PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ロワゾー・ブルー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●さよならの調べ
「――ねえ、渡り鳥を知っている?」
 情報屋だとかいう男は、そんな問いかけをする男の子の方を見て静かに首を傾げた。
 知らない訳はないのだが、その質問の意図を図りかねたというところだろう。じっと見上げる少年の視線に従い、腰を落として耳を寄せた。内緒話でもするように、声量を落として話を続ける。
 少年は、ご丁寧にも渡り鳥の説明をしてくれた。巡る時間、季節の流れ、さまざまな移り変わりを旅することで過ごす子たちのことだ、と。まるで歌うように語るその言葉選びはなかなかに雅なものだ。感心する。
「それで?」
 ぴこりと獣の耳を動かして、それだけじゃないだろうと話を促した。それに対して、予想通り、男の子はこそこそと次の質問を投げかける。
「じゃあ、花色鳥のことは?」
 これには情報屋もふたつ瞬く。この地方独特の呼び方だろうか。流れ的には渡り鳥のことではあろうが、男の頭の中にその名前はインプットされていない。
 情報屋、という職へのプライドなどあっさり捨てて、男は素直に返事した。
「知らないね」
「えへへ、じゃあ今から話すね」
 少年は得意げに言葉を紡ぐ。
 花色鳥。
 春の間、幻想で過ごす小さな鳥の名だ。その姿は手のひらに収まってしまうぐらいの大きさで、露草の花のような綺麗な青色の羽を持つ。渡り鳥だからこそ、幻想で見られる期間は限られており、名は知っているが見たことはない人も多いだろう。
 その珍しい色合いや渡り鳥の性質からか、さまざまな噂が飛び交っている。そのうち、特に有名どころの噂があった。
 深緑へ発つあおいとりを見れたなら、ひとつだけ願いが叶うだろう。
 本当かどうかは眉唾物だ、と情報屋は思ったが、口にすることは憚られて小さくへえと相槌を打った。
「きみがそんな話をすることは、この時期見られるのかな」
「うん。でもね、困ったことがあるんだ」
 これはまじめなおはなしだよと、男の子は眉尻を下げて肩を落とした。
「花色鳥たちの巣の近くに、おなかを空かせた魔獣が住み着いちゃったんだ」
 ぼくでは敵わないからと掌を見つめる男の子のやわい手のひらには、皮膚が硬くなったマメがいくつかあった。どうやら慣れない武器を片手に素振りでも頑張ったのだろう。
 短い沈黙。血豆が出来そうな肌を隠すようにギュッと拳を握りしめ、男の子は意を決したように顔を上げた。少年と男の視線が交差する。少年の瞳には確りと意志の籠ったひかりが窺えた。
「だから……おねがい! ぼくに、みんなのちからを貸してほしいんだ!」

