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シナリオ詳細

【イレクロ】つわものどもが

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●ゆめのあと
 カムイグラは広く、そして歴史がある。
 混沌大陸と繋がりが無かっただけで、彼らには彼らの紡いだ物語があった。
 そして――カムイグラ東部に位置する山脈。

 その山頂には一つの城があった。
 いつの時代、誰が立てたのかも分からない。とても人の往来が出来そうな場所でもなく――しかし断崖絶壁、故に強固堅牢なる様相が見て取れるその城は、確かに存在していた。
 されどそれも残滓にしかすぎぬ。
 かつて。戦乱の果てに激しく攻め立てられ、ついに敗れて燃え落ちたのだ。
 城壁こそ残っているものの内部はあちこち酷い有り様。かつての栄華もどこにありか。
 護り続けた武者達も――終いには、皆己の腹を裂き、死に絶えた。

 それ以来この城の名は忘れられる。
 時代を経て交通網が発達すれば山の上の城など無用の長物である。
 誰が好き好んで戦場跡に伺おうか。時計の針が進むとともに、兵達の夢も名も砂の様に……

「だけどなぁ、あそこには噂があるんだべさ」

 しかし。
 ある村人は言う。その城の門は普段は固く閉ざされている。
 されど満月の夜にだけ門は開かれる。後に、引き寄せられるように現れしは武者の軍勢。
「なんでも無念の果てに武者たちは黄泉の国を探して放浪しとるんだとか……
 んで。そこの武者達が満月の夜は城に戻って来るんだそうだべ」
「ふ、ぅ――ん。怨霊の類って事かしらね」
「ヒヒッ。何度旅をしてもそもそもの原因は『未練』による縛りなんだから、黄泉の国には辿り着かないってね」
 話を聞き、イーリン・ジョーンズ (p3p000854)は『ある』とされる山の方向を眺め、武器商人 (p3p001107)は亡霊らに対し、笑みを。
 果たして彼らに自覚はあるのだろうか。いや、きっとないのだろう。
 延々と放浪を。延々と怨嗟を繰り返す――哀れな魂達だ。
「しかしそのような目撃情報がよくでたものだ。山の上なのだろう?」
「ああ確かに少し妙な話でもあるね。偶々にしても、誰かがその付近を散歩がてら歩くような場所ではない……武者の帰還を偶然に白目撃出来る場所じゃなさそうだ」
「ん、ああ――そいつぁアレだべ」
 宝の話が出てるんだべよ、とエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)と黎明院・ゼフィラ (p3p002101)の疑問に、村人は言の葉を紡ぎ。
「なんでも――その武者を率いている侍大将の腰には、値千金の名刀があるんだとか」
 元々は燃え盛る城と共に、失われた金銀財宝が地下に眠っている――
 だのなんだの信憑性が確かかも分からない『宝』の話が出ていたそうだ。
 そうして一獲千金を狙った者が時折山の上に登る事はあり……
「なるほどの。そういう欲深い連中が満月の日、城に帰還する奴らめを見た訳か」
「んだべんだべ。んがな話が広まってなぁ、一時はこの辺りも宝目当ての奴で賑わってた……」
 クレマァダ=コン=モスカ (p3p008547)は腕を組み、一応の納得を。
 どこの国にもいつの時代にもそういう輩はいるものだ。
 夢やロマン故に。あるいは一発掘りあてて富を築かんとする者はいよう。しかし。
「過去形、というと」
 帰ってこなかったのですか? とウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)は視線を鋭く。
「ん……む。満月の夜に盗みに入ろうっちゅう奴はいたんだべが……」

 皆明け方、全て城前で晒し首となっている。
 盗みに入った賊は全て全て……

「なんでん、遠くから様子を見てて這う這うの体で戻って来た奴の話ぃよると。
 そもそも入ろうとする輩を警戒してる忍者共がいるんだとか……」
「成程ね。面白いじゃないか――東洋の迷宮と考える事も出来る」
「やれやれ。まぁ行くというなら勿論付き合うけれど」
 あんさんら、行くんだべか!? と驚愕する村人。
 されど恐ろしい者達がいる程度でアト・サイン (p3p001394)やレイリ―=シュタイン (p3p007270)の足が臆するものか。むしろそんな地であるとしればこそ、気迫も出るというものであり。
 見据えるはかの山中。あるとされる、かの城塞。

