PandoraPartyProject

シナリオ詳細

守ろう環境

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある昼下がり
 朗らかな陽光の下で、キラキラと流れる川がある。
 透き通った水は、浅い底を容易く見通せる程だ。
 ただしそれは、陸地から近い、沿った部分だけ。離れれば離れる程に深くなり、流れは急に変わって、ヒトの侵入を拒むような自然を見せる。
 そこへ、糸を投げ込んでいく。
「おぉ、今年もええ感じじゃなぁ」
 老人だった。
 長い竹竿を握り、簡易な椅子を拵えて座った老人は、うつらうつらとしながらも手に返ってくる感触を鋭敏に感じとる。
「ほい」
 と、しなった竿を引けば、川から飛び出してくるのは活きの良い川魚だ。
「ほっほっ、今年も恵みに感謝じゃ。きっと旅人にも喜んで貰えるじゃろうのう」
 網籠へと魚を放り、糸を川へ放り、それから引き。
「おぉ、これは、大物の予感……!」
 感じたことの無い重みに、老人は自身の腰を心配した。
 だが大物だ。
 長き釣り人生、知らない感触は未知の興奮を呼び、限界を超えた渾身を引き出した。
「そぅどりゃあ!」
 気合い一閃。
 思い切り振り上げた竿に光れ、ドデカイ影が浅瀬にどしゃりと落ちて。
「な、な、な、なんじゃあ~!?」
 現れたのはびちゃびちゃの大男。口に魚を咥えた、半裸の、そう、評するならば。
「変態じゃあ!」
「ふんがー!?」
 異義を示して魚を吐き出した大男はズンズンと老人に歩み寄る。
 怯えと、無理が祟って腰を抜かした姿を見下ろし、傍らの網籠を見た男はにんまり笑って。
「うほほ、大量じゃねえのジジイ! もらってくぜ!」
「な、なんじゃと貴様!どういうつもりじゃ!」
「あぁん? 決まってんだろぉ? 売るんだよ」
 ずしん、ずしんと、男の所に更に追加の大男がやってくる。
 そいつらは顔を見合わせて、汚ならしい笑みで見つめ会う。
 気色悪い。
「近頃来た他所モンの所に吹っ掛けて、金巻き上げてやんだよ! おうてめぇら! ここらの魚、全部さらってけ!」
「や、やめ……そんなことしては絶滅してしまう!」
「知ったことかよ、邪魔だ!」
 すがりつく老人を蹴り飛ばし、男達は行く。
 その行いの結果、何が起ころうが知ったことではないのだ。
 求めるのはただ、自分達が潤うことだけなのだから。

●豊穣の川へ
 報せが来たのは夜だった。豊穣からの、助けを求める声だ。
 受け取った【情報屋見習い】シズク(p3n000101)は、んー、と考える声を上げながら周囲を見る。
 その視線が、ローレットに集まっていた八人組を見つけた。
 顔見知りの様で、仲も良さそうだし、なにより暇そうだと判断した彼女はそこへ近付いていって言う。
「仕事、しよっか」
「え?」
 きょとんとする顔を無視してシズクは続ける。
 報告の紙を持ち上げて、えっとね、と意志を無視した前置きを挟む。
「カムイグラからの依頼なんだけど、どうやら旬の魚を乱獲する奴等が出てるみたいなんだ。それを倒すって仕事なんだけど──え、なにその顔」
 シラーッとした雰囲気に、シズクは首を傾げる。それから、ああなるほど、と手を打つと。
「うん、安心して欲しい。仕事が終わったらとっておきの魚料理をご馳走するってちゃんと──え、違うの? 食べない?」
「いえ食べますけど?」
「それならおっけーだ」
 いいのだろうか。イレギュラーズ達の表情がなんとも言えない風になっている。
 とはいえ、助けを求めるなら応える。
 いつも通りの事と言えばそれまでだ。
 そうと決まれば出立の準備だと、彼らは立ち上がって出口へと向かう。
 その背中に。
「あ、最後に、依頼人からお願いが一つある。可能な限り、血は流さない様に、だってさ」
 シズクは、詳細の書かれた紙を渡しながら、そう言って見送った。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 折角の川魚系なので、カムイグラにしちゃいました。
 私はちょっと醤油を垂らして焼きたいですね。
 では補足。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。