●空へ往く
「そこで、僕たちの出番ってわけだね!」
 ――という話を当事者である雨( p3n000030)から聞いたサンティール・リアン (p3p000050)は勢いよく椅子を鳴らしながら立ち上がる。ちなみに目の前のテーブルには食べかけの夕飯があった。
 雨から連絡が届いたのは数日前。人集めについてはサンティールにお任せして、都合の良い日にこうして集まってもらったという訳だ。他の面々もカフェ&レストランの一角でのんびりと過ごしながら話を聞いていた。
 緊張感がないのはご愛敬。というより、あらかじめ雨から難しくはないと思うと聞いていたため、このような場での打ち合わせになった。
 アイスブルーの瞳に空を映し、露草にも負けぬ色彩を灯らせたアイラ (p3p006523)はぱらぱらと手帳を開いていく。
「花色鳥、ですね。近くに住み着いたという魔獣は、どのようなものなのでしょう?」
 真面目に依頼メモを取っていくアイラは鳥のイラストや特徴を書き記していく。それから今回の目的である、『おなかを空かせた魔獣』とやらについて雨に尋ねた。当然の質問に雨は頷く。
「わかりやすく言えば……オオカミ、かな」
「オオカミ」
 ぽつりと復唱するのはポシェティケト・フルートゥフル (p3p001802)だ。捕食者の獣の名前は、ちょこっとだけ身震いがするよう。甘酸っぱいキイチゴを掴んだ手が口に運ばれずに止まる。
 雨が言うには、そんなに脅威となるほど大きいものではないらしい。他の強い魔獣と比較してあまり大きくないということなので、人間からしたら十分なサイズ感はありそうだが。
 依頼主の少年が見つけられるほど人里の近場にあって、なおおとなしい花色鳥を狙う程度のものだから、普段は共存できる魔獣なのだろう。見た目が大きくたって臆病なものはごまんといる。
「……おなかが空いて、食べに来ちゃったのかな」
 今はちょうど夕飯どき。食事が並ぶテーブルを見て、ノースポール (p3p004381)は少し満たされたお腹をさすった。腹ペコの時は手段を選んではいられない。お腹が空いては寂しいからねと、あの人も言っていたような気がする。
 ただ悪いやつだと成敗してしまうのは、なんだか可哀想だ。
「どうにかならないのでしょうか?」
 思うところは同じらしい。クロエ・ブランシェット (p3p008486)もおずおずと口を開く。人に、人の好きなものに、害なすなら悪だと討伐してしまうのは容易い。けれど、それは優しい世界だと本当に言えるだろうか?
 その懸念に対しての応えは、存外近くから返ってきた。
「恐らく、手を取り歩む道も御座いましょう」
 話を聞いて、夜乃 幻 (p3p000824)はそう述べる理由を提示した。好奇心旺盛で警戒心が薄い年ごろの少年が無事に帰ってきたことは、推測のヒントに大いになりうる。
 雨もまた、静かに頷いた。
「可愛い見た目をしているかもしれないし」
 別角度から切り込むのはイーハトーヴ・アーケイディアン (p3p006934)である。未だ見ぬ魔獣の姿へと空想を膨らませながら、やはり一度見てから……と独り言ちた。依頼を終えた後には可愛らしいぬいぐるみが増えているかもしれない。
「……それで、場所は?」
 ふわあと眠たげに欠伸をした竜胆・シオン (p3p000103)は、そのままこてりと首を傾げる。初夏にかけて幻想に住まう渡り鳥だということは分かったが、肝心の居所が謎のままだ。
 しばし無言のまま瞬いた雨は、そういえばとタブレットを取り出す。すっかり気の抜けた雰囲気に充てられて忘れていたようだ。
「ここから少し北の方。馬車を使えばいいかな……そう遠くはないよ」
 表示した地図を指でなぞり、花色鳥の巣の近くで二度タップする。依頼情報がずらりとポップした。
「とりあえず、花色鳥が無事巣立てばいいかな。魔獣をどうするか……きみたちに任せるよ」
 そうそう、とまたも思い出したように雨は人差し指を立てる。
「運が良ければ、巣立ちが見られるかもね」
 そして言うのだ、――願い事をしてみてはどうか、と。

GMコメント

 リクエストありがとうございました!
 戦闘半分、お楽しみ半分、といったところでしょうか。
 OPからふんわりとお気楽なシナリオですが、お楽しみ頂ければ幸いです。

●成功条件
 魔獣の撃退

●はらぺこ魔獣について
 イレギュラーズ8人揃えば問題なく討伐できるレベルの四足の獣です。
 はらぺこなので、邪魔をすれば襲ってくるかもしれませんが、
 はらぺこなので、力は出ないです。しょぼん。
 人の言葉は理解できませんが、簡単な指示なら呑み込めるかもしれません。犬レベルです。
 普通に戦う分には、特に苦戦もなく勝つことが出来るでしょう。

●事前情報
 幻想北部、遅れて初夏を迎えるところです。春が終わり、花色鳥たちが巣立っていきます。
 低木に花色鳥の巣はあるようです。巣の近くは広く、戦闘に不利になるような地形ではありません。
 近隣の住民は魔獣を怖がって近づかないので、避難等の必要はないでしょう。

●成功後報酬
 なんとイレギュラーズは強運の持ち主なので、花色鳥たちの巣立ちを見ることが出来ます。
 花色鳥に何を願うのか。是非お聞かせください。
 ――たったひとつ、願いが叶うとしたら、あなたは何を願うのだろう?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ロワゾー・ブルー完了
  • GM名祈雨
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
早天