 ――三重城塞、戒定慧深山城。

 まもなく訪れる満月の日を前に――疼く心が前を向いていた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます!
 豊穣のお城。その中にありしは怨霊か、或いは……

■依頼達成条件
 侍大将が持つ『名刀』を奪取する事。

 ――もしくは破壊する事。

■戦場
 三重城塞、戒定慧深山城――の跡。
 時刻は夜。綺麗な満月が出ていますので、視界に特に問題はないでしょう。
 ある山頂付近。既に城が目視できる範囲からスタート出来ます。

 城は険しい山頂の上にあり、またその地形から徒歩ではあまり自由に動き回れるだけのスペースもありません。内部の城はあちこち焼けており、崩れている場所もありますが……見た所城壁はほとんど原型を留めている様です。(もしかしたら探せば崩れている所もあるかもしれません)

 正面には大きな門がありますが、満月の夜にだけ開いています。
 ここから入れば容易に内部には侵入出来ますが……敵にもすぐに発見される事でしょう。
 逆に言うと広い所で総力戦をするのも一つの手段かもしれません。

 城壁内部、城の中の天守閣に目標の侍大将が単独でいます。
 天守閣にまで上手く発見されずに潜り込めた場合、長時間侍大将と一対一で戦えることでしょう。侍大将を撃破、もしくは何らかの方法で刀を奪取してください。

■敵戦力
・侍大将
 かつては一軍を指揮した高名な武者――でしたが、今やただの亡霊です。
 個人的な技量にも優れており、近接は勿論の事斬撃を飛ばして遠距離も攻撃可能です。天守閣でただ一人、酒を飲むかのようにしながら満月を眺めています。生前の習性でしょうか……

 腰に携えし一刀は値千金の名刀とも言われていますが……?

・武者×??
 刀や槍を携えた、今は亡き亡霊達です。
 城の一階部分、大広間にてまるで旅の疲れを癒す生者の様にくつろいでいます。
 見た限り6体はいるようですが……城にはまだ他にも武者がいるかもしれません。

 一応弓も扱えるようですが、城内で戦闘をする際は刀や槍など近接のモノだけで戦闘を行うようです。

・忍者×3
 城を守護せし忍者の亡霊です。城内に入ろうとする不遜な輩がいないか警戒しています。
 黒装束に身を包み、夜でも目が効いたり、足音を察知する非戦スキルなどを持っている様です。反面、直接的な戦闘能力は武者たちに比べ一段以上劣ります。

■名刀『千竹切丸』
 高名なる刀師により鍛え上げられた一品です。
 その切れ味は見事なモノ。
 見るだけで惚れ惚れとする、人を魅了する至高の刀です――

 実は『この名刀こそが亡霊達の根源』であり、多くの血を吸った末に呪いを宿した妖刀です。かつての戦いも実はこの名刀の魔性なる魅力があっての事だったとか。
 呪いは人を斬り殺したくなる衝動……などではなく『ただひたすらこの刀を持ちたい・誰にも渡したくない・自分だけのモノにしたい』という感情を、持ち主に強く+周囲の者に与えます。
 これはイレギュラーズである皆さんにも影響します。
 心を強く持って刀に挑んでください。

  • 【イレクロ】つわものどもが完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アト・サイン(p3p001394)
観光客
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ


 丑三つ時の折々に。
 往く影八つのそれぞれに。
 来たり至りし理由は何か――

「――嫌じゃ! なぜ我がそんな怨霊とかそういうものの巣窟に行かねばならぬ!
 いや怖くなどないぞ! これはメリットとかそういう話であって……本当じゃからな!」

 少なくとも『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は嫌だった。いや違うんだって。霊が怖いとかそう言う話じゃな……信じろッ!
「まぁここまで来た以上今更引き返す選択肢もない。潜入していくとしようじゃないか」
「ヒヒッ、そうだね。妖刀、妖刀……か」
 しかしとばかりに『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はもう行くしかないと言い『闇之雲』武器商人(p3p001107)もまた闇夜に笑みを零して。
 見据える先は件の城。
 あそこにある。噂の刀が。
 ああ全く『そういう』のにはそそられるのだ――感触を確かめてみたいもの。
 その為にもまずは潜入だ。故にゼフィラの瞳が城を調べんとする。どれ程の高さなのか、広さなのか……山頂の上に存在する城であればその全てを捉えるのは中々に難しいが。
 いずれにせよ潜入するという方針は変わらない。
 その為に用意したのが――この――
「おぉこれは大きい城……ここに武者達がいるのだな。腕が鳴るわ」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)も被っている――
 ダンボールである。

 これはあの伝説の潜入アイテム――ダンボールである!

