PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アンダーテイカーと薔薇の園

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ざくざく。ざくざくと、土を掘る音がする。
 頬を汚した土を拭った少女は春先の暖かな陽光を受けても汗一つ浮かべる事無くゴシックロリィタのドレスを揺らしていた。黒いスカートはふわりと風に揺れる――葬列には不似合いな豪奢なそれは華やかさとは掛け離れた場所に存在していた。
 其処にあるのは死者の園。白銀に咲く薔薇を死者の固い指先に差し入れて少女は小さく息を吐く。
「……増えたのだわ」
 葬列は厳かに彼女の眼前を行く。啜り泣きの声が鼓膜を雨だれのように叩き続ける。
「また、ひとり」
 その躰は何処からやってくるのだろうか?
 その骸は何処から運ばれてくるのだろうか?
 その骨は何処へと還ってゆくのだろうか?
 少女は言う――出来れば教えてくれまいか。この死の靄の中から抜け出す方法を。
 少女は言う――できれば教えてくれまいか。生きているってどういうことなのかを。


 ギルド・ローレットの出入り口にベンチを一つ。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は足をぶらぶらと揺らしながら首を傾ぐ。
「お客様なのですよ」
 鼻先をすん、と鳴らしたユリーカは香った死臭に僅かに眉を顰める。死の気配を連れた客人はこてりと首を傾げて「仕事の依頼はここでいいのかしら」とぱちりと瞬いた。
「ごきげんよう。あたくしは『アンダーテイカー』。
 白銀の薔薇を胸に一刺しする墓守なのだわ。どうして薔薇を刺すかって? 死者の命の花を咲かせてるだけなのだわ、深い――それほど深い意味などないの」
 アンダーテイカーは昏色のロリータドレスの裾を持ち上げて深く礼をする。背負ったシャベルは彼女の愛らしいかんばせとはどこか掛け離れた印象を抱かせる。
 ユリーカの隣にちょこりと腰掛けたアンダーテイカーは硝子色の瞳を瞬かせて「それで」と口を開いた。
「生者の皆様にあたくしからお願い事がございますの。
 あたくしは死の靄の中に住まう墓守。生者の事は一等分かったものじゃあございません。
 ――生きてる方にとって死は恐怖でございましょう。あたくしは、わかりませんけれど」
 饒舌なアンダーテイカーは生者が生者たり得る為には死に怯える必要があるのだと口にした。
 その為には危険に身を晒さねばならないとも彼女は言う。当たり前に其処に停滞する死を己が認識するために――一つ、『莫迦みたいな冒険』を共にして欲しいのだそうだ。
「白銀の薔薇の種をとりに行きたいのです。
 その為に茨の怪物を倒す必要がございます。普段は『あたくしは行かず、皆さんにおまかせするのだけれど』、今日は」
 アンダーテイカーは言う。
「今日は、ご一緒させていただきますの」
 ぱちり、と瞬いたのはユリーカだった。普段よりローレットを懇意とするアンダーテイカーが共に往くと言い出したのは彼女にとっても意外だったのだろう。
「はわわ」と口癖のように呟いたユリーカを横目で見遣ってからアンダーテイカーは肩を竦める。
「生憎ですけれど、あたくしには戦闘能力はあまりございません。
 お荷物であることは重々承知。ですけれど、どうぞ、よろしくお願いいたします」

GMコメント

 菖蒲(あやめ)と申します。
 アンダーテイカーと白銀の薔薇の種をとりに。

●アンダーテイカー
 実年齢は不明。少女の外見をしています。長い髪に硝子の色の瞳。
 ロリータドレスにシャベルを背負った墓守。本名不詳です。
 ある程度の戦闘はこなせるようですが、本人談の通り『一般人よりましかな』程度です。

●薔薇の園
 白銀の薔薇の種が存在するという薔薇の園。アンダーテイカーの住まう墓地より少し離れた場所ですが死の気配を感じさせます。
 生者の気配に反応し蔓を伸ばし、命を喰らうと噂される茨の怪物が根を張り巡らせています。
 白銀の薔薇の種は最奥に。分かりやすい位置に存在しています。月の光を帯びてそうなるのだそうです。
 薔薇の種をとるだけならば簡単かもしれません――が、アンダーテイカーはそうは許しません。茨の怪物を倒す生者(ぼうけんしゃ)がみたいのです。

