PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ひい爺さんのトレジャーマップ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●宝の予感
 ずいぶんと古びた地図だった。
 けばだちが目立つそれをよく見てみれば、王都からやや離れた山地の地図だとわかった。そしてその地図の一点に黒いバツ印が書かれている。
「この印の場所に、『宝』があるのかい?」
「そう! 俺のひい爺ちゃんが隠したものなんだよ!」
 地図から顔を上げた『黒猫の』ショウ(p3n000005)に、対面に座っていた青年は我が意を得たりとばかりにテーブルに身を乗り出した。とはいえ注目を集めることを憚ったのか、すぐに座り直すと、酒場の喧騒に紛れる程度に声をひそめる。
「俺のひい爺ちゃんは冒険家だったんだ。各地を旅しては珍しい品々を集めてた。でもだんだん持ちきれなくなって、仕方がないから、いろんな場所にその品を隠したらしい」
「らしい?」
「爺ちゃんから聞いただけなんだよ、その話。親父は眉唾だって笑ってたけどよ。でも一昨日、床下からこの地図と、こいつを見つけたんだ」
 青年がテーブルに銀色の指輪を置いた。ただならぬ光沢に、ショウの細い眼がかすかに見開かれた。
「なかなかの逸品だね。防御のステータスとかが上がりそうだ」
「へへっ、だろ? 爺ちゃんに訊いたら、昔、ひい爺ちゃんが持ち帰ったものだってさ。ってことは、この地図に書かれた場所にだって、何かあるかもしれないってことだろ? この指輪みたいなお宝がさ!」
「なるほど。それで、ローレットに護衛を依頼したいってわけだね」
 青年が調べたところ、目的地までのルートは険しく、途中には野生の獣の出没地域もあるらしい。非武装の民間人には厳しい行程だろう。
「引き受けてもらえっかな?」
「さあ。決めるのは俺じゃないからね。だけど――」
 地図を丁寧に折り畳んで、ショウは唇に笑みを刻んだ。その微笑が意図せず青年をちょっと怯えさせたことには気づかぬまま、告げる。
「まあ、中にはきっといると思うよ。宝探しが好きって人がさ」

GMコメント

 お世話になります。吉北遥人です。
 このたびはシナリオのご参加をありがとうございます。
 宝物。わくわくする響き。

■依頼内容
 依頼人の護衛。
 なお護衛任務は王都に帰って来るまでですが、帰路はリプレイには描写されません。

■目的地&目的地までのルート
 目的地は、依頼人が持つ地図に示された地点。
 具体的には、王都から東へ向かった先の渓谷、そこのどこかです。

 到着までに、順に崖、森、川の3つの難所を越える必要があります。
 それぞれの場所で起きそうなことやありそうなことを想定し、行動や備えをプレイングに記入してください。
 これらをクリアできなかったり、道中で依頼人を守れなかったら、このシナリオは失敗となります。

・崖
 山道をある程度進んでから、崖を登ることになります。高さは10メートルほど。敵は出ません。

・森
 崖を登りきってしばらく進むと、昼なお暗い、じめじめした森にさしかかります。巨大蜘蛛の棲息地があり、餌を求めて襲って来ます。

※出現敵
巨大蜘蛛(ダチュラ)×3
「糸吐き」物近範:物攻、【体勢不利】

・川(谷)
 森を抜けたあと、地図の場所を目指すうちに谷を下ります。谷には流れの速い川があり、両岸は岩場なので歩けます。水中には頑強な水棲型の獣が潜んでいます。
 目的の場所はこの付近のはずですが、簡単には見つかりません。何か手掛かりはないでしょうか……。
 川に入って戦う場合は、命中・回避・反応に若干のマイナス補正が付きます。

※出現敵
銀頭亀(シルバーヘッドトータス)×5
「水鉄砲」神中単:神攻
「水流浴」神自:回復、防技+


 順調に進めば、王都から目的地まで二、三時間くらいの行程です。

■依頼人
 王都に住む青年。名前はヒューロ。
 陽気で行動的。冒険家だったという曾祖父に憧れている。

・地図について
 信憑性は不明。本当に宝の地図という保証はありません。

■その他
 使えそうなギフトや技能、思いきった行動など、いろいろチャレンジしてみてください。それでめちゃくちゃマズい結果になる場合は描写はしません。

 補足などは以上となります。
 皆様のプレイングをお待ちしております。

  • ひい爺さんのトレジャーマップ完了
  • GM名吉北遥人(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月29日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
百目鬼 緋呂斗(p3p001347)
オーガニックオーガ
セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」
ライネル・ゼメキス(p3p002044)
風来の博徒
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アベル(p3p003719)
失楽園
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠

リプレイ

●最初の壁
 出発時点では小さく見えていた崖が、今は眼前で高くそびえている。
「これ登らなきゃならないのかよ……」
 高さおよそ十メートル――山歩きの時点で息があがってしまった依頼人ヒューロが、小さくこぼしてしまったのも無理はあるまい。
 だがその瞳の輝きは消えていない。
「宝探しってわくわくするね。どんなものが見つかるのかなぁ」
『オーガニックオーガ』百目鬼 緋呂斗(p3p001347)が快活に言ったその言葉は、全員が共有する心情だった。魂を揺さぶる目標があるからこそ文字通り困難な壁にも立ち向かえる。
「にしても高いなぁ。もしもの時は受け止めるから安心してね」
「ああ!……まあ、もしも以前に登れるか不安なんだけどな」
「よし、ここは私が先に登ろう。任せてくれ」
 緋呂斗に照れ隠しのように弱音を返したヒューロの横を、『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が進み出た。汰磨羈は確かめるように崖を見上げると、事前に『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)から預かっていたロープ、そして『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)から受け取ったロープを、自前で用意したロープ二本と固く結び始めた。
 約二十メートル程のロープを二セット完成させると、汰磨羈はそれらの端を腰に結んだ。二本の長いロープを引きずる状態だ。崖際へ向かい、伸ばした手で出っ張った岩を探しては掴み、登攀を開始する。
 それと同時に『破片作り』アベル(p3p003719)も崖を登り始めた。ガスマスク越しで視界が狭そうだが、持ち前のフィジカルでぐいぐいと全身を持ち上げていく。一方、汰磨羈はペースこそさほどではないが、ロープが引っかかったり擦り切れたりしそうなルートを慎重かつ正確に避けていく。やがて上まで登りつめた汰磨羈を、先に到着していたアベルが引き上げた。
「ファイト一発、とでも言うべきだったかね?」
「わかるやつにはウケたと思いますよ」
 ジョークもそこそこに手頃な太い木を見つけると、汰磨羈は腰のロープをはずし、幹にくくりつけた。アベルが周囲を警戒しているので作業に専念できる。しっかりと固定してから汰磨羈は崖下に合図した。
 まずは安全を確かめる意味も込めてヴェノムがロープを掴んだ。風が吹いたときだけ怖かったが、二本のロープはかなりの安定感をもたらしてヴェノムを上方へ導く。
「よし。次は俺たちだな」
 ヴェノムが登りきったのを確認して、『黒影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が屈んだ。依頼人を背負うためなのだが、ヒューロがちょっとためらう。
「なんか悪ぃな……野郎とくっついたって面白くないだろ?」
「くだらねぇ気をまわしてんじゃねえ。しっかり掴まっとけよ、崖から飛び降りたいなら話は別だがな?」
 二人が離れぬよう『白衣の錬金魔導士』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)がロープを巻きつけ、シュバルツが崖に足をかけた。
「ヒューロ……お前細いくせに、けっこう重いな」
「ああ、リュックに飲み水しこたま詰めてっから」
「くそっ、あとでガブ飲みしてやるからな!」
 毒づきながらも、足場を慎重に探してはロープを握る手に力をこめ、二人分の体重を持ち上げていく。
「さて、宝探しとは何とも甘美な響きであるのぅ……」
 四人がかりで落下に備えているが、どうやら杞憂に済みそうだ。上空から哨戒させていた使い魔の梟を杖にとまらせつつ、ルクスが歌うように囁いた。
「本当に宝があれば、の話では有るがの?」
「宝探しはまさに博打そのもの……当たりか外れかもそうだが、たまに当たりでも全く嬉しくない当たりもあるんだよな」
 どこか達観したように『風来の博徒』ライネル・ゼメキス (p3p002044)が言った。その眼差しの先では、崖上に引き上げられたヒューロが笑顔で手を振っている。一方シュバルツはさすがにダウンしていた。
「ま、楽しけりゃいいか」
 ライネルがそう結論付け、ルクスも穏やかに頷いた。
「であるな。良い経験にはなるであろう」