 蛇の名を冠するとある人物も愛用したモノであり、用意したコレは特に人が隠れられるほど巨大なダンボール箱。その中でレイリーは微かな覗き穴から城を眺めるのだ。
 近付けば近づく程に荘厳なる雰囲気を感じる。
 であれば高鳴る鼓動は武者震いの様なものか――? 気合も入るモノである。
 クレマァダが周囲の反響せし音で可能な限りの情報を収集し、道順や地形を把握したゼフィラが地図を作製せんとし。それらの情報を元に武器商人が手薄な箇所を捜索――そしてレイリーが前衛のダンボールとなって経路を確保しながら進むのだ。
 可能な限り足音を立てぬ様に、慎重に。
 大丈夫だろうか――ダンボールが八つもあるのは目立つのでは――そう思いはするが。
「――まったく、そういうときはもうちょっと効果的なことを言うべきだろう」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)の顔に不安の色はない。どこかを向いて紡がれる言葉はまるで次元の壁を超える様に。
「文章の書きすぎは目によくないぞ、夜遅いなら今すぐ目の前の箱の電源を切るんだ、わかったな? ――よっしゃ完璧、いくぞ!」
 ど、どこへ向けての言葉なんだ……! それはそうとして彼の役割は一言でいうならコマンダー……全体の指揮と言った所だろうか。全員の段ボールの隠密状態を確かめつつ、その歩みを進める。ダンボールは気配遮断と似た効果があるとはいえ……あれは静止状態の時のみ意味がある。
 故に敵の気配を感じれば『止まる』のだ。少しの不安要素も排除して、的確に。
 進む――抜き足差し足忍び足。
 周囲を見回し見逃している敵がいないかダンボールの穴から覗き。
 そして『もういいだろう』と思う所まで至れば――ダンボールを脱ぎ捨てる。
 八つの列より。そこから現れしは二つの人影。
 満月を天に。
 和の夜空の輝きを見据え。
 そこに至る一つが伴いしは――紫紺の輝き。
 月光の瞬きに髪が靡いて、指先の流れの果てに。ゴーグルを上げ姿を現したのは。

「待たせたわね」

 ――『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。
 其の背後に並び立つは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 美しき来訪。その概念を意識しながら二つの存在はまるで一つの彫刻の様に。
 完璧なる格好を意識するのだ――まぁその背後には転がしたダンボールをせっせと折り畳み、素早く隅っこに持って行ってる『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)さんがちらちらと映ってるんですけどね。あ、額を拭ってまるで『いい仕事したぞ』という雰囲気を……!
「ふぅ……よし。ひとまずは、忍者に、見つからなかったか? 先に、進むと、しようか」
 しかし事進むという事に関して彼女は優秀極まりなかった。ダンボールを被りながら、忍び足にてそろりそろりと……自慢の髪でハンドサインを幾らでも作れるのであればポイントマンとして申し分ないものである。
 さぁさ中に進んでいこう。ぐずぐずしていて忍者が来たら大変である。
 ここまでなんとかしてきたのだから――
「…………いややっぱり考えたんですけど、余計目立ってません?」
「あっ、やっぱりそう思うかい? 実は私も傍から見るとどうなのかなぁとは……」
 ウィズィの呟き。ゼフィラの同意。
 動く八つの洋箱。やっぱりなんぼなんでも――怪しすぎたか?