リプレイ


 どさどさと積る荷物の中身を見てみよう。蒸したお肉に焼き魚。魔獣の好みを考えて生ものも入った箱もある。ここに来るまでに見つけた木の実もつやつやと色付いて輝きを返していた。
 シオンの視線を感じた雨がそそくさと尻尾を隠しながら荷物番を申し出た。依頼をしてきた少年や村への仲介役だけ勤め、後の成り行きは任せるらしい。我関せずだ。
「花色鳥の巣はここの近くですよね」
「そうだね! イーハトーヴ、怖くはない?」
「大丈夫。ハッピーエンドの為なら、怖くなんかないよ、サティ」
 件の魔獣の姿はまだない。どこかうろついているのだろうか。動物たちと簡単な意思疎通が出来る組は、手分けして話を聞くことにした。
 サンティールは小鳥たちに、イーハトーヴはとクロエは平原と近くの森に住まう小動物たちに、声をかける。渡り鳥を受け入れているような場所だからか、動物たちは大した警戒心も持たずに彼らに応えた。
「ねえ、魔獣さんがどこから来たのか、知ってる子はいない?」
 イーハトーヴが兎に尋ねれば、ぴすぴすと鼻を鳴らして北の方へとぴょこんと跳んだ。まるでこっちと言っているかのようだ。
「もっと北の方から来たのでしょうか」
「そうかもしれないね。今、どこにいるのかな?」
 何処の問いには小鳥が騒ぐ。お天気の日の井戸端会議のようだ。一層賑やかになる小鳥の声と、飛び立っていく数羽の羽音。探しに行ってくれたのだろうかと、サンティールたちは顔を見合わせた。
「あ、それならいいお昼寝場所があるかも聞いておいてほしいんだけど……」
 はい、と挙手をするようにシオンがこっそり主張する。たどたどしくお話していたクロエが朗らかに笑って代わりに質問してあげた。
 旅立っていく小鳥や小動物とは逆に、ノースポールが空から降りてくる。さくりと青い草原を踏んで、うんと伸びをした。
「襲ってきそうな子はいないみたい」
「うん。においに釣られて……と思ったけど、大丈夫そう」
 情報収集の間に魔獣が突然現れた時にびっくりして攻撃してしまっては折角の準備も台無しだ。探す手間はあるが、ちゃんと心の準備をしてから相対出来るのは、まだまだ新米のイレギュラーズにも安心である。
 この場所に来るまでに、目立った原因はなさそうだった。もっと探ろうとするなら、住処があるらしい北に行くしかない。今回は花色鳥のこともあるのでお預けだ。
「上から見てみたけれど、森の中に沢があったから、そこの近くなら住めるかも」
「其れは僥倖で御座いますね」
 近くの集落に情報収集兼交渉に向かっていた幻とアイラも合流する。アイラの手にはシャベルがあった。住処が荒れているなら整える必要があるからと、村の人たちに話してきたようだ。彼らの協力もきちんと得られた。
 幻の話によると、村人たちに敵対の意思はないらしい。もし共存が可能であるなら考えてもいいとも言っていた。当然のことだが、彼らも無用な争いは避けたい訳だ。
「後程、僕から交渉致しましょう」
「ありがとう、幻!」
 これで後の心配事は減っただろうか。
 とはいえ、村の人たちに頼りきりではだめだ。きちんと一匹でも生きていけるような環境でなければ、共存とは言えない。それはただの奴隷だ。
「ポシェ、おはなさんたちはなんて?」
 魔獣のごはん事情が気になっていたポシェティケトは周囲の植物に話を聞いていた。植物は実を食べられてもまた花をつけて実を宿す。もし、このあたりに食べられるようなおいしい植物があるのなら、お腹が空いたその時に、我慢することなく食べることが出来る。
 食べることは生きること。生命を脅かされない安心な環境にしてあげたい。
「さっき、ノースポールがあるって言ってた沢の近く。自慢の果物があるみたい」
「それじゃあ、そこにも行ってみようか」
 魔獣の姿はここにはない。喉が渇くこともあるだろうし、ここで待ちぼうけしているよりは可能性はあるだろう。
 ぱたぱた、小鳥が戻ってくる。サンティールの裾を引っ張った。
「ふふん、なら丁度いいかも。目的地は一緒のようだよ」


