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シナリオ詳細

かまいたちの森

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暗躍する三匹のいたち
 きらり、と暗夜に何が煌く。
 村の近くの森の事であった。男は木を倒し、材木を得るために森へと入ったのである。
 森へと入った時から、奇妙な視線は感じていた。男は、それが「肉食動物が獲物を狙う視線」であるとは、ついぞ気づかなかった。
 木を切り倒し、材木のもとを作り上げたところで、それは突然襲い掛かってきた。
 体長は、1mほどであろうか。それは、イタチのような怪物である。両の手に、鎌のように鋭い爪か、刃物か、そのようなものをはやし、ぐるる、ぐるる、と唸りながら、此方を見る。
 その隣には、二匹の同じような、イタチが居た。一匹は、その両手が棍棒のような、太い棒になっている。もう一匹は、刷毛の様だ。まるで、何か――薬を塗る様な。
 ううう、ううう、とイタチたちは唸った。これはまずい、と男は直感的に察した。男は木材を放り捨てると、慌てて立ち上がり、逃げ出す――。
「あっ」
 男は声をあげた。気づけば、視界が回転していた。それが、自分が転んだのだと気づくのに幾秒かかかり、その原因が、棍棒のいたちが自分を殴りつけ、転倒させたからだ、と気づくのにさらに幾秒かかかった。
 口の中を斬ったのか、泥と血の混じった味がした。立ち上がらなければ。そう思った瞬間、残るかまのような刃を持ったイタチが、その刃を容赦なく、男へと振るった。
 ざくり、ざくりと、斬りつける。都度、激痛に男は悲鳴を上げた。そのたびに、イタチたちは、嬉し気に鳴き声をあげるのだ――。

●討伐せよ、かまいたち
「かまいたち、だね。私が知ってるのより、随分と凶暴みたいだけど」
 『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル (p3p005192)は、村人から告げられた現状に対して、そうコメントした。
 豊穣、カムイグラ。新天地に到着したイレギュラーズ達を待ち受けていたのは、事件巻き起こるカムイグラの地の姿であった。
 さっそく事件解決に動員されたイレギュラーズ達。今回の件も、そのような厄介ごとの中の一つであり、美咲らイレギュラーズ達は、依頼を受けて村へとやってきたのだ。
「鎌……いたち? いたちの魔物なの?」
 『聖少女』メルトリリス (p3p007295)が尋ねるのへ、『幽世歩き』瑞鬼 (p3p008720)は応える。
「妖怪……魔物のようなものじゃな。本来は、一匹が人を転ばせ、その間に次の一匹が斬り付け、最後の一匹が傷薬をつけて去ってゆく、と言うものじゃ」
 本来ならば、そう言う妖怪だ。故に、傷はあっても血は流れず、不思議な現象もあったものだ、と言う程度の体験として語られていく。
 ただそれだけの妖怪であったはずなのだが。
 村人の話によれば、村の近くにある森の中に、かまいたちのようなイタチの魔物が住み着いてしまったのだという。
 そのイタチが、本来土着の妖怪なのか、イタチが変異した怪物なのかまでは分らない。だが、三匹のイタチと言う点では共通しておいて、相手を転ばせ、斬りつける――傷薬は自分たちに塗るそうだが。
「今回の依頼は、そのイタチの討伐、という事になりそうだね」
 『同人勇者』宮峰 死聖 (p3p005112)が言う。
「話に聞いている限りでは、かなり凶暴そうだね。転ばせて、何度も斬りつけていくなんて」
 『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト (p3p002503)続いた。どうやら敵は、一匹が此方を転ばせ、その隙に何度も斬りつけてくる、と言うタイプらしい。被害者の身体には、そう言った傷跡が無残にも残されていたのだとか。
「ひどいわねぇ。かまいたち、なんて名前は可愛らしいのに」
 『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝 (p3p008725)がほほに手を当てながら、小首をかしげた。
「さて……相手は森の中か。となると、奇襲も警戒しなければならないかな?」
 『勇者の使命』アラン・アークライト (p3p000365)が言う。フィールドは、敵のナワバリだ。不測の事態も警戒しておいた方がいいだろう。
「ま、とにかく行ってみようよ。こっちもこれだけ数がいるんだ、何とかなるって」
 無明 (p3p008766)は笑いながら、そう言った。イレギュラーズ達は、その言葉に頷く。
 かくして――一同は、かまいたちの森へと、向かったのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のシナリオは、イレギュラーズへの依頼(リクエスト)から発生した事件となります。

