を通したヌシドクドク、ドクアリドクナシドクドクよりも格段に旨味が強い。
「これも美味いな!!フーム、これが一体しかいないのが悔やまれるなぁ」
 商人の嘆きももっともだが、あんなのが大量にいられても村は困る。

 安定した出荷を考えるならやはり干物。
 義弘はふと思い浮かんだ疑問を、近くにいた網元の娘に投げかける。
「クラゲの干物……いや乾物か?あまり聞かねぇが、できるのかね」
「できるわよぉ。うちの人曰く、普通のクラゲはものっそい縮んだり、無くなっちゃったりすることもあるんだけどぉ。このクラゲはちょっと縮むだけよぉ」
 彼女は、私達にはこのクラゲが普通のクラゲだけどね、と首を傾げる。

「カムイグラで珍味として売り込むのもいいかもね」
 神使様としてある程度信頼される立場でもあるし、新し物好き、美食にこだわる貴族にも受けは良いだろう。
 そうでなくとも、酒のアテにできるならば大量消費しそうなイレギュラーズが何人か思い当たる。

「あ、先生。クラゲの干物あるか?」
「試作品なら~」

 貰った干物を噛み締めつつ、考え込むアラン。
「ローレット土産……とかもありかもなァ」
 幻想に流通させる拠点ならローレットがピッタリだ。というか、そもそもが酒場なので干物が美味ならここでの消費も見込める。
「俺たちの名前を使えばもっと売れるかもなァ。あ、売上の1%はくれよ!」
「いっ、1%でいいんですか!?」
 驚くところがちょっと違う若旦那先生。
 それはそれとして、名の知られたアランのお墨付きならローレットにいつもいるやつでなく、幻想の人々でも試してみようという者は多いだろう。

 なんやかんやで話が纏まりつつある漁村。
 まずは干物をカムイグラへ、生クラゲと干物の両方を近隣の三国へ出荷することが決まった。
 生クラゲは現地の料理人の腕次第にもなるが、干物は水で戻すのもそのまま食べるのも安定した味だ。
 今後次第にもなるが、ひとまずは様子見。というところだろうか。

 そして帰りがけ。利一がふと思い出す。そういえばあの住所不定無職年齢不詳に、土産を頼まれていた。
「さて……ネリヤから頼まれたのは、貝殻だったか。あとはクラゲも、土産に持ち帰るとするか」

成否

成功

MVP

蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

状態異常

なし

あとがき

 リプレイのお返しをお待たせしてしまい大変申し訳ございませんでした。

 MVPは、ヌシドクドクの強毒触手が美味しいと見抜いた綾姫さんへ。
 加熱すると毒が旨味に変わるため、ヌシドクドクが一番美味しいという隠し設定(?)がありました。
 量こそ取れませんが、実はヌシドクドクは数年周期でこの海域の子クラゲのうち一匹が変異して発生するので、最高の珍味は数年おきに確保できるものと思います。
(メタ的なものなので、実際は数年後に若旦那先生が生態を解明してからの判明です)

 暑い日々が続きます。皆様もお体ご自愛下さいませ。ありがとうございました!!

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