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シナリオ詳細

<禍ツ星>紅茶に注ぐ卑劣な罠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夏祭り会場
 鬼人種と鉄騎種が上半身裸で腕相撲をしている。
 それを着物姿や洋服姿の様々な種族が囲んで、笑顔で声援を送っていた。
「本当に繋がったんだな」
 カムイグラの装束を完璧に着こなしたカプリセット・カロリーヌ・アルテロンドが、安堵に似た感情と一緒に大きな息を吐き出した。
 そんな彼女へ部下からの報告が届く。
「店長ー! 食器の確認が終わりましたー!」
「今行く」
 バグ召喚されるまでは幻想貴族の子女であったカプリセットは、今では茶屋『あるてろんど』を複数店舗経営する実業家だ。
「良い品だ。誰の作だ?」
「届けて下さった方も知らないそうで……」
 上品な制服を着た従業員も困惑している。
 封印じみた梱包と、作者の名前や工房の印もないティーカップがどうにも不釣り合いだ。
「本店から送らせます?」
「巫女姫……様のお声掛かりの祭りだ。何日も閉店する訳にはいかない、が」
 海洋のイザベラ女王陛下の提案がおおもとの切っ掛けだ。
 『絶望の青』――今では『静寂の青』と呼ばれる大海の向こうに故郷を持ち、ここカムイグラで事業を営むカプリセットにとって、この祭りへの協力を拒むことはあり得ない。
 しかし、どうにもきな臭い。
「えーっと、店長?」
 幹部候補として育てている鬼人種の少女が、相変わらずの軽い態度で指示を求めてくる。
「いつまでも臨時雇いの気分でいるのは止めろ」
「そう言われても、店長は店長ですし」
 初めて会った時から変わらず控えめな、上司の胸元を見る。
 カプリセットは部下の角を軽く弾いてお仕置きをした後、誰も触っていないのに割れたティーカップと、割れる直前に名前は知っている役人から送られてきたティーカップ風の磁器を見比べた。
「嫌な感じだ。どの部署へ話を通すか……いや、そうか」
 すっかりカムイグラに染まってしまった自分自身に苦笑する。
「こういうときはローレットだ。調査や戦闘に向いた連中が来てくれるだろうさ」
「今噂の神使様ですか! 私も会ってみたいですっ」
「お前は仕事だ。ほら、明日には店を開くぞ」
 実業家と雇われ店主が軽い足取りで歩いていく。
 それからしばらくして。
 埃が付かないよう被せられた布の下で、無機物のはずの磁器が魔物じみた光を放った。
 その器に重なるようにして、痩せこけた体にボロ布同然の着物を着込んだ、やせ衰えた女性の姿が現れる。
 明るい希望も堅い倫理観も、生前の過酷な暮らしと何より招喚機である器の邪悪さによってどこかへ消えた。
 残っているのは、生き生きと暮らす人々に対する怨念だけだ。
 祭りというハレの場に漂う陽気を吸い取り、性質は悪でも力は無かった怨霊を強固に実体化していく。
 憎い。
 辛い。
 寒い。
 腹が減った(命をすすりたい)。
 脅威がこの世に招喚されるまで、後少しであった。

●警護依頼
「お祭りなのです」
 祭りと墨書された扇子を手に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が真面目な顔で言い切った。
「海洋と豊穣の面子がかかっている祭りなのです」
 祭りを台無しにするような事件や襲撃が起これば、両国間の友好ムードが雲散霧消する可能性すらある。
 大海を渡る能力を持つネオ・フロンティアと、十分な戦力を持つカムイグラが揉めればどうなるか。愉快な展開などあり得ない。
「そうなったら笑うのは魔種で、泣くのは普通の人達なのです」
 ローレットという組織としても許容できない。
 これ以上魔種の思うがままにさせると、世界存続の可能性『パンドラ』収拾の大きな障害になるかもしれないのだ。
「事件が起こる前に、解決して欲しいのです!!」
 今回の仕事は茶屋『あるてろんど』臨時支店とその周辺の警護。
 怨霊という脅威が出現する直前であることに、まだだれも気付いていなかった。

GMコメント

 込み入った状況に見えるかもしれませんが、敵を倒せば良い感じに解決する依頼です。
 イレギュラーズの頼り甲斐を、祭りの参加者に見せてあげてください。


●成功条件
 『怨霊』達の撃破。


●ロケーション
 祭り会場から少しだけ離れた平地。
 茶屋『あるてろんど』臨時支店が、食器や食材を置くために借りている場所です。
 主に置かれているのは、燃料、茶葉、清潔な水、お菓子に食器類です。


●エネミー
『怨霊』×10
 元一般人の怨霊です。
 本来は成人を害せるほどの力は持たず時間経過で成仏する可能性もある存在でしたが、呪われた磁器により変質させられました。
 食器や食材を破壊しようともしますが、生者に対する攻撃を優先します。
 火による攻撃ではダメージを受けません。

 <スキル>
 ・触れる    :神至単
 ・恨みを口にする:神遠単【無】【怒り】
 ・抱きつく   :神至単【AP吸収100】


『気配が強い怨霊』×2
 『怨霊』の中で、特に強い恨みを抱いていたものが変化したものです。
 知性は『怨霊』よりかなり低く、攻撃行動も2~3ターンに一度しか行いません。
 しかし知性と機動力を除いた能力は高く、特に炎は危険です。

 <スキル>
 ・冷たい手で触れる  :物至単【必殺】【ブレイク】
 ・恨みの炎を吐き出す :神近範【炎獄】


『磁器』×30以上
 ティーカップをぎりぎり破壊できる程度の衝撃波を飛ばす能力と、怨霊を呼び出し力を与える能力を兼ね備えた呪具です。
 強度は普通の磁器より弱いです。
 1度『怨霊』や『気配が強い怨霊』を招喚すると力を完全に失います。
 新たに『怨霊』や『気配が強い怨霊』を招喚するには、戦闘開始から10ターン以上の時間が必要です。


●他
『カプリセット・カロリーヌ・アルテロンド』
 武術の使い手ではありますが、今の持ち場を離れると混乱が広がり『怨霊』が来なくても被害が出かねないので持ち場を離れる事が出来ません。

『従業員』×8
 雇われ店長と店員の合計8名です。磁器置き場の異変に気付いて見物しようとする祭りの見物客を引き留めています。
 既に処理能力の限界で、上司がいなくなると見物客を引き留めるのに失敗します。

『茶屋『あるてろんど』臨時支店』
 紅茶を主体として菓子などを出すカフェを、豊穣風にアレンジした店です。現在休業中。
 燃料、茶葉、清潔な水、お菓子のそれぞれ半分以上が無事であれば、なんとかティーカップを調達して営業再開可能です。

『名前は知っている役人』
 本人は関わっていません。
 誰が『磁器』を用意したか、この依頼の中では判明しません。


●地図
 1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。上が北
 abcdefg
1霊□水水□□■
2□炭水水炭□□
3□□器霊□□□
4□□□□□□□
5□□食食□□□
6□怨□□□□怨

 □=平地。ここ以外の場所も平地です。
 霊=『怨霊』が5体、周囲を伺っています。
 怨=『気配が強い怨霊』が1体うずくまっています。
 食=食材を保管する天幕が張られています。
 器=食器類を保管する天幕が張られています。『磁器』もこの中にあります。
 炭=炭などの燃料を保管する天幕が張られています。
 水=清潔な水が入った蓋付き水瓶がずらりと並んでいます。
 ■=イレギュラーズの初期位置です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <禍ツ星>紅茶に注ぐ卑劣な罠完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

リプレイ

●到着直後
「アルテロンドの姉か」
 見慣れた美貌の見慣れぬ服装に気付いた『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が無意識につぶやいた。
「失礼。妹とはどのようなご関係で?」
 カプリセット・カロリーヌ・アルテロンドが上品に微笑む。
 目は笑っているのに圧が強く、ハロルドは不利な戦場に踏み入ってしまったことに気付いた。
「ラド・バウで世話になっている。依頼主だな? 確認しろ」
 交渉から報告に切り替えるため、ローレットに発行させた報告書を渡す。
 カプリセットは素早く目を通し、即断した。
「お任せします。出来れば保護結界を最優先で」
 妹との仲を問いただすのは後回しにする。カプリセットはあるてろんどのオーナーとして、同時にアルテロンド家の一員としての責務を果たすためハロルドに要請した。
「承知した」
 ハロルドは外套を翻して戦地へ向かう。
 既に、結界は展開させていた。
「下姉様……よくぞご無事で……!」
 『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の言葉には万感の思いがこもっている。
 伝えたいことも聞きたいことも無数にあるけれど、気力を振り絞って我慢する。
「えぇ」
 平然としているよう見えるカプリセットもほとんど一杯一杯だ。
 海洋との接続、血を分けた妹との無事や成長が五感で感じられるなど、重大イベントが連続し過ぎていた。
「え!? ここシフォリィさんのお店なの!? あ、違う? シフォリィさんのお姉さんのお店なの?」
 屋台や海の家とは気合いの入り方が違う店内に、『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)のテンションが上がっている。
 従業員からの視線に敬意というより尊崇の気配を感じて、この地では八百万と呼ばれるアリアは普段とは別の土地にいることを意識する。
「外に人が多すぎる……かな。お祭りの支障になるようなものがあるなら取り除かないとね! がんばろ!」
 愛想よく宣言すると、ノリの良い店長が元気に返事をして、従業員達も店長に続いた。
「んー……よくわかりませんが」
 『鉄壁鯛焼伝説』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が短時間で結論を下す。
「よくわからないこの何かを追い払って出てこないようにすればいいってのはなんとなくわかりましたよ」
 この事件に関わる政治や陰謀には分からない点もあるが、ベークは豊富な依頼と戦闘の経験によって正しい解決策を選んだ。
 店から出て空を見上げると、鷹の獣種が急降下を始めているところだった。

●光に届かぬ怨霊
「んんー、んんっん!」
 激しくそれでいて優雅にはためく紅翼とは逆に、『小さき者と共に』カイト・シャルラハ(p3p000684)の声がくぐもっている。
「やべっ」
 クチバシで咥えていた酒蒸饅頭を爪で外す。
 物理的にも霊的にも力強いカイトへ、半透明の腕が4人分伸ばされた。
「祭りの客にはばれなかったよな?」
 カイトは手は抜かないが処理能力の全てを怨霊に向けることもない。
「不発弾がある幽霊船かよ。酷い気配が多いぞ!?」
 のらりくらりと躱しながら霊的感覚を研ぎ澄ますと、天幕が並ぶ整地された土地に多数冷たい気配が漂っているのが感じられる。
 カイトに触れられなかった怨霊が足を止める。
 飛ぶように回避し猟師が獲物を追い詰めるように誘導してくるカイトを恨めしげに見上げ、まともな言葉になっていない恨み言を垂れ流す。
 複数方向からの多数の呪詛のうちたった1つが、カイトの羽に触れた。
「恨み言なんていちいち聞く気はねーぜ。鳥は自由だからな!」
 物理的には無傷でも精神的には影響があった。
 しかし波打つ三叉の槍を振り下ろす動作でカイトは自らの不調を吹き飛ばす。
 3つの穂先が、あらゆる意味で脆い怨霊を1つ不可逆に壊していた。
 カイトが相手にする集団とは別の集団が、地を這う雷に襲われる。ハロルドの攻撃だ。
「敵が逃げますっ、ハロルドさん!」
 怨霊1つが消滅寸前で2つが3分の1程消し飛んでいるが、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の力を実感した総勢5体がココロから遠ざかろうとする。
「ははははっ! おら、掛かってこいよ死に損ないどもが! あの世へ送ってやるぜ!」
 ハロルドのバトル中毒が表に出ている。
 あるてろんどの従業員が見れば怯えて竦むだろう表情で、しかし技はむしろ鋭さを増す。
 聖剣を鮮やかに振ると圧縮された闘気が透明な青い刃となって怨霊の逃げ道を塞ぐ。
 青は見る間に無数の断片へ分かれ、豪雨というより弾幕じみた密度で幽霊5体を襲う。
 小さな青い光は半透明の怨霊を傷つけけず、けれど呪いじみた影響を与えてハロルドとの白兵戦を強制する。
「やれ!」 
「あなた達の苦しみはここで割です。邪悪だけ、裁かれてください」
 峻厳な光が何度も瞬く。
 怨霊が激しく苦しみ逃げようとしても、ココロによる広範囲で神聖な攻撃術からは逃れられない。
「……おやすみなさい」
 確実に5つをあの世に送ったと確認出来た瞬間、ココロ達は悼む時間も惜しんである天幕へ向かい全力で駆け出した。

●時間との勝負
「秒刻みのスケジュールじゃのっ」
 『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は一度も攻撃していないのにお疲れだ。
 クェーサーらしい術を連発して味方の術および技行使コストを激減させ、邪悪な招喚機と普通の器を選別して、さらにあちこちにいる味方に支援を飛ばすことまでしていたのだ。
 そして今特に気になるのが、自前の瘴気に塗れているのか隣の器からの瘴気に漬かっているのか分からぬ食器群だ。
「いっそ全部壊すか?」
 死角から飛んできた衝撃波を見えているかのように躱す。
 振り返って無造作に歩み寄り、布を剥ぎ取って磁器を治めた大箱を見下ろす。
「分かり易い相手でもあるがの」
 誰も触れていないのに微かに動いた、ティーカップと茶器の中間風デザインの磁器を引っこ抜いて叩き付ける。
 むわっと霊的な悪臭が砕けた陶器から立ち上り、風でかき消された。
「これは……」
 シフォリィの表情が曇る。
 どれが姉が揃えた品で、どれがどこからか送られてきた磁器からは分からない。
 ただ、シフォリの目利きでは全て質が良い。今のような状況でも壊すのを躊躇いかねない程度には。
 思考を加速させる。
 高度な集中力が必要な鑑定作業の負担が激増するが我慢する。
「姉様に手入れされたことがある方は?」
 無機疎通。
 非常に簡易な情報を僅かに得るのが限界の能力であり、しかし今回のような状況では敵がどれか判別するための最良の方法のはずだった。
「どうして?」
 何故か、答えがなかった。
「うーん、ぱっと見じゃわかりませんねぇ。触ったらわかるかも」
 磁器に触れたベークが、あ、とつぶやいた。
「シフォリィさんの鑑定で分からないなら」
 ベークの気配が百戦で錬磨されたそれに変わる。
 微かな攻撃も見逃さず反撃する、容赦のない気配だ。
「とっくにモンスターなのかも」
 その上で甘く香ばしい匂いを漂わせる。
 焼き立ての香りは弱小未満の零細モンスター磁器の反応まで引きずり出す。
 食器を押して倒すことしか出来ない弱さの衝撃が、ベークに向かってその一部が磁器に反射された。
「これです」
 ベークが残像が生じる速度で次々に指差す。
 シフォリィとリアナルの姉妹弟子コンビが、微細な抵抗をものともせず悪辣な罠が仕込まれた磁器を砕いていく。
「残り2、いえ3箱? 手広くやってますね」
 ベークの顔に微かな焦りが浮かぶ。
 特に強い気配のする怨霊の周囲に、強烈な炎が生じている。
「リアナルちゃん、ベークさん、ここお願いっ」
 シフォリィが駆け出す。
 燃え難い布を近くの天幕から引き剥がして、短時間で運ぶには多すぎる炭の山に駆け寄り炎に近い方向に被せる。
 これで、発火の確率がかなり下がるはずだった。

●足を掴む怨念
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の右胸に、女の腕がめり込んだ。
 言い知れぬ冷たさが体とココロに染みこむ。
 もとより白いアルテミアの肌が、雪のように冷たくなろうとした。
「この程度で」
 アルテミアの瞳の炎は消えない。
 萎えた両足を酷使して後ろへ跳ぶ。
 怖気を震う感触が肉体と精神を撫でるのに耐え、細剣ロサ・サフィリスを蒼き炎に覆わせる。
「私達を止められるものか!」
 体の感覚がほとんどない状態でも技は使える。
 この程度の修羅場は何度もくぐり抜けたから彼女は生きてここにいるのだ。
 瘴気そのものの怨霊と、アルテミアが振り下ろした巨大な蒼剣がぶつかり合う。
 質、量ともに凄まじい瘴気を持つ怨霊は、存在を削られながら耐えきった。
 だがもう限界だ。アルテミアの存在が心に刻みつけられ、彼女以外に目を向けることが出来なくなる。
「せっかくカプリセットさんと数年ぶりに再会だというのに、こんな事態になるなんてね」
 アルテミアはこの情況でも幼なじみのことを考えている。
 不敵に笑って、細剣をぴたりと怨霊へ向けた。
「意識が曖昧でも」
 怨霊の動きが不自然に止まる。
 攻撃を誘っているのではなく、人間らしい意識はとうの昔に失われ、憎悪の残骸で動いている。
「カプリセットさんのお店を台無しにしようとするのなら、容赦はしないわ!!」
 加速し、青き炎と共に一閃する。
 怨霊の腕を躱して本来を深く切り裂き、その上で怨霊の均衡を大きく崩す。
 隙ともいえぬ微かな隙が現れる。
 アルテミアは残心ではなくさらなる加速を行い連撃を繰り出す。
 瘴気が幾度も断たれて元に戻れず、最後は頭から鼠径部まで切断されて消滅した。
「オバケ? ううんこれ、ひょっとして」
 もう1体の強力怨霊に立ち向かっているアリアが、顔色を変えた。
「人間に使役出来る格じゃないよっ」
 残りの気力体力など考えずに最初から全力だ。
 舞いを曲とし、呪言を歌として、世界に影響がある水準で怨霊を呪う。
「ノ、レ」
 怨霊の奥底から核となった恨みが現れる。
 アリアでも決して油断出来ない相手が呪いの強度で押し切られ、一時的ではあるが動きを封じられた。
 相手が絶対動かないタイミングで息継ぎをして呼吸を整え、怨霊の次の行動を封じるため呪詛の歌を奏で、ふと気づく。
「あっ。それっ、その器に何かいるよ!」
 複数種類のチェックや罠をすりぬけた磁気を指し示す。
 怨霊の増援が現れる前に、招喚機は破壊された。

●決着
「あぁ、こっちにも来ちゃいましたか……まぁ、僕で何とか止めて置くんでそっちは処理を続けてください」
 ベークは甘い香りを止めず振り返る。
 妬みの冷たさと憎しみの熱さを兼ね備えた怨霊が、大きく手を伸ばしてベーク達に炎を向けようとしている。
 高価な食器群から離れる。
 青黒い炎がベークを覆い、彼の細部が見えなくなった。
「温いですね。肌も焼けませんよ」
 皮膚が少しだけ赤みを帯びてはいるがそれけだ。
 ベークの魅力的なだけでなく強靱な体は炎には冒されず、熱による被害も素晴らしい自己治癒能力ですぐに癒やされていく。
 怨霊がイレギュラーズ並みに勤勉であれば継続的な攻撃によって焦げさせる程度は出来たかもしれない。だが現実でベークが受けた被害は肌の火照り程度だった。
 敵の動きが止まる。
 まるで石化したかのように動かず、それを目視で確かめたアリアが黒いキューブを呼び出す。
「……しかし、怨霊に呪いだ苦痛だ呪言だって、どっちが悪霊かわかんなくなりそうだよう……」
 見えるものだけでも毒、出血、感電。
 他にも多数の苦しみが怨霊を襲い、滅ぶことも出来ない苦痛を与えた。
「片付けは終わりじゃ!」
 リアナルが立ち上がる。
 高価な磁器を割るのが癖になった気がして、なんとなく残念な気持ちを首を振ることで振り払う。
「誰じゃこんなのを呼び込んだのは」
 怨霊をよく見てみると、強いのは確かなのだが歪な部分が目についた。
 悪意ある知性の関与を感じる。
「いずれにせよやることは変わらないがの」
 燃料という、財産であると同時に危険物でもある物資のとひとまずの安全確保を終えたココロが戻ってくる。
 リアナルは即座にソリッド・シナジーをかけ直し、ベーク達への支援も継続した。
 怨霊の動きが変わる。
 前衛を迂回してリアナルを目指す動きだがリアナルに動揺はない。
「支援しながらでも足止め簡単じゃ……おや?」
 瘴気か濃すぎて固体に見える怨霊を足止めしていたリアナルは、汚れた炎が再び噴き上がったことに気付いて狐耳をぴくりとさせる。
 当たると、燃える。
「姉弟子ーっ!」
 自身は消費無しでエネルギー供給を行いながら、かなり本気で叫んだ。
「ありがとうリアナルちゃんっ。これなら全力で使える」
 ココロほどの術者にとっても負担が重い魔法式医術も、妹弟子の支援によって軽い消耗でルカ得る。
 美しく荘厳な大鐘を思わせる音が響き、治療に最適化された祝福がリアナルの火傷を癒やすだけでなく魂に侵食しかけた業火もかき消す。
 その恩恵はリアナに対してだけではない。
 ココロを中心に直径20メートルの範囲にいるイレギュラーズ全ての傷が癒やされていた。
「これ以上好きにはさせません!」
 シフォリィが命を燃やす。
 未だ遠い全盛期をほんの僅かだけ引き寄せて、透き通るような白銀の刃に太陽を思わせる光を宿らせる。
「プランセス・オートクレール!!」
 速度も角度も力も万全だ。
 全力の刃が、女の形を怨霊を方から胸まで切り裂いた。
「ハッ、目が覚めたか」
 ハロルドが嘲笑する。
 瘴気に染みついた憎悪が、まぶしく輝く少女達に悪意を向ける。
 その輝きが厳しい生き方から生じていることに気付こうともせずにだ。
「お前はここで終われ」
 大きく広がる炎を高く飛んで躱し、怨霊の精神力では絶対に無視出来ぬ一撃でその意識を誘導した。
「俺は亡霊だろうが手加減はしないぜ?」」
 生死を無視すれば女を1人を8人で囲む形だが、カイトは決して許しはしない。
「海洋国との共同作業、楽しい夏祭りを邪魔するやつは消し飛ばしたいぐらいキレてるからな!!!」
 膨大な血と涙を積み重ねてここまで来たのだ。
 海洋人として、それ以前に1人の人間として、大した理由もなく足を引っ張りもの活かしておけない。
 3又の槍が見た目よりずっと速い怨霊を捉えて切り裂き、瘴気を血の如く流させた。
「今回ほんとにリアナルちゃんのお陰だね」
 ココロがうんうんとうなずき、リアナルの耳が機嫌良く反応する。
 炎による状態異常に陥った者はいないので、広範囲に対する治癒術に切り替えて効率よく治療を行っていた。
「そろそろ終わりじゃ。怨霊よ、疾く去るが良い」
 強力な術を絶え間なく行使したのにまだまだエネルギーを使い、リアナルは女の呪詛すら凍り付く冷気をこの世に作り上げる。
 怨霊の速さが失われ、イレギュラーズ達に先手を奪われた。
「おねえさん」
 ココロが真っ直ぐな目を向ける。
 暴風の如く吹き付ける悪感情を正面から受け止めた上で流されず、暗い感情全てを記憶した。
「さよなら。わたし達は先に進みます」
 高揚感も優越感もなく、ただ静かに光を差し出し過去の憎悪をこの世から消した。

●茶屋『あるてろんど』
「ここまで傷ありませんっ」
「次の班に渡してもう一度確認、あなた達は追加のカップの受け取りに向かって!」
 店長以下は今が戦場だ。
「下姉様」
「何年も経ったのだから山もあれば谷もあるか」
 ようやく時間をとれたカプリセットが、妹の隣の席に座って目を抑えた。
「すまない、もう大丈夫だ。力になれなくて済まなかったな」
「いえ、下姉様こそ」
 実家の没落と知人もいない他大陸への転移のどちらが苛酷だったかは分からない。
 どちらも苦労に満ち、なんとか乗り越え再会を果たせたことだけが現実だ。
「姉様、私、沢山大変なことにあってしまったけど、今こうして会えて本当に嬉しいです」
 カプリセットは黙って聞いている。
 妹が無事に成長した姿を見るのは至福の時間だ。
「今、愛する人も出来て、幸せなんです」
「ん?」
「カプリセット姉様、私、これからも頑張ります。だから、姉様も、頑張ってください!
「えっ?」
 カプリセット・カロリーヌ・アルテロンドは、ひょっとしたらカムイグラに来たよりよりも動揺していたかもしれない。
「ホント、御変わりないようで安心しました……!」
 姉妹水入らずの再会をアルテミアが見守っている。
 割って入るような無粋はしない。
 カプリセットが詳しい情報の提供を求めている気はするが、気付いていないふりをした。
「いやー、終わった終わった」
 カイトは天幕の天辺に器用に腰掛け、怨霊騒動で割れた焼き菓子をかじっていた。饅頭はとっくの昔に腹の中だ。
 見た目は精悍な若武者で能力的にもその通りなので、彼に気付いた警備や豊穣の人々の多くは好意的に見えている。
「うわー」
 カイトは、再開直前の店を見て微かに気圧された表情になる。
 従業員の動きが貴族家のメイドに近い。
 戦士とは別方向で心技体が揃っていなければあり得ない水準で、所作も技術も丁寧だ。
「席料とかいるの」
 ちょっとだけ、入るのに勇気が必要そうだった。
「お騒がせしちゃいましたかね、お詫びに一曲サービスしましょうか?こっちでは珍しい曲ですよー!」
 祭りを盛り上げる旋律が陽気に響く。
 怨霊を地獄に叩き落とした演者と楽器が奏でているとは到底思えない。
 事情を知る店員が時折アリアを怖々見て、店長に小声で怒られている。
 海洋から来た人々が茶屋『あるてろんど』に気付く。
 馴染み深さと異国情緒が両立した店に引き込まれるようにして入り、旅の疲れを癒やす。
 鬼人種と海種が和やかに接する様が、カムイグラの新たな時代を予感させた。

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君

状態異常

なし

あとがき

 素晴らしいプレイングをありがとうございました。

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