●成功条件
 すべての『かまいたち』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 豊穣、カムイグラのとある農村。その近くにある森に、かまいたちのような凶暴な怪物が住み着いてしまいました。
 このままでは、村人たちへの被害が増大する可能性は捨てきれません。イレギュラーズの皆さんは、この森へと向かい、かまいたちを撃破し、村の平和を取り戻してください。
 作戦決行時刻は昼。周囲は鬱蒼とした森となっており、少々移動などがしづらくなっています。

●エネミーデータ
 かまいたち:転 ×1
  三匹のかまいたちの内、相手を転倒させる役目を持っています。
  物理攻撃を行う他、相手を『乱れ』状態にするBSも使ってくるようです。

 かまいたち:斬 ×1
  三匹のかまいたちの内、相手を斬りつける役目を持っています。
  非常に素早く、物理攻撃を行う他、相手を『出血』させるBSも使ってきます。

 かまいたち:癒 ×1
  三匹のかまいたちの内、傷薬を塗る役目を持っています。
  とはいえ、傷を癒すのは自分たちのようですが。
  神秘の遠距離攻撃を行う他、味方の回復なども行うようです。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • かまいたちの森完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
無明(p3p008766)

リプレイ

●かまいたちの森へ
 イレギュラーズ一行は、木漏れ日の差し込む森を行く――。
 『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)を先頭に、一歩ずつ――慎重に。
 人に害なす魔物、『かまいたち』達が現れたのは、この森だ。
 村人たちからの依頼を受けて、イレギュラーズは件の森へとやってきたのだ。
「静か――だね。でも、何か見られてる感覚はあるよ……」
 ヒィロが声をあげる。辺りは穏やかな空気が流れていて、とても残虐な魔物が潜んでいるようには思えない。
 だが、その穏やかな空気を切り裂いて、明確な悪の感情を乗せた視線が走るのを、ヒィロは感じていた。敵意にはまだ到達しない、しかしこちらを獲物を見定めているような視線。
「静かな方が、敵が仕掛けてきたのを感知しやすい。好都合だ」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が周囲を警戒しながらも、言った。超聴覚が、辺りで発する音を、根こそぎ拾い上げる。感じるのは、獣の動く音。それが件の魔物なのかはわからないが、警戒しすぎて損をするという事はあるまい。
 相手の戦法を考えれば、敵は奇襲からの、連携攻撃による一撃必殺を狙うタイプと言えるだろう。ならばなおのこと、奇襲は避けねばならぬ。
「んもう。ホントに名前は可愛らしいのにねぇ。おいたが過ぎるのは、ママとしては見過ごせないわね」
 『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)がそう言うのへ、小首をかしげたのは『聖少女』メルトリリス(p3p007295)だ。
「伝承に聞く『かまいたち』……人の命を奪うほどの妖ではない、と聞いていましたけれど。この地のかまいたちは、人の命を奪うほどの怪物なのでしょうか。ならばとても、残念ですね……」
「どうだろうね。この国の状況が、伝承の妖を変異させてしまったのかもしれない。……答えはすぐには見つからないだろうけど、いずれにしても、人に害をなすならば、討伐しなきゃ、でしょ?」
 『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)の言葉に、メルトリリスは頷く。謎はあったが、それが解明されるのはまだこの日ではないだろう。対症療法ではないが、いずれにしても、現れた悪意は切り落とさなければならない。
「ふぅ。それにしても、少し緊張するな……」
 狐面の下に表情を隠しつつ、少しだけ息を吐いて、無明(p3p008766)が言った。敵の奇襲に備えるという意味もあったが、無明は神使――イレギュラーズとして召喚されてから、未だ日が浅いようだ。そのための緊張が、少しばかり、無明の身体を走っていた。
