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シナリオ詳細

<禍ツ星>薔薇輝石のゐろは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「信隆殿。此度の夏祭りは海洋王国と呼ばれる外つ国との合同祭事であるらしく、御所様が嘗て希望なすっていた物となるそうだ」
「聞いている。『さまぁふぇすてばる』と呼ぶのであろう。
 外つ大陸より参った者が良く口にしていた。御所様の希望が叶うというならば吾も喜ばしい。……中務卿の弛まぬ努力と言うならば、吾も努力を重ね御所様の眠りを覚まさねば」
 庭先の花の手入れを行っていた九鬼家当主――九鬼・信隆はその整ったかんばせに笑みを浮かべた。ゐろはと云う幼名を持つ彼女は代々の当主が次ぐべき『信隆』の名を継ぎ、九鬼を束ねている。父と兄が戦死した際に継いだ名ではあるがその美貌と名は相反する印象を与えた。
 御所様――霞帝――が眠ってからと云うもの、かの人へと忠誠は曇ること無く、何時かは此度の事態を引き起こした諸悪の根源を絶ってみせると彼女は決めていた。その忠誠により燃え盛るその怒りは決して隠し切れる物では無い。ひた隠した様に笑みを浮かべてみせるが、囂々と盛る音が聞こえる如く、苛立ちを滲ませているのだ。
「それで――信隆殿。中務卿より何らかの要請があったと」
「ああ。御所様の夢、『さまぁふぇすてばる』に悪しき存在が潜んでいるようなのだ。
 吾らにもその対処に当たれという。英雄殿らは此方に向かっていると聞いたが――……」
 そ、と顔を上げた信隆は側仕えであった男に武器を此に、とそう告げた。その身に纏っていた重苦しい衣は紐一つではらりと解け往く。衣など少なくて良い――御所様の為に戦果を挙げる為には軽やかに踊らねばならぬのだから。
 信隆はイレギュラーズを見据え、堂々と己が名を口にした。兵部省に役人を輩出する獄人にして、御所様が為に身を濯ぐ忠誠の娘。その名は、
「――吾は九鬼・信隆。英雄殿らの来訪を歓迎しよう」


「吾らが向かうは九鬼より程近い位置にある山村である。事前に内偵を入れた所、向かった者は豹変し此方へと刃を向けてきた」
 九鬼家の分家に類する者がその山村へと向かったそうだ。その者は命辛々、当家に戻ってきたが突如として信隆へと刃を向けた。現在は意識を奪い、牢へと繋いである。
「その際に口にしていた言葉が気にはなる。妖が発生したと聞いていたが――……どうやらそれだけではなさそうだ」
 悩ましげにそう告げた信隆。自身へと刃を向けた男は譫言のように『薔薇輝石』と呟いたらしい。
 九鬼の側にある山村では御所様の望むる祭りが開催されることを喜んだある恋仲の鬼人種が婚姻の儀を挙げると聞いていた。その晴れの日に妖が発生したというのだから村民のためにも対処を急ぎたいというのが名家の勤め――であったのだが。
「……何かがおかしい。申し訳ないが、共に向かって呉れるか。
 吾も此度、婚姻の儀を挙げる者は幼少の頃より知っている。そのさいわいを穢す事など許せないのだ」
 信隆にとっては、知己であるという恋仲の男女。それらの婚姻を祝福したいという気持ちは決しておかしな者では無い。
「案内する。往こう。――……どうか、奴等の婚姻を共に祝福してやってくれ」

GMコメント

 日下部あやめと申します。

●成功条件
 ・妖の討伐
 ・呪具の破壊

●妖『輝石のかけら』 五体
 きらめきを放つ真白の獣。縦横無尽に村内を駆け巡り、目に付く者に狂気を振り撒きます。
 幸福や愛を喰らい、その心を完全に消し去ろうとする特徴があります。
 遠距離攻撃を主体とし、迚もすばしっこくすぐに離脱しようとします。
 呪具『薔薇輝石』より生み出されています。

●呪具『薔薇輝石』
 山村のどこかに存在する鮮やかな宝石。呪いを帯びて妖を発生させます。
 パンドラを持たぬ者に狂気を伝搬させる様です。魔種のものよりは効果は薄いですが、戦闘能力を有さぬ者にとっては呼び声のように脳を掻き混ぜられるでしょう。
 キィ――キィ――と嫌な音を只管に響かせ、妖が集めた愛や幸福でその力を増します。