 細い川の辿る先、綺麗な沢の傍らには真っ赤に実る果実が群生していた。よく市場に出回る林檎よりは少しばかり大きいだろうか。のびのびと邪魔されることなく育った果実は実においしそうな色をしている。こくり、とポシェティケトが喉を鳴らした。あとでお裾分けしてもらおう。
 魔獣の姿は探さずとも見つかった。沢の傍で水浴びをしているらしいが、その様子に覇気はない。ただ寝転がってるとも言い換えれそうだ。
 とはいえ魔獣だ。イレギュラーズの姿に気が付けばのそりと体を起こして警戒音を鳴らす。
「こんにちは、、はらぺこな魔獣さん」
「怖がらないても大丈夫。狼さんのこと、傷つけたりしないです」
 ほら、と示すようにアイラとクロエは空っぽの両手を差し出した。距離を詰めようとすれば未だ威嚇はされるものの、逃げるでも襲い掛かるでもなく様子を見ている。
 言葉がしっかりと通じているかは図り切れない。それでも、イーハトーヴも続いて声をかけた。他の、疎通を持たない仲間たちが声をあげるようならそれも丁寧に訳す。
 移動に問題ない量の食糧は持ってきた。ノースポールや幻、サンティールが食べ物を並べておいてあげれば、魔獣の視線はそちらへと移る。どうやら警戒心より食欲が勝りそうだ。
「おなかが、すいているでしょう?」
「動けなければ、其方へお持ち致しましょう」
 もふもふに目がないシオンも今は少しだけ我慢。お話が終わるまでそわそわ待ちながら、持ち寄った魚の美味しさもアピールしておく。イーハトーヴが少し可笑しそうに訳してあげた。
 決め手はどれとは決められないが、誰でも食べられるのだとサンティールが少しだけ摘まんだ途端、縮んだバネが弾けるように魔獣が大きな体を弾ませて跳躍した。
 一瞬駆ける緊張感。
 柄に手を掛けたシオンではあったが、刃が数センチ見えるだけで止まっている。他の仲間たちも武器を展開はせず押しとどめた。咄嗟に前に出たノースポールはというと。
「お、重たい……」
 まるで猫がじゃれつくように、魔獣がのっすりとノースポールの上に乗っかっている。一歩間違えば大変なことになっただろうが、直前まで――どころか、それ以降も明確な敵愾心は感じられなかった。
 恐る恐る魔獣の瞳を覗き込んだアイラは、その奥に臆病なひかりを見つけた。
「……ぽーちゃん、けがはない?」
「平気!」
 本当に信じていいのだろうか。それを試すための行動だったのかもしれない。
 不殺を、そして融和を望んだ彼らだからこそ、血生臭い事態にはならずに済んだらしい。
 ほっと胸をなでおろしたクロエが、一応とノースポールに治療を施す。ついでに魔獣へも癒しの光を届けた。体を引きずって歩いたこともあったのか、足にあった擦り傷のような赤みが引いていく。
 さて、こういう時は思い切りも必要だ。
 並べられた食べ物から手近なものを選んだ幻が魔獣の口元へと差し出す。ずずいと向けられた果物は、誰が見てもおいしそうな色をしていた。
「ボクが選んだ、とびっきりのフルーツだよ」
「――の様で御座います。如何でしょう?」
 食べてみてとサンティールが促せば、魔獣はあんぐりと大きな口を開く。内在する鋭い牙で噛まれてしまえば一溜りもないだろうが、味方になれば随分と頼もしいものに思えるかもしれない。
 もぞもぞと這い出てきたノースポールを尻目にシオンはこっそり身体を撫でる。野生の魔獣ゆえに手触りは良いとは言えないが、きちんと手入れでもしたら心地良いもふもふになる予感がした。
「こんなに痩せて、たくさん歩いて疲れたろう?」
「みんな、心配してる。ワタシもめいっぱいお手伝いするから、安心して、ね」
 次はこれ、とポシェティケトが差し出したのは、近くに実っていた果物だ。疑うことを忘れた魔獣はそれもぺろりと平らげる。
 幸いにも魔獣は雑食らしく、持ち寄った肉や魚も美味そうに齧っていった。少しばかり早い晩餐会になりそうだ。