「お宝がいっぱいあったら山分けしようぜ!」
 全員が崖を登りきったところで休憩をとることにした。
 ここからしばらく進むと森……環境からして休息は望めまい。場合によってはここが最後の休憩地点となるやもしれぬ。ゆっくり会話をできる場所も。
 元気よく提案したヒューロの手、中指にはまるアクセサリに、ヴェノムが感嘆のため息をこぼした。
「防御の上がる指輪とか、ちょー羨ましいっす。良いモンみつかるといいっすね」
「だな! まあ、これと同じものが見つかるかはわかんねぇけど」
「……なにか、わかったのかい?」
 歯切れ悪いものを感じた緋呂斗に、ヒューロが頷く。
 地図や指輪については皆で出発前に調べた。作為的な箇所はないか、あぶり出しなどの仕掛けはないか、指輪に手掛かりはないか。けっきょくわかったのは地図がよくできた手書きであること。指輪は模様もなく、ツヤこそあるが、ただ分厚い銀塊に指が通る穴をあけたような無骨な作りであることくらい。
 それだけに、今回にあたって曾祖父の冒険譚を祖父から聞いてきたヒューロには期待が集まったが、本人は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「爺ちゃんによるとさ、この指輪、ひい爺ちゃんの友達の形見なんだってさ」
『辛いことを思い出すから』と、ヒューロの祖父も残念ながら詳しくは教えてもらえなかったという。
「旅の途中で知り合って、仲良くなったけど、死んじまったんだって。それで形見分けにもらったらしいけど……全然参考になんねぇよな、こんなの」
「無関係とはまだ言い切れないけど……」
「その友達のご家族がこのあたりに住んでるとか?」
 顎に指を添えて緋呂斗が考え込み、セリカが思いつきを口にするなど意見がいくつか出るが、決定打とするには情報が少ない。
「宝探しというモノは、幾つになってもワクワクするものだ。うむ」
 地図を前に難しい顔で膝をつき合わせながら、汰磨羈は知らず口の端をあげていた――はてさて、何が出てくるのやら。

●蜘蛛たちの森
 まるで瞬時に陽が沈んだかのようだった。真昼のはずなのだが、森に入った少し進むと、高く茂った枝葉が空を隠してしまったのだ。歩くたびに足下が湿った音をたてて気持ち悪い。
「幽霊でも出そうな雰囲気じゃね?」
「これっ。心臓に悪いのぅ」
 おどろおどろしい声音で脅かしてくるシュバルツを叱りつつ、ルクスが松明に着火した。皆もそれに続き、闇に八つの光点が灯る。
 目の前に屍体が立っていた。
「ッ!?」
「慌てる必要はないのである」
 ぎょっとする一行に対し、ルクスは変わらず落ち着いていた。
「アンデッドの『なりそこない』を召喚したのである。道中、盾にしようと思ってのぅ」
「そっちの方が心臓に悪いじゃねえか!」
「――なあ、ガスマスクの人がいなくないか?」
 灯った松明の数は八。ここにいるのも八人……ヒューロの疑問通り、アベルがいなくなっている。だがそれには誰も慌てなかった。
「アベルならしばらく別行動でね。索敵のために先行した」
「先行……って、一人で大丈夫なのか?」
 ライネルの答えに対し、ヒューロの心配はもっともなものだ。ライネルが肩を軽くすくめた。
「ま、彼も素人じゃない……俺たちも気に留めておけば、大事ないだろう。とにかく進むとしよう」

 アベルが慌てて飛び退くと、寸前まで彼がいた地点に太く鋭い肢が突き刺さった。
 ぬかるみに足をとられながら振り向けば、闇よりも黒い全身に赤眼を灯した巨体が、地面から肢を引き抜くところだった。巨大蜘蛛(ダチュラ)はアベルを再び視界に捕捉すると、肢をたわめて彼の頭上高く跳び上がった。あの巨体なら人間の二、三人くらいまとめてぷちっとできそうだ。また慌てて飛び退く。
「ぎゃー! 気持ち悪ィ! こんな森居てられっか、俺は逃げさせて貰うぞ!」
 風圧に押されながらも、アベルは走った。巨大蜘蛛が追ってくる。正直生きた心地がしないが、囮としてはめちゃくちゃ役立ててるのではないだろうか。本隊からはだいぶ離れたところへ蜘蛛をおびき寄せてるわけだし――
「――っ、あれ?」
 ふいに脚が重くなった。いや、それどころか全身が動かない。まだ動く頭を横に巡らせれば、何かが腕に絡まっているのがわかった。闇の中、かすかな光を反射しているのは……糸?
「いや待って、うそでしょ?」
 どうやらおびき寄せてるつもりが、巣を張ってる場所まで誘導されていたらしい。その事実にアベルが愕然としたときには、後ろから追ってくるのとは別に、頭上に闇色の巨体が現れていた。まるで宙を渡るように巣糸を降りてきた巨大蜘蛛は、その鋭い肢を容赦なくアベルの頭に振り下ろした。
 肢が触れた瞬間、水風船が割れるような音を立ててアベルが『消滅』した。
 空を切るに終わった蜘蛛には、獲物が消えた理由がわからない。