「大丈夫。体の力を抜いて、自然体でね」
 そんな無明に声をかけたのは、『同人勇者』宮峰 死聖(p3p005112)だ。
「それに、可愛い子達に危険な事はさせたくないからね。この作戦の一番槍役は、僕が貰うよ」
 ふふふ、と笑みを浮かべる死聖。その経験は実力(レベル)となって現れるものだ。
「おや、頼もしいものじゃなぁ。わしにも少しは、楽させてくれよ?」
 くすり、と笑うのは『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)だ。緊張は必要だが、程よく力を抜くことも必要だ――ガチガチに固まっていては、いざという時に柔軟な対応が取れない。
「……そうだね。うん。頼りに……してる」
 無明はゆっくりと、そう返した。少しだけ、気が楽になった――学ばなければ。先輩たちから、イレギュラーズたるという事を。強くなるために――。
「いい? みんな」
 ふと、ヒィロが声をあげる。ピン、と空気が張り詰めるのを感じる――ヒィロは左右に視線を巡らせてから、続けた。
「何か嫌な予感が膨らんでる――多分、敵意みたいなもの」
「間違いないですね……三体」
 メルトリリスが、剣の柄に手をやりながら、言った。
「全員、備えろ……動いたぞ!」
 アランが叫び、一気に刃を振りぬき戦闘態勢を取る。合わせて、仲間達も一気に武器を構えた。
 がさり、がさりがさりがさり! 周囲の草木が一斉に動いた――ような気がした。それが、イタチたちが激しく動き回りながらこちらへと接近しているが故の草木の揺れであることに、イレギュラーズ達は気づく。
「キィィッ!」
 甲高い鳴き声をあげなら、それは姿を現した。一匹目のイタチ――その両手は棍棒のように膨れ上がり、地を這うようにかけながら、草むらから飛び出してきた!
 アランが一歩を前に踏み出す――ギャギャ! イタチが雄たけびを上げ、アランへとその棍棒のような腕を薙ぎ払った。
 とっさに刃――『Code:Demon』をかざして、その横なぎの棍棒の一撃を受け止めた。巨大な大剣たる『Code:Demon』。それを操るアランの膂力。それをもってしてもたまらず体勢を崩すほどの強烈な一撃が、衝撃となってアランの身体を駆け巡る。
「ちぃっ! ちびのくせに、やるッ!」
「アラン君! 次が来るっ!」
 美咲が叫ぶその声を遮るように、ギャァ、と雄たけびを上げながら、今度は両手を鋭い鎌のように変質させたイタチが、体勢を崩したアランへと迫った。振るわれる鋭い鎌の一撃を、アランは無理矢理身体を翻し、寸での所でよける――だが、イタチもそのまま避けらるままに任せたわけではなかった。ぐるり、と己の身体を回転させると、回転のこぎりのように全身と刃を回転させ、アランに再度迫る。
「くっ……!」
 アランは致命傷を避けるべく、『Code:Demon』を振るった。がリリ、と二つの刃が交差する甲高い音が響き、イタチは後方へと跳躍。アランも痛みに痺れる手を振りながら、イタチを睨みつけた。
「ハッ……あいさつ代わりの一撃、受け取ったぜ。今度はこっちの番か」
「アラン! 大丈夫ですか!?」
 メルトリリスが叫ぶのへ、アランは頷いた。
「ああ、少し痺れたがな。其れよりも構えろメルト。外見に似合わず凶暴だ」
 残る三匹目のイタチが、草むらを割って現れた。手は刷毛のように無数の毛のようなものでおおわれ、そこから染み出す薬液を、仲間のイタチへと塗りたくっている。二匹のイタチはキィ、と嬉しげな声をあげた。魔力的なものか何なのか、傷を癒しているわけだ。
「見事なものね。転ばせ、切り裂き、傷を癒す――いい連携だわ」
 美鬼帝の言葉に、続いたのは瑞鬼だ。
「じゃが、本能で高度な連携をやっているが故に、それを崩されれば対応は出来まい。各個撃破するぞ」
「――頼むよ君達?」
 死聖は己の内へと声をかけた。まるで応じるように、どくり、と胸が脈打つ。
「うちが強くなるために、かまいたち。お前達には踏み台になってもらう……!!」
 無明がその『鋼鉄の拳』を握りしめた。
「みんな、頑張ろー! えいえいおー!」
 ヒィロが声をあげ、それを合図に、イレギュラーズ達は一斉に駆け出した。

●転・斬・癒
「厄介なのは攻撃手……鎌を持った奴じゃな!」
 瑞鬼は声をあげ、不可視の衝撃波を放つ。常世と幽世その境界を操り放たれる一撃――幽世よりの一撃は、斬イタチを捉え、その注意を瑞鬼へと引き付ける。
「おぬしの相手はわしじゃ、楽しませておくれ? ……さて、残りは任せたぞ、おぬしら」
 ぴょん、と身軽に飛びながら、斬イタチと共に森の中へと消えていく瑞鬼――。
「なら、ボクは、転ばせる子を引き付けるっ! がおーっ!」
 ヒィロが可愛らしく雄たけびを上げる――それはあふれ出る蒼き闘気(オーラ)を乗せて、敵の目をいやがおうにも置引き付ける、戦いの咆哮だ。転イタチはその棍棒を振りかざしながら、ヒィロへ飛び掛かる。ヒィロはころり、と地を転がってそれを避けて、
「さぁ、ボクはこっちだよ! 捕まえてごらん?」
 にっこりと笑って挑発の声をあげて見せる。
「慣れている人が多いと、こういう準備も楽よね」
 手早い仲間達の対応に、美咲が称賛と喜びの色を乗せて声をあげる。
「流石、先輩……!」
 無明が狐面の下で声をあげた。
「ですが、あまり時間をかけていては、二人が危険です。ヒーラーを手早く倒しましょう!」
 メルトリリスが叫ぶ。
「僕たちに任せてよ。癒すことを忘れる位に、怒りのただなかに引きずり込んであげよう」
「ただのイタチ風情が何する者ぞ! こちとら豪徳寺のママ、美鬼帝よ!」
 死聖と美鬼帝、二人の放つ挑発の術が、癒イタチを捉えた。ぎぃ、とイタチは怒りの声をあげて、その刷毛のような手を鞭のようにしならせ、二人へと襲い掛かる!
 ひゅん、と音を立てて、その刷毛の手がしなった。無数の刃物でつけられたような傷が、美鬼帝の腕へと切り傷を作る。
「むぅ……っ! でも、私はこの程度じゃ倒れないわよ!」
 美鬼帝が衝術を使い、癒イタチを吹き飛ばした。ぎぃ、と悲鳴を上げたイタチが、木々を縫うように走り出す。
「どこに逃げようってんだてめェ? まだまだ楽しもうぜ、なぁ!!」
 だが、その動きもすでにアランによって察知されていた。逃げ道をふさがれた癒イタチは、地の利を利用することすらできずに、イレギュラーズ達の前へと釘づけにされている。
 アランの斬撃が、癒イタチを切り裂いた。きぃ、と悲鳴を上げたイタチが、慌ててその手の刷毛を自身に塗りたくろうとするのへ、
「回復なんてさせない! その手、封印させてもらうよ!」
 メルトリリスが封印術式を放つ。放たれた術式の光弾がイタチの両手に着弾。輝く封印魔法陣を描き、一瞬にしてその力を奪い去った。
「君たちが殺した人々の苦しみ――その一部だとしても、味わってもらうよ」
 死聖が放つのは、『黙さぬ苦しみの声』――元死霊術師としての力を用いた、呪われた拳の一撃だ。拳がイタチへと突き刺さると同時に、無数の死者たちの怨嗟と、死の瞬間の苦しみが、爆発するように癒しイタチの中を駆け巡った――その余りの激痛に耐え切れなくなったイタチは、ぎぃ、と悲鳴を上げてその命を失った。
「やった……!」
 無明が声をあげる――流石は先輩、と言った所か。その動き、戦い方、学ばせてもらう事も多い。
 すぐに、同じ場所に並んでみせる、と無明はおもう。だが、いまは。
「残り二匹、すぐに二人を助けに行かないと!」
 その言葉に、仲間達は頷き、駆けだした。