 たいへんな空腹を満たすには十分な量を食べた魔獣は、一行と共に花色鳥の草原へと向かい歩いていく。途中、ポシェティケトがあれもこれもと美味しい植物の話をして、クロエがたどたどしく魔獣へと伝えていった。
 沢からややに歩いた先には、住処に出来そうな洞もあった。なんて都合の良い……と思わないでもないが、住みやすい土地ゆえに過去に暮らしていた獣もいたのかもしれない。
 先刻、幻が村人たちとした話では、共存自体は問題なさそうである。折角繋いだ命と絆を無下にすることはない。
「そうだ」
 村へと向かう前に寝床や食料の準備に勤しんでいたイーハトーヴが魔獣の傍に屈む。今では不意に近づいても尾を揺らすだけで警戒はない。
「ねえ、俺とお友達になってよ!」
「いいね、それ! みんな、きてきて!」
 サンティールが賛同し、散らばっていた面々に声をかける。我先にと握手をしてみたサンティールは、その裏にぷにぷにの肉球が隠れていることに気が付いた。
 順に触っていくイレギュラーズらは、そのぷにぷににあっとかわっとか様々声をあげる。シオンは手の甲に当たる部分も一緒に触ってもふもふしていた。
「暖かいですね」
 生き物のぬくもりは当然ではあるが暖かい。失われたいのちがないことが、余計にその暖かさを意識させた。
 なんだかピクニックみたいだ。一匹増えた昼下がりは穏やかに過ぎていく。
「時々、君に会いに来るから。……駄目、かな?」
 イーハトーヴの問いかけに、魔獣はぐるると満足そうに喉を鳴らして応えた。