 さて。ダンボールの魅惑的魔力はともかく、実際に見つかっていないのかどうかだが。
 情報にあった忍者たちは目視と足音を察知する耳を中心にて、城に入る不埒者共を警戒している。しかし三名と言う少ない人数で――城を常に全周囲カバーできる筈がないのだ。
 故に巡回。そうイーリンは判断し、実際にそうであった。
 その狭間を皆が探る。ウィズィのファミリアーによる偵察や超聴力による足音の察知――尤も、それが成せるのであれば向こうにも聞こえるかもしれなかった故に更に移動は慎重にしたが――
「よし。こういう構造ならこの先を進めば……大丈夫な筈だ」
 アトの戦略眼による知見も得られればある程度、順調な侵入経路を作れるものだ。
 いかなる事態にも対処できるように探索セットも持ち込んで。目指すは先々天守閣。
 敵の排除はとにかく後回しだ――目標はただ一点、敵の侍大将なのだから。
「はぁ、はぁ……しかしあのだんぼぉるというもの、もうちょっと涼しゅうはならんかったのか! 最初はともかく、段々と熱気が籠りおったぞ……!」
「まぁまぁ海淵の祭司よ、そこはそれ。仕方のないやつってものさ」
 引き続き周囲の索敵をしながら――も、息を切らすクレマァダ。だんぼぉるは暑かったのか……汗を微かに拭いつつ、さればやむを得ないのだと武器商人は声を。
 どうせ一時の我慢だ。中にさえ侵入出来てしまえば、後は慎重に、見つからぬ――よりも。
 どれだけ素早く、見つからぬか――の時間なのだから。
 歩を進める。
 城の内部に侵入し、亡霊の武者にも会わぬ様に。
 ここで戦闘になってしまえば忍者に注意した意味がない……武者達は生者の様にくつろいでおり――忍者程警戒していないのであれば、遭わぬ様に気を付けるだけでもいい筈だ。
 侵入を知らせる床構造になっていないか? 大きな音を立てる箇所はないか――
 ウィズィは常に敵の気配には気を付け、そして。
「――」
 ふと。視界の隅に映るは窓の外の満月。
 美しき円。魅入られそうになる程の絶景。
 ――しかし魅入られてはならぬ。月にも、そして。
「刀にも――ね」
 ウィズィが呟く、先。
 感じる気配は一際大きく――これが侍大将の圧か、それとも刀の誘惑か。
 いずれにせよやる事は一つだ、が。

「そこの武人よ。このような場所で綺麗な月を眺めて酒とは……私にも一献もらえないか?」

 レイリーはあえて侍大将に声を掛ける。
 その酒の水面に月を浮かべ、何を想うか。月眺め、酒の旨さを知る者よ――
「なぜ貴殿はここにいるのか? 良ければ聞きたいな」
『――』
 しかし、侍大将はレイリーを一瞥すれば。
 一拍、いや二拍の後にその目を闘争の意思に輝かせる。
 ……もはや生きている者としての理性は無し、か。惜しむ気持ちを心のどこかに携え。
「さぁ!」
 しかし。
「私はレイリー=シュタイン! 貴殿の攻撃――全て防いで見せようぞ!」
 レイリーは瞬時に心を切り替え。白き装甲を展開し、守護の力を自らへ。
 名乗る猛りは侍大将の眼を一段と光らせる――
 切り開かれる刃の一閃。飛ぶかの如き斬撃は、重く、鋭い。
 それでもレイリーは意思と共にその斬撃を受け止めた。名乗りを挙げた直後に撃に驚くなど、あるまいよ!
「ああ――だが無茶はするなよ。こちらも支援は万全にするけどね」
 そしてそのレイリーをゼフィラの治癒が支援すれば、そう簡単には倒れぬものだ。
 負の要素が巻かれた場合の備えもある……そして、ここまでなんとか潜入は出来た。
 下の武者たちが気付くまでまだ幾何か余裕があろう。
「それまでに、趨勢を決めて、おくとするか。
 一騎打ち、とはいかない、が。一軍の将なれば、多勢に無勢を卑怯とは、言うまい」
 更にエクスマリアの視線が続く――その視線は只の睨みに非ず。
 侍大将との瞳が合わさった時に鏡合わせの儀となるのだ。結ばれた縁から魔力を送り。
 ――炸裂させる。されば蝕む痛みを奴へ、揺らぐそこに。
「よっしイーリン! 私達の本気、見せてやろうぜ!」
「ええ! 紫苑必生流、開祖伊鈴――参る!」
 ウィズィとイーリンが踏み込んだ。
 彼女らの撃の激しさたるや随一。一度に何手と紡がれる数々が、侍大将の足を止めるのだ。
 幾度も攻撃すれば例え達人であろうと注意が散漫となる。数多の刃をまるで雨の様に、或いは滝の如く。
 煌めく刃が月光の光を反射し――ああ。