●舞台背景:山村
 九鬼邸の近くに存在する山村です。村人の数は少ないですが、祝言を挙げるために外より人々が集まってきていました。
 祝言を挙げる鬼人種の男女は現在、村長の邸内に匿われています。
 呪具『薔薇輝石』に近づくと影響を受けてしまうでしょう……。
 すべては無事に済んだ後――婚姻の儀を見届けることも可能です。

●九鬼・信隆
 カムイグラに住まう獄人。代々兵部省に務める軍人の家系、九鬼家の現当主。
 男性名ですが女性です。当主の継ぐ『信隆』の名を継いでいます。幼名は『五郎八(いろは)』。
 帝を御所様と呼び厚い忠誠心を抱いています。此度は帝が嘗て望んだ外つ大陸との交易を台無しにする呪具に激しい怒りを抱いています。
 戦闘能力は非常に高いですが、繊細な事は得意ではありません。猪突猛進です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <禍ツ星>薔薇輝石のゐろは完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
オジョ・ウ・サン(p3p007227)
戒めを解く者
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

リプレイ


 生生たる村々を抜け、辿り着くは小さな山村であった。神ヶ浜と呼ばれし神々の通い路から続く空の色はのっぺりと立つ山へと吸い込まれるように消えていく。背丈の高い木々の合間より降り注ぐ陽光を受けながら、先陣切って進む九鬼・信隆は「此方へ」と特異運命座標へと声を掛けた。靭やかに、往くは信隆と八名の特異運命座標。此度、この村で行われるという婚礼の儀に参列するためではなく――陰謀渦巻く都の諍いにより各地に設置されたと云ふ『呪具』の破壊と妖の暴動を防ぐ為である。
「婚姻って大事ですよね。えぇ、絶対に。だからこれ以上荒させません」
 そう、力強く言った『鏖ヶ塚流槍術』鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)は口元をそ、と抑える。鬼人種の強靭な体は死を許す事はないが――一度歩めば腔内を鉄の味で満たしてゆく。「おええ」と『血反吐』吐いた彼女の様子に目を丸くした永劫の死者――『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は「ハンカチ入る?」と首を傾いでみせる。長い射干玉の髪がその頬を掠め、夏風がふわりと呷った感覚に擽ったげに目を細めた。
「婚姻。うん、幸せだね。けど、幸福と愛を喰らう妖と呪具なんて良い趣味してるね」
「そうだな。折角の門出につまらねえ事が起きやがる。悪趣味な妖だぜ」
『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はそう告げた。彼の視線の先には九鬼家の当主信隆が立っていた。カムイグラでその噂を聞いたことはあるが、女性乍ら当主を勤め上げる手腕はその『力強さ』によるものだろうか。
「準備は良いか」と信隆が振り返る。その言葉を咀嚼し頷いた銀城 黒羽(p3p000505)は僅かな苛立ちを隠せずに居た。幸福や愛を喰らい心すべてを位尽くす妖。「気に入らねえ」と小さくぼやけば、その感情一切総てを仕舞い込む。私情を切り捨て義務的に仕事に臨まんとする彼の傍らでこくこくと頷いた『戒めを解く者』オジョ・ウ・サン(p3p007227)もやる気は十分だ。
「婚姻の義という人生にとって最大ともいえる儀式を迎えるお二人を邪魔するものは……何と申しましたか。馬に蹴られて死んでしまえ、でしたか? ……でありますね」
 こてりと首を傾いだ『全霊之一刀』希紗良(p3p008628)。起ってしまっている事象総てを消し去ることは出来ない。だが、これから先の被害を最小限に留めることは出来るはずだと、死力を尽くすと宣言する希紗良に信隆はゆったりとした笑みを浮かべてみせる。
「それじゃ、行くぜ。九鬼当主」
「信隆で良い。九鬼の名を持つ者も神威神楽には多く居るからな」
 一先ず説明は『現場で』とそう告げる『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の言葉に信隆は愉快そうに小さく笑った。先陣切って飛び込んで暴れ回る戦鬼が如き女は今は特異運命座標――中務卿が『英雄』と称したこの国に変革をもたらす者――に自身の行動指針総てを委ねているのだから。


