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シナリオ詳細

猪鬼昼行

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かつての姿もはやなく
 その山には主がいた。
 百か、二百か以上生きようという大きな猪であった――それが。
「ひ、ひぃ……!! 主が、主様が狂われたぞ――!!」
「はよう逃げるだ! 巻き込まれたらどうなるか分からんぞ――!!」
 今や穢れに囚われた悪鬼となり果てていた。
 その身はまるで腐っているかのように異臭を放ち。
 歪に肥大化した肉体がもはや猪としての原型を留めておらぬ。
 遠目に見て言われてみれば、なるほど確かに猪かもしれぬが――その醜悪さ。初見であれば『元は猪であった』などと誰が見抜けようか。もはやあれは悪鬼悪霊……周囲全てに災いを成す負の権化に過ぎない。

『――■■■■■!!』

 轟音。いや、それは口らしき場所から放たれた咆哮か。
 あまりの圧に衝撃が木々を揺らし、思わず耳を塞がせる。
 動物は怯え猪から離れる様に散会し、人の身は震え、まるで麻痺するかのようだ。
「だ、だめだやっぱりオラ達の手にはとてもおえねぇ……!」
「んだどもこのままじゃいつオラたちの村に来る事か……!!」
 そして――主様の様子を伺っていたカムイグラの住民達は焦りの感情に包まれていた。
 ここは山中。近くには彼らの住まう村があるのだが、それは高天京からすれば僻地でありとても力自慢を呼ぶ時間はない。かと言って避難するのも簡単とはいかない……村には幼い子供達から老人まで多様におり、歩みが遅い者もいるのだ。
 もしあの暴走している主様に避難の足音を勘付かれたらどうなるか――
「そ、それに……なんだべありゃあ……!?」
 更に最悪な事に、これは主単独の暴走ではなかった。
 いやより厳密には『増えている』と言うべきか――村民の眼に映ったのは、逃げ遅れた動物が主の異臭に巻き込まれた様。
 兎だ。もがき苦しみ、全身の血管が膨張。
 血走る様に一刻、激しい痙攣が見えた後――
『ガ、ギギギ、ガガ……!!』
 その兎も、あの主の様に魑魅魍魎が如くとなり果てた。
 増えている増えている。あの悪鬼が更に増えている。歩く度に、負を撒き散らす度に。
 主に付き従うかのようにその後ろに続いて。
「ひ、百鬼夜行だべか!? あんなのどうしようもねぇべ! やっぱり無理にでも避難を……」
「――そうだべ、あれさ! 村の近くに外の神使様が来てると聞いたべ!
 あの方達におねげぇするのはどうだ!!?」
 恐怖は頂点に。だがその時、村民の一人が告げた名はいわゆる特異運命座標の事。
「おおそれはいい案だぁ! 早速、一走りするべ!!!」
「オラは村の皆に伝えてくるだぁ! 急げよ――時間はあんまりねぇど!!」
 残された希望があるならばあのお方たち以外に他は無しと。
 様子を伺っていた村民たちは駆ける。
 皆の無事の為、山の平穏の為どうか――と。

GMコメント

■依頼達成条件
 1:『山の主』の撃破。
 2:『山の主』並びにその配下が村民の殺害を達成しない事。

 両方を達成してください。

■戦場
 カムイグラのとある山中。時刻は昼で視界に問題はありません。
 皆さんは依頼を受け、村の近辺からスタート出来ます。

 まっすぐ進めばやがて『山の主』とその配下と接敵する事になるでしょう。
 或いはスタート地点(村の近く)で待ち構えれば、例えば罠を設置する時間が多少あるかもしれません。ただしその場合、比較的村の近くで戦闘する事になります。

 村民は避難の準備を進めています。
 しかし足腰の悪い者もいて中々満足には進んでいないようです。
 頑張っても戦闘前に避難完了する事は出来ないでしょう。

■敵戦力
・『山の主』
 元は大きな猪――であったとされる存在です。
 近くの村からは敬意と畏怖が込められていましたが、なんでも穢れに呑まれたか何かで異形と化したのだとか。その身は更に肥大化し、醜悪な様子となり果てています。
 もはや正気なく周囲を砕きながら突き進んでいます。

 巨大な身から繰り出される一撃は強力で、なおかつその『咆哮』は周囲の敵陣営に【ショック】や【麻痺】のバッドステータスを付与するようです。

 更に『山の主』の異臭は周囲の動物や植物を異形化させる能力を宿しています。
 これにより配下を増やしながら進んでいる様です。この『異臭』の効果はパンドラを持っている皆さんには効果がないようですので、皆さん自身が異形化する事はありませんのでご安心ください。

・兎やリスなど小動物達。
 山の主の影響に感化され同じく異形と化した動物達です。
 もはや元の穏やかな様子はなく、狂暴化しています。
 能力値的には山の主に遠く及びませんが非常にすばしっこく、その鋭い爪や牙は比較的クリティカルを出す確率が高いようです。何度も突き立てられると危険になる事でしょう。

  • 猪鬼昼行完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月31日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
相模 レツ(p3p008409)
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
赤酸漿・燐緋(p3p008749)
眠れる大鬼

リプレイ


 異形たる山の主。
 もはやその在り様は『成れの果て』と言うに相応しい。元がどうであったのかは知らぬが――
「ていうか、臭い。鼻がもげそうな勢いだよね」
 思わず顔の下半分を手で覆う『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)――気のせいか? いや違う。確実な異臭がここにまで臭ってきている。腐敗臭か、妖怪に至った特有の臭いか……
「……まだそれなりに距離はある筈なのに、接敵しないうちから山が騒いでるって言うか、異邦人の僕でも異常を感じられるね。ああやだやだ」
 どの道ああなってはもう討伐するより他は無し。
 周囲の自然達も騒いでいる――木々が怖れ、植物達が身を捩って。
「動物も植物もこんな風になってしまうなんて……どうして。原因を突き止めたいけど、まずは村の人たちを護らなきゃ……! さぁみんな! 大丈夫、私たちが絶対に食い止めてみせるから! だから落ち着いて避難してね!」
「やれやれ、難儀なものだね。正直山の主と謳われるモノを手にかけるのは躊躇われるが……祟り神とあっては是非もない」
 故に『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は村人達に声を掛け、相模 レツ(p3p008409)達と共に前へと進む――その途上では、ルフナが感じた気配と同様のモノを二人も。
 危険だとすぐに分かる。なぜ山の主にこのような異変が……しかし思考している暇もない。
「さて、申し訳ないが一時的に避難しておいてくれ給え。取り残される者がいないようにな。
 なに……心配することはない。村には一匹たりとも通さないさ」
 もはや猶予はないのだから。
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は避難を急速に進めている村人達に声を。これより自らも前進する故、村にいれるつもりは一切ないが……念の為の声である。
 声を交わし、救援の手が確かにここにあるのだと示せば安心も得よう。パニック状態で避難されるより遥かにマシであるし――なにより、彼女の確信に満ちた力強い声は確かに住民の安堵に繋がっていた。
 遥か向こうでは何か異質な『足音』が聞こえてきている。それを見るは。
「……聞いた感じより規模が増えてるみたいだし此れは流石に一刻を争う感じだね。
 後ろに連れてる気配が段々と増えてるよ……」
 『流離の旅人』ラムダ・アイリス(p3p008609)だ。山の主が進む進行ルート……ラムダが予測せしその一直線先は、やはり村だ。接触までもうあまり長くはないだろう――故に、飛行の力をもって前へ前へ。
 木々を足場に駆け抜ける。増大せしは敵の殺気。
 ――いた。異形と化している、山の主だ――

「静まれ、静まりたまえ。
 嘸かし名のある山の主だろう者が、何故このように荒ぶっているのでありましょうか」

 そしてその主に『マム』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が声を掛ける。
 尤も、声が『届く』などとは思っていないが。先行させていたファミリアの鳥越しに見た様子からしてもう手遅れだ。仮に言って、静まってくれるなら――
「助かるんでありますがね……こうなってしまっていては、止む無し」
 せめて己らで山の主を止めるとしよう。
 臭いを直に感じる程の距離。故に彼女は天を舞い、攻撃が届かぬであろう場所へと。
 そこから監視する敵の様子。されば味方へ声を。もはや躱せぬ接敵まであと幾何。
 動く動く――誰もが止まらず、そして敵に備えを。
 ああ全くその精度……羨ましいものだ。
「ああ……羨ましい……妬ましいのだわぁ……」
 誰もが優秀。誰もが素晴らしい――『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はその輝きにこそ曇りを得る。戦いに出る度に、皆の優秀さを目の当たりにし……その内に湧き上がるのは嫉妬か。
「……今は、ただ私も……私も動かないといけないのだわ……ね」
 その猛りは彼女の性か。奥歯を噛み締めるような感情を抱きながら――
 敵と激突。
 対するは山の主。そして主に干渉された動物達……
「はぁ。これはぎょうさん引き連れて大層なもんですなぁ~」
 殺意の大群。『眠れる大鬼』赤酸漿・燐緋(p3p008749)はあれまぁとばかりに敵を見据え。
「そんでもこの先に通す訳にはいかへんのよねぇ。
 せやから――よろしゅうお願いしますね~」
 薙ぐ。己が大太刀をその手に構え。
 自らに出来る事を精一杯にと――死力を尽くすのだ。


 超速度。これ以上山の主を前に進ませぬ為に真っ先に前に出たのは――ゼフィラだった。
 一歩が早い。醜悪なりし山の主、その前に立ちふさがって。
「悪いが、ここから先は通すわけには行かないなぁ……しばらく私と付き合ってもらうよ」
 止める。同時、放つは光撃。
 それは拳を振り抜く速度があまりに早いが故に光と見間違う一撃だ――
 直撃、衝撃、破砕音。
 まずの狙いは山の主である。奴めが首魁にして、止めねばならぬ最優先目標……なぜならば、主が生き続けている限り周辺の自然に悪影響を齎すのだから。植物を、動物を変質させる――その能力は面倒だ。
「本来であればまずは打倒しやすい所から削るのが正道でありますが……
 下手をすればキリがない者達を相手にするのは下策でありますからね」
 故にハイデマリーもまたその銃口を主へと向けて。
 覗き、定め、引き金を絞る。
 銃弾が空を穿つ。射撃音が耳元で鳴り響き、瞬時の後に着弾。血飛沫舞わせて、更に二発目。
 主の位置は常に己が目とファミリアからの空中視点により確保し続ける。本来であれば二重の視点など、慣れていてもある程度動作を鈍くさせるモノだが――彼女の思考は多重の並列を可能とする。天からの祝福が処理能力を向上させているのだ。
 とはいえ、周囲の異形化した動物達の警戒も怠る訳にはいかない。
 如何に主ほどの強さはないとはいえ、数は厄介だ――特にその牙は鋭い。

「さぁ、こっちに来なさい! あなた達が倒すべき相手は私だよ!」

 故にアレクシアがその動物達へと放つは赤き魔力の塊。
 張り裂くような声と共に彼らの敵愾心をこちらへと寄せるのだ。拡散された魔力は彼らの身を蝕み、齎したアレクシアへと殺意を抱かせる。
 これで良い。こうであれば他の皆の被害を減らすことが出来るし、なにより。
「村の安全も確保出来るからね……! 向こうには絶対行かせないよ!!」
 全ては避難せし村人達の為。
 村には絶対に行かせない。向かわせない。助けるのだ、救いを求めてきた彼らを。
 異形と化している兎の一撃を捌き、足を止めず動き回り――只管に時間を稼ぐ。
「ええ。ええ……そうよね。そうだわぁ……『皆』を頼りにしてるんだものね……」
 されば瑞稀もまた黒き感情を力に変えて。
 穿つ。引き寄せられた小動物達を、己が雷撃で焼き払う――尤も、焼き払うと言っても不殺なる力が命は奪わず、そう深き傷ではない。主さえ倒せばもしかすれば元に戻るかもしれないのだから、余計な殺生は控えるとばかりに。
「……なら私もその『皆』に入れるように……頑張らないとね」
 そして敵を見据える。アレクシアは多くの敵を引き寄せているが――しかし向こうも数が多く、全てを完全にとはいかない。故にすり抜けた個体を瑞稀が狙うのだ。そうでなければ集まっている所に攻撃を重ね、削らんとする。
 あぁあぁ全くどこまでもこの感情は付いて回るものだ。戦闘が始まって暫くしても、掻き消える様子すらない。
 それでも今はただ、頑張って成功を繰り返してれば――自信を持てるかもしれないから。
 再度雷撃一閃。戦場を瞬かせる。
「しかし……野生の感は本来なら侮れないだけど……狂暴化しているからかな?
 ちょっと警戒心が疎かすぎだとボクは思うね」
 彼らの持ち味が殺されている、と言うはラムダだ。
 依然木々の上を駆け抜け立体機動染みた動きを行いながらラサの蛇腹剣――蛇時雨を鞭の様に。動物を薙ぎ払い、巻き付け斬り、引いて鞭の様に切り刻む。その各所に施された毒も回れば彼らを急速に弱まらせるものだ。
 しかし思ったよりも楽なものである。彼らの攻撃性は増しているが、代わりに危機意識が欠如しているのか始末に易い。無論、敵の攻撃に関しては気を付ける必要はあるが、動物特有の『勘』と言えばいいのだろうか――ソレが失われている気がして。
「野生動物を狩るのは、もっと難儀なものだと思っていたよ」
「まぁでも数が多いみたいやしね~まだ数の優位が取れるまでは侮れませんわ~」
 同時。絶好のタイミングで敵を薙ぐのは燐緋だ。
 彼女はまだイレギュラーズとしては『なり立て』の身……それ故に虎の子の一撃は機を見据えるのだ。今は奴らもこちらに全力を振りかざしてきているが、一匹でもこの戦場を抜ければ村が危ない。
 慎重に敵を狙う。振るう刃は確かに敵を一閃し、足腰をしっかりと構えて――
「と言っても、まぁお味方さんも強いし、なんとかなるやろ~」
 次の敵を切り落とすのだ。
 今の所作戦は順調に進んでいた。小動物達はアレクシアの引き付けや、瑞稀、燐緋の撃によって排除され、村に向かう様子を見せない。向こうもまた目下の邪魔であるイレギュラーズ達の排除をこそ殺戮欲に従って最優先にしているのか――
『――■■■!!』
 山の主を中心に猛攻を仕掛けてくる。
 戦闘はより激しい攻防の段階へ至っていると言えるだろう。
 それは逆に言えば村への注意が逸れている証左でもある。
「ふむ……正にこれは祟り神。当初は比喩のつもりだったのだが」
 真に異形へと達していると、レツは山の主の攻撃を受け止めながら確かに言葉を呟く。
 その身は変質した肉だらけ。蠢くソレらはまるで一つ一つが意思を持っているかのようで、端的に言えば気色が悪い。それらから繰り出される膂力は壮絶なものであり、レツも一度は吹き飛ばされ――るが。
「すまぬが、ここは退けぬのでな」
 それでも即座に戦線に復帰。憎悪の剣がレツに力を齎し、手に持つ刀が幾閃も。
 どけぬ、退けぬ、ここで止める。
「まったく、さ――本当にこんな臭いを周囲に振り撒いて迷惑な事この上ないよ」
 さればそんなレツをルフナの治癒術が援護する。
 森の霊力は傷を癒し、その身を奮い立たせるのだ。誰かが傷つけば彼が動く、それはさながらカウンターの様に。戦況を見据え、魔力を振るって戦線を維持する。
 あぁ臭い臭い。先程はただの気配のレベルであったが、目の前にまで至れば直のソレだ。
 この異臭で更なる異形動植物が増えるというのか。もはやそれは公害のレベルで。
「――一刻も早く討つ必要があるかな」
 村の為だけでなく森の為にも。
 そして異常を及ぼさずともこの臭いには実に不快である――己らの為にも。


 山の主の息は荒い。
 彼には全てが醜悪に映っている。この世界が、山が、動物が植物が人間たちが。
 あああ汚い汚い潰さねばならない。理由は分からぬが『そうせよ』と脳髄に響くのだ。
 だから突進する。
 吠えたて牙を突き立て駆け抜け誰をも排除せんと。
「はっはっは……これはさて、厄介な事だ。だけど、ああ。言ったろう?」
 私と付き合ってもらう、と。
 天より。踵より落とす蹴撃を、主の頭に打ち落とすは――ゼフィラだ。
 どうあっても通さない。身が傷つこうとも意思は折れず、むしろより益々頑強に。
「君はこれ以上先には進めない」
 なぜなら我々がいるのだから。
 元は村人に崇められる山の主――そうなるに至った経緯、どう言う謂れがある故なのか……詳しく知りたい所だが人命には代えられないかと主の身を抑える。
 進まんとする主。通さぬと地を踏みしめるゼフィラ。
 光に至る撃を再度放ち――傷ついた者がいれば治癒の術を齎して――
「この異臭……周囲の動物や植物を異形化させる能力か……動き回られるとさらに敵が増えると……臭いの元を絶たないと……この騒ぎ収まりそうにないね」
 そこへラムダの一撃が真横より。速度を活かし強襲するかの如く――山の主へと。
 自らの最大速度をもってその身へ斬撃。異臭が鼻につき、危険な気配は増している。
 やはりこの個体を止めねば事態の解決はあるまい――機動力を奪うべく足元へ攻撃を集中させ。

『ガ、■ァ■アアア――ッ!!』

 されば主も反撃とばかりに身を震わせる。
 それは準備の動作。腹の底より声を放り投げる咆哮一つ。
 山の主の魂の叫びが場に満ちる――思わず体が痺れるかのような感覚を得る、一喝。
 されど。
「こんな程度では止まらないよ……誰にも手出しはさせない……!
 どれだけの殺意を抱いていようと、私がみんなを護るんだ!」
 臆すか。臆すものか。アレクシアの瞳に迷いはない。
 山の主が傷付けて来ようとも治癒の花が、調和の一筋がその傷を癒していくのだ。
 まだ戦える。もっといける。英霊の魂の生き様を身に纏い――彼女は尚に戦場に立ち続け。
「山の主さんも、最初より随分必死になってる気がしますわ~なんや悪いモンに憑かれてしまってかわいそうには思うんやけど……もうこうなったらきっとめっさ苦しいだけやろうし、はよ楽にしてあげへんとなぁ」
「――せめて誇りすらも失いきる前に。その魂、清めたもう。
 慈悲の心によって――浄化させしめてあげようではないでありますか」
 その姿に続くかのように燐緋の薙ぎとハイデマリーの一撃が続く。
 小動物達は減り続けている。山の主が増加させるよりも減少が早い。
 故にその戦力も全て主の方へ――もう彼を楽にしてやるのだ。救える道は只一つ、討つのみ。
「……尤も、鉛玉で浄化できるなんて思ってはないでありますがねぇ」
 せめて形なり銀の銃弾の方が良かったか? いや同じ事か。
 どんなモノであったにせよ、自らに出来るのは武威を叩き込むだけだ。
 ハイデマリーは撃ち続ける。その視線に、もはや倒すしかない山の主を見据えて。
「ああ――咆哮なんてさしたる問題ではないさ。備える策もしてきたのだからね……!」
 やがて血飛沫が多くなり始める。故に更なる刃を、レツは刻むのだ。
 咆哮の力に対する備えは少しでも。麻痺は防げねど衝撃は防ごう。
 刃の精度を揺らさずに。
 主を穿つ。主を斬る。
 天よご照覧あれ――荒魂を必ず鎮めたもう。
「あと一息、かな。押し所だね」
 故にルフナの治癒は全体へ。負の要素を払い、活力を与える『澱の森』の欠片をここに。
 一人でも多くかの咆哮の影響から抜け出させんとして。
 さすれば主の身が揺らぎ始めた。
 咆哮の為の準備ではない。もはや体が朽ち始めているが故の兆候。
「……そう、もう限界が近いのね。なら確かに終わらせましょうか……」
 そこへ瑞稀が往く。彼女は攻撃手として、或いは時に治癒役としてスイッチするかのように動いていた。
 嫉妬たる身が心を焼いて、常に暗き感情がどこか支配しているような感覚に包まれている。
 しかしそれでも出来る事を。
 自分が戦えていると感じられれば、少しは沈んだ心が浮かんでくるかもしれないと。
 心のどこかでそうあれかしと願うのだ。
「――さぁ」
 乾いた笑顔と共に。放つは一つの棘。
 彼女の心に纏う嫉妬の茨の一筋を魔力に乗せ、顕現させる一刺し。
 小さな小さな嫉妬の棘。それでも自らを蝕むそれは、どこまでも正確に顕現し――
 主の身を、確かに穿つ。

 肉を割き内へと入り。臓腑を破いて心の臓へ。

 ――咆哮。
 されどそれは反撃や抵抗のではなく、ただただ単純な断末魔。
 山に響き渡るかのような絶叫は全てを揺らし――それでも。
 後に響くは巨体が地に倒れ伏す音。
「荒魂よ、かの村に塚を築き、俺もあなたの平穏のために祈ろう。どうか、鎮まりたまえ」
 レツが刃を納め、言を一つ。
 悪なる身へと落ちたとはいえ、元はこの山の主として畏れられる存在だったという。
 ならば事態が片付いた死後は可能な限り弔うべきだろうと……そう、綴って。
「うん。やむを得ないとは言え、こういった区切りは必要だろう。
 村への報告も必要だしね――もう危機は去ったのだと」
「……最期はちゃんと、成仏してくらはる為のあれそれも必要やろうしねぇ」
 ゼフィラと燐緋も、山の主が確かに果てた事を確認してから村の方へと向き直る。
 特にゼフィラはこの周辺の村の信仰や生活に結び付いた風習を知りたい所なのだ。村民との接触は望む所である……この豊穣の地は未だ不明な所が多く、彼女の知的好奇心をくすぐる事も多いのだから。
「しかし。一体なんで主がこんな事になったのだろうね。今回の臭いの元は絶ったけれど、そもそもの原因は一体……」
「……植物達も怖がってるね。最近なんだか多いらしいよ」
 ラムダの疑問。元より主が狂った原因はなんなのか。
 周囲の自然へと語り掛けるアレクシアの耳に届くのは――まるで『病気』だと。
 主の魂の灯も、見える限り非常に弱い。
 まるで病に苦しんだ末に終わりを迎えたかのような有り様だ。これは……
「――まぁとりあえずは一度村の方に戻るでありますか。
 もう避難は必要ないと、言わねばならないであります」
 気になる事はあるが――それでもハイデマリーの言う通りだ。
 ここでの不穏は終わった。
 不安に怯える村民たちへ事の収束を伝えに行こう。全ては――終わったのだから。

成否

成功

MVP

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 病気か何かに掛かった山の主……はて。そういえば最近何かそんな単語があったような……
 なぜ『病気』の様なものが広がっているのか? それは後々分かるかもしれません。
 MVPは主を押しとどめ、攻撃や治癒と役割を担った貴方へと。

 それでは、ありがとうございました!

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