 滅びた城の天守閣にて、苛烈なりし攻防が繰り広げられていた。


 天守閣の異変を感じ取った武者たちは一斉に動き始めていた。
 戦闘には優れぬ忍者もまた動揺に――けたたましく動く音は、さて幾つか。
「まぁ上がってきたらアタシが抑えるけどね。何。最初の時間は稼げたんだ――そこな旦那を打ち倒すのにそれ以上の時間はいらないだろう」
 しかしいざとなれば武器商人が引き付ける。破滅の呼び声を撒き散らし、注意を引こう。
 それまでは侍大将に集中、だ。
 あらゆる万の理を弾く守護の力を自らに。剥がれぬ限り傷は負うまい。そうした上で放つのは『銀』なる月だ。
 月の輝きは狂気を齎す。正気を奪い、誰ぞの脳裏を狂わせる一端。
「ああ――今宵は一段と美しいねぇ」
 君の持つその『曰く付きのコ』も、と。
 いいモノガタリを持っている事を想像しながら――敵を穿って。
「如何なる戦いがあり、如何なる想いを持って散ったか、知らぬが……今宵にて終焉を」
 最早斬り合うより他はなしとクレマァダも続く。
 紡いだ一閃は氷の鎖。絡め捕らんとする意思の塊が侍大将へと放たれ――続く一撃が武術だ。それは、コン=モスカの武僧に伝わる技術の一筋。二撃にて一殺を成さんとする、打撃の剛閃。
「せめて、名誉ある戦いであったのだと……慰めらるるは我らの方か」
 呟きながら、しかし手は緩めず。
 追い詰める――気奴めの刀は、脅威だ。
 名刀の輝きを見るたびに目が奪われそうになる。近くにあるだけでこれとは、実際に持った場合は如何なる誘惑が訪れるというのか。
 ――その斬り味もまた凄まじい。振るわれる一閃は侍大将の技量もあるのだろうが。
「油断すれば首が飛ぶな、これは」
 受け止めているレイリーの身すら削る。
 盾を用い、槍を用い流す様に弾くが――マトモに受けるは危険と感じる程の死線。
 生前はさぞ高名な者だったのだろう。あぁ。
「酒を酌み交わしてみたかったものだ」
 想えど無為ならせめて、この瞬間に、この一時に彼女は全力を。
 倒れず朽ちず、皆の盾としてあり続けて。
「人を惹きつける刀、か。刃物が切り離せなくなるとは、滑稽なもの、だ。
 刃物は、須らく、持たれるモノであろうに、な」
 横からエクスマリアの一撃が侍大将を襲う――決して手は緩めない。このまま潰す。
 しかし刃物とは人が使うもの。刃物とは人が生み出したもの。
 であるのに人がまるで使われる側とは――滑稽だ。まぁ、そうなる程の『美』の刀を。
「この目に見られたのは、貴重だったかも、しらないがな」
「ああ。呪われた宝刀に、怨霊の住む和の城……ふふっ、良いね。ここに来れただけでも価値があったというものさ」
 同意せしはゼフィラだ。
 侍大将が反撃とばかりに振るった斬撃は範囲諸共削り取るかのように――足を止める負の要素を撒き散らしながら形勢を変えんとして、しかしそれをゼフィラの号令が消し飛ばした。
 ああ全くなにもかもが興味の対象である。この城の経緯、刀の誘惑、この地に執着せし魂。
 この冒険はたのしいものになりそうだ。
 視線を潜りながらも彼女はその口端に思わず笑みを。
 殺意と好奇心の狭間にて、彼女は生を謳歌するのだ――
「ふむ。ダンジョンを踏破した事による報酬は刀――か」
 そして至近。暴威吹き荒れる中にてアトは斬撃を躱しながら、その視線に艶めかしい刀を。
 あぁあぁ確かに危ないな。思わずこの手中に収めたいと心が躍っている。
 まだ手に入れてもいないものにこんな妙な高揚感を抱くとは。
「なるほど、危ないな。ま、全てはしかと『踏破』してからのものだけれど」
 誘惑断ち切り地を跳躍。
 跳び、跳び――速力を得てその一撃を侍大将へ。
 こんな刀は他の者に任せよう。手に入れるにせよ、処分するにせよ、だ。

 ――下からは段々と敵の増援が近付いてきている気配がしている。

 もはやこれ以上時間は駆けられまい――ならば。
「一気に押すわよウィズィ! 息は……外さないわよね!」
「勿論!」
 もはや確認する事すら不要かと。
 イーリンは心、深奥まで繋がりしウィズィ共に駆け抜ける。
 侍大将の殺意は本物。油断すれば首か、或いは四肢でも飛ぼう。されど臆す気持ちは一片も無く。
 暴風の中に飛び込んだ。