 舞うが如く。袖にフリルを揺らして『闇之雲』武器商人(p3p001107)はその言葉を費やす。祝言を楽しみに、そして新たな門出に祝福を送る者達へ此処は危険とそう口にすれば助けてと乞う声がする。
「さぁ、逃げて逃げて。ここに居ちゃさいわいを観測(み)る事さえ叶わないさ」
 武器商人は一つの推論を持っていた。各地で突如として発生した妖。この村の場合は呪具が祝言を挙げるために村の外より集まってきた者による持ち込みの可能性があるのでは無いか、と言うことだ。
 黒羽はまるで旧友の如く村人に声を掛け、「逃げろ」と指示をした。自身らだけでは手が足りない可能性がある。ならば、相互の協力こそが今は必要であろう――と言う判断だ。使える者は使う、とそう言う彼に頷いた希紗良はルカと黒羽を振り返った。
「死人が出てしまっては婚儀どころではありませぬ……。お二方、どうぞよろしくであります」
 助けを求める者の声を辿るように。希紗良はずんずんと歩き続ける。人助けセンサーとそして捜索の能力を使用して、三人での避難行動を行うルカは取り零し無い様にと気を配る。
「妖が出たよ! 急いで村長の家まで避難するんだ!」
 その声音が響き渡る。バスティスの声を倍増させる『スピーカーボム』の声音は僅か、反響し隠れた人々を探すことも出来るであろう。彼らを避難させるのは村長の邸宅だ。
 孤屠は村長の家を中心に防衛線を展開し、その場で一網打尽にするべく唇より溢れた血潮をぐい、と拭った。「頼りにしてるぜ、大将」とルカより激励を受けていた信隆は英雄と肩を並べ戦う事に僅かな効用を感じているのであろうか。
「それじゃ、説明するぜ。簡単な話だ、オメェさんにゃ『一番分かりやすい』だろうよ。
 こいつぁ輝石のかけらに村人らの幸福や愛を喰われねぇように一ヵ所にまとめることで、薔薇輝石の力をそれ以上増やさせねぇようにすること、輝石のかけらの動きを誘導しやすくする目的がある」「成程、なら『防衛』しながら撃破すれば良いと」
 ゴリョウの言葉に信隆は笑みを浮かべた。それならば得意中の得意だ。前線で暴れ回れば良いと言うことなのだから!
 逃げ惑う村人達を先導する武器商人は逃げる村人達の中には呪具を所有する者は存在していなかったと告げた。祝言のためにどこかに安置したか――それとも。
「妖を倒すのも大切だが、薔薇輝石を壊さねぇと妖が無限に湧き続けちまう。
 何処にあるかを探さなくっちゃな……防衛線は頼りにはなるが、無尽蔵だと後が怖い」
 黒羽はそう呟き、超聴力を生かして『薔薇輝石』を――呪具を探す。
「妬み嫉みの塊のような力なのに奇麗な宝石って言うのは皮肉だね」
 バスティスはそう言った。その蜂蜜色の双眸に翳りを映し込み現況を打破するべく声をかけ続ける。
 茫と中を眺めた村人は呪具に『アテ』られたか。虚を胡乱見遣ったそれをルカはその胸ぐらを掴み「俺達は神使だ! 村長邸で守りを固めてる仲間がいるからそっちに逃げろ!」と揺さぶった。声が届けば良い――鬨の声で鼓舞するべき相手に対し、乞うようにルカは何度も何度も声を掛ける。
「しっかりしろ!」と、そう告げる彼の声を聞きながら希紗良はその傍らで怯えたように蹲る女へと声を掛けた。背を撫でて自身が悪しき者では無いと――そう告げるように。
「この村には今、何人くらい人がいるでありますか? その居場所は分かるでありますか?」
 女は首をふる、と振った。大体は新郎新婦と共に村長宅及びその周辺での準備に追われいると恐れの声を漏らしながらそう告げる。女は、傍らの男と共に祝言に必要な物品を取りに戻ってきたのだという。
「……どうやら、のんびり避難誘導と捜索してる暇を与えては呉れなさそうだ」
 ルカの言葉に希紗良は顔を上げる。黒羽が相対したその場所には妬み嫉みとは関連性も感じさせぬ清廉なる白の獣が立っていた。


「幸福や愛を喰らうらしいですけれど、お前が味わうのは鉄の味だけです」
 そう告げる孤屠は『鏖ヶ塚流』の槍術を使うが為に只の只管に距離を詰める。戦意が上昇している、血潮が沸き立った――その勢いの儘にその身は痛みに蝕まれ唇は紅を引いたように赤い色がなぞる。だが、其れさえ気にする素振りもなく脳内麻薬が分泌した様にその体を戦へと掻き立てた。
 村長宅前で自身に対して破邪の結界と魔力障壁を展開していた武器商人は皐月の儚き月の如く踊るように小さく笑みを零す。いつの間にやら側にぴたりと寄り添った『気の合うコ』の笑みが聞こえるかのように――振り上げた忌鎌には不倒を望む魔石を煌めかせる。
「さて、幸福に愛ね。よかろよかろ、ヒヒヒ、キミたちが多少食ったところで泉の水で腕を汲んだ程度の事よ。
 だが、お気をつけ――我(アタシ)の『ソレ』は多少ゲテモノだぜ? ヒヒヒヒ」
 銀の月が笑っている。美しくも囁くその声音は諧謔的な響きを乗せて――ぐるりとローブを揺らした武器商人の傍らでずん、と自身の両の足に力を込めたゴリョウはガントンファーを手に襲い来る白き獣を相手取る。それらは煌りと輝きを発する幸福や愛を喰らう獣。呪具の奏でるような気色の悪い音は響かせないが獣の息遣いはダイレクトに聞こえ続ける。
「アレを倒せば良いのだろう」と信隆はそう言った。地面を踏みしめて跳ね上がるような彼女に併せればゴリョウは快活に笑う。愉悦の感情に乗せて、飛び込んでくる者が居ると言うなればその総てを受け止めてやろうとその巨躯に聖なる哉と侵されざる領域を展開させた。金眸に集めたまなざしは不快感と違和感を齎し、獣たちを自身へと誘い続ける。
「中の奴らにゃ指一本手を出させねぇさ!」
 そう告げるゴリョウ。内部の村民の話し相手になっていたオジョ・ウ・サンの代わりにと前線立ち回る信隆は彼の様子を見て此れが中務卿が認め、そして英雄と呼んだ者達だというか。
「その程度の狂気じゃあこの豚を惑わせるこたぁ出来ねぇな!」
 ゴリョウのその言葉を聞き、信隆は一層この場での妖の動きを止めねばならないと攻撃を重ね続ける。前線で立ち回る孤屠と信隆。そして、笑みも深く、嗜虐的に攻撃を行い続ける武器商人も楽しげだ。
 一方で、索敵と避難誘導を行っていたバスティスは村人達の言葉より、村内で祝言を挙げるべく広間には持ち寄った様々なものが存在しているのだという。其処に『薔薇輝石』が存在している可能性に気づき、歩み出さんとするが――
「やっぱり図星ってやつかな? まあ、人がいないと効果が薄い呪具だから案外堂々と置かれていたりしてそうだよね」
 だから、祝言を挙げるべき場所に『知らぬうちに安置された』のかとバスティスは眼前の白き獣に視線を送る。村長邸前での応戦もあるが、呪具の排除にも向かわねばならない。
 信隆に深追いしすぎないように、告げた自分の眼前に獣とは中々に面倒なものだ――と顔を上げたその場所にずん、と距離詰めるように濡羽色が踊る。
「恨みはありませぬ。しかし現状を捨ておくわけにはいかないでありますよ!」
 その手にはレプリカの剣を握る。ぴょこりと耳を揺らした『妖憑』の娘は仕事であるのだからどのような任務とてこなしてみせると支援するように身を投ずる。放つは一刀両断、その切っ先に曇りはない。気まぐれな猫のように『喜び』をその目に映したバスティスは「有難うね」と告げずんずんと進む。
「あっちに『薔薇輝石』が?」
「聞いた葉範囲なら屹度ね――こっちになければ何処にもないよ」
 黒羽へと頷いた。バスティスが進むその道に白き獣が無数に見える。成程、正解のルートだという事かとルカは認識した。
「ここに俺がいたのがテメェらの運の尽きだぜ!」
 防衛線を突破などされぬようにと――彼そう気を配りながらずんずんと進み往く。魔剣『黒犬』のレプリカを振り下ろす。不幸な魔女が作ったとされるソレを力任せに片手で扱うその掌にじわりと蝕む怨恨が嫌らしい。而して、それが其処に痛みを与えようともルカは構うこと無く乱撃を持って獣を仕留め続けた。
「逃げられるのが一番やっちゃいけねぇ――ここで終わりだ」
 そう告げる黒羽は自身より黄金の闘気を漲らせた。不屈の心を象徴するソレは練り上げられて鎖と変貌する。獲物総てを捉えては放さぬ無謀――而して魔物の動きを阻害し離すこと無き一撃が獣を縛り付けたその場所へとルカは滑り込み一撃投じる。癒やし手たるバスティスは癒やしを歌うように生者のいのちを延ばせば、そのぬくもりに更に動けると獣を退ける手は動き続けた。
 開け放たれた邸内の机にしっかりと置かれた美しき呪具は恋情の末を見守るように清廉なる輝きを放つ。然し、キィ―――と嫌らしく奏でたその音を退けるように杖を叩き付けたバスティスは小さく息を吐いた。
「これで、壊れたね……?」
「そうでありますね。残るは残党の消滅!」
 振り向いた希紗良が背後より迫る白き獣を切りつける。散るは赤き血潮では無く、美しき白き結晶。きらり、きらりと纏うそれを受けながらルカはずんずんと村長邸宅へと向かった。
 未だ続く押収ですくなからずの疲労は濃い。然し、すでに供給は絶たれた。此れ城に増えるものは無いと鼓舞の声を上げながら、獣を滅せれば――周囲に広がる混乱は直ぐさまに晴れた。まるで、夏空を覆った暑い白雲が風に祓われるかのように。天より吹いた祝福の如く、村の者達のその双眸には彼らの姿は映っただろう。


 静々と婚姻の儀は進んでいく。婚礼料理の調理を手伝いたいと名乗りだしたゴリョウに村の人々は驚いたものだが信隆の口添えもあって調理場に立ったゴリョウは豊穣の婚礼料理が知れる良い機会だと手際よく調理を続けている。
 是非、参列して欲しいと声かけられた武器商人と黒羽は隅でその様子を眺めて居る。どうやら、大陸とは少しばかり文化が違うか――それもあの大海を隔てた事での様子なのだろうか。
 安置されていた呪具を壊したことで一段落と汗を拭ったバスティスに飲み物を差し入れる小さな子供は「おねえちゃんたちも結婚式にでるの?」と舌っ足らずな調子で問いかけた。
「うんうん、折角だしね」
 にんまりと微笑んだバスティスの傍ら、周囲を清め終えた希紗良は「末永くお幸せに、であります」と新たな門出を祝う。
「さて、婚姻の儀の際には私の槍術を余興でもお見せしましょう!
 さぁさぁご覧あれ鏖ヶ塚流! どんな物も穿ちますよ!」
 堂々と立ち回った孤屠は自身が血反吐を吐きながら得たその槍術を祝福に変えて披露する。
 無事、近隣の村で行われる婚礼の儀を見届けることが出来たと九鬼家の当主として胸を撫で下ろした信隆へとルカはふと、その凜とした横顔に問いかけた。
「信隆サンよ、アンタも結婚に憧れとかあんのかい?」
「――……幼き頃はあったものだ。だが、今の吾は九鬼家の当主だ。
 その責務を果たさねばならないからな。何れ、九鬼を共に背負いたいと願うものが居たならば……」
 其処まで口にした後、信隆は忘れてくれ、と小さく笑った。外つ国との合同祭事――『御所様』の望みが一つを。叶えられたことが嬉しいとでも言う様に。信隆は目を伏せた。
 喧々と響いた宴の声は酷く心地よく特異運命座標を包み込む、そんな夏の長い夜の一幕であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

オジョ・ウ・サン(p3p007227)[重傷]
戒めを解く者

あとがき

 この度はご参加誠に有難うございました。
 また、ご縁がございますことをお祈りして――

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