 斬。振るわれる斬イタチの斬撃が、木々に深い斬り痕を残す。瑞鬼は軽やかに木々の合間を走り抜け、寸での所で、その鋭い刃を回避してみせた
「かっかっか、他のイタチがいなければこんなものか? それでは飛んでいる蝶も斬り落とせぬぞ?」
 挑発の笑い声――ぎぃ、と斬イタチが怒りの雄たけびを上げ、その刃を振り上げる――そこへ。
「やあああっ!」
 気合の声と共に、飛び掛かってきたのは無明だ。殴り掛かって一撃を加え、そのまま回転蹴りのコンビネーションを叩きつけてやる。斬イタチは悲鳴を上げながら、吹き飛ばされた。空中で姿勢を整えて、地に落着する。
「大丈夫!? 癒し手は片付けたよ!」
 無明の言葉に、瑞鬼はかっかっか、と笑い声をあげた。
「おう、意外と早かったのう。よきかなよきかな。となるとイタチよ。名残惜しいがお遊びもここまでのようじゃなぁ」
 瑞鬼は笑い――刺青の彫られた手を掲げた。途端、巻き起こる巻き起こる衝撃波がイタチを強かに叩きつけ、その足を止めさせる。
「随分足の速さが自慢の様じゃが、これでどうかの?」
 ぎぃ、と悲鳴を上げて、足を引きずる斬イタチ――そこへ、超遠距離から放たれる魔術砲撃が、次々と着弾。それは、メルトリリスの一撃だ。
「あなた、人を斬りつけたら快感を覚えてるのね……既に言葉での和解の道は、本当にない敵なのね。あなたは、越えてはいけない一線を超えた……!」
 放たれる、魔術砲撃――今日のメルトリリスは縁の下の力持ちと言った戦い方をしている気がした。でも、それでいい。確実に勝利に近づくなら。そんなメルトリリスの援護砲撃をかいくぐって、斬イタチへと接近する、一つの影。
「バラバラになれこの野郎……!」
 それは、アランだ。紅い『殺意のオーラ』を纏った刃を高々と掲げ――一息に振り下ろす。
 斬! 振り下ろされた刃は、寸分たがわず斬イタチを真っ二つに切り裂いた――同時に追撃の爆発が巻き起こり、文字通りに斬イタチをバラバラに粉砕した。
「おお、お見事。これで残りは転ばし手のみじゃな」
 ぱちぱちと拍手などをして見せる瑞鬼に、アランは笑みを浮かべた。
「お前の言う通り、連携にのみ恃む奴は、各個撃破すりゃこんなもんだ。行くぜ、最後の仕上げと行こうじゃないか」