●茨の怪物
 薔薇の園に縦横無尽に値を張り巡らせた巨大な薔薇。
 一見すると赤々と美しい花を咲かせていますが、生者を喰らってしまう食人花です。
 物理攻撃を得意とし、蔦や花弁での攻撃を行います。

●情報確度
 A
 想定外の事態は絶対に起こりえません。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • アンダーテイカーと薔薇の園完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月24日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
主人=公(p3p000578)
ハム子
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
レウルィア・メディクス(p3p002910)
ルゥネマリィ
アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)
クールミント

リプレイ


 ざくざくと土を踏み締め道を往く。その道中に漂う気配は昏く重さまでも感じさせて。
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は切れ長の瞳を細め、肺の奥深くにまで侵食する死の気配を吐き出すかのように息をつく。観通すが為の紫苑の瞳に映しこむのは長い髪を揺らした黒衣の少女の後ろ姿。ヘッドドレスより流れ出た髪先は歩む少女の動きに合わせて揺れていた。
(『死』ですか――)
 生の実感と死の恐怖。人間ならば『誰しもが持ち合わせている筈』のものを此度の依頼人は欲していたのだ。物好きだと口にする事なくともアリシスは考えていた。死を畏るるが故に生を実感する――ならば、こうして命知らずの冒険に出ている自分たちはどうであろうか。
 彼女の良く回る頭の中には思考がぐるりと渦巻いていた。ふと、アリシスの傍らからぴょこりと飛び出したアルビノの少女はふんわりとした獣の耳を擽ったそうに揺らしている。
 大きな桃色のリボンは彼女の動きと共に揺れ、幼さを感じさせるかんばせに茫とした気配を乗せて『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)は「アンダーテイカーさん」とたどたどしくも依頼人を呼んだ。
「……ゆっくりと、行きませんか。その……、まだ、焦る時間ではないと思います……です」
「ええ、ええ、そうですわね。あたくしったらついつい逸ってしまいました」
 くるりと振り仰いだ依頼人――『アンダーテイカー』の硝子色の瞳を覗き込み救世主であった少女はこくりと頷く。背負う紫水晶の大剣の重みを感じさせぬように靭やかに歩むレウルィアは傍らに寄るアンダーテイカーに満足した様に大きく頷く。
「可愛らしいお嬢様の護衛も私の仕事の一つ。しっかりと護らせていただきましょう」
 ――お仕事は、その愛らしい見た目とは似つかないようですが。
 一つ、言葉を付け加えた 『クールミント』アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)は肩口で切り揃えた金の髪を春の風に揺らしながらしっかりと土を踏み締めた。護衛対象が安全な場所に居て欲しいというのは職務を全うする上で重要な要素であるとアンジェリーナは考えていた。
 レウルィアがアンダーテイカーを後方へ呼び寄せたのもそうした理由があるのだろう。ちら、と色違いの瞳にアンダーテイカーを映しこんだアンジェリーナは常の通りの品の良い笑みを浮かべて見せる。
「『楽しい道程』になりますことを」
「そうですね! 茨の魔物が棲みつく薔薇の園に、月の光に照らされて姿を現す白銀の薔薇の種、ですか。
 いいですね、魔物を倒して宝物を手に入れる――まさに冒険みたいな感じがします!」
 きらりと瞳を輝かせて『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はそう言った。風に沿い美しく靡く白銀の髪が美しい。碧の瞳は好奇に満ち溢れ、高潔なるアルテロンドの淑女は待つ大冒険に前のめりと称せるほどに心躍らせていた。
「うんうん。冒険には危険がつきものだからね。薔薇は綺麗だが、食人花は遠慮したいな」
 鮮やかな金の瞳を細め、『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)はカンテラを手にゆっくりと薔薇の園へと足を踏み入れた。咲き誇るは春の気配。鮮やかなまでに惜し気もなく花弁を晒した薔薇達は来訪者を歓迎するように風にふわりと揺れていた。
「圧巻――だな」
 呟く『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の言葉にポテトはこくりと頷いた。此処に咲く花はどれも『生者が楽しむ』ためのものなのだろう。花に興味を示すことなく歩むアンダーテイカーをちらりと見やり医者たる女は「白銀の薔薇、か」と確かめる様に言った。
 墓守は白銀の薔薇を死者へと握らせ胸へと一刺しするのだという。それが哀悼の意を込めてなのか、最後の手向けであるのかはアンダーテイカーは口にする事はないだろうが、そうして咲いている花は生者にはない美しさを見せるのだろうとレイチェルは予感していた。
 見てみたいが――見る機会は訪れないだろうが、と皮肉気に口にして。
「綺麗だね。アンダーテイカー嬢は、どう思う?」
「……綺麗ですわね」
『異世界なう』主人=公(p3p000578)はぎこちなく答えたアンダーテイカーに肩を竦める。あやふやな存在感で己を保つ公にとって生きる実感と死の恐怖というものは確りとその胸に定義されていたのだろう。
「……聞いてくれる? ボクの話」
「その話、私も是非聞きたいのだけど――残念だけど、お客様のようだ」
 かぁ、と小さく鴉が鳴いた。『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はゆっくりと目を伏せる。
 ずるりと何かを引き摺る音をさせ近寄る気配がすぐそこにある――ああ、そうだ。此処は薔薇の園。茨の魔物の住まう場所なのだから。


 冒険者たる者一度くらいはダンジョンを攻略したい――だろう。
 嘗てダンジョンへ潜ったことがある父の話を思い返しながら手袋で薔薇園の花々が傷つかないようにと気を配る。カンテラの焔はゆらりゆらりと揺れていた。
「庭園全体に張り巡らされた根。……不意をつかれる方が怖いと考えて今しがた、成程」
 シフォリィは小さく瞬く。何らかの存在がこの庭園の中をぐるりと歩んでいるのが伝わる様に『音』は間近に存在していた。ほっそりとした指先はレイピアへと添えられる。冒険の共として準備した3メートルの棒を横たえさせ、逸る鼓動を抑える様に息を吐く。
(――近い)
 紅玉を触媒にした無骨な手甲。仄かに漂う花の香りを纏わせてルーキスはかつりと踵を鳴らす。
「私が護衛に回るとはなぁ」
 馨る甘い花の香に酔い痴れるかのように彼女は鱗の肌を撫でる。骨の髄まで魔術が浸透し、眠る事さえ忘れた様に狂気を貪る悪魔憑きは傍らの鴉の声に目を細める。
「鎖を手繰り、君が為――この両碗が掴むのは」
 ぐん、と前線へと飛び込んだのはシフォリィ。ルーキスの唇がにぃと釣りあがる。レイピアの切っ先は茨を切り裂き、土を踏み締めた靴先に力を籠める。身を反転させた彼女の後ろに覗くのは濃い死の気配を纏わせた『怪物』に呼ぶに相応しい。
「あたくしも参戦してよろしくて?」
「私も慣れない仕事を熟さなくてはならないの。だから、お手伝いしていただいてもいいかしら?」
 観客は舞台を盛り上げる必要がある。硝子の瞳に好奇を満たしたアンダーテイカーを制止するように一歩前進したルーキスが伺う様に彼女を見遣る。
 ぐん、と伸び上がった茨に視線を送り祝福の囁きを共に戦う仲間へと与えたポテトは金の瞳を細めて笑う。人と何ら変わりない外見の精霊はアンダーテイカーの事を任せると言うようにルーキスを一瞥し「さあ、がんばろう」と鼓舞の一声を発した。
「突然のお出ましじゃゲストからの非難囂々だ。化け茨限定、良く効く除草剤……なんてなァ」
 くつくつと咽喉ならし、己が体に刻まれた紋様の感覚を確かめる様に右手に力を籠める。悪を憎む怨嗟の如く――『右』に宿りし祝福は呪いが如く病巣を悍ましい化け物として映しこむ。愛ゆえに全てを壊し、悪を定義する傲慢さがレイチェルを化け物に代えたのだと識っていたとしても。
「有効に使わせてもらうぜ。この力をなァ」
 宵闇に溶け込む外套は死の気配を纏わせる。弾ける霧烟に噎せてしまわぬように足音殺し歩むレイチェルの背後から、ぐん、とアリシスが肉薄する。
 戦乙女が手にした世界樹の槍の穂先は茨を狙い――刻まれた無力の文字をなぞる白い指先はその感覚を確かめるが如く。
 頬を掠めた茨の感覚に、頬を伝った血潮の感覚にアリシスはアンダーテイカーの言葉を思い返して自嘲するように唇を釣り上げる。
『――生きてる方にとって死は恐怖でございましょう。あたくしは、わかりませんけれど』
 生者にとって、死とは悍ましい化け物のようなのだ。
 嗚呼、それをアリシスは忘れていたと己が胸に認識する。戦いに絶対というものはない。勝利も敗北も、全てが定められた『運命』でないことをアリシスはよくよく知っている、知っていた『筈』だったのだ。
「死の恐怖――嗚呼、生の実感とは『戦士』としては初心のようなものではありませんか」
「生きるって、後悔しない事だよね。戦うことも、誰かと一緒に居ることも、後悔しちゃ全部が全部おしまいだから」
 アリシスの言葉を聞いて公は手にしていたPPP――プレイ・パンドラ・ポータブルから手を離す。彼女は――否、彼であるかもしれない――アンダーテイカーに聞こえる声音で背を向けた儘、口にする。
 レイピアの切っ先が茨を掠め、公報へと一歩下がった公と立ち替わる様にシフォリィが一撃放てば茨はぐん、と揺れ動いた。
「っ――」
「……ぁ、全力攻勢……です」
 シフォリィがステップ踏む様に動けばぱちりと瞬き尾を揺らしたレウルィアは『ルゥネマリィ』と謳われながらその身の丈ほどの紫水晶の大剣を振り仰ぐ。リボンは大きく揺れ、少女の動きに合わせて跳ねる。
「……アンダーテイカーさんの育てた薔薇……見てみたい、です」
「ふふ、是非ご覧になって? その前に、倒さなくてはならないみたいですけれど」
 冗談めかしたアンダーテイカーにレウルィアはぱちりと瞬く。無感情でなくとも、感情の表し方を『知らない』彼女はアンダーテイカーの言葉に頷いてぐん、とその身を投じる。
 茨は只、手を伸ばす様に靭やかに鞭を打ち特異運命座標を狙った。まるで――そう、まるで『捕食するように』手を差し出して。
「綺麗な薔薇には棘がある。花弁さえもが武器ならば『棘』どころの話ではありませんね」
 アンジェリーナが投擲した刃が蔦を切り裂く。花弁を躱し、スカートのフリルをひらりと揺らした彼女はゆっくりと目を細める。意地悪く『プチデビル』は小さく笑う。
 此度のご主人様(いらい)は護衛を兼ねながらの化物の討伐だ。速やかに遂行することこそがメイドの務めという様にアンジェリーナは後方で丸い瞳で攻防を見守るアンダーテイカーを見遣った。
「ご心配なさらずに。あたくし、最初に言ったでしょう? 『お荷物』ですことよ、と」
「ええ。お嬢様がそう仰るからこそ、私もお守りしておりますよ」
 物腰丁寧でありながらも美しい花に棘があるとはまさにこの事。アンジェリーナの言葉にアンダーテイカーがふふ、と小さく笑みを溢した。
「花の養分を喰らい育ち続けている。成程……?」
 持ち前の観察眼を駆使してアリシスは興味深そうに怪物の姿を両眼へと映しこむ。薔薇園で大きく育ったその化物は花々の養分を得るが為に薔薇園の中に蔦を伸ばしていたのだろう。
 アリシスがとん、と地面を踏み跳ね上がる。槍の穂先に纏わせた魔力の色は彼女の瞳と同じ。鮮やかな色味を帯びて穿つ一撃に蔦が大きく跳ね上がった。
「痛みは感じるのか」
 成程、と唇歪めたレイチェルが牙を覗かせる。癒しの飛び交う空間で医師は背後のアンダーテイカーがじいと戦いを見ているのを見遣り『冒険』の意味を再確認するように頷いた。
「略式詠唱――いざ轟け、夜を纏いし狼王の咆哮!」
 闇夜を切り裂くが如き獣の咆哮が木霊する。怯える様に蔦を撓らせた化物のその隙を逃さぬように、レイチェルが小さく頷けばシフォリィとポテトが一斉攻勢に転じた。
 合わせ、動いた守護者は救世主(すくうもの)として顔を上げる。レウルィアが小さく息を吐き体験を振り仰いだその背中、煌々と輝く月が彼女を見下ろしていた。
「痛みって――生きるってことだよね。
 名前も姿もニセモノのあやふやな『今』だけど……いつか来るその時に『まあまあ良かった異世界人生じゃないかな』って思えるような」
 ――そんな、そんな最期を迎えられたら「勝ち」だと思ってるよ。
 言葉にすれば曖昧な。けれど、公にとっての『生きる』とはそういう事で。
 茨と、蔦と、花弁と。舞うその世界で薔薇の香を身に纏いながら公はレイピアを突き立てる。
 ずん――と鈍い音立てて蔦が落ちる。茨は動きを失い養分が足りぬと薔薇の花へと手を伸ばす様に伸ばされて、地へと転がった。


「わかりやすい、との事ですが……ぁ、これ……ですか?」
 ぱちり、と瞬いたレウルィアは月の光を帯びて月色の輝きを放つ花の種を見下ろした。触れる事も躊躇う様な輝きに救世主は大きな瞳を瞬かせる。
「これが……薔薇に……?」
「不思議なものでございますね。月の光を帯びて変化する――『混沌』の植物らしいと称するべきでしょうか」
 この世界の住民でさえも不思議に満ち溢れ、日々進化を続けていると称させる混沌世界。アンダーテイカーの所望した薔薇の種の様子に博識たるアンジェリーナも初めて見たのだと小さく口にした。
「白銀の薔薇……月の魔力を帯びて生まれる変種と言う所か。……そういうものも、この世界には存在し得るのですね」
 ぱちりと瞬くアリシスにとってはまだ知らぬことの多い混沌世界は好奇にあふれる場所だ。幾ら彼女が博識であれど、この世界は不可思議に満ち溢れているのだから――煌めくそれが育ち花咲かせるところを想像こそすれば、心が躍る。
「さて、アンダーテイカー。少しは満足のいく体験はできたかい?」
 墓守へと向き直ったルーキスの言葉は彼女の真意を測るかの如く。息を飲み、己が言葉が伝わったのかと、正面から向き合えたのかと心配するように息を飲む公に「聞こえてましてよ」とアンダーテイカーは小さく笑った。
「ええ、ええ、教わりましてよ。けれど、全てを理解するにはまだ遠い」
「それは『勉強不足』ということ?」
 ルーキスの問い掛けにアンダーテイカーは「勤勉ですのよ」と冗談めかして小さく笑う。硝子色の瞳には正しく生が宿っているではないかと公はそう考えた。
 己が存在が曖昧である公にとって生きるという事は己の証明にも似通っていた。その言葉全てをアンダーテイカーに伝えることは難しかったのかもしれないが――彼女は公の言葉には凡そ満足していたのだろう。
「種の場所へのマッピングは済んでますから、今後のお役に立ててくださいね」
 柔らかに微笑むシフォリィの言葉にアンダーテイカーはゆるゆると頷いた。彼女の傍らを歩みながら農作物とは縁が深いポテトは「白銀の薔薇か」と口許に指先当て悩まし気に呟く。
「死者に送る餞、大事に育てて、死者を安らかな眠りにつかせてやってくれ。
 お前のお陰で沢山の死者が安らかに眠れているのだから、少しでもお前の願いを叶えられたなら幸いだ。いつも有難う、アンダーテイカー」
「……――礼を言われたのは、初めてでしてよ」
 泥に濡れ、死者を弔う孤独な墓守にとってポテトの言葉は真新しいものだったのだろう。こうして、誰かと共に冒険をする事さえも彼女にとっては初めてであったのだから。
 彼女の表情にゆっくりと頷き煙管を燻らせたレイチェルは「満足げで何よりだよ、お嬢さん」と緩やかに肩を竦めた。
「とても楽しゅうございましたわ」
「……それは何より。理解(わか)って頂けたのかは――いいえ、これは無粋な質問でしょう」
 ゆっくりと、色違いの瞳を伏せったアンジェリーナはアンダーテイカーが職務を全うするように白銀の薔薇の種へと手を伸ばしたのを見詰めている。
 公が語った言葉に対するアンダーテイカーは「もっと勉強が必要ですわね」と曖昧に濁したものだった。
「……綺麗、ですね」
 レウルィアの言葉にゆるりと頷いたルーキスは月光を帯びた髪先に指先絡めて目を伏せる。煌めく美貌は戦闘時の緊張を忘れたかの如く穏やかなものであった。
 スカートを持ち上げて、アンダーテイカーはからりと笑う。硝子の色の瞳が細められ、煌めく月を仰ぐように白い指先は揺れ動く。
「またよろしくお願いいたしますわ。それでは――白銀の薔薇が咲く頃に」

成否

成功

MVP

主人=公(p3p000578)
ハム子

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 MVPは『生きる』とは――アンダーテイカーへそう教えてくれたあなたへ。
 性も名もすべてがあやふやなあなたのこれからのご活躍をお祈りしております。

 またご縁がありましたら。

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