「――戦果としては上出来ですかね」
 囮が消えた所からだいぶ離れた木陰にひそんだまま、アベルは満足そうに息をついた。
『愚か者のBACCANO』――自分と瓜二つの分身を作りだすギフトだ。自分以外の生物に触れられると消えてしまうのが弱点だが、その短時間で巨大蜘蛛を二匹も引き離せたのなら大成功と言える。ここまでできたら、あとは自分も本隊に合流して森を脱出すれば……
 今一瞬、なんだか熱い吐息を感じた気がした。
「まー……単独行動してたらこうなりますかね?」
 振り向くと、巨大な蜘蛛と目が合った。

 いち早く異変を察知したのは超嗅覚を働かせていたヴェノムだった。
「アベルが来たっす! 蜘蛛付きっすよ!」
 一行が振り返りつつ松明を向ければ、こちらへ全力疾走のアベルが闇色の巨体に追われている。
「いいか、絶対に傍を離れるな。私を盾に使え!」
 汰磨羈がヒューロの手を引いた。ライネルとルクス、シュバルツも青年を囲みながら足早に先を急ぐ。
 こんな森で戦えば、剣戟がさらなる獣を招き寄せてしまう。ゆえに基本的な方針は戦闘回避としていた。依頼人を守るためにはそれが最上の策だ。
 だが、さすがに追いすがる蜘蛛を完全には無視できない――緋呂斗の上腕二頭筋が膨れ上がった。いっきに蜘蛛に肉薄し、その肢に拳骨を叩きつける。
 わずかに前進が止まった蜘蛛に、不気味な触腕を揺らして接近したヴェノムが、反対側の肢を蹴り砕いた。続けてアベルが振り返りざまにライフルで赤眼を射抜く。
 暴れる巨大蜘蛛が息を吸うように顔を引いた――糸を吐く予備動作だ。その顎に魔法の光が直撃した。セリカのマギシュートに撃たれた蜘蛛が自分の真上に糸を吐き、それを全身にひっかぶる。
 糸の粘液で獲物を捕らえる蜘蛛だが、自分自身はその耐性を持っているわけではない。自縛状態に陥った蜘蛛を捨て置き、四人は先行する本隊を追った。

●銀ひそむ激流
 傾き始めた陽がいらつくほど眩しい。
「疲れた……疲れて死ぬ……」
「今ならリュックの水を飲めるぜ……間違っても川には近づくなよ」
 全速力で森を抜けてこの谷に下るまでノンストップだったから、ヒューロがバテるのは当然の帰結だった。依頼人が岩場の陰で水分補給を始めるのを確認して、シュバルツが川に近づく。かなりの激流だが、ヒューロを近づかせないのは溺れるのを危惧してではない。このあたりに棲息する銀頭亀なる獣を警戒しているのだ。
「地図のバツ印はこのあたり……宝があるならすぐ近くだね」
 川を挟んだ両側は崖で、ところどころ岩壁を這うようにツタ植物が茂っている。自らの知識に照らし合わせて不自然な箇所がないか探しながら、緋呂斗はヒューロに話しかけた。
「ひいお爺さんはいろんな所を旅したんだよね。ほかにはどんな冒険譚があるの?」
「そうだな……荒野を飲まず食わずで歩く話だったり、練達で巨人と会う話だったり。深緑で壮大な恋をしたって話も聞いたけど、俺が好きなのは海洋で海賊と財宝をめぐって戦った話だな!」
 水分補給で回復したからもあるが、憧れの曾祖父の話だからだろう。青年の声は常より弾んでいる。
「最後は海賊とも意気投合して財宝を分け合うんだ……なあ、ここに宝があればほかの話だって、本当かもしれないってことになるよな。ホラ話なんかじゃなくなるよな?」
「……うん、そうだね」
 ヒューロにとって、宝の有無はとても大きなことなのだ――緋呂斗は力強く頷いた。
「必ず見つけよう。それで、全部本当のことなんだって証明しよう」
「――ああ!」
 二人が決意に満ちた熱い視線を交わしたとき。
 水流とは異なる水音が耳朶を打った。