「むむ、さすがにちょっと……辛くなってきたかも」
 振るわれる棍棒の一撃を、ヒィロは手さばきで受け流して見せた。戦闘はすでに佳境ではあったが、その分ひきつけを担当していたヒィロへの負担は大きい。
 転イタチとて、単に転ばすだけが能という訳ではない――とはいえ、ヒィロも充分、引き付け役を担当していたといえるだろう。少なくとも仲間達が他を処理するまで、可能性を消費したとはいえ、ここにこうして耐えきっているのだから
「お待たせ。下拵えは済んでる?」
 そんなヒィロへと声をかけたのは、美咲だった。
「美咲さん来てくれたんだ!」
 ヒィロの顔に、ぱぁっと笑顔が咲く。現れたイレギュラーズ達の増援に、転イタチはぎぃ、と雄たけびを上げた。仲間を呼んだのだが、それに応える存在はもはやない。
「残念だけど、あなたのお友達はもういない。後は、あなただけね」
 美咲の言葉に、ううう、転イタチは威嚇の声をあげる。すぐに、がぁ、叫び声をあげて、その棍棒のような腕を振り上げながら飛び掛かった――。
「おっと、そうはさせないわよ」
 美鬼帝がその前に立ちはだかる――その肉体を以って、美鬼帝は転イタチの打撃を受け止めた。わずかにぐらり、と身体が揺れるが、美鬼帝が倒れることは無い。
「さぁ、トドメよ!」
 美鬼帝の言葉に、仲間達は頷いた。イレギュラーズ達による一斉攻撃――それは、イタチたちに負けぬほどの、連携攻撃であるともいえる。
「最後は、私らだけの連携も、主張しておきましょ?」
 美咲はヒィロへと微笑んだ。それは、かまいたちたちへの、対抗心か。それとも我儘だっただろうか?
 でも、どっちでもいい、と美咲は笑った。だって、やる事は変わらないじゃない?
「いつものヤツいっくよー!」
 ヒィロは美咲と共に、動いた。その速さに、美咲はついていく。
「真の連携力、思い知れー!」
 吠える、波濤の如き蒼の咆哮! 貫かれた転イタチは、その声に魅了される。
「それに魅了されたら、お終いよ」
 美咲が言った。その瞳、魔眼が怪しく輝く――それは虹の魔眼、紫の一つ。この紫の輝きの前にあるものはすべて供物。紫の目に捧げられ死は生命、魂。それはいかなるものも逃れられぬ絶対の命令。
 魔眼に捕らわれた転イタチが、ぎゅう、と息を吐いた。それは、生命を吐き出すにも近い行為だった。やがてすっかりすべての生命力を失った転イタチが力を失って、ずるり、と地にその身体を横たえた。
 そして――森はすっかり、元の静けさを取り戻したのである――。

●勝者への称賛
 どさり、と、イタチの死骸を、村の広場へと置いた。
 物珍し気に、村人たちがそれを見つめて――安堵の息を漏らした。見ればわかる、ただのイタチではない。それが獰猛な魔獣であったのだという事を――そしてそれが討伐されたのだという事を、村人たちは理解したのである。
「この通り、全部倒したよ……一匹は死体が残らなかったから、取り合えず鎌みたいな手の破片で勘弁してほしいな」
「はい……ありがとうございます、神使さま」
 美咲の言葉に、村の長深々と頭を下げた。おお、と歓声が上がる。村人たちの視線は、イレギュラーズ達への感謝のそれに満ちていた。
「なんだか、くすぐったいというか、むずむずするね」
 無明がそう言って、狐面を被りなおした。その下では、些か頬が赤くなっていたかもしれない。
「でも、感謝されるに値することを、僕たちはやったんだ。そこは誇ってもいいと思うよ」
 死聖が微笑むのへ、無明はこくり、と頷いた。
「まぁ、一仕事終えたのじゃ。労われても当然じゃろうよ」
 かっかっか、と瑞鬼は笑う。
「えへへ、よかった。皆に笑顔が戻って」
 ヒィロが、自身もにこにこと笑いながら、そう言う。
「カムイグラでも、皆の笑顔をいーっぱい見れるように、頑張りたいね!」
「そうねぇ。やっぱり笑顔が一番、だわ」
 美鬼帝も頬に手をあてて、笑った。
(にしても……剣の性質に、攻撃……まだ保つとはいえ、傷は浅くねェか)
 アランが自身の腕を見つめながら、胸中で呟いた。使った武器は、己を傷つけもする、まさに魔剣だ。戦いによって蓄積されたダメージは、決して小さくはない。
「……アラン、怪我してない? 大丈夫ですか?」
 そんなアランへと、メルトリリスは心配げに声をかけた。アランは少しだけ笑みを浮かべて、頷いた。
「ん? あぁ、俺は平気だ。……お前こそ大丈夫かよ、メルト?」
「ん……私は、良いの。貴方が無事なら、それでいいの」
 メルトリリスは、静かに頭を振った。
 様々な思いを抱きつつ、事件は解決に導かれた。
 広場にはいつまでも、イレギュラーズ達を称える村人たちの声が響いていて、そのくすぐったいくらいの称賛に、今はイレギュラーズ達は酔いしれるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました。
 皆さんの活躍により、かまいたちの魔物は撃退され、村の人々は救われました。
 皆さんの名声も、また一つ、豊穣の地にて語られるものとなったでしょう。

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