●依頼達成条件
 乱獲者の撃破。

●現場
 川の上流です。
 広い砂利道と浅瀬と深瀬という感じで、乱獲者達は交代交代で川に飛び込んでは素手で魚を捕まえています。

●注意
 川の保全の為、敵の血を川に流さない感じをお願いされています。
 それだけです。

●出現敵

【乱獲者】
 屈強な男達10人。
 うおおうおおと叫びまくって常にテンション上がってる変な奴等ですが、京を追い立てられた者達なので暴れ具合は強め。
 生きるのに一所懸命。

・攻撃の種類
 至~近では殴って蹴って来ます。
 中~遠では石を豪速球で投げてきます。
 対象は単体のみ。
 特別な効果は無いですが、死ぬほど痛いぞ、ってなります。

●戦闘後
 川魚の料理を作ってもらえます。
 注文も聞いてもらえます。
 お酒欲しいですよね、あると思います。

 以上、簡単にはなりますが補足として。
 
 よろしくお願いいたします。

  • 守ろう環境完了
  • GM名ユズキ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
糸杉・秋葉(p3p008533)
黄泉醜女

リプレイ


 せせらぎが、そこにはあった。
 静かな流れの音だけが満ちていて、時折、鳥の鳴く声が混じってくるだけの、穏やかな小川だ。
 その川縁に、老人がいる。
 意気消沈して、付近のごみを拾っては袋に放り投げ、辺りの清掃作業をしていた。
「よ、爺さん、釣らないのか?」
 そこに、上流に向かう少年が現れ、声を掛けた。老人はそれに顔を向け、諦めたように笑って言う。
「無理じゃ、降りてくる魚がみーんな捕られとる。見てみぃ、あの川ぁ……小魚の影すら見えんわ」
 澄んだ水面のそこにあるのは底だけだ。
 老人は、よっこいしょ、と呻きながら立ち上がり、少年に言う。
「本当なら馳走してやりたいくらいなんじゃが、残念じゃなぁ……」
「そっか」
 聞いて、頷き、彼は歩みを再開した。
「あ、おい、そっちは危険な奴等が」
「爺さん、その捕ってる奴等を片付けたら、ご馳走してくれるか?」
「は?」
 振り返った少年の笑み、その向こうに、七人の男女がどこからともなく出てきた。
 それらは一様に上流へと歩いていき。
「任せな、大事な川も魚も、取り返してやっからよ。だから、晩飯、期待してるぜ?」


「──獲ったどーぅ!」
 バッシャアーンと川から飛び上がるパンツ男は、その手に魚を掴んでいた。
 さらにその奥では、網の両端を持った二人のパンツ男亜種が、水中の全てを浚う様に進軍し、絡め獲った獲物を岸へと放り投げている。
「うははは大漁じゃねぇーの、これは獲り尽くせてしまうかもしれんなぁ!」
「これで俺達も贅沢三昧だぜボス! やったぜ!」
 高笑いをするその男達を、少し離れた位置でイレギュラーズは確認。
 とんでもない雑なやり方で好き放題する様に、うわぁ、という表情と雰囲気を醸し出している。
 そして。
「男かい」
 明らかな落胆を見せて、『同人勇者』宮峰 死聖(p3p005112)は俯いた。大きな溜め息を添えて、これが女の子相手なら良かったのにと、そんな欲望を素直に抱く。
「え、と。つまり、あの不届き物達を誅して肴に宴会すればいい、んですね──あ、はい、冗談ですがっ」
 言うだけ言って、死聖の苦笑いを向けられた『黄泉醜女』糸杉・秋葉(p3p008533)は頬を掻いた。
「難しいですね」
 ただアレらを消すだけなら簡単だ。何も気にせず技を振るえば良い。だが今回、アレから出てくる血とか臓とかを川に流すのはしないでくれと言われている。
「いや、まあ、既に汚らわしい感じ、あるけどね」
 苦笑いを継続して死聖は言う。あの男達は汚い。生き方も身なりも、事情から仕方ない事だが、いや汚いなと思わずにいられない。
 だがそれは置いとき、彼は秋葉を上から下までさらりと眺め。
「あ、これですか。ふふ、ええ、誘い出す為です」
 その姿は、水着だった。それも、そこそこ目を惹くデザインの物だ。
「なるほど……お仕事さえ終われば、水着の秋葉ちゃんに癒されそうだ、うん、少しやる気が出てきた。男には何も興味無いからね」
 随分と解りやすい。
 二人のやり取りを見ながら、『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)は緩く息を吐いて考える。
 ……生きる為の手法が悪過ぎるネ……。
 日々を生きる。それは命を持つものが、産まれた時から持つ当然の権利。だが、その為に他の事を侵害するのはいただけない。
 どんな事情であれ、だ。
「お仕置き、しないとネ」
 後の事を考えるのは、それからだ。
「うん、じゃ、まずはあそこから引っ張りだそう、ネ、皆」
 言葉を合図に前へ。
 胸を張り、堂々と川へと近付いていく『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は、途中で一度クルリと振り返り『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)を見て、親指を立てる。
 それに親指を立て返したジェックは、前へ行く背中をガスマスクの装着をしながら見送った。
 そして。
「お待ちなさい!」
 彼女は高らかに笑い声を上げて言うのだ。
「他者に害なし魚を漁るごろつきども!」
 そう、空に翳した手を握り、重ねた指をパチンと弾いて。