 妖刀。妖刀、か。
 ウィズィは思うものだ――そんなものを所有したくはない、と。
「でも、ね」
 ダンジョンの先にお宝ってのは燃えますよね?
 何よりイーリンの瞳も輝いているのだから。
 ――死力を尽くさぬ意味がなかろうか。
 研ぎ澄まされた集中が彼女に力を。見据える先は侍大将の――首元。
 急所を穿ち、終わらせん。
『――ッ!!』
 向こうもこちらの狙いに気付いた様だが、今更邪魔などさせない。
 防御を無視するウィズィの一撃が刀の剣閃を弾き飛ばし。
 その後を追う様に紡がれたイーリンの一閃が――敵の首へと到達するのだ。
 それは後の先から先を撃ち、縫い付ける刃。
 邪三光。

 ――断末魔。

 侍大将が雄叫びを。手から離されるは――名刀『千竹切丸』
 否、妖刀と呼ぶべきか。それが地に落ち、突き刺さって。
「さ、下から武者が来るよ……持っていくなら急ぐとしようかね」
「出来れば持ち帰りたい所だが、さてどうする?」
 寄るは武器商人とゼフィラ。武器商人は布を挟んで持たんとしてみるが――
「おっと。これはいけないね……ヒヒッ。布ぐらいじゃ愛してくれるようだ」
 掴もうとした瞬間、逆に脳髄を揺らされるような感覚を得た。
 ゼフィラがいつでも『離せ』という号令を出せる様に近くにいるが……さてどうしたものか。
「……ふむ。中々、厳しいな。なんとも、もう少しな気はする、のだが」
 故にエクスマリアが感情を封印して握らんとする。
 この刀が感情そのものに語り掛けてくるならそれを封じれば……と思ったが。
 痛いほどに蝕むソレは、鍵をこじ開けんとしてくるかのようだ。

 もとむるものよ あだをみよ。
 うばいしものよ ともをみよ。
 すべてを うしない ひびきたる。
 おのれの なげきを そこにみよ――

 故、ならば、と。
 クレマァダが彼らを支援する様に語るのは心に生の感情を呼び覚ます一声。
 『我』の歌は我には歌えぬ。
 それでも我の歌は『我』にも歌えぬ。
 ――刀の蝕みに対抗せんとする。最善は正での対抗より、負の要素を抑える要素であったが、これもまたクレマァダが無しうる全てであれば。
「刀よ」
 直後、イーリンが試すのは。
「――其処許が守った人々を、今一度お見せしたく。願わくば我らに拝刀の誉を頂きたい」
 礼儀によった刀の儀。
 それは神話の折の様に。刀を奉るかのように。
 その一寸。正に見事なものであった――惜しむらくはこれは奉る神の剣ではなく、御すべき堕ちた妖刀であった事だが。
「……侍ごっこ、様になってた?」
「うん、とってもね」
 元より無為ならそれでも良しと、イーリンの照れ笑いに……ウィズィの笑みが返されて。
 刀――あと一歩なのだが、届かぬか。
「……強い心で、か」
 ――私はイーリンさえ居れば他に何も要らないけど。
「なんて、ね」
 深く被った帽子により感情は見えず。
 零した程度の言葉は風に運ばれどこかへ運ばれる。
 やがて――外ではけたたましい足音が鳴り響けば。
「さて――どうやら侍たちが挙がってきたようね。帰るにしても打倒しなければならないなら……せめて最後には供養をしたい所だけど」
「侍たちの供養? なら丁度いい、アレ、なんなら刀塚にしてみるのはどうかな。
 クレマァダ、念仏は任せた。朝になれば幽霊はもう怖くないだろ?」
「誰が幽霊が怖いなどと申したか――!! 本当に怖くないのじゃからな! ただ、死者に想いを馳せてしまうだけで……か、影になど何もおらぬ! 止めろ! 背後を無意味に指差すでない!」
 レイリーにアト、そしてクレマァダが再び戦闘の態勢を整えて。
 再度鳴り響くは戦闘音。
 ……やがて明くる豊穣の大地。

 山頂。その城に後に残りしは――供養の跡であったとか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ありがとうございました!

 刀を巡る冒険はこれにて終わりを迎えました。刀を入手する事は出来たのか? と言う事は不可能ではなかったと思います。深くは語りませんが『抑える』事が重要でした。

 ともあれ、依頼お疲れさまでした!

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