 森を抜けると、今まさに旅立とうとしている花色鳥の群れがあった。既に数羽飛び立ったのか、一回り小さい身体をぷるぷると震わせて空へと羽搏いていく。
「ああ、行ってらっしゃい、花色の小鳥のみなさん」
 ぱたぱたと精いっぱい翼を動かして飛んでいく花色鳥。ポシェティケトたちは静かに、邪魔をしないように傍に寄る。数羽が気付いて顔を向けた。まん丸の瞳が可愛らしい。
 空の色とも、海の色とも言い難い、青い鳥。花の色と言うのがやはり相応しいその花色鳥たちの巣立ちが近い。
 さる少年が言った。――深緑へ発つあおいとりを見れたなら、ひとつだけ願いが叶うだろう。
「お願いをするんだっけ……」
「ええ、さすれば叶うでしょうと」
 目を閉じ願い事を思い出す。巣立ちが見れたらと空想をして語り合った事柄があったのだから、全てがいなくなってしまう前にその青い翼へと乗せる。
 明日も気持ちよく眠れますように。シオンらしい願い事だ。ちなみにちゃっかり、サンティール経由で心地いいオススメの昼寝場所も教えてもらっている。
「羽搏く姿はなんと美しいのでしょう……思わず見惚れてしまいそうです」
「ね。でも、願い事もしなくちゃ」
 朝に露草がきらめくように、翼が木漏れ日を浴びてきらめいている。
 美しさに目を細めた幻は、そのまま静かに目を閉じた。願い事は決まっているが、口に出すのは恥ずかしい。唇だけが声を紡がずに言葉を結ぶ。大切な夫と、一生添い遂げられますように――と。それ以外の願い事など考えられない。
 きっと、叶う。その確信めいた気持ちは、花色鳥が元気に飛び立つ姿を見たからだろうか。
「君は何を願うの、オフィーリア?」
 うさぎの女の子はイーハトーヴにだけ聞こえる声で何事かを応える。その内容に瞬きした後、イーハトーヴは軽く肩を竦めた。
「そうだねえ。それじゃあ、俺は……」
 ――簡単よ。全部を願うわ、そうすればひとつは叶うでしょう?
 なんて言うから。わがままでいて、どこか悟ったような言い方をするオフィーリアをぎゅっと抱きしめ、代わりにわがままを口にする。
「皆の願い事が、叶いますように!」
「ふふ、素敵ですね」
 たくさんの願い事がきっと、あの小さく頼もしい翼に乗せられ飛んでいく。早く自分も唱えてしまわないと、いなくなってしまいそうだ。見えない背中に祈っても、届くかどうかは解らない。
 ボクのおねがいはなんだろう。
 アイラは自分を振り返ってみるが、これといって主張してくる願い事は出てこない。それなら今は、一番そうであってほしいと願う事を背に乗せよう。
「魔獣さんたちが、もうはらぺこになりませんように」
 もう友達のあの子が苦しむ様は見たくはない。暖かなこの平原であれば大丈夫だとは思うけれど、これは念押しだ。
 からっぽの巣が目立ってきた。どの子も邪魔をされることなく、青空へと飛んでいく。魔獣以外の脅威もなく、その唯一の脅威も去った今、難なく深緑へと旅立っていくことだろう。
 ノースポールは広まっている噂を思い出しては想いを馳せる。きっと最初にこれを言い出した人は、花色鳥が旅立っていく姿を見て、安全と安寧を願ったのだろう。
 こんな小さな鳥が生きていける世界。それは、平和に違いない。
 そこから話が膨らんで、こんな幸せな噂になった。平和な世の中なら、願い事だって叶いやすい。なら、願い事は――決まった。
「また、皆さんで花色鳥の巣立ちが見れますように!」
 それは、平和を願う優しい言葉。
 遥か彼方に見える先立ち達を遠くに見て、クロエはひとり物思いに耽る。願い事が叶うと言われても、その願い事が出てこなければ叶うも何もない。
 さてでは叶うとして、何を願うか。ぱっと出てきたのは、忘れている何かを思い出したい、という願い。先ほど沢に行った時触れた水の感触がまだ残っている。記憶の何かに引っかかっているような気もするが、具体的な感情は起こらない。
 あの鳥は、願いを運んで飛んでいくだけで、叶える力はないのだろう。
 けれど。
「綺麗……」
 並んで空を見上げて願い事を青い鳥に乗せる。友達と一緒にこうしている時間があるだけで、なんだか幸せな気持ちになれるのだ。
 各々願い事を託してその光景に見惚れていた。ポシェティケトも例外ではなく、一羽一羽にいってらっしゃいと心の中で送り出す。
 おねがいごと。あんまりたくさんの願い事を託されては、その翼も鈍るかもしれない。そんな優しさが、小さくて暖かな幸せを願う。
 ふわふわの優しい夢を見れますように。
 自分も、一緒に来た仲間たちも、魔獣さんも、花色の小鳥たちも。みんな、見れたら、いい。
 願い事を託し終わった、あるいは託してる最中の仲間たちの顔を見回して、サンティールが嬉しそうに笑う。見回した顔には幸せな表情だけがあり、今だけはあたたかな世界が訪れていた。
 お別れは決まって寂しいものだが、終わりはすなわち始まりである。花色鳥たちも、幻想で過ごす時を終えて深緑で新しいスタートを切るだけだ。
 だから、笑顔で送り出す。新しい門出に祝福を!
「――みんなが笑顔であれますように!」
 幸せを運ぶ青い鳥に、本当にその力がなくたって、今この時は皆幸せに笑っていた。
 最後の一羽が飛び立って、あたりは静かな時を再び刻む。魔獣のことについては村の人たちに任せられるし、このあたりにはちゃんと住める場所が存在した。もう何も心配事はない。
「帰りに寄っていきたい場所があるんだ」
 花色鳥たちがいた低木の傍には、青い羽根が落ちている。
「今日この日の、思い出に!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストありがとうございました。あおいとりの旅立ちは、きっと素晴らしいものになったでしょう。
魔獣との対峙ですが、少しでも敵意があれば戦闘になるかなあと考えておりました。
そのうえで、皆さまの選択を拝見し、幸せな物語に相応しいものになればと描かせて頂きました。
無事花色鳥は巣立ち、はらぺこの魔獣は新しい住処と家族を得て、村の人たちや少年は新しい明日を歩んでいく。
心温まるシナリオをありがとうございました。

改めて、相談お疲れさまでした!
後のことは、きっとうまくやっていくのでしょう。
花色鳥の巣立ちを見守った皆様に、幸あれと祈雨は願います。

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