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

 と、たっぷりな歓声を巻き起こして言うのだ。
「その蛮行、止めて差し上げますわー!」
「変な奴が来たー!!」
「まあ失礼なっ」
 ニヤリと笑ってタントは駆けた。
 狙いは、大漁で上げられた魚の詰まった籠二つ。両手でそれぞれ掴み、「オホホホ」と優雅に会釈。からの。
「ごめんあそばせー!」
「──ど、ドロボー!」
 見事なかっぱらいを見せた。
 全力ダッシュで自分の元へ帰ってきたその姿をジェックは見て、うん、と一つ頷く。
「……タントは意外ト、手癖ガ悪いね?」
「オホホホー」
 こういう一面を知れるのは良い事。
 幾つもの知らないを、これから知っていくのだろう。
 そんな未来が、きっと待ってい──
「いい空気吸ってんじゃねぇ!?」
 二人の間を切り裂く様に、礫が通り抜けて行った。
 奪われた。喧嘩を売られた。どちらも、男達の心に火を着けた様で、バシャバシャと川から身を上げた数人がやってくる。
「足りないわね」
 それを見て、『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は呟いた。
「まだ、手を出せないわ」
 隠した左目にそっと触れつつ、さてどうしたものかと考える。川を汚すなと言われた以上、川にいる男達を無闇に傷付ける訳には行かないのだ。
 もう後幾つか、引き付ける手がいる。
「美咲さん美咲さん、任せて!」
「ヒィロ……そうね、任せるわ」
 覗き込む顔に、美咲は答えた。行ける、と、そう言うのなら、大丈夫だと、そう思ったからだ。
 だから、あどけなく可愛らしい笑顔でトトトと男達に向かう姿を眺めた。
「やいお前達!」
 吐きながら言って、ヒィロは一拍、息を吸い。
「──のざぁ~こ」
 人に聞かせられない言葉の暴力を告げる。
「大体、お前達なんて──で、そもそも存在が──だ、わかったかこの──!」
 うーん良いのかしらこれ。
「な、な、な……なんでそこまで言うのこの娘!? 俺達だってぇ、あのぉ、必死なんですぅー! ばーか、この、あれ、ばーか!」
「そんなのアンタらの都合でしょ、人に迷惑掛けてる時点でダメよ」
 涙を浮かべる男達はどうでも良くて、しかしヒィロの口から放たれる言葉は良くなくて、でもしっかり男達はご乱心で川から出てきていて、褒めるのか、たしなめるのか、美咲は少し迷った。
 そして、結論を出して一つ頷く。
「よし、さっさと倒すわよ。やり過ぎてぶちまけない程度に、ね!」


