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シナリオ詳細

再現性東京2010:忍び寄る足音

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日は、先生の手伝いをしていて、下校時刻ギリギリまで校内に残っていたミホ。
 すでにほとんどの電灯は消されており、暮れゆく夕日が校内を赤く染める。
「早く下校しないと……」
 ミホは急いでカバンに荷物を纏めて教室を出る。
 早足で下駄箱を目指す彼女だが、途中で物音に気付く。
 ひたり、ひたり……。
 廊下を歩いていたその少女は、後ろから何かがついてきている気配を感じて。
「…………」
 ゆっくりと振り返るが、足音は止まり、背後には何もいない。
 再び、少女が歩き出すと。
 ひたり、ひたり……。ひたり、ひたり……。
 また足音が聞こえてくるが、その数が増えているように感じる。今度は素早く振り返るが、やはり廊下には自分1人しかいない。
「ひっ……」
 何かがついてきているのは確実なのに、そこには何もいないという事実にミホは体を震わせる。
「…………………………」
 何もいない、何もいない、何もいない、何もいない……。
 そう自分に言い聞かせ、ミホは正面を向いて歩き出そうとする。
 すると、いきなり前方が真っ暗になって、何かに押さえつけられてしまう。
「い、いやああああああっ!!」
 力の限り抵抗したミホはなんとか黒い何かを振りほどき、廊下を駆けだす。
 ひたり、ひたりと足音はなおも聞こえてきていたが、ミホは死に物狂いで校舎の外まで上履きのまま駆け抜けていったのだった。


 練達の一区画に存在する再現性東京。
 かつて異世界「地球」より召喚され、変化を受け入れられなかった者達がこの地へと集まる。
 年若く召喚された者達は希望ヶ浜学園に集まる。
 鉄筋コンクリートで築かれた学び舎の中で、彼らは学生として元いた世界と同じように勉学に励んでいるという。
「元居た世界で、皆さんもそういった場所に通っていたのでしょうか?」
 幻想、ローレット内のカフェにて説明を行う『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が旅人達へと問いかける。
 地球なる地からこの地に召喚された者は少なくない。彼らは口々に、元居た世界についての思い出を語り、それを混沌出身者や、別の世界からの来訪者達がしばし耳を傾ける。
 話が一段落したところで、アクアベルが説明を再開して。
「ですが、あくまで練達にある再現性東京の街は再現でしかありません」
 やはり、世界の理は混沌ベースのものであり、怪異や危険が生じてしまうもの。
 それらの排除の為、ローレットへと掃除屋として声がかかっている。
「今回の依頼も学園内の悪性怪異……夜妖<ヨル>を排除してほしいという依頼です」
 時刻は下校時、校舎を閉めるタイミング。
 辺りが夕闇に覆われていく中、背後から近づいてくる足音に教師、学生らが襲われているのだという。
 基本的には1人だが、ごく僅かに2人での事件も確認されている。
 運が良ければ、無傷で逃れることができているが、最悪の場合は夜、見回りの警備員によって重傷状態で発見されている。
 被害者に外傷はあまりなく、精神的に衰弱している例がほとんどなのだそうだ。
「夜妖の正体は完全に確認されたわけではなく、その数も不明です。少数を狙っていることから、集団だとは考えづらいですが……」
 ともあれ、数少ない情報から夜妖の脅威を取り去り、学園関係者を安心させてあげたい。
 事後は、夜妖がそれだけか確認の為、朝まで学園内に留まってほしいとのこと。
 その為、飲食物や寝袋などの持ち込みは構わないとのことだ。
「折角ですので、東京という場所の学園というのを確認してみるのも一興ですね」
 混沌出身者などは、関心のある場所だろう。アクアベルも依頼参加者に土産話を是非聞かせてほしいと頼み、練達へと送り出すのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。

●概要
 悪性怪異:夜妖<ヨル>の討伐。

●敵……悪性怪異:夜妖<ヨル>
○悪霊:忍び寄る影(仮称)×?体
 夕暮れから夜間、敢えて足音を立てて忍び寄ってくる怪異です。
 被害者の情報から2体よりは多く、集団ではないと見られています。
 物音で注意を引いたり、相手を押さえつけたりしてくることが確認されておりますが、重傷者が出ていることからそれ以外の能力も持っているようです。

●状況
 下校時間後、日暮れ時から日の入り直後くらいのタイミング、希望ヶ浜学園の校内を歩いていれば、どこかに夜妖が現れます。
 夜妖出現の影響で早い下校が推奨されており、校内に関係者の姿はありません。
 学園長から下校時刻後の校内の活動は許可されておりますので、誰か囮役となって怪異を誘い出すとよいでしょう。

 事後は夜妖が無くなったことを確認する為、そのまま学園内で一晩過ごしていただきますよう願います。
 夜間の学校探検、屋上で星見、教室で寝袋に包まって語り合うなどご自由に。飲食は問題ありませんが、校内での飲酒喫煙などはご遠慮くださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 再現性東京2010:忍び寄る足音完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月13日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
明星・砂織(p3p008848)
カードデュエラー

リプレイ


 少しずつ日が落ちてきた頃、練達某所へとやってきたローレットイレギュラーズ達。
「再現性東京……か」
 鉄筋コンクリートの建物が立ち並ぶこの区域に、柔和な笑みを浮かべる旅人男性、『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)はこの場所にどこか懐かしさを感じていた。
「……まさか異世界に来てまで学校に来るコトになるとは」
 比較的最近、混沌へとやってきたらしい金髪ツインテールの女子中学生、『カードデュエラー』明星・砂織(p3p008848)にとってはむしろ異世界に来た実感すら薄れさせていたようである。
「にしても、夕方に生徒を襲う怪異……変質者とかじゃないんデスよね?」
「私も同じ事を考えたのだわ」
 白い翼を背に生やす小柄な金髪女性、『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)もやはり変質者の線を疑っていたらしい。
「それはそれで普通に怖いのだけど……」
 もしそうなら、ある意味で怪異以上に恐ろしい存在である。
 ただ、様々な話を伝え聞く限り、この地に怪異や危険が存在するのは間違いない。犯人が変質者である可能性は低そうだ。
「ここにならどんな魔性が産まれても不思議じゃない。少なくともボクはそう思う」
 見た目は誰もが目を奪われるような容姿をした『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)はこの地に魔性の存在を信じながら、それを信じていないと思い込んでいる。そんな歪んだ都市だ、と感じていた。
「怪異とここの常識っていうのは混ざりたくねえモンだろうから、確りやるさ」
 この都市の在り方を守る為だと、行人は事件の解決に意気込みを見せてはいたのだが。
「ただ、ここは。精霊が、いないな……」
 発展した都市は、そういった存在すらも否定してしまうのだろうかと考え、行人は少しだけ寂しさも覚えていた。
 そんな仲間達に対して、旅人の中でも子供っぽい、炎の神と人のハーフである『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の様に、学校というものを初めて目にしたからか、あちらこちらを興味深そうに見回していて。
「へぇ! 学校って行ったことなかったけど、こういう場所なんだ」
 それでも、途中で焔はゆっくり見ている場合じゃなかったと仲間の方を向いて。
「学校の人達が安心して通えるようにするためにも、夜妖を倒して事件を解決しなきゃ!」
 強い意欲を見せる焔に続き、元秘境探検家であり、元男性である『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)が大きく頷いて。
「生徒が襲われている現状は見過ごせないな。赴任しての初仕事、しっかりこなしてみせよう」
「既に学園に被害が出てるなら、これ以上野放しにはしておけないねぇ……」
 ヒトの女性の姿をとったカイコガ、『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)は今回の依頼に当たり、暗がりを見る為にとナイトゲイザーを用意。ハイセンスと併用して敵の捕捉に当たる。
 また、シルキィは夜を過ごすためのお茶やお菓子を希望ヶ浜のお店から購入していた。
「夜妖退治を頑張るんだし、一杯買い込んじゃうよぉ〜」
 そんな主張を行うシルキィはポテチやチョコ菓子など、あまり混沌ではお目にかかれぬお菓子を大量に買い込んでいたようだ。
 仲間達の言葉を受け、シルキィは校内に潜むこの都市にあるべきでない存在へと言い放つ。
「そろそろお引き取り願わせてもらうよぉ!」
「…………」
 だが、校内からは返事はない。
 それらの怪異は自分達が現れるにふさわしき状況となるまで一切姿を感じさせることなく、影に潜み続けるのである……。


 放課後の校舎へと入っていくイレギュラーズ達。
 『aPhone』を所持するメンバーはスムーズな情報交換の為に連絡先を交換してから作戦を開始する。
 この再現性東京にあって、各メンバーはそれぞれの見た目から自分に合った素性に扮していた。
 例えば、焔、砂織、セレマなどは十分学生で通じる為、ほぼ普段通りに行動する。
 焔は砂織やセレマと共に行動し、神の使いによって外に飛んでいたカラスを使役し、見回りの範囲を広げていた。
「キャット・サーチャー召喚!」
 砂織も黒猫のファミリアーを使って頭数を増やし、校内の学生を探す。
 見つけたら、彼女はすぐにそちらへと急行して。
「夕方以降の学校周辺で不審者が出たデス。その対策で警備を増員したのデス」
 砂織は言いくるめ、帰るよう学生達へと促す。
 アノニマスで汎用な生徒を演出するセレマもこんな噂を流しながら、校内を巡回、情報収集に当たる。
「不審者対策に警備が特別強固になるらしいから、邪魔になる前に早く帰った方がいい」
 何言っても居残りそうな学生が1グループくらいいるだろうと見ていたセレマだったが、思った以上に素直に学生達は身を引いてくれていたのに、彼女は少し驚いていた。
 シルキィや行人、利一は教師に扮する。
 新任の養護教諭としてふるまうシルキィは校内に残っている生徒がいないか確かめるべく、ファミリアーの猫と五感を共有する。
 ハイセンスを活かし、生徒の話し声を聞き取ればすぐにそちらへと向かって。
「不審者が出たので警備を強化してるから、明るい内に帰るようにねぇ」
「「はぁい……」」
 部活したかったのにと少し不満げに、生徒達は外へと向かう。
「おら、下校時間だ。帰れ帰れ! 俺もやる事やったらすぐ帰りてえんだよ……」
 高等部の理科教師となっていた行人がそういえばと生徒達に尋ねる。
「最近、妙な噂があるようだな?」
 予め、行人はaPhoneで被害にあった学生達が遭遇した怪異が噂になっていないかを調べると、学生達が今回の事例にぴたりと一致する事柄について書き込んでいた。
『信じてもらえないかもだけれど、影みたいなのに襲われて……』
『人型と思ったら、いきなり風呂敷みたく広がったんだよ』
 行人の問いに、学生達はすぐにああと思い当たったようで。
「怖いよねー」
「なんか隣のクラスのミホが襲われたって」
 そんな会話を聞き逃さず耳を傾ける行人は、すぐに話題が関係ないものへとそれたところで、また帰宅を促す。
「おうお前ら、とっとと帰れよー……俺の残業を増やすなってのよ」
「早く帰るように言われただろ? 変なヤツが出てるみたいだから、暗くなる前に帰れよー」
 こちらは体育教師。ジャージなどを着用してそれらしく見せつける利一の呼びかけに、学生達は「はあい」と声を揃えて下駄箱へと向かう。
 一通り学生がいなくなったら、利一は再び、使役する鳥のファミリアーと超視力を使い、再び生徒の姿を探し始める。
 そして、元拳闘士の風来坊、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)や華蓮は大学生として振舞う。
 イグナートはサブクラス、アンダーテイカーとしての力も発揮し、捜索のスキルで夜妖のコンセキを探りつつ校内に残る学生を発見する。
「オレはイグナート。通りすがりの大学生だよ。ヨロシクね!」
 ところで、中高の校舎でその姿は少しばかり目を引く。特に、鉄騎種である彼の右腕の特徴は隠しようがない。
「人手不足のため、雇われたバイトなんだ」
 とはいえ、混沌の民とて別世界の東京に興味を抱いて勉学に励む者はおり、学生達も受け入れてくれる。
「ふうん」
「頑張ってくださいね、それじゃ!」
 イグナートに好感を持ってくれた学生達から逆に励まされながら、彼らは帰宅していく。
 その後ろ姿を見ていた文系科目を主に受講する体の華蓮はというと。
「……こういう時って、学校に残っちゃう子が出る事があるのだわよね……」
 好奇心や正義感を抱いて探索し、自分の身を危険にさらす学生達。
 華蓮はそういう子を発見すれば、少しだけお説教。
「大人の言う事を絶対常に聞きなさいとも言わないのだわ。でも、こういう身の安全の場面では、ちゃんという事聞かなきゃダメ!」
 【ママ適正】を持つ華蓮は学生達を【教導】し、説き伏せる。
「ちぇっ……」
「わかった、わかったよ……」
 自らの正義感でこの事態を解決しようとしていた学生達も、さすがに反省して帰ることにしたようである。


 居残りしていた学生達がいなくなったところで、イレギュラーズ達は一度集まる。
「魔法カード、ミラーリング・デコイ発動!」
 砂織の使役する彼女の姿をした式神と、行人が囮役となり、本格的に怪異……夜妖のつり出しに移る。
「歩くと後ろをひたひたと、という話であるから歩く必要があるかもしれないね」
 その為、校内の一定箇所をループするように巡回することにし、行人達は歩き出す。
 行人は片目を瞑り、片目を暗闇に鳴らすことで、暗所でも視界が確保できるようにする。
 砂織の式神は教室に隠れる砂織からaPhoneを持たされており、足音や気配を感じた際にメッセージで連絡するよう指示を出す。
 その連絡を待つ砂織は華蓮やセレマと教室で隠れて待機する。
 誰かが怪異の存在を感知した場合、セレマは幻影を待ち伏せ役に被せて存在の隠蔽をはかろうと考えていた。
 他のメンバー達も、複数で教室や廊下に潜み、敵の出現を待つ。
 利一、シルキィ、焔は教室で待機。何かあればすぐ現場へと駆けつけられるよう身構える。
「夜妖が現れ次第駆け付けて戦闘開始、って感じかなぁ」
 シルキィが言うように、奇襲が得意なメンバーは別途身を顰めながら準備を進める。
 焔は教室に隠れながら、見回りの時の小動物を使い、囮メンバーの様子を窺う。
「これなら、近くで突然敵が湧いて出てきても、不意打ちをされにくく出来るよね」
 イグナートは1人、囮役の背中を気にし、様子を窺う。
「個人的には影の中に居る、もしくは影そのものの怪異なんじゃないかと思ってるけれど、どんなヤツらが来るんだろう?」
 ひたり、ひたり……。
 そこで、イグナートがそんな音を耳にする。
 前方を行く行人は時折影踏みして力を高め、名乗りを上げて怪異を引き付けようとしていて。
「来なよ。返り討ちにしてやるからさ」
 ひたり、ひたり……。ひたり、ひたり……。
 突然、行人へと覆い被さる怪異。傍の式神も使役主の砂織へとすぐさま連絡をとり、イグナートも現場へと駆け出す。
 影に絡まれながらも、保護結界を使って無駄に廊下を破壊せぬよう配慮する行人。
 思いのほか早く駆けつけてきたメンバー達はすぐさま怪異……夜妖の迎撃へと移る。
 砂織が距離を取り、魔弾を発して牽制する中、イグナートは行人に絡む1体へと雷の闘気を纏わせた拳で殴り掛かる。
 事前情報から、まともな実態を持っている相手か怪しいと考えていたイグナートだったが、しっかりと手ごたえはあったようだ。
 夜妖に絡まれていた行人も迎撃に出て、刀で乱撃を浴びせかけていくと、怪異が飛び退いて避けていく。
 行人は咄嗟に周囲を見回し、生徒がいないことを確認してから改めて夜妖の正体を視認する。
 例えるなら、影の如きスライムと言った容姿。
 そいつは影に紛れ、ひたりひたりと学生を狙い、影に擬態するようにして襲ってきていたのだろう。
 そこに、他のメンバー達も駆けつけてきて。
 焔がギフトの神炎で廊下のあちらこちらに光を灯す間、回復役となる華蓮は初手だけは攻撃に出て、攻撃をと魔力で作り出した棘を投げつける。
 セレマも夜妖のみに照準を定め、神聖の光を浴びせかけていく。
 夜妖もやられてばかりではない。顔に張り付いて呼吸を奪おうとしたり、首を絞めようとしたりと、ピンポイントで人の急所を狙う術を把握しているようである。
「敵の数が分からない以上、戦闘中の乱入にも気を配りたいねぇ」
 シルキィはハイセンスで聴覚を働かせながら、連なる雷撃でこの場の夜妖どもを灼き払おうとする。
 相手は殺傷力こそ高いが、広範囲の攻撃は不得手としているらしい。
 現状、敵の数は少ないこともあり、利一は『因果を歪める力』の残滓を利用して恍惚とさせてしまう。
 そいつを狙い、ある程度光源を確保した焔が槍で切りかかり、燃え上がる闘気で追撃する。
 すると、夜妖はどろりと溶け、夜の廊下に消え失せてしまった。
 ひたり、ひたりひたり……。
 1体倒し、気が抜けそうになる中、利一の超視力と暗視がそれらの姿を逃さない。
「増援が来てる。注意するんだよ」
 利一はまたも影のように迫ってくる夜妖へ名乗りを上げ、自分の方へと注意を引きつけようとするのである。


 新たに飛び込んでくる2体の夜妖。
 焔が灯す灯の中でも、そいつらは気にせず襲い掛かってくる。
「向こうから来てくれたんだね。手間が省けるよ」
 セレマは素早さを活かして、幻影を鉄格子の如く進路を塞いだように見せかける。
 そして、こんなこともあろうかと、取り出した懐中電灯で引き付けも行う。時間稼ぎにしかならないものの、敵を牽制するには十分。
 その間に、イレギュラーズは態勢を立て直しつつ、増援を迎え入れる態勢を整える。
 敵の奇襲をファミリアーで警戒していた砂織もまた、そちらへの対応に移って。
「魔法カード、バインド・ワイヤー!」
 オーラの縄を放ち、夜妖1体の体を縛り付ける。
 ある程度、敵の攻撃については見極めていた砂織は合わせて、危険部位に夜妖が絡む仲間へと聖なる光で治療も行っていた。
 華蓮も合わせて、抑えに当たる面々に調和の力や天使の歌声を響かせ、戦線を支える。
 夜妖が主に狙ってくるのは、囮役として注意を引く面々。
 最初に襲撃した敵と、増援とに分かれて囮となるが、利一が名乗り口上によって増援側の囮役を担い、距離を取りつつ死の凶弾を撃ち込んで敵を弱らせていく。
 そこで、焔が自らの槍を振るい、炎の斬撃を飛ばして敵を纏めて溶断せんとする。
 すると、最初からいた1体が形を崩しかけたのを見逃さず、イグナートが審判の一撃を右腕で叩き込むと、その夜妖は弾け飛んで姿を消してしまった。

 後続の2体もイレギュラーズ達はそいつらを引きつけながらの攻めを続ける。
 乱戦模様となっていたが、砂織は距離をとってからの魔弾の牽制を続け、仲間が2体から一気に襲われぬよう配慮し、援護攻撃を仕掛ける。
 そこで、セレマが微笑を浮かべて敵の引き付けを行おうとする。
 ただ、彼はかなりの虚弱体質であり、一撃でも食らおうものなら、それだけで倒れてしまいかねない。
(被害者を『重傷』に留める様な奴らは【必殺】を持たないはず)
 そう踏んだセレマは、相手がとどめまでは刺さないと、強気の対処に出ていたのだ。
 弱ってきていた夜妖も1体くらいは道連れにと考えたのか、大きく体を変形させてセレマへと覆い被さろうとする。
 だが、そこへ利一が『因果を歪める力』の残滓を指先に籠めて撃ち出し、その夜妖を穿つ。
 完全に意識を失ったそいつは泥のように溶け、廊下から消え失せていった。
 残る夜妖は1体。
 行人は足を動かしたままそいつを引きつけ続け、この場から逃さない。そして、相手の動きを読むべく影踏みを使い、先手を取って刀で切りかかる。
 ここまでくれば、回復主体で動いていた華蓮も攻撃に加わり、魔力で作った小さな棘を飛ばす。
 チクリとする程度の痛みかと思いきや、思った以上のダメージを食う夜妖は大きく仰け反ってしまう。
 そこにシルキィが攻め入り、精神力を指先に集めて。
「逃さないわよぉ」
 その弾丸でシルキィが真っ黒な夜妖を撃ち貫くと、そいつは事切れて溶けるようになくなってしまう。
 全ての夜妖を倒したイレギュラーズ一行だが、念の為にと警戒を怠ることなく、事後処理へと移り始めるのだった。


 夜妖を討伐し終え、行人は掃除屋へと連絡を取る。
 これで一通り解決ではあるはずだが、他に何か起こらないか確認の為、一晩宿直室を借りて泊まることに。
 一応、ファミリアーを使って夜妖が再び現れないかと見回りして警戒も行う砂織だが。
「さすが、2010年代の東京再現。コンビニもあったのデス」
 彼女は暴君と言う名前の付いた真っ赤な色のスナック菓子を買い込み、美味しそうに食べていた。
「皆さんも食べマスカ?」
 砂織はその袋を差し出すも、一口食べて遠慮する者が多かったようだ。
「セッカクの夜だから遊ばなきゃ!」
 成人済みのイグナートだが、さすがに学生の学び舎で酒盛りするのはまずそうとあって、色々と楽しく遊びながら夜を明かそうと考える。
 アナログゲームだけでなく、テレビゲームなどもこの場にはあるらしく、イグナートが目を輝かせる。
「動くなら大スクリーンでゲームして遊びたいね!」
 イグナートはホラーゲームをしたいと主張するが、他メンバーはあれこれと目移りさせ、結局は色々なゲームをプレイしていたようだ。
 シルキィは途中参加しながらも、基本はのんびりと皆が楽しむさまを眺め、万が一の夜妖の再出現に備え、校内から聞こえる音に耳を傾ける。
 すると、どこからともなく、鳴り響くピアノの音が……。
 皆がそれを確かめに向かうと、音楽室で1人、セレマがピアノを弾いていた。
「夜の音楽室の美少年は絵にならないかい?」
 再びピアノを奏でだすセレマの姿は、確かに絵になっていた。

 明かりの無い校舎はなんとなく不気味さを感じさせる。
「夜の学校って妙に『雰囲気』があるなぁ……」
 怖がっていると思われなくない利一は強気を装って巡回に臨む。
「いや、怪異を倒しても、夜の学校は普通に怖いのだわよ」
 共に見回りする華蓮は素直に語る。
 交代で就寝するなど、見張りを立てるなども提案する華蓮。まだ敵の残りがいてもおかしくないと考えていたが、結果的には杞憂に済んだようだ。
 一通り、見回りを終えた行人は校庭脇のベンチに座り、理科準備室によって持ってきたヌルい無糖缶コーヒーを口にし、再現性東京の夜空を見上げる。
 ――ここは混沌世界だ……全てを受け入れ、肯定する世界だ。
 つまり、怪異も肯定されるだけの元がある……ということに他ならないと行人は考える。
 ……悪性怪異:夜妖<ヨル>。
「俺たちは知らなければならないのだろう。彼等の事を。この街の中で……」
 瞬く星々を眺める行人はその存在について、より知識を深める必要があると認識するのだった。

成否

成功

MVP

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは囮役に、抑え役にと活躍を見せたあなたへ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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