「そこだ! そこの水中!」
[透視]で激流を透かし見るシュバルツの示す水面を、セリカとライネルの遠術が貫いた。高々と水飛沫があがった直後、返ってきたのは手応えではなく、五つの水の塊だ。同時に五か所の水中から放たれたそれを、汰磨羈が三つまで拳で叩き落とす。二発くらったが、その負傷はルクスが花を媒介に召喚した治癒光が痛みを和らげる。
「いやぁ、優秀な盾役が居ると楽っすわ。いつも居てくれねぇかな?」
 汰磨羈の後ろからひょっこり出たアベルの銃口が火を噴いた。ライフル弾は水面すれすれに浮上していた獣を捉えたが、固い音をたてて弾かれる。
「今のは……」
 水中で陽光を反射した輝きにライネルが何か気付いたように呟いた。それと同時にヴェノムが名乗りをあげる。
「どうも、通りすがりのあいどるっす」
 名乗りかどうか怪しいところだったが、一頭だけ引っかかった。射程外のヴェノムを狙うために水中から這い上がってくる。
 完全に陸地に出てきた、怒り心頭といった目つきの銀頭亀に注目が集まる。それは集中攻撃のためだったが――亀の頭部への好奇の目に変わる。
 名の通り、その頭部には冠のように立派な銀塊が生えていた。見事な光沢の、分厚い銀塊。
「やはり。銀頭亀の銀は、ヒューロの指輪と同じものだ」
「えっ、これと? そういや……」
 ライネルの指摘に、ヒューロが自分の指輪を掲げ見る。
 ――そのとき、銀頭亀の表情が明らかに変わった。
 怒りに染まった目つきが、みるみる穏やかなものになる。それは人間種で例えるなら、異郷の地で思いがけず旧友に出会ったような表情に似ていたかもしれない。
 異様な雰囲気に誰も何も言いだせない中、銀頭亀が激流へと戻っていった。もう戦闘続行の意思はないかのように他の四頭と上流へ泳いでいく。
 徐々に遠ざかる五つの甲羅を、九人は誰に促されるでもなく追いかけた。

●彩られる冒険譚
 銀という共通項、そして防御力という亀の堅牢さを連想させる言葉から、指輪と銀頭亀を結びつけることは難くなかった。
 だが連想はできても、実際に銀頭亀を知らなければ確信に至ることはできなかったろう。そんなまさか、と。
 急流は狭くなり、九人が走る場所の対岸では岩壁が川と密接するようになった。ツタ植物が繁茂する岩壁。あまりにぎっしりすぎて不自然なくらいのその岩壁の中に、亀たちが消えていく。タペストリーのようにめくれた植物の裏には暗い穴が見えた。
「洞窟がありますね」
「まるで誰かが隠したみたいであるのぅ」
 アベルとルクスが言った。
 足場となる岩を踏み越えて、洞窟前までたどり着く。内部は水に満ちているが足場も多く、気をつければ潜水しなくとも済みそうだ。
「誤って水に落ちぬように注意だな」
「俺たちが入ったとたん、亀に狙われたりしねぇだろうな」
 それぞれ警戒しながら汰磨羈とシュバルツが洞窟に侵入する。松明を灯してやや進むと銀頭亀と遭遇したが、襲ってくることはなかった。
「さすがに亀の巣に隠したとか無いすよね、と思ってたすけど」
「事実は賽の目より奇なり……というか単純なのかもな」
 亀の棲みかが隠し場所かと考えていたヴェノムとライネルの視線が一箇所で重なった。
 水面より上の平らな岩場に、ほとんど粉みたいになった遺骨があった。それが遺骨、それも銀頭亀のものとわかったのは甲羅の欠片と、頭部あたりの位置に小粒に割れた銀塊があったからだ。ちょうど、穴の開いていない指輪くらいの大きさのものが。
「友達の形見分け……」
 ぽつりと言ったセリカの前を、ヒューロが夢遊病のような足取りで進み出る。銀塊の前で膝をついた。
「山分けしようって言ったけど……悪ぃ……俺、これは持って行けない……」
 か細い詫び言は徐々にかすれ、すすりあげる音が混ざる。
「本当に……本当にあった……嘘、嘘なんかじゃ、なかったんだ……あ、あああ……」
 堰を切ったように涙を流すヒューロの背に、緋呂斗がそっと手を添える。
 亀たちの洞窟に青年の嗚咽がしばらく響いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 冒険お疲れ様です。
 指輪と銀頭亀を関連付けたプレイングにより、亀とは最小限の戦闘で宝物へ到達することができました。
 宝物は依頼人の意向により皆様の手には渡りませんが、代わりに他の宝物が実在する可能性が高まりました。
 いつかまたヒューロ青年がローレットに訪れるかもしれません。
 願わくばそのときに新たな冒険を迎えられますよう。

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