 岸に上がってこちらへ押し寄せてくる姿を見て、『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は顔をしかめた。
 少し失敗したかな、と、微かな反省を抱いている。
 それは、敵の動きがバラバラだった事。
 気を引き、怒らせ、適切なフィールドで戦うのは成功した。とはいえ、その狙いがあっちこっちに散らばると、単純に狙いにくいというか。
「めんどくせえからな……!」
 滑り込んで行く。男達の隙間を抜け、川を背後にするよう振り返る。それから、握った槍を半回転して石突きを順手に。
「追い出された挙げ句やるのがセコい魚泥棒なんてな、落ちぶれたく無いもんだ!」
「あぁん!?」
 煽る言葉にキレ気味の振り返りがある。間合いとしては、どちらとも得手の範囲だろう。
 裏拳とレバーブロー、二人の男が丸太の様に太い腕で空気を開き、風牙の身体へぶちこみに行った。
 だが、遅い。
 裏拳を掻い潜り、ブローを踏みつける様に受け、落とした風牙は、石突きを頬へ殴り付ける動きでぶちこんで倒した。
 しかし、腐っても賊だ。前のめりながら、自棄糞で振った拳が風牙の膝を叩く。
「こいつら慣れてるぞ、気ぃ晴れお前ら!」
 一度の攻防で、実力を見定めた男が叫ぶ。警戒と防御の為、鍛え上げた肉体で背中合わせに円を形作り、フォローし合う為の陣形を完成させた。
「正しい判断だヨ。でも、足りないナ」
 経歴は知らないが、彼等も場数を踏んでいるらしいと、ジュルナットは推察する。ただまあ、その経験は浅いか、もしくは相対した手合いが違うのか、動きの狙いは失敗しているとも思う。
 なぜなら。
「だってそれだと、纏めて倒されてしまう間合いだから、ネ」
 大弓で天を狙い、拾っておいた木の枝を射る。
 そうして起こるのは、弾けた木片の雨だ。
「ぐぉおいてぇー! でも我慢だお前ら、やりかえせ!」
 刺さる破片は浅い。だが割れた木の断面は荒く、肉肌をズタズタにして痛みを与える物だ。
 そこで大人しく退ける性格なら、楽だっただろうが。
「ぶちかませー!」
 怒りに任せて投げ付ける石礫の破壊力は、避けた先の樹を抉る程だった。脇腹を掠めた痛みに、ジュルナットの額に脂汗が浮かぶ。
 とはいえ、それが脅威になるのは急所に当たったらの話だ。そしてそんな、たらればの話なんてのは、ここでは意味を為さない。
「どうしたのさ、ほら、ボクを倒したいんじゃないの!」
 首を少し曲げるだけでそれを回避し、ヒィロは両手を握って力を溜め込む。そうして、全身に十分な気力が回ったのを感じて、キッと相手の姿を睨み付けてから、一気にそれを前へと迸らせた。
「ぬおぅ!?」
 ビリビリと震える闘気をぶつけられ、男達は怯む。内心に動揺と、微かな恐れを抱いた。
「美咲さん!」
 願うような声音に誘われ、美咲は内心で息を吐く。
 ……解っているわ。
 眼帯に触れ、その奥で沸く魔力を感じながら、
「不殺ず、でしょ」
 紅の線が、惚けた男達を貫いた。

「憐れみを感じるよ」
 倒された仲間は瀕死。いや、もしかすると、死んだかもしれない。
 死を前にして、そこから逃れたい感情のまま背を向ける男を見て、死聖は呟く。
 憐れだな、と。
「ねぇお兄さん達~、そんな急いで逃げなくても、ほら、有り余ってる、もて余した感じのそういうのあるでしょ? ね? ねぇこら、何逃げようとして──後ろ向きに必死とかそれでも男なのねぇ! もっと! 熱い気持ちでぶつかりなさいよ!」
 何かが潰れる様な音を立てる秋葉の蹴りを見て、彼は静かに合掌する。
 それから、這いつくばって逃げようとしていた男に静かに近付いて。
「悪いね、ご褒美が待ってるから」
 踏みつけておいた。
「オーッホッホッホゥ! 皆様、流石でしてよ!」
 きらめく星の光の様に、温かな癒しを与えながらタントは、
「そこですわ!」
 と、男を指した。すると、鳩尾に凹む跡を残しながらそれは倒れ伏す。
 ……うーん。
「そちらも!」
 ぎゃあ、と悲鳴を上げ、またも男が倒れた。
 それを見て、タントは誇らしげに笑う。
「……戦いヅラくナイ?」
 ジェックが漏らしたのは、もちろんタントの声援の事ではない。手加減している事についてだ。
 素直に、殺すつもりでかかっていれば、間違いなくもう終わっている仕事だろう。
「や、生かすのに否やがある訳じゃないけど……」
 難易度上がってるなぁ。
 そんな感想を抱きながら彼女は引き金を引いて、
「も、もうやめてくれェ──ぁ」
「あ」
 白旗を上げた最後の男を撃ち抜いた。


