PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<禍ツ星>猫が来たりてにゃんと鳴く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 それは、猫である。
 特段、おかしな所もない、ただ少し長生きなだけの、二股尾を持つ猫だ。
 その特性は、臆病であった。
 妖と縁深いこの土地において、猫はどっち付かずな段階だ。
 普通の猫ではない、しかし妖にも成りきれていない。
 人に媚を売る事も出来ず、妖からは半端者として虐げられ、猫はただ、しなだれた尾を虚勢で立てて歩くしか出来なかった。
 そんな時だ。
 どうやら近くの集落で、祭事があるらしいと聞いたのは。
 小さな村に造られた、質素で小さな社。
 その祭壇に飾られた珠の、なんと美しく荘厳なことか。
 一目みた時、あれが欲しい。と、強く心に感情が沸き上がったのだ。
 それは、猫にとっては本来、起こり得ない行動だった。
 三日三晩、飾り置かれるその社へ潜り込み、欠伸をする見張りに心臓を破裂させそうになりながら忍んで、そうして辿り着いた場所に猫は立つ。
 聖域の様だと、そう思う。
 見上げる珠は暗闇の中で薄光を纏い、純白の色を淡く広めていた。
 欲しい。
 あれが欲しい。
 それさえ手に出来るなら、他にはなにも要らないのに。

 ──ほんとうに?

 本当にそうだろうか。

 ──いいや、そうさ。

 本当にそう思った。

 だから、猫は祭壇に足を掛けて登り、光りへと静かに口付けをした。



 その日、祭りを控えた村には悲鳴が起こった。
 逃げ惑う人々の声だ。
 荷物も持たずに村を離れ、追いかけてくる妖達を恐れて走る。
『あは、ハハハハ!』
 それは、大猫の姿をしている。
 半透明で、背後を透けて見せた、幽霊の様な猫の群れだ。人をゆうに越えた背丈は鋭い爪で大地を削り、吐息するように吹いては戻る風は空気を凍り付かせる。
『こんなに簡単なんだ。もう誰も、私をバカになんて出来ない! 逆らったら殺してあげる! こんなに、こんなにっ、こんな力──』
 ひとりぼっちの猫は、溢れる力で産み出した分身体を集落中に敷き詰めて笑っていた。
 そこには誰も残らず、今までと何も変わらないと知りながら。


 ギルド、ローレットの中は賑わいをみせている。
 どことなく浮き足だった賑わいだった。
 それもそのはずで、新天地であるカムイグラでの夏祭りが控えているのだ。
「うん、じゃあ働こう?」
 しかしそんな気持ちを一刀両断して、『情報屋見習い』シズク(p3n000101)はイレギュラーズ達へ仕事を回した。
 今にもブーイングを浴びせてきそうな顔を見回して首を傾げた彼女は、一拍を置いて理解の手を打つ。
「うん、仕事をして欲しいんだけど」
「こいつ……!」
 まあでも依頼は待ってくれないから仕方ないよね。
「というか、夏祭りの為の仕事だから、そうガッカリしないでさ。働いた後のご褒美があると思ってさ、ね?」
「どういうこと?」
 興味を持った──甚だ不本意そうではある──イレギュラーズ達に頷いたシズクは続ける。
 いいかな? と、一つ確認の言葉を挟み、続きを促す視線を受けて言葉を作る。
「夏祭りの準備中に、妖による騒動が起こってる。なんでも、今回の祭事に合わせて祭具として配られた珠があったらしいんだけど……」
 紛れ込んだのか、それとも変質したのか、はたまた誰かの手によるものか。
 その道具は、どうやら妖怪を呼び寄せてしまったらしい。
 加えてそれは、邪な力を増幅させる機能も持っていた様で。
「村中、てんやわんやの大騒ぎさ。このままだとお祭りの前に、地図から村が一つ消えるだろうね」
 だから、そうなる前に手を打たねば。
「私が皆に担当してもらうのは、猫が取り付いた村の救出。巨大化した猫が社に取り付いているから、それを取り除いて欲しい」
 その猫は、どうやら得た力で、無尽蔵に半実体の分身を作り出せるらしい。
 目撃者の話では、爪の引っ掻きや凍てつく空気を吐き出してくるという。
「なんとか分身の群れを突破して、本体を叩き潰さなきゃいけないようだ。数がある分だけ耐久は低そうだけど、情報も少ない相手だ、十分に気を付けて」

GMコメント

 というわけで、全体依頼です。
 やることはいつも通りですね。
 では以下補足。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 敵の戦闘データに関する部分だけです。

●依頼達成条件
 村の解放。

●現場
 小さな村、とはいっても、十分に敷地としては広いです。
 右も左も前も後ろも猫の分身が見えるでしょう。
 猫の社は中央にあります。

●出現敵

【猫】
 力を得て人語と強大な妖力を身に付けた二股尾の猫です。
 テンション高めの情緒不安定。
 鋭い爪、俊敏な動き、凍てつく様な力を存分に振るいます。

【分身猫】
 喋らないだけで上記猫の防御力劣化体。
 攻撃力と俊敏さは本体の3分の1程度ですが、数は沢山います。

 以上、簡単にはなりますが補足として。
 
 よろしくお願いいたします。

  • <禍ツ星>猫が来たりてにゃんと鳴く完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月06日 22時37分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
守りたいものの為に
津久見・弥恵(p3p005208)
魅惑のダンサー
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
鷹乃宮・紅椿(p3p008289)
秘技かっこいいポーズ
ハンス・キングスレー(p3p008418)
虚刃流直弟
花榮・しきみ(p3p008719)
荊棘
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉

リプレイ


 伸ばした腕は頼りなくて。
 掴んだものはすり抜けて。
 そうしてぼくは独り、空白に哭く。


 弾ける様に、空間をぶち抜いてそれはいく。
 風だ。
 圧す力の掛かった風が、ただただ一直線に通り抜けた。
「──どうですか!」
 手応えの声を『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)は上げ、成果を見る。
 空白が出来ていた。
 ひしめき合う、半透明の巨大猫群。それらを真っ二つに分けて出来た道だ。
 だが。
「次がくるっきゅ!」
 鋭く『自身を重ねてしまった』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)が告げる言葉に遅れて一拍、空白を埋める様に猫が溢れてきた。
 分身体の増産がされている。
 ファミリアーを用いた上空の俯瞰で見る限り、半壊した社からの補充は早い。まるで、失った数の分だけ新たに産まれた様な、そういう風にも見える。
 ただ、溢れるその猫達は何をしているのかというと、
「静か、ですね」
 さて、どういうことでしょうか。
 思案する『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(3p005208)は、警戒して練り歩く猫の動きと、攻撃により臨戦態勢に入った猫の視線を受け止める。
 聞いた話、本体は祭具の影響で暴走しているらしい、というのは解っていた。だがそれは今、暴れずに落ち着いているのはどういうことだろうか。
「村の敷地からは出られないと、そう言うことでしょうか」
 村の地図と照らし合わせて『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は仮説をたてた。
「それに、どうやら中に人は居ない様です」
 加えて思う。
 無差別に暴れている、のではなく、敵と認めた存在が居なければ無闇矢鱈と動くわけでもないのでは、と。
「だとすれば安心も出来る。ここから観える範囲に限っては、人は見えないから」
「そのようです、こちらからも反応は無さそうですし、それに──」
 と、『蹴鞠スト』鷹乃宮・紅椿(p3p008289)の声に賛同した『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)の目の前で、人形が引き裂かれた。
 ……見境など、もう無いのでせうね。
 ふ、と吐き出す吐息の向こう。しきみは、自分が操る人形の式が斬殺されるのを見る。
 村の敷居を跨いだ瞬間の出来事だ。
 取り残された人の捜索、ないし誘導でも任せようかと、そういう考えもあったが、今大人しいならば不要に刺激するべきではないだろう、と思い直す。
「ま」
 コキン、と、首の骨が鳴る音に、『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は手をそこに当てる。
 予想より出た音で集まる視線を俯いて逃げ、はぁ、と息を吐いて姿勢悪く前へ出た。
「祭りの邪魔されんの嫌っすし……つか、村を追われちゃ明日の生活もままならねぇし」
 それに。
「それに、本当の意味で邪魔してんのが誰であれ、その思惑通りになんのも、あれだしな」
 上げた目線の先、無数にある敵意の瞳を受け止めて、その奥にある社を、彼等は目指す。


 再度ぶち抜く風を、『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は上空で見る。
 分身猫を一挙に消し去る一撃だ。
 だがそれは、社に到達するより前で消え、空いた部分を埋めようと分身は増える。
「無尽蔵の分身……時間を掛ければこちらの不利は確実だろうね」
 だからこそ本体を優先して叩く。分身を無視し、飛行による上空からの奇襲をするのだ。
 と、その様に考えて、視認されない高度を保ってハンスは進んでいた。
「──!」
 と、地上で追加の音がする。
 視線を戻すと、ぶつかり合う白氷があった。

「夏でも冬をお見舞いするっきゅ!」
 前へ持ち上げられたレーゲンは、両ヒレを突き出して集中を尖らせる。
「……道を、続かせないといけないっきゅ!」
 ルルリアが開けた通路は不完全だ。
 ハンスを除いた七人は今、分身を排除した道を真っ直ぐに突き進む形で村へ侵入していて、当然の如く左右からの攻撃はある。
「おら猫共ォ! お通りの邪魔っすよ!」
「ほら猫ちゃん達、遊び相手になってあげる」
 その注意を引くため、最後尾で慧と弥恵は声を張り上げていた。
(くそ、ガラじゃーねぇってのに)
 立ち塞がる、もしくは待ち伏せが慧の基本スタイルだ。それが今は、移動しつつ敵の衆目を堂々と集め、挟み潰す様な密度の接近を待っている。
 そんな心を知らず、分身猫は爪を鋭く振り上げながら、隣り合う二人へと迫った。
「すまないが」
 だが、それを許さない動きもある。
 紅椿だ。
 最前列をルルリアとレーゲン、最後尾を慧と弥恵が位置するその列の真ん中に居た彼女が、弾かれる様に地を蹴って斜め後ろへ進む。
「消えてもらおうか!」
 行くのは慧の側、群がる分身をサイドから強襲する形で、腰に溜めた魔剣を振り抜く動きで打った。
 その一閃で、引き寄せられた分身体は霧散する。
 しかし足りない。
 逆側、弥恵の方向からも爪は来ている。
「間合いに入りませうか」
 指に符を挟んで、力を込めて緩やかにしきみは放った。
 それは近い位置の分身に迫った瞬間に変質し、まだら蛇となって首筋に食らい付く。その瞬間に分身の姿は宙に溶け、蛇は次の獲物を目指して続けて飛び、二体の攻撃を発生前に潰した。

 しかし、足りない。

「……っ」
 一歩を前へ、重心は後ろへ。
 上体を反った弥恵は爪を紙一重で回避する、と、別の爪は既に目の前、叩き付ける上からの一撃がある。
 ……回避を!
 踏み出した足で跳ねつつ、体を横へ回す動きで捻る。そうして宙を寝転がる様に行き、これも寸での所でやり過ごした。
 だが、着地の瞬間、掬い上げる爪が待ち構えていて、
「──!」
 細い肉を裂いた一撃が、鮮血を迸らせた。


「撃って下さい」
 言葉と同時に、それは放たれる。
 レーゲンからの寒風だ。
 社まではあと少し。貫通する二種の風を二発程使えばたどり着けそうだと、そういう距離にいる。
 その一発を、今使った。
「とはいえ、学びますか」
 魔導書をパタリと閉じる。直前まで開いていた頁に記された、治癒に関する項目が発現して、弥恵の傷口を塞いだ。
 そこまでを淀みなく行ったリンディスは、改めて前を向く。
 レーゲンの放つ風を、猫の群れが消し飛ばされながら、しかし抗うようにして冷気の膜を張っている。
 拮抗状態だ。
 だが、そこに重ねてルルリアが追い風を入れれば、突破も容易いだろう。それくらいには、分身猫の力は群れといえども弱い。
「しかし、それは悪手でもあります」
 増え続ける猫達を、今吹き飛ばしても、移動の最中に補填されてしまうのはもう知っている。抵抗を捩じ伏せる為にごり押しすると、結果的に道を開くまで時間と危険が大きくなるだろう。
「大丈夫……!」
 と、ルルリアが力強く呟く。
 全身に抑えた風を纏い、何時でも撃てる態勢でいながら、ただ前を見据えている。
 そんな彼女がまた、大丈夫だよ、と告げて言う。
「レーゲンさんなら、ぶち抜いちゃいますからっ」
 そう言った直後に、言葉通りの事が起きた。
「きゅ──!」
 ぶち抜きだ。
 拮抗する冷気を押し通り、風が群れを突き抜けて吹く。
「突撃ー!」
 そうして、開いた道をイレギュラーズは全速力で駆け抜け、詰まった行き先の末をまた、ルルリアの風でこじ開けた。


『へぇ、ホントにここまで来たんだ』
 ミシリと床の軋みを上げて、猫は社の中で起き上がる。
 脆い場所だと思う。
 肥大化した力で居座るには、余りに小さく弱い場所だ。今の自分にはこんなところより似合った地があるはずだ、と。
 思い、しかし、上手く制御出来ずに生まれ落ちる分身の存在は、自らの未熟を意味している。
 その状態ではまだ動くわけにはいかなかった。
 だからここに留まって馴染むのを待っていたが、そこになんと敵対者がやってきたではないか。
 丁度良い機会だろうと、そう思ったのだ。
 どうやらそれは、溢れた分身を蹴散らしながら向かってきている。
 鋭くなった感覚が、敵の存在を明確に伝えてくる為、それらがどういう動きをしているのかは直ぐにわかった。
 のそ、のそ、と、社から外へ向かい、庇の影が目に掛かる位置で。
『私に殺されに来たんだね、空のニンゲン』
 暴れだしそうな力の奔流、それは氷の塊となって具現する。
 太く長い氷柱だ。
 それを、雑に、適当に、猫は空へ撃ち放った。

「へえ、僕に気付いていたんだね」
 降下の姿勢を取る瞬間の出来事だった。
 ハンスは、社から出てきそうだった猫のフォルムだけを見ていて、そこから急激な冷気を感じたと同時の攻撃を察知する。
 ……あ、これ、無理だな。
 確信しつつも翼で空を打ち、左方向へ身体をスライドさせる。
 その直後に、右半身へとんでもない衝撃がぶちこまれた。
「ぎっ!」
 ぐるんぐるんと回る身体を翼で空気を受けて軽減。しかし墜落する動きは止められない。
(ファーストアタックにはならなかった──だけじゃ済まないかも)
 猫を見た。
 猫も見ている。
 そしてその中間に、太い氷が新たに生まれていた。
 しかも今度は先程の面とは違い、先端が尖った線の攻撃だ。
 もし直撃すれば──いや死ぬねあれは。
 翼を広げ、風圧を受ける。一瞬の制動、加速した氷に直面して、羽ばたきを上昇の為に一打ち。
「──!」
 両手を重ねて振り上げ、氷へ叩き付ける。無理矢利起こした力の流れで身体を氷上で前転、先ずは回避にした。
 それから、足裏で氷を掴む様に感じて、猫へと自身を加速させる。
「行くよ」
 行った。
 頭から落ちる身体を半回転。脚を下に、光を纏ってハンスは堕ちる。
『来いよ……!』
 吠えに迎えられ、蹴撃は猫の額へとぶちこまれた。
 だが弾け飛んだのは、ハンスの方だ。
 地を滑り、受け身で立ち上がるがダメージに膝を付く。
「随分、気がはやいっすね」
 到着した慧が、ハンスの前へ出ながらそんなことを言う。
「あー、もう半壊と言うか、全壊っすね」
 保護結界を使っても、社は基礎と剥がれかけた床板しかないのでは、効果は望めないだろう。
 思いながら、さて、と一息。
「ごきげんよう、寂しがりな猫様」
 八人揃ったイレギュラーズは、周囲を分身に囲まれながらも、本体である猫と相対を果たした。


「見えますか」
 こそ、と呟く弥恵の声に、肯定の息遣いがある。
 見ているのは猫の額、ハンスが穿った肉の奥だ。
 そこに、微かに光る珠がある。
 恐らくはそれが原因の祭具であり、それを取り除けなければ、彼等は猫を殺すしかなくなる、と。そういう事だ。
 出来れば助けたい。
 八人の総意は救出だ。
『私に勝てるつもり? アハッ、嘘でしょ、分身に手こずってる癖に?』
 ハハハ、ハハハ。
 猫は朗らかに笑い、額を伝ってきた血を舌舐り。
 それに紅椿は、剣を構えて息を吐き、一歩を前へ出る。
「いいや」
 と、否定を一つして。
「遊んでやろう、と、それだけだ」
 地を跳ねて行く。
 狙い澄ますのは額の珠だ。
「なあ、お主」
『?』
 間合いを詰め、一撃を狙いつつ爪から逃れ、牽制の振り回しを払いながら言葉を交わす。
「心から願ったのは、こんな光景か? 本当に欲しかったのは、そんな力か?」
『……知った風に言うなよ、ニンゲンの癖にさぁ!』
「っ!」
 返ってくるのは怒りの感情。そして、分身猫の挟み撃ちだ。
「ここに来て制御を覚えたか!」
 無差別の動きとは変わって、明確な狙いを持って攻撃を仕掛けてきた。
 正面と左右の三方向からの攻撃に紅椿は、しかし口角を上げる笑みを浮かべて、身を伏せる。
「やらせはしませんよ、猫さん!」
 同時に、空から光の驟雨が起きた。ルルリアが天に放った魔弾、そこから発生した槍だ。
「そんな、借り物の力で強くなったつもりでも意味なんて無いんです!」
 分身を消し、猫本体にも降るそれは、奇しくも額の珠に命中した。
『ぐぎぃ!?』
 効果は高い。そう判断して、即座に再装填。空へ撃った弾丸で魔方陣を発動させ、
「そんなんじゃ、誰もあなたを認めませんから、だから──」
『ウル、サイ……!』
 冷気の嵐が起こる。猫を中心に、渦を巻く形で、だ。
 光を弾き、眼前にいた紅椿の半身を瞬間で凍りつかせる程の力だ。
「強力です、一度離れて下さい」
 援護の力で氷を砕いたリンディスは、自身も後ろへ退がる。
「あの嵐を抜けるのは容易くありません。が、どうやら悪いことばかりでも無さそうです」
 と、見るのは周囲の分身猫の姿。
 嵐の余波、散らばっていく氷片に、その数は一時的に現状したのだ。
「決めるなら今をもって他にないでせうね」
 符を一つ、二つ抜いて、しきみは空へ放る。そうして空中で鴉に変じた二羽は、風の流れに逆らわず、ただし氷片に当たらぬよう繊細に飛ぶ。
「さて、猫様」
 どうでしょう。
 彼女は荒ぶる気性へ静かに声を掛ける。
「寂しさから分身を産み出したあなた。欲しがるばかりで何も得られぬのです」
 私にも言えますが。とは、胸中で加えつつ、伸ばした指先の微細な動きで鴉を操作。渦の中心、風の無くなった猫の頭上から、強襲で駆けさせる。
『ちがう、チガウ、違う! 欲しいものならもう、ここに、ある……! 邪魔だ、みんなみんな消して、私は、私……』
 嘴が額を抉る。肉に埋もれた珠を露出させる為だ。
 啄み、千切り、赤く塗れたその元凶へ、嵐の弱まりを見切った紅椿は行った。
「いい加減認めよ、本当の願いに気付いておろうが!」
 切っ先からの一撃。珠の曲面へぶちこんで、爪の弾きに飛ばされる。
『黙れ黙れ黙れ!』
 乱舞の様で、しかしただの駄々の様な、拒絶する両前足の暴れがある。
 捉えられたら死ぬまで切り刻まれる様な、そういう激しい動きだ。
「孤独が辛いから、仲間と居たいから、だから群れだったのでしょう?」
 だがそこに、弥恵は踏み込んだ。
 振り下ろされた爪に、乗るように足を掛けて宙へ舞う。
 次々放たれる攻撃には身を捩って回避。着地に伏せてやり過ごし、跳ねて越える。
 それは踊る様だった。
 それも、猫の動きに合わせに行く、一人では行えない躍りだ。
「本当は誰かに、愛されたかった」
『私の心を勝手に決めるなぁ!』
 だがそれも終わりが来る。前方向への急激な冷気の放出だ。
 弥恵の両足を地面ごと氷付けにして、無防備を晒したそこへ踏み潰しが来る。
「――いい加減にしろよ」
 それを、割り込んだ慧が両腕で受け止めた。
 骨の軋む音と、大地にめり込む両足。
「お前の意思は今、どこにあんだよ」
 意識ごと潰されそうな圧の中、詰めた息を吐き出して。
「お前が本当は何をしたかったのか、ちゃんとお前が考えやがれ……!」
 ひっくり返す動きで跳ね上げた。
「何かに怒って、悲しく叫んで、無意味に笑って」
 前のめりの姿勢でハンスは構え、一直線を行う。
 狙いは後ろ足、慧の行動で唯一の支えとなった部位への攻撃だ。
「そんな痛々しい姿が欲しかったなんて、嘘だよ」
 蹴り込んで、転ばせる。
 支えを無くした巨体は必然的に大地へ寝る事となり、怯んだそこへ最後の追撃が行く。
「グリュック――!」
 レーゲンだ。
 振りかぶって投げ付けられたその体で猫の顔、いや、額に張り付き、珠の引き剥がしに取り掛かる。
「傷付けるだけの力なんかじゃ友達は出来ない、自分をどれだけ増やしても寂しさは消えない。気持ちを圧し殺して、無理に笑って、それでへっちゃらだなんて誤魔化しちゃダメっきゅ!」
 ミチ、と、肉の繊維が千切れる感触があり、悲鳴の様に猫は鳴く。
 だがここで手を休める訳には行かない。
 渾身の力を、レーゲンはヒレに込める。
「そう、レーさんと友達になるっきゅ、大丈夫、珠なんか無くても、人語を無くしても、猫語を覚えるっきゅよ。だから」
 ブチッ。
 笑えるほど間抜けな音で珠は剥がれ、投げ出されると同時に砕け散る。
『アアアアア!』
 同時に巻き起こった衝撃波が、そこに居る全てを吹き飛ばし、一瞬の後、静寂だけがその場に残った。


 崩れた社で女は舞う。
 騒動の終結で戻ってきた村人へ、それから社を失った祭られていた筈の神へ向けての舞いだ。
 保管者は書に今日を綴り、破壊された痕跡は羅刹と鬼、翼人の手によって片付けられていく。
「――」
 そして、喧騒から外れて二人。
 獣人の膝にはアザラシが寝ていて。
 掌に花を描いた少女もまた、膝に乗った眠る猫を、静かに撫でていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 参加、ありがとうございました。
 またご縁があれば、よろしくお願いいたします。

PAGETOPPAGEBOTTOM