 倒れた男達は、老人が呼んでいた近隣の村へと運ばれていった。
 裁きも沙汰も、下すのは彼等だろう。
「なんか一人二人は逝ってそうだけど……ま、どうでもいいわな!」
 とは引き取っていった村人の言。
 風牙とジュルナットの口利きもあって、反省をするなら仕事を与える位は容易いとも言っていた。
「なんせ、ウチらも京にいけねー組だしな!」
 だそうで。
「ああ、気持ちばかりの礼じゃ、本当ならとれたてが一番じゃが、今はあやつらがさらって来た魚を使おうか」
 川縁に設置した簡易なキャンプ地で、イレギュラーズを迎えた依頼人の老人はそう言った。

「ご馳走ターイム!」
 長椅子に腰掛けた美咲の隣を確保して、ヒィロは腕を突き上げ叫ぶ。
 瞳を輝かせて横を見れば、フンスとばかりに持参した米と酒を並べた美咲が居る。
「炭火、じっくり、塩焼きで」
「あいよぅ」
 老人にオーダーを伝え、ふむ、と一息を入れる。赤熱した炭の上、串で貫かれて網に乗った魚は少し遠い。焼きムラを出さない為にそうしているのだろう。
「あれが美咲さんのオススメ?」
 と、視界にぴょこんと狐耳。
「ええ、そうよ、ヒィロの好みにも合うといいのだけど」
「大丈夫、美咲さんが言うなら絶対だよ!」
 信頼は絶大だった。
 ぴょこぴょこと期待に揺れる耳に触れ、ふにゃあとなる姿を堪能しつつ、そうしている間に、机には刺身が置かれる。
 白身に脂の艶が輝いている状態の物だ。
 次いで、素揚げ、天婦羅と続き、最後は塩焼きが並ぶ。
「……え、これ、食べれるの?」
 我先にと箸が伸びるのを、ジェックは驚きながら見る。
 え、うそ、まじで?
 ざっくりそんな心境で、タントを頼りに視線で訴える。
 それを受け止めたタントは、ふふ、と笑みを浮かべた。
 未知の領域なのですわね!
 ならば見本をみせねばなるまいと張り切る。特にジェックは、最近、ガスマスクを取れる様になったばかりだ。
 教えてあげねばという想いがある。
 だからタントは徐に串の魚を手に持ち、いいですの? と前置きして。
「こういったときは……お箸も、フォークも要らず……こうですわ!」
 がぶりと、魚の腹へと食らい付いた。
 柔らかく火が通った肉を小さな口で引きちぎり、んむんむと咀嚼、からのごっくん。
 それを見たジェックは、持った魚と美味しいと言わんばかりの表情のタントを目で往復して、それからしげしげと魚を眺める。
 そして、ぱくりと、一口。
 噛んで、咀嚼して、ごくり。
「……! なんか、これ……わかんないけど……」
「美味しい、ですわね!」
 素直に頷いて食べ進め、しかし、喉に小骨が刺さって四苦八苦するのを、二人はまだ知らない。
「じ、爺さんこれ……まさか……味噌汁、か……!」
 美咲の白ご飯、それから焼き魚と並び、そこに加えて独特な香りのスープが置かれる。
 紛れもなく、味噌汁だ。
 出身世界に馴染み深いその並びは、風牙の空腹を刺激するには十分だった。
 両手を合わせ、いただきますを言い終えるが速いか、箸先で解した身をご飯に乗せ、口へ掻き込む。
「……!」
 魚の塩気、米の甘みを噛んで味わい、味噌汁を注いで後味を感じて流し込む。
「かーッ!」
 と。感動する風牙の向かいでは、米と汁の代わりに酒で楽しむ秋葉が居た。
 徳利を秒で空にし、隣を確保した死聖にお酌をされてご満悦度は増す。
「ははは、良い飲みだね!」
 そしてこちらもご満悦だった。
「どうだい僕の膝に座るかい!」
 という、混在した魂の願望が漏れ出る位には。
「……」
 そんな、賑やかな卓を囲む姿を、依頼人の老人は目を細めて眺めている。
「いいものだネ」
 そして、その傍らにはジュルナットだ。
 見た目は違えど、二人は長い年月を生きている。
「パァ、と、華やかに呑むのも良いものだけどネ」
 ざぁざぁと山から降りた風が撫で、川に波音を立てていく。
 静かに、無言で差し出された酒を、ジュルナットは一息であおる。
「夏の宵 一人聞くなれ 夜吹き風……おっと、今は二人、だったかナ」
 穏やかな空間の中、騒がしくも賑やかな、楽しい